フライ・フライ・フライ

作者:坂本ピエロギ

「揚げたてフライ食べ放題! エビ、カキ、アジ、美味しい食材揃ってます!」
 食堂『よしだ』の店先に掲げられた看板には、無骨な筆跡でそう記されていた。
 今日は月に1度のサービスデイ、店自慢のフライ料理が食べ放題の日なのである。折しも時は日没直後、仕事帰りの人々がちらほらと暖簾を潜りにやって来た頃だ。
 爆ぜる油の音、談笑する客の声。
 彼らが箸を伸ばすのは、店一番の人気料理『フライ盛り合わせ』だった。
 お代わり自由のお新香を齧りつつ待つこと暫し、ご飯とみそ汁を従えてやって来るのは、うず高く積まれたフライの山。新鮮な海の幸と野菜を揚げた贅沢な一品だ。
 ネタは看板の品以外にも数多い。シイタケにタマネギ、イカ、ホタテ等々。元より美味いそれらのフライが食べ放題なのだ、繁盛しない道理がない。
 まずはそのまま齧ろうか、それともソース? いやタルタルも捨て難い――。
 こうして食堂を訪れた客は、贅沢な悩みに頬を緩ませつつ熱いフライを齧り、いつも通りの長閑な夜のひと時を過ごす――はずだった。
 だが彼らは知らない。この場所が、もうじき地獄と化す事を。
 夜の闇に紛れるように、近場のゴミ捨て場へと現れた、小さな侵略者の存在を。
 廃棄されたフライヤーの中へと入り込み、二脚型巨大殺人フライヤーマシンとして生まれ変わったダモクレスが、揚げ油の香りに誘われるように迫りつつある事を――!

「大変っす! 廃棄された調理器具が、ダモクレス化する事件が予知されたっす!」
 日没のヘリポート。黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、集まったケルベロスを見回しながら、いささか慌てた様子で説明を始めた。
 予知があったのは、市街地の一角にあるゴミ捨て場だ。ダモクレスは未だ出現しておらず被害は出ていないが、このままでは多くの市民が虐殺されるのは時間の問題だという。
「今からヘリオンを飛ばせば、ギリで間に合いそうっす。どうか力を貸して下さいっす!」
 敵の名は『フライ・フライ・フライ』。揚げ物を作る機械、フライヤーのダモクレスだ。武装もエビフライそっくりの巨大なランス型武器と、全身に取り付けた砲台からカキフライ砲弾を撃って攻撃してくる。
「敵はメディックなんで、攻撃にはブレイク効果が、回復にはキュア効果がついてるっす。どれもデカくて揚げたてでいい匂いっすけど、食べる事はできないっす……!」
 ダンテは心底無念そうに歯を食いしばり、代わりと言ってはアレっすけど――と続ける。
「現場から歩いて数分のところに、美味しいフライが食べられる食堂があるんすよ。戦いが無事に終わったら、帰りに寄って行くのもいいかなー、なんて思うっす!」
 食堂の名は『よしだ』といい、今日はサービスデーで海の幸や野菜を使ったフライが食べ放題なのだという。
 純白の身が眩しい海老に、ぷりぷりに太った真牡蠣。そして丁寧に骨を抜いた肉厚のアジなどなど、新鮮で美味しい食材を、御飯やみそ汁、お新香と一緒に好きなだけ食すのだ。
 フライの食材ラインナップは自由。全ての食材を満遍なく頼んでも良いし、自分の好物、例えばエビフライだけをたらふく食すというのもアリだ。好きなフライを、好きなように、好きなだけ食べられる。
「くうっ……美味そうっす……! それじゃ皆さん、ダモクレスの撃破は任せたっすよ!」
 ちょっぴり寂しそうに鳴く腹を抑え、ダンテはヘリオンの操縦席へと駆けていった。


参加者
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)

