火事が怖くて焚き火ができるか!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
「いいか、お前ら! 焼き芋と言えば、焚き火! 最近は色々とうるさくなって、外で焚火が出来なくなっているが、だったら家の中でやればいい! 火事が怖くて焚き火が出来るか! みんなで美味い焼き芋を食うぞ!」
 ビルシャナが廃墟と化した民家に信者達を集め、自らの教義を語っていた。
 信者達はビルシャナによって洗脳され、目の真ん丸。
 目の前の焚き火を眺めながら、みんなで焼き芋が焼きあがるのを待っている様子であった。

●セリカからの依頼
「因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ビルシャナが拠点にしているのは、廃墟と化した民家。
 ここでビルシャナは焚き火をしているらしく、香ばしいニオイと共に、何かが焦げる臭いが漂っているようだ。
 いまのところ火事にはなっていないものの、そうなってしまうのも時間の問題。
 焼き芋が焼ける前に、家が焼けてしまう可能性が高かった。
「今回の目的は、悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事です。ただし、ビルシャナ化した人間は、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やしています。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまうため、注意をしておきましょう。ここでビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていく。
 信者達は洗脳状態に陥っているため、焼き芋が焼けるまで、その場から動く事はない。
 逆に言えば、焼き芋さえあれば、心がグラつく可能性があるため、そこを攻めていくといいだろう。
「また信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。とにかく、ビルシャナを倒せば問題が無いので、皆さんよろしくお願いします」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ビルシャナの退治を依頼するのであった。


参加者
因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)
アルベルト・ディートリヒ(レプリカントの刀剣士・e65950)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)

■リプレイ

●焼き芋焼けた
「また妙な教義を広めようとしていたようだな」
 アルベルト・ディートリヒ(レプリカントの刀剣士・e65950)は石焼き芋の屋台を引きながら、仲間達と共にビルシャナが拠点にしている廃墟と化した民家にやってきた。
 ビルシャナは自らの教義を実践するため、廃墟と化した民家の中で、焚き火をしているようである。
 この時点で、何から何までツッコミどころが満載ではあるものの、ビルシャナ的には平常運転。
 『常識、何それ、美味しい』的な考えで、俺様街道まっしぐらと言った感じのようである。
 そのため、民家の中から焦げ臭いニオイが漂っているものの、ビルシャナ達が外に出てくる気配はない。
「それ以前に、何故こんなことを……」
 之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)が信じられない様子で、廃墟と化した民家から上がる煙を見つめた。
 ある意味で、自殺行為。
 普通であれば、消防署に通報されているところだが、近隣住民達が無反応なところを見ると、こう言った事が日常茶飯事になっているか、洗脳されている影響で気にならないかの、どちらかだろう。
「確かに、民家で焚き火って……。普通は危ないと思うけど……」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)も同じように廃墟と化した民家を見つめ、複雑な気持ちになった。
 しかし、常識が遊びに行ってしまったビルシャナにとっては、それが常識であり、普通の事。
 まるで、子供のようにウキウキしながら、焼き芋が出来るまで、焚き火のまわりで飛び跳ねている姿が容易に浮かんだ。
 悠姫も焼き芋の、とろける様な甘さは好きではあるが、だからと言ってここまでしたいとは思わない。
 そういった意味でも、ビルシャナと仲良くなることは難しそうな感じであった。
「……と言うか、屋内で焚き火ってのが中途半端過ぎる! 外でやらなきゃ風情がないじゃん」
 因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)が、呆れた様子で口を開いた。
 おそらく、屋内で焚き火をしているのは、外が寒いため。
 わざわざ外に出て、寒い思いをしてまで、焼き芋が食べたい訳ではないようである。
 そして、アルベルトはビルシャナ達を誘き寄せるため、屋台で糖度たっぷり安納芋を焼き始めるのであった。

