ダモクレスの火炎放射器が服を狙う!

作者:大丁

 オフィスビルが立ち並ぶビジネス街は、日中にこそスーツを着た人々が行きかう。いわゆる外回りの時間だ。
 その様を見下ろす、とあるビルに亀裂が走った。3階の高さから下へ、建材が剥がれ落ちていく。
 7mもの身長をもつ、人のカタチをしたものが、壁の裂け目を広げて、出てこようとしていた。
 風貌は、金属製の骸骨といった趣き。
 仔細に観察できれば、肋骨にあたるフレームの内側、人間なら両肺の位置に、左右一本ずつのシリンダータンクが備わっているのがわかるだろう。
 そこから伸びたチューブが、両上腕を形成し、前腕は先にいくほど細くなる筒状で、手指はない。
 まさにその先端から、引火された噴流が起こった。眼下のビジネスマンにむけて、ゴォッと炎を浴びせる。
 巨大ロボ型火炎放射器ダモクレスだ。
 だが、すぐには焼き殺さない。火炎放射器であぶられると、街の人々の服だけが、燃えてしまうのだ。

 室内にもかかわらず、レインコート着用で軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)が、高校の制服で来た高千穂・ましろ(白の魔法少女・e37948)を紹介した。
「ましろちゃんの調査により、今から街中にダモクレスが出現する予知が得られたのぉ」
「ヘリオンで、すぐに出発するそうですから、みなさん協力をお願いしますっ」
 このダモクレスは、封印から復活したばかりなので、グラビティ・チェインが枯渇しており、人間の殺戮によって補給をはかろうとする。
 さらに、出現後7分たつと、魔空回廊が開いて撤退してしまう。逃がせば、撃破は不可能。敵兵力は増強されるだろう。
 敵の出現場所とタイミングが判明しているうえに、それらが変更される可能性は低い。現場の封鎖は済ませてある。
 そこまで説明が進んだところで、ましろは、はたとヘリオライダーの顔をみた。
「あの、冬美さんっ。練習に、私の服を焼いたりしないですよねっ?」
「しない、しない♪」
 レインコートのフードが左右にふられると、武器の実物ではなく、プロジェクターからの画像が提示された。
「ダモクレスの両腕は、ご覧の火炎放射器。人間用だと背負って使う、圧縮空気と可燃燃料のタンクは、胸部に内蔵してるの」
 同型だが、サイズはかなり大きい。
「効果はネクロオーブの『クリスタルファイア』に似てるかな。焙られると、服だけ燃えカスになっちゃうよ。気をつけてねぇ。1度だけ、フルパワー攻撃もできるから、ダモクレス自身も傷つく覚悟で使ってくるかも」
 通常は遠距離の単体魔法、フルパワーでは遠距離の列魔法だ。どのみち、服破りしてくるという。
「服を燃やしてブッ潰す、そんな覚悟が必要よぅ。レッツゴー! ケルベロス!」
「この制服が燃やされると、明日の学校に着ていくものが無くなってしまいますっ」


参加者
ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
高千穂・ましろ(白の魔法少女・e37948)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)
皇・露(スーパーヒロイン・e62807)
レイファ・ラース(シャドウエルフの螺旋忍者・e66524)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)

