朝焼けの刻

作者:四季乃

●Accident
「……ワレワレハ、エイリアン、ダっ!」
 そう……なのかもしれない。
 男性はゴクリと生唾を呑みこんだ。傍らに居る恋人も、至極まじめで真剣な眼差しでその”物体”を見ていた。例えそれが携行型ソーラーラジオライトであっても「我々」と言いつつも一人――否、一つだとしても。その”物体”が動き、喋っていることには変わりがないのだから。
「賢一さん……あ、あれって? 本当に、宇宙人なの?」
「わ、分からない……でもエイリアンって言ってるし……」
「次ノオ便リ! 付キ合ッテ2年ニナル彼氏ガ未ダニ、キスシテクレマセン!」
「えっ」
「えっ」
 ぴかぴか。ちかちか。まぁるいライトを光らせながら、ソーラーラジオライトは楽しそうに、まるで歌でも歌うように喋っている。本体から伸びた蜘蛛みたいな機械の脚をワキワキさせて、ソーラーラジオライトはぴょんこぴょんこと飛び跳ねる。
「ソラァ――! ウダウダ考エズニ、ブチュット、キスシロ――!」
「きゃああぁあっ!!!」
「お前がするなぁぁああ!!」
 夜が明けようとする白んだ空の下で、悲痛な叫び声がこだまする。

●Caution
「笑っていいのか泣いていいのか……」
 額に手を添えて、厭きれとも笑いともつかぬ表情を浮かべるセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は吐息を一つ、漏らした。その隣で静かに話を聞いていたグレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)も、無理やり口端を結んでいて、実にもどかしそうだ。
「もうお分かりだと思うのですが、携行型ソーラーラジオライトがダモクレス化してしまったようなのです」
「幸い現場は街から離れた山奥なんだが、近くにペンションがあるんだ。何でも朝焼けが綺麗に見えるとかで、近年少しずつ客足が増えているらしい」
 現場からペンションまでは徒歩十分も掛からない距離にある。ダモクレスは朝焼けを見に来た一般人を襲ったあと、確実にそのペンションを襲い、グラビティ・チェインを奪うだろう。そうなる前に、このダモクレスを撃破してほしいのだ。

 携行型ソーラーラジオライトの姿をしたダモクレスは、本体が白くてラジオ用のアンテナがピンと立っている。随分と古いタイプの物らしく、山奥に放置されたラジオライトは恰好のエサであったのだろう。
「ライトの部分から光線を出したり、アンテナでぴしぴし叩いてきたり……あとはそうですね、ラジオから流れる波動で攻撃して来たり、といった感じでしょうか?」
 そしてこのソーラーラジオライト、どうも胡散臭い深夜番組の類をよく流していたらしく、それが残留思念となって言葉を発するようなのだ。
 つまり。
「下世話な性格をしています」
「下世話な性格」
 復唱するグレインに、こっくりと神妙に頷いたセリカ。
「オカルトであったり、ちょっとふざけた深夜ラジオであったりと、持ち主が何を聞いていたのかがよく分かってしまうのが、何だか気恥ずかしいですね……」
 頬を擦りながら微苦笑を浮かべたセリカは、大した脅威ではないだろうと言った。
「人を襲うと言った点については看過できませんが、ラジオであるが為に喋るのが好き、ライトであるが為に照らすのが好きといった風に、その本体の役割がよく反映されています」
「決して油断していい相手とは言わないが、まぁその、あんまりガチガチに気張らなくても、良いかも、だな?」
 ちなみに現場は山奥なのだが、ヘリオンから見下ろせばペンション周辺は屋外に灯りが設置されているので目印になるだろう。それはペンションから、朝焼けが最もよく映えるスポットまでの道しるべの灯籠で、ダモクレスが出現するポイントはちょうど切り立った崖になっている。崖、と言っても、ほんの二、三メートルほどの切り立った場所なので、落ちたら大怪我を負う、ということはない。灯りも柵もあるので、一般人を元来た道へと戻らせることはそう難しくはないと思われる。
