宇宙のグランドロン決戦~眩耀月暈

作者:黒塚婁

●眩耀月暈
 さて――集ったケルベロス達を一瞥すると、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は口を開いた。
 戦場を月面に移した『暗夜の宝石』攻略戦から早半月――そこで生き延びたマスター・ビースト残党達の動きを漸く――或いはいよいよ――掴んだのだという。
 神造レプリゼンタ三体を中心とした残党軍は、遺棄されていたソフィステギアのグランドロンを改修し、マスター・ビーストの遺産を運び出して地球へと向かっているらしい。
「残党どもは地球上の希少動物を絶滅させ、神造レプリゼンタを産み出す計画を目論んでいるらしい――なれば、奴らを地球に到達することを許すことはできん」
 彼は強い口調で天を見やる。
 ――しかし問題はそれだけではない。
 マスター・ビースト残党を降伏させて傘下に加えようと大阪のユグドラシル勢力から、レプリゼンタ・ロキと、ジュモー・エレクトリシアンが、グランドロンを利用して宇宙に向かっているらしい。
「残党はマスター・ビーストを失ったことで、士気が低下している――ゆえ、レプリゼンタ・ロキ有する戦力差の前に、戦う前に屈する可能性が高いと予測されている」
 無論、こちらとしてはそんなことを容認できぬ。
 できぬのだが、月へ行くのも容易ではない。
「ヘリオンの宇宙装備は現在NASAで調整のため、今すぐ動かせる数には限りがある。また『磨羯宮ブレイザブリク』の利用も行えん。そのため、少数精鋭での阻止作戦となる」
 少数精鋭での作戦を成功に導くため、先制攻撃と交渉で敵軍の合流を防ぎ、三つ巴の戦いへと持ち込む――というのが今回の作戦概要となる。
「貴様らには……そのどちらも成功したという前提で、作戦に臨んでもらいたい」
 辰砂はそこで一度言葉を切った。

 果たして、『先制攻撃』と『軍使』両作戦が成功していれば、マスター・ビースト残党、ユグドラシル勢力、そしてケルベロスと、三つ巴の戦いとなっているだろう。
「貴様らはどちらの勢力に攻撃を仕掛けるか、そして何を狙うか、それを考え作戦を練る必要がある」
 地球の動物種を滅ぼす計画は阻止せねばならぬ。よって、最低限『マスター・ビースト残党軍の破壊あるいは奪取』は為さねばならぬ。
 最大の危機はこれで回避可能となり――その上で、『神造レプリゼンタの撃破』『ジュモー・エレクトリシアンの撃破』『レプリゼンタ・ロキの撃破』『ジュモーのグランドロンの撃破或いは奪取』などが狙えるというわけだ。
「戦力に対し、こちらは寡兵。全て達成とはいかぬだろうが――より多くを為せれば好いが。確実に潰していくための采配も必要だろう」
 戦うばかりが策でもない――言いつつ、彼は僅かに笑った。らしくない、と思ったらしい。
 辰砂はそこまで説明すると、思い出したように肯いた。
「なお、先制攻撃と軍使による交渉が失敗した場合、攻撃は行えず撤退だ――だが朗報を受け取る暇もない。ゆえに貴様らは他の戦場の仲間を信じ、挑むしかあるまい」
 私もまた朗報を待とう――辰砂はかく告げ、すべての説明を終えるのだった。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
奏真・一十(無風徒行・e03433)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)

