鶏の唐揚げ食べ放題(¥1000)

作者:星垣えん

●油はやめなさいよってことか
 ざくざくとした衣、ジューシーでぷりっとした鶏肉。
 ――カラッと揚げられた鶏の唐揚げというものは、いつだって最強である。
「はぁー……美味ぇ」
「ざくっとしっかりした衣の中の柔らかなモモ肉……」
「すいませんご飯下さい」
 都内にある小さな唐揚げ専門店は、夕方からもうすでに満員の大盛況だった。
 表通りから奥まった立地はなかなか人々の目に触れづらいにも拘らず、それだけの客を呼びこめるのは当然ながら唐揚げが最高に美味いからだ。噛み応えのある衣と熱々ジューシーな肉は中毒性すら感じられる代物である。
 しかし、店の人気の秘密は、実は味だけではい。
「これで食べ放題だもんね……最高!」
「何も気にせずガンガン、腹が求めるままに食える幸せ!」
「ビールも進むし米も進むぜぇ!!」
 2個、3個とぱくぱく唐揚げを頬張った客たちが、ぐいっとビールをあおる。そしてジョッキが空になればおかわりを頼み、1杯が来るまでにまた唐揚げをもぐもぐする。
 そう、この店は唐揚げ食べ放題を提供していたのだ!
 席料がやたら高いとかセットで何か頼まなければいけないとかいうこともなく、千円でガチで食べ放題。「すいません追加で」とか軽いノリで言っちゃえば皿に山盛りになった唐揚げがどどーんと姿を現すのである。
 まさにパラダイス。
 美味しい鶏の唐揚げを思う存分に食べられるそこは、唐揚げを愛する人々の笑顔でただただ溢れていた。
 だが忘れてはいけない。
 そういう場所にこそ、鳥の姿をしたアレがやってくることを。
「貴様らぁぁぁ!! 許さんぞ! 鶏の唐揚げなど俺は絶対に認めない!!!」
 がらっ、と豪快に戸を開けて現れたのは、やっぱりいつものビルシャナさんだった。
 そのまま「揚げるんじゃねえ!」とか言いだして暴れまくるビルシャナさんは、どっからどう見ても鶏さんだった。

●唐揚げ食べるひとー
「鶏の唐揚げの食べ放題かぁ……考えただけでお腹が空いてきた」
「ねむも想像しただけでよだれが出ちゃいそうです……」
 緊急の依頼と聞いてやってきてみれば、ラッセル・フォリア(羊草・e17713)と笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が2人でタブレットを覗きこんでいた。
 後ろに回って画面を見てみる一同。
 2人が熱心に見つめているのは、鶏の唐揚げの画像だった。
 『鶏の唐揚げ』で検索して出てきた画像たちだった。
「唐揚げ専門店を襲撃するビルシャナさんが現れるんですよー」
「だからこうして気持ちを高めてるんだよ」
 画面から目を離さずに何か言いだす、ねむとラッセル。
 2人の後頭部を見ながら猟犬たちは察した。
 これ今日、唐揚げを食いに行くんだな、と。
 ふと見たらそばにねむのリュックが置いてあって、そこから今回の事件の資料っぽいプリントも覗いていたので、一同はそれを読んで確認した。
 中身は3行だった。

 ビルシャナさんが唐揚げ屋さんを襲撃です!
 信者さんがいません!
 食べ放題です!

 ねむちゃんが書きなぐった字をすべて読んだ猟犬たちは、プリントをくしゃっと丸める。
 色々とひどかった。
 だいたい状況はわかったけど最後らへんがひどかった。
「ビルシャナさんが襲撃するお店は、唐揚げが千円で食べ放題みたいです! もちろんドリンク代とかは別でかかりますけど……これを頼まない手はないとねむは思います!」
「カリカリの衣と柔らかなモモ肉、それを好きなだけ自由に食べられる。そんな店を前にして、鳥を倒したからはい帰ろうだなんてオレにはできないよ……」
 いつの間にか画像を堪能し終えたっぽいねむとラッセルが、やたら燃えた眼差しで猟犬たちに訴えかけてくる。
 それを受けて一同も覚悟を決めた。
 今日は! 唐揚げを! 食べまくるしかないなって!
 ねむは皆の顔を見て満足そうに頷くと、ヘリオンへとてってけ駆けだした。
「さあ、唐揚げ食べたい人はねむの背中についてこいですよ! 全速れっつごーです!」
「よぉし唐揚げパーティーに突入だ!」
 ハイテンションでねむに続いてゆくラッセル。
 かくして、猟犬たちは唐揚げを好きなだけ食べに行くのだった。


