再来のにゃんこ

作者:崎田航輝

 海風の吹く、涼しい港町。
 爽やかな日光と適度な日陰で過ごしやすいのか──野良猫もゆったり寝転ぶ風景。
 そんな中をクレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)は歩んでいた。
「ここは相変わらず、きれいだなぁ……」
 少し前に知ったその商店街は、猫カフェや猫グッズのお店も多い、魅力的なアーケード。
 折角立ち寄ったのだから、どこかで寛いで行こうかなとそう思っていた。
 けれど、その時。
 何か不思議な気配を感じてクレーエはきょろきょろと見回した。
「……? にゃんこ……?」
 知らずそんな言葉を零しつつ、違和感の正体を探す。
 いつしか周りの人通りも無くなっているのに気づいた……その瞬間、それは現れた。
『失礼いたします、にゃー』
 ひらり! 宙から跳んできた何かが、くるりと回って華麗に着地する。
 恭しく一礼し、真摯らしい言葉遣いをみせた影。それは──。
「あっ! にゃんこ?」
 クレーエはまじまじと見つめてしまう。現れたそれは確かに猫だった。
 というよりも、猫紳士と言うべきか。礼装姿で、ぱりっと洗練された見目をした猫型のデウスエクスである。
 クレーエが驚いたのは、それがいつか戦った敵に似ているからだ。
 尤も、この敵は可愛さの中に格好良さを兼ねていて、前の敵とは雰囲気が違うけれど。
「イメージチェンジしたのかな……?」
『さあ、一緒に猫の国に行きましょう、にゃー』
 呟くクレーエに、にゃんこデウスエクスは言って手を差し伸べてきた。
 怖がらなくても大丈夫にゃーと。誘うように、紳士的に。
 クレーエは勿論、デウスエクスの甘言には騙されない。
「その手にはのらないんだからね!」
 言うと武器を構えて、戦いの体勢をとった。

「クレーエ・スクラーヴェさんが襲撃されることが予知されました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、ヘリポートへと集まったケルベロス達に説明を始めている。
「とある街にて一人の所、敵に狙われたようです」
 現段階でクレーエは街にいる状態。連絡も繋がらず、敵と遭遇してしまうところまでは防ぐことは出来ないだろう。
「とはいえ、今から急行して戦闘に加勢することは出来ます」
 そうすればクレーエを救うことが出来るはずだと言った。
 現場は海にほど近い街。
 人通りもあるというが、敵の人払いのためか戦闘時には無人になる。一般人の流入に関してはこちらが注意する必要はないだろう。
「皆さんは合流し戦闘に入ることに注力して下さい」
 敵についてですが、と、イマジネイターは続ける。
「猫さんの姿をした死神らしいです。可愛らしくも格好良さを兼ね備えているとか……」
 興味深げな声音で語りつつ、それでも戦闘力は侮れないので注意を、と促した。
「猫の国という誘い文句に、皆さんも惑わされないように気をつけてくださいね」
 イマジネイターは皆へとそんな言葉を送った。


参加者
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
月岡・ユア(幽世ノ双月・e33389)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)

