魔女の林檎

作者:雨音瑛

●橙の光
 市街地にほど近い森で、いくつかのカンテラが灯った。空の橙を移し替えたかのような灯りを辿っていくと、魔女の住処――を模したログハウスがいくつか見える。
 どのログハウスの扉にも、リースが掛けられている。小さなジャックオーランタン、秋の葉や木の実を枯れた蔓で括った、ハロウィンをイメージしたリースだ。
 先ほど訪れた二人組の高校生は、恐る恐る扉を開く。それすらも楽しむかのように。
 店内は薄暗いが、視線の先にあるガラスケースに並べられているのは色鮮やかなスイーツ。タルト、クッキー、プリン、パイなど、店によって売っているものは異なるが、ひとつだけ共通することがある。それは『林檎を使っている』こと。
 購入するものを決めたなら、持ち帰っても、森の中にある木の椅子やテーブルに座って食べていってもいい。
 切り株を模した椅子の上に座ってテーブルの上にスイーツを広げれば、カンテラの光で伸び縮みする影のダンスが見られることだろう。先ほどの高校生はタルトタタンとアップルパイを広げ、笑みを交わしている。
 ちょうどその頃、付近の市街地にあるゴミ捨て場では異変が起きていた。
 拳ほどもあるような宝石をつけた蜘蛛のようなものが、粗大ゴミに出されたオーブンに入り込んだのだ。直後、閃光と共に出現したのは頭部がオーブンになった二足歩行のロボット。
 ロボット――ダモクレスは、賑わう森の方へと歩き出した。

●秋の夜長に
 人の集まるところには、グラビティ・チェインを求めるデウスエクスの影があるもの。エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)がヘリオライダーに予知を依頼したところ、『魔女の林檎』なるスイーツイベントにダモクレスが出現することが判明したらしい。
「市街地のゴミ捨て場に置かれていた古いオーブンが、ダモクレスになってしまうようなんです。今は被害が出ていないんですけど、放置すれば多くの人が殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまいます。でも、ケルベロスが駆けつければ話は別です」
 エルムが頷き、微笑む。
「ゴミ捨て場でダモクレスを倒せれば、イベントに集まった人々が傷つくことも防げます。動き出した直後のダモクレスを撃破するのが今回の仕事、というわけですね」
 戦闘は、ゴミ捨て場のある市街地で行うことになる。付近に住む者や通りがかる者などの一般人については、最初に人よけをしておけば充分だ。戦闘が始まれば無闇に近寄る一般人もいないし、ダモクレス自身もケルベロスとの戦闘を優先するらしい。
「ダモクレスの頭部となっているオーブン部分には、『B02』という文字が見えるそうです。たぶん、型番の一部でしょうね。今回はこの部分をダモクレスの名前として、僕が聞いた予知の内容を説明しますね」
 まずはB02の外見について。B02は、頭部がオーブンになった二足歩行ロボットのような姿をしている。身長は160センチメートルほどで、攻撃力の高い個体らしい。
「B02の攻撃方法は3つあるんですが、どれも頭部の扉を開いて爆発を起こすものみたいなんです。大爆発は遠くまで届く爆発、中爆発は近場で複数人を巻き込む爆発、小爆発はおひとり様向けの爆発、らしいですよ」
 どの攻撃もそれなりに威力が高いが、最も威力が高いのは『おひとり様向けの爆発』とのことらしいから、前線に出る者は気をつけた方が良いだろう。
 そして、無事にダモクレスの撃破に成功したならば。
「林檎のスイーツが提供されているスイーツイベント、『魔女の林檎』をのぞいて見るのも楽しいかもしれませんね」
 そう付け足して、エルムはケルベロスたちに協力を請うた。


参加者
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
月岡・ユア(幽世ノ双月・e33389)
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
幡寿・千華(魔降魂操・e44351)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)
セーブ・サパナ(楽園追放・e62374)

