涙なしでは語れねえんだ

作者:星垣えん

●何という恐怖
 深夜。
 ひとけもなく静まり返った大学の講堂に、怪しい連中が蠢いていた。
「先生ー!」
「待ってました先生ー!!」
「今日も……今日もありがたい御講義、お願いしますー!!」
「ふふ、どうも。どうも」
 謎のスポットライトが当てられた講壇へ向けて、最前列の座席に座った女たちが歓声を飛ばしている。その声を受けて優雅に手を振るのは――鳥だ。
 鳥面のいつもの奴ことビルシャナさんは、女たちを静めると、堂内に言葉を響かせた。
「私は訴えたい…………結婚は! 墓場であると!」
「きゃああーー!! 先生ーー!!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
 力強い鳥さんの宣言に、座席から立ち上がる女たち。
 ある者は溢れんばかりの涙を流し、ある者は幾度も幾度も頭を下げる。せいぜい10名程度で座席1列も埋まらない人数だというのに、講堂は彼女らの凄まじい入れこみ具合のおかげで超満員かのような熱気を帯びていた。
「伴侶を得たところで真の幸福は得られない、いえむしろ不幸の始まりなの! だって時間もお金も自由でなくなるし、プライベートもなくなるのよ! おちおち二次元メンズとの画面越しの恋もできなくなるのよ!」
「そ、そんなのひどい! ひどすぎる!」
「デメリットしか……結婚なんてデメリットしかないじゃない!」
「そうなの! 入籍したらもう逃れられない地獄に落ちたも同然なのよ!」
 口々に悲嘆する女信者たちに向けて、講壇から吼える独身教祖。
 大きな手羽をバサッとひろげると、彼女は全世界へ語るかのように天上へ叫んだ。
「独り身は!! 最高なのぉぉーーー!!!!」
「うおお! 独り身最高ぉー!!」
「ワンマンライフ最高ぉぉぉぉぉ!!!」
 最高、最高、と傍から見て恐ろしくなるほどに熱狂する女たち。
 その目から大粒の涙が落ちつづけているところが、また何とも恐怖を抱かせるのであった。

●ようし、いつものこじらせ系だ!
「まったく困った人たちですわ。ね? ザイフリート様?」
「落ち着け淡雪。それはヘリオンだ」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)から連絡を受けてヘリポートに来てみれば、琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)がヘリオンに向かって笑顔で話していた。
 それが、猟犬たちが見た悲しい光景である。
 いくら強く肩を揺すっても淡雪は現実に帰ってこない。なので王子は彼女を助けることを諦めて、おとなしく猟犬たちに説明を始めた。
 いわく深夜の大学講堂にて、ビルシャナが信者に教えを説いているらしい。
 放置しておけば勢力を拡大してしまうので、すぐにこれを排除してきてほしい。
 要約すればそんな感じの依頼だった。
「ビルシャナには10人もの女たちが従っているが、完全に配下となったわけではない。
 奴の教義の逆、つまりは結婚がもたらす幸せについて迫真のインパクトで語ってやれば目を覚ますはずだ。あるいは独り身こそ地獄だなどと言ってやるのも効果的かもしれんな」
「なるほど。それは名案ですわね、ザイフリート様!」
「だからそっちはヘリオンだ」
 依然としてヘリオンに話しかけている淡雪に淡々とツッコむ王子。一向に現実に帰らない主人の体たらくに、アップルは『ゴメンネー』と顔画面に表示する。
 今日は過酷な戦いになるのかもしれない。
 どうしてだかそう予感してしまった猟犬たちである。
「さあ、それでは行くぞ。これ以上悲しみを拡大させないために、ビルシャナを葬ってきてくれ。ケルベロスたちよ」
「わかりましたわ! ザイフリート様!」
「そこは搭乗口だから、少し横にどいてくれ」
 ヘリオンに向けて拳を作る淡雪をそっと横にスライドさせ、道を作る王子。
 かくして、猟犬たちは一抹の不安を抱きながら独り身教をやっつけに行くのだった。


参加者
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
夏音・陽(灰華叫ー統道ノ章・e02882)
天月・光太郎(満ちぬ暁月・e04889)
久遠・薫(恐怖のツッコミエルフ・e04925)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●ライブ禁止で
