演劇に非ず

作者:四季乃

●Accident
 人が沢山いる。
 まるで餌に群がる蟻のように、死体に湧く蛆のように。
「うっわぁ、あれぜぇーんぶ薙ぎ払ったらスッキリしそう~!」
 うきうき・わくわくといった風に大きな背中を丸めて眼下を見下ろす男の表情は、輝いていた。眼は爛々として、唇は喜びと笑いを噛み締めたようにムズムズと引き結ばれている。加えてそわそわと肩を弾ませた様子を見るに、じっとしているのが性に合わないことが窺える。
「こういうのって、最初が肝心だよね。まずはあの中心に飛び降りて注目を集めてから……いや待てよ、上空から回転斬りで登場するのも悪くないぞう」
 肩に担いだ相棒・大槍をちらちら見ながら、男は唇の端から吐息が漏れるような笑いを零す。シミュレーションするのはいつだって楽しい。自分の考えた通りに物事が運ぶのは、もっと楽しい。
 さてどんな演出で登場しようか。
 気持ちよく考えていた時。眼下で「きゃあ」っと黄色い声がしたのが聞こえた。それまでの空気とは一変して、なにやらざわついている。
「んんん?」
 そうして男が目にしたのは、五・六人ほどの人間を取り囲むように出来た人の波、だった。どうやら大学側から依頼されて文化祭に訪れた有名人なのだが、男にそんな事情は分からない。
「なに? あれ。目立ってない? ハァ?」
 自分より先に目立つなんて、許せないよね。
 男は立ち上がると、身の丈三メートルはあろうかという巨躯だった。それに負けぬほど大きな槍を突いて呼気を整える。踏み出した一歩は大きく、遙か数十メートル先を目掛けて降下。
「オレ様ならどんな登場したって目立っちゃうんだな~これが!」
 罪人の顔に、無垢なる狂気が煌めいた。

●Caution
「そのまま生徒さん達の波に突っ込んだエインヘリアルは、辺りの人々を皆殺しにしてしまうのです」
 そう締め括ったセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の顔色は悪い。現場は大学、敷地の広さは被害と比例する。イベントを催していた大学には生徒たちは勿論その家族や友人、外部の人間も多く居た。幾つの命が消えたのか、それは数え切れない。
「皆にはこのエインヘリアルを倒して欲しいんだ!」
 金の瞳で真っ直ぐにケルベロスたちを正視するラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)は、五指をきつく握りしめていた。どうやら今回は、彼の懸念が当たってしまったらしい。

 敵は罪人エインヘリアル。アスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者だと言う。
「獲物はゲシュタルトグレイブに類似した大槍一本。とにかく言動が子どもっぽく、自分より目立つ相手が大嫌いのようですね」
 人が密集しているのを見ると、槍で一網打尽に吹き飛ばしてしまいたくなる衝動があるらしく、現実とゲームの区別が出来ないタイプなのかもしれない。
「オレたちが戦えば一般人よりは目立つだろうから、戦闘が始まれば多分こっちに注目すると思うんだ」
 大学側の協力を仰いでいるので避難誘導などはある程度は任せる事が出来るだろう。しかし、多くの人々が密集しているため、戦闘の一部がそちらに向いてしまう……と言ったことも十分にあり得る。
「敵群を薙ぎ払う技を幾つか所有しているようですので、相手の攻撃の方向を調節したり、あるいは庇うと言った行動が必要になるかもしれません」
 幸い現場は人が引けば広い屋外の敷地だ。木やベンチといったものはあるが、戦うには十分の広さがある。何とか敵の意識をこちらに向けさせ、無人になるまで耐えよう。
「折角の文化祭を罪人に壊させるわけにはいきません。中には小さなお子さまもいらっしゃるようですから……どうか皆さんで、守ってあげてください」
「オレからも頼む! 無事に解決できたら文化祭を覗いてくってのは、どう? 多分すっげー楽しいと思うぜ!」
 大学って何があるんだろうな?
 ラルバの呟きに、ケルベロス達は青い空を見上げて思案した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
奏真・一十(無風徒行・e03433)
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ


