ただ一つの願い

作者:四季乃

●Accident
 万華鏡のようだと思った。
 エディブルフラワーが好きだと、あの子が莞爾として笑うので、ビオラの種を買った日のことを今でもよく覚えている。生まれてこのかた花など育てた事がなく、また綺麗に咲く保証もどこにもない。
 だから、秋に咲いて冬を越し、五月まで咲き続けるビオラにあやかったのだ。厳しい寒さに耐えることが出来るその生命力に惹かれたのかもしれない。きっと、今だからこそ、そう感じている。
 風に揺れてさわさわとした音を鳴らす。
 それが子守唄のように思えるほど、意識がぐんぐんと遠のくことに、恐怖はなかった。まるで眠りにつくような、とろとろとした浅い眠りに落ちるだけなのではないか。そう、錯覚する。
 四肢に絡み付く青い花びら。小さきビオラが、寄り添うように膚を撫でる。
 ああ、だけど。
 一つだけ心残りがあるとしたら。
「――あの子に告白、出来なかった、な」

●Caution
「そのようにして、彼は攻性植物の宿主となってしまったのです」
 なんらかの胞子を受け入れたビオラの花が、攻性植物に変化してしまったのだとセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は言葉を区切った。何でもそのビオラは、宿主にされてしまった男性が自ら育てていた花であったらしく。
「想いを込めて育てた花が、渡すことも叶わず変質しちまうなんて……こんな悲しいことあってたまるかって話だよな」
 むん、と腕を組んで吐き捨てたレンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)の言葉に、セリカが悲しげに同意を示した。
 皆にはこの攻性植物に変質したビオラを、倒してほしいのだ。

 攻性植物のビオラは一体で、配下といったものはない。
「通称、花径が四センチ以下のものをビオラ、五センチだとパンジーと呼ぶそうですよ。そのため攻性植物の花も一つ一つはとても小さいのですが、今回は花や葉が密集して大きな一塊になっていると思ってください」
 取り込まれた男性は攻性植物と一体化しており、普通に倒してしまうと一緒に死んでしまう。だから、今回は相手にヒールを掛けながら戦う作戦になるのだが。
「決して楽とは言えないが、可能性が一%でもあるのなら、救ってやって欲しいんだ」
 男性には想う相手が居た。
 ビオラはその全てが攻性植物になった訳ではない。残りの花にも想いが込められている、それを無駄にするのはあまりにも悲しいことだ。
「ヒールグラビティを敵にかけても、ヒール不能ダメージは少しずつ蓄積します。戦況を見つつ粘り強く攻性植物を攻撃して倒すことで、彼を救出できるでしょう」
 幸い、現場は彼が一人で暮らしている家屋の庭なのだが、不幸中の幸いと呼ぶべきか、住宅地から遠く離れた静かな田園風景が広がる土地なので、庭も恐ろしく広ければお隣さんといったものがとても遠い。一般人の避難などは必要ないので、戦いに集中して大丈夫そうだ。
「救出するのはとても困難で大変だと思われますが、皆さんならばきっと可能だと信じております」
「このまま眠ってもいいかもーなんて考えを吹っ飛ばしてやろうぜ! ビシっと助けて、バシっと告白の背中を押してやってくれ!」
 成就すると良いよなぁ。レンカの言葉に、笑い声が漏れた。


参加者
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
浜本・英世(ドクター風・e34862)
ブレア・ルナメール(魔術師見習い・e67443)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ


 蒼に沈んでいく。
 深淵のほとりに寝そべるような、心地よさに意識が微睡む。揺蕩う水面にあって、微かに揺れる心が眠ろうとする。淡く霞がかったその奥で、誰かが微笑った気がした。
「伝えなければならない気持ちがあるのだろう?」
 声がする。
「ならば物言わぬ花に命を捧げる前に、君自身の言葉を紡いで見せたまえ」
 それは、落ち着いた男性のものだった。
 唇を開く、けれどそれは薄く開いただけで声が出ない。カサカサになった唇が痛くて、諦めてしまう。ああ、だけど。閉じた眼裏で微笑う彼女が、少しずつ遠くなっていくのは、とても厭だなぁと思った。
 攻性植物・ビオラ。
 その胎にのそりと沈んでいった青年の貌は酷く蒼白かった。瞼を持ち上げることも出来ず、虚ろに呑みこまれていく。呼びかけることで祥吾の意識を保とうとした浜本・英世(ドクター風・e34862)は、やわらな茶の双眸を僅かに細めた。
「人の命は有限だからこそ、悔いのないように、と思ってしまうね」
 視界の端に捉えた花は、どれも綺麗に咲いていた。一斉にそよぐ姿は愛らしく、一部とはいえそれが変質してしまったことが無念でならない。英世の言葉に頷きを返すことで同調を示したのは、ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)であった。
「命が奪われるのを見過ごすわけにはいかない、全力で救助させていただこうか……!」
 ビーツーは、後衛より制圧射撃にて弾丸をばら撒くキルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)と機理原・真理(フォートレスガール・e08508)そして白橙色の炎を纏うボクスたちに向かい雷の壁を構築すると、プライド・ワンが派手にエンジン音を吹かしながらキャリバースピンで突撃することでビオラの意識を己に落とす。
 その隙を狙い、真理が更に聖なる光で後衛を強化するのを横目に、
「花と共に眠りにつく……まるで茨姫だな。なら王子様役を買って出てやろうじゃんか」
 魔女の銃を低く構えたレンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)は慌ただしく”四肢”をばたつかせるビオラに向かい、眩きエネルギー光弾を発射。
「口付けは、あげねーがな」
 撃ち出されたゼログラビトンがビオラから伸びる触手のような部分を削ぎ落とす。落ちたそれはジタバタして――それからゆっくりと動かなくなった。その気味の悪い動きには目もくれず、庭を見渡していた祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)は、呪いの力を言霊に乗せ、紡ぐことにより呪術を発動させた。
「……植物を祟るガーデニング、その箱庭を用意する」
 呪言が滲み出る領域を形成、それは領域内の中衛に布陣する彼らに霊的加護を崩す呪力を与える。衝撃に身を揺らすビオラを射抜く瞳は赤く、蝕影鬼による金縛りが絡めば総身が震えだす。
 英世は傷付いたビオラを魔術切開し、更にはショック打撃を伴う治療によりヒールを施すと、すぐさまルーンが刻まれたアックスを両手で振りかぶったブレア・ルナメール(魔術師見習い・e67443)の一撃がビオラ、その一部を叩き割る。
「とても誠実な印象を受ける方です。救出を……そして恋の成就がなりますように」
「恋が成るか否かは定かじゃねえが、それすら分からないまま死ななきゃならないってのはどうしても納得いかねぇな」
 ブレアの言葉に頷くキルロイの肉体が破壊のルーンを帯びて、眩く光る。それはオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)によるルーンの加護である。
「心残りがあるのなら、どうして悠長に眠ろうと、している?」
 まだ姿は見えない。
「夢と消えてもいい程度の、想いなのか。知られなくてもいい程度の、想いなのか」
 屹然とした態度で呼びかけるオルティアの影で、ボクスが真理へと属性インストールを行えば、次第に場が整って来る。
 ともすれば、敵ははらはらと蒼い花びらを散らして霞を作ると、至近のケルベロスたちを嵐の中に飲みこんだ。
 直前の攻撃に合わせ回復方法を切り替える真理は、中衛を等しく傷つけた一撃に厄介なものが纏わりついていることに気付くと、黄金の果実で味方を援護。イエロも応援動画で回復を重ね、抜かりはない。
「Bin ich besitzgierig?」
 その間、レンカが自身の影の形を変えて黒薔薇を作り、その蔓でビオラを絡め取って縛れば、また一部がぼとり、ぼとりと落ちていく。イトシノオウジサマがぼろぼろと欠けていくのを、双眸を細めて見守るレンカの唇に笑みが乗る。
「……祟る祟る祟る祟祟祟祟祟……」
 両手に掲げられたイミナのパズルから、竜を象った稲妻が奔る。蝕影鬼はその傍らで破壊されたプランターの破片を浮き上がらせると、ビオラに向かって容赦なく叩き付けた。頃合いを見計らい、ビーツーはウィッチオペレーションでビオラをヒール。回復を得手とする彼の手術は完璧だ。破れた花びらの一枚すら、ズレがない。
 真理はイエロとボクスたちと連携して味方の回復に重きを置いて、誰ひとり欠けることなく戦線維持に努めている。ちいさな花を密集させ、大きな口となったビオラの噛み付きに対抗し、プライド・ワンのガトリングが火を噴いた。ワッ、と驚いたように掃射にジタバタするビオラ、その下肢がもげると大きな茂みが僅かに傾ぐ。
