大阪市街戦~機動要塞アイゼンフリード

作者:のずみりん

 その日、大阪市街に星が降りた。
「何かね、ありゃぁ?!」
「も、木星……」
 高層ビル内のオフィスをすっぽり隠す影へ、精一杯ぼけた社員を同僚の誰かがはたく。
「……でかい」
 外周に加速リングを伴って浮遊する巨大な球体は、人々の知る土星によく似ていた。
 リングに刻まれた『EXE-16』……それこそが、この機械星の名前なのだろうか?
 そも、いったいこれは何なのか?
『EXE-16 アイゼンフリード、制圧プログラムを開始します』
「何してんねん、逃げんぞ!」
 店のアナウンスのように、慇懃で中性的な声。それに同僚の叫びが被り、ビルが揺れた。
『目標地点をスキャン。接地に問題あり。排除処理を実施します。要塞砲準備。無人艦載機部隊、発進』
 滑らかな機械の星が変化する。
 赤道上のシャッターが開き、無数の方が金平糖のように突き出していく。上方を覗ける者がいれば、そこから射出される無数のドローンが見えた事だろう。
『排除処理完了までの予測時間……十分。効率化のため、資源回収プログラムを並行起動します』
「何か突っ込んできますよ!?」
「急げ! 急がんかい!」
 淡々としたアナウンスと共に放たれる重厚な砲撃。爆発とレーザーの閃光が、逃げる人々の悲鳴を断末魔に変えていく。
 告死鳥のように舞うドローンたちのただなか、廃墟と化した高層ビル街に、ダモクレスの移動要塞はゆっくり降下していった。

「緊急事態だ、大阪城ユグドラシルのダモクレスたちが動き出した」
 ケルベロスたちを待っていたのはリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)の姿と、大阪市街の地図に描かれた何か。
「これが予知された敵だ。名乗るところによれば『EXE-16 アイゼンフリード』、ダモクレスの移動基地兼爆撃戦艦の一つと推測される」
 恐るべきデウスエクスの巨体をリリエはそう説明した。
「大阪城ユグドラシルの大同盟は大阪市街を制圧し、勢力地を拡大させようとしている。バックヤードやファクトリアしかり、ダモクレスの拠点攻撃・制圧能力はうってつけという判断だろう」
 學天則・一六号(レプリカントファイター・e33055)よりもたらされた情報から、リリエは敵の思惑を推測し、そして告げる。
「アイゼンフリードは高層ビル街に降下し、破壊したビル街を制圧、丸ごと資源に変えようとしている。これは窮地だがチャンスでもある」
 アイゼンフリードが制圧のために降下してくるという事は、ケルベロスたちの手も届くようになるということだ。
 制圧に多くを割り振ったアイゼンフリードなら、少人数による強襲でも何とか破壊できるはずだと、リリエはケルベロスたちに説明した。

「現場への到着はぎりぎり、アイゼンフリードが制圧に降下した直後だ。猶予はそこから十分、撃破できなければ此方の負けだ」
 無数の対地・対空砲に加え、アイゼンフリードは下方に巨大な対要塞コアブラスターを備えているという。その能力は凄まじく、資源ごと周囲を吹き飛ばすことになるが、戦いが長引けば強引に決着を図ってくる。
「あくまで第一目標は地域の制圧、ということなのだろうな……避難勧告は連絡している、戦闘による周辺被害は避けたいところだが、アイゼンフリードの撃破が第一としてほしい。ダモクレスを倒し切れなければ、全て元も子もなくなってしまう」
 それ以外にもアイゼンフリードは無数の対空砲や攻撃ドローンで武装しており、絶大な迎撃性能を持つ。ヘリオンはいわずもがな、個人の飛行能力でも空中戦は不利だ。
「敵は浮遊しているが、任務の都合からビルに接近してくる。そこを狙えば近距離向けのグラビティでも十分攻撃は届くはずだ」
 ビルや高層建築をうまく足場、遮蔽に使って攻めてくれとリリエは攻撃ポイントを地図へと示した。
「敵は強力ですが、地の利はソフィアたちにあります」
 それでも攻めてくる敵は、相応に追い詰められているはずとソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は鼓舞するように言う。
「守りましょう。それは大きな一歩になるはずです」


参加者
青葉・幽(ロットアウト・e00321)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
學天則・一六号(レプリカントファイター・e33055)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
狼炎・ジグ(恨み喰らう者・e83604)