 握り締めた大槍、その穂先を天から眼下へと円を描くように回転すれば、裂けた大気が唸りを上げる。獲物が気付かぬままに、その食べ応えのなさそうな似非筋肉の胸を一突きする――。
「――ああ、じつに目立つ図体だ。それでは見逃しようもない!」
 つもり、だった。
 ギン、と鈍い音を立てて大槍が止まる。その穂先の先にあるのは、まるで鉄塊のごとき巨きな剣であった。
「なっ……」
 鉄塊剣は槍の穂先を下へと滑らせると、その切っ先が空から降り注ぐような軌道で大きく爆ぜた。鍛え上げられた自慢の肉体を、いとも容易く大地へ叩き落とされた。咄嗟に槍を突いて上体を起こした罪人エインヘリアルは 眼前で地獄の炎を揺らめかせる奏真・一十(無風徒行・e03433)の透徹した宵の目を視認。
「最初が肝心なんだろ?」
 口端に微笑すら匂わせる一十の言に、罪人の心がささくれ立つ。しかしその視界の端、蒼穹から二対の斧を翼代わりにして降下するジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)を見つけて、顔色がほんの僅かに変わった。ジョルディは微調整を繰り返しながら、怖れ、惑う一般人たちを背に庇うような位置に着地すると、凛とした風を放ったのだ。
「さぁ後ろは振り返らずに逃げよ!」
「ここはオレたちケルベロスにまかせとけ」
 そこで、別方向からも一陣の風が吹いた。
 見上げると、両翼を羽ばたかせて空中に滞空しながらラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)が彼方を指差していた。
「みんなは早く、落ち着いて避難してくれ!」
「さあさあ、みんな早く逃げてね、逃げてね!」
 軽やかに、美しい曲線を描きながらプリンセスモードで周囲の視線を一絡げにしたアイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)は、罪人と目が合うとにこりと微笑を浮かべてみせた。
「うんうん、あなた目立ってる目立ってる。でもねー? 私たちの方がもーっと、目立っちゃうからね!」
 罪人が立ち上がりざまに大槍を振り払った。それは目にも止まらぬ素早い回転を生み、至近に居るケルベロスたちの肉を容赦なく薙ぎ払う。その余波が学生たちに向かうと、ひとたびジョルディたちは己の身を盾にして防衛。大振りな動きで応戦し、周囲へと決して目を向けさせない。
「なんでオレより目立ってんの!?」
 大地を踏み抜くように歩を進めるエインヘリアルの腕が、再び持ち上がる。
「なんか……体はでかいけど中身は相当子供っぽいよな、見た目は子供でも中身は大人の俺と違ってさ!」
 歯を食い縛り、頭上に掲げた大槍を風車のようにぐるりと回す巨体を仰ぎ、ニィッと口端を吊り上げて笑った栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)はアルティメットモードを発動。ゆえにか観衆の目はもはやケルベロスに向いている。「彼らが居れば安全だ」そう言わんばかりの空気を感じて気に喰わない。
(「俺が通ってる大学でも先月学祭やったばっかだからな、他人事とは思えないんだよなぁ……」)
 理弥はゾディアックソードの剣先で地面を掻くと、守護星座を描き出す。その時ちらと周囲の建物を一瞥した。
「……お前から見れば相当なチビだろうけど、俺はもう大学生! ここの学生たちとほとんど歳変わらねぇから!」
「寝言は寝てから言ってよね!」
 逆手に握られた槍が五指から離れる――そうと思われた、その時。
「いや、悪名で目立ってどうすんだよ。エインヘリアル基準を地球に持ち込むなっつーの、迷惑だ」
「ここに在る命は虚構の存在に非ず。分からぬ者にはご退場願おう」
 長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)とロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)の蹴りが、広い背面を同時に蹴り飛ばした。スターサンクチュアリの加護を受けた二人の、星の煌めき帯びる蹴り技を喰らい、前のめりに体重が傾くと、駆け出したアイリスが正面から懐に飛び込んでいった。
「口を閉じないと舌噛むよ! 噛むよ!」
 言うなり、顎の下から天へと突き上げる飛び蹴りを炸裂。これにはエインヘリアルも短い悲鳴を上げて、空いた片手で口を押さえる。指の隙間からダラダラと血を流し、けれど大槍を自在に操り、攻撃を外さぬ動体視力は巨体に似合わず正確だった。
「多くの人達の命を奪い、楽しそうな文化祭も台無しにしようとするなんて許せません!」
 一十のボクスドラゴン、サキミと連携し仲間たちの負傷度合いを、そして過不足なく協力してヒールに当たっていた煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)は、背後に地の聖獣・玄武を具現化しながら、そう静かに憤った。
 四神降臨・玄武護防結界。味方を不浄から守るその様は、まるで玄武が立ち塞がっているかの如く。気迫に棚引く白髪の奥から、瞳が真っ直ぐに注がれる。凛とした態度は美しく、その所作のひとつひとつからカナの想いと信念が表れるようであった。
「我が嘴を以て……貴様を破断する!」
 その視線に気を取られていた罪人の耳に言葉が触れた。
 ハ、と短く息を呑む。殺気を感じて空を仰ぐと、太陽の影から黒鎧のジョルディがルーンアックス・Breaker Beakを振り下ろしたところだった。勢いのままに切り付けられ、防御すらままならなかった巨体が傾ぎ、よろけた死角に素早く回り込んだラルバが熾炎業炎砲を放つ。
