パンよりお米を食べなさい!

作者:白鳥美鳥

●パンよりお米を食べなさい!
「ん~! 今日もよく働いたなー!」
 身体を伸ばしながら折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)。パン屋のバイト帰りで家に帰る途中……いつもと違和感を感じた。
 いつもの帰り道、普段ならそう多くは無いとはいえ人が行きかうものである。
 だが、今日に限って誰もいない。
 同時に、殺気が襲ってきた。そこにいるのは米俵っぽいものを抱え『鴨』という文字が書かれた鎧を纏っている……鴨らしい生き物。
「そこのパン屋のバイトさん! パンを世に広めるのは止めなさい! パンなど海外から入って来たものです! 日本の本来の主食はお米! お米を世に広げるのなら許せます。しかし、敵であるパンを売るだなんて……許しませーん!! あなたもお米を食べなさーい!!」
 何だかよく分からない理由で茜を襲って来たのだった。

●ヘリオライダーより
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、慌てながらケルベロス達に話し始める。
「みんな、大変だよ! 折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)が、宿敵であるビルシャナに襲撃される事が予知されたんだ! 勿論、直ぐに連絡したんだよ。だけど、連絡が一切取れないんだよ! 事は急を要する事態だ。茜が無事なうちに、なんとか救援に向かって欲しいんだ!」
 デュアルは続けて状況を説明する。
「どうやら、茜はパン屋のバイト帰りに襲われたみたいだね。元々、人通りの少ない道だったんだけど、今日は誰もいない事に気が付いた時にビルシャナと遭遇したみたいだ。このビルシャナっていうのは『日本の主食はお米! パンなんて許せない!』という主張を持った相手みたいで、パン屋のバイトをしている茜が、パンを世に広めているという事で許せなかったみたいなんだ。戦う方法は、お米に関したものを使ってくるみたいだよ」
 その話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、とても複雑な表情をしていた。
「ミーミアはお菓子大好きなの! 小麦粉のお菓子も米粉のお菓子も大好きなの! だから、片方に偏るのもどうかと思うの! それに、茜ちゃんに対しては完全に八つ当たりなの! 茜ちゃんを救うために、みんな、力を貸して欲しいの!」


参加者
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
一之瀬・白(龍醒掌・e31651)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)
日高・梵(和装人馬・e85442)