「ひーとーり! ひーとーり!」
「どっくっしん! どっくっしん!」
 重い扉をひらくなり、熱狂空間。
 寒い外と比べてやたら高まってる堂内の温度に、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)の足も思わず止まる。
「……何でしょう、この間の大菩薩より熱があるというか、なんというか……」
「まあ、気持ちはわからんでもな……いや無いな、うん、無いわ」
 共感できる気がしたけど1秒で思い直す天月・光太郎(満ちぬ暁月・e04889)。
 その一方、柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)は鳥と一緒に騒いでる女信者たちを見渡して、ニッと笑みをもらした。
「おー、女の子いっぱいじゃん。わざわざ足運んでよかったわ」
 マジで嬉しそうな清春。
 そう、彼は女性が大好き(男は嫌い)なのだった。視線はいつもだいたい女性を追ってる。
 だから、仲間たちと距離を作り……というか作りすぎて、オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が講堂の端っこまで行ってるのも気づくのである。
「なんか遠くない? もーちょいこっち来ても……」
「大丈夫。大丈夫だから」
 清春が近づくと、ススッと遠ざかるオルティア。
 毅然と表情を作るセントールは、他者との触れ合いが何より苦手である。苦手すぎて誰かに接近されただけで暴れ出すほど無理である。何なら背蹄脚とか出る。
 そんな物騒なのがいるとも知らず、鳥たちは過熱した。
「結婚は墓場! これは世間にひろめないと!」
「そうですね。繰り出しますか!」
 ぞろぞろと講堂から出ていこうとする人々。
 そんな彼女らの行く手に、夏音・陽(灰華叫ー統道ノ章・e02882)が立ち塞がる。
 ひらひら鮮やかに裾が踊る、純白のドレスを着て。
「未婚の皆さん! ほら、見て! 可愛いでしょ!」
「未婚ゆーな」
「おあいてをさがすのはむずかしいことだけど、やっぱり誰にみられてもはずかしくない自分でいたいじゃない!」
「こ、こいつ話を聞かない人種だ!」
 くるくる回ってドレスを見せびらかす陽に軽く戦慄する鳥たち。だが話を聞かないと評された陽さんはその評判どおり、唐突にギターケースをひらき、マイクを取り出す。
 で、光太郎の腕を掴んで引っ張ってきた。
「どうも、天照らす夏の太陽『天夏』でーす!」
「なんで俺も入ってるんだ」
 茫然と立ち尽くす光太郎。知らぬ間にデュオ的なものが結成されている。
 しかし光太郎は舞台に上がったからにはやり遂げる男。やり遂げて爆死する男。
「ギャッリギャリにぃ!」
「アゲていこうかっ!」
「よくわかんねーけど、演っちゃうなら俺も乗るよ?」
「てんきゅー柄倉さん!」
「ベースとはやるな! 柄倉君!」
 なぜか持ってたベースギターでバックについた清春に、ぐぐっとサムズアップする天夏。そのまま軽快なイントロに突入して――。
「どうして勝手にライブ始めてるのぉぉぉぉ!!」
 鳥さんに止められた。
「お客さん、乱入はちょっと……」
「客じゃないわよ!? どっちかというとそっちが客よ!?」
 迷惑そうに眉を寄せる陽に、手羽を高速でふりふりする鳥。どっちも完全に客ではないが、とにかく鳥さんの抗議は半端なかった。
「こっちは歌なんて聴く気分じゃないの。そこをどいて!」
「そーだそーだ!」
 やいのやいの騒がしい信者たち。
 しかし、そこに久遠・薫(恐怖のツッコミエルフ・e04925)の静かな指摘が聞こえた。
「結婚は墓場と言いますが、まずあなたがたが結婚ができるとは限りませんよ」
「なっ……失礼な!」
「どどどどどうしてそんなことが言えるのよ!」
 信者は当然のように反発してきた。
 そんな彼女らを見やってから、薫は講堂の出入り口を指差す。
「詳しくはあちらを!」
「あちら!」
 一斉に振り向いた信者たちが見たもの、それは――。
「ウェディングドレスを着るたび拗らせてると言われてきましたが……シデル様から頂いたこの白無垢を着れば痛くありませんわね!」
 なぜか白無垢を纏った琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)と!