「見た目も攻撃も派手とかなにそれ、ずるくない?」
 黄色い稲妻が奔る。
 それは瞬きよりも、息を呑むよりも圧倒的な速さだった。ぐり、と肩口に差し込まれた長い穂先が貫いているのを見下ろし、理弥は眉をしかめる。
 ぽたり、ぽたり。
 腕を伝い、指先から血が滴り落ちる。石畳のように規則正しく並べられたコンクリートタイルを汚す鮮血にスゥっと双眸を細めた理弥は、そのままエインヘリアルに向かって指先を突き付けた。
「学園祭を血に染めようとした犯人は……お前だ!」
 属性インストールでサキミからの支援を受けた指先が、肩がするりと癒えていく。見る間に元通りになる肉体、けれど決して逸らされぬ瞳に名指しされた罪人は一瞬びくりと肩を揺らして――。
「なにそれ!?」
 特に推理のない仕草にフルフルっと頭を振って、エインヘリアルは「おらぁ!」と大槍を天空へ蹴り上げた。その一動で次に来る攻撃を察したジョルディと一十、ラルバの三人は目線で確認し合うと、前衛たちに降り注ぐ分裂した槍の雨を得物を構えてしのぐ。
「皆さん、頑張ってください」
 カナのフローレスフラワーズが身を癒し、足りぬ部分をサキミが補う。白と青の美しい光の洪水が目に沁みる。エインヘリアルはそれすらも憎たらしいのか、表情はずっとふてくされた子どものよう。
「はじめよう。君の為の膳立てだ」
 一十のフィンガー・スナップが響いた。はじける音は鼓膜を擽り背骨を駆けて、千翠とロウたちの闘志を灼く。
 口端の血を親指で拭い、腰からナイフを引き抜いた千翠は、妖しく光らせた刀身を敵の懐に差し込んだ。もはや”殴る”と言った方が近しいその一発は重く、寸の間息が止まるほどだ。
 吐血した返り血を浴びぬよう、サッと身を引いて距離を取った千翠と入れ違いに、天使の翼を持った黄金竜が巨体を喰らう。尾を引くその先を辿れば、そこには月桂冠を戴いた薄布の白装束に身を包むロウガが佇んでいる。まるで宗教画の大天使を思わせる様相に、さしもの罪人の口から言葉はない。
「まだ立ってられるのかよ。タフだな」
「その躯体は伊達ではない、ということか」
 クラッシャーである千翠とロウガの連撃を浴びても今だ膝を突かぬ。もう目立つ云々ではなくなってきていたが、敵の視界にはケルベロスしか映っていない。ともかくこの小さき者たちを叩き潰さねば気が済まないと、荒ぶる大槍の攻撃はその心中を如実に表していた。
 斧を重ねて攻撃を受け止めたジョルディが、ヒールドローンを放って回復支援を行う傍ら、
「こんな踊りはどう?」
 と、アイリスが鉄の靴を鳴らして踊っている。何度もジャンプして、大声を上げて、手も振って。見ているだけで楽しそう、けれどその人は踊っている。壁を叩いて、鏡を割って、破片に裂かれても。焼けた靴を履いて、炎を纏って、灰になっても。
 ――踊っているのは、どっち?
「あっ!?」
 我に返ったエインヘリアルが、己の身体を見下ろす。
 そこには、如意棒を両手に持って踏み込むラルバが居て。咄嗟に槍を突き出す。しかし弾かれた。一瞬でヌンチャクのように分裂したそれが、大きく弧を描いて罪人の胸を打つ。苦しい痛みに、上体が前へと大きく傾いた。
 ぶわり、と気迫の風と共に訪れた穂先は己の大槍とは全くの別物であった。セントールランス、その高速の突撃は体勢を崩した腹部を穿ち一つの風穴を開けたのだ。正気を地獄化した一十にさほどの変化はない。寧ろ、新しく手にした武器を試したくて――この罪人は、その試し斬りのようなものであった。
「うわー、やばいやばいやばい。血が止まらないんだけど」
「エネルギーチャンバー頭部接続!」
「ちょっと待ってくれても良くない!?」
「良くない」
 スピニングドワーフで真正面から激突した理弥は、そのままくるりとバク転で着地。瞬間、見計らったようにジョルディの視線誘導ロックが完了。
「喰らえ!」
 それは全てを貫く魔眼の一撃。
「Mega Blaster! ”Balor”!!」
 眼から放出する光線が罪人を貫き、身を内から打ち砕く。膝から崩れ落ちたエインヘリアルは、穴の開いた腹を押さえながらじりじりと距離と取ろうとするのだが。
「逃げられると思うなよ!」
 退路を塞ぐように立ちはだかったラルバは、グラビティ・チェインを練り上げて生み出した気合の一撃を放つ。狼の如き形をした疾風狼牙が脚に鋭い牙を突き立て、痛みに呻いた巨体に、アイリスが凍結光線を撃ち出すと眼裏を射す眩さの後、影が降りてくる。
「壊せ。無に還せ」
  圧縮された千翠の呪詛は罪人の精神をかき回し、血肉を喰らい、魂を汚すことで破壊の限りを尽くさんと猛威を奮う。鼓膜を震わせる悲鳴に慈悲はなく紅は踊る。
「現実の命は虚構ではない。防衛と捕食を主としない、愉しむ為だけの殺戮、それは時間を弄ぶ大罪ッ! 断じて許さぬ」
 様々な想いから限界以上に己の魔力を練り上げ高め、祖先と過去の闘いから膨大な力の一部を引出してゆくロウガ。極限以上まで破壊力を高めた魔力を解き放つと、それは強大な黄金竜の姿を象り、罪人を頭から喰らう。
「注目されたいんだろ? 目立つようにしてやるよ」
 ゆっくりと倒れていくエインヘリアルの頭上から、ざぶんと蛍光塗料がぶちまけられた。皮肉に笑って見せる理弥を視界に捕らえたエインヘリアルは、深く吐息する。
「こんな目立ち方、嫌なんですけどぉ……」
 ドスン、と鈍い音を立てて、罪人が大地に伏す。
 カナは小さく吐息する、玄武を具現化した。咆哮する聖獣の轟きに味方の傷が癒えていく。それはただ一人だけ、朽ちる男への贐のようでもあった。