■リプレイ

●襲う者、許すべからず
 20時を過ぎた頃の市街地は、まだまだ外を出歩く者も多い。たとえば、仕事帰りの社会人。たとえば、アルバイト帰りの学生。薄手のコートを翻らせ、あるいは手をこすり合わせて歩く彼ら彼女らの前に、銀髪の娘が立ちはだかる。
「此処は戦場になるよ! すぐに終わらせるから、早く逃げてねっ」
 声をかけるは月岡・ユア(幽世ノ双月・e33389)、彼女の金の瞳は付近を歩く者を見逃さない。
「危険ですから、この辺りには近寄らないで下さいね!」
 と、続くエルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)の声は拡声器を通して、少し離れた場所にも届くように。
「邪魔だ……怪我をする前に、此処から離れろ」
 隣人力を発揮しながら告げるのは、無表情で鋭い視線を向ける幡寿・千華(魔降魂操・e44351)。彼女にそうされたのならば、普通は恐れ、慌てて逃げるところだろう。しかし目の前の一般人は少しだけ驚いたものの、笑顔で頭を下げて遠くへと走り去ってゆく。隣人力のおかげか、それとも――。エルムはその様子を見て、くすりと笑った。
 現場に向かってくる二人分の足音は、小柳・玲央(剣扇・e26293)とセーブ・サパナ(楽園追放・e62374)のもの。
「イベント会場の方は、放送施設を通して呼びかけてもらうよう頼んできたよ」
「向こうの方で声をかけられる人にはかけてくれるって! りんごのイベント、絶対中止にも惨劇にもさせないんだからー!」
 万が一を防ぐには、充分な施策。これならば一般人に被害が及ぶことは無い。
「では、キープアウトテープをぺたぺたするのです!」
「はい、手分けしてぺたぺたしましょう!」
 仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)と華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)が、ゴミ捨て場を中心としてキープアウトテープを貼り始める。
「オーブンからほんわりと、美味しいお菓子が焼ける匂いが漂ってくるのは好きですが、楽しいイベントが、こんがり焼かれてしまうのは勘弁なのですよ」
 と、頬を膨らませながらテープを貼るかりん。
「森で味わう魔女の林檎、なんて浪漫と秘密がエッセンス! きっと魔法みたいな美味しさです、ああ、ときめきます!」
 と、どこかうっとりした様子の灯。
 二人がテープを貼り終えた頃、ゴミ捨て場から聞こえた音に千華は舌打ちをした。
「――ガラクタはガラクタらしくしていればいいものを……そういう所が、お前らの気に食わん所だ」
 とはいえ、彼女自身も人の事は言えない。機械類の操作が苦手なため、弄ったものは大抵爆発させてしまうからだ。
 ゴミ捨て場付近に灯る外灯はちらつくこともなく、確かに周囲を照らしている。
 光の下で動くのは、ケルベロスと倒すべき敵のみだ。
「さあ、スポットライトは俺たちのものだぜ」
 ステラ・フラグメント(天の光・e44779)の言葉を皮切りに、ケルベロスたちは二足歩行ロボット型のダモクレス『B02』を取り囲んだ。

