リゾートを目指して開発され、今では片田舎の島。
そこにある廃業したホテルから、無数の光があふれだした。
ただの光であればともかく、ネオンかと思うようなカラフルなその光は奇妙だ。
『グラビティ収集活動を開始』
もとはホテルのエントランスであった大きなガラス扉をビームで破壊し、ナニカが浮遊しながら飛び出てくる。そいつはホバリングを掛けつつ回転し、遊園地にあるメリーゴーランドやカップのように回転しつつ、周囲に光を放っていく。
『……グラビティ反応を発見』
そいつは周囲に誰も居ないので留まっていたが、やがて島の一つしかない町、そしてそのはるか向こうにある都会を目指して移動を始めた。
●
「高級リゾートにホテルは付き物ですが、リゾートと呼ぶにはすでにすたれてしまった場所には廃業したホテルが廃墟の様に存在しているとか。その一つで廃棄家電型ダモクレスが出現するようです」
「農村で見かけたシャンデリアが電気系で気になったのですが、やはり出現しましたね」
セリカ・リュミエールが余地の説明を始めると、いくつかの資料を提供した彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)は頷いた。
シャンデリアには昔ながらの火を使うアンティークもあるが、電気製品も存在する。
聞く限り廃墟化した場所の様で、何かのきかっけに壊れた物がダモクレス化したのだろう。
「このダモクレスはビームを放ち、回転しながら突撃してきます。浮遊してはいますが、飛ぶというほどではないので普通に白兵戦を挑むことが可能です」
「その辺はいつも通りかな? ということはミサイルか炎とかありそうだよねー」
「電気系って話だし、炎はないんじゃない? どちらかといえばミサイルの方がありそう。後は……ガトリングとか?」
セリカの説明にケルベロス達が感想を述べる。
元になった機械はあくまで参考であり、ダモクレスが良く使うグラビティがある可能性が高いのだ。もちろん変異によて妙な武装を所持していることもあるが。
「せっかくの島なのに泳げない季節で残念ですが、被害が出ないうちに何とかいたしましょう」
「そうですね。でも海の幸も美味しいでしょうし、退治した後で寄ってみるのお良いかもしれませんね」
紫の言葉にセリカは頷いて、出発の準備にヘリオンへ向かうのであった。
参加者 | |
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バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462) |
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306) |
リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939) |
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290) |
ブレア・ルナメール(魔術師見習い・e67443) |
アルセリナ・エミロル(ネクロシーカー・e67444) |
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433) |
ローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434) |
●
普通の港から島に上陸した時、見えたのは豪奢なホテルだった。
船で直接上陸できるプチ港もあったそうだが、今では使用されていない。
「怪しい場所だとは思ったのですけれど……」
道路沿いに正門へ向かいながら、彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)が呟いた。
道は木製のガードレールで覆われ、屋根付きのベンチもありちょっとした散歩コースになっている。
「なるほど。ここでまたダモクレスの連中が暴れてるのね。懲りない連中ね……」
「まさか本当に現れるとは、これは私も責任持って退治しに行きませんとね」
ホテルは白を基調として所々に緑の紋様が入っているが、アルセリナ・エミロル(ネクロシーカー・e67444)はその紋様が歪んでいるのに気が付いた。
紫が向かう姿は聖堂への巡礼を思わせるが、近づくにつれ異様な姿が明らかになる。
まず緑は紋様ではなく、蔦などが入り込んだり中から生えているのだ!