「琴宮さんから頂いたこのドレスもなかなか立派なものですね。身が引き締まる思いです」
 なぜかウェディングドレスに身を包んだシデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)だった!

●悲哀
「なんやこの光景」
「結婚式はよそでやれ」
「行き遅れ感がすごい」
 やたら白い淡雪とシデルを迎える、信者たちの冷たい眼差し。
 薫はそんな彼女らの視線の中を突っ切り、淡雪らの傍らに片膝をつく。
 で。
「こちらにおわすお方をどなたと心得る!
 邪教の教祖でありつつも結婚を夢見てある日はドレスを身に纏い、
 ある日はブーケを花嫁さんから手渡しされ、
 ある日は18歳アイドル(笑)として活動をし、
 ある年のクリスマスではタブレット片手に女子会を開き、
 それでも日夜努力をしているかは微妙な感じですが結婚という夢を追い続け、こうして相手もいないのに白無垢を着ている琴宮淡雪さんであるぞ!」
「うん。薫ちゃん待って? 私の舎弟ポジで手をひらひらさせるのやめて?」
 お手手ひらひらでめっちゃ強調してくる薫を、死んだ目で見つめる淡雪。
「あなたもうそこまで……」
「正気に戻りなさい! まだ遅くないから!」
「あなたたちも待って? 説得されるのは私じゃなくてあなたたちだから待って?」
 信者らの優しい言葉に、顔が虚無ってくる淡雪。
 おかしい。白無垢なら弄られないはずなのにおかしい。
 こんなはずではないのだ。そんな思いから、淡雪は信者たちの前に飛び出した。
「みんなよく私を見なさい! 素敵でしょ白無垢! シデル様のウェディングドレスも素敵ですが……とにかく結婚を諦めるとこれを着るチャンスすら無くなってしまうのですよ!」
「いやまあ綺麗は綺麗だけど別に着なくてもいいかなって……」
「嘘ですわ! 私もよく『結婚は墓場、独り身は最高!』と嘯き、独りで泣いていますが……やっぱり結婚したいですわよね! ネ!!」
「何だろうこの人、押しが強い!」
 眼を血走らせんばかりにぐいぐい迫ってくる淡雪に、たじろぐしかねえ女たち。
 そしてそれを遠巻きに見つめる光太郎やイリス。
「うん、何というか……頑張れよ淡雪」
「戻ってきたら優しくしてあげないとですね……」
 生温かい視線である。
「…………」
 清春ですら沈黙している。見守る構えをしている。
「あなたもつらいのね……同志!!」
 鳥に至っては泣いている。大粒の涙を落として、淡雪の肩をガシッとやっている。
 無理もない。ビルシャナとサキュバスという種族の違いはあれど、生き別れの姉妹説すら聞こえそうなほど2人の境遇は似ている。
 しかし淡雪は鳥さんの手を振り払い、NOを突きつけた。
「残念ね。私はすでに、貧乳の子を救ったり何だりとしている……おっぱい教を立ち上げさせられてるのよ!」
「おっぱい教!? って痛ッ!?」
 べしーん、と顔に淡雪人形を投げつけられる信者たち。
「すでにグッズが!?」
「あ、その人形は私のものだっ、うおおお!」
「ひいぃっ!? 誰か来たぁ!?」
 猛ダッシュしてきた陽が、トラックに轢かれそうな猫とか子供とかを助けるかのごとく飛びこみ、淡雪人形をかっさらう。頬ずりする。
 説明しよう!
 陽さんはもうおっぱい教に染まっていた!