■リプレイ

●パンよりお米を食べなさい!
 パン屋のバイト帰り、折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)は出会ってはいけないものに出会ってしまった。米俵を抱え、『鴨』という鎧を着た鴨らしい生き物……お米至上主義のビルシャナだ。何だか色々と言いがかりをかけてきた。
「パンを売るだなんて……許しませーん!! あなたもお米を食べなさーい!!」
「自分以外ならともかくさ……わたし自身を助けなきゃいけないなんて、難題すぎて脳味噌蒸発するレベルなんだけど」
 飛んでくる藁100%の米俵。その米俵を受け止めながら茜は思わずそう叫んでしまった。
「茜をいじめるのはだめなのです! ぼく達がゆるしませんよっ」
 仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)の声と共に、セントールである日高・梵(和装人馬・e85442)に乗った一之瀬・白(龍醒掌・e31651)が、ビルシャナ……米将軍の前に立ちふさがる。その後、イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)、之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)、帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)、武蔵野・大和(大魔神・e50884)、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)、そして応援に駆けつけてくれた深街・睦月(超テンションキーボーディスト・e62408)とミーティア・ドラーグ(自称異星人・e85254)との総勢10名の援軍だ。
「早……ごめん、今の無しで」
「……いや、今のを無しにするとか無理でしょ?」
 そして、早速、ツッコミ漫才に入る茜と白。
「ありがとう、梵さん。やっぱりセントールは速いね、助かった」
「いえ、この程度お安い御用です!」
 きちんとお礼を伝える白の言葉に、梵は胸を張った。
 そんな一連の流れを見ていた米将軍。
「……ええと、何だか一杯現れましたが……皆さん、お米の敵ですか?」
「僕もお米は好きです! でも、それを無理強いするなんて許せません! そんなの真のお米好きではありません!」
 それに対して翔がはっきりと明言した。それに、米将軍はちょっと狼狽える。更に狼狽えらせる様に続けるのは白。
「お前……パン屋さんでバイトしてるってだけで襲ってきたの? ていうか、確か茜さんの好物ってお漬物だったって誰かに聞いたんだけど。だとしたら、ご飯も大好きって事なんじゃない? お米を布教したいのに、ご飯好きな人を襲撃して……逆に信徒が減るんじゃない? あーあー、やっちゃったなー?」
 白の合図を受けて茜も話を合せる。
「そうです、米食の方が多いですよ。両方食べてるからこそもう片方の良さも分かるというものです」
「……という事は、お米も食べている、と。信徒は別に良いですが……さて、それなら如何いたしましょうか……」
 米将軍は考え込んでいる。とりあえず、お米を食べていれば許される範囲らしい。
「え……わたし、本当にパン屋でバイトしているだけで狙われただけ?」
 その反応に、茜はどっと疲れる思いがした。だが、大和の言葉で状況は変わる。
「その人だけ狙っていいんですか? 僕もパン屋ですけど?」
「……あなたもパンを広める悪人なのですか!?」
「僕は前『朝食はパン派』のビルシャナと戦った事があります。その時、僕はその人の為に米粉パンを作りましたが……」
「米粉パン?」
 大和の言葉に反応した米将軍に翔も続ける。
「米パンって知っていますか? 米で作るパンのことです。あなたの言い方じゃ、米パンも食べるなって言ってるようなものです!」
 そんな二人に米将軍は大きく首を振った。
「米粉で出来ている……それなら一考の余地はありますね。何せお米ですし」
 それならば、と梵が口火を切る。
「お米とパンは共存できる、そう! おはぎパンのように!! パンはお米を包み込んだです。お米だって、パンをおかずにするぐらいしてみせるです、あなたのお米好きはその程度ですか」
「お米がパンを包む……パンをおかずに……それはどうすれば……」
 ……緩い。このビルシャナの考え方は、緩い。全てがお米なら許されるらしい。
「パン屋のバイトである茜さんを襲った割には、主張が緩い気がしますね。……鴨だからでしょうか?」
 イッパイアッテナの言葉に米将軍は頷く。
「そう、合鴨農法というものをご存じですか? 合鴨に雑草や害虫を食べて貰いつつお米を作る農薬を使わない農法です。しかし……合鴨の運命は……。それならば、お米を食べて貰えるのであれば私は――!」
 話が合鴨農法の方にまで行ってしまった。合鴨は仕事を果たすと食肉になる運命を辿る。その合鴨が頑張ったお米を食べて貰えるのであれば……という所があるようだ。
 こほん、としおんが仕切り直す。
「日本国民が主食と言えるほど一様に白米を食べられるようになったのは昭和に入ってからです。ナショナリズム運動によって国の概念が成立したのは18世紀頃は、当然裕福な層はパンも米も食べてましたし、庶民は雑穀を食べてました。古来の日本とはいつ頃のどの地域を指していますか?ヤマト王権より前は東北から先はアイヌの土地だったわけで、彼らは狩猟民族なのでもちろん米以外を食べていたのですが、アイヌを日本人に含めていないんですか?」
「……そ、それは……!! いえ、アイヌの方々だけでなく、それより前は狩猟文化……お米は栽培されるようになってからで……」
 米将軍はうんうんと唸り始めた。
「茜、茜……何かとりあえずお米が好きと言えば大丈夫っぽい感じの相手ですが……バイト帰りの茜を襲う辺りはちょっと問題ですよね……」
「……ええ、それはとても迷惑というか……丁度、しおんさんの話でかなり弱っている様ですし、わたしも襲われた身なのでこれ以上迷惑を出さない為にも倒しましょう」
 こそこそと話すかりんと茜。米パンなら許してしまいそうな感じだが、普通のパンならそうはいかないだろうし、どちらにしても迷惑をかける存在だ。それに、茜としては、思想のひとかけらたりとも、デウスエクス風情にくれてやりたくない。ならば、戦意が削がれている今がチャンスだ。

