七夕防衛戦~きらきらチャオズdeチャイナ!

作者:銀條彦

●七夕の中心でその中華娘は出前迅速を叫んだ
「何アルうるさい――って、ポ、ポポポンペリポッサ様ァッ!?」

 セクシィな美少女と呼んで差し支えないその中華ウェイトレスの名は『チャオ』。
 モザイクのオーラ背負う有力なドリームイーターの1体である。
 その日、潜伏場所で日課の餃子作りにと勤しんでいた彼女の下へ『寓話六塔(ジグラットゼクス)』から直々に下されたのは、一つの命令。
「ふむふむ……七夕の魔力でゲートの扉が……なるほど分かったアル!」
 緑髪緑眼の夢喰いは遥か虚空を見上げて此処には居ないものから直接脳内へと届いた『声』に耳を傾け、そして力強く応じるのであった。
「七夕といえば餃子! 今すぐ港区までチャオ特製餃子をお届けするアルッッ!」
 ……この場では彼女にしか聞くことが出来ないその『声』がはたして具体的にどのような命令を下したのかは不明だがそれでも、たぶん、きっと、絶対、餃子持って来いなどとは、言っていない筈である。
 が、結果的に『ジュエルジグラットの手』封鎖を維持する為の戦力を召集するという目的が果たせるのなら問題なしと命令主は考えたのだろうか。
 その後も特に彼女に対して制止や訂正がなされる様子も無いままテレパシーでの『声』は途絶えたのだった。

「さぁ野郎どもっ! 餃子の出前オーダー1丁アルッ!」
『チャオチャオ!』『チャオズ!』『チャオチャオ!』『チャオズッ!』

 ――かくして、各々銀のおかもちやら箸やらを片手に携えて、
 夢と餃子喰らう一団は意気揚々と東京都港区方面へ出陣を開始したのだった。

●七夕の目前でいつもの熊猫娘からおしごとなのです
「大変なのです! ドリームイーターの動きを監視してくれていたみんなから一斉に急ぎのお知らせが届いたんですっ!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)はヘリポートへと集まった者達に、まず空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)を始めとした一部のケルベロスがかねてからドリームイーターの次なる大規模作戦を警戒し続けていた事を説明し、その懸念がどうやら的中したらしい事を告げたのだった。

 東京都港区上空に浮かぶダンジョン『ジュエルジグラットの手』は日夜多くのケルベロスによって制覇され続けて来た。
「そんなみんなの頑張りに七夕の魔力が持つ『分たれた2つの場所を繋げる』という特別な力が合わさって……『寓話六塔(ジグラットゼクス)』の『鍵』で施錠したはずの本星ジュエルジグラットへのゲートが、あとちょっとで開かれそうなんです!」
 織姫と彦星の伝説ではカササギが、年に一度、天の川に橋を渡すとも言われている。
 だがそれが大きな魔力となって『寓話六塔戦争』以降長く閉ざされ続けていた扉に綻びを齎すとはとねむも驚きを隠せない様子である。
「――それに対して、ゲートの封鎖を維持しケルベロスも寄せ付けないようにしたいドリームイーターは、日本各地で潜伏していた有力なドリームイーターを『ジュエルジグラットの手』に向けて集結させようとしているみたいなのです。だから今回みんなにはこの強敵たちが集結を完了させる前に待ち伏せて各個に撃破してきちゃって欲しいのです。ダンジョンへの増援を阻止できれば……7月7日に開かれると予知されているゲートから、逆侵攻だって出来るようになるかもしれませんっ!」
 敵の大規模活動はピンチどころか千載一遇のチャンスとなり得るのである。
 だが、さしあたってはまず有力敵を確実に撃破していかなければならない。

