誰が為の刃

作者:四季乃

●Accident
「あれれー、どうしたのー?」
 にっこりと破顔する男の言葉に、ちいさき者たちは震えあがった。
 およそ十名ほどの子どもは、この裏山の下方に作られた幼稚園に通う子どもと、その兄姉たちであった。元々山深い土地であるので、決められた区画で遊ぶのならばそれが山の中と言えど、子どもたちにとっては庭のようなもので、だからこそ今日も「けるべろすごっこ」に精が出るというものだったのに。
 この大きな身体をした浅黒い膚の男は、そんな日常を一瞬で変えてしまった。
 まるで猪みたいに獣道を降りてきたかと思えば、岩のようなごつごつした手で「でうすえくす」役のりょーちゃんを摘み上げてしまったのだ。首根っこを噛まれた子猫みたいに、ぶらぶら左右に揺れるりょーちゃんの顔は真っ青で、もはや声すら出ない。
「キミたち、ケルベロスなんでしょ? だったらおにーサンと遊ぼっか♡」
 ケルベロスなら、強いでしょ?
 震える園児に向ける笑顔は、夏の陽射しみたいにきらきらしていた。

●Caution
「そのままエインヘリアルは園児たちを一人残らず、殺してしまったのです」
 青白い顔をしたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそのように締めくくった。
 実に胸がムカムカする所業に対して、鼻っ面に思わず皺が寄ってしまいそうだ。「けるべろすごっこ」がドワーフによるレッスンと勘違いしていたのか、そうでないと分かっていてわざと”遊ぶ”などと口にしたのかは分からないが、たちの悪い凶悪であることに変わりはない。
 何せこのエインヘリアル『永久コギトエルゴスム化の刑罰』を受けていた凶悪犯罪者なのだから。
「か弱いおチビちゃん達を殺して、なーにが楽しいのかねぇ。犯罪者の考えることって分からないわー」
 はー、やだやだ。と首を振って厭きれを見せたサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は、集まったケルベロスをちらりと見やる。
「だから、俺たち『ケルベロス』が、遊んでやろーぜ?」

 出現するエインヘリアルは一体、武器はチェーンソー剣らしい。使い捨ての戦力として送り込まれているためか援軍は無いと見て良い上に、不利になっても撤退することはない。というよりこの敵。
「なんかコイツ、攻撃を喰らえば喰らうほどテンション上がるらしい」
 コソッと囁くように言われたサイガの言葉に、ケルベロスたちは顔を見合わせる。
 何でもこのエインヘリアル、痛みが増えれば増えるほどそれはもうイイ笑顔になるらしく、痛みを快感にしてしまう性質を持っているらしい。とてもきもちがわるい。
「攻撃したら相手を喜ばせるってのは、ちっと癪だなぁ」
「そこは割り切るしかないですね……」
 セリカは微苦笑を浮かべていたが、すぐに口元を引き締める。
「場所は裏山と呼ばれるお山で、麓には幼稚園があるんです。近所には小学校もあって、非常に長閑な土地柄ゆえか、幼稚園児たちと小学校低学年の子どもたちが一緒になって遊んでいることが多いらしく」
 裏山の空き地も、その一つらしい。
 現場は山の中にぽっかりと穴が開いたみたいに土肌が覗くスペース、大人たちが作った秘密基地のツリーハウスであったり、タイヤが半分土に埋まった椅子であったりといった子ども心をくすぐられるものがあちこちにあるらしい。
「障害物という障害物はありませんし、広さも十分ですので戦う分には問題はないでしょう」
 あとは子どもたちをどうやって逃がすか。
「指示に従って逃げてくれりゃ良いけど、腰抜かしてんなら抱えて走る必要がありそうだな」
 そこは連携して、動いてほしい。
「わたしたちケルベロスに憧れて遊んでくれていた子どもたちです。どうかこの子たちを救ってあげてください」
「ってことで俺からも一つ頼むわ。ド変態のおにーさんなんて、教育にも悪いってね」
 からりとしたサイガの言葉に、セリカが小さく笑い声を漏らした。


参加者
ティアン・バ(君がいなくなった日・e00040)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
奏真・一十(無風徒行・e03433)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ


「たわけたわけたわけーッ!」
 朗々たる叫びが、裏山中に響き渡る。木霊すら逃げ出しそうな気迫、その一喝にビクーッと肩が跳ねた。エインヘリアルは目をまん丸とさせており、ものすごい勢いで獣道を駆け下りてくる服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)を見つけるなり「うわ」「なにあれ」仰け反った。
「ぬぁあああああーーーーッ!!!」
 猪の如く茂みから飛び出し、一気に懐へと間合いを詰めた無明丸は、思う様グラビティ・チェインを籠めた拳を、相手の顔面ド真ん中に躊躇いもなく打ち込んだのだ。
「ギャッ!」
 短い悲鳴を上げて巨体が傾ぐ。
「不心得者がっ! その闘気は飾りか! 何のための鎧ぞ! 鍛えた技ぞ!」
 名を名乗れ!