■リプレイ

●一
 十一月某日、夜。
 無人のゴミ捨て場へと到着したローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は、鼻歌交じりで戦いの支度を始めた。
「フライ、フライ、エビフライ~♪」
 いまローレライの心を占めているのは、食堂『よしだ』のフライ盛り合わせ。それも揚げたてサクサクの山盛りエビフライである。
「ふふ……いけないわね、戦いの前なのに。考えただけでお腹が減って来ちゃうわ」
「やはりローレはエビフライですよね。かくいう私も、今日は存分に食べるつもりです!」
 黒い尻尾を元気に振って微笑むのは、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)だ。エビに椎茸、玉ねぎ、ピーマン……綺羅星のように輝く目で希望のネタを指折り数えながら、テキパキと戦いの支度を整えていく。
「ふむ……そろそろ現れる時間ですね」
 一方、そんなミリムらの横では、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が腕時計に目を落としていた。時計から目を上げたタキオンが視線を移すのは、前方にそびえる粗大ゴミの山。敵の出現が予知された地点である。
「フライヤーのダモクレス……火事の元は、しっかり始末が必要ですね」
「ええ。美味しい夕御飯のためにも、放置は出来ません」
 レアメタルのガントレットを装着して七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)が頷いた時、ふいに粗大ゴミの山がゴゴゴゴと振動を始めた。
「来ました。皆さん、注意を」
 最前列に立つフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)を前衛に、数秒で隊列を組み終えるケルベロス。そんな彼らの眼前から、粗大ゴミの山を突き破って巨大なダモクレスが飛び出してくる。
『フラアアァァァァイッ!!』
「現れたですね、フライ・フライ・フライ……!」
 アームドフォートを展開した機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は、対峙する敵の偉容に生唾を、もとい息を呑んだ。
 揚げたてサクサクのエビフライ・ランス。畳よりも大きく分厚いアジフライ・シールド。そして箱型ボディの中でパチパチと爆ぜる、新鮮なラードを含んだ揚げ油。
「食欲をそそる、この匂い……空腹的な意味では、間違いなく強敵なのですね」
 かつては人々のために働いた機械。だが今やグラビティ・チェインを収奪するだけの存在と成り果てたフライヤーの行く手を、真理は彼女のライドキャリバーと共に塞ぐ。
「予知の甲斐あって、間一髪で間に合ったのう」
 愛銃を抜いたカヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)は、ガンナーズハットの奥から鋭い眼光を敵に向けながら、呟いた。
「夕飯前の運動がてら、ひと仕事いこうかのう」
 主人の一声を聞いて、小躍りしていた箱竜が一転して真剣なまなざしで敵を捉える。
 カヘルと共に回復を務めるビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)もまた、箱竜のボクスを連れて、避雷針を手にダモクレスへ向かって告げる。
「罪なき人々をフライになどさせん。速やかにお引き取り願おうか」
『フラアァイッ!!』
 まずは貴様らをフライにするとばかり、戦闘態勢を取るフライ・フライ・フライ。
 揚げ油の湯気に乗ってフライの香りが立ち込めるなか、ケルベロスとダモクレスの死闘は幕を開けるのだった。

