メンの強さはコシの強さ

作者:星野ユキヒロ


●麺を作り続けて
 家庭用製麺機という機械がある。縁のない家は本当にないものだが、家庭で一から麺を作る必要のある家では、昔は重労働だった麺作りを助ける機械として、固い生地を伸ばし、細長く切り離すとても便利な道具で、うどんだけでなく中華麺、パスタなどを作れるものが案外たくさん世に出回っている。
 そんなお役立ちマシン、すでに骨董品といっていい真鍮製の手回し製麺機が群馬県の温泉宿の倉庫に眠っていた。かつてお鍋のシメとして宿泊客を喜ばせるうどんを作っていた製麺機だが、自動の業務用に買い換えたため役目を終えたのだ。
 そんな製麺機の眠りを妨げるのが小型ダモクレス!
 蜘蛛めいたうごきで内部機械に忍び込むと中枢部分に取り付いた。
『メ~~~~~~~~ン』
 動き出した製麺機はダモクレスと化し、倉庫を出て行った。

●製麺機ダモクレス討伐作戦
 群馬県の温泉街に製麺機ダモクレスが出現することを小柳・玲央(剣扇・e26293)は懸念していたという。
「玲央サン、的中ヨ。皆さんには予測のとおり、製麺機のダモクレスを倒しに行ってもらうネ」
 クロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「現場は温泉宿の駐車場ヨ。駐車場の隅に件の倉庫があるネ。宿泊客は少し離れた分館のほうに移動してもらって、周りは警察に頼んで閉鎖と人払いを頼んだヨ。とはいえ、移動してグラビティチェインを求めて人を害する恐れは全然あるカラ、それを未然に防いで欲しいアル」

●うどん製麺機ダモクレスのはなし
「このダモクレスはうどん製麺機に車輪がついたダモクレス。奇声を上げながら駐車場をうろつきまわっているようヨ。手回し部分を回してうどんを打ってくるガトリングガンを搭載していて危ないことこの上ないヨ。うどんのコシが効いた弾丸は当たったらアタタじゃすまなそうネ」
 クロードは手持ちのモバイルで市街地の航空写真を見せて戦闘区域を説明した。
「ここからここまで、警察に封鎖と避難をお願いしたアル。だから人払いは気にせず、純粋に戦闘頑張っチャイナ」

●クロードの所見
「温泉宿! 思い出を作りに来るところといっても過言でないネ! 家族連れや恋人たち、仲良しのグループがあそこで食べたおうどん美味しかったね~なんて帰ってからも話せるように、皆サンで解決してもらいたいアルネ」


参加者
マイ・カスタム(後期型・e00399)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●温泉郷は危険な香り
 ケルベロス達はヘリオンから降り立つと、人のいない温泉街を現場に向かって歩いていた。
「温泉街を荒らそうとうろつき回る厄介者をささっと退治して普段の賑やかさを取り戻さんといかんのう」
 口ひげをひねるカヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)の周りを、お供のボクスドラゴンが湯の香りをくんくんと嗅ぎ回っている。
「警察による避難と誘導の手配をしてくれたクロードさんに感謝です。これで、心置きなく壊すことに集中できそうです!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は人っこひとりいない温泉街という非日常を目にして、戦いへのやる気を新たにしている。
「その……なんというか、家電由来でもデウスエクスなんだから危険だし撃破すべきなんだけどね」
 対してマイ・カスタム(後期型・e00399)は不謹慎に思いながらも強大な敵勢力との一大決戦とのギャップに力が抜けるのを感じた。
「うどんというか製麺機が麺を武器に襲ってくるとは」
 久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)も敵の不可思議さに天を仰いでみる。快晴だ。
「製麺機にも製麺機なりの事情があるというもの、ダモクレスとして暴れて美味しい麺を武器として奮う最期なんて悲しすぎますわ!」
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)は生前(?)の製麺機の矜持を踏みにじるダモクレスの横暴さに憤りを感じているようだ。
「私の大好きなうどんが、こんな事になるなんて……被害を拡大させないためにも、うどんの尊厳を守るためにも、素早くケリをつけてやります」
「麺類の可能性広げ過ぎだよね。うどんってこんなに変幻自在だったんだ」
 羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)と小柳・玲央(剣扇・e26293)はポンポンとテンポよく会話していた。玲央はつい最近うどん絡みのダモクレスを討伐したせいだろうか、うどんのポテンシャルに思いを馳せた。
「美味しい饂飩は良いけどそれで殺人が起こるのは防がないとね」
 比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)がまとめたところで、現場に近づいてきた。何やらメーンメーンと鳴く声が聞こえる。戦いの幕開けが近い。

