芋を持ってきて下さい。幸せにしてやりますよ。

作者:星垣えん

●ただ芋を焼くだけの機械
 秋晴れの日差しが降りそそぐ、山。
 木枯らしに枝を揺らす木々の中に、ぽつんとある物が捨て置かれていた。
 プリンター複合機みたいな大きな箱型ボディ。
 潔い四角形の筐体は重く、天板の蓋をひらけば内部にある空間が見える。
 一見しては何なのかわからない謎の物体――それは業務用の焼き芋機だった。だが芋がなければ火すらもないそれは、もはや焼き芋機と呼ぶのは憚られるただの箱である。
 耐用年数を過ぎ、故障して動かぬそれは、すべてを後進(?)に託してあとは朽ち果てるのと待つばかりだった。
『芋が焼けなきゃおしめぇよ』
 とか喋れたら喋ってるかもしんない。
 老兵は去るのみと言わんばかりに、歴戦の焼き芋機は沈黙のうちに消えようとしていた。
 ――だがまあお察しのとおり、そーゆーとこにダモさんは降りてくるわけで。
 風に乗ってひゅるーっと飛来した超小型ダモクレスは、そのまま着地するまでもなく焼き芋機の中にホールインワン。
 で。
「イィィーーシヤァァァーーーキイモォォォォーーー!!」
 一瞬で現役時代の輝きを取り戻していた。
 昔、路上でよく聞いたよーな旋律で歌いだした焼き芋機はダモクレスの力で超常的アップグレードを果たし、複合機サイズから大型冷蔵庫サイズに巨大化。
 そして当然のように、自力で熱のエネルギーも賄えるようになっていた。石焼き式のじんわりした遠赤外線で、庫内どころか周囲まで暖かくなるぐらいである。
「イシヤァァーーー!!」
 また芋が焼ける。
 ダモさんもとい焼き芋機さんは、喜びを咆哮に変えて天空へと放ちつづける。
 だが彼はまだ気づいていなかった。
 規格外のスペックを手に入れたはいいものの、肝心の焼くべき芋がないということに!

●ただ人々に幸せを与えるだけの機械
「なるほど、わかりましたよ」
「わかりましたか? ヴィルフレッドくん!」
 猟犬たちがフラフラーっとヘリポートにやってくると、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)に向かってマックスドヤ顔を作っていた。
 なんだか以前、見た気がしないでもない。
 そんなデジャヴを感じながら、猟犬たちは2人のやり取りを遠巻きに見守る。
「今日は芋が焼き放題なんだね!」
 しばらく無言になる猟犬たち。
 何を言っているんだこのラヴリィな男の子は。
 芋が焼き放題だなんてそんなピンポイントな催しがこの世にあるわけが――。
「そのとおりです!」
 あった!?
 ねむちゃんが両手に抱えた芋を掲げてるんだけど、ピンポイントな催しあったね!?
 ガチ驚きする猟犬たちへ、ねむはぐるっと振り向いた。
「というわけでみんなには山に向かってもらいます! ダモクレスの力で現役復帰した焼き芋機さんはいつ人々に被害をもたらすかわかりません……そうなる前にみんなの力でお芋を焼いてきてください!」
 大丈夫? 最近お仕事が大変なのかな、ねむちゃん?
 言ってることが明らかにおかしいよ? 文脈やばいよ?
 猟犬たちが覗かせた不安を機敏に察したのだろう、ヴィルフレッドはねむに代わって説明するべく(芋を片手に)近づいてきた。
「焼き芋機は電気を使わずとも自力で熱を生み、無限に芋を焼くことができるんだ。でも一番肝心な芋だけは生み出すことができない……そこで僕たちの出番というわけさ!」
 こいつもダメだった。
 こいつも焼き芋というコンテンツにすっかり洗脳されてやがった。
「もちろん芋は僕とねむさんで用意してあるから安心してほしい!」
「このお芋でじっくりわいわい楽しんできてくださいね!」
 芋が詰め込まれた箱をどかっと何個も持ってくるヴィルフレッドとねむ。2人で芋を用意したってことは最初のやりとりは小芝居ですねチクショウめ。
「敵は遠赤外線でじっくりほくほくと芋を焼き、しっとり甘く仕上げてくる強敵だ」
「おまけに攻撃範囲も広くて、一度に大量のお芋を焼けてしまいます!」
「僕たちも覚悟しなければ危ないというわけさ」
「でもみんななら焼き芋機になんて負けないって、ねむは信じてますよ!」
 背を向けてヘリオンに芋の箱を積みこみながら、なんか力強く言ってる2人。
 なるほど今日はそういう日だったか、と深く頷く一同。
 かくして、猟犬たちは秋らしく焼き芋を楽しむことになったのだった。