●仕事
 B02はオーブンの蓋部分を開け、内部で爆発を起こした。広がりながら襲い来る爆発をひらりとかわしたユアは、簒奪者の鎌「死数唄」を投擲する。
「さっそくだけど、お返しだよ! さぁ、ガンガン行こうか!」
 刃がB02を切り裂くのを横目に、ユアは小さく笑ってしまった。隣に立つ青年の目が、少年のように輝いていたからだ。
「……ステラ? あんまり魅入って怪我しちゃダメだよ?」
「! わかってるって、ユア!」
 仮面を軽く押し上げたステラは、片目を閉じて笑う。ガジェットを愛する少年の目は、いま怪盗ステラのそれへと変化した。
 ビハインドのユエがB02の動きを止めた隙に右腕を獣化させ、怪盗はアスファルトを蹴った。
「これはまた素敵な宝石の淑女だ! 爆発もまた魅力的な君ではあるが、君の道行きを閉じさせて頂こう!」
 手を繋ぐように伸ばされた手は機械の腕を通り越して懐へ。滑り込ませた指先を拳へと変え、胸部に打撃を加える。
 下がるB02を認識するが早いか、千華が電柱を足場にする。
「似た者同士仲良くしようじゃあないか。とはいえ、此処でお別れなのだがな」
 呼吸ひとつの間、瞬時にB02の頭上を位置取る女は機敏だ。
「無に還してやろう」
 獣が本能でそうするかのように体を回転し、足先に星屑を煌めかせながらB02の頭部に狙いを定める。
「……遠慮は無用だ、消えろ」
 蕗と馬山ほどの衝撃を加えて着地した後は、曼珠沙華の紋を仲間に向けたまま声を張り上げて。
「一気呵成に畳み掛けるぞ!」
「うん、千華さんに続いて畳み掛けるよ」
 ゴミ捨て場を囲う塀を駆け上がったセーブは、B02をびしりと指差しながら降下を始める。
「あんた、オーブンなんだから爆発なんて起こしてないで、元々の職務ちゃんと果たしなさいよ! 例えば、えっと……」
 足先でB02の肩口を蹴りつければ、衝撃と共に閃く。
「そう、焼きりんご作るとか!!」
「焼きりんご! 美味しそうですね、きっとイベントでは売られてないんでしょうけど……この無念を力に変えて!」
 灯は壁面を二度蹴って、B02の背後かつ頭上へと移動した。そこで見える全身像にはっとして、
「二足歩行ロボ……ちょっと格好良い気も、いえなんでも」
 胴体を蹴りつけた後、跳躍して着地したのはかりんの隣。砲弾を撃ち出すかりんの耳は、灯の言葉を聞き逃さない。
「ぼくもそう思います、ちょっとカッコイイですよね! 巨大ロボだったら文句なしです!」
「巨大ロボ!! ですよね!!」
 瞳を輝かせ、頷きあう二人。
 続いて動くはウイングキャット二匹。清らかな風を送るのは黒猫ノッテ、尻尾のリングを都バスは子猫アナスタシアだ。ミミックのいっぽもがぶりと噛みついてB02の体力を削ぐ。
「雪も積もり積もれば盾となる」
 エルムが前衛に届ける雪は、癒しだけでなく盾としても役割を果たす。行き渡る加護に安堵しながらも、B02に向ける視線は厳しい。
「せっかくの美味しくて楽しいイベントに何してくれてるんですか! イベント会場の方へは行かせませんからね! リンゴのスイーツが待ってるんです!」
「そう、せっかくのイベントなんだ。絶対に邪魔なんかさせやしないよ?」
 一定のリズムを刻みながら黒き鎖を操る玲央。防備を高める魔法陣を描くと、普段は人目にさらさぬ両腕の地獄、その炎が揺らめいた。