 わしらと勝負せい!
 それでこその戦士であろうがよ!
 と、怒涛のように迫る無明丸に、エインヘリアルは二の句が継げずに居る。
「うわぁ、苦手なタイプー」
 鼻っ面が圧し折れたのではないかと思えるほどの威力に対して、飄々とした口調に怒りは見えない。顔に掌を宛がい指の隙間から視認を寄越す罪人は、己の近くに現れた気配に気付くや否や、それは雷のように落ちてきた。
 子どもをぶら下げた肩口を穿つ穂先が、五指をゆるく開かせる。
「『ホンモノ』のご登場だ、遊んでくれるンだろ?」
 着地を決めたキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が、ランスを地面に突きながら口端に笑みを乗せて問えば、目の色が変わった。背負っていたチェーンソーを片手で解き、口で紐を引くとギャリギャリと激しい音をかき鳴らして、刃が機嫌よく哮ける。キソラの躯体を噛み付く苛烈さは、なるほど中途半端な誇示ではない。
「在庫処分に付き合う程ヒマじゃあねえんだが、当然てめえは、けるべろサマの敵として相応しいんだろうなあ?」
 隠密気流を利用して物陰で息を潜めていたアルベルトは、気を反らしてくれているサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)たちとは反対側から敵へと接近。敵の死角から子どもを掴んでいる手を狙って攻撃を叩き込むと、すかさず前に出たアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が呼びかける。
「貴方が戦いたいのはケルベロスでしょう。『でうすえくす』のその子は無関係ではなくて?」
「お友達は多い方が楽しいでしょー」
 にこにことして笑う罪人の声音は実に楽しげで。
 だからこそ仄かな暗がりから姿を現したジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が、ルーンアックス・Breaker Clawで奇襲を仕掛けるのは実に容易であった。
 肘から大きく斬り付けられたエインヘリアルが、今度こそ子どもを取りこぼす。「ア」とその口が、意識が子どもに落ちるが、だからと言ってどうということもない。遥か三メートル、幼稚園児にしてみれば高い位置から落下する。
 その無力なちいさきものが地面に激突すると思われたその時、ジョルディが子どもを奪取。
「皆! 勇気を出して共に行こう!」
 すぐさま至近の小学生四人を掬うように一まとめにしたジョルディが、大盾に乗せてその場から離れた瞬間、サイガが後追いなどさせぬよう旋刃脚で顎下を蹴り上げる。痛烈な痛みに、たまらず漏れた声は喜色に溢れていた。
 エインヘリアルは頭部を仰け反らせているにも関わらず、的確な動きで庇いに出たアウレリアを斬りつけた。複雑に肉が断たれるのを横目に見やり、揚々として二撃目に入る罪人、しかし。
 刹那、目を開けていられないほどの強風が沸き立った。それは、疾走するオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が纏う一陣だ。彼女は颯爽と姿を現すなり、
「無力な子を甚振って、何が楽しいのか。どうせ遊ぶなら、こちらと戦り合おう、ほら」
 そう言って、剣をちらつかせる。
「望み通り、これで斬る、これで砕く。お前が満足するまで、付き合う――どの道、今日が命日だ」
 轟竜砲で正面から挑むオルティア、その背後で腰を抜かした子どもたちを掻き集めるのはティアン・バ(君がいなくなった日・e00040)と奏真・一十(無風徒行・e03433)であった。