 後方から戦場を広く見渡していたキルロイがサイコフォースを叩き込むと、反射とも思える動きで反撃に出たビオラ、その触手をオルティアが庇い、受けた。積極的に前に出るオルティアはイエロとボクスがそれぞれ分担して回復に回るのを視認して、ヒールは過剰と知るや否や、得物砕きで己の腕に絡む触手を削ぐ。
 敵の動きをつぶさに観察していたブレアは、口を形成するビオラへと下から掬い上げるように稲妻を帯びた超高速の突きで貫くと、根本の辺りからごそりと削げた――と、思った次瞬。
「つっ……!」
 もげた口がそのまま落ちて、ブレアの肩を思い切り噛み付いたのだ。
「大丈夫かい?」
 ビオラへとヒールをかけながら英世が問う。
 火が点いたみたいに皮膚が熱く感じられたものの、ブレアはしっかりと頷く。これくらいで倒れるような魔術師ではない。頼もしい姿に笑みを刷いた英世は「さて」ビオラの方を振り仰ぐ。
 ゆらゆら、ひらひら。
 蒼い花びらが蒼穹に舞って、眩暈を起こしてしまいそうだ。
 鮮やかな蒼の群れに迷いはなく、奥底に秘した青年を未だちらとも見せぬ執念にはいっそ感服する。その根強さがビオラ自身の強さなのではないか、とすら思えるほどに。
「想いが込められた花ではあろうが、それを終わらせようとするなら、散って貰う他なさそうだ」
 せめて人を傷付けるその前に。
「悪夢は早々に終わらせてやろう」
 言うが早いか、キルロイのクイックドロウがビオラの触手を一束撃ち抜くと、黒薔薇を指先にくるくる絡めていたレンカが、再び夢見る処女の勁烈な繋縛にて総身を縛り上げる。
 突如吹き荒れる蒼の嵐。
 目を眇め、風が落ち着くのを待った真理は、周囲を確認し負傷を確認。
「回復は任せてくださいです。絶対に、倒れさせたりしないです」
 広げた両腕から放たれる小型治療無人機たち。それに紛れてボクスが彼女に属性インストールを行うのを見て安堵を示したビーツーは、ビオラへとウィッチオペレーションを施し、確実に不能ダメージを稼いでいく。
 傷付き、けれど再生し。それを幾度となく繰り返して行けばビオラの蒼が次第に薄いものになってくる。
 ブライト・ワンはちかちかと赤色にライトを光らせることで、ビオラからの攻撃を知らせつつ、自身はキャリバースピンで下肢を引き潰していく。触手が爆発する光景をイメージしながら、極限にまで高められたイミナのサイコフォースが弾けたとき。
「……祥吾とやら、永遠の眠りに付こうものなら、ワタシが末代まで祟ってくれるぞ」
 そこでようやく胎の部分が裂けて、開く。
「……故に意識を保て、意地でもだ」
 青白い貌をして眠る祥吾へと、イミナの静かな呼びかけが触れた。
 生気をまるで感じられない、けれど僅かに開いた唇から微かな呼気を繰り返す、その仕草に希望を垣間見る。
 蝕影鬼は金縛りでビオラを絡め取ると、すかさず飛び上がったブレアがスカルブレイカーでその一部を切り落とす。
「――背中なんて、私たちがやらずともとっくに、押されているんだ。この花たちが、本当は何のために咲き誇ったのか、思い出して、生き足掻け!」
 味方へと降り注ぐ攻撃はオルティアが盾となり、そして懸命に祥吾へと呼びかける。例え傷付いたとてイエロの懸命な治療が、そしてオルティアの伝令走技も相まって回復はばっちりだ。
 足音を立てずに駆け回るオルティアを器用だな、と思いつつ横目に見ていた英世は、すっかりと勢いを失ってしまったビオラへとヒールを当てながら、ゆるりと仰ぐ。
 一巡、二巡、重ねるごとにその生命は朽ち、元の鮮やかな蒼はもう見えない。ともすれば空色にも、水底の影にも思える色をしたビオラはゆらゆら、ふらふら。左右へ大きく触れて、突風が吹けばそのまま飛んで行ってしまいそうに思えるほどだ。
 そろそろ大詰めといこう。
「大人しくしてもらうよ。痛くない――なんてことはないがね」
 術式を込めた針を取り出した英世は、間近に迫る花の口へと突き刺し留めた。その神経組織や回路等に干渉する一撃は攻性植物の動きを制限。鈍るビオラへとバスターライフルを構えたレンカは、グラビティを中和し弱体化するエネルギー光弾を射出、上方一帯を撃ち抜くと、それは空へと昇り一つの光と成って霧散する。
「……蝕影鬼、いい頃合いだ」
 ゆらり、長く伸びた黒髪を揺蕩わせ、ちいさな歩幅で歩むイミナは、ビハインドを呼ばうとその白い指先を突き付ける。ポルターガイストに交じり合うは稲妻、竜の咆哮がビオラの腹を食い千切る。
 その内から、細い枝が引き千切れながら、ボトリと痩躯の青年を吐き出した。
 瞬間。
 真理を乗せたプライド・ワンが一気に走る。
 プライド・ワンは炎を纏い、ビオラへと容赦のない激突を見舞わせ、燃え上がるデットヒートドライブに織り交ぜるように騎乗した真理がアームドフォートの主砲を一斉発射。
 蜂の巣にされるビオラが、徐々に小さくなっていく。
「燃えろ、燃え続けろ」
 キルロイの言に呼応して、足元より喚び出した赤黒い劫火は、ビオラの半身を焼く。炎にまかれたビオラはぱちぱちと音を立て、燃えていく。英世とビーツーは回復を重ねてその炎を掻き消すと、あとに残るのは灰のように褪せた花。
 ブレアがそっと花に触れると、それは一気に崩れ、落ちて、細かな粒子となってサラサラと消えていく。祥吾の身体を小脇に抱えていたビーツーは、悲鳴も上げることが出来ずに朽ちていったビオラを見つめ、知らず詰めていた息を吐いた。