●二
『フラアァァァイッ!!』
 野太い咆哮と共にダモクレスの体からせり出した大砲が、カキフライ砲弾を放った。
 標的は後衛のカヘルだ。真理のライドキャリバーが砲弾めがけ体当たりし、これを弾く。
「――容赦は、しないですよ」
 砲弾が炸裂し、辺りを満たすカキフライの芳香。真理は空きっ腹を抑えつつ、ナノマシンを込めた砲弾をダモクレスめがけて撃ち込んだ。
「プライド・ワン、突撃なのですよ!」
 回復を阻害するナノマシンの増殖によって赤い光を帯びた傷口を目印に、プライド・ワンが炎の体当たりを叩き込む。そこへ続くのは、黒い大斧を振りかぶるミリムだ。
「『フライフライ、フララライ!』って喧しく鳴くと思ってましたよ!」
 ミリムはデットヒートドライブで焦げた砲台を狙い定めて跳躍。速度と体重をありったけ乗せた、スカルブレイカーの一撃を叩き込む。
「可及的速やかに! 食堂のフライに! ありついてみせます!」
「ふふっ。こんな寒い日は、温かい夕食が恋しいですよね」
 ミリムの啖呵にフローネはくすりと微笑むや、エメラルド・ビームが輝くチェーンソー剣を構えてダモクレスの間合いへと飛び込んだ。
「人のために働いた機械のココロ、それを冒涜するダモクレスは許しません」
 剣のビームが眩く光り、黒斧の傷跡をジグザグに溶断していく。衝撃で舞い散るパン粉の衣。カヘルは癒しの弾を銃に込めながら、カキフライの破片を食べられずに落胆する箱竜を慰めるようにカラカラと笑ってみせた。
「もう少しの辛抱じゃ相棒。勝てば本物のカキフライが、腹いっぱい食えるからのう」
 ヒーリングバレットの銃弾でプライド・ワンを癒すカヘル。気を取り直して属性ブレスを放つボクスドラゴン。ジグザグの効果でプレッシャーを増大させる敵めがけて、タキオンと綴が更なる追撃を浴びせにかかる。
「ウイルスカプセルを、受けてみなさい!」
「油ごと、凍らせてあげますよ!」
 研究衣をはためかせタキオンが投擲するのは、治癒を阻害する殺神ウイルス。レアメタルのガントレットを着けた綴が振るうのは、氷をもたらす達人の一撃。息を合わせ繰り出されるコンビネーション攻撃を浴びて、ダモクレスが甲高い悲鳴を上げる。
「ふむ。良いペースだな」
 ビーツーは回復を要する仲間がいない事を確認し、殺神ウイルスを手に取った。
 このまま行けば敵の回復を完封できそうだ。ビーツーはボクスを従え、カプセルを投擲。それを追いかけ、火山属性を纏う白橙色のブレスがダモクレスを包み、アンチヒールの効果を更に積み上げていく。
「シュテルネ、我に続け!」
 凛々しい声と共に主砲を斉射するローレライ。その間隙を縫うように、彼女のテレビウムが手にした凶器をフライヤーに叩きつけた。
『フ……フラアアァァァァイッ!』
 湧き出る幻影に囲まれたダモクレスは、身を震わせてアジフライ型のシールドを構える。トラウマの除去には成功するも、徹底的に付与されたアンチヒールの効果は、傷の治りを微々たる程度に減少させていた。
 初手で回復を封じた事が奏功し、戦いはケルベロス有利のまま進んでいく。

