服切り! バーチカルテンペストの秘密

作者:大丁

 レジカウンターから伸びる列が、自動ドアを開けっぱなしにし、店の外まで続いていた。
 高校生が圧倒的に多い。
 下校時間に重なり、近隣にある3校ぶんの制服が、グループごとに交互で連なっている。
 バス道に面した、ファーストフードのハンバーガー店だった。
 男子も女子も、おしゃべりしながら順番を待つが、お隣の店舗前まで、はみ出すほどには並ばない。
 時間かかりすぎと思って、別のしゃべり場を探しにいくからだ。
 今また、最後尾につく人影。だが、その威圧感に、客たちの会話が止まる。
 3mもの巨躯が、振りかぶっていた。
 手にしているのは、槍の後端。穂先はビルの3階にとどくほどで、刃が夕日をキラリと反射した。
「ひっさしぶりだ! ぶった斬るんは!」
 蛮人は、背中が丸まる勢いで、武器を繰り出す。ざく切りにされた制服が、何着分も乱れ飛ぶ。

 ブリーフィングルームの演台に立ち、軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)が、予知の概要を伝えている。
 皆に見えるよう、武器が立てかけられていて、槍と斧のふたつがあった。
「罪人エインヘリアルがまたひとり、解放されたのぉ。ファーストフードのハンバーガー店の前でよぉ。客の列に並ぶ瞬間はわかっているから、付近で張っていれば、止めに入れるからねぇ」
 この敵は、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者。本人の望みは、無差別な斬り捨てだ。
 背景に、人々の恐怖と憎悪でもって、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせるたくらみがある。
「武器の見本と思ってぇ、ゲシュタルトグレイブを用意したんだけどぉ」
 冬美は、槍と斧を指さす。予知を分析したら、ルーンアックスの技が混ざっているというのだ。
「ゲシュタルトグレイブに、ルーンアックスのルーンをきざみ、縦斬りのグレイブテンペストになってるのぉ。薙ぎ払っての足止めの代わりに防具を狙ってくるから、服には気を付けて」
 凝ったことをするヤツだ、と感心する者もいれば、そうまでして服を斬りたいのか、と呆れるものもいる。
「まとめると、ゲシュタルトグレイブを使った、近距離の列斬撃で、服破りよ。いわば、バーチカル(垂直)テンペストね」
 説明おわりに、冬美はポンチョの胸元スナップを外しはじめた。
「え? 今回の技は実演を頼めないから、被害の例だけでもね、見てもらおうと……まあいいかぁ。さっさと現場にレッツゴー、ケルベロス!」


参加者
武田・克己(雷凰・e02613)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
高千穂・ましろ(白の魔法少女・e37948)
ジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーよんさい・e79329)

■リプレイ

●待つ人たち
 最後尾にいるとはいえ、高校生たちは機理原・真理(フォートレスガール・e08508)に気が付かない。隠密気流とはそういうものだ。
(「また服が危なくなる予感がするですが……」)
 むしろ、目立っていたのは、四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)だ。
 店内にいるのだが、窓に面したカウンター席は、外の順番待ちからは丸見えで、物理的な距離は近いんである。
 それが、ブルマを履いているものだから、チーズハンバーガーなんか食ってたら、部活をサボってるヤツ扱いだ。
 うまそうにあけてる大口が、練習中の空腹を想像できて、食欲とクスクス笑いを誘っていた。
 そうした彼ら、彼女らの雰囲気を、バス停に立つふりをして白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)はうかがう。
「放課後集まってお喋りかー。こういうのも青春の一つ、いやー、眩しいや」
 小声で応えるシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)。
「幸せそう、ですね。奪わせはしません。服だけなら、まだしも」
 密かに両腕に鎖を巻く。
 待ち客用のメニュー表を高千穂・ましろ(白の魔法少女・e37948)は、前にいた女子らから受け取った。
「あたしたち、もー見たんでー」
「どれに、したんですか?」
 さりげなく、会話につなぐ。
「もち、おてがるで! ……あなたたち、見ない制服だね?」
 綴じたカードには、お手軽価格セットなるものが記載されていた。
 小柳・瑠奈(暴龍・e31095)は、秋冬コーデの私服だが、高校生ふうにメイクしている。ジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーよんさい・e79329)は、ましろのブレザーとは違う、ジャンパースカート風の制服に黒ストッキングで、3人あわせて同じ中学の友だち設定、のつもりである。実際、瑠奈は、怪しまれもせず、話題を戻した。
(「木を隠すには森の中。高校生を隠すには高校生の中、ってね。いや……私、まだ高校生だし?」)
 年齢は18である。胸元はギリ抑えてきた。
「私も、仔猫ちゃんたちと同じにしようか」
 女子らは、そう呼びかけられて、先輩だったのかと、頬を赤くした。だって、ちっちゃいのがいるし。
 ジルダリアは34歳。童顔と制服の着こなしで1年生ぽい。
 いや、ポテチの紙筒からパリパリやってると、もっと幼くみえる。踵を浮かせて、瑠奈の手元を覗き込んだ。
「私は、季節限定ハンバーガーで……セットはポテトにしましょう」
 2年女子らは、紙筒をもう一度みる。成長期なんだ、というふうに。