■リプレイ

●誘惑のにゃんこ
 青空と潮風にグレーの毛並みがさらさら揺れる。
 クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)は危険と分かっていても、その敵をじっと見つめざるを得なかった。
「お空の星になったあの猫吉なの?」
『勿論です、にゃー。一緒に行きましょう、にゃー』
 シュッとしたにゃんこの死神──猫吉は誘うように、手をのべている。
「にゃんこ……」
 もふれなかった無念も残っているクレーエだ。自然とその手を取りかける、が。
「うぅ……やっぱり我慢!」
 首を振り、にゃんパーカーを目深に被り。強靭な精神力で耐え、桜の花弁を舞わせて戦闘態勢を整えていた。
 猫吉はエナジーにゃんこを生成。元より阻害に長けているのだろう、沢山の数を放ってクレーエの足や肩に登らせてくる。
『こんなに可愛いですのに、にゃー?』
 にゃーにゃー鳴くエナジーの誘惑に、クレーエはふらふらになりながら。それでも心を強く、夜色のミストで振り払ってみせた。
「……誘いに乗るわけにはいかないから!」
『怖がらなくても大丈夫、にゃー』
 猫吉は諦めず、猫の魅力を語って聞かせる。無防備な寝顔に、もふもふの体、気まぐれな性格……思わず共感する話を。
 クレーエは猫の魅力を実感する程に、戦意を挫かれる。
 けれど、それでも護りを固めて耐えた。
 仲間が来てくれると、信じているから。
 ならばと猫吉は剣を燦めかせる。
『華麗さも見てもらえれば、今度こそ来たくなります、にゃー』
「──だから、行かせないってば!!」
 と、その時鋭く声が劈いて。
 そこへ滑り込む銀影があった。
 髪を靡かせ疾駆して、傍にやってきた深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)。クレーエの腕を握ると、引き剥がすように猫吉から遠ざけている。
 同時に、蒼空から流星が落ちてきた。
「やあクレーエ、お困りかい?」
 快活に笑むステラ・フラグメント(天の光・e44779)。舞い降りて回転し、猫吉にぼむんと蹴りを叩き込んでいる。
「さあ、ユアも!」
「……うん」
 ステラに応えて耀くのは月の光。
 彼方から羽ばたいて降りた月岡・ユア(幽世ノ双月・e33389)。煌めきを差し込ませるように、淡くも鋭い光線を敵へ撃ち込んでいた。
 猫吉が吹っ飛ぶ間に、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)も降下して合流。治癒の光を浴びせてクレーエを癒やしている。
 クレーエは見回した。
「みんな、ありがとう。助けにきてくれたんだね」
「はっはい勿論! 猫な死神がいると聞いて、ちょ、ちょっと興味あって見てみたくも──だなんて、思ってないです! ちゃんと、助けにきました!」
 ミリムが何故か慌てて応えるのを、横目にしながら。
 カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)もクレーエをその背に守るように立っていた。
 そして静やかに、優しさを含んだ声音を向ける。
「さて、大丈夫かね、クレーエ」
「うん。みんなのおかげで。ちょっと危なかったけど……」
 と、クレーエが改めて目を向けるのは猫吉。
 その姿に、ミリムは瞳を輝かせていた。
「あっ、本当ににゃんこ! かわいい……! ついでにカッコいい……!」
「今度は紳士なにゃんこが敵、なんだね……?」
 ユアも目を惹かれていると、その横で強く拳を握るのはペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)だ。
「なんということだ……。見ただけで分かる恐ろしい難敵だ。ここまでもふっとしてやりたい衝動に駆られるとは」
 平素の不遜さは僅かに鳴りを潜め、苦悶すら滲ませた声音を絞り出していた。
 実際、にゃんこは魅力的。
 けれど、カジミェシュには残念に思う感情もあった。それが敵なのは、クレーエにとっては辛いだろうから。
「……いっそ、本当の猫ならばどれほど良かったものだろうか」
「……そうだね。かわいいけど……戦わないといけないから」
 ユアもほんのり眦を下げる。
 それでもペルは戦意を見せた。
「我は割り切ることの出来る美幼女……。やることやるだけだ」
「ソウネ。ワタシは可愛らしい見た目だけど凶悪なヤツ、ってのは闘技場でヤりなれてるカラ、今更躊躇することもないネ」
 と、こつりと歩み出るパトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)は、元より戦いに迷いはない。
 艷やかな声音で、真っ直ぐ拳を突き出していた。
「かかっておいでgato.暴力帝国ブラジル仕込みのタフネスを、崩せるモノならヤってミナ」
 瞬間、自身の体をぶれさせて分身。それを宣戦としてみせる。
 猫吉は応ずるように攻めてくる。
 けれどペルも前進。決意は固く、流体で猫吉の体を縛り上げた。
 猫吉は身じろぎするが、危険を厭わずカジミェシュが組み付き、押さえ込んでみせる。
「頼む」
「──ああ」
 奔ったのはルティエ。
 にゃんこ相手であろうが、デウスエクスならば手加減なく。戦意を研ぎ澄ませ一撃、空気もたわむ程の打突で吹っ飛ばす。
 そこへ肉迫するのがパトリシア。強く、籠手を握り込んでいた。
「まずは一撃お見舞いするネ」
 繰り出す裂帛の拳は、体にどむりとめり込んで。猫吉を大きく後退させていく。