「……シャンデリア、キレイだけど、廃棄されること、あるんだね……って?」
「高級リゾートホテルが廃墟になったようですよ」
リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939)が思わず首を傾げると、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が説明してくれる。
日本全土でリゾート計画が急増し、この島でも計画が立ち上がったものの……今では誰も利用していないのだ。
「リゾート開発の一環で放棄されたものがダモクレス化というのはなんだか悲しいものですね。しかも壊れていれば、その全てに可能性があるというのがなんとも」
「え? ホテルごと? ブームには、逆らえないのー」
ブレア・ルナメール(魔術師見習い・e67443)が視線を伸ばすと、インターフォンが壊れランプの類も半分ほどが壊れていた。
その様子にリィナは驚いてしまう。
「まぁ、人が集まらないとそういう事もあり得ますしね。ともあれ、今はダモクレスの撃破に集中しましょう」
「そうですね。せめて……速やかに眠りについていただければ」
ホテルのエントランスで音がすると、バジルはそちらに意識を向ける。
ブレアもそれに気が付いたが、ダモクレスが扉を割って出て来たようだ。
四方八方に小さなランプ、中央へ向けて大きなランプが城のような階層仕立てで存在している。
それらは昼間にも関わらず綺羅びやかな色彩を放っていた。
「なるほど、これが廃家電を利用したダモクレスの収集装置ですか」
ローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434)は思わず兜の庇を下ろした。
その輝きが目に入ったからだが、ネオンやスポットライトのように強烈だ。
「いやしかし妙に派手ですね。これは中々目に悪い」
「……シャンデリアにも色々あるのは理解するが、少なくともこれは、俺の趣味には合わんな」
ローゼスの意見に宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)も同意する。
光の色彩はド派手でシャンデリア自体もキンキラキン、よく言って遊園地の演出、悪ければ繁華街の客引きだ。
「ジャラジャラ派手なのが最高に腹立つわ。さっさと潰して帰るわよ」
アルセリナはそう言ってさっさと自分の配置を確かめ始めた。
エントランス周辺を視界に入れ、直線距離に仲間を挟んで攻められない位置を選ぶ。
「単純な討伐任務ではあるが、終わるまでは気は抜けんな。誰かいるか?」
「……さっきから確認しているけど、居ない」
双牙は同じような位置に立つオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が周囲を見ていたので確認してみた。
確かに彼女はキョロキョロしていた、しかしながら本質的に意味は違う。
(「きゅ、急に声かけられて驚きました~」)
交流の苦手なオルティアは、触られたりしないように周囲を伺っていたのでした。
『障害を発見。排除』
「来たか! 失せよダモクレス! 廃物に還るがいい!!」
敵もこちらに向かってきたようで、ローゼスはハンマーを抱えて遠巻きに動き始めた。
●
ダモクレスはこちらを確認すると、光の及ぶ範囲が広がり始める。
その姿はまさしく虹が伸びていくかのよう。
「少し間がありますね。防壁を立てておきましょうか」
バジルは自分の方が少し早いと気が付いて、結界を築くべく鎖を解いていた。
鉄の輪が周囲を漂いながらグラビティで干渉し合って、星座のように互いを連結する。
「この島は自然と共にある方が正しいのかもしれません。全てのものに恵みあれ、自然の怒りは抑える事が出来ませんわよ!」
紫が掌に光を灯すと、それを受けた蔦がホテルの周囲から伸びていく。
ダモクレスも薙ぎ払うのだが、数の面でも方位という意味でも逃げ場はない。
「まだ間に合うか? 作ったやつには悪いが……躊躇なく叩き壊せそうだ」
双牙は軍靴を慣らして高速で踏み込むと、鋭い蹴りを放って動きを止めようとする。
だがダモクレスはビームを放って反撃。
『反撃開始』
「……任せた」
双牙へ、いや前衛全体へと迫る虹色の殺人光線。
そこへ後方から盾役の仲間たちが、駆けつけてくるのが判った。
「お任せねー」
リィナは周囲に流体金属を展開しながら入れ替わった。
メタリックな輝きが、虹色の光線を反射していく。
「……まだ抜けてきますね。イエロは回復のサポートを」
ブレアはテレビウムのイエロに指示を出しつつ、抜けてくる光線を我が身で防いだ。
「そのままアケディアと一緒に抑えてなさい。動き止めるわよ」
「了解です、お師匠様」
ビームの影響圏外からアルセリナが一気に飛び掛かり、蹴りと共にグラビティで圧力を掛ける。
ブレアは箱竜のアケディアと共に攻撃を抑え続け、光の陰から影の弾丸を撃ち込んだ。
「っ外した?」
「問題ありません。奇妙に見えようとも打ち据えればいつかは砕ける。道理です」
オルティアがライフルより放った光線は外れたが、ローゼスの撃ち込んだ号砲が直撃してダモクレスを震わせる。
「確かに。……耐久よりの布陣だから、長引けば長引いただけ弱化も異常もより効いてくる、はず」
オルティアは攻撃が外れたことを残念に思いつつも、今回は巨大ダモクレスとの戦いではないので時間制限がない。
長引かせていけば味方の援護もあり普通に当てることもできる。
戦いはダモクレス有利に見えるが、光明はケルベロスの元にあった。
●
戦いが続く中で起きた大きな変化は、やはり攻撃が当たる様になったことだろう。
最初の数分では大きな変化は無かったが、時間が過ぎたことで目に見えて変わった。
そしてもう一つ……。
「急げばまだ間に合う!」
「はぁ~い」
双牙が獣化した拳で殴りつけている間に、リィナが棍を伸ばして間に合わせた。
だがそれで終わるわけではない。
「アルセリナちゃん。パスー」
リィナが長く伸ばした棍でスイングすると、ダモクレスの位置がずれる。
「来なさい。次へ回してあげるから」
そのことでアルセリナの攻撃が間に合うと同時に、振り下ろした斧が地面に叩きつけたのだ。
「いけますね。レオガルデさんもご一緒に」
「了解」
こうなるとブレアも何とか間に合い、オルティア達が攻撃を掛ける隙を作ってくれる。
死角から迫るナイフがシャンデリアを切り裂いてバランスを崩し、そこを一生懸命殴打した。
「好機! ぬおおお!」
そこへランスを構えたローゼスが突進し、なんとケルベロス達全員が先に攻撃することに成功した。
だがそれはそれで、ダモクレスが落ちたわけではない。
切り裂かれたランプをグラビティで制御、ミサイルとして飛ばしてくる!