参加者
和郁・ゆりあ(揺すり花・e01455)
ヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
ラッセル・フォリア(羊草・e17713)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)

■リプレイ

●なんと無惨な
 香ばしい匂い漂う、唐揚げ店。
 その一角にあるテーブルに、エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)とエレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)は背筋ピーンで座っていた。
「食べ放題よ!!!!!!」
「食べ放題パオ!!!!!」
 銃弾とか跳ね返せそうな圧で、くわっとする2人。あとトピアリウス(テレビウム)。
 テンション爆上げである。
 そして、ヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)もテンション爆上げである。
「あたしは鶏さんの卵も大好きだけど……お肉も大好きなんだよ……!」
 背景に炎(イメージ)を燃え滾らせるヴィヴィアンさん。その炎の圧に可愛らしいアネリー(ボクスドラゴン)がびっくりするが、彼女の眼にはそれすらも映らない。
「楽しみだね!」
「ええ、楽しみね!」
「楽しみなのパオ!」
 うふふ、と急に淑やかになる3人。
 と思えば次の瞬間にはカラアゲダーカラアゲダーと合唱するさまを、和郁・ゆりあ(揺すり花・e01455)は頬杖つきながら流し目で見守る。
「みんな振りきれすぎじゃない……? まあ気持ちはわかるけど」
 1歩引いた大人の顔を作るゆりあ。
 店までの道中ではしゃぎまくったおかげで、今は一周して落ち着いています。
 そんな感じで軽く女子会の様相を呈する猟犬たち。
 ――しかしその姦しい感じのバックで、遠く声が聞こえる。
 視点をそっちに移すと……。
「からあげ食べルヒト! ハイ!」
「はーい! あたしも大きいの食べてみたーい!」
「やめろぉぉぉ! 解体はやめろってぇぇぇ!!」
 簀巻きにされた鶏さんもといビルシャナが、チェーンソー剣をぶいんぶいんするアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)に必死に命乞いしていた。そしてその横でアミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)がビシッ、ビシッ、としつこいほど挙手していた。
 R15ぐらいつきそうな残虐シーンだったと思う。
 ちなみに言うまでもないが説明しておこう。猟犬たちは店に着くなり騒がしい鶏シャナをボコり、ぐるぐる縛りつけにしていたのだ。その状態でゆりあとかは着座していたのだ。
「助けてそこの人ー!」
「ちょっと! 食べ放題って時間制限があるんだから邪魔しないでよ!?」
「へぶらっ!?」
 体全体を使った海老ジャンプで助けを求めた鶏シャナが、エディスの猛々しく振るわれた尻尾にぶっ飛ばされて床にめり込む。
 若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)はそんな可哀想な鶏の背中に日本刀を突きつけて、北極を思わせる冷たい瞳で告げる。
「どう見ても食材です、あきらめてめぐみたちの血肉になってください」
「命を諦める生物がいるわけが――」
「えいっ」
「アァーッ!?」
 ぶすっ、と容赦なく刺される鶏。
「血抜きってってこんな感じですかね?」
「ついでに身を叩いて柔らかくしましょうよ」
「いやいや、これ食べなくても。これよりいい鶏使ってるでしょこの店」
「ねえ何!? 何を喋ってるの!?」
 それぞれ日本刀とドラゴニックハンマー持ったまま真剣に会話するめぐみ&アミル、とそこにツッコむゆりあを見上げ、ふるふると震える鶏。
 ラッセル・フォリア(羊草・e17713)はその肩に、優しく手を置いた。
「唐揚げが嫌いってことはヘルシー志向なんだろうけど……営業妨害はギルティだよ!」
「別にそういうわけじゃないけど!?」
「あれ、鶏肉自体が嫌いなタイプ? 他の肉や魚ならいいのかな?」
「それも違いマスケド!?」
「鶏肉は煮物でも酒蒸しでも美味しいし、良い食材だよ。内臓も鍋の具や焼物になるし卵も栄養豊富だし」
「俺の言葉聞いてる!?」
 やかましいほど抗議するが、ラッセルは涼しい顔でどこかへ向けて語りつづけた。
 ああこれ話を聞かない人だ――鶏シャナは一瞬で理解した。
 どんよりと落ちる肩。そこにまた、誰かの手が乗った。
 その小さな手の主は、エレコだった。
「鳥さんだって他の小鳥を食べたりするのパオ。だから、あなただって唐揚げ食べたって大丈夫なのパオ」
「いや食いたいわけじゃNEEEEE!!!」
 絶叫である。
 小象の言葉がてんで的外れすぎて絶望の鶏シャナである。
「別に羨ましいとかそんなんじゃなくてさあ! 鶏にだって命が」
「こんなにおいしいものを食べないなんてもったいないのパオ! とっぴー! 教えてあげてパオ!」
 声を荒らげて大きくひらかれた鶏シャナの口に、トピアリウスの投げこんだ剛速球(揚げたての唐揚げ)がズドォォン!
「ぐああああああっ!?」
 口内で暴れる高温に悶絶する鶏シャナ。
 その後、彼はなんやかんや斬られ殴られ、死んだ。