●VSうどん製麺機
「温泉街の人達を襲わせはしません!」
 飛び出しざま低いところから組み付いたミリムは手回しの部分を掴みぐるぐると回して製麺機の怒りを誘った。
『メ……メーン!』
 驚いた製麺機ダモクレスはキュリキュリと車輪を鳴らす。
「目を背けても意味はありません。いつだって、あなたの中に潜んでいるのですから」
 車輪の音を聞いた紺はまつろう怪談をその車輪にまとわりつかせ足止めをはかった。
『メーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!』
 ミリムを貼り付けたまま、製麺機ダモクレスはうどん弾をガトリング掃射する!
「うぐぐぐぐ……!!」
 ミリムは腹筋にうどん弾を受けて吹っ飛んだ!
「ふぉっふぉっふぉ、もの悲しいがお役御免の機械にはさっさと退場してもらわんとのう」
 笑い声と共に音キング爆破スイッチを押したカヘルの前で、前衛をカラフルな爆炎が包む。お供のボクスドラゴンも属性をインストールした銃でミリムを癒した。
「スターゲイザーにしようと思ったけど……命中力下がっちゃうから。打ち出される饂飩は食べれるのかな?試しにこれで受けてみようか」
 呟いた黄泉は薔薇の剣戟でダモクレスを惑わす。空いた手にどこからか取り出した丼を掲げ攻撃を誘っているのはご愛嬌だろうか。
「冷凍うどんになってしまうかもしれませんわね」
 同じくうどん玉を手に入れたい気持ちのあるルーシィドのアイスエイジインパクトが製麺機ダモクレスに氷を付与した。
「おいでませ、いーわっ君!」
 マイの全周囲観測レーダー内蔵の小型ドローンが前衛の命中率をサポートする。
「うどん玉の攻撃、なんだか熱そうですね。冷やして痛みが減ればいいんですが。凍てつけ、鳴龍っ!」
 氷のドラゴンブレスを吹き付けた刀身を飛び掛かりながら叩きつける征夫。ルーシィドの氷にさらに氷を重ねた。
「やっぱり生麺なのかな、製麺機だものね。ダモクレスになった時点で、攻撃時は特殊な強化がされているのかな?」
 紺と同じく金だらいを構えていた玲央だったが、ポイと投げ捨てドラゴニックハンマーに持ち替え(たらいは紺がキャッチした)、竜砲弾をぶっぱなした。
 温泉の湯気がもくもくと風に乗って爆風と共に製麺機ダモクレスを包んでいるが、だもクレスは健在のようだ。戦いはまだ続く。