■リプレイ

●外壁
 月、宇宙――容易に訪れることが叶う場所でないのは、ケルベロスの身とて同じ事。不自由さもまた変わらず存在し。
 何より物見遊山というわけでもない。それなりの緊張感の中で――刻を待つ彼らは、多少、時間を持て余していた。
「いやはや、月に来るのは何回目でしょう。まさか此処まで近い存在になるとは」
 藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)が穏やかに笑む。敵陣の中に導かれてはいるのだが、未だその双眸を隠す眼鏡は掛けている。
「ダナ」
 口元に軽妙な笑みを湛え、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)は短く答えた。
 彼にとっては初めて訪れる場所――色々と興味は湧くが、目に見えて浮かれて見せるようなことはない。
 以前、月基地の作戦に参加したカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)の思いをしればこそ。彼は今、じっとグランドロンを見つめていた。
 かの内部で、現在マスター・ビースト残党軍とケルベロスの交渉が行われ――そして話が進んだのだろう。彼らは外壁近くまでの接近を許されていた。
「交渉にも先制にも懸念など無かったが――見事なものだ」
 奏真・一十(無風徒行・e03433)は軽く目を伏せた。
「……ずいぶん乱暴な手段に打って出たものであるなあ。創造主を喪っては、形振り構って居られんか」
 主の腕の中に留まるのを拒んで、自由にふわり漂うサキミを、あまり遠くに行くなと引き寄せようとしたが、尻尾で跳ねられてしまった。
 気にせず肩を竦める一十に、いつもの調子を崩さぬ姿を見、キソラは相好を崩す。
 いずれにせよ、今は待つしかない――そして、此処まで来たならば、このまま帰途に就く心配もあるまい。
「地球の平穏はまだ遠くっすけど、こうして一つ一つ不穏を除いていけてるだけマシっすね。ここでも一つ不穏の種を摘むっすよ」
 篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)の言葉に、アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)は軽く肯いた。
「此処が何処であろうと、人が少なかろうと……いつも通り落ち着いてやっていくだけ」
 詳らかにされた基地の裏側に思うところはあるが――否、彼女はひとたび思考を打ち切るように、顔を上げる。
 その金瞳が不意に捉えた、あれは。
「あれはユグドラシル勢力のグランドロンかしら……」
 ぽつりと零す。視認出来るほど近づいたのだ、そう自覚した時だ。
 ――轟音が眼前より轟く。衝撃が地続きにこちらまで響く。何事かと構える前に、目の前に劇的な変化があった。
 グランドロンの外壁が破壊され、内部で戦う仲間の姿が見えた。
 ――凪いでいた刻が、一気に動き出す。
「やっと出番ですね? さあさあすぐに向かいましょう」
 うきうきとラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が炎を滾らせる。表に燃える赤こそ、彼の感情を隠さず吐露するもの。
 ああ、極めて冷静に頷きながら、八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)の緑瞳には、戦いに向けた期待の輝きが確かにあった。

●突破
 残党を狙うケルベロス達はこぞり、一気にグランドロンの内部へ雪崩れ込む――行く手を阻むは神造デウスエクスモドキである。
 動物を模した怪異なる敵へ、退きな、とキソラがグラビティ・チェインを濃縮して叩きつける。飄と傾げた躰の向こう、伸びる爪を景臣の剣が柔らかに受け止めた。
 一十の鎖の加護が堅固に彼らを高め、佐久弥の独特の形をした鉄塊剣が強烈な旋風で迫る獣を退ければ、ラーヴァの腕が胸を貫く。
 蹌踉けたところで、光に呑まれる。アリシスフェイルの構えた白銀の砲身より放たれた光線が消し飛ばしたのだ。
 サキミより水の属性を受け取りながら、紫々彦の指先はデウスエクスの額を捉えた。気脈を断たれた躰が、ぴきり、と強ばる。その背後から、軽い掛け声ひとつ――カルナが超加速したハンマーを叩きつけて、また一体。
 確実に、迅速に――立ち塞がる敵を排して前へと進む。彼らの動きは洗練され、判断に迷いもなかった。
 先陣を切って彼らは路を切り拓く。目指すは中枢。
 グランドロン内部の敵は混乱の渦中にあり、急襲に対応できぬ儘に屠られ、運が良ければ置き去りにされた。
 交渉班は見事に完遂したのだ――こちらも答えなければ。佐久弥の剣握る手に力が籠もる。