●闘争のにゃんこ
 べたんと壁に激突した猫吉。
 それを見やりつつも、ミリムは油断を欠かさぬように皆へ向き直っていた。
「まだクレーエさんを狙っているようなので、気をつけて……って、皆さん何だか泰然としてますね。慣れてると言いますか」
「初めてじゃないから……というかクレーエ、また猫の国にお誘い受けてたんだね……?」
 ユアが目を向けると、ルティエも夫にほんのりと呆れ声だ。
「……そもそもデウスエクスに人気すぎない?」
『ボクは猫の国に来てほしいだけです、にゃー』
 皆様も一緒にご案内しますにゃー、と。猫吉は体勢を直して言葉を挟んでいる。
「にゃんこの国……」
「ねえ、今釣られそうになってなかった?」
 ルティエがジト目を向けると、クレーエははっとして首を振っていた。
「……な、なってない、よ?」
「とにかく、紳士的な態度には親近感を抱くが……俺の友達を連れてはいかせないぜ?」
 ステラが言えば、カジミェシュもグリーブをかつりと鳴らして地を踏みしめる。
「ああ。確かに紳士が聞いて呆れる。嫌がる人間相手に無理強いするものじゃあないぞ」
 それでも、どうしてもというならば、と。
 膝をわずかに落とす。
「……お引き取り願おうか!」
 瞬間、銀光の粒子で世界を煌めかせ、仲間の意識を澄みわたらせると──即座に前進。美しき短弓を引き絞っていた。
 刹那、接射。冷気を巻き込み零距離から穿ってみせる。
 ふらつく猫吉を、舞うように翻弄し、清らかな唄で惹きつけるのはユアの妹、ユエ。その隙にユアが漆黒の煌めきを奔らせて猫吉の足を捕らえると──。
「ステラ……!」
「ああ!」
 疾走するステラが拳に燦めく金属を纏い打撃する。
 にゃー、と転げる猫吉にミリムは……やっぱり見とれていた。
「かわいいですニャン……」
 液状スティックタイプのおやつを取り出してみたりして。顎の下を撫でに行きたくなったりしつつ──これではいけないと首を振る。
 見れば、猫吉はにゃんこハウスを展開していた。
 そこは沢山の猫がごろ寝する、まさに楽園。ステラもその一角で横になっていた。
「あー、猫と昼寝するの幸せだよなぁ……ってダメだ、俺にはノッテが!」
 けれどすぐに正気を保ち、翼猫をぎゅむっと掴む。
 カジミェシュは鉄壁の鎧でにゃんこを滑らせるように退けて。ミリムも気を取り直し、大地から治癒の気を生んでハウスを消失させた。
 カジミェシュの箱竜ボハテルも治療を手伝えば、体力に憂いなく。
 ルティエが小竜の紅蓮のブレスと共に上弦の月を描く斬撃を叩き込めば──クレーエはにゃんこをもってにゃんこを制すとばかり、くろにゃんこで猫吉を攻撃していた。
 猫吉は剣を振るうが、そこへ迫るのはパトリシア。
「接近戦ナラ、望むところヨ」
 銀の拳で剣先を弾いてみせると、そのまま懐へ。勢いのままに金の拳でフックを打ち込み猫吉をふらつかせる。
 猫吉もエナジーを放つが──パトリシアは腕を交差させ防御。衝撃を受けきってみせた。
「今ネ」
「うむ、反撃と行こうか」
 外套を風にふわりと踊らせ、高く跳ぶのはペル。
 小柄に似合わぬ跳躍力を披露すると、宙で旋転しながら抜刀。白き日本刀を煌めかせ曲線の美しい斬撃を見舞った。
『にゃー』
 帽子を切り裂かれ悲しげな猫吉。
 だがペルは慈悲を与えずに、流体を鋭く形成し連撃。熾烈な突きで胴部を貫いた。