●ビルシャナ・米将軍
「――ぶっすり潰します」
 茜は容赦なく急所を狙って米将軍に強烈な一撃を喰らわす。一方でかりんは大地に塗り込められた『惨劇の記憶』から魔力を抽出し、無数の骨が重なり合いながら茜達に盾を創り上げた。
「いきなり何するんですか! 不意打ちとは卑怯です!」
 突然、攻撃を喰らった米将軍は、反射的に米俵を茜に向かって投げつけるが、イッパイアッテナが庇って受け止める。
「茜さん、大丈夫ですか?」
「ありがとうございます、ルドルフさん」
 二度目の米俵を喰らわずに済んだ茜はイッパイアッテナに礼を伝えた。
「そもそも米など縄文時代に入ってきた新参者にすぎません。里芋や蕎麦を食べるべきです。そう、晩ご飯は鴨南蛮にしましょう。鴨……って戦いが始まってますね」
 米将軍に話し続けていたしおんは、戦闘が始まっている事に気が付いた。うるさいと殴られて気を失っている内に戦闘が終わっている予定だったのだけれど、そうはいかない様なので、しおんも戦う態勢に入る。米将軍の『気』を掴みあげると、そのまま投げつける。
「いくよ!」
 白は全身を覆うオウガメタルによる鋼の拳による強烈な一撃を浴びせかけた。
「なぞなぞは好きですか? 決して開けてはいけないパンってなーんだ?」
 大和の問いかけに、手元に小さな箱が現れる。開けてはいけないパンとはパンドラの箱の事だ。その箱が開き幽霊の様なものが米将軍に襲いかかる。
「避けられねーだろ!」
 先程の穏やかな面影は消え好戦的な性格に変わった翔は、幽霊に襲われている米将軍に向けて更に爆破攻撃を加えた。
「これが私の心意気、銀鱗躍動、士気高揚、篤とその目に焼き付けるです」
 梵は自身の一挙手一投足にまで気を遣い、その立ち振る舞いによって周りを鼓舞する。そして米将軍に対しても日本の心とは何たるか立ち振る舞いで見せつけるのだ。
 ミーミアはイッパイアッテナの傷を癒し、ウイングキャットのシフォンは清らかな風を茜達に送っていった。睦月の攻撃も随時入る。
「嗜好品としてはパンに軍配が上がると思うんですよ……! カロリー高い? だからこそ美味しいのでは? バターたっぷりの甘いパンの多幸感は他の追随を許さないレベルなんですよ……!」
 焚きつけるようにそう言う茜に対し、米将軍も負けてはいない。
「私の守備範囲は広いんですよ! 私はカロリー等気にしていません! お米を食べてくれる事が大事なんです! 洋食にはドリアやリゾットもありますよ! 甘く炊いたミルク粥、それにおはぎ等のスイーツだって充実しています! パンでは無くお米を美味しく食べられる方法は沢山あるのです。そう、洋食でも!! ……そう、お米はどんな形でも美味しく食べられる……!!」
 米将軍は一気に茜達を夢へと誘う。そこに浮かぶのは沢山の米料理の数々。和食、洋食、中華等多岐に渡り、スイーツ等も現れる。
「……お米の料理……美味しそう……」
「本当だ……お腹いてきた……」
「……どれも魅力的ですね……」
 茜と白、そしてイッパイアッテナは次々と現れるお米の夢に捕らわれていく。
「みんな、目を覚まして下さい!」
「夢から戻って来るの!」
 かりんの骨の壁と、ミーミアの天井の光が三人の意識を取り戻していく。
「……凄いお米への信念を見た気がする……」
「……僕もお腹がぺこぺこになって……」
 意識は戻ったものの、茜と白は別の意味でダメージを被ったようだ。
「……強力でしたね。……こちらもお米の夢を見て貰いましょうか?」
 イッパイアッテナはミミックの相箱のザラキを呼び寄せると、妖精弓『雷火の弓Plasm』を受け取ると、心臓に向かって矢を放つ。
「……やっと、やっと……皆がお米を……」
 射抜かれた米将軍はどうやらお米の夢を見ているらしい。
「……お腹ぺこぺこだけど、食べるならこのビルシャナを倒さないと……」
 ちょっとよろめきながらも、白は如意棒を使って鋭く米将軍を突く。
「どんな夢を見たりしたのかは気になりますが……まずは倒してからですね」
 しおんも急所を狙い蹴りを叩き込んだ。
「よく分かりませんが……米粉のパンについては思案したりしているという点で、主張は主にお米に対する物だけの様ですが……共存が出来そうにないのは残念ですね」
 大和は煌めきを伴いながら重い蹴りを米将軍に向かって放つ。
「……凄いお米に対する信念を見た気がする」
 本当に行き当たりばったりに出会ってしまったビルシャナだが、お米に対する愛は深い。確かにカロリーについても和食洋食云々も言っていない。パンは許せないらしいが、お米に対する深い愛が伝わってくる。……それに、茜も米が嫌いな訳では無いので……ここまで見せられると、食べたくなってきた。
「でも、通りすがりのバイトまで狙うのは行きすぎです! 覚悟して下さい!」
 茜の渾身の篭った蹴りが米将軍に放たれる。
「俺も米は大好きだ。米を使う料理はどれも大好物だ。けどな、パンも大好物なんだよ!両方好きで何がわりい!」
 翔は思いを乗せて混沌の砲弾を米将軍に対して撃ち込んだ。更に、雷の霊気を帯びた強烈な突きを梵が放つ。
 更にシフォンは、しおん達に聖なる風を送り込み、かりんのミミックいっぽは噛み付き攻撃を行った。
「……ふっ、あなた達は知らないのですね。お米の神秘なる力を。お米こそ、全ての源なのです!」
 そう言って、お米を食べ始める米将軍。塩握りのようだが、どんどんぱくついている。相手が回復に回るという事は、こちらとしては最大のチャンスに変わるのだ。
 まずは、イッパイアッテナが、ヌンチャク状にした如意棒を繰り出していく。
「オンアニチマリシエイソワカ」
 しおんは太陽の方から飛びかかる攻撃をしかけた。そこに、オウガメタルで身体を固めた大和の鋼の一撃が米将軍に加わる。
「そこだ!」
 翔の如意棒が更に突き刺さる。梵も続いて空の霊気を乗せた斬撃を与えた。
「茜、支援します」
 月の力を使ったかりんの癒しは、茜の攻撃力を底上げしていく。一方で、白の鋼鉄の強烈な打撃が米将軍を襲った。
「茜さん、今だよ!」
「ありがとうございます!」
 全てのおぜん立てをして貰った茜は、急所を狙う攻撃で米将軍に強烈な一撃を与えた。その攻撃を受けて、米将軍は羽根に姿を変え、消えていったのだった。