「教祖淡雪様を! おっぱい教を崇め奉りませう! 小さくても大きくても偉大なるや、おっぱい教!」
「どう? 皆も入らない? 結婚出来るかもしれないわよ?」
「いや1ミリも興味を感じねえよ!」
「それで結婚できたら苦労はねえよ!」
 荒ぶる信者。陽と淡雪の熱烈アピールも効果はなかった。いくら宣伝が良くても商品がダメならば売れないみたいな感じだった。
 猟犬たちが講堂に来てから数分。進展なし。
 このままでは信者たちが孤高の女になってしまう――そんなときだ。
 山が、動いた。
「結婚を諦めた場合はこういったドレスや白無垢を諦めるか、又は……自室でひっそりと、独りで着てほくそ笑むかのどちらかになりますよ」
「えっ」
 シデルの淡々とした一言に、信者たちが固まった。

●現金な人たち
 裾先がひろがったウェディングドレスを着こなして、軽やかな靴音で迫るシデル。
 仕事仕事で生きてきた35歳。
 とうに適齢期を置き去りにしてきたスピードスターは、お局っぽい眼鏡をくいっと整える。
「ああ、私の話ではありませんよ。まだ私はウェディングドレスを着たのは2回目です」
「2回目……ちなみにそのときのお相手は?」
「相手? その時も今もいませんが」
「あ、はい」
 さらっと言ってのけられたシデルの言葉に、さっと引っこむ陽。
 追及してはいけない。誰もが直感したよね。
「確かに独り身は自由で良いものですが、独り身はけして楽な道ではありません。生涯独身で生きていくためには少なくとも二、三千万円の貯蓄が必要だとか」
「そんな大金が!?」
「き、厳しい……! 独身に厳しい世界!」
 告げられた金額に信者たちが青ざめる。
 さらに、そこへオルティアが(20m離れた場所から)声をかけた。
「日々を過ごすのに、ひとりは確かに、楽。
 誰にも気兼ねなく過ごせる。誰にも文句を言われることはない。誰にも付き合わされることはない。ただ趣味に没頭しても許される、そこには自由がある」
 そこまで言って言葉を切り、ぼーっと天井を見上げるオルティア。
 その瞳は、捨て犬のように悲しげだった。
「けれど……裏を返せば、
 誰にも気を使ってはもらえない。誰にも話し掛けてはもらえない。誰にも付き合ってはもらえない。好きなことを共有してくれる人はいない、そこには寂しさしかない」
「ううっ……!」
「つらい……つらいですわ……!」
 鳥さんと淡雪が寸分違わぬタイミングで崩れ落ちた。2人ほどでなくとも信者もその場に崩れ、講堂は回復不能ダメで半分ぐらい削られた人たちの嗚咽で満たされてゆく。
 シデルは語りつづけながら、彼女らの間を巡った。
「独り身なら終生の住処も必要です。老後、自活が出来なくなったら老人ホーム等の準備も必要でしょう。二次元は介護はしてくれませんからね」
「現実が重いよぉ……!」
「二次元による介護システムの開発はよ……」
 がっつり不安に押しつぶされる女たち。
 だが彼女らへ、オルティアの温かい声が届く。20m外から。
「皆には地獄が待ってる……だけど、まだ……まだ間に合うはず。抜け出そう。嘘を止めて、正直になろう。まずは求めなければ、何を手に入れることも出来ないのだから……」
「まだ間に合う……」
 泣き腫らした信者が顔をあげ、目元をこする。
 一筋の光明を見たのだろう。わずか顔に生気が戻っている。
 今なら声も届くはず、とイリスはしゃがみこんで信者たちと視線を合わせ、笑いかけた。
「人間助け合いって言いますし、そばに誰かが居てくれるのは心が安らぐと思うんです! 二次元に彼氏では得られない安らぎを、皆さんも手に入れましょう! 現実的に言えば養ってくれる人を見つけましょう!!」
「最後が本当に現実的なんですけど……」
「でも確かに、二次元メンズじゃ養ってはくれない……!」
「そうです! そうなんです!」
 徐々に思い直してきたっぽい信者に、励ますように声をかけつづけるイリス。
