●同胞を守りたいのかもしれない
ぴぃ、ぴぃ、ぴぃ。
か細く小さな鳴き声が、薄暗い空間に満ちる。
大量のひよこたちが、ワゴン詰めのように箱に収められてひしめくそこは、孵卵場だった。
産み落とされたばかりの鶏卵が孵卵器にかけ、雛に孵す――そのための施設ならばもちろんそれだけの卵が集まり、日々、雌雄の鑑別が行われる。
今日もまた、ひよこ鑑別士たちは熟練の技術でひよこさんを見ていた。
「……」
「……」
「……」
無言である。当然だが。
しかしそれはそのぐらい彼らが集中している証であり、ぴぃぴぃ鳴いとるひよこさんたちは機械的な速さで雄と雌に分けられてゆく。
ただただ静かに……。
静かに……。
『ウオオオオオオオオオオオオ!!!』
「?」
「何か変な声が……」
唐突に叫び声が聞こえて、鑑別士たちが顔を上げた。
野太い声はどんどん大きくなり、というか近づいてきて――。
「フゥゥゥウン!!」
「うおああああああ!!?」
鑑別士たちが作業中の部屋にまで入ってきた!
姿を見せたのは言うまでもなく鳥!
つぶらな瞳にもふもふボディ、まんまる黄色いそのフォルム(2m)は……どう見てもひよこ型のビルシャナさんだった。
「ひよこさんだからってなぁ、何をしてもいいわけじゃないんだよ! そんなにじろじろとお尻を見られたらなぁ……恥ずかしいに決まっているだろう!!」
人間大のひよこさんが、手近な箱から小さなひよこさんをそっとすくいあげる。
「ひよこのプライバシーを、俺は守る!!」
くあああっ、と叫ぶビッグひよこさん。
ひよこのプライバシーを侵すひよこ鑑別士は絶対に許さない――そう訴えるビッグひよこさんは、しかしいくら凄んでも姿形がひよこさんなので、鑑別士たちが悲鳴をあげて逃げ出すまでには15秒ぐらいかかったらしい。
●いざひよこランド
「ひよこですか……」
「ひよこっす!」
遠い目でどこか物憂げな顔をするクロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)の横で、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は少年のように瞳をキラキラさせた。
ひよこのビルシャナが現れた。
集まったケルベロスたちにそう伝える彼は、明らかにひよこに心奪われていた。
「とりあえずポスター出しとくっすか……」
「それはいいのでひとまず説明を」
「あ、わかったっす」
荷物をごそりだしたダンテがクロハに制され、こほんとひとつ咳払い。
「実はかくかくしかじか――」
真面目に喋りだしたダンテくんの説明を要約するとこうだ。
孵卵場にひよこ型ビルシャナさん現る。
信者はいない。
もふれる。
「いや最後がおかしいでしょう」
「えっ? そうっすかね……?」
クロハの冷静なツッコミに、ダンテは本気で首を傾げる。
「だってビルシャナとはいえ、相手は大きなひよこさんなんすよ? 人語も喋るしうるさいっすけど、倒す前にこう、もふり倒したりできるんじゃないかと……」
「もふる必要がないでしょう。敵ですよ。ビルシャナですよ」
「そ、そう言われるとそうっすけど……!」
ぐいぐいとダンテを圧で押しこむクロハ。
きっとひよこさんと聞いて何かを思い出したのだろう。半年ぐらい前のことを。
絶対に、速やかに、ビルシャナを倒す。
そんな覚悟で、クロハさんの橙色の双眸は鋭く光っていました。
「と、とにかく皆さんにはひよこさんビルシャナを倒してきてほしいっす! 実際どうするかは現地に行く皆さんにお任せするっすね!」
ダンテは無言でオーラを発するクロハから逃げるように、走る。
出発準備を済ませてあるヘリオンへと。
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(死縁塚・e00040) |
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621) |
君影・リリィ(すずらんの君・e00891) |
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532) |
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685) |
マロン・ビネガー(六花流転・e17169) |
九十九折・かだん(食べていきたい・e18614) |
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322) |
●退かない人たち
「ひぃぃぃ!?」
「――お尻を見られたら恥ずかしいでしょうが!!」
怯えた鑑別士たちの前で、ビッグひよこさんが箱の中のひよこさんをすくい上げる。
いや、ひよこさんをすくい上げたつもりだった。
だがしかし!