●明日よりも今日
 唐揚げが、山だった。
 唐揚げの食べ放題を意気揚々と注文した猟犬たちは、今まさに、テーブル中央に雄大に屹立する唐揚げの山の美観に圧倒されていた。
「うず高くお皿に盛られタ唐揚げ……思わず拝みたくなル光景ダナ……」
「これが千円ぽっきり……朝から何も食べないで来たあたしの約束された勝利ね!」
 きらんきらん、と星の瞳で唐揚げタワーを見つめるアリャリァリャとアミル。
 2人がごくりと喉を鳴らすのを見て、なぜかうんうんと頷いたヴィヴィアンは、なみなみと注がれたジョッキ(ジュース)を高く掲げた。
「さあ、唐揚げパーティーだよ! かんぱーい!」
『かんぱーい!!!』
 重なる8つの声。
 フレンド登録など必要ない……そう言わんばかりの抜群のコンビネーションで、仲間たちは盛大に飲み物の器を打ち鳴らし、戦闘(ぱーりぃ)を開始した。
 揚げたての唐揚げを口に放る。
 その刹那、肉と脂の旨味が口内に爆発する。しっかりざっくり揚がった衣は抜群の食感で、その下にあるジューシーなモモ肉と合わされば……美味くないわけがない。
「肉厚でプリップリのお肉! ザクザク触感の衣は厚すぎず薄すぎず絶妙……! ご飯も加速すルニクい濃味!」
「揚げたての唐揚げって本当に至福だよね~。アネリーもそう思うよね?」
 もはや吸いこむ勢いで唐揚げを食い荒らすアリャリァリャ。ヴィヴィアンは前脚を器用に使ってゆっくり食べてるアネリーと顔を見合わせてほんわか笑う。
 そしてアミルは唐揚げをむぐむぐと頬張りながら、白米の茶碗とジョッキビールの二刀流を決めていた。
「ちっちゃいケーキセットが2千円。そんな映えるオシャレでカワイイカフェもすきよ。
 でもあたしには、この食べ放題こそ至高。明日胃もたれしたっていい。今この瞬間を楽しまなくちゃバチが当たるわ!」
「「おー!」」
 戦士の啖呵に、アリャリァリャとヴィヴィアンが天に手をかざす。
 同志の言葉に賛同せずにはいられなかった。
 それと、
「あの、唐揚げの追加お願いします!」
「大皿10枚ぐらい持ってキテくれ!」
 おかわりしたかった。
 その傍らで、めぐみとラッセルは比較的静かに、唐揚げをつまむ。
「外はサクサク中はプリプリ。唐揚げの王道ですね」
「うん、美味しい……こっちの皮とか胸肉、手羽もいいよ」
「あ、食べてみたいです。こっちに回してください」
 種類分けされた皿をラッセルに回してもらい、ためらいなく箸で取るめぐみ。モモ肉に比べれば味わいはさっぱりしていたが、だからこそソースの味がよく立って、それもまたやはり格別の美味さだった。
 タルタルソースをかけた胸肉の唐揚げを見つめて、息をつくめぐみ。
「ねむちゃんも来れればよかったんですけど……」
「まあヘリオライダーさんも忙しいから……あ、粉チーズ美味しい」
「ですよね。山椒もぴりっと香って美味しいです」
「お口に合って何よりだよ」
 しょんぼり消沈気味のめぐみを励ましつつ、無意識に食べていた唐揚げの味にパッと目を見開くラッセル。めぐみが持ってきた粉チーズの塩気もなかなかに合う。ラッセルが持参した山椒もピリッとアクセントが利いて、ついつい二度三度とリピートしてしまうめぐみである。
 その様子をもぐもぐ食べながら覗いていたエレコが、くるっとゆりあに振り返った。
「この塩コショウも王道の味で大好きパオけど、ほかにもいっぱい種類があるのパオね!」
「ぱおさん、唐揚げの可能性は無限大なのよ。こっちのカレー味も良いから食べて!」
「確かに美味しいわ!」
「あっ、エディちゃんがとっちゃったのパオー!」
 ゆりあが勧めたカレー粉の唐揚げを横からかっさらったエディスに、大きなお耳を振り乱して抗議するエレコ。しかしエディスはどこ吹く風でとろんと顔を綻ばせている。
「これは食べる手が止まらないわね……」
「だからってぽこさん、子供の唐揚げを取るのはちょっと……」
「我輩は子供じゃないのパオ!」
「そこに反応するの!?」
 エディスを諭したつもりなのに、横からガチのトーンでエレコに絡まれてもう困惑するしかないゆりあ。あちこちに照準が飛びすぎて3人の会話はもはや収拾不可能である。
 が、それも一瞬のうちに静かになる。
 美味しい唐揚げをもぐもぐと食べれば、3人は何を喋っていたかも忘れていた。
「やっぱ食べ放題って最高よね……」
「千円なんて、こすぱ? がいいのパオ! 太っちゃうのが怖いパオけど……やめられない止まらないのパオ」
「ダイエットは明日のアタシ達に任せて今日はとことん食べちゃいましょ!」
「そ、そうパオね!」
「ぽこさん、いいこと言うー!」
 かぁん、と無意味に乾杯する3人。
 明日の苦労は明日の自分へ。
 体重計乗って絶望するフラグを立てながら、女たちは唐揚げを食いまくるのだった。

