大鎚人間を叩き潰す者たち

作者:塩田多弾砲

 静かな団地。そこがいきなり騒がしくなったのは、昼下がりの事。
 団地が静かなのも当然で、そこは老朽化し、入居者もほとんどいなかったからだ。
「……なんだ?」
 再開発の業者、鈴木が『地鳴り』を聞くとともに、団地の一棟がいきなり崩れたのを目の当たりにした。その崩れた瓦礫から……人の形をした、巨体が。
「あれは……?」
 出て来たのは、身長7mのダモクレス。しかし、そいつの外観を目にした鈴木は、マニア向け中古玩具店の店頭に並んでいた、『ゼンマイで動くロボット』の玩具を連想していた。
 見た目は、箱や積み木を積み上げて人型にしたような形。その頭部も同様に、金属製の箱にサーチライトめいた『目』を付けたかのよう。
 歩き出したそいつの両腕の手首は、両方とも『鈍器』が装着されていた。
 右手は、巨大な金槌状のハンマー。左手は、棘付きの鉄球。
 ダモクレスは、周囲を見回し……右手を振りかぶると、地面にたたきつけた。
「……っ!」
 途端に、ダモクレスを中心とした周囲に……強烈な『振動』と『衝撃波』とが放たれ……、
 それとともに、老朽化した団地や建物、その他様々な建造物、建築物、施設や置かれていた車両、その他『存在していたもの全て』が、
『吹っ飛ばされた』。
 その中には、鈴木や、同行していた他の業者、そして数少ない団地の住民らも含まれていた。
 地面を転がされ、瓦礫に叩き付けられ、昏倒する鈴木。
 なんとか意識を取り戻し、立ち上がると。
 ダモクレスの左手、その鉄球が迫りくるのを見た。それが、鈴木の生涯最後の光景だった。

「二月ほど前の事っスが、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)さんたちが解決下、ダモクレスの事件の事を覚えてるッスか?」
 ダンテが言う事件は、全てを切断する巨大ダモクレス『丸鋸騎士(バスソウ・ナイト)』が出現したもので、魔空回廊に逃れる前に破壊し、事なきを得ている。
「で、今回はまた、そいつと同じような事件ッス。なんか昔なつかし……50年くらい前の玩具店に並べられてた、『ゼンマイ仕掛けのブリキ製ロボ』みたいな感じのデザインをしてるッス」
 少なくとも、昨今のロボットアニメやゲームやらに出てくる、スタイリッシュなデザインとは正反対。武骨で野暮で垢抜けない、ダサさの方が強い意匠だという。
「一応、ダサめに『大鎚人間(ハンマーマン)』って仮称するッスが、こいつの能力はダサいどころか、マジにヤバいッス」
 そいつの武器は、両腕の『ハンマー』。
 右手は、金槌のような形状の、仮名『地面潰し(グランドスマッシャー)』。普通に接近戦で用いるのみならず……、地面に叩き付ける事で、自分を中心とした半径10メートルに、強烈な『衝撃波』と『振動波』を放ち……自らの周囲に存在する全てを破壊する。
 左手は、棘付き鎖鉄球の、仮名『明けの星(モーニングスター)』。大砲のように鉄球を発射し、遠くの敵に打撃を与える事が可能な武器で、直線のみならず、曲線……山越えするかのように、放物線を描いて障害物を通り越して攻撃する事も可能。そのリーチは約20メートル。
 加えて、鉄球が命中し打撃を与えた周囲5メートルも、右手同様に衝撃波を放つ事ができる。ぎりぎり鉄球をかわせても、衝撃波によるダメージを受けてしまうわけだ。
 鎖で接続されているので、鉄球は回収され何度も使用可能。
 唯一の救いは『ハンマーマン』は動きが鈍く、モーションも鈍い事。
 右手の『地面潰し』を用いる時、右腕を高く差し上げ、5秒間そのまま硬直し……しかる後に地面に叩き付ける。
 左手『明けの星』も同様で、左腕をまっすぐ突き出し、目標に向けた後に5秒間硬直。その後に発射する。
 そして、それぞれの武器を発動させた後……、やはり5秒間硬直する。
 これを利用すれば、囮になって攻撃させた後に、接近し、こちらから攻撃する事も不可能ではない。
 もっとも、例によってこの『ハンマーマン』もまた、420秒後、七分経過すると、魔空回廊が出現して回収されてしまう。
 そうなると、これが量産化。そして低下していた機能も回復し、より大量の殺戮が行われる事は必至。
「幸い、周辺は人がほぼいない団地ッス。こいつが出現する時間までに、住民や開発業者など、全員を避難させる事は難しくはないッスね」
『ハンマーマン』が出現した棟は『第五棟』。そして、第六から第九棟までの四つの棟の間に伸びる通路を進み、団地の敷地内から出ようとする。
 四つの棟は通路の脇に、沿うようにして建っている。通路を塞ぐように倒す事は難しくはない。
 そして通路の先には、敷地外に通じる出入口。そこは住宅街になっており、駅前通りはそう遠くはない。
「なので、団地の棟の中、または屋上に潜んで、やつの上方から攻撃する事も可能ッス。とはいえ、奴の両手のハンマーは、団地棟を簡単に破壊できるッスから、気を付けないとッスが」
 団地棟の高さは、六階建ての約25メートル。老朽化したとはいえ、鉄筋コンクリートの塊であり、これの倒壊の直撃を受けると、普通はひとたまりもない。
「もっとも、『ハンマーマン』は倒壊の直撃食らっても、ノーダメージだったッスが。さすがに動きを封じられはしたものの、すぐにハンマーで破壊して脱出したッスけどね」
 しかし、これらの状況および敵の特徴……、
『団地棟を倒壊させれば、敵の進行をわずかだが封じられる』
『武器発動前、および発動後、敵は五秒硬直する』
『敵は動きが鈍く、一度に認識できる敵は一体のみ』
 これらを利用すれば、攻略は不可能ではないかもしれない。後必要なのは……ケルベロス自身の『機知』と『能力』、そして『幸運』。
「正直、激ムズで無理ゲーな内容ッスが……皆さんならこいつをクリアできると、自分信じてるッス!」
 不可能を可能にし、巨大な敵を粉砕する。それができるのは、自分たちだけ。
 それを認識した後、君たちは聞いた。依頼受諾の返答をする自分たちの言葉を。