「ひよこのプライバシーを……」
「むぃ~☆」
掌に乗っていたのは、兎さんだった。
正確には、動物変身した姿で潜入を果たしていた七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)だった。
「兎が混じっとる!!」
「むぃ~☆」
「ぴーぴー☆」
「ひよこさんと会話を!?」
ひよこさんとじゃれあう兎の姿にビビり散らすビッグひよこさん。
『兎と鳥を結びつける逸話は多いんだよ!』
『つまり仔ウサギのボクはひよこさんの仲間だったんだよ!』
などと言い出して先行していた瑪璃瑠は、見事に敵を混乱させることに成功していた。
だから仲間たちはもう普通にドアから入室していた。
「ひよこさん……ふわふわの黄色くてちっちゃいのがピヨピヨ……群れてる……はぅ、可愛くて萌え死にそう!」
「ひよこさんかわいい……はっ! いえ、なんでも無いですよ、ええ本当に」
箱の中いっぱいにひしめくひよこさんを見て、君影・リリィ(すずらんの君・e00891)はきゅんきゅんする胸を押さえ、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は咳払いしつつ全力でチラ見。
どう見てもペットショップの客だった。
「おいなんだ! まさかひよこさんを害しようと――」
「うわあ、もふもふな、おっきなひよこさんだ……!」
「んん?」
リリィたちに詰め寄ろうとしたビッグひよこさんが、眼前に現れた少年――オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)の視線に足を止める。
地デジ(テレビウム)と一緒に向けられる彼の瞳は、キラッキラだった。
「めいっぱい、もふっていいってこと、だよね! ……だよね!!!」
「やめろ。愛玩動物を見る目を向けるな」
オリヴンを警戒して後ずさるビッグひよこさん。
――が、そのとき彼は目撃する。
「皆さん、今のうちですー」
「焦らず落ち着いて避難するようにな」
「あ、ありがとうございます……」
憎き鑑別士たちが、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)とティアン・バ(死縁塚・e00040)の誘導によって退室しようとしていた。
「くぉらぁぁぁぁ!!」
秒でボルケーノするビッグひよこさん。
しかしマロンは怯まず、ボルケーノひよこさんの前に立ちはだかる。
「とてもお怒りのようですが、鑑定も熟練技能が必要な立派な仕事ですし、ひよこ達が拒んでいないなら良いのでは?」
「ひよこさんが拒めるわけないでしょうが!」
ぽふっ、と机を叩くボルひよ。
だがマロンとて退かない。
「でも、人類でも出生時はひよこさんと同じ感じで性別を判断されます。ですがその事を殆どの人は覚えていないし気にしないのです。つまり問題は特に無いのです」
「だ、だからってお尻を……」
「オスかメスかはニワトリにとって大きな分かれ目。鑑別がしっかりできていないと皆困る大事な仕事だ。しっかり守らないといけないんだぞ」
「うぅっ……」
ティアンの言葉も受けて、答えに窮するボルひよ。
けれど彼とて、譲れぬ心を持っているのだ。
「い、言ってもわからんなら力尽くだー!」
「きゃあーー!?」
「そうはさせない」
「ぬうっ、通せー!」
避難中の鑑別士たちの襲撃を図ったボルひよを、その身でもって食い止めるティアン。
「だ、大丈夫ですか!?」
「これは敵を足止めするための戦略的もふもふ。今のうちに逃げろ」
「全然そうは見えませんが!?」
「問題ない」
戸惑う鑑別士たちの前でひよこボディにずぶずぶ埋もれるティアン。その勇姿に鑑別士たちは不安しか感じなかったけど、何ができるわけでもないのでいそいそと部屋を去ってゆく。
最後の1人が退室するのを見届けると、クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)はボルひよのほうを向いた。
だがボルひよの姿は見えない。
静やかな闘気を迸らせる九十九折・かだん(食べていきたい・e18614)が立ちはだかっていたからである。立派な角が超邪魔。
「どいて下さい、かだん」
「断る」
クロハが横に動くと、ヘラジカも横に動く。
全国を狙えるディフェンスだった。
「なんでまたこんな状況になっているんですか……」
天を仰ぐクロハ。
かだんは動かざることマウンテンスタイルのまま、告げた。
「ひよこさんが居るならば、そこに私あり。退け」
「退きませんよ」
「ぐふっ!」
あくまで仕事に徹する女、クロハさんによるためらいゼロの旋刃脚が決まったァ!!