参加者
鉋原・ヒノト(焔廻・e00023)
狗上・士浪(天狼・e01564)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
ニコ・モートン(イルミネイト・e46175)

■リプレイ

●準備は万端
 寒風が吹きゆく、山の木立ち。
 そこに場違いな黄色い歓声が、響いていた。
「きゃー焼き芋機ー! こっち向いてー! ファンサしてー!」
「ステキー! お芋焼いてー幸せにして~!」
「ヤキイモォ!!」
 両手をぶんぶんと振るヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)とエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)に、巨大焼き芋機がゴキゲンの返事を送っている。
 まるでアイドルの出待ち。
「何やってんだあいつら……」
「人間って、嬉しすぎると壊れてしまうものなんですね」
 焼き芋というイベントに高まりすぎて正気を失っている2人の姿を、栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)とニコ・モートン(イルミネイト・e46175)は至って冷静な顔で見つめる。
「気持ちはわからないでもないけど……あれはないだろ」
「それはまあ、確かに」
 理弥の呆れた声音に、こくりと頷くニコ。
 そう、ヴィルフレッドたちの様子は明らかにおかしい。
 普通はもうちょっと抑えめのテンションで行くものである。
 静かに寒空を見上げる、狗上・士浪(天狼・e01564)と鉋原・ヒノト(焔廻・e00023)のように――。
「何か忘れてんだよなー、って思ったら。そーだよ、焼き芋だ。今年食ってなかった」
「それはいけないな。おいもはいーもの。俺の親友が何度もそう言ってた」
 空を見たまま言葉を交わす士浪とヒノト。
 間違いなく焼き芋のことしか考えていなかった。
「お、あの枝……芋みてえな形してやがる」
「本当だな」
 ただの枝を指差しながら不毛な話を続ける2人。
 その横で、ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)は小学生のように走り回っている。
「焼き芋ーっ! 焼き放題で! 食い放題ー!!」
 まるで天に吼えるように、忙しなく周回するラルバ。焼き芋というイベントにわくわくが止まらない15歳は紙袋と新聞紙を大量に抱えている。持ち帰る気満々すぎる。
 ニコは目深に被った帽子の下で、眼を細めた。
「どれだけ食べる気なんでしょう……」
「そりゃたくさんなんじゃ? 1度に100個焼けるんだろ」
「なるほど100個……はい??」
 理弥の言葉を聞いて、一瞬フリーズするニコ。
「イギリスに住んでた頃は殆ど芋が主食でしたが……その量は色々不安しか……」
「でもケルベロスって大食い多いからなぁ……」
 ニコに同感しつつも首肯はしない理弥。
 猟犬は大食いが多い。100個の焼き芋とて心許ないほどかもしれない。
 ダモさんのそばに立てたアウトドアテーブルに嬉々として芋を並べる、愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)とエヴァリーナを見て、理弥はそう思った。
「お芋で幸せになるためにいろんなお芋持ってきたよ。しっとり濃厚な安納芋にー紅はるかー。ほっくほくに焼ける紅あずまや鳴門金時もー」
「品種もそうですが、サイズと水分量も見極める必要がありますね! 投入順大事……!」
 芋の入った箱をひっくり返してくエヴァリーナの横で、じっと鑑定士のごとき眼光で芋芋しいテーブルを凝視するミライ。
 戦闘準備は、バッチリでした。