(「必ず上手くいく、と、そんな無責任なことは、言えないけれど。想いを抱えたまま終わるなんて、あまりに悲しい」)
 残されたビオラへと一瞥をくれたオルティアは、プランターの前にしゃがみ込む祥吾の横顔を盗み見る。それはきっと、もう、分かっていると思うから。
「――がんばれ!」
 言葉が、鼓膜を震わせる。
 祥吾はゆったりとした動きでオルティアを仰いだ。
「貴方の味方は、ここに幾名もいる。だからどうか勇気を持って、全力でぶつかってくるのです!」
 気が付けば素が出ていることに、彼女は気が付いていたのだろうか。屹然とした態度から滲むその優しさに、青年の顔にようやく笑みが戻って来る。その傍らで、祥吾の手当てをしていた英世が「治療が終わったよ」と手を払いながら立ち上がる。
「焦る必要はないが、気づいた想いがあるならば、それは伝えなければ勿体ないよ」
 蒼のビオラは朽ちてしまったけれど、まだ花はこんなにも沢山ある。一体どれだけの心配性なのか、あるいは青年から注がれた想いが溢れてしまったのか。プランターからこぞって身を乗り出すように咲く小さな花を指先でつつくと、それはくすぐったそうに揺れている。
「ビオラの花言葉は青も紫も『誠実』。ンでもって紫は『揺るがない魂』がある……って本に書いてあったゾ」
 頬杖を突いた状態でつんつんつん、と花をついていたレンカが赤い瞳で見上げてきた。その真っ直ぐな視線に少しだけたじろいだ青年が「う」と口を噤む。多分、花言葉を思い出してしまったのだろう。わーっと両手で顔を隠すさまは「女子か!」と突っ込みたくなるほど弱っていた。
「花を育てるまでの熱い想いをモヤモヤしまっとくのは誠実とは言えねーな」
「あ、熱い想いって……そんな……」
「死地に打ち勝った幸運な自分を信じて、ビシッと行ってみれば?」
 指の隙間からそろりとレンカを窺う祥吾は、情けない柴犬みたいな顔で眉を下げた。
「でも、もしかしたら、ダメかもしれない、し……」
 確かに青年の奮闘など”彼女”には全くの無関係、こんな出来事が起こったなんて何も知らずに今を過ごしているだろう。うーん、と唇を尖らせて空を見上げてレンカは、
「ま、失敗したら可憐な魔女が慰めてやるからさ」
 それは至極楽しそうに「キヒヒ」笑った。
 がっくり、といった感じに項垂れる青年は、それでもどこか吹っ切れたのか表情がすっきりと明るくなっている。
「お花を育てるのは初めてって聞いてたですけど、それでも頑張ってこんな綺麗な花を咲かせてるの、素敵だと思うです」
 きっと丁寧に育てていたのだろう。彼の性格が窺えるビオラの花を眺め、真理が破顔した。
「もう少しだけ頑張ってみないですか。……貴方の想いが、成就するよう祈ってるですよ」
「やっぱあの時告白しときゃ良かった、なんてのは、余計に辛いぞ?」
 年長者のキルロイにも背中を押され、祥吾は「確かに、それは辛いなぁ」と微苦笑を浮かべてみせた。きっと、経験があるのだろう。ならば彼はもう、その一歩を踏み出せるはずだ。己が成らなかった恋を、彼は掴むことが出来るかもしれない。キルロイに初めて、笑みが浮かぶ。
「頑張ってみます。折角ここまで言われて告白しなかった、なんて。僕自身が嫌だから」
 優しい笑みを浮かべる青年の想い人もまた、きっとやわらかな微笑みをするのだろう。ビーツーはボクスと視線を合わせると「お疲れさま」互いを労うように、拳を合わせた。被害者を救えたことが今の彼を支えている、そう言っても過言ではない執念がひとつだけ消えていく。
「思い立ったが吉日、早速明日行ってきます!」
「明日雨だぞ」
「えっ」
 プランターを抱えた青年が、捨てられたチワワみたいに項垂れる。そんな姿を静かに見守るイミナとブレアたちは、吹き抜ける風に冬の匂いを感じて目を眇める。ちいさな恋が、決死の恋に火が灯ればいい。
 束の間の安寧は心を穏やかにさせた。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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