●爆発
 攻撃力に特化している分、それ以外は脆いのだろうか。B02の体には無数の傷が走り、頭部のオーブンは蓋が外れかかっている。
「暴れん坊なオーブンさん、魔女のお話でも窯で大人しく焼かれる子はいませんよ! 私のときめき爆破を受けるが良いです! 出番ですよ、灯スペシャルスイッチ!」
 爆破スイッチを押し込んで起こした灯の爆発で、軽く浮いたB02。すかさずアナスタシアがとびついて引っ掻く。
「ぼくたちを甘くみてもらっては困るのです!
 かりんが星型のオーラをスタンプするような蹴りを見舞った直後、いっぽの作り出したエクトプラズムのハンマーがB02のひざの装甲を歪ませる。
 玲央が舞うように取り出したパズルからは、舞台装置であるかのように竜を象る雷が迸る。
「この調子なら、大した被害もないまま終われそうだね」
 ボディが真っ黒に焦げるB02の真正面から、セーブは二本の鉄塊剣を振るった。
「そろそろ、終わらせようか。こっちは早く仕事を終えて――」
 剣と呼ぶには逡巡するほどの鉄塊、その閃き二つを十字に交差させて。
「りんごタイムを楽しみたいんだよ、ね!」
 言葉の一押し、吹き上がる地獄は機械の身体に毒を巡らせる。
「合わせろ小僧……隙が出来たら、私ごと撃て」
「えっ、千華さん、えっ!?」
 戸惑うエルムを気にせず、千華は踏み出した。
「慈悲は無い―――そのまま、微塵に砕け散れ」
 B02を掴み、引き摺り回す。細身の体からは考えられない力で振り回された敵は、螺旋の軌道で駆ける千華の手から放り出された。そのまま蹴り、穿つのを見たエルムは、羽ばたくノッテをちらりと見て跳躍する。
「ノッテさんの風でヒールは充分そうですが……もう、強引なんですから」
 オーラを蹴り込むのは、無論彼女を傷つけぬ場所だ。
「余計な気遣いは無用だ……自分と、他者の事だけ考えろ」
「そういうわけにもいきませんよ」
 食い下がるエルムに、千華は無言で背を向けた。
 がたつきながらB02は蓋を開き、小さな――といっても目の前で起こされたのなら相応の負傷をするほどの――爆発を起こした。
 体を張ってそれを受け止めたのは、いっぽだ。
「ないすですよ、いっぽ!」
 かりんに言われ、いっぽは嬉しそうに飛び跳ねる。
 ユエの体当たりでひるんだB02に、ユアは軽やかに近寄った。
「ほーら! キミはそんなものかい? こっちだよ。もっと僕らを楽しませてよ♪」
 手を伸ばすユアに誘われるように近付く、B02。けれど、ユアの口から紡がれるオルタナティブソングは、彼を拒絶するように響き渡る。傾ぐB02の体力は、おそらくあと僅かだろう。
「ステラ、決めてよね!」
「ああ、任せてくれ、ユア!」
 ステラは銀色の杖型ガジェットの先端を、B02へと向けた。
「これで決めるぜ! ――俺のガジェット! 素敵なダンスを踊ってくれ!」
 杖からあふれ出す、星屑を思わせる砲弾。輝く星々はB02に到達し、眩いばかりの爆発を起こしたのだった。

●秘密のお菓子
 玲央の手が仲間の衣服を二、三度叩くと、体と服が瞬く間に整えられる。
「よし、これで心おきなくイベントを楽しめるね」
「ありがとうございます、玲央さん! あとはシアのリボンを整えて、と……うん、お呼ばれの準備は完璧ですね!」
「ありがとうございます! はい、たるとたんたんに美味しいお菓子が待っているのですよ!」
 アナスタシアを抱き上げる灯と、ぺこりと頭を下げるかりん。
 全員の準備ができたところで、ユアが拳を掲げる。
「さぁ、みんな、いくよ~♪」
「はい、行きましょう! 待ってて下さいね、タルトタタンにアップルバイ……!」
 仲間の背を追うエルムは、逆の方へと歩み去ろうとする人影に気付いた。だからすぐに駆け寄り、声をかける。
「千華さんも行きましょうよ、せっかくの機会なんですから!」
「……仕方の無い小僧だ」
 舌打ち混じりの返答だというのに、エルムは嬉しそうに笑った。

 カンテラの灯りを道しるべに、ケルベロスたちは森の中へと入ってゆく。
 ユアに手を引かれて魔女の家に入ったステラはタルトタタンをまじまじと見た。
「これが噂の『タンタン』か……パイをひっくり返したような形になってるんだな」
「ボク、アップルパイ食べようかな? ステラは……タンタンっていうのを食べる?」
 ユアの問いに咳払い一つ、ステラは困ったように笑った。
「……実は、甘いものは沢山食べられない方なんだ」
「そうなんだ……あ! よかったら、半分こしようよ♪」
「いいぜ! 半分と言わず、もうちょっと食べてもらってもいいくらいかもしれないな」
 そうしてアップルパイを手に、イートインスペースへ。ステラは一緒に頼んだシナモンの効いたホットアップルを一口、まずはユアに「あーん」する。
「……ありがと♪ うん、美味しい!」
 それをじっと見るユエに気付いて、ユアは手招きした。
「ユエも、いっしょに食べよう? きっと美味しいよ」
 ユアにとって、ユエは大切な妹。今のうちに沢山の美味しいものを食べさせてあげたいのだ。
「ん? ユエも食べるかい? なんだ、ノッテもか? じゃあみんな揃ってこっちにおいで!」
 2人と2匹がぎゅっと集まって賑やかになったテーブルの様子に、思わずユアは微笑んだ。