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
除・神月(猛拳・e16846)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
星乃宮・紫(スターパープル・e42472)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)

■リプレイ

●倒壊する前の事
 それらは醜い団地棟だった。耐久年数から二十年以上経過、壁は汚れ亀裂が走り、電気ガス水道は予告無しに止まる。新たな住人など来ず、旧来の住民たちはほぼ引っ越し済。
 取り壊し再開発する計画が立っていたが、半端に頑丈なので費用が捻出できず頓挫している。業者はそう説明した。
「……では至急、避難させます」
 開発業者・鈴木と言葉を交わすは、
「それと、事後に倒壊させた棟のヒールについてだが……」
 日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)。
 その近くには、数人の小学生。
「無くなっちゃうの?」
 子供達の言葉に、ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)は、
「大丈夫だ、皆の団地は、必ず元に戻す」
 そう力強く約束した。
「そうだ。君たちの大切な家は、必ず守ってみせよう」
 ジークリットの隣で、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)も受け合う。
「え? 戻すって、ちょっと……」
 二人はそのまま、何か言っている子供たちを尻目に、団地の中へ。
「……では、倒壊した団地棟はそういう事で……それから……」
 蒼眞と業者たちの話合いの間、
「なんだ! はっきり言え!」
「ひっ! ……ひ、避難……して、くれません……か……?」
 怒鳴られつつ、星乃宮・紫(スターパープル・e42472)は避難誘導を。
「……こっちの避難は終わったわ。そっちは?」
 婦警の制服姿の獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)も、職繋がりから地元警察らに協力を要請し、避難を終えていた。
 と言っても、住民は全団地棟で十家族にも満たなかったが。
「す、済みました……」
 おどおどしつつ、紫の視線がさまよう。
 その視線の先に、団地棟の基部へと細工している者たちが。
「老朽化が激しいですが、基部だけは無駄に頑丈ですね。一階の柱部分は、大部分を壊しておかなければ、倒壊しなさそうです」
 コンクリが剥がれ落ちる表面を見つつ、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が検分する。彼女の隣に控えるは、プライド・ワン……一輪のライドキャリバー。
「それト……六かラ、七、八、それに九棟……敵はこの間ヲ、五棟から進んでいくんだったナ」
 同じく、除・神月(猛拳・e16846)も検分。二人は建物基部に攻撃を加えて、倒す計画の仕込みを行っていた。
 とはいえ、ケルベロスは解体業者ではない。崩しやすくする『細工』には、若干手間がかかっていた。
「お待たせです! ちょっと遅れてすいませんです!」
 そこへ、白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)も姿を現す。
 十数分後。
 五番棟付近の団地内からは、人の姿が消えていた。