『ターゲット、ロックオン』
遊園地の出し物であれば楽しいが、これが高速で移動しながら爆発するとあっては放置できまい。
「恐るべき精度です。ですが」
「ここで止めてしまえば……問題ないのー」
誘導弾を回避することは難しい。
だがブレアとリィナは自ら衝突コースに割って入り、サーヴァントたちと共に壁を築いた。
ダメージを負いはするがその傷も癒されていく。
「大丈夫ですか、すぐに治しますので、じっとしていて下さいね」
バジルの降らせた恵みの雨が傷を塞いでいく。
受けた負荷も少ないこともあり、たちまちケルベロス達は戦線を立て直した。
「古代語の魔法よ、敵を石化させる光を放ちなさい!」
この隙に紫の魔力がダモクレスを捉え、ますます相手の動きを鈍くするのであった。
戦いは続くが、既に戦いの天秤は傾いている。
●
「疑似に無想へ手を伸ばし、さては夢想と留まれど。今や無装を知る身にて、いざや無双へ踏み出さん。――もはや手遅れと、知れ!」
オルティアは目はなく感知魔術を先鋭化し、相手が入り込んだ瞬間にバールを叩きつけた。
その動きは無念無想を目指し、叩きつけるというよりは相手の回避先に置いているという攻撃。
それは無業の位、無明の手前、いつか無双へと至る道であろう。
「死にたくなくばそこをのけ!」
「ひゃっ」
ローゼスが猛烈な勢いで突進し、思わずオルティアは飛びのいた。ランスは当たるを幸いに闘気を爆裂する。
『ロックオン』
「アケディア!」
「イエロ!」
再び放たれる虹色光線。
これを凌げば勝てるかところで、砲撃が食い止められない。
サーヴァントを含めた盾役たちとて、100%とはいかないのだ。
「んーと……。回復した方がいいかなぁ?」
「そろそろ終わりそうですし、大丈夫ですよ。攻撃してください」
リィナが念のために確認すると、バジルは自分一人で十分だと告げた。
「もうちょっとだけコレで勘弁してくださいね」
「十分に助かりましたわ。このナイフをご覧なさい、貴方のトラウマを想起させてあげますわ!」
バジルはビームが直撃してしまった紫の傷を、自分の手だけで治した。
見たところダモクレスはあと少し。終わってから本格的な治療をするという気だろう。
その間に紫が掲げたナイフが、敵の姿を映してダモクレスに最後の時を突き付ける。
「何処が胴だか頭だか解りづらいが、……ともかく抱えて叩きつければ、何処かは壊れよう」
双牙はシャンデリアの支柱に当たる部分を捕まえると、肩に担いで地獄の炎を押し付ける。
だがそれはただの序章に過ぎない。
「天に捧げしこの一撃。……粗悪品は、砕け散るのみ。――ソードスミス・ハンマー……!」
双牙は相手が浮遊していることを良いことに、抱え上げたまま強引に助走し地面に叩きつけた。
これは我が身を鉄槌に地面を金床として叩きつける一撃である。
「ようやく……終わりなのー」
リィナの伸ばした棍が、浮かぼうとしたダモクレスに叩きつけられる。
それがトドメになって戦いは終了した。
「……今まで、お疲れ様、なの」
「それではヒールして撤収と行きましょうか」
リィナが目を瞑って祈りを捧げると、紫たちはさっそく修復作業に入った。
「手分けするとして、どこまで直したものやら」
「元もと壊れてますしね。ダモクレスが出ない程度に直しておきましょう」
バジルとブレアは苦笑し合う。
何しろここはホテルそのものが廃墟だ。
「悪趣味な物ばかりだが……中には精魂込められている物もあったろうに。残念なことだ」
「その辺は仕方がないでしょう。どれ、ひとっ走りして怪しい物はこの辺に並べておきます」
双牙がダモクレスの残骸を移動させると、ローゼスはホテルの中に入っていく。
ついでにヒールしておけば安心だ。