「コミカルな喋り方をするみたいなので、何だか気が抜けてしまいそうではありますが……皆さん、しっかりと退治してきてくださいね?」
「もしかしたら朝焼けが見られるかもしれないな。朝は冷えるから、風邪はひかないようにな」


参加者
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
ローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434)
アルケイア・ナトラ(セントールのワイルドブリンガー・e85437)
シャムロック・ラン(セントールのガジェッティア・e85456)

■リプレイ


「ハイッ、ドーモォ!」
 バッ、と蜘蛛のような機械脚を大きく広げ、眼下から飛び上がって来たダモクレス・ソーラーラジオライトを目の当たりにしたカップルは絶叫した。口から心臓が飛び出るんじゃないかというくらいの壮絶な悲鳴は、ヘリオンから続々と降下するケルベロス達の耳にも届いており、セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)なぞ「あらあら」とおっとり笑っている。
 素早く地面に着地し、双方の間に滑り込むように割って入った機理原・真理(フォートレスガール・e08508)とセレスティンが背に庇う体勢に入れば、すぐさま二人を落ち着かせるべくアルケイア・ナトラ(セントールのワイルドブリンガー・e85437)がプリンセス変身で、その呼吸を正す。
「いくらお二人が熱々ラブラブでも、この寒さじゃ風邪ひいちまいますよ。ペンションに戻って、暖かい物でも持ってきたら如何っすか? お二人が朝焼けを見に来るまでには片付けとくんで」
 駆け付けたシャムロック・ラン(セントールのガジェッティア・e85456)が、ちらちらとした灯籠の光が漏れる方向を指差しながら、背中を優しく押し出してやる。
「灯籠を辿れば安全な場所まで行けるはずです」
 不安げに揺れる表情を見つけたカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)は、持参したランプを男性の手に握らせると、颯爽と足元に守護星座を描きはじめた。まだ真夜中とも思える暗がりに弾けるは星、その守護を受けたグレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)がウェアライダーらしい大きな踏み込みで前へと出ると、ダモクレスに向かって螺旋掌を繰り出した。ローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434)も後ろ足で思い切り蹴撃を見舞うと、そこへ更に自重を加えるように地に打ち据える。
「オ、重イ!」
「朝日は拝ません! 貴様は泥に塗れていよ!」
 容易に動けないよう、ランスを突き付けるローゼスの気迫にダモクレスはたじたじだ。
 ジジッ、ジジッと音を立てながら周波数が切り替わる。恐らく様々なラジオ番組のパーソナリティの声を借りているのだろう。喋るたびに声質が変わっているようだった。
「随分と賑やかなやつだな。現役の時は深夜の良い相棒だったんだろうが、ここまでだぜ」
 グレインが二対の螺旋手裏剣を構える。いつでも次の攻撃に入れるんだぞとでも言うかのような姿勢を見て、ダモクレスはぷんすこ飛び跳ねた。
「NINJAAAAAAAAA!」
 興奮する外国人のような反応を見せるダモクレスの身体が、プライド・ワンからなるデットヒートドライブを喰らってそのままスコ――ンと飛んでいく。
「アチャチャチャ!」
 炎を纏ったソーラーラジオライトは再び空を飛んだ。
 黄金の果実を起こしていたアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は、額に手を翳し思わずといった風に零す。「よく飛ぶなぁ」と。