「ええー、これコンニャク? あははははコレすっごい凝ってるあははは! うわーへんにゃお化け出て来たあっははははは!! えええ追いかけてきたああははは」
 楽しそうに笑い、走るアイリスの声が、飛んだり跳ねたりして、廊下にまで響いていた。たまたま肝試しコーナーの前を通り過ぎようとしていたカナは、アイリスの声を聞いて目を丸くさせたものの、すぐに小さく笑んで、軽やかな足取りで人並みに紛れていく。
 文化祭という物を、経験したことが無かった。
 何だか沢山の催し物があって、食べ物屋さんがあって、人がいっぱい居るところ。迷子になりそうな広いキャンパスのあちらこちらは楽しげで、未知に溢れていた。
「今からでも、これまでのぶん楽しもうっと!」
 アイリスとカナの初めての文化祭は、まだまだこれから。

 後学のために、と舞台演劇の出し物を見に講堂へと訪れていたジョルディ。どうやら現在行われている舞台は、ゲスト役者が例の有名人――若手俳優たちらしいのだ。
 どうも飛び入り参加らしく、アドリブで物語が進んでいる様子。それでも学生役者たちは決して引けを取らぬ堂々たる演技で、感嘆するばかり。
(「まだまだ役者としては未熟者……」)
「有名人とは、あの俳優さんだったのだな」
 覚えのある声が聞こえた。視線のみで左を向くと、腕に青いわたあめを頬張るサキミを抱えた一十が居た。
「さっきは一般人に紛れて、全く気が付かなかったな」
 一十はジョルディの方を見上げると、悪戯っぽく微笑んだ。
(「なるほど……それもまた演技力、なのか?」)
 奥が深いのだな。
 ジョルディは大きく頷いた。