●倒壊させる者の事
 更に、十数分後。予見にて、『敵』が出現する時間。
(「そろそろ、です……」)
 まゆが、団地基部に隠れつつ、その時を待っていた。
 蒼眞を除いたケルベロス七名は、自分を含め団地棟の陰に待機。
 六号棟の屋上に、蒼眞は待機。
 敵が出現後、まゆとジークリットは皆を援護。
 銀子は敵目前に出て組み付き、引き寄せる。
 真理とプライド・ワン、神月、紫、ジークリットは、敵後方から狙われないように攻撃しつつ、必要に応じて団地棟を攻撃・倒壊させ、ダメージおよび動きを封じる。
 ダメージを蓄積させ、最後に一斉にとどめ。
 これを、七分……420秒以内に行う。
「……正面から殴り合ってみたいところですが、今回は任務重視でいかないと、なのです」
 呟きつつ、まゆは時計を改めた。
「時間的に、そろそろなのです? タイマーのセットは……大丈夫ですね」
 全員の時計は合わせており、タイマーも六分でアラームが鳴るようにセットしている。神月とエメラルドは、それぞれ五分で鳴るようにしているとの事。
 あとは、実際に敵が出現するのを待つのみ。
 そう思っていたら、
「……来ました!」
『大鎚人間(ハンマーマン)』が、五番棟を完全に崩し、出現した。

 出現した『ハンマーマン』は、進みながら……周囲を見回し、六番棟前の銀子へ視線を向けた。
 身長7mの巨体を前に、銀子はたたらを踏んだが……、
「さあさあ、来なさいっ!」
 すぐ立ち直り、プロレスの試合のように挑発した。
 それに対し『ハンマーマン』は、
『右腕』を振り上げた。同時に『左腕』も、前方に向ける。
「!?」
 どういう事? 両手のハンマー、二つを同時に放つつもり?
 その迷いに、三秒の時間がかかってしまった。残り二秒、間に合わない。
 刹那、
『うにうにっ!』
 プリンめいた柔らかい巨塊が出現、『ハンマーマン』を押しつぶした。
『巨大うにうに召喚(ギガントウニウニコーリング)』……蒼眞のグラビティは、見事に決まったが、
「やった! ……いや、まだだ!」
 蒼眞の叫びは聞こえなかったが、彼と同じ驚愕は皆が実感していた。『ハンマーマン』が、右腕を振り下ろしたのだ。
『地面潰し』。それが放った衝撃波は、『うにうに』を簡単に吹き飛ばし、まるで……爆弾を爆発させたかのように飛び散らせた。その中心部には、『ハンマーマン』が。
 衝撃波の余波が、団地棟の一部を削る。が、それを皮切りに、
「『……我らが英雄の不敗なるを称えよ!』」
 エメラルドの『英雄凱旋歌(ヒーローズ・コンクエスト)』が響き、
「まゆも行きますっ!」
 ヒールドローンが、銀子と紫に展開した。
「……危機ある所に輝く、美しき紫の星!」
 そして、紫は。戦いの時が来たと同時に素早く着替え……、
「スターパープル、見参!」
 紫色のマントをひるがえした、まるでアメコミや魔法少女のようなコスチューム姿に。
「行くわよ!」
 銀子がまず、『ハンマーマン』に組み付いた。彼女の身長では、そいつの脚までしか届かないが……、それでも『注目』させる事には成功。
 すかさず、後方から……、
「必殺!! パープルゥゥゥキィィィィック!!」
『ハンマーマン』の後頭部へ、強烈な跳び蹴りが決まった。
「オラオラッ! こっちもくらいナ!」
 続いて、神月のスカルブレイカーも叩き込まれ……後部がへこむ。
 続けざまに、巨大な炎の塊……プライド・ワンのデットヒートドライブが、『ハンマーマン』の死角より直撃。
 きりきり舞う敵へ、
「もらったです!」
 真理のフォートレスキャノンが、右腕に直撃した。
 金属の欠片が飛び、困惑したように『ハンマーマン』が、周囲を見回す。
「……風よ……」
 そして、愛剣……己が斬霊刀に『風』を纏わせた、ジークリットが、
「……真空の刃となり、我が剣となれ!」
『辻風』、真空の層を刀身に重ねた剣による『破鎧衝』を、右腕のハンマーへと叩き込んだ。