●ダンスっちまった
 バニラアイス、パン、お茶。
 テーブルの上に一直線に並ぶ装備を指差し確認して、士浪は頷いた。
「よし、抜かりねえ」
 豪快に拳を掌に打ちつける士浪。
 これからネームドに喧嘩を売りに行く――と言われても信じそうな気迫だ。むしろこれで焼き芋を食うとか言ったら詐欺である。
「おまえらは準備済んでんのか?」
「いや、今準備してるとこだ。寒いと手先がよく動かなくて困るぜ……」
「ダモクレスがいて本当によかったよな!」
「ありがとう。ありがとうダモさん……」
 テーブルの上に黒蜜やらきな粉やらを並べていたヒノトとラルバが指先をぐっぱっと開き、エヴァリーナもバターやクリームチーズを出しながらダモさんに感謝する。
 芋を焼くダモさんの熱で、ヒノトたちは暖を取っていた。真冬ではないがこの時期の山は冷える。芋を焼くだけでなく周りまで暖めてくれるダモさんに一同は感謝しきりであった。
「でも結構時間がかかってねぇか? もう5分ぐらい経ってると思うんだがよ……」
「んー何だかね。準備しても不思議なことにどんどん消えちゃうの」
 何の気なしに言った士浪の言葉に、持参したバニラアイスを食べながら答えるエヴァリーナ。
 ついでにクリームチーズも食べる。
 ぽいぽいと口に放りこむ。
「何でだろね??」
「「…………」」
 本気で首を傾げる無自覚女に、本気で沈黙する士浪とヒノトだった。
 その横を、手持ち無沙汰の理弥はぶらぶらと歩いている。
「どこも人手足りてるし、焼き上がるまで何すっかなー……って!?」
 ふとぐるりと周りを見回した理弥が、驚くべき光景に目を見開いた。
 なんと!
 テーブルやダモさんから少し離れたところでは!
「さあ! リズムに乗ってステップだ!」
「ダンスなら任せて下さい! これでもアイドルの端くれですから!」
 ヴィルフレッドとミライが、開けた空間を活用して踊り狂っていた。
 よく見たらモニターとゲーム機も用意されている。そのモニターに映るゲーム画面に従って、2人のダンサーはキレッキレの動きを繰り出していたのだ。
「ちょうどダンスフィットアドベンチャーを持ってきててよかったよ!」
「こうして楽しく時間を潰せて助かります! 付け合わせとかの準備を私がしてたら、つまみ食いで全てなくなってしまいそうですからね!」
 ドヤ顔をして下さるヴィルフレッドくんに、ぱちっとウインクするミライ。今まさにエヴァリーナとかいう人間吸引機がそれやってるんだけど、確かにそこに彼女もいたらどえれえことになっていただろう。マジ賢明な判断。
「だからって何で踊ってるんだよ……あれか? 踊り奉納するような神聖な行事なのか、焼き芋って?」
「ふふ、何故踊るのか? 良い質問だね」
 呆れてものも言えねえって感じの理弥に、ヴィルフレッドがフッと笑う。
「一つはお腹を空かせて芋のおいしさを倍以上にするため。そしてもう一つは自然とかそういうのに感謝する為さ、古事記の時代でもやってるよ」
 当然だよねと言わんばかりの顔だった。
「私の場合は……溢れ出る情熱を止められないから、でしょうか?」
「いやそんないい顔で言われてもな……」
 テレビで見かける著名人の密着ドキュメント番組みたいなこと言いだすミライに、流されずツッコむ理弥くん。芋待ちで踊ってる以上、完全に説得力はなかった。
「踊っているのでしたら、音楽でも合わせましょうか? 演奏ぐらいなら僕もできますよ」
「わお☆ ニコさんが参戦なのです♪」
「演奏だけですよ」
「ありがとうニコさん! それじゃアップテンポでお願いね!」
 ニコが杖を振ると魔法の鍵盤が現れ、ニコの指たちによって巧みに音が奏でられる。それで歯切れ良いギター音が飛び出すさまは不思議だったが、ともかく生演奏を得たヴィルフレッドたちはさらに踊りまくる。
「僕は別に太ったわけじゃない! 食べるのは成長期ゆえさ!」
「人類の歴史は、甘いものへの憧れの歴史だから――仕方ないのです! 食べすぎても!」
「何だか楽しそうだな……オレも、オレも踊ってみるかな!」
 2人に加わり、その間で踊り出すラルバ。リズムは危なっかしいが、持ち前の感覚で何とか踊りの形は保っている。
 ――が、そもそも山中で踊っているという形がおかしいわけで。
「傍から見たら俺達ってマジで謎の集団だよな……」
「他人のフリ……はできねぇわな」
 友達(ヴィルフレッドとラルバ)が踊り狂うさまを見て言葉もないヒノトの肩に、士浪はポンと手を添えてやりました。