「目指すは全店制覇ですよ、アナスタシア! 大丈夫です、今日は初対面だけど心強いセーブさんがいらっしゃいますので!」
「これも何かの縁よね。よろしくね、灯ちゃん」
「こちらこそよろしくお願いしますね。ではれっつごー、ですよ!」
 飛び跳ねるようにして「魔女の家」に入った灯、そして灯を追いかけるセーブ。
 魔女の家を巡る度に目に入る魅惑のりんごスイーツ。ひととおり買ってみたところで、イートインスペースに移動して、ところ狭しとパイ、ロールケーキ、クレームブリュレ、クッキー、チョコ――その他たくさん、を並べたのなら。
「えへへ、パイを一口くださいな」
「はい、どうぞ。……ね、あたしにも一口」
「ではロールケーキをどうぞ!」
「ありがと。灯ちゃんはどれが一番好み?」
「サクサクのパイが一番好きかもですね。たんた……タルトも素敵です、ああ、やっぱり選べません!」
 頬に手を当てて幸せそうにする灯。つられて、というわけでもないが、セーブの顔もゆるゆるだ。りんごのことになると自然とそうなってしまうセーブだが、今日はいつにも増してゆるゆるになっている気がするのだった。

 いくつか見て回った玲央は、日持ちする焼き菓子が多く揃う場所を見つけてほころんだ。特にドライアップルのパウンドケーキは、お土産には丁度よさそうだ。お試し分を購入して店を出ると、少し冷たい風が玲央の白髪を揺らしてゆく。
「美味しかったらお土産に買おうかな。渡す相手が多いのは大変だけど、楽しくもあるからね。あとは……試食のお供にジンジャーアップルティーとかあればいいんだけれど」
 そう呟く玲央の言葉に、通りかかったかりんが反応する。
「あっ、それならあっちのお家で売ってましたよ!」
「ありがとう、かりん。それじゃあっちでさっそく頼むとするよ」
 玲央はひらり手を振り、かりんが指差した家へと向かった。
 さて、「たるとたんたん」を目当てにひとつの家に入ったかりんは、同時に見知った顔が入店したのを見てぴょこんと手を挙げた。
「エルムさんも、たんたん買うです?」
「はい、買いますよ。甘い物は大好物ですから!」
 待ちきれない様子のかりんとエルムに対し、千華はため息をついた。
「何でもいいが、早く決めろ」
「あはは、そうですね。では、タルトタタンと温かい紅茶を3人分お願いします!」
 千華の視線を気にせず、にこにこと待つエルムである。
 三人分を受け取った後は、すぐにイートインスペースへ。タルトタタンと紅茶を目の前に置いたところで、かりんが丁寧に「いただきます」をする。お待ちかねとばかりにぱくりと食べれば、金色の瞳はいっそう輝きを増した。
「これが、たんたん……甘くてすっぱくて、おいしいですね! お土産どうしましょう、パイとたんたんで迷います……!」
「はい……とても美味しいです。紅茶にも合いますし……うう、お土産は悩みますね……」
 タルトタタンを口に運び、紅茶を味わうエルム。
 そんな二人をちらりと見て、千華もタルトタタンを一口、ぞんざいに口に入れる。
「……ふん。まあまあ美味い、な」
 そう呟いた千華は、心底幸せそうな二人を紅茶から立ち上る湯気ごしに眺めた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年10月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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