■リプレイ

●防御を破る
 ビルからの落下物を避けて、無人のライドキャリバーが蛇行する。機理原・真理(フォートレスガール・e08508)の、プライド・ワンだ。
 車体を熱し、出現した火炎ロボの足首を駆け上がる。
「先に、燃やしてズタズタにするですよ」
 真理は剣の動力をふかす。
 7分以内に、鉄の骸骨を葬らねばならない。マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)は、初手から『焼霧嵐舞陣(アシッドストーム・ピンク)』を撒きながら、ゴスロリ服をたなびかせた。
 強酸性の霧は効くはずだ。
「避難誘導が必要ないのは助かる」
 殺界と同範囲が封鎖されている。ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)も気兼ねなく、制服上の装甲を輝かせる。
 ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)は、ダモクレス自体に興味があった。放射器の腕を鎖で縛ってみる。皇・露(スーパーヒロイン・e62807)もレプリカント、この敵を放ってはおけない。『破纏撃(ハテンゲキ)』を纏った尻で突撃する。
「熱い、熱いですわ!」
 鎖の拘束はすり抜けられて、ヒロインコスに引火した。マントの囮も効果ナシ。柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)は、喜びを隠した驚きの声をあげる。
「ちゃんと服だけ焼けてるぜ!」
 露は、敵の頭を飛び越えて、ビルのまだ残っているフロアに着地し、パンパンと手で尻を払っている。ユーリエルが、鎖を眺めながら清春に助言した。
「使うなら、速さより力です」
「ありがとさん。じゃあ、オレも敵の後ろに回り込むもんね」
 バールを手にし、しかし露の破れた尻の後ろに回り込む気なのは秘密だ。
(「あー、このダモクレス、壊すのがもったいねぇ」)
 狙いが正確なのは、ベルローズから受けたオウガ粒子が効いている。
 あと一人の後衛、高千穂・ましろ(白の魔法少女・e37948)は、怒りの光魔法をステッキから撃ち込む。
「絶対に撃破しますからねっ!」
 その姿は学校の制服から変身させたものだ。
「こんな機械が量産されたら、私が着る服がなくなってしまうじゃないですかっ!」
 同じく制服の、レイファ・ラース(シャドウエルフの螺旋忍者・e66524)も、魔法の杖を構え、投げる。狙うは、肋骨状のフレーム。
 すでに削れた部材を、ファミリアがジグザグにかじりまわる。
 ケルベロスたちは、戦闘の序盤から、敵の防御を剥ぐことには成功していた。

●フル攻撃
 露は、戦術超鋼拳を発動し、からだをメタルに覆った。別に、清春にコスの燃えたところを眺められていたからではない。
 ロボの肩甲骨あたりを、殴ってやれば、肋骨フレームの何本かが脱落する。
 もう一度、ユーリエルは鎖、内装されたチェーンアームを、ダモクレスに飛ばした。
 残った肋骨に絡んだところを引っ張り、自身の身体のほうを寄せて宙に浮く。逆の腕が、スパイラルアームに変形した。
「燃料の爆発に注意、でしょうか」
 ドリル刃がフレームの隙間を抜け、圧縮空気タンクに届く。
 穿った穴からしかし、噴出した冷気をあびてユーリエルはバランスを失い、いまだ使用可能な炎をくぐった。
 着衣は燃えてしまったが、彼女もまた、オウガメタルと共生している。下着状に変形して要所にあたった。
 巨大ロボのドクロのような眼窩は、果敢に挑んでくるケルベロスたちを、うっとうしげに追う。
 チェーンソー剣を眉間にあてられ、落下しながら離れていく真理を、火炎ロボは放射ノズルで捉えた。
 覚悟のうえの真理だったが、マルレーネが、間に入ってくる。
「真理の素肌は私が守る」
「マリー!」
 迫りくる炎。真理にだけは、『マリー』の愛称で呼ばれるマルレーネの、黒のレースが、炭化して散っていく。
 全裸に晒されるのを止められない。真理は、前からギュッと抱きついて、隠すようにする。
 自分の片膝を、相手の脚のあいだに割り入れて、腿でマルレーネの股間を持ち上げてやれば、見られる箇所はどこにもない。
 中衛のレイファは、戦況を鑑みて敵への損害を調整している。炎にかすめられはしたが、燃え落ちるまえの制服をみずから脱ぎ捨てた。
 スリングショット風のボンテージ姿になる。
「この程度、何の事はありません」
 自分の格好は鑑みていないようだった。
 見えそうで見えない、ケルベロス女子勢のなか。
「オレ得で間違いねえよなぁ……おっと」
 清春もただ、眼福に預かっていたわけではない。フルパワー攻撃を察知する。
「ましろちゃん、ベルローズちゃん。気をつけてぇ!」
 後衛全体への火炎は、清春も巻き込んだ。
「つーか誰得だよ。たいしたことなかったぜ」
 フェイクファー付きの襟をピンとただすと、ジーンズがボロけて収めに治めてきたモノが、ピンとヘソまで反り返る。
 清春自身にむけ、ベルローズが日傘をかざした。
「隠しなさいな」
 自分の視線を遮る動作だったが、フルパワー火炎に制服を燃やされた半裸を、ごまかしてもいる。
 その、わずかな時間を止めたかのような超感覚で、清春は記憶する。
「今日の下着はピンク……」
 もとはといえば、ベルローズのメタル効果である。
「知りません」
 ハジケ出たままの清春を、ましろも目に焼き付けてしまう。だが、もっと気がかりなのは、眼前にせまる炎を、真理のフィルムスーツが受止めてくれたことだ。
 プラスチック被膜が、熱でちぢみあがる。背中があらわになって、もっと下へと降りていくが、マルレーネと抱きあったままだから、ほとんどは見えていない。
 ただ、尻たぶだけは丸出しで、本人よりも恋人が、無表情を崩して眉根を寄せた。
 真理の盾役への使命感のあらわれだとは理解している。マルレーネは、少しでも隠そうと、両掌を広げて尻肉を覆った。
「あふ……」
 喘ぎは、複数人の装備から鳴ったアラームに被せられた。ここで5分経過だ。
 フルパワーを使ってしまったダモクレスは、左腕をだらりと下げ、右の筒先も歪んでいる。もう一押しと、ケルベロスたちは、攻撃に傾けた。