●避難誘導
「さっさとぶちのめそう」
 武田・克己(雷凰・e02613)は、行列の末端に次元の揺らぎを認めると、背後から追いすがって、直刀・覇龍の突きを喰らわす。
 罪人エインヘリアルの振りかぶった脇をかすめて、歩道を横切り、ガードレールに足をかけて止まった。
「俺は、雷凰。てめぇのようなヤツは、ただ斬って捨てるのみ!!」
「なっにぃ?! ぶった斬るんは、オレのほうだ!」
 蛮族の腰布が、ずれる。一撃目に手心を加えたようなのは、正面からの闘いを望んだからかもしれない。
 車道から、柵ごと克己(かつき)を飛び越えて、ライドキャリバーがくる。ヘッドライトを真っ赤にし、炎に包まれた車体は、真理のプライド・ワンだ。
 巨躯に体当たりするあいだに、サーヴァントの主人は隠密気流を解いていた。
 白の競泳水着型フィルムスーツに、アームドフォートの完全装備を現し、バックパックから伸びたサブアームのレーザーを撃ちまくる。
「痛ッタ、イタタタ!」
 罪人は、持ってるグレイブの下ろしどころもなく、怯む。そうして真理は、立ちふさがって、学生たちを逃がすのだ。
「私が、盾になっているあいだに、逃げるですよ!」
 一般の通行人も含め、騒然となるバス停前から、シフカは颯爽と逆行していった。
 黒のスーツは身に馴染み、笑みを浮かべる口もと。だが、灰色の瞳にだけ、殺意がやどると、一般人たちの足並みは、整う。ともかく、この場を離れればいい。
 殺界形成である。
 ファーストフード店だけでなく、周辺の店舗は、裏口から人が出ていった。
 リーフのウイングキャット、チビがトコトコと、窓の外にやってくる。尻尾をくるっと振ると、キャットリングで、ガラスを丸く切り抜きした。
 出来上がった穴を、リーフは後ろ向きに抜けでて、まんまと敵前に達する。
「服を破けるもんなら破ってみろー! お尻ペンペーンだ!」
 エインヘリアルに向けたままの、臀部を挑発に叩く。
 敵の目が迎撃班に引き付けられている。ジルダリアたち避難誘導班は店外の高校生を引き連れた。同級生設定にブレが生じるものの、プラチナチケットがあれば問題ない。
 永代(えいたい)は、車道に出て、交通整理している。殺界の効果で、これ以上の流入はなさそうだ。
 空いたスペースに、アスファルトを駆けていくブレザー制服があった。
 ましろは、罪人エインヘリアルを避けた弧を描くコースで、歩道からまた歩道へと、ガードレールを乗り越えようとする。
 ハンバーガー屋の待ち客は誘導できたが、敵の背後の通行人は、避難がいまひとつ進んでいない。
「みなさん、危険なんです、もっと下がって……きゃあ!」
 歩道に足がつく寸前を狙って、バーチカルテンペストが、突き抜けていった。
 身体が傾いたぶん、太刀筋も中心ではなかった。
 ボタンはボタン穴にとまったまま、ワイシャツの袖は上着の袖にとおったまま。
 スカートとあわせて四方に分かれ、パンツの右側だけが、まるまって膝に残る。
 足の動きは止まらず、生まれたままの姿の女子高生は、事件の映像を得ようと残っていた男子生徒の前へ、走り出てしまう。
「いやっ、こんな格好、スマホで撮らないでくださいっ!」
 小さなお尻が、モジモジしている。エインヘリアルは、心底楽しそうに笑った。
「ぎゃっははは! もう、いっちょう!」
 ルーンの輝きをそのままに、垂直に堕ちてくる穂先。直刀が水平に繰り出されて受け止める。
 グレイブは下りきらない。克己の長身が支えれば。
「知ってるか? 剣術三倍段って言ってな。剣で槍の相手するには三倍の段位が必要だそうだ」
「なっにい?! やっぱ、オレ最強かあ?」
 蛮人が不用意に、上からの力をこめたところを、克己は横に受け流した。巨躯の体勢が崩れ、いっきに踏み込む。槍を十分に振るえず、剣技なら打てる間合い。
「つまり、俺の相手にならないお前は……」
 最も敵に肉薄した位置にいながら、最も遠く。戦闘中の配置転換は危険も伴うが、克己は賭けに勝った。
「剣の三分の一以下の槍ってわけだ!」
 刃は急所を斬る。
 男子高校生が目の当たりにすれば、見学できるものでないと、さすがにわかる。
 ましろは、裸身を押して、退去させる。うしろ姿に永代は、関心を寄せた。
「さながら、おてがるってサイズかな。よく、頑張ったよん」
 戦闘に復帰した瑠奈は、私服を脱ぎ捨てて、ボディスーツを纏っていた。左右非対称に網タイツをあてている。
「ほんと、仔猫ちゃん、ゾクゾクするくらい良かったよ。みんなの安全は確保されたから……」
 天に指さし、怒號雷撃の稲妻をおとす。
 罪人の色彩が反転したかのような衝撃のあと、余波の風が歩道にサッと吹いた。
 置き去りになったメニュー表がめくれる。お手軽価格セットと記載が。