「オルティアさんの言ったとおり、独りなら好きな事に没頭できるし良いこともあります。
 ですけど貴女方が真に心の安寧を求めて居るのなら……少しだけでも、現実に向き合うというのも大切だと思いますよ。今は街コンとか、気軽に参加できるイベントもありますしね!」
「街コンかぁ……」
「ちょっとハードル感じてたけど……行ってみるのもいいのかなぁ」
「その気になったのなら、手遅れになる前には何とかしましょ? 拗らせすぎると悲惨な目で見られますよ」
 イリスの全力の説得により常識を取り戻しつつある女たちを、淡雪をチラ見しながら諭す薫。
 顔に涙の痕をつけた淡雪は、むくっと体を起こした。
「何ですの薫ちゃん……薫ちゃんだって相手いないのに!」
「でもまだ二十代ですから。このみーちゃんはアラサーですけども。アラサーですけども!」
「ふ、ふたつしか違わないじゃない! それにアラサーじゃないですわ! 中間地点!」
 醜い争いだった。
 これ以上に聞き苦しいことはない。そんぐらいどうでもいい戦いだった。
 しかし、戦いというものは得てして悲劇を生むものだ。
「だいたい薫ちゃんだって別に若くはないのですわ! こちらの若々しいオルティア様に比べたら――」
「ひっ!? さ、触らないでー!!」
「アァーーッ!?」
「淡雪ー!」
「淡雪さーん!」
 薫に言い返したいあまりオルティアを引き合いに出そうとした淡雪が、近づきすぎて吹っ飛ばされた。後ろ脚で豪快に蹴り上げられた淡雪が天井にめりこむさまを、光太郎と陽は手を伸ばしてノリノリで見送ることしかできなかった。
 イリスはパラパラと天井の屑が落ちるのを見ながら、こほんと咳払い。
「皆さん、思い直してくれますね? でないと天井に埋まるかもしれません!」
「確かにあれは嫌……」
「でも私たちに、そう簡単に相手が……」
「おいおい。何を悩んでるのかな? もったいないなぁ、君達みたいな子が」
「えっ……わっ!?」
 しょげかえっていた女たちが、びくっと体を跳ねさせる。
 いつのまにか近づいていた清春が、大胆にも彼女らの肩に腕を回していたからだ。
「別にわざわざ喪女ることないんじゃないの? こういうのはさ、良い相手が見つかるとコロッと変わるもんだって。たとえば俺みたいなイイ男とかね」
「そ、それって……」
「んー? まー解釈はお任せ?」
 少し期待に胸を逸らせる信者たちに、にこりとナンパ用の笑顔をふりまく清春。
 そこへ、光太郎も爽やかなオーラ(隣人力MAX)を放ちながらやってきた。
「そうそう、独り身でいいだなんて勿体ないぜ? まだまだ出会いがあるかもわからないのにこんなに早く諦めちまったら、世界にとっても君達にとっても損失だ」
「そ、損失って……やだー言いすぎよー!」
「で、でも本当にそんなふうに思われて……!?」
「いや別に冗談じゃないって。なんなら……俺達に釣られてみるかい?」
 キリッとイケメン顔になり、甘い言葉を囁く光太郎。少し後ろでアップル(淡雪のテレビウム)が『どうして本命にそれを言えないのか……』と画面にテロップを流しているのは、極力見ないように頑張りました。
 で。
「うん……結婚を考えてみてもいいかもしれない」
「独り身もやっぱり寂しいものね……」
「えっ? えっ、あなたたち?」
 何やってたんだろう私、とか言いながら晴れやかな顔で立ち上がる女たち。そんな彼女らが清春たちにエスコートされて講堂を出てゆくのを鳥さんは呆然と見送る。
 そして、講堂は深夜らしい静けさを取り戻した。
 なお鳥さんはその後、たくさんの励ましを貰ってから来世に旅立ちました。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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