 やがて中枢へと踏み込めば、三体の神造レプリゼンタは怒りを隠さず、ケルベロス達を迎え撃つ――共闘の裏切りは既に報されているようだ。
 だが、こちらとて攻撃に躊躇いはない。
「よおカイジュウモドキ、テメェの遊び相手はコッチだ」
 挑発と共にキソラが竜砲弾を撃ち込めば、重ねて景臣が白花のピースを手に、竜を象った稲妻を走らせた。
 アリシスフェイルの光線と、ラーヴァの光線矢が一斉に解き放たれ、戦場を眩く照らす。
「穿て、幻魔の剣よ」
 そして、不可視の魔剣と共に竜の翼を広げたカルナが迫る。
 魔力の塊が、屈強なそれの体表で弾け、傷をつける――もうもうと光や煙が立ちこめ、晴れていく。
「信頼は、していなかったのだがな……」
 獣はただ唸るように言う。総攻撃が堪えた様子はない。
 それでこそ、カルナは僅かに微笑む。
「僕のこと覚えてますかね? ……どちらでも構いませんが、決着をつけにきました」
 ギガトラルドンへ、何処か朗らかに――然れど、強い声音で彼は告げた。

●死なずの獣
 ギガトラルドンはその巨躯をもって、ケルベロス達を弾き飛ばす。然れど、その膂力の凄まじさは既に知っている。彼らは慎重な布陣をもって相対する。
「磐石であるに越したことはありません。」
 景臣が愛刀に掌添え、囁けば。刀身に纏う朧げなる紅が膨れ、揺蕩う紅く燃ゆる蝶の群れと化す――護りを務める皆に幽玄の加護を。
 そこに佐久弥の祝詞が重なる。
「俺は捨てられたモノども率いる敗者達の王。この背を見つめるモノがある限り――再起を誓い、不屈を約さん!!」
 棄てられし物を積み重ね、自分を為した彼の根底からの誓いだ。
 重ね、十一が黄金の果実を翳し、その光で傷付いた者達を遍く照らす。
「なかなかパワーのある相手のようでございますが。此方もそう簡単に崩れるものじゃあないです、よねえ」
 兜をごうごうと盛んに燃やし、ラーヴァが光の盾を精製する。盾と同時にサキミからの援護を受け取った紫々彦が、瞬時、距離を結んで傷を狙う。
 蹴撃は確かな手応えを感じたが――彼は色の薄い眉宇を微かに寄せた。
 獣は微動だにしない。否、傷など省みぬというような。
 背で、凄まじい風が吹いた。カルナがハンマーを振り下ろす。進化の可能性を奪い、凍結する打撃が獣の背を強か撃つ。
「頑丈さは噂通りな」
 キソラが遠くで軽く呟き、竜砲弾を放てば、合わせアリシスフェイルが流星を纏って飛来する。羽ばたくように軽やかに、重力を載せて強烈に。併し、彼女もまた思う。
「まるで岩だわ」
 そして、それ以上に――獣の傷はあっさりと薄くなっていく。これと戦っているのは彼らだけではない。十数を越える手勢の刻んだ疵が、一息に癒えていく。
 なるほど、と一十が顎に手をやった――これが神造レプリゼンタの特性だった。知っていても、目の当たりにするのは又違う。
 それを再確認したことで、景臣は紅揺れる藤の瞳を細くする。
「マスター・ビーストの残滓、誠心誠意片付けさせて頂きます」
 隙なく構えた男より――主の名を聞いた獣からも、鋭い殺気が溢れ出す。
 低く、重く四肢を溜め、ギガトラルドンは弾けるように突進した。
 佐久弥の胸からプラズマが走り――その輝きを腕から鉄塊剣に絡め、振り下ろす。
 然し、止めきれぬ。
 弓を手にした儘、金の羽根飾り揺らしラーヴァが躰で押さえに行く。その肘から先が凶器と尖るは、ただの甲冑ではないゆえに。
 容赦なく鼻先へ旋回する腕をねじ込み、脇から景臣が雷纏う刃を腕の付け根に差し入れた。