●細く長い関係
「ホント麺の弾丸は当たったらアタタじゃすまない……です、ね!」
 先程麺攻撃をモロに喰らったミリムはブルーフレイムラズワルブレイドを車輪に叩きつけ、部位破壊を行う。
「生麺を喰らわしてくるなんて……せめてゆがいてから出直しなさい!」
 うどんを粗末にするものは誰であろうと容赦しない紺は、車輪を壊されてその場でぐるぐる回る製麺機ダモクレスを飛び上がりざま斧の一撃を叩きつけた。
『メーーーーーーーーーーーーーーーーーン!』
 面を食らったのはそっちなのだが製麺機ダモクレスが大きく吠え、うどんを嵐のように広範囲に撃ち出す!
 ディフェンダーの二人は後衛の紺とカヘルを守ろうと飛び出した。ミリムは暴斧Beowulfを盾に歯を食いしばって耐える。玲央も金だらいを構えてうどんを受け止める。かばいきれなかったボクスドラゴンにうどんが当たるかというところだったが、すんでのところでひょいと身をかわし無事だった。
「ああっ、たらいの中のうどんが薄くなって消えていく……」
「これもグラビティなんでしょうね」
 盾で防いだ二人だったが、ダメージはゼロとは言えないようだ。しかしうどん受け止めるつもり勢はうどんが消えて当てが外れたショックの方がダメージより大きいかもしれない。
「守ってもらってありがたいわい」
 カヘルが再びブレイブマインを前衛に炸裂させ、傷を癒していく。ボクスドラゴンは対象の怒りをかっているミリムに念入りな属性インストールを施した。
「なんだ、食べられないうどんなんだ」
 黄泉は構えていた丼を静かに地面に置くとそのまま駆け出し、流星の煌きと重力を載せた蹴りを見舞う。が、回転の遠心力を利用して器用に回避されてしまう!
「ええ……戦闘後にしっかり再利用させていただくつもりでしたのに……うーん!」
 残念そうに身を震わせたルーシィドが撃ちだした黒色の弾が製麺機ダモクレスにトラウマを見せる。製麺機ダモクレスはうっとおしそうに、それでもまだぎゃりぎゃり回っていた。
「くるくる回って落ち着かないな!」
 マイが螺旋の掌で触れると、内部から反対側の車輪も破壊され、ダモクレスの動きが止まる。
「喰らえ、月光斬!」
 止まったダモクレスを征夫の妖刀亀斬りが緩やかな軌跡を描いて斬りつけた。
「テンポのいい畳み掛け!」
 玲央は征夫の攻撃が当たったのを見て、肘から先をドリルのように回転させて威力を増した一撃を放つ。
 製麺機ダモクレスは目に見えて欠損してきたが、まだ戦いは終わらない。

●だしの最後の一滴まで
 激しい攻防戦が続いた。移動手段を奪われたダモクレスは存外にしぶとく、ケルベロス達にもそれなりの被害が出ている。
「風槍よ!穿て!」
 ミリムが紋章『女王騎士の五本槍』から女王騎士の風槍を次々と取り出し相手を穿った。
「うどんは美味しく食べるものなのに……」
 うどんに思い入れのあるらしい紺がブラックスライムを捕食形態に変え、ダモクレスを飲み込ませる。
『メメメメメメーン!!!!!!』
 ブラックスライムに飲み込まれぶよぶよとしていた製麺機ダモクレスはどうやったのかスライムの隙間を掻い潜ると、爆炎のうどん弾を猛烈に撃ちだした!
 スライムに阻まれてどこを狙っているかわからず、危険を察知したミリムが至近距離まで近づいて斧で受けるも、猛烈な衝撃で吹っ飛び、炎に巻かれる!!
「これはいかんな、痛みはあるが我慢じゃ!」
 カヘルが癒しの弾丸をミリムに撃ち込み、弾道が起こす空気の動きで残っていた炎を散らした。やけどの傷はボクスドラゴンが続けて癒す。
「ほんとにアチチじゃすまないみたいだね」
 吹っ飛んだミリムと入れ替えに駆け出し、さらにふたたび流星の蹴りを見舞う黄泉。
「リリちゃん、力を貸してください。――――これで決まりですわ、スパイク・バレット!」
 華の絆、リリエッタの幻霊が呼び出され、ルーシィドの心より出でた荊棘の魔力の弾丸がダモクレスを貫いていく。ダモクレスのボディに大きな穴が空いたが、まだダモクレスは稼働している。幻霊は弾丸を打ち終えると帰っていった。
「なかなかしぶといね……」
「もう少しで……!」
 マイが氷結の螺旋を放ち、機械内部の循環機構を凍らす。続いて征夫の絶空斬が穴を切り広げた。
「これで決めるよ!」
 玲央が扇に見立てたつるぎでリズミカルな剣舞を舞うと、敵の生命力を奪う地獄の炎弾が次々と放たれ、すべて胴体の穴に飛び込み、製麺機ダモクレスの力を音もなく吸い込んでいく……。
『メ…………ン…………』
 静かに、とても静かに。製麺機ダモクレス討伐作戦は幕を閉じた。