「すんません、この辺に家の鍵落としちまったんで! そのカッコイイライトで照らしもらえません?」
「イイヨー」
 ぽいんぽいんと木の茂みを幾つか経由して落ちてきたダモクレスは、シャムロックが指差す地面を照らし「全ク、ドジナンダカラ!」「ワタシガ居ナイト全然ダメネ!」とツンデレを発揮して、それは実に奇妙な光景だ。下世話と聞いていたが、ケルベロスの対応ゆえにか幾らかまともに見えないこともない。
「落ち着いて。ここは私たちに任せていいから。ここはお姉さんに任せなさい」
 首だけで振り返ったセレスティンの空色の目が細くなる。
 全身黒色に包まれたスラリとした美女の手には、無骨なハンマーが握られていて、それがあんまり似つかわしくないもので。カップルたちは、だからこそ頼れる人たちなのだと口元を引き締め、頷き合う。
「どうか、お願いいたします!」
「ご無理をなさらないでくださいね……っ!」
 至近のセレスティンと真理たちにそう囁いた二人は、音を立てぬよう、けれどしっかりとした足取りで逃げていく。アンセルムは念のためにと殺界形成を展開。
「オ風呂入レヨー! 歯ヲ磨ケヨー! 風邪ヒクナヨー!」
 ずっこけそうになるその背中が完全に見えなくなるまでは、真理がペンションへの道を塞ぎつつ敵の意識を逸らすためポージングすると、パッと光が集まった。キャッキャと照らし出された真理は無表情だったけれど、見る見る内に膚に赤みが差していく。本当はとっても恥ずかしいのだ。
「ここから先は通さねぇっすよ!」
 その頑張りを無駄にはさせない。
 捕り物をする同心のように、大きく回転させたゲシュタルトグレイブを構えたシャムロックは、アンテナを触手のようにピコピコ揺らすダモクレスへと稲妻突きを繰り出した。
 瞬間。
「行って、フォーマルハウト」
 カロンが腕を広げると、ミミックがぴょんとその腕に飛び乗る。痛いのか、ぶぶぶ、とライトを明滅させるダモクレスに向かい、大きく口を開けたフォーマルハウトは、そのままレンズを飲みこむようにガブリ。するとダモクレスは強く発光した。それは熱となり光線となり、フォーマルハウトを内から貫こうとするのだ。
 咄嗟に前に出たセレスティンが轟竜砲を撃ち出して攻撃を阻害すると、アルケイアから放たれたレイピアがダモクレスの下肢を破壊。
「良い声の人の落ち着いたラジオとか、歌とかよく聞くですが……これは、ちょっと煩すぎなのです」
 捕食形態にさせた”咲き誇る白の純潔”でソーラーラジオライトを喰らってみせた真理は、ヘッドライトを黄色に光らせるプライド・ワンを見て「ねぇ?」と首を傾ぐ。
 ダモクレスはジジッと音を漏らすと、次の声質は酷くゆったりとしたおどろおどろしい男性のものになった。
「ソノ隧道ノ先ニ在ル村ハネ、日本国憲法ガ適用サレナインデスヨ……」
 どこかで聞いたことのある都市伝説だった。
 ひゅーどろどろ。自分でそんな演出をしてみせたダモクレスは、パッと明かりを消した。それまで一番強く発光していた光が消えたものだから、ケルベロスたちの目が慣れるまでにほんの僅かな差が生まれた。
 パシンッ。
「痛いですっ」
 渇いた音に、真理の声が重なった。真っ赤にライトを光らせたプライド・ワンの危険信号に気付きその冷たい気配を察した真理は、目を細めると視界の端で翻った何者かに向かい破鎧衝を振り抜く。
「アタッ!」
 ボコン、と痛快な音を立てて、地に転げ落ちたダモクレスの機械脚がわちゃわちゃと気味悪く蠢いている。明滅する光はその衝撃を表しているのか、何とも器用なことだ。
「次はどんな話をするんだろう」
 アンセルムはどうやらダモクレスに対して興味津々の様子。肩口に乗せた少女人形の表情も、何だかわくわくしているようにも見えるのは果たして目の錯覚だったのか。