●決着のにゃんこ
『どうしても猫の魅力に気づいてくれないのです、にゃー?』
 猫吉はよろめきつつも、乱れた毛並みをこしこし手直し。
 クレーエはそんな姿にも魅了されてしまうが──ステラがそれを制した。
「誘惑される気持ちは良く分かる、凄く良く分かる。俺だって揺らいだもの……ベレトリスには!」
 けれどそれ故に首を振る。
 あれは敵なのだから。
 それに、と猫吉を見ながら黒猫をぎゅうぎゅう抱く。
「俺は猫派だけどノッテと遊ぶ方が好きだぜ。……ノッテで、だったりもするけどな!」
『猫の国には来て頂けいないです、にゃー?』
「というより、ちゃんと拒否をしたはずでは?」
 残念そうな猫吉に、ぴしゃりと言ってみせるのはルティエだった。
 夫の視界を適宜塞ぎつつ、以前の戦いを想起するように視線を向ける。
「姿を変えれば良いというものではないんだけど??」
『どうしても、お誘いしたいだけです、にゃー』
「……夢の国というのは寝てる間だけで十分だ」
 退かぬ猫吉に、ペルは拳に雷光を湛えながら近づいていた。
「現実なのに夢の国というのは興醒めというものさ」
 それでも食い下がるなら、と。地を蹴って加速し、拳を一層眩く輝かせる。
「痺れるような一撃を受けるといい。あとついでに──モフっとさせて貰う」
 瞬間、放つのは『白く眩い雷光の災拳』。
 弾ける衝撃で猫吉の体力を大幅に削りつつ……刹那の間だけ拳で毛並みを堪能していた。
 猫吉は猫の可愛さを語って聞かせる、けれど。
「望むところヨ」
 パトリシアが渾身の拳で対抗。
 生命を吸い取られれば、即時に打突で奪い返し、また敵が語らってくれば更に連打を見舞って体力を我がものとする。
 倒されないように立ち回れば、必ず倒せる。シンプルが故に強固な信念が、パトリシアを決して退かせなかった。
 ミリムはそこへ暴斧の斬撃。礼装を破りながら──連続で『奇術師ゼペット』。にゃんこ消失マジックにより逆に敵の戦意を挫いてみせる。
「これでどうですか!」
『まだ、にゃー』
 猫吉は残る力でハウスを創造する。
 が、カジミェシュがそこへ故国の旗を突き立てていた。
「偽の楽園に、我らが屈することはない」
 ──『掲げるは軍旗、奏でるは凱歌』。勇壮な調べが幻を消し去っていく。
 ユアはそこへ『死創曲』。猫好きにはとっても酷な戦場だったけれど、それも終わりだと。死を創造する澄んだ調べを紡ぐ。
 それを背景にステラが『Danza di stelle』。新型や従来型を織り交ぜたガジェットで砲弾の流星群を見舞うと──ルティエも斬撃から蓮を模る紅き業火を顕現させていた。
 その猛き一刀は『紅月牙狼・爍蓮』。猫吉を深々と燃やし斬る。
「終わりだ。……クレーエ」
「うん──!」
 葛藤はあった。けれどクレーエはIgnavus《cornix》。
 猫吉の敵意を《怠惰》に奪い去り、猫脚の槌──にゃんこにっきゅはんみゃーで一撃。すぽーんと猫吉を彼方へ張り飛ばし、大空のお星様にした。