●家焼けた
「随分と美味そうなニオイが漂っていると思ったら、焼き芋か。まあ、焚き火で焼いた芋と比べて、だいぶグレードが落ちるけどな」
 そのニオイに誘われるようにして、ビルシャナ達がワラワラと外に出てきた。
 みんな焚き火で焼いた焼き芋を持っていたが、どれも真っ黒で焦げ臭いニオイが漂っていた。
「おいおい、まさかそれを食おうって言うのか? せっかくの芋が台無しじゃないか。ほら、食えよ。金は要らないからさ」
 それを目の当たりにしたアルベルトが、信者達に石焼き芋を配っていった。
 その途端、信者達の瞳が、宝石の如くキラめいた。
「こら! 知らない人から、勝手にモノを貰ったら、駄目だろうが!」
 ビルシャナがイラッとした表情を浮かべ、信者達から石焼き芋を回収していった。
 だからと言って、捨てるつもりはないらしく、ちゃっかり持参していた新聞紙に包んで、シッカリ保管。
 この様子では、後でコッソリ独り占めするつもりなのだろう。
 ビルシャナの瞳が、怪しくダーティに輝いた。
「それじゃ、帰るぞ! 帰って、焚き火で焼き芋だ!」
 ビルシャナが信者達の肩を掴んで、自分達の家に戻っていこうとした。
 信者達は何やら不満げな様子であったが、だいぶ腹が減っているのか、ビルシャナに逆らう者はいなかった。
「焚き火は庭でやりなさい、庭で!」
 すぐさま、しおんがバケツに入った水を、ビルシャナ達にぶっ掛けた。
「ぶひゃあ! なにをしやがるんだ! それ以前に、庭でも焚き火は駄目だろうが!」
 これにはビルシャナ達もブチ切れ、イラついた様子でしおんをジロリと睨みつけた。
 咄嗟に石焼き芋は死守したものの、全身びしょ濡れ。
 信者達も同様に、びしょ濡れであった。
 それ故に、トサカに来たのか、かなり御立腹の様子であった。
「……え、最近は庭でも焚き火は駄目なんですか? じゃあ落葉はどう処理するのですか? まさか燃えるゴミとして出すとか?」
 しおんがビルシャナをマジマジと見つめ、気まずい様子で汗を流した。
「当たり前だろ。もちろん、分別はきちんとしているぞ?」
 ビルシャナがドヤ顔を浮かべ、えっへんと胸を張った。
 そこまで凄い事をしている訳ではないのだが、信者達からベタ褒めされ、天狗のように鼻が伸びていた。
「うわあ、住みにくい世の中になりましたね」
 その途端、しおんが驚いた様子で、ビルシャナに答えを返した。
 そういった意味でも、ビルシャナが室内で焚火をするのは、仕方がない事……と言う考えが脳裏に過ったものの、それとこれとは別の話。
 わざわざ火事になるような行為を見逃すほど甘くはなかった。
「……と言うか、家の中で焚き火だなんて、家を失っても良いの? 家が無かったら一生焼き芋も食べられないわよ。焼き芋を作るなら、やっぱり電子レンジね。電子レンジで作るなら、キッチンペーパーさえ用意すれば良いから、わざわざ新聞紙を使う必要も無くて、甘くて美味しい焼き芋が出来上がるわよ」
 悠姫が家の中に入っていこうとしていた信者達に声を掛け、電子レンジで焼き芋を作る方法を提案した。
「それに、電子レンジやオーブンでやったほうが簡単だし、美味しいよ。レンジで作ったほうが早く火も通るしね」
 その言葉が事実である事を証明するようにして、白兎が電子レンジで温めた焼き芋を輪切りにした後、そこにバターを乗せ、ビルシャナ達に見せた。
「ふん、そんなモノ、いらん!」
 ビルシャナがまったく興味がない様子で、ぷいっとそっぽを向いた。
 だが、まわりにいた信者達は、興味津々。
 『これ、絶対に美味いヤツ!』と言わんばかりに、瞳はランラン、キラキラである。
「だったら、暖炉とかどうなの? あれなら焚き火よりもずっと安全だよ。今の時代、安くて設置の簡単な暖炉などもあるし……」
 それでも、白兎は怯む事なく、信者達に対して、暖炉のカタログを配っていった。
「暖炉っていいよね♪」
 坊主頭の男性信者が白兎からカタログを受け取り、上機嫌な様子でめくり始めた。
「そんなモノは見るな!」
 すぐさま、ビルシャナが坊主頭の男性信者を小突き、強引にカタログを奪っていった。
 そのため、坊主頭の男性信者が不満げな表情を浮かべたが、ビルシャナが殺気立った様子で睨みつけてきたせいで無言になった。
「まあ、どうしても部屋の中でやりたいなら、囲炉裏がある部屋を作って、そこでやりなさい。竈でも暖炉でも構わないわけですが……」
 しおんがドサクサに紛れて、焼き芋を食べつつ、ビルシャナに意見を述べた。
「ちょっと待て! なんだ、それは……」
 その焼き芋に気づいたビルシャナが、険しい表情を浮かべた。
「屋敷に火鉢があったので焼き芋を作りました。ちゃんと人数分ありますので、食べ比べてみましょう」
 しおんがビルシャナ達に焼き芋を配り、食べ比べを提案した。
「いいだろう。まあ、俺の焼き芋が一番うまいけどな」
 ビルシャナがしおんから受け取った焼き芋を一口齧った後、信者達をジロリと睨みつけた。
 そのせいで信者達は本音を言う事が出来ず、今にも消え去りそうな声で『ビルシャナ様の芋が一番美味しいです』と答えを返した。
「信者達の答えは違うようですが……まあ、いいでしょう」
 しおんが色々と察した様子で、深い溜息を洩らした。
 これ以上、余計な事を言うと、信者達に危険が及んでしまうため、とりあえず思った事を飲み込み、様子を窺う事にした。
「そもそも、お前ら素人が火事に怯えながら室内で焼いた芋より、プロが外で焼いた芋の方が遥かに旨いだろ。どうせ焼くなら、プロが扱わないもの……そこの特大チキンはどうだ!?」
 そんな中、アルベルトがビルシャナを見つめ、ビシィッと力強く指さした。
「お前は……何を言っているんだ!?」
 その途端、ビルシャナがビクッと体を震わせ、身の危険を感じてアルベルトを見返した。
「この大きさなら火災の損害に見合うだけの価値はあるだろ? 万が一、ないって言うなら、二度と屋内で焚き火なんかやるなよ」
 アルベルトがビルシャナに釘をさすようにして、背中をポンポンと叩いた。
「だったら、焼け! 焼いてみろ! 本当にそんな事が出来るんだったら、特大チキンでも、何でもなってやらあ!」
 次の瞬間、ビルシャナが逆ギレした様子で、叫び声を響かせた。
 その気持ちに応えるようにして、ビルシャナが拠点にしていた民家が炎に包まれ、まわりにいた信者達が慌てた様子で火を消し始めた。