「え、酒はない? それもそうか」
 キャンパスマップを片手に、大学の綺麗な建築を見上げながら構内を散策していたロウガは、聞こえてきた台詞に足を止めた。とある白いテントの下で、購入したと思しき食べ物のパックを手にした千翠が肩を竦めているところを見つけた。
 近付くと、出来立てのよい香りがする。
「肉巻きおにぎり串……?」
 ロウガの独語で、ようやく存在に気が付いた千翠が瞠目した後、ニィと笑う。
「チーズ入りもあるぞ」
「色々なものがあるのだな」
「でも酒はないんだよなぁ」
「そういえば、あちらの棟に日本酒を研究している生徒の展示物があったようだが」
 そうと聞いた千翠の目が輝く。
「よし、それじゃ気になるものを片っ端から買って、そっちに行ってみるか!」
 うきうき、と言った言葉が良く似合う軽やかさで出店をはしごするその背中を見送って、ロウガは周囲を広く見渡した。
 美しき金色の瞳に映る人々の姿は楽しげで、朗らかで、傷などひとつもない。改めて守る事が出来たのだと実感し、淡いやさしさを称えた瞳をそっと閉じた。

 みんなの役に立ったり、笑顔にさせたり、夢を持った人がたくさんいる。
 ラルバは生き生きとした表情で研究発表を語るサークルの生徒たちを見やり、口元を綻ばせた。屋台だけではなく、ここには様々な趣味・嗜好を持った人たちが各々の心血を注いだ作品を発表しているのだ。
(「オレも将来はみんなみたいになりたいぜ」)

「全然解けねぇ……」
 遮光カーテンとちいさな明かり、その他雑貨類で事件現場を形作られたとある一室で理弥は首を捻っていた。そこはミステリー研究会による謎解きゲームが行われている。残された手がかりを元に、謎を解き犯人を当てればクリアといったものだが。
「あー、わかった!」
 ミステリ好きの理弥に推理力は欠片も無い。だから隣でいっちょまえに腕を組んで探偵めいたポーズを取っていた子供の方が先にクリアをしてしまえば、流石に焦るというもので。
「え、もう学祭終わる時間?ちょ、ちょっと待ってもう少し……!」
 文化祭終了まで粘る理弥の姿が、あったとか、ないとか。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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