●貸切湯幻郷
 戦いおわって。ケルベロス達は協力して現場や傷ついた仲間のヒールを行っていた。
「うどんの弾丸はなかなかに破壊力のあるものだった」
「元の雰囲気とずれるものにならないといいんですが」
 征夫のヒールドローンの修復を眺めながら、マイは気の抜ける存在の割に手こずった相手を思う。
「駐車場なら今後も使うはずだしね」
 玲央はなるべくアスファルトが平らになるように念入りにヒールを施す。
「わしは事がすんだと電話で伝えてくるかのう」
 カヘルは少し離れて、戦闘終了を報告しに行った。
「なかなか痛かったけど、止められて良かった。お疲れ様です」
 一番攻撃を受けていたミリムが製麺機の残骸に手を合わせる。
「うどん玉、使えなかったね」
「美味しいうどんへの感謝こそ、製麺機へ最後に送られる感情であってほしかったですのに……」
 黄泉が話しかけると、クーラーボックスでおだしを用意して来たルーシィドは悲しそうに目を伏せた。が。
「おおい、キャンセルがあったのを忘れてうっかり仕込んでしまったうどんが遊んどるから使って欲しいそうじゃぞ」
 電話の向こうの宿の主人からの計らいに、ルーシィドの笑顔がパァッと咲くのだった。

 戦闘だけでお腹いっぱいなマイと征夫は温泉に入るというので、残りのケルベロス達は足湯に浸かりながらルーシィドのうどんを味わうことにした。
「わしは食べやすい煮込みうどんがええのう。特に味噌で煮込んであるやつじゃ」
「お安い御用ですわ~」
 許可をもらって厨房を借りたルーシィドは『おいしくなぁれ』を使い、釜でゆでたうどんを冷水で締め、海苔をかける。カヘルには注文通りの味噌煮込みうどんをこしらえ、割り箸とともにみんなのくつろぐ足湯へ運んだ。
「わあ、麺がキラキラしてる……コシを味わうためにまずは醤油で一口、ん、美味しい」
「あ~、戦闘の疲れが癒されるっ。玲央さん、醤油だけでそこまで?」
「もちろん、後のせ薬味は葱と生姜で♪」
 テンポよく会話しながら足湯とうどんを楽しむ玲央と紺。
「やっぱり美味しいうどんは食べてこそだね」
 戦闘中使うことのなかった丼でうどんを食べてのんびりする黄泉。
「おお、足湯もわしらに負けんほどの癒し効果じゃのう。うどんも絶品じゃ。お? 欲しいのか? やけどせんようにのう」
「ルーさんの気合の入ったうどん、期待を裏切らないよ!」
 味噌煮込みうどんをボクスドラゴンに分けるカヘルと、ルーシィドに親指を立てて称えるミリム。
「後継のうどん製麺機さんがいい仕事してるのですわ。今度こそ、無事にお仕事を終えられるようにと祈ってます。おうどん作りにも気合が入るというものです」
 ルーシィドも笑顔で腰掛けて舌と足から極上の癒しを味わった。

 一方温泉に入った二人は、身体中を温める癒しの空間を衝立越しに楽しんでいた。
「マイさん、そちらはどんな感じですか。男湯は打たせ湯が三つあって……そっちもおなじですか? だいたい一緒なんですね」
(久遠君も一緒に入れればいいのに……)
 征夫の話し声を聞きながら声に出せない気持ちを胸にもやもやと抱きながら、それでも同じお風呂を楽しんでいる気分になれて少し嬉しいマイなのだった。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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