「流石にこんな場所は早々ないんじゃない?」
「調べたけど、全国に同じようなの沢山」
アルセリナの言葉にオルティアが端的に答える。
彼女は日本の美味しい食事を調べたついでに検索したところ、何百とあるらしい。
調べれば似たような場所で起きたデウスエクス事件もあるのではないだろうか。
「ともあれこんなところでしょう。せっかくですし島の海の幸を頂きたいですね」
「この時期はどんな海の幸が美味しいでしょうかね?」
修復が終わったろところで紫が切り上げ、バジルたちは廃ホテルを後にする。
「……気楽に食えるのは鍋だろう。一人でつついても良いし、皆でも良い。……欲しい物があれば追加もできる」
「追加というと、鍋の具材以外もですか? それは面白そうですね」
双牙が口を開くとバジルが頷いた。
「良いかもしれませんね。生が気になる人もいるでしょうし。お店でしたらこの地域を調べた時に、確認していますわ。もっともあまりないのですけれど」
「もしよろしければ私もご一緒したいのですが、いかがしょうか?」
旬の魚介類以外にも臭い消しに入れるハーブ類などの食材を試せるし、何より生ではないので食べ易い。
紫が先導するとローゼスが騎士のように同道を申し出た。
(「生……ちょっとびっくりはしたけど、美味しいのなら問題ない、食べに行こう。お店がないなら仕方ない、よね」)
オルティアは生食という文化あることを調べていた。
物によっては数秒だけ煮るとかあるそうで、なんだかすごそうである。
みんなと一緒というのもビクビクするが、店が少ないなら仕方ない。というか探さなくて良いのも聞くのが苦手なのでありがたい。
「お師匠様。鍋でよろしいですか?」
「あまり外で食事をとるなんてこと自体が珍しいしいものね。アタシは食が細いからブレア、アンタが食べると良いわ。せっかくだからアタシもいただくけど鍋ってのも良いかもね」
ブレアとしてもあまり食べたことのない魚介類にチャレンジするのも良い機会だ。
アルセリナの他にリィナも誘いたかったので丁度良い。
「うーん……魚介系……あまり、詳しくないけど、どうせなら、贅沢な、丼が、食べたいなぁ」
「追加で頼めばよいじゃない。これから長い付き合いになるしよろしく頼むわね」
リィナはアルセリナの言葉を聞いて顔を輝かせた。
「二人にも、分けてあげるっ! どうせなら、いろんなもの、いっぱい、食べよーっ」
(「っ!? 同じ食事を分け合うという文化が!? ……くっ。うらやましいです」)
その言葉を聞いてオルティアはとても羨ましそうな顔を、なんとか隠すことに成功した。
だってしょうがないじゃない。
道々ついていくと、市場で沢山の魚介類が並んでいる。
そう、お店や市場の隣にあるので新鮮で豊富なのだ。
「……んん、んっ……。……何から食べるか、とても迷う」
「そういう時は、店員さんにオススメを聞くと良いそうですよ」
「飲み物聞くなら女の子だけど、食べ物は男の人ね」
オルティアが咳払いしながら店先にメニューだけで悩んでいると、ブレアがアルセリナの忠告に従いウェイターを呼んで説明を始める。
「ううむ比較的マシにはしてみましたが、入店できるでしょうか」
「……気にするな。今更だ」
ローゼスは武装を解除しケルベロスコートを羽織ったが、ケルベロスというだけでゴツイ人が多い。
双牙に促されて着席するも、ワインはなさそうだなあと残念そうなのが、皆の笑顔を誘うのであった。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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