●芋ォァ!
「ヤキイモォォ……!!」
「斬るわ! あなたが世界を滅ぼすと言うのなら――!」
 人々に害をなすダモクレスと相対して、ミライがその手に力をこめ、両断する。
 熱々に焼けた、芋を。
「まずは半分にして黄金色を堪能するのです☆」
「ミライちゃん、迫真の台詞だったねー」
「つい気合が入っちゃいました♪」
 牛乳片手にホクホクの焼き芋を頬張ったミライが、同じく焼き芋をがっつり口に入れてもぐもぐしてるエヴァリーナににこりと笑い、そして蕩ける。
「ああ、なんて甘くてほっくほく……皮ごと食べても美味しいです!」
「ねー。私はとりあえず皮剥いて食べるよ……あちちち」
 じっくりしっかり熱された芋を両手でジャグリングさせながら、ふーふー息吹いては柔らかな黄金を齧る2人。まるで糖を練ったかのような凄まじい甘味にその表情はどんどん、とろとろになってゆく。
 焼きたての芋に豪快に齧りついた士浪もまた、身震いして天を仰いだ。
「そうよ。これだ。これが醍醐味だ」
 言いながら、空いた手では別の焼き芋を取っている士浪。『食いまくるしかなかろうよ』と戦士の顔をしていた男は、その宣言どおりに焼き芋を食いまくっている。
『いいぜ。喰い尽くしてやる』
 って決め台詞がもう別物に見えてくるよ。うん。
 そんな感じで一心不乱に焼き芋と戦う士浪の横では、ちょこんと座りこんだ理弥が皮むきに苦戦していた。
「あつっあつっ……ウマッ!! 焼いただけなのにうまい!」
 露出した芋の身にかぶりついた理弥が、パァッと目を輝かせる。菓子などの作られた甘味が苦手な理弥にとって、焼き芋は数少ない食べられるスイーツである。なのでちょっと感動も一入だったりする。
「さすがダモクレス……でも品種によって色々違うんだなー」
「ねー。お芋の違いだけでも飽きない……全然足りないから次弾装填しないとっ」
「えっ、まだいっぱいあるけど……」
「なに言ってるの? 焼き芋は飲み物なんだから、100個なんて5分で消えちゃうよ」
「…………」
 きっぱりと言いきり、新たな芋を投入するべくダモさんに駆けてくエヴァリーナ。その背中を見て、理弥はやはり猟犬という存在の謎の胃袋強度に圧倒されるしかなかった。
 一方、ラルバやヒノトは結構和やかに、いわば普通に焼き芋を味わっている。
「こんなほっくほくに焼けるのか……きな粉もホイップクリームもすっげえ合うな!」
「黒蜜もおすすめだぜ。やっぱ焼き芋に黒蜜きなこは最高だ!」
「黒蜜……なあ、オレのとちょっと交換しないか?」
 口元にちょっと黒蜜をつけつつ、ファミリアロッドの『アカ』に芋を食わせてやっていたヒノトに、ラルバがおずおずと提案する。分けてもらった黒蜜のしっとりした甘さはホイップとはまた別物で、ドはまりしたラルバはたっぷりと黒蜜をかけてバクバクと食いまくった。
 そして、その隣にはやたら静かなヴィルフレッド。
「…………」
「ヴィルフレッド……少しは喋ったりしないのか?」
「?」
 振り返ったヴィルフレッドが、きょとんと首を傾げる。
 彼の手元には焼き芋を裏ごしして自作した栗きんとんがあった。丼みたいな器にたっぷりと詰め込んだそれを黙々とせかせかと食べる様子は、どこか小動物に似ている。
「ごめん。あまりに美味しいからさ……だって栗きんとん食べ放題なんだよ?」
「いやまあ……別に止める理由はないけどな」
「あ、じゃあ集中させてもらうね!」
「……」
 再び栗きんとんに注力するヴィルフレッド。黙するしかねえヒノト。
 一方、ニコは焼きたての芋にバターを乗せつつ、饒舌に語っていた。
「これはあくまでケルベロスとしての責務ですからね。ダモクレスのような危険な存在を人々に近づかせるわけにはいきません。ここでしっかりと僕らが止めておかないと……うん、バターが最高に合いますね」
 もぐもぐと口を動かしつつ、ほっこりと顔を綻ばせるニコ。帽子の鍔で巧みに表情を見えづらくしているが、絶対にこの時間を最大限に楽しんでいる。もう声がそうだもん。
 だがそれを咎められる仲間など、いやしない。
「わかるぜ。こいつぁ俺らがやるしかねえ仕事なんだ……」
 すり潰した焼き芋ペーストをパンに乗せ、さらにバニラアイスを乗せる士浪。
 それを彼は孤狼のごとき鋭い眼光で――あむっとかぶりついた!
「……こいつをやってみたかったんだ、俺ぁ……!」
「あ、何ですかそれ。少し僕にも食べさせてくれませんか? バターやチーズお分けしますので」
「仕方ねぇな。ほれ」
 満更でない顔で、焼き芋トーストを差し出す士浪。それと引き換えにバターとチーズを獲得すると、彼は荷物からバニラアイスとパンを取り出した。こいつ最高に堪能してやがる。
 だがもしかしたら、この場で最高に幸せを享受しているのは――女性陣かもしれません。
「アイスっていいよね。熱々お芋とひんやりアイスのマリアージュとか最高にぜいたくー」
「あおーん!! ヤキイモォォォォォォォォ!!!!」
 オォン、オォン、と咆哮を響かせるミライの隣で、エヴァリーナは焼き芋とバニラアイスを交互に食っている。そのペース、1個につき1個。
 焼き芋1個にカップアイス1個を消費しているエヴァリーナはどうかしている。
 そして脇目もふらず焼き芋をもぐもぐし続けているミライもやはり、どうかしすぎてアイドルとしてあるまじき叫びを放っている。
「2人とも、もう大食いタレントにでもなった方がいいんじゃ……」
 満腹になったお腹をさすって、圧倒されるしかない理弥くんだった。