■リプレイ

●我、思う。汝、思う
 學天則・一六号(レプリカントファイター・e33055)が、それと出会ったのはいつの頃だっただろう?
「ダモクレス……敵として、というか。ただ気になって追っていたんです。アイゼンフリード……この要塞型ダモクレスの、ただの兵器として浮かぶ姿と、存在……それがまさか、この大阪市に現れるなんて」
「気持ちは汲むけどな……けっ、バカでけぇ隕石が」
 ビルを駆けあがる狼炎・ジグ(恨み喰らう者・e83604)が思わず罵り声をあげる鋼鉄の球体は、既に視界をくまなく影を落としている。
「物資調達は必要だと思うが、ちょっと強引過ぎるな。敵さんも、追い詰められてるって事か?」
「螺旋忍軍やエインヘリアルたちの協力も考えられますね。種族の垣根を超えての任務遂行、良い取り組みです」
 上方に回る水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)に応え、支援はお任せをと空木・樒(病葉落とし・e19729)は他人事のような調子で告げる。
 ファクトリアやバックヤード、過去対峙した要塞型のダモクレスに勝るとも劣らない姿にも、かの薬師はペースを乱さない。
「時間までにあの丸っこいデカブツを仕留めなきゃ街一つ消えることになる。今回もヤバいぞ」
「これまた無駄にデカい敵、このまま落っこちられてもたまらぬでござるな!」
 戦闘システムを起動し、陸橋から傾いたビルへ。ほぼ垂直に駆け上りながら、オウガ粒子を散布するカテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)のアイズフォンに届く仲間たちの声。
「こちらジョルディ、アイゼンフリード外周リングにとりついた!」
「出鼻は挫いてやるわ、続きなさい!」
 ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)の声にかぶせ、エコーと共に降ってくる青葉・幽(ロットアウト・e00321)の声。
 落下の加速に『Eurypterid Mk-Ⅱ"Pterygotus"』の最大推力を載せたパワーダイブが、対空レーザーを易々と振り切り、身にまとう『Furious』の赤が尾を引いて突き刺さる。装甲が一文字に避け、機影が揺れる。
「OPEN FIRE」
「壊れろ! 崩れろ! そして散れぇ!」
 マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の『M158』多砲身機関砲からのブレイジングバースト、ジグも飛びつくいなやハウリングフィストで叩く、叩く。
 その余波は接触する高層ビルまでも伝わり、崩壊を加速させていくが手を止めるわけにはいかない。
「避難は協力してくれる方々にお願いしました、皆様は攻撃に専念を……時期に次がきます」
 黒影弾のメスで障害を破砕しつつ攻める樒の警戒、それは幸か不幸か、アイゼンフリードにすぐ肯定された。
『ケルベロスの反撃による損傷を確認。各砲塔、照準修正。対要塞コアブラスター、エネルギー充填開始』
「対応が早すぎんのよ、このデカブツ!」
 ハリネズミのように伸びる砲塔、立て続けに炸裂する要塞砲が運動エネルギーを使い切った幽に迫り、咄嗟切り離した『プロペラントタンク』を飲み込む。爆発。
「幽殿、離脱してください!」
「わかってる……ッ」
 ソフィアの射出したヒールドローンを蹴って旋回した彼女の目は、オフィスから避難する女性社員の姿を捕えていた。
「種族の垣根を超えるだの、大同盟だの……その結果がこれでいいの、バカッ!?」
 咄嗟、流れ弾を打ち落とす。レーザーの雨に打たれ傷つきながら、彼女は久しい宿敵に叫んでいた。
「離脱してください、幽さん! ……キミはどう思っているんだ? 何を考えている?」
 一六号の『アームパーツ』を介したバスター砲からのビームが、追撃する砲弾を薙ぎ払う。
 たちこめる白煙への呟きは自問自答。答える義務などないし、そもそもちっぽけな自分の声など気にしているのだろうか?
『こちらリティ、被災地周辺とのデータリンクを確立。避難誘導は此方で引き受ける』
「……っ! 了解しました!」
 リティ・ニクソンの声に答え、一六号はハッとあたりを見回した。人々を導く『メディカル・エスコーター』制御ドローンの向こう、要塞からの感覚は気のせいだったのだろうか?
 祈りを捧げるシャーマンズゴースト『アルフ』は、代弁するようにかしげた首を空へと伸ばした。