●倒壊させ続ける者たちの事
 ガッ……と、破壊音がしたが、それでも『ハンマーマン』の右腕のハンマーは完全には砕けていない。
 ジークリットの強烈な一撃は、確かにダモクレスへと痛手を与えはしていた。しかし、決定打としての一撃は、まだ与えられていない。
 加えて、『ハンマーマン』は、歩みを止めていない。ジークリット以外の攻撃も受け、それなりにダメージを蓄積しているはずなのに……動きは鈍いが、止まってはいない。
 つまり……こいつの『防御力』は、予想以上に高かったという事だ。
 そして、
「三分三十秒、経過です!」
 まゆの時計は、時間経過を残酷に示していた。
 更なる攻撃が放たれるも、敵はまだ動いている。時間をかければ、倒せはするだろう。しかし……その『かけるべき時間』は、おそらくもう無い。
 その事をケルベロスたちは、『直感』で悟っていた。
 そして、その『直感』を嘲るように。『ハンマーマン』は己の左腕を、後退した神月へと向けていた。
「来るカ!? 来やがレ!」
 ルーンアックスで、迎撃せんと身構える神月。
 が、
「下がれ!」
 上方から声がして、続いて、
 団地棟、第七棟が轟音と共に崩れ落ち、『ハンマーマン』を巻き込んで押しつぶしたのだ。
 その振動は、真向かいの第六棟にも届き……時間差で、第二の押しつぶしを食らわせた。
 まさにそれは、阿鼻叫喚の様相。ケルベロスらは、その降り注ぐコンクリと鉄筋の雨をなんとかかわし……生き埋め回避に成功した。
「『サイコフォース』を叩きこむのに、丁度いい位置に来てくれたぜ」
 倒壊の瞬間、上空にダブルジャンプして逃れた蒼眞は。
 ガレキで埋まった地面に、降り立った。
「……ケホッ……こりゃまタ、派手にやったもんだナ」
 埃に巻き込まれつつ神月は。周囲を見回し咳き込んだ。
「……奴は?」
 まだ、破壊された奴を見ていない。エメラルドが周囲を見回すが、
 瓦礫により完全に埋まってしまい、敵の姿は見えなかった。
「……これは、ちょっとまずいかもです」
 まゆと、
「計算外、だったですか?」
 真理が、焦りの言葉を。
 確かに、敵の動きは止められただろう。しかし……埋まってしまった敵の位置確認までは、考えが及ばなかった。
「? どうしました、プライド・ワン?」
 真理は、自身のライドキャリバーのヘッドライトが、『黄』から『赤』に変化したのに気付いたが、
「「「!?」」」
 次の瞬間、瓦礫を突き破って立ち上がった……『ハンマーマン』が現れた。構えるは『左腕』。
「なっ……」
 いきなりの出現と、その異様な面相。そして……、
「「「!?」」」
 その時、『残り二分』のアラームが、神月とエメラルドの時計から鳴り響いた。
 それらに全員が驚き、時間をかけすぎてしまった。立ち直るのに三秒もかけてしまったのだ。
 続く二秒で、『左腕』の、『明けの星』の射線から離れたケルベロスたちだったが、
 発射されたそれは、銀子へと放たれた。
「………ぐっ! ……がはあああっ!」
 銀子の位置は、射線からは外れていた。が、『明けの星』は曲線を描き……飛びのいた彼女へと直撃したのだ。
 更に不運な事に、『明けの星』はそれで勢いを止めず……後ろの八号棟の基部へ、銀子ごと叩き付けられた。
 ただでさえ、崩れやすくなっていた団地棟は……鉄球と銀子とを巻き込み、下敷きにし、轟音と共に雪崩を起こした。
「……っっざけんナァァァッ! こんクソダボガァァァッ!」
 怒りとともに神月は、両手にルーンアックスを握り突撃。『ダブルディバイド』の直撃を食らわせた。
 交差したアックスの一撃に、『ハンマーマン』の胴体、ないしはその装甲が切り裂かれる。
 左腕に戻りかけている『明けの星』の鎖へ、
「はっ!」
 エメラルドの『ジュデッカの刃』、氷の手刀がそれを切断した。
「パープルアイアンナックル!」
 スターパープルを名乗る紫の『戦術超鋼拳』が、装甲内部へ直撃。
 痙攣しつつ、残った右腕を振り上げ、動きを止める『ハンマーマン』
「やった……のか?」
 蒼眞が、注意深くそれを見据える。五秒経過するが、動く気配は無い。
 緊張を解きかけた、その時。
「いや……まだです!」
 瓦礫から自力で脱出した銀子が、半分砕けた『地面潰し』を振り下ろそうとした『ハンマーマン』の腕を受け止め、それを止めていた。
 今度は、戸惑うような動きをする『ハンマーマン』。
「獅子の力を、この身に宿し……」
 そいつの右ひじを、プロレスよろしく関節技をかけた銀子は、詠唱とともに体中に魔術紋章を浮かび上がらせた。
「……さあ、吹っ飛べ!」
 続き、右腕をへし折り、拳のラッシュを、『ハンマーマン』へ食らわせる。
『術紋・獅子心重撃(ジュモン・レオンハートインパクト)』。その必殺連打により、神月が切り裂いた装甲が砕かれた。
 それでも、『ハンマーマン』は倒れない。
 まゆのアラームが鳴る。残り一分。
「……全部、捉えたですよ」
 銀子が立ち退くと同時に、高速演算を終了させた真理が、アームドフォート主砲を発射、
 それは、
「一撃必砕! 全・力・全・開っ!」
 まゆの振り回したドラゴニックハンマー『Feldwebel des Stahles』の打撃と同時に着弾した。
『≪破鎧実行≫魔弾砲手(スナイピングプログラム・アーマーブレイクキャノン)』
 と、
『Centrifugal Hammer(セントリフューガルハンマー)』。
 精密射撃と豪快打撃の両方が、立て続けに『ハンマーマン』に叩き込まれ……、
 魔空回廊が出現すると同時に、『ハンマーマン』は、爆散した。