「えらいぞ、よく持ちこたえたな」
 アルティメットモードで励ましつつ、両腕に子どもを抱きかかえたティアンの隣で、一十が怪力無双を活用して園児を背中に一人、両脇にそれぞれ抱えてすぐさま駆ける。
「デウスエクスはケルベロスがやっつけてめでたしめでたし。君らの信じる結末を約束しよう。もう大丈夫、こわいことは無いさ」
 先に行ったジョルディに続くように、避難していくティアンと一十たちの背中を横目で見送り、アウレリアは敵の射線を塞ぐような立ち位置につくと、攻撃やその余波が子供側に向かわぬよう盾となる。
「そんな華奢な身体でほんとに大丈夫なの?」
 激しく音を掻き立てるチェーンソーを肩に担ぎ、罪人が頸を傾げた。バカにしている、というよりは純粋な疑問のようだった。アウレリアはリボルバー銃・Thanatosの撃鉄を起こし、同じように頸を傾げる。
「試してみたら、どうかしら?」
 遠慮なんてしなくていいのよ。
 パン、と乾いた音が破裂した。それは音に反応して振り被られたチェーンソーの刃をスレスレで躱し、螺旋を描くと、跳ね上がるように巨躯の腹へと命中。噴き出す血液が土を汚し、その色を見てようやく痛みを感じたらしい罪人の顔に笑みが広がった。
「あぁ~、すっごい痛い! いいねぇ、いいねぇ!」
「ナンでテメェを喜ばせにゃならねぇンだよ……」
 黒鎖を指先に絡めていたキソラは、そのあまりにも嬉しそうな気配に酷くうんざりしていた。キソラには奇しくも故郷に十人の弟妹が居る為、今回のことはとても他人事でなく、内心では静かに怒ってる。だからこそ、そのうざったい性癖には神経を逆なでされるような心地で、つい眉間に皺が増えるというもの。
「耳が腐る前にとっとと潰そう」
「同感だ」
 吐き捨てるサイガの背後から、ひらり現れたのは地獄の炎を纏ったティアンであった。彼女は軽い身のこなしで罪人の元へと間合いを詰めると、顔面にブレイズクラッシュを叩き付けた。
「うわっとっと」
 後方へと仰け反る体が、バランスを取るために数歩たたらを踏む。そんな無防備な軸足へと降魔真拳を振り抜いたサイガの一発が、巨体を転倒させた。
 瞬間。
「さぁ! いざ尋常に……勝負ッッ!!」
 強い踏み込みで飛び掛かった無明丸が、倒れ込んだ巨体へと蹴撃を一発。小気味良い派手な音を立てて、肉体が真っ赤に腫れ上がる。
「だ――っ! おれアンタ嫌いっ!」
「わはははははははっ!」
 暑苦しい、けれどからりとした笑い声を上げる無明丸の様子に、ちいさな笑みを零した一十。くるくると宙を舞いながら仲間たちの負傷度合いを見下ろしているサキミへアイコンタクトすると、一十はルナティックヒールで、彼女は属性インストールで負傷していたアウレリアとキソラの傷を癒していく。誰ひとりとして、倒れさせるつもりはない。
「人間の男とてみだりに子どもに声をかけては通報だぞ、そういう世の中である。神妙にお縄につけというやつだな」
 一十の言にエインヘリアルが大きく上体を傾けている。まさか、なぜダメなのか理由が分からないとでも言うのだろうか。
「度し難き外道め……我が嘴を以て……貴様を破断する!」
 戦列復帰したジョルディがBreaker Clawを突き付け、そう吼えた。
 彼の屈強な体が天高く飛び上がったかと思えば、自重を乗せた刃が落ちてくる。チェーンソーを持ち上げ、その斧を的確に防ごうとした罪人であったが、ジョルディの躯体はちょうど太陽の中に入っていたのだ。