●大阪市街要塞戦
「ご安心ください。彼のダモクレスが火力に自信あろうと、私の医術は貫けませんよ」
「ぁうっ! そ、それは心強い事ね……!」
 薬匙を模した『セミラミス』からの電撃に、ビクンと幽の身体が跳ねる。意趣返しと自信満々に言う樒の腕は実際大したものだ。
 ただ一撃のエレキブーストで、散々に傷ついた彼女の身体と兵装はすっかりと本調子、いやそれ以上に活性化を果たしている。
「後はもうちょっと御手柔らかに……なんて、いってもられないか」
「WARNING,TARGET MOVE DOWN」
 崩れるビルの破片からマークが二人を『HW-13S』防盾の後ろに庇う。『フックショット』のアンカーで張り付き、ビルを支える。
「僕たちには止められないと、そういうんですか!?」
 向かいでは高層ビルが二つに折れ、崩れ落ちていく姿が見えた。それを下階より見上げる一六号の胸を、逃げ伸びた人々のうめき、鳴き声、悲鳴が締め付ける。
 打ち続けるフロストレーザーはアイゼンフリード外壁を外気ごと凍らせ砕いているものの、その動きに影響はまだ見えない。それがケルベロスたちに焦燥を煽る。
「HAHAHA、まだまだ時間は四半分! 焦りは禁物、胸突き八丁にござるよ」
『ターゲットロスト……上!?』
 だがそれを砕きほぐす声があった。いつの間に要塞まで飛びついたのか、カテリーナの明るい笑いがアイゼンフリード上方からこだまする。
「的を外さぬ戦場のコツ、これより現場にて伝授するでござるよ!」
 忍者らしからぬ暴れっぷりで飛び跳ねるカテリーナ、その八艘飛びに回る戦場が爆破スイッチで極彩色に起爆され、彼女と仲間たちの切りつける一撃を大きく加速させる。
「景気よくぶっ壊せてきたなぁ! おらぁっ!」
 仲間たちを勇気づける閃光と衝撃。爆風を隠れ蓑に突っ込むジグのフレイムグリードが一六号の与えた凍結に炎を打ち込み、冷熱衝撃をもって要塞装甲を破砕する。
『対空砲、迎撃』
 もちろん黙ってみるダモクレスではない、が。
「そうはさせません。ドローン展開、星辰結界を起動します」
 下方に放たれた対空レーザーが不可視の壁に閃光を放つ。そこに描かれたのはソフィアのゾディアックソードから連なるスターサンクチュアリの紋様だ。
 大きく威力を減じたレーザーの雨はケルベロスは元より、大阪市街の被害にもたらす被害も大きく軽減されている。
「この位置にその砲は使えまい! 我が嘴を以て、貴様を破断する!」
 ソフィアの支援に応える轟音。
 外周リングに叩き込まれた鉄塊の如きジョルディの大斧『Breaker Beak』、ブレイズクラッシュの確かな手ごたえだ。
「どうやら肝所だったようだぜ、傾きが増してきた!」
『情報解析……外周リングは重力推進機関と推測される』
 後押しするマークの戦術AIシステム『R/D-1』の通信に、鬼人は力強く『無名刀』を叩き込む。非物質化した斬霊斬の一撃か内部より外周リングを破壊し、ぐらりと揺らいだ。
 そろそろ居座り続けるのも辛い、ここらが引き時か。
「ESCAPE! ADM STANDBY」
『対空弾幕の精度低下。無人艦載機部隊、進路上のケルベロスへ展開』
 だが戦局は再び動いた。
 後退を呼びかけたマークの切り札、対ダイモクレス誘導弾『HELL HOUND MISSILE』の射出と同時、外周リングが大きく爆ぜた。いや違う。
「無人艦載機部隊! ジョルディさん、鬼人さん、離脱を!」
『バレットタイム』が加速させる感覚の中、一六号は見た。無数の小型機が一斉に射出される様子は、まさに爆発の如き勢いだった。
「MISSILE ALL DOWN……!」
 飛行機型のドローンが身を挺してマークの誘導弾を庇い、ケルベロスたちを叩き出す様子に、樒はほうと声を上げた。
「逃げ切りにきましたか、成程」
 鬼人たちに打ち込まれるレーザーの傷は、投げ渡した『王薬【elixir】』が癒してくれるだろうが、態勢を立て直し反撃に転ずる間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。
 資源を回収できるに越したことはない。だがアイゼンフリードが当初の目的……地域の制圧はコアブラスターのチャージが終われば達成できるのだ。
「勝てないなら逃げ切ろうってわけ? 図体の割にセコい奴ね、このッ」
「正しい戦術ではある、ならばッ!」
 フロストレーザーに紛れて放った幽の『フックショット』が、ジョルディの側からも伸ばされたワイヤーと絡み、その落下を食い止める。
 加速を止めきれずほおり出される身体。だが計算のうちだ。アームドフォート装着の『ウェポンスラスターベン』を大きく振るい、救出者の背中へと回り込む。
「超絶変形武機一体! フライヤー・フォーム、テイクオフ!」
 声と共にレプリカントは姿を変える。
 全長ほどある二枚の『Black Fortress』防盾が回転、縮めた四肢と胴体に覆い被さればデルタ翼の小型機が、空に姿を現した。
「いくぞ! 命ある限り、何度でも挑むのみ!」