●残ったもの
 回復役だったベルローズも、死霊魔法の詠唱に入る。
「怨嗟に縛られし嘆きの御霊達よ。ここに集いて……」
 瓦礫の隙間から、黒い手が染みだしてきた。みるみる数を増やし、ダモクレスの下半身を、闇色の綱で地面に縛り付けている。
 露からのトドメは当然、メタルで覆わず生尻を大きく開いたヒップアタック。
 火炎放射ダモクレスは、後ろに倒れた。半壊したビルに背を預けるようにして腰を落とし、四肢を投げだして停止した。
 ロボの左前腕から、湯気がもうもうと昇っている。より正確には、円筒の上に立って勝ち誇る、レイファの足元からだ。
 スリングショットの焼き切れた全裸でも、水蒸気には隠される。
(「あっつい! けど、イイッ!」)
 ジョバジョバと漏れる小水が、蒸発していたのだった。そのまま、隠密気流のかなたに姿を消す。
 ましろは、ススけたようでも制服を再構成し、真理にはマルレーネが大急ぎで着替えをさせ、別のゴスロリ服を身に着けたところ。
 この4人に露は、自分が片付けをうけおうからと先に帰るよう促す。戦闘服とは別に下着を用意していて、とっておいた普段着とあわせて、身支度はすませている。
 ベルローズも、植え込みから引っ張り出したコートを羽織ったところだ。
 出遅れつつも、清春は服を直し、唯一オウガメタルを纏っただけのユーリエルに、駆け寄った。
 彼女は、ダモクレスの顔を見上げていた。
「酷いことするヤツだったよね……あ、女の子がいつまでも肌を晒してちゃダメだよ」
 ヒールでもかける動作で、メタルの隙間からはみ出たナニカを探している。
「チップパーツの探索開始。……助力をいただけるなら、そちらをお願いします」
「え? ああ、もちろん」
 いろんな角度から覗けるかもだし、服だけ燃やすメカを飼えるかもだし。
「露もお手伝いしますわ」
 元ダモクレスとして、倒した後のスクラップであっても、たずねたいことはあった。