 陽の影に入った姿を捉えるのは難しく、距離感を一瞬で見失ってしまった。エインヘリアルの左側へと踏み込んだオルティアは、脇腹に向かい剣を振り抜くと、惨殺ナイフ・Nemesisに持ち替えたアウレリアが右側から迫り、開いた脇へと血襖斬りを見舞う。と、そこへスカルブレイカーが肩口に大きくめり込んだ。損傷する肉体に、更なるアルベルトの追撃が寄越され、休む暇を与えない。呼気をすることすら、難しいほどに。
 自分を含めた前衛へサークリットチェインを展開するキソラ。その背後で煙が立つ。一十から齎されたブレイブマインが彼らの士気を高めると、罪人に向かう足並みも強いものになる。
 どくどくと血を垂れ流す腹を押さえ、エインヘリアルはうっとりした。
「はー、生きてるって感じ」
 痛みを感じることで生を実感できる、つまりはそういう事らしい。どのような半生を送ってきたのかは分からぬが、その実感のために無辜を巻き込まないでほしい。キソラは凄まじいモーター音を掻き鳴らす斬撃を庇い受けながら、空の瞳を眇めた。
 そこへ、ふと巡り染み渡る癒しの力。
「ありがと、サキミサン」
 大好きなサキミを振り返り破顔すると、彼女は「いいのよ」とでも言うかのように尻尾を揺らめかせた。
「口から潰しとくんだったか? ま、ド変態だろうが喰えりゃ同じだ」
 傷口を広げるように脇腹へとシャドウリッパーを叩き込むサイガ、その別方向から駆けるアウレリアがグラインドファイアの蹴りでチェーンソーを担ぐ腕を攻撃すると、すかさず無明丸が間合いを詰める。
「もういっぱぁつっっ!」
 緩やかな弧を描く一発がエインヘリアルの横っ面を弾く。その衝撃で鼻血が出てしまったのだが、その状態でもにんまり笑うものだから薄気味悪い。オルティアは若干その様子に引きつつも、敵の肩が上下していることに気が付いた。どうやら、疲れてきているらしい。
「早めに、片付けてしまおう」
 カリカリと後ろ脚で地面を掻いて、いつでも駆け出せる状態を保つオルティアの言葉に、ティアンが一つ、頷く。次瞬、彼女の灰の髪が、空気を含んでふんわりと広がったかと思えば、瞬きするころには影の如き視認困難な斬撃が巨体を切り刻む。その手馴れた様子に小さく息を呑んだオルティアは、自分も前に向かわねば、轟竜砲を撃ち込み、ダメージを稼いで連撃を崩さない。
「あ~~こんなに痛みを感じたのは久しぶりだぞう♡」
 額から流れる血を舌先で舐め上げ、双眸をチェシェ猫みたく細めて笑う。
 うわ、と厭そうに目を細めたキソラは、もういっそそのまま爆発四散しろとばかりにサイコフォースを叩き付け、その背後からアルベルトが金縛りで煙を吐き出す躯体を絡め取る。
 目まぐるしく応戦する戦況を、決して見違えることなく冷静な対処でヒールに徹していた一十は、ディフェンダーが率先して攻撃を受けるその肉体に鉄塊剣・ヘルヴェテを刺し込み、捻って引き抜く。一見すれば痛そうではあるが、
「大丈夫。治る!」
 その言葉通り、複雑に刻まれた肉体はきれいに塞がり、痛くない。
「重騎士の本分は守りに有り!」
 暴れるチェーンソーを構えた斧と共に肩口で受け止めるように防御するジョルディへ、サキミが回復に当たると彼はそのまま攻撃に転じた。大ジャンプで飛び上がり、上空で武器と変形合体。
『受けよ! 全てを貫く超必殺! ジョルディィィ……スゥトラァァァァイク!!』
 苛烈な咆哮と共に、零距離から全ての火器を叩き込み粉砕する大技を喰らった巨体が仰向けに傾いた。戦場の喧騒を呑み込み靜と湧き出す虚空を仰いだ顔面に、無より生まれた滴が落ちる。それは傷へと浸み、禍事広げる黒雨となる。キソラの禍濫ノ黒雨が降りしきる中を疾走するのはサイガだ。彼手にした得物へ降魔の力を伝播させると、罪人の顔面をを力任せにぶん殴る。身の内の骨をも灰と帰すほどの衝撃を受けた巨体が、大地にめり込み、悲鳴すらもう上げられない。