●戦い方はひとつじゃない
 戦闘開始から小一時間。
 いい感じに空腹も収まってきた猟犬たちは、唐揚げをかっ喰らうペースを落とし、代わりに様々な調味料を並べてじっくりと味変を堪能していた。
 めぐみはらぶりん(ナノナノ)と一緒に、鮮やかな梅干しペーストを塗った唐揚げを、はむっと頬張る。こってりした脂を梅の風味と酸味が消してくれて、幾多の戦いで重くなった口が一気にリフレッシュする。
「食べ放題は気兼ねなく味を試せるのがいいですよね」
「そうね。おろしポン酢もさっぱり食べられて最高だわ!」
「甘酢あんかけオン・ザ・ライス! 口の中に天国のゲートが開くゾ!」
 おろしポン酢をかけた唐揚げを食うアミルが、甘酢あんを絡めた唐揚げで丼を創造したアリャリァリャが、頬を膨らませながら力強く頷く。
 あまりに全力。
 あてがわれた鶏ささみをもちょもちょ齧っていたチャロ(ウイングキャット)が、じりじりと遠ざかってゆくぐらい、アミルたちは全力だった。
「あっ、ネギソースも食べなきゃ。すいませーんビールおかわり!」
「ウチは柚子味噌でいただくゾ!」
「うーん。じゃあめぐみは七味唐辛子でもいってみますか」
 その勢い、衰えるところを知らぬアミル、アリャリァリャ、めぐみ。
 そんな3人の横では、同じく未だペースが落ちぬ3人がわいわいと食べている。
「アタシ、意外とチリソースで食べるの好きよ。ほらゆりあ、あーん」
「あーんがナチュラルすぎるんですけどぽこさん……食べるけど!」
「あっ、我輩も食べてみたいのパオ! あーん!」
 チリソースがけの唐揚げを箸で持つエディスに、口を開けて攻めこむゆりあ&エレコ。相変わらず楽しくやっている模様。
 が、そのときエレコは不穏な動きに気づく。
 トピアリウスが怪しげな小鉢を片手に、こそこそ動いていたのだ。
「とっぴーそれ何パオ? え、塩ヨーグルト!?」
「えっ、ちょっ、無言でかけないでゆりあのに」
 ゆりあがトピアリウスを止めんと手を伸ばすが時すでに遅し。
 唐揚げにはこんもりと塩ヨーグルトが盛られてしまっていた。それどころかトピアリウスは戦闘時にも見せぬ機敏さでエディスの唐揚げも白塗りに変えてしまう。
「やるわねとっぴー……」
「これ食べろってことかしら……まあかけられたものは仕方ない……」
 若干の恐怖を抱きつつ、恐る恐る塩ヨーグルト唐揚げを齧るエディスとゆりあ。
 なお、その後立ち上がってトピアリウスを捕まえ、塩ヨーグルトを強奪していたので意外と美味かったようです。
「塩ヨーグルト……そんなものがあるんだね」
「ちょっと気になる……あとで味見させてもらおうかなぁ」
 ゆりあたちの騒がしさを横で見ていたラッセルが感心すると、ヴィヴィアンはアネリーが食べる唐揚げにマヨネーズをディップしてあげながら興味を示す。
「それはただのマヨネーズ?」
「うん、でもここに一味唐辛子をちょっとかけるんだ。これがお気に入りー」
 伸ばしてきたアネリーの前脚に唐揚げを乗せつつ、柔らかく笑うヴィヴィアン。付け合わせのサラダ(食べ放題だけじゃ申し訳なくて頼んだ)と唐揚げをつまむと、ジョッキビール(ノリに流された)をぐいっと飲んで小さく息をつく。
「今日は鶏さんに感謝しなくちゃ、ね!」
「そうだね。いい店に来れたし」
 烏龍茶を飲み、ポテトサラダをつまむラッセル。それを嚥下すると、男は唐揚げに調理味噌を持ってパクッと食べた。
 ヴィヴィアンの眼が、きらりと光る。
「ラッセルちゃん、それは……」
「これ? メニューにあったからさ。なかなか美味しいよ。タルタルソースもいいし……」
「あたしも食べたい! ちょっとちょうだい?」
「もちろん」
「わーい!」
 ラッセルから恭しく小鉢を受け取り、宝を覗くように味噌を見下ろすヴィヴィアン。
 食べ放題。
 その宴は、まだ少しだけ続くのだった。