●三
 アンチヒールを交えた猛攻の前に、ダモクレスは攻めから一転、守りへと転じた。
 敵が構えるのは畳のように分厚く巨大なハート型アジフライ盾。それを見たミリムは嫉妬の炎を燃え上がらせ、
「許しません……美味しそうなフライを何度も見せびらかすなんて!!」
 必殺の一撃を繰り出さんと、屠竜の構えで力を溜め始めた。
 自分達は、ここで立ち止まる訳にはいかないのだ。何故なら――。
(「こうしている間にも! 食堂の人達は美味しい本物のフライを食べている……!」)
 怒りと空腹に燃えるミリム。いっぽうフローネと綴も、いっそう激しい攻撃のラッシュをダモクレスへ浴びせにかかる。
「もう少しですね。一気に決めましょう」
「私でも、やれば出来るのです!」
 フローネがチェーンソー剣を振るう度、ズタズタに切り裂かれたフライの衣が飛んだ。綴が大器晩成撃のパンチを叩き込む度、フライ・フライ・フライの身は凍りついた。
 態勢を立て直す余裕など与えぬとばかり、更にタキオンとカヘルがダモクレスに迫る。
「足止めをかけます、カヘルさん」
「了解じゃ。ラストスパートと行くかのう!」
 タキオンの流星蹴りが、ダモクレスの足を蹴り砕いた。
 このままではジリ貧と気づいたか、ダモクレスはエビフライの槍を掲げるが、
『フラアァァイッ!』
「遅いんじゃよ、若造」
 防御態勢を解いた瞬間、エビフライの槍めがけカヘルのクイックドロウが降り注ぐ。削られて吹き飛ぶエビフライの衣。そこへ彼の箱竜がアジフライめがけタックルを叩き込むが、ダモクレスは必死に踏ん張ってガードを続ける。
「それなら、これでどうです!」
「もらったぞ」
 改造チェーンソー剣を唸らせ、真理はフライヤーの破られた装甲をジグザグに切り裂いて弾き飛ばした。ビーツーが避雷針を天に掲げ、自身が纏う臙脂色と、ボクスが纏う白橙色の炎をひとつに溶け合わせる。そして、
「その身で受けてみるといい、俺達の熱を!」
 敵との距離を一気に詰めると、渾身の力を込めて、燃え盛る杖を振り下ろした。
 回復を阻害する炎に焼かれ、アジフライ・シールドの守りを砕かれ、ダモクレスの体から立ち昇る油の蒸気が黒煙へと変じ始める。
 決着が近いようだ。ローレライは妖精弓に番えた矢で、ダモクレスを狙い定めた。
「ミリム」
「ええ、ローレ」
 合図は、それで十分だった。
 ホーミングアローの一射が、先んじてダモクレスの心臓を捉える。
 最後の力でエビフライ・ランスを掲げて、破城槌のごとき刺突をミリム目掛けて繰り出すフライ・フライ・フライ。
 エビフライの穂先がミリムを捉えたかに見えた、その瞬間――。
「アメジスト・シールド、出力最大!」
 フローネが槍の一撃を真正面から受け止めた。ココロの力に共鳴したシールドを眩く輝かせながら、フローネはミリムを振り返る。
「さあ、とどめを」
「任せて下さい――風槍よ! 穿て!」
 ダモクレスの頭上から降り注ぐは、屠竜の構えからミリムが放つ、女王騎士の五本槍。
 全身を串刺しにされたフライ・フライ・フライは断末魔の叫びをあげて、
『フ……フラアアァァァァァァイッ!!』
 揚げ油の香りを残して爆発四散。ゴミ捨て場はふたたび静寂を取り戻した。