「夜の指先がそっと触れるように、速やかな滅びをあげる……」
 音も気配も無く死角から近付くアウレリア、冷たい指先が触れた熱を奪うように自身の生命力へと変換する。恐ろしく静かな、けれど静謐なる一撃に、罪人が瞠目する。
「今や無装を知る身にて、いざや無双へ踏み出さん。――もはや手遅れと、知れ!」
「さあ! いざと覚悟し往生せい!」
 駆け出したのはオルティアと無明丸。
 光明一筋残した一太刀で薙がれた肉体が血飛沫を上げる、それよりも素早く振り下ろされた無明神話の拳が顔面を撃ち抜いた。めき、と厭な音を立てて折れた鼻が歪に曲がるのを見下ろし、地に落ちた五指から得物が転ぶ。
「夢のつづきを。いつまでも。いつまでも」
 それは追想。
 ティアンにより齎された幻影は、無明丸の拳を描き、繰り返し傷を深くする。エインヘリアルは至極残念そうな表情を浮かべて、そのままゆっくりと息絶えた。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ!鬨を上げい!」
 拳を突き上げ朗々と勝利宣言する無明丸に、安堵の吐息が重なった。


『ガオー! ダモクレスダゾー!』
 両手を広げノシノシ歩くジョルディの周りを、まるでコーギーみたいにちょこまかと園児たちが駆け回る。きゃっきゃとはしゃぐ表情に、もう恐怖の色はない。
 女の子たちは元々可愛げのないタイヤであったベンチが幻想化されて可愛くなったことでご機嫌な様子。「ねぇねぇ」「あっちも」と木の枝に括り付けられたブランコを指差し、ティアンの袖を引く。
「君たちはどんな『ぐらびてぃ』を使うんだ?」
「ゆみわざだよ!」
「おれはおっきなじゅうなんだ!」
 一十の問いに幼稚園児たちが一生懸命考える。
 でうすえくす役となって倒されてみるのもおもしろそうだ。サキミをキソラに預け、ジョルディと共に悪役に扮する一十へ、大きないい感じの枝を銃に見立てた園児が「バーン」と撃つ。
「で、どいつがどのグラ使えるって?」
 遊具の上に胡坐を組んで、頬杖を突いたままサイガがしげしげ促すと、他の園児たちが顔を見合わせ、一斉に動き出した。それはキックであったり、パンチであったり、短い手足をいっぱいに使った「ぐらびてぃ」だ。
「ハッ、ホンモノはこうやんだよ!」
 地面に飛び降りたサイガは鼻で笑うと、はらりと落ちてきた木の葉を石火の蹴りで二つに裂く。何とも大人げのないことであったが、子どもたちにしてみれば間近で見れるのは嬉しいのだろう。
 ベンチに腰掛けアルベルトと共に遊ぶ子らを眺めていたアウレリアは、傍らで腕を組んで「善き哉、善き哉」と頷く無明丸につられて、微笑を零す。
(「そうかぁ、そうですよね、ケルベロスってヒーローなんですよね。ヒーローかぁ…何だか不思議というか、くすぐったいです」)
 飛行形態に変形したジョルディが子どもたちを乗せて順番に空を飛ぶ姿を見上げていたオルティアは、ハッと口を押さえる。
(「……あっ。でも「伝令と蹂躙」ってもしかしてヒーローっぽくないです…?」)
 だけど。子ども達の笑い声は、救えた命の輝きを感じるようで、何とも心地が良かった。

 怖いなら、悔しいなら、つよくなるといい。
 きっとその可能性は、秘められている。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。