●槍との決着
 リーフの落下天蹴撃(ラッカテンシュウゲキ)、3階に届くゲシュタルトグレイブの穂先よりも、なお高く飛び上がる。罪人は見上げて叫んだ。
「破ってみろと、言ったなぁ!」
「にゃー!!」
 槍の狙いは、空中のリーフだけではない。腕の鎖を解き放とうと半身になったシフカと、アームドフォートの発射角を得るために後ろを横切った真理の、3人を結んだ一直線を斬ってきた。
 すなわち、ディフェンダーとクラッシャー、前衛3人である。
 ブルマが尻割れに沿って、宙に散った。
 黒スーツの、右半身はつま先まではりついているが、左肩から背中全部と、両ふくらはぎまでが、ざっくりと路面に横たわる。
 白スク水着タイプのフィルムスーツは、サイドラインにそって、前後に分割し、走行にあわせて飛び去っていく。
 リーフは慌てて、股間を押さえるが、蹴りの姿勢は維持した。シフカは口を丸くあけたあと、悦びに満ちた笑みに変える。
 真理は、マルチユースコンテナに、サブアームのレーザー、肩口キャノンの展開伸長と、全装備を発射体勢にしているが、それが着ているものの全てであって、素っ裸に武器を身に着け、かつ肝心なところは何一つ隠せていないのであった。
 狙撃と回復を担ってきたジルダリアと永代は、後方から3者のお尻を、瞬間的に見比べる。
「縦斬りのグレイブテンペスト、予想どおり服が半分こになっちゃうんですね!」
「ホント、複数人をいっぺんになんて、謎の技術極めてるよん。リーフちゃんとシフカちゃん、真理ちゃんは……!」
 転がるメニューに、チーズハンバーガーとフィッシュハンバーガー、そしてダブルサイズハンバーガーが。
「……といったところだよねん。ヒールドローンのテイクアウト、用意しよ」
 チーズ……いや、リーフの蹴撃は、巨躯の脳天に食いこんだ。その首元に、シフカの鎖が巻き付く。縦割り半裸が引き絞ると、地面に何度もたたきつけた。
 立ちあがりかけに、砲弾やミサイルが降り注ぐ。
「斬ってやったろが……ぐっへへ」
 なおも、槍は持ち上げられた。瑠奈とプライド・ワンの、キャスターを狙う。
 回避を強化されたライドキャリバーは、槍を避けて青ライトを瞬かせるが、大技のために精神集中にはいっていた零式忍者、半網タイツはターンの勢いが足りず、網以外の布地を削りとられていた。
 むっちりとしたヒップが、はみ出してくる。ジルダリアは静かに興奮していた。
「残すところは残す、お約束ですね」
 永代はまったく遠慮がない。
「良いよねん! おてごろを遥かに超えるダブルビッグサイズ、注文したーい」
 瑠奈が乳房を抱えながら、振り返った。
「あの……、仔猫ちゃんに見られるのはうれしいんだけど、殿方にはちょっと……」
 しかし、永代は見透かしたように、サムズアップするだけである。瑠奈が本当に、羞恥を覚えているのかはわからないが、彼女が通った軌跡には、光と闇のクナイがばら撒かれていた。
 前衛、中衛ときたのだから、次は自分の順番である、とジルダリアの脳裏にときめくものがあった。
(「ああ、ネクタイや靴下は残されるのかしら。世界の理ですものね」)
 しかし、スナイパーの彼女には、届いてこないのである。
 克己も同じであって、死角からの斬撃は、敵の唯一の防具、腰布をボロに変えた。
 ジルダリアは、太さには欠けるが長さは体格並み以上が、まろび出るのを知る。
「剛槍の割には、お腰のモノは粗品、となじるところでした……」
「お待たせしましたっ! 封印解放! ……ああっ」
 避難誘導から帰ってきた、すっぱだかのましろは、慌てて変身するものの、杖と靴以外がない。さらに、勢い余って、『槍』に刺さる。
「やめて、抜いてくださいっ」
「くっ、せめて一人くらいは堕とさないと、自由になった甲斐がねぇ。こっちの槍でもかまわん!」
 脚の周囲では、克己の『森羅万象・神威(シンラバンショウ・カムイ)』が続く。刀剣士の長身では、ましろの無毛の股間と結合部が顔の高さだ。しかし、眉ひとつ動かさない。
 激しい垂直運動の後に、出されるものがナカで、嵐を起こしていた。
「バッ、バーチカルテンペストォ!」
 ほぼ同時に、罪人エインヘリアルの八方から、瑠奈のクナイが突き立てられた。かわしようも、耐えようもなかった。巨躯は、どうと仰向けに倒れる。
 槍の柄は、ぐにゃりとひしゃげた。