「済んだようだな」
 ペルは毛並みの感触を反芻しつつも、外套を纏い直して息をつく。
 カジミェシュは頷き皆へ振り返った。
「怪我は無いな?」
「うん。クレーエも、無事~?」
 ユアはクレーエへ駆け寄ると、無事を確認して頭を撫でてあげる。よし、よし。と。
「もう、寄り道するたびに狙われちゃうからほっとけない子だなぁ……」
「ありがとう……」
 クレーエは皆にも礼を言いつつ……もふれなかったことで絶望に打ちひしがれていた。
「にゃんこ……もふもふ……」
「それなら──紅蓮をもふもふする?」
 ルティエが小竜を差し出すと、クレーエはおもむろにもふもふ。するとステラも翼猫をそこに加えて。
「任せた、ノッテ!」
「それじゃあ、ボクも。もふもふ祭りだ!」
 と、ユアもユエと共にその柔らかな翼で包む。
 奥様と友人ずのもふもふに癒やされて──クレーエはみるみる回復。ご機嫌も復活し幸せな笑顔を見せた。
「もふもふ……! みんな、ありがとう!」
「落ち着いた? 良かった」
 ルティエが瞳を細めていると、パトリシアは提案した。
「どうせナラ、このあと猫カフェでも行く?」
「良いですね。欲望解消に行きたいと思っていたところです……!」
 ミリムも乗り気、ということで──皆はヒール後、一路猫カフェへ。
 そこは茶トラにサバトラ、白に黒。ふくよか猫に溌剌とした子猫……毛並みも色も千差万別のにゃんこに触れ合える、まさに楽園。
 パトリシアは何匹か撫でつつ興味深げだった。
「ここマデ色んな種類がいるとは驚キデス」
「ええ、本当にどれもかわいいニャン……!」
 ミリムはクッションに戯れているにゃんこを愛でつつ、目をきらきらとさせている。
 クレーエもルティエと一緒に、黒猫とグレー猫を腕に抱いて……存分にもふもふと撫でながらゆったり過ごしていた。
「奥様……ありがとうね?」
「うん。無事で、よかった」
 そんなふうに柔らかい笑みを交わしつつ、また猫と触れ合っていく。
 遊びに遊んだ後、皆で帰路につき始めると……ユアの隣で歩むステラはふと言った。
「なあ、ユア。俺最近思うんだよ」
「ん、なぁに……?」
 ユアが仄かな表情を向けると、ステラは力強い意思を示す。
「君は『終わり』を見ているのかもしれないけれど。俺はまだ終わらせたくないな、って」
「……」
「世の中は広いから、君を救う事ができるお宝も見つかるかもしれない。……こんな楽しい世界、まだ終わりにしたくないだろ?」
 だから、と真っ直ぐに見つめた。
「この大怪盗に探させてくれよ。──最高のお宝をさ!」
「ステラ……」
 ユアはその言葉に驚く、というよりも。
 ステラの必死な姿が少し愛おしく思えて──ふっと静かに笑う。
「ありがとう、ステラ……ステラが探してくれるって言うなら……まだまだ僕も頑張っていかないとなぁ」
 そんなお宝がどこかにあるのか、それはわからないけれど。
「僕もまだ、この楽しい世界とさよならをしたくないかなって……そう思うから。頼りにしてるよ、怪盗さん」
 その声音は少し穏やかで。だからステラも頷いて、必ず、とそう応えた。
 二人が歩んでいくと……クレーエも道を帰路に向かいながら一度空を見上げる。
 そうすると青空にきらりと星が光って。
 クレーエは少しだけそれを見つめてから、また歩み出した。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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