●カウントダウン・アップ
 アラート音のように鳴り響くアラームをなびかせ、『Jordi Strike』が突き刺さる。
 無人艦載機を速度で突っ切り、ロケットのように垂直上昇するフライヤーフォームは振り下ろされた外周リングを両断し、二段ロケットの如く仲間たちを上空に送り込む。
「こんだけ裂いても落ちないとはタフな事だ! だが――これがお前の運命を極めるダイス目だぜ」
 よく味わいな、声と共に振ってくる小さな炎は鬼人のオウガメタル、ルーレットのように外周を転がりながら、落とされたダイスは数を炎と重ねていく。一つ、二つ、三つ……。
『外周リング状に高エネルギー反応を感知。艦載機部隊、修復を』
「させねぇよ!」
 アナウンスに被さるジグの叫び、仲間たちを追おうとする艦載機ドローンを飛び上がりざまのレガリアスサイクロンが相殺、一網打尽に破砕する。そして転がるダイスの目までも。
「さぁ、よく味わいな」
 蹴り込まれる『BDⅥ』のダイス。六を示すと同時に蓄えられたブレイズキャリバーの炎が吹き上がり、極小の太陽のように外周リングに火を放った。
『外周リング損傷甚大、降度低下。予測を大きく超過、極めて危険』
「光栄です。連携に関しては、わたくし達の方が先達ですからね」
「まだ理解できてないようね、あたしの優秀さ……出し惜しみは無しよ! ターゲットロック!」
 予想を超えるなどそう大した事でもない。ウィッチオペレーションを施しながら言う樒の横を、復調した幽が放ったミサイルと共に駆け抜ける。今度はこちらが火力の網を投げかける番だ。
 直進、未来位置予測、攪乱。それぞれ十数発。
 無数の特殊マイクロミサイルが織りなす『フロストミサイルサーカス』がドローンを掻い潜り、更に打ち上げられたマークの大型の対ダモクレス兵装『HELL HOUND MISSILE』と演舞を見せながら中枢めがけて駆け上っていく。
「ADM HIT MORE!」
 マークの声と、立て続けに起きる爆発。
 凍結からの衝撃に真っ二つに割れ落ちる外周リングに引かれるように、要塞本体もがガクンと高度を下げる。
 ありったけ積み込んできたミサイルも残りわずかだが、打ち込み続けた甲斐はあったようだ。
「しかし……落ちんでござるな」
「本体側にも補助動力があるのかもしれません。被害はだいぶ減らせましたが……」
 カテリーナの言葉通り、外周リングの直径を失ったアイゼンフリードはまだ浮かんでいる。だが外周リングを失った影響か、その移動速度と降度は大幅に制限されたようだ。
「ひでぇ姿になったもんだな、ええ?」
『質問の意図を判別しかねます。危険度最大』
 ジグへのあくまで慇懃に、しかし降下は止まるわけでもない。それは本当に心がないゆえか、あるいは唯のやせ我慢か。
「まぁダモクレスに説得無用でござるな……さておき、ここもドローンは進入禁止、違反切符の出血大サービスでござるよ」
 放たれたカテリーナの猛連撃、その名も『忍法出血大サービスの術』が抉った傷痕を抉じ開けるのは、一六号の一発。
「この星の平和は僕たちで守って見せる! キミはどうだ! 言える事はないのか!」
 火を噴く『イチロクバスター』がアイゼンフリード本体を討つ。瞬間、ゴキンと鈍い音。装甲の外れたダモクレスの向こうには眩しい光が見えた。