「集まってもらったみんなに迎撃して来てもらうのは『チャオ』と名乗るドリームイーターなのです。本人も引き連れている部下もとっても餃子好きだから、誘導するだけならとってもカンタンだってヘリオンちゃんは教えてくれました」
 すなわち予知された彼女達の進攻ルート上へ先回りして『餃子屋台を構えて無視できないクオリティの餃子を振舞う』か『餃子以外の食品を提供する移動屋台を構えて徹底的に餃子をバカにして怒らせる』かである。
 むろん交戦予定ポイント付近では予め避難等は済ませておく手筈だが、何せ、『チャオ』達にとっての最優先目標は『ジュエルジグラットの手』への到着である為、人払いが完了した場所で確実に戦いへと持ち込むにはどうにかして目標を忘れさせる必要があるのだ。
 2つの策どちらを採ったにせよ最終的には戦闘という事になるが、前者策を取った場合の敵方針はどちらかといえば攻守バランス重視となり、後者策で怒らせた場合はメディックの部下にすらヒールグラビティを使わせない超攻撃偏重で襲い掛かってくるらしい。
「どっちも一長一短あると思うのでみんなで決めるのがいいと思うのです。ただ……餃子は普通にとってもおいしいから悪くいうのはむずかしいし心苦しいかもしれませんっ」
 そんな要らぬ心配を交えつつ、今回の敵データについてを懸命にケルベロス達へと伝え終えたヘリオライダーはパタパタと出立の準備に取り掛かる。

「相手は強敵だけれどみんなならきっと勝てるのです。そして七夕の魔力がゲートへの扉を開いてくれれば、また『鍵』で再封印しに来ないといけない『寓話六塔(ジグラットゼクス)』を討ち取るチャンスだって訪れるかもしませんっ」
 そんなねむからの鼓舞を受け、猟犬達もまた夢と餃子喰らう一団迎え撃つ戦場へと赴くのだった。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)
フレデリ・アルフォンス(青春の非モテ王族オラトリオ・e69627)

■リプレイ


 都内、とあるベイエリア地区。
 そこには港区を目指し湾岸道路沿いに北上しつつある敵集団を待ち構えるケルベロスの姿があった。
「さて……寓話六塔、ようやく動き出しましたか。ドリームイーターのゲートを砕く絶好の機会、逃す訳にはいきませんね」
 敬虔なパラディオンである朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)は聖王女への祈りの後に――屋台を引いていた。