●まんぷく
 戦場とは、戦が終われば静けさに包まれる。
 猟犬たちがついていたテーブルも、その例に漏れることはなかった。
「大満足だったわ!」
「天国だったわね……ビール美味しかった」
「ガンダーラの地鶏に感謝ダナ!」
「う~ん……目が回るぅ……」
 なんか艶々になった顔で、まったりしてるエディス、アミル、アリャリァリャ。そしてぐったり突っ伏して、アネリーに頭をなでなでされているヴィヴィアン。
 成人したばかりで酒の経験が浅い20歳は、雰囲気に呑まれて初めて外で酒を楽しんだ結果、ノックアウトされていた。
「ヴィヴィアンさん、大丈夫パオ? これお水なのパオ」
「とりあえず良くなるまで、ゆっくりしないとね」
「ん~……ありがとう……」
 エレコとゆりあからの気遣いを受け、伏したままのたのた動いて礼を言うヴィヴィアン。
 でもこれは当分帰れませんね。間違いありません。
 一方、食いまくったにも関わらずケロッとしているめぐみは、テイクアウトに包んでもらった唐揚げを持ち上げてニコニコと笑っていた。
「美味しい唐揚げでしたし、ねむちゃんにもお土産持って帰ってあげないとですよね」
「そうだね。オレもちょっと買っていってあげようかな……」
 年長者として仲間を代表してお会計したラッセルが、財布を仕舞いかけた手を止める。
 そして次の瞬間には、両手に大量の唐揚げを抱えていた。
 これは、幼きヘリオライダーが太らないことを祈るしかありませんね。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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