●感謝感謝
 べっこべこに大破した巨大焼き芋機。
 その前に横一列に立ち並んで、ミライとエヴァリーナ、ラルバは合掌していた。
「安らかに眠って下さい……」
「ありがとう、ダモさん……」
「焼き芋機……惜しいヤツを亡くしたぜ……」
 ダモさんの安寧を祈る3人の両手には、パンパンに焼き芋が詰まった紙袋が抱えられている。
 たくさん焼けるっていうんでね、たくさん焼いてもらったんですよ。
 ちなみに紙袋はだいたいラルバが持ってきたやつ。
「やっぱり新聞紙と紙袋をいっぱい持ってきたのは正解だったな!」
「ああ、タッパー持ってきてたけど、やっぱり包めるほうがいいしな。ありがとな、ラルバ」
「俺もかなり譲ってもらっちまってよ。この恩は忘れねぇぜ」
「恩って大げさだな……いやまあ俺も感謝してるけど」
 焼き芋をがさがさと新聞紙でくるみつつ、口々に感謝するヒノト、士浪、理弥。新聞紙に包んだ焼き芋でいっぱいの紙袋というものは、覗きこむだけで胸が躍ってしまう。
「よし。僕の分とは別にねむさんの分も包んだし、そろそろ帰ろうか」
「そうだな。ダモクレス倒しちまったから、どんどん冷えてくるだろうし」
「いやー! 最高の1日だったな!!」
 2つの紙袋を抱えたヴィルフレッドが促すと、ヒノトとラルバがこくりと頷く。
 そうして美味しい土産を手にして、賑やかに下山を始める一同。
 ――それを後ろから眺めながら、ニコは両手に持った焼き芋袋に視線を落とした。
「またしばらく芋生活か……」
 年内には終わらせたいな。
 と呟いて、皆の後を追うニコだった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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