「……少し手荒ですかね? ふふ、あの方には借りがあるから……という訳ではないですよ?」
 月基地にて獣の主と交戦し、負傷したという因果が景臣にはある。
 再び獣は奮起したか。傷を諸ともせず、身を返す。逃がさん、即時、紫々彦の斧が光り輝く呪力を叩きつけた。
「大丈夫。治る!」
 前向きな一十の声音と同時、百合の攻性植物が佐久弥の傷口に潜り込むと、開いて閉ざす。見た目は非常におっかないが、傷は奇麗に塞がる。いわゆる生身でなくとも。
「ありがとっす!」
 佐久弥は弾丸のように戦線に戻る――その背を宵の瞳で見送ると、癒やし手は戦場に目を配る。
 サキミも主に示唆されるまでもなく忙しく戦場を翔けて、その水の癒しを分けていた。
 二班で当たる分、戦力は充分だ。獣の一撃は苛烈だが、回復が間に合わぬほどでもない。
 辛抱強く戦えばいいだろう――ただ『先が見えない』が。
 それにげんなりするような心は両脚と同じく地獄の炎に変えてしまった一十は、淡淡と次の一手に向け、エネルギー光球を掌に作り出す。
 受け取ったカルナは、幾倍か勢いを増した光の剣を、獣の首へと落とす。
 鮮やかな一閃は太い首を滑らかに斬首するように走った。
 討ち取った――思う手応えであった。獣も膝を折るように崩れ落ち――刹那、その躰が力を取り戻し、再度立ち上がる。
 凌駕した、のではない。これは肉体の賦活による回復だ。殆ど無意識に、勝手に行われ続ける再生。
「あァ――聴いてたケド、コイツ」
 皆まで言わずキソラが空の瞳を細めた。攻め手を緩めず、同時に相手を爆破で襲いながら。
「生きたいと願う気持ちはよく分かるけど――決して僕らと相容れない」
 その衝撃を盾に軽い跳躍で下がりながら、カルナは囁く。
 彼らが生み出された経緯は、地上の視点であれば、耐えがたいものがある。
 されど――如何なる生を受けようと、獣の知ったことではない。そして創造主をも失った彼らの先行きは、宇宙よりも暗き深淵の向こう。
 必死に足掻くのは、解る。
「退いてくれるならそれでも良いかとは思ったけど……」
 アリシスフェイルは金瞳を軽く伏せた。
 でも、彼らに必要なのは、昏迷の生ではなく此処でその命をちゃんと終わらせること――自分勝手な話だけどと自嘲を湛え。
 憐憫を抱こうとも、結局、銃砲を降ろすことはできないのだ。
「結局私が守りたいものに害を為す可能性があるのなら、倒さないという選択肢は私にはないもの」
 凍結光線が敵と彼女を結ぶ――獣は避けぬ。受け止めることで、凌ぐ。
 不死性を見せつけながら、戦い続ける。
 翡翠の瞳を逸らさず――カルナは、アリシスフェイルの言葉に肯いた。
「ええ……これは僕のエゴに過ぎないと自覚はあります――でも、できればこの歪められた生に終止符を打ってやりたい」
 するりと前に出た景臣は地獄の炎弾を叩き込みながら、そうですね、と囁いた。
「置いてゆかれるばかりも、寂しいでしょうしね」

●終焉
 十分――二十分は過ぎた。獣はまだ倒れない。正確には、倒れても起き上がる。十六のケルベロスの攻撃を受けても尚、斃れられぬことを怖れるべきか憐れむべきか。
「雪しまき、影は遠く音も失せ」
 謳い、紫々彦は激しい吹雪を呼びて、獣の四肢を凍え縛る。癒えて覆われようと刻みつけた呪は消えぬ。
「生きて帰れると、思うなよ」
 それは告げるに、そのままお返ししますと景臣は鋭い一刀と共に間合いを取り直す。