●メニューをどうぞ
「予感が的中だったのです……」
 真理は、とりあえず、サブアームで肌を覆う。
「はい、着替えですよ。全員分があります」
 シフカが、デザインもサイズも各人に合わせた衣服を持ってきた。本人はすでに、元の黒スーツに戻っている。
 瑠奈は、お礼を言いつつも、更衣室がわりの目隠しはないかと、問う。
「だって、殿方が……」
 すると、永代は先ほどと変わって、くるりと後ろをむいた。シフカが優しく微笑む。
「まだ、殺界は効いています。誰もいませんから」
 学校指定とは、色合いが違うものの、ましろはありがたく制服をもらい、真理もリーフも従った。パンツを履こうというタイミングで永代が。
「そういや、複数の高校が一つの店に居るって交通の便が良いからだよねん。そんな、往来でお着替えなんて、ドキドキしないかー♪」
「にゃー!!」
 赤面したリーフの蹴りが、後頭部に飛んでくる。
 もとより、女性の着替えになど興味のない克己は、倒した敵を見下ろして。
「やはり武人には程遠い、何がしたいんだかわからないヤツだったな」
 曲がったグレイブにも目をやる。
「初心貫徹、と評価したいところだが、おかげで技を凌ぎきれたぞ」
 そして、同じく射程の関係で、切り裂きをお届けされなかった女、ジルダリアが、しゃがみ込んで。最後に武士のなさけで、ポテチの空いた紙筒を、デロンと出っ放しのものに被せてやる。
「久し振りなんで……吸い尽くしちゃうかもと思ったのに」
「吸いつく……シェ、シェイクの話なのかー」
 リーフらが、身支度をおえてきた。永代は結局、被害もないのに彼女らといっしょにいる。
「ほらほら、弔いが済んだら、かたずけて。お店にもヒールかければ、吸えるからねん」
「私は、お手軽価格セットにします」
「私も仔猫ちゃんと同じものだ」
「魚かしら」
「ダブルサイズに挑戦するですよ」
 夕日に、もうひとガンバリの勇者たちであった。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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