●ビジネス街に戻る
 ビルが背中合わせになったような路地裏で、真理とマルレーネのふたりは、せっかく着た服を脱ぎ捨てて、戦闘中にもそうしていたように、ハダカで抱き合っていた。
 互いの腿が、相手の秘部を刺激して、べとべとになるまで液体を溢れさせている。
「マリー、今日はありがとうです。……大好きですよ」
「すき……むちゅ」
 舌も絡ませ合うキスに。
 敵と人目がなければ、もっと早くこうしていただろう。
 表通りにうなだれる、巨大な頭部から順番に、ユーリエルたちは調査していた。終わったところからヒールをかけて、ビルを修復していく。
 ベルローズは、ここでもメタリックバーストを放った。上からコートを羽織っていたせいで、光る粒子がその内側から湧きだす。
 フワっと、裾がまくれて、中身の肌がふたたび外気に触れる。
「……まあ」
 性懲りもなく清春が抜け目ない。
「怨嗟に縛られし嘆きの……」
「だー、真面目にチップを探すから、どけてくれぇ!」
 黒い手が清春の顔を絞めつけていた。痛い。
 露の疑問、一体なんの目的で服だけ焼いていたのかは、この残骸からは、わからなかった。自分の記憶の手がかりも。
 ユーリエルは、付近が元通りなのを確認する。
「捜索終了。敵ダモクレスのデータチップ回収不能……お手伝いありがとうごさいました。さて、帰投しましょう」
 頭をさげたあと、裸オウガメタルで歩道を行こうとする。
「いやいや、だからさぁ。ユーリエルちゃん、女の子がそんな恰好……」
 引き留める清春の腕を、露もまた掴んだ。
「でしたら、この戦闘服を直していただけませんこと?」
 上半身しか残っていないワンピース水着を、ヒラヒラさせていた。
 そんな恰好なのは、レイファである。ひとり、裸身に気流だけをまといながら、ビジネス街をとぼとぼと歩いていた。
「服の購入は無理そうなのが問題ですねぇ……」
 人はかえってきている。現場を離れるときから殺界は解除していたし、事件解決の連絡を仲間たちがしたのだろう。
 思い起こされるのは、戦闘中に抱き合う、あの二人。微笑ましくもあり、妬けるところもある。
 などと、悶々としながらレイファは、仕事に戻るサラリーマンたちの波を逆行していると、ハッとするような美人を見つけた。
 隠密の風が静まってしまう。
 一瞬だけの公然猥褻に、美人は確かに反応した。
 立ち止まり、周囲を探している。なにかに期待する目で。
 レイファの心にも、明かりが灯ったようであった。今度は、ビルの陰から、意識的に見せた。女性は、近づいてくる。
「外って、最高……♪」
 今は燃え上がっている。
 路地裏に、誘惑された男もいた。いまさら会社には行きたくなくて、隠れて一息いれるつもりだったのだ。
 そして、ましろと出くわした。
「うわ、た、大変だ!」
 ススけただけに思えた制服は、下着もろともチリになってしまった。
「近寄らないでくださいっ」
 火炎をふく機械とハダカになる覚悟で戦っておきながら、目の前の男性に足をすくませているのは、なぜだろう。
「会社なんか、この際どうでもいい。なあ、お互いに助けあおうぜ……」
 ネクタイを緩めて、チャックも下ろした。
 欠勤の口実と、さらにはましろを抱こうという、男の側しか助けにならない提案だ。
 それを受け入れたわけではないが、出された男を奥まで受け入れてしまい、絶頂までむかえてしまった。
 アスファルトに、捨てられたように横たわる、ましろの全裸。股間からは、白いものが少し、こぼれている。
「無理しないで、清春さんに助けてもらえば良かったのでしょうか……」
 顔ではなく、イチモツの反り返りが浮かんでいた。
 最後の制服も燃えてしまった。街中を、ハダカで帰らなければならないなら、いっそ明日もそれで登校してしまおうか……。
 妄想は、バサッとコートを掛けられて、中断された。さっきのサラリーマンだった。
「一回ちゃんと出社したんだ。外回りの申請して社用車も借りてきたから、乗って!」
「は、はいっ」
 なぜか、元気に返事できた。
 ましろは、明日の学校のことはさておくとして、コートに袖を通した。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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