 ――その瞬間は、唐突に訪れた。
 グランドロンが崩れていく――無数のコギトエルゴスムに変化して、その形状が保てなくなったのだ。輝きが零れていく光景を見、やってくれたようだな、一十がつと呟く。
「……な!」
 グランドロンの解放にも動く班があったことを知るのはケルベロスのみ。ギガトラルドンは茫然と、目の前で起こっている事を眺めるしかない。
 景臣は穏やかに微笑する。マスター・ビーストの遺物もひとつずつ潰えて、終わろうとしている。
 敵の邪魔はたのしい、愉快そうにラーヴァは嗤い、弦を引く。此度は盾、しかし元々彼は弩。ぎりぎりと音が鳴るほど弦を引き絞り、強烈な一矢を天へと放つ。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
 滝と落ちる焔が獣を呑み込む。呪を燃やしながら再燃させ、身じろぎを許さぬ。
 それでも獣は足掻いた。上半身を乱暴に振り乱すような乱打の前へ、足元のオウガメタルが距離を縮めるよう、佐久弥を導いた。駆けつけた勢いの儘、剣に炎纏わせ、叩きつける。
 ガントレットの指先が獣に触れる――紫々彦が身を倒せば、跳躍したカルナが加速するハンマーを上から振り下ろす。
 隙の無いタイミングで炎弾が退こうとする獣を阻む。
「――何処へ行くのです?」
 冷ややかな問い掛けを景臣は投げ乍ら――至近よりみる獣の肉体は、徐々に崩れつつあるようだった。
「覆い尽くせ、」
 キソラが駆る。滑走する靴の助けを借りて、瞬時に距離をつめた彼は、腕に纏う不可視の鎖を獣の躰に叩き込む。それは闇となりて広がり――重圧がぎちりと身を締め付ける。
 そこへ、晩靄に似た地獄の炎を絡めた鎖が重なり、更に堅く締め上げた。
 治療はサキミに任せ、キソラと共に駆けてきた一十は、柔らかに目を細めて囁く。
「神造レプリゼンタ、哀しき獣たち――正しく死ぬまでが生命だ」
 彼の言葉に、アリシスフェイルは徐に両眼を開く――そう、命は尽きるもの。
 累々と注ぐ、皆の攻撃がその当たり前を導いていく。
 躍動する皆より一歩退いた場所で、詠唱を唇に載せた。
「錫から天石に至り……置き去りの哀哭、壊れた夢の痕で侵せ――」
 柩の青痕、解放の詞と同時に掌を差し向ければ、放たれる青と灰の光が絡み合う棘の槍。
 逃さぬように大地に縫い止める、魔女の呪い。
 巨体に刺さった棘は魔力の網を血肉に巡らせ、夢を見せる。
「宙にだってその身縫い止めてみせるわ」
 声音は強かにギガトラルドンの終わりを告げる。
 それでも――逝かせるならば、優しい夢の中で逝けるよう。
 獣が見るのは、大地の夢か、宙の夢か。

「――私の槍からは逃げられない。」
 青い髪を靡かせた男が爆ぜるように距離を詰め。深く、獣を刺し貫いた。
 最後に、獣は小さく呻く。

「……マスター――」

 それが崩れ落ち、輪郭を失っていくのを見つめ乍ら、様々な意味で安堵を覚え、アリシスフェイルはそっと息を吐く。
「せめて死骸は故郷の地球に持って帰ってやりたかったのですが……」
 カルナが虚空に零すと、
「悪ィな」
 希望を叶えてやれない事を誰に詫びたか。キソラの言葉に、景臣は瞼を伏せる。
「さて――私共もコギトエルゴスムの回収は必要でしょうか?」
 ラーヴァが思いついたように口にすれば、ならば急いだ方が良いと紫々彦が示唆する。
 一十はサキミが舞うのを目で追った。グランドロンがゆっくりと着実に形を崩していく。このまま留まってはおられまい。
「……行くっすよ!」
 先へ。佐久弥が声をかけ――彼らは踵を返した。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。