●ひよこになれ
クロハのエアシューズに星の煌めきが宿り、蹴撃がかだんの横っ面を叩く。
脳が揺れる重さ――しかしかだんは床を砕く勢いで足を踏ん張り、負けじと流星のごとき飛び蹴りをクロハの腹にぶちこんだ。
クロハの体は後方に滑り、両者の距離が離れる。
「半年前の決着をつけましょうか、かだん」
「前回のようにはいかない。ひよこさんは私が護る」
抜き身の刃のような視線を交わす2人。
ひよこさんの処遇を巡るだけの戦いの割にガチすぎだった。ガチすぎて室内がところどころ崩れたり陥没したり割れたりしていた。
両者の間にゴロゴロと転がってくるビッグひよこさん。
「あのぅ、ひよこさん危ないので暴れるのは――」
「ひよこは黙っててください、クリスマス前に肉屋に売りますよ」
「やめろひよこさんはターキーじゃない」
降魔真拳で殴りかかるかだん。再び吹き荒れる暴力の嵐。
なんて無力なんだ――と静かに通過するひよこボールは、1周して元の場所に帰ってきた。
だが彼に傷心している暇などなかった。
「今がチャンスね!」
「鳥さんーにとーびつーこう」
「ふわぁぁっ!?」
しょんぼり丸まっていた背中に飛びついたのは、リリィとマロンである。ケルベロスの超人的能力を無駄遣いしてリリィは一瞬で間合いを詰めてダイブ、マロンもタックルをぶちかました。
「うーん、ふわふわもこもこー。人語を喋る点が惜しいけど……」
「ふかふかで生暖かい天然の羽毛布団なのですー」
「……♪」
全身をうずめる勢いでもふもふしてくるリリィとマロン。弄る2人の手に得も言われぬ感覚を覚えたビッグひよこさんは、本能的にうっとり蕩けてしまう。
すると現れる加勢。
シフカとオリヴンはビッグひよこさんの腹に『ズムッ』と顔から突っこんだ。
「本当は本物のひよこさんをもふもふしたいところですが……」
「よーしよしよしよし。よーしよしよしよし」
「――♪」
もふもふもふもふ。
腕をめいっぱいにひろげて、あらゆる箇所を弄りまくるシフカ&オリヴン。
シフカの円を描くような手つき、オリヴン&地デジの怒涛のなでなでをくらった毛玉は心なしか輪郭が緩んで、だらしない毛玉と化してゆく。
「ふむ。ふわふわで大きい点は素晴らしいですね」
「よーしよしよしよし。よーしよしよしよし」
腕を回しきれないボリュームに感心するシフカの隣で、欲望だだ漏れのスキンシップを繰り返すオリヴンくん。
平和な時間――。
「……ってそうじゃない!!」
ビッグひよこさんがトリップから帰ってきた。
「くっ、離れろー!」
「せっかくの羽毛布団、逃さないのですー」
「ほら。もふりづらいので暴れないで下さい」
「よーしよしよしよし」
「だから離れろって!?」
頑として離れぬマロンやシフカやオリヴンを振りほどこうと、もだもだ暴れる毛玉。
だが――。
「静かにしなさい!」
「ぐああああああ!?」
リリィのガネーシャパズルから零距離で放たれた雷が、聞き分けのないひよこを黙らせた。
そこへ駆けこむ仔兎。
とてとて走ってきた兎さんは言うまでもなく瑪璃瑠である。変身を解いて元に戻ると瑪璃瑠は桃色の瞳を爛々と輝かせ、ぎりぎりの飛球に飛びつく外野手のように毛玉に全力ダイブ。
「ひよこさーん!」
「ふみゅうっ!?」
「違うよ! 君はひよこさんなんだから返事はぴよぴよなんだよ!」
「ほら、ぴよぴよって鳴いてごらんなさい?」
「ぴ……ぴよ……」
「うん! それでいいんだよ!」
「じゃあひよこになれたところで、遠慮なく……」