●ファイナルストライク
「八分経過! そろそろまずいぞ」
「待たせたな! 避難誘導は万端だぜ!」
「加勢するわ……エグゼフォースの攻撃はそろそろ終わらせないといけない」
 リングからビルに足場を写したジョルディの声に重ね、相馬・泰地と霧崎・天音、駆け付けた支援二人から二条三色のオーラが炸裂する。外れかけたシャッターがへし折れ、一気にコアが露出した。
『エネルギー充填完了。コアブラスター、発射姿勢に移行します』
 だが都度重なる攻撃に歪みながら、なおもダモクレスは止まらない。
「この損傷で撃てば、自分もただではすまないでしょうに!」
『何か問題を感じていますか、學天則・一六号』
 この土壇場で、声ははっきりとそういった。
「今、一六号殿の名前を!?」
「見ていたのはコッチからだけじゃねぇってわけだろうよ。手ぇ止めんなよ!」
 血のような目の輝きで拳を振るうジグからの声に、ソフィアはハッとした表情で頷いた。これは敵の時間稼ぎだ。
 ダモクレスは心無い機械だが、時に人間以上に感情というものを弄ぶ。
「本当に感情がないのか疑わしくもなるが……今はそれどころじゃねぇわな」
 再び『BDⅥ』のダイスを振る鬼人に合わせ、鎧装の両肩部シールドから砲身が伸長、『サイティングナイトヘルム』の視線誘導に導かれ、的確にフォートレスキャノンを叩き込んでいく。
 それでもまだ、動く。
『ダメージ過大……耐衝撃シークエンスを省略……最終カウント』
「死なば諸共とか……らしくないのよ、ダモクレスが!」
 感情を爆発させた幽の叫びと攻撃。だがコアめがけて放たれたフロストレーザーは不可視の障壁に阻まれ、必殺を許されない。
『最優先事項は任務の達成です』
「つまりそれは恐れてるってことさ。てめぇは任務の失敗を恐怖してる。死じゃねぇが……結構! 永久にお別れだな」
 絶叫のような音を当て、ジグの『絶廻方向』が牙を突き立てる。家族を奪われた恨み、どう猛な獣の如き感情が食らいつき、アイゼンフリードのコアをエネルギーごと食いちぎる。
『カウント30』
 それでもまだあと一手。内部よりまさに『生えてきた』レーザー、実弾砲が食らいつこうとするケルベロスを吹き飛ばし、時間を稼がんとする。
「間に合わない……もう手段は……!」
「ここにあるぞ!」
 覚悟を決めた一六号をかき消したのはジョルディの声。いや、既にその身はフライヤーフォーム『Jアーマー』へと変形を終えている。
「これはわかってるでござるな、巨大要塞への止めと言えば!」
「SUPPORT FIRE!」
『対デウスエクス用高周波苦無』でジグザグと切り裂くカテリーナを庇うマークからも『HELL HOUND MISSILE』が飛んだ。最後の一発が砲塔群を爆発四散。一六号を乗せたジョルディは九十度のターンを繰り返し、真下より、中枢真上へと。
『カウント10』
「一秒後で合わせろ! 全てを貫く超必殺!ジョルディィィ……スゥトラァァァァイク!!」
「ジョルディさん……了解しました……!」
 その意味するところはわかっている。コアへと突き刺さっていく『Jordi Strike』が開けた大穴を、フルチャージの『イチロクバスター』が放たれる。
『任、務……』
「今度は……戦う為じゃない。人と寄り添える機会として生まれてきてください……」
 閃光はアイゼンフリードよりあふれ、ただ光だけの爆発と化して消え去った。

 後に残されたのは鋼の残骸と、砕けた黒の装甲。そして寂寥。
「こんなの……いつまでも続くなんて悲しすぎます」
「ほんと、一体いつまでこんな事を続けさせるつもりなんだ、か……待った」
 一つ訂正が必要なことに幽は気づいた。彼女だけではない、今ここにいたケルベロス誰もが。
「ふぅ……死ぬかと思った」
 随分と細身になったジョルディはそこにいた。
「……いやいや、なんでアレで生きてんだ」
「そういう形態ですからね」
 鬼人とのぼやきに、樒はすました顔でで残骸を指す。そこに重なった『Black Fortress』防盾の破片たちを。
「飛行用装甲が役目を果たしてくれた、か」
 戦闘システムを解除したマークの声に、ジョルディと樒が頷いた。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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