 アンセルムはダモクレスの仔細を眺めるように視線を向けながらも、負傷した真理にウィッチオペレーションで回復に当たる。その傍らでは、オカルト話に全くピンと来ていないアルケイアが「?」と疑問をいっぱい浮かべた表情をしていた。
「私は目覚めたばかりだから、地球の下世話な話をされてもわからないかもしれませんね。いずれにせよ人間を害するモノに変わったのなら排除するしかありません」
 ヒュン、と風を切るレイピア。その先端から放たれた花嵐がダモクレスの歪な体を包み、閉じ込めた。そこでシャムロックの背蹄脚が命中すると、ぽぉんと飛翔するラジオ。
 ボキボキに折れた機械脚は暫く地面をのた打ち回っていたが、それを踏みつけたグレインが弧を描くように飛ぶダモクレスの軌道を読みながら、両手の手裏剣を高速回転させ始める。
「役目を終えたのがたまたまこんな所に来ちまったか、それこそ夜明け前にここに来て落っことしちまったか。どっちにしろ誰かを傷つけるのはお前の仕事じゃないんだ、さっさと還りな」
 刹那、吹き荒れる大竜巻。周囲の木々を揺らして空気を震わせる螺旋竜巻地獄は、地に落ちる直前のダモクレスに見事命中。
「諦メタラ、ソコデ試合終了ッテ、言ッテタゾ!」
 むくりと起き上がったダモクレスがカッと光線を撃ち出した。
「眺めの良い場所に来てこれを聞くというのは何とも言えませんね。ソーラーということは陽が出れば更に煩く? 迅速に掃討しまいましょうか」
 重装甲のローゼスは加速による機動力も相まって、その攻撃を耐えて受け流すことで、スターゲイザーの蹴りを確実にヒットさせる。威圧的な見た目のせいか、ダモクレスはぷるぷるとアンテナを震わせ、その仕草はどこか小動物を思わせる――ことは無かった。
「オ馬サンガ、イッパイネー。……オ馬サン?」
「本来は災害から人を守るために作られた機械が、殺人マシンになってしまうなんて、皮肉な話ですね」
 ローゼスを始めとした後衛のアルケイアとアンセルムに、スターサンクチュアリの輝きを齎したカロンは、活き活きとした様子で都市伝説を語り、誰に攻撃しようかとセントールたちをぐるぐる見回すオンボロラジオを横目に見やり、吐息交じりにそう言った。
「ラジオいいわね、特に深夜」
 エクトプラズムで武器を具現化したフォーマルハウトが、キャリバースピンで突撃するプライド・ワンを足場にしてダモクレスに飛び掛かっていく。そんな姿を眺めていたセレスティンが、突然そんな風に零した。
「夜の墓地散歩にぶら下げていくの。隣には本物の死者がいてUMAの作り話に笑いながら突っ込むのよ」
「ワクワク」
「死んでもなお熱々のカップルっていうのがいてね。腕組んで歩いてたりするのよ、もちろん向こう側は透けてて……」
「ドキドキ」
「以下、下世話なオカルトのお話をしましょうか?」
 攻撃付きでね?
 彼女はスケルトンゴーストを粉骨状態で召喚。直接触れた個所に砲撃し、一瞬にしてダモクレスの生気を奪い取る。ワ、と飛び上がったダモクレスが、反射的に伸ばしたアンテナをしならせると、パシンと小気味良い音を立ててそれは膚に紅い線を奔らせた。
 けれどセレスティンはちらりとその傷を一瞥するだけで、浮かべた表情を崩さない。
「下世話な話って難しいわね。キスの話? キスの話を下世話だと思うことが下世話ね。大人の女は然るべき時に堂々と話すものよ」
 その言葉に、アルケイアがちょっとだけ頬を赤くする。ダモクレスから余計な言葉が返ってこなくて良かった……そんな風に思う一方で、頼れる姉というのが嬉しいセレスティンは、若い子も居るからといつもより張り切っていた。
「あぁ、でも残念。今日はお喋りな友達を連れていないのよ」
 ”友達”のフレーズのあとに括弧付きの死者が付いているのだが、それを知っているのは彼女だけ。
 口元に淡い微笑を浮かべた彼女の傍らで、掌に螺旋を込めていたグレインはダモクレスがひょこひょことカニ歩きをしていることに気が付いた。多分、前に動いているつもりなのだ。だけど行けなくて、何とか頑張って動こうとするのに思うように進めない――そんな風に見えた。