「ぴよぉ……♪」
がしっと毛玉にしがみつく瑪璃瑠とリリィ。
喋る暇など与えない――と全力でふわふわの毛並みを愛でる2人。高速なでもふをくらったビッグひよこさんはぴよぴよと鳴いて――。
「……だから違うって!」
ギリッギリで我に返る毛玉。
自分はただ愛でられるひよこではない。デウスエクスは再び暴れようとする。
が、そのとき彼は信じられぬものを見た。
「おとなしくしていろ。お前がもふもふさせてくれないなら、その辺のひよこを代わりにするぞ」
「き、貴様……!」
毛玉の前に立っていたのは、通常ひよこさんを手に乗せているティアン。
「小さいのはおしりと言わず全身触ることになるだろうな。いいのか」
「ひよこ質とは卑怯な…………ぴよ!」
ぐぬったビッグひよこさんが項垂れる。語尾のぴよはティアンに屈服した証だった。
「ティアンに任せておけ」
「ぴ、ぴぃ……♪」
しゅばばばば、と熟練の手つきでひよこボディを撫でまわすティアン。そのスピードたるや尋常でなく、ビッグひよこさんはほんの一瞬で恍惚の毛玉と化してしまう。
説明しよう!
ティアンさんはどういうわけか!
ひよこタッチの経験値が高かった!
●くらいむしーん
10分か。
はたまた20分か。
時は流れていた。
「だからなんで当たり前のようにそっちにつくんですか貴方は。自分の立場分かってます?」
「ケルベロス以前に、私は九十九折かだん。故にか弱いひよこは私が護る」
「何ちょっと誇らしげなんですか。妙な使命感に燃えてるんじゃないですよ」
「ぴよぴよ」
「どつくぞコラ」
クロハとかだんはまだやっていた。まだグラビティの応酬を続けていた。
もはや楽しくなってるんじゃねえのか疑惑も多大にある。しかしそれ以前にかだんが持久戦仕様にしているのが長引く原因だと思う。
それに――。
「術式ほんのちょっぴり駆動承認! クロハさんもかだんさんも頑張ってなんだよ!」
瑪璃瑠が戦況を見てはグラビティを使い、均衡を取っておったのも地味にでかかった。的確な判断で回復を施し、おまけに守備力も高める犯行は申し開きのしようもない。
「怪我しちゃいけないからね! これで安心してじゃれあえるね!」
「ああ、見事な気遣いだと思う」
「七宝さんに後方支援を任せたのは正解だったようですね」
一仕事やったみたいに胸を張る瑪璃瑠に、ティアンとシフカはこっくりと首肯した。
どでーんと仰向けになったビッグひよこさんのボディに、もっふりもたれかかりながら。
「大きいというのはいいな」
「ええ、体が楽ですね」
「もこもこしてて良い肌触りなんだよ!」
弾力あるビルシャナクッションを、背中ぽいんぽいんさせて楽しむ3人。そのたびビッグひよこさんは「ぴよ♪」と鳴いた。
彼はもう久しくひよこ語しか話していない。
人語を話す暇もないぐらい、もふなで回されていたのだ。
現に、瑪璃瑠たちがいるほうと逆サイドの毛玉ボディでは、リリィとオリヴンが全身をずむずむ押しつけて遊んでいた。
「んー。家に持って帰りたい」
「ぼくも欲しいな……持って帰っちゃダメかな……」
ふわもこに顔をうずめ、もはや眠りに落ちる1歩手前ぐらいの恍惚顔になっている2人。
というよりもう、半分ぐらい眠っていたかもしれない。
「地デジ……あれ? 埋もれちゃった?」
「あれ、レオ……どこ?」
きょろきょろと辺りを見回すオリヴンとリリィ。夢中でもふっていたおかげで、オリヴンは地デジが黄色い羽毛に沈んだことに気づかず、リリィはレオナール(ウイングキャット)が主人のあまりの狂乱ぶりに引いて姿を消していたことに気づいていなかった。