●戦いのその後に
 ミーミアがお疲れ様と、米粉で作ったパウンドケーキを皆に配る。戦った後に食べる甘い物は格別だ。お腹がぺこぺこになっている白と大食いな翔は更に貰って食べている様だ。そんな様子を見て、茜は微笑む。
「助けに来てくれてありがとね。定食屋にでも行きましょうか。お米が美味しい系のところ知ってますよ? 今、わたしも無性にお米が食べたいですし」
 あのお米の夢が頭から離れない。パンもお米もどちらも好きだけれど、今はお米が無性に食べたかった。……ちょっと米将軍の影響を受けてしまった所は否めないが、あれだけ布教されたら、お米が恋しくなっても仕方が無いだろう。
「うん、僕もお腹が空いちゃった……」
「いっぱい頑張ったから、ぼくもいっぽもお腹がぐうぐうです。みんなでご飯、食べに行きたいですよ!」
「良いですね。もっと食べたいって思っていた所です」
「わお! 共に戦った仲間とのご飯ですか。いいですね、お供するです」
 白、かりん、翔、梵も乗り気だ。他のメンバーも特に異論は無い。睦月やミーティアも賛成だ。
 ……とにかく、お米が食べたかった。
「じゃあ、皆さん、行きましょう?」
 茜の案内の元、お米が美味しいという定食屋に、戦いの打ち上げも兼ねて皆で向かったのだった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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