●倒壊して更地になった後の事
「銀子さん、だいじょうぶですか?」
「大丈夫よ、まゆさん。全身防御と、あなたのヒールドローンで、かろうじて防御できてたわ」
 とは言いつつ、彼女は傷を負い、疲労困憊。すぐにまゆは、治療を施し始めた。
「さて……あとはこのまま、何もせず帰宅できますですね」
「あア。ったク、無駄に頑丈な奴だったゼ」
 真理と神月に続き、
「あれも……重機代わりに土木工事にでも運用すれば、いくらでも活躍できたろうに」
 蒼眞がぼやきを。
「……え、えっと……残った九号棟も……崩れそう、です……」
 変身を解き、元の姿に戻った紫が警告する。
 見ると、九号棟の先に、業者の鈴木と、さっきの小学生たちの姿が。
 その姿を見て、
「いや、もう一仕事残っている」
「そうだな。この団地をヒールして、元に戻さなければ」
 エメラルドとジークリットは、そのままヒールを始めてしまった。
「え? あ、おい!」
 蒼眞が叫ぶが、時すでに遅し。
「人々にとって大切な家を守ること……これもまた、ケルベロスの使命だな」
「だいたい、こんな感じだったか? これで壊したことの詫びになっただろうか」
 二人のうろ覚えなヒールが為され、倒壊した団地は歪な形で修復。
 しかし、
「……さっき業者と、『団地は元から取り壊す予定だから、壊したらそのままでいい』って話し合ったはずですが?」
 丁寧になった蒼眞の言葉に、
「「……え?」」
 驚愕する二人。
 先刻の子供たちも、
「そうだよ。ここ、古くて危険だし、汚いし、別に大切でもないし」
「もう僕んとこも住んでないし。それに住民は、ほぼ全員引っ越し済みなんだけど」
「老朽化でコンクリの欠片落ちてきて、私のおばあちゃん入院したんだよ」
「危険だから早く更地にしてほしいって、町内会長さん言ってたわ」
 なのに、なんで元に戻すの。お姉さんたち、さっき僕らの話聞かなかったよね。勝手に思い込まれるの迷惑……などと言いつつ、子供たちは離れていった。
「……あの、こういう事されると困るんですが」
 再開発業者たちも、明らかに怒っている。
 他のケルベロスたちも、『これはまずいだろ』とばかりに頭を振る。
 かくして、
「……えーと」
「……どうすれば、詫びになるだろうか」
 言葉を失った二人は、責任を取るべく……、
 手渡された解体作業用ハンマーを振るい、たった今修復した団地棟を壊し始めた。
 解体は真夜中を過ぎても終わらず、その際二人は、
『もう一度、出てこないかな。ハンマーマン』
 と、一句浮かんだかどうかは、定かではない。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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