2人がサーヴァントを捜して呼びかける――それを遠く聞きながら、マロンはビッグひよこさんの仰向けのお腹の上でゴロゴロと寝転んでいた。
「普通のヒヨコではできないヒヨコ枕、ヒヨコ布団です。最近寒くなりましたからありがたいのですー……ちょっとくらい毟って持って帰ってもいいですかね?」
「ぴぴぃ!?」
ぶちっ、とマロンが羽毛を毟ると、毛玉がびくんと震える。
しかし震えるだけで反抗するようなことはなかった。なのでマロンはぶちぶちと羽毛を毟り取り、腹の一箇所が禿げるまでその犯行は続いたという。
●ぴよぴよ
もふもふの巨大毛玉が、音もなく消えてゆく。
なんか幻想的な光の粒になって昇天する光景に、瑪璃瑠とリリィ、オリヴンは合掌していた。
「おやすみなさいだよ!」
「……敵ながら、良いふわもこでした」
「うん。良いもふもふでした」
葬送する3人の顔には陰りひとつない。ビッグひよこさんの上質ボディを思う存分にもふった3人は、まるで気持ちよい昼寝の後のような爽やかな顔をしていた。
だが皆が皆、そうではない。
クロハは服とか色々破れた姿で床に崩れ落ち、頭を抱えていた。
「どうしてまたこんなことに……」
真面目に仕事をするつもりで来たのに、気づけばやはり半年前と同じく何ひとつ仕事をしなかった人になっていた。そろそろキャラ的にヤバかった。
横を見るクロハ。
自分をそんな憂き目に合わせた元凶――かだんはぴぃぴぃと鳴くひよこさんたちを胸に抱き、虚ろな瞳で天井を見上げている。
(「私はまた……ひよこさんを……護れなかった……」)
傷心していた。
ビッグひよこさんを護るために戦ったのに、戻ってきたらやっぱり毛玉がしゅわしゅわと消滅していた。もうのたのたと床の上で身じろぎするしかないヘラジカだった。
一方、そんな悲しみを尻目にティアンやシフカは、室内にいる元気いっぱいのひよこさんたちと触れ合っている。
「よし、全員無事だな」
「ひよこさん! ひよこさんかわいい!」
ひよこの群れを抱く2人。ティアンはひよこたちが無傷であることを確認して安堵した。すぐ横でひよこにつつかれたシフカが3歳児並みの言動ではしゃでいるのは心配だが、当人が幸せそうなのでちゃんと放置してあげた。
そしてマロンは、ひよこひしめく箱にカメラ(一眼レフ)を向けている。
「この可愛さは今だけの可愛さです、実に尊いです。なのでちゃんと写真に収めてあげるのです」
パシャシャシャシャ。
四方八方、隙のないフットワークで多角的にひよこさんを捉えるマロン。翌日には彼女の部屋の壁は黄色いふわもこの写真で埋まっているかもしれない。
ひよこさんは、ぴぃぴぃと鳴きつづける。
そのか弱い鳴き声に顔を上げたクロハは、弛緩したため息をついた。
そして笑った。
「帰りにフライドチキン買って行きましょうか」
『えっ』
「えっ?」
仲間たちから集まった視線に、ナチュラルに首を傾げるクロハさん。
その日食べたチキンは、普通に美味しかったそうです。
作者:星垣えん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年11月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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