「コンナ遅クマデ起キテテ、悪イ子ダネェ」
 反復横跳びするラジオに言われても。
 気を取り直したアルケイアは、上手く動けないダモクレスの背後に回り込むと、後ろ足で強烈な蹴りを繰り出した。
「さぁ、派手にいくっすよ!」
 投げ出された駆体の進行方向へと即座に駆けたシャムロックの姿は、まるで獰猛な嵐のよう。攻撃に転じた姿を見て、すかさずスターサンクチュアリで援護に回ったカロン。彼から受けた星の煌めきを帯び放つ、異形の蹄を鳴らした奏者は、戦場の操者となり、訳も分からぬままに傷口を広げられたダモクレスの足が根元からもげる。
 グレインはころころと転がり落ちるダモクレスに触れると、
「ギョワー!」
 それは螺旋を描きながら二転、三転、毬のように弾んで、転げる。
「モ、モ、盛リ上ガッテキター!」
 その時だった。
 ダモクレスは脚を突いて起き上がったかと思えば、光らせたライトを上下に振ってご機嫌だ。何やらヘビーなメタルだかロックだかの曲を大音量で流しているので、ようやくその動きがヘドバンだと知る。
「朝も近いのに煩いです!」
 耳を押さえる真理はアームドフォートの主砲を一斉発射、プライド・ワンもデットヒートドライブ で黙らせに入る。
 後方から藍色の眼を走らせ戦況を広く見渡していたアンセルムは、攻撃を受けた仲間が複数いることを把握すると、彼女たちの背後にカラフルな爆発を発生させた。
「そろそろ大詰めのようだね。終わらせてあげようか」
 アンセルムの言に厳かに頷いたローゼスは、カリカリと後ろ脚で地面を掻く。
「誇りと栄誉を賭して、その首頂戴する」
 強靭な肉体による高速駆動に加え、練り上げられた膂力によって放たれる単純かつ無慈悲な一閃。まるで赤い風が奔ったような光景に圧倒される。くらくらとよろけるダモクレスに向かうはセレスティンのネクロオーブ・枯骨の夢。呪いの宝珠が熱を持たぬ水晶の炎となってダモクレスに鋭き一閃を切り刻むのを見て、カロンが駆け出した。
「フォーマルハウト、一緒に行こう!」
 ぴょん、と飛び跳ねたフォーマルハウトが武器を作る。二人は共に駆け、撃ち出された光線をフォーマルハウトが庇い受けても止まることなく一気に間合いを詰める。具現化された武器を、えいっと振り下ろしたフォーマルハウトに合わせ、カロンは右腕を振り抜いた。
「残念だけど、君はもう動けない」
 全身を巡る電気信号。
 ビクビクと身体を震わせたダモクレスは、ぶぶぶ、と光を明滅させ――そしてパタリと倒れ込んだ。


「わ、あ……絶景ですね」
 シンとした空気の中に広がっていく。朝焼けが世界を照らすその様に、カロンの口から感嘆が零れ落ちた。
「お、ありがとな」
 静かな空気が戻ってきた冷たさの中に在って、アンセルムが持参した暖かな飲み物は格別に沁みた。カップを受け取ったグレインは、ほんのりと白んできた東の空を仰ぐ。
「ひと仕事終えて見る朝焼けってのもまたいいもんだな。もうすぐ冬の、夜明け前の凛とした空気が陽の光と共に和らいで」
「……地球にゃ、こんなに美しいもんがあるんすね。守れた事を、誇りに思うっすよ。それに、何か頑張ったご褒美を地球から貰ったみたいでうれしいっすね。皆さんもお疲れっした!」
 シャムロックの労いに、ワインを注いだカップを僅かに掲げたローゼスは、
「では、改めて。乾杯」
 隣のアルケイアとやさしくカップを合わせ、それから反対でプライド・ワンに寄り添っていた真理とも会釈する。
(「朝焼けはちょっぴり苦手なの。星が見えなくなるのがさみしいわ」)
 ただ一人、セレスティンは嫋やかな微笑みに一抹の翳りを落とすと、月と星が眠りについた昏い空を振り返り、熱っぽい吐息を零した。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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