●四
 現場をヒールで修復し、ケルベロスは予定通り食堂『よしだ』へと向かう。
 程なくして辿り着いた店の暖簾を潜ると、店主の「いらっしゃい」という声が彼らを迎え入れた。
 8人がけの席へと腰を下ろし、いざ注文するはフライの盛り合わせだ。
 エビにカキ、アジにイカ、そして色とりどりの野菜。各々が好みのネタを注文し、胡瓜と蕪の漬物を齧って待つ事しばし、ご飯と味噌汁をお供に山盛りフライがやって来た。
「こ、こ、こ、これは……!」
「ふむ、素晴らしいですね」
 千切りキャベツを背に鎮座するフライの山に、しばし言葉を忘れるローレライと綴。
 戦いを終えたケルベロス達は箸を取り、賑やかな夕餉のひと時が幕を開ける。
「いただきまーす!」
 ローレライはさっそく、エビフライと格闘を始めた。
 真っ赤な尾の付け根を箸で持ち、醤油を垂らした先っぽに、ひと思いにかぶりつく。
「……っん~! 最高!」
 外はカリッ、中はトロッ。熱々のエビフライに、ローレライの頬がゆるりと綻ぶ。
 醤油つきの一尾を平らげれば、お次はタルタルソースでまた一尾。瞬く間にエビフライを平らげれば、次に箸を伸ばすのは大粒のカキフライだ。
「ん~、カキも最高。これはもう、おかわり待ったなしだわ……!」
「この美味しさで食べ放題……まさに天国ですね」
 ミリムはうむうむと頷きつつ、エビや野菜のフライに舌鼓を打っている。
 時折ローレライにエビの横流しなどを申し入れつつ、椎茸、玉ねぎ、ピーマンのフライにソースをかけて頬張るミリム。風味がギュッと凝縮された珠玉の野菜フライを前に、箸を動かす手が止まらない。
「ふむ。これは素晴らしいご飯泥棒です」
 いっぽう、綴が注文したのはアジフライだ。
 ハート型の先端から飛び出した黄金色の尻尾を掴み、ひと齧り。新米の御飯と蕪の漬物を挟み、更にワカメの味噌汁で口を潤して、もうひと齧り。心地よい歯応えと共に衣が弾け、脂の乗ったアジの身が口の中で解ける。
 気づけば空になった皿を前に、綴はお品書きへ手を伸ばす。さあ次は何を頼もうか。
「ふむ、いける味だな。うまい」
 ビーツーが舌鼓を打つのは新蓮根と秋鮭にソースを少量添えたもの。狐色に揚がった衣を齧れば、ホクッと揚がった白い蓮根が覗く。脂がのった秋鮭のフライはタルタルソースとの相性も抜群だ。
「どうだ、そっちの味は?」
 ビーツーの膝でボクスが頬張るのは、カレイのフライ。
 エプロン代わりにローブをかけて、タルタルをまぶした身の厚い白身を噛み締めていた。みっしりと詰まった肉の旨味は、衣が逃さず封じ込めており、体が芯から温まる味にボクスもご機嫌の様子だ。
「御飯にお漬物に味噌汁……素敵ですね」
 向かいの席ではフローネが胡瓜と蕪の漬物を前菜に、御飯とワカメの味噌汁で胃を温め、メインディッシュのホタテフライに箸を伸ばすところだった。
「美味しそうですね。いただきます」
 皿の上にドッサリと盛られた大粒のホタテを、まずはそのまま一口。ホロリと解ける貝柱と、口の中で広がる旨味に思わず頬が綻んでしまう。
「ふふっ。帆立の甘みと香りが広がって、とっても美味しい」
 次はタルタルソースで行ってみようか。刺身でも通用しそうなほど新鮮な貝柱は、外側はホックリ、中は半生。水分を飛ばした身には、どれも旨味がギュッと凝縮されている。
「少し、お茶をいただきましょうか」
 熱い日本茶で口の油を清め、温まった身とココロに満足したように、ほうっと幸せの息を吐くフローネ。そんな彼女の隣で、カリッと揚がったエビフライに感動の吐息を漏らすのはタキオンだ。
「ふむ。端的に言って最高ですね」
 まずは暖かいお茶で喉を湿らせ、揚げたてのエビをガブリと一口。顎が外れそうなサイズのフライを頬張り、プリプリの身を噛み締めるたびにうまい海老のエキスが迸る。ピカピカの新米を片手に、ご飯が進むこと進むこと。
 このエビフライを食べ終えたら、次は何を頼もう……そんなタキオンの隣では、腕まくりをしたカヘルが皿いっぱいのカキフライを頬張っている。
「ふっふっふ。至福じゃのう、相棒?」
 ぷっくりと膨らんだ大粒のカキは、どれも丸々と身が太っていて、まさに海のミルクの名に相応しい。至福の笑みを浮かべる彼の隣では、相棒の箱竜が小皿のカキフライを行儀よく口に運んでいる。
「……沢山動いたから、今日はガマンしない日なのです」
 真理が頼んだのはアジとイカ、そしてカキと、海産系中心のフライだ。
 軽い衣を噛み砕き、程よい脂と共にホロリと崩れるアジ。心地よい弾力のイカ。濃厚な海のエキスが滲み出るカキ。中農ソースがしみ込んだフライはどれも旨味が引き立てられて、箸が止まらなくなってしまう。
「ええ、今日は頑張りましたから! いっぱい動きましたから!」
 今この時だけはカロリーの存在を忘れよう。
 味噌汁を啜り、漬物と御飯をおかわりし、心行くまで器を空にして――。
 そうして仲間達との一時を堪能した真理は、静かに手を合わせる。
「ごちそうさまでした、ですよ」
 談笑と舌鼓に彩られ、のんびり過行くケルベロスの夕餉。
 窓の外で聞こえる木枯らしが、秋の終わりを静かに告げていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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