●ビルシャナ焼けた
「うひゃひゃひゃひゃ! 燃えた! 燃えた! 本当に燃えた!」
 これにはビルシャナも失禁するほど驚き、狂ったように笑い声を響かせた。
 よほどショックを受けたのか、その表情は信者であっても、ドン引きするレベル。
「この状況で、そんな事を言って、正気……じゃないわね、この様子だと……」
 悠姫が何やら察した様子で、深い溜息を洩らした。
 おそらく、ビルシャナは人として大切なモノを失っているため、この状況で何を言っても無駄だった。
 それとは対照的に、信者達は民家の火を消すため、バケツリレーを始めていた。
「いや、俺は正気だ! この目を見ろ!」
 ビルシャナがイッた瞳で、自分自身を指さした。
 この時点で、異常者そのものだが、ビルシャナ自身はマトモなつもりでいるようだ。
「だったら、この攻撃を見切れるかしら?」
 悠姫がビルシャナに語り掛けながら、プラズムキャノンを撃ち込んだ。
 それに合わせて、白兎がドラゴニックミラージュを仕掛け、掌からドラゴンの幻影を放って、ビルシャナの身体を炎に包んだ。
「うおおおおおおおおおお! 燃える、燃える! 俺の身体が焼き芋みたいに燃えるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!」
 その途端、ビルシャナが全身炎に包まれ、恍惚とした表情を浮かべ、不気味な笑い声を響かせた。
 この様子では、自分自身を芋に見立て、ひとりで興奮しているのだろう。
 今にもモザイクが掛かりそうな勢いで、とてもヤバイ表情を浮かべていた。
「ちょっと、そこを動くなよ」
 次の瞬間、アルベルトが風神突(フウジントツ)を仕掛け、ビルシャナの急所を狙って強烈な刺突を食らわせた。
「ぐぬぬ、何故だ! 何故、邪魔をする! それに俺は悪い事などしていない。むしろイイ事をしていたんだ! それなのに……お前は……お前達は!」
 ビルシャナがブスブスと煙を上げ、香ばしいニオイを漂わせ、納得がいかない様子で、恨み言を吐き捨てた。
「だったら、食べ物で遊ぶんじゃありません!」
 次の瞬間、しおんが殴念仏(ナグリネンブツ)を仕掛け、握り拳で法を説くことにより、ビルシャナを三昧の境地に導いた。
「どうやら、終わったわね。余った芋があるなら、焼き芋を食べて帰りたいところだけど……」
 悠姫がホッとした様子でヒールを使い、民家の焼けた部分を修復した。
 そのおかげで信者達がバケツリレーをする必要がなくなったため、お礼を言うため悠姫のところに駆け寄ってきた。
「せっかくだから、残った食材をみんなで焼いて食べようか。……あ、でも、ウサギを食材にするとか、そういうのはやらなくていいからね?」
 そう言って白兎が苦笑いを浮かべ、信者達と一緒に民家の中に入っていった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月16日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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