「野郎ども待つアル! ……芳しくも力強いこの匂いは……っ!?」
 一応は道中の人目を避けつつ、一般人には決してありえぬ速度で駆け抜けていたドリームイーターのチャオの進攻を止めたもの、それはニンニクである。
 大蒜、韮――ネギ属をたっぷりと混ぜこんだ肉餡を包み焼くというただの一工程に過ぎない筈の其の行為の、嗚呼なんと恍惚にして暴力的な事か。
 まずは嗅覚へと訴えかける事で敵の足を止めるという昴の作戦は見事に当たり、餃子喰いのドリームイーター達はしばしゲートの事さえ忘れて匂いの素を探し求める。
 昴にとっては仇敵とも呼べるドリームイーター。
 しかもこのチャオはその中でも寓話六塔直下、精鋭と呼ばれる存在であるという。
(「――のに……ええ、ケルベロスにとっては好都合この上ないのですから……わたくしのこの不満はごく個人的な我儘、それは重々承知しております」)
 だが。
 緊張感を削ぎまくるかの敵の在り様にはちょっと……いや、かなり物申したいという衝動を飲み込みつつ手を休めない彼女は一心不乱、鉄鍋に油を躍らせ餃子を焼き続けていた。
「そこを通る者よ、待つが良い。求道者たるもの、これらの餃子を食わずになんとする!」
 レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)の一喝が最後の一押しであった。
 チャオ達が思わず振り返れば、何らかのイベント準備中なのか、人気の途絶えたその一角に何件もの屋台が立ち並んでいた。
「こ、これは……まさか、全て餃子屋台アルかっ!!!」
 彼女にとってそれはまさに、桃源郷にも等しい、夢のような光景。
 重々しく頷いて肯定したレーグルからの返答を待たず……チャオ一行は各々趣向の凝らされた餃子を並べる屋台の前へと吸い寄せられるようにして駆け込んでいったのだった。
「大蒜テロの発生源はここアルか! さあ、その焼きたてアツアツを寄越すアルッ!」
 まずは一番手。内心では激しく渦巻く混沌を完璧に押さえ込み、ニコニコと品の良い愛想笑いを湛えた昴がドリームイーターへと提供した餃子はまさに屋台の為の餃子。
「タレ無しで手軽に食べられる味付けにするのが屋台風ですね」
「確かに濃厚なこの餡にこれ以上余計な味付けは不要アル。何より、皮の食感アルッ!」
『チャオチャオッ!』
 半ば揚げた様な状態でパリッと焼き上げられた薄皮の香ばしさはまさに絶品。
 サクサクと軽い歯ざわりが何とも小気味良い昴の屋台風餃子は瞬く間にフードチェイサー達の大口の中へと消えてゆく。
 彼らのモザイクが晴れることはなかったがツカミは文句なしの百点満点――そんな光景を眼の前に複雑な心境深まる昴だったが黙々と屋台餃子職人にと徹する。
「次なるは王道中の王道……」
 レーグルによって蒸篭から取り出された餃子が次々に大鍋へと投入される。
「蒸――いや、水餃子アルか!」
「然りである」
 竜派ドラゴニアンの両腕はともに地獄化しておりケルベロス以外の何者でもないのだがチャオ達にとってそんな瑣末などもはや眼中に無い。
 何度かの差し水を経て、沸きあがる茹で汁から掬い上げられた餃子はうっすらと透明感を纏い出しており、見るからに食欲そそるプリプリ感。
「餡は三鮮アルか。これもオーソドックス、だからこそ間違いのない味アル!」
 ふわりと湯気立つそれを黒酢に絡めてつるりと口へとすべらせれば、溢れんばかりに広がる肉汁が舌を楽しませる。
「たっぷりのお肉やエビの食べ応え、シャキシャキした野菜の食感、そしてモチモチした皮の満足感……そう、餃子は一種の完全食!」
 チャオの横合いから、突然、お株を奪わんばかりの熱量で大演説をブチかましたのは稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)であった。
 熱く眩い夏空を切り取ったかの様な清冽なブルーのチャイナドレスを纏う彼女もまた屋台主、何段にも積まれた蒸篭の間からにこやかに手が振られる。
 短めの裾に深く入ったスリットからは自慢の脚線美が惜しげもなく露わとなっている。
「なかなかハナシのわかる奴アルな! 青いの、今度はオマエの餃子を食べさせるアル!」
「ご注文しかと承ったわ! セクシィ美少女(23)の餃子愛、ガツンと特盛でお見舞いして差しあげるわね♪」
 餃子という架け橋が繋げた青き特盛と白き特盛のチャイナな競艶。
 ちなみにすっかり手馴れた調理の手際はプロレス道場での集団生活の賜物らしい。そして多くの腹を満たす味といえばもう1人。
「私からも、愛情たっぷりな餃子二種盛りなのです」
 日本における正統派、焼餃子に加えて海老焼餃子を並べて披露したのは源・那岐(疾風の舞姫・e01215)である。
 彼女は、晴香ほどの大所帯相手ではない代わりに現在進行形で食べ盛りを含む4人家族の食事を一手に引き受ける主婦ポジションで日々研鑽を続ける慎ましき大和撫子なのだ。
「美味しく食べて貰う為に作りましたのでとっても美味しいはずですっ」
 家庭の数だけ異なる『普通』の味と完成を待ち侘びる家族の鼻腔くすぐる台所の匂いこそが何よりのご馳走。
 大切な家族達の笑顔を思い浮かべた彼女は、たとえデウスエクス相手であってもその心は通じるはずだと信じて真っ直ぐ、ぐぐっと差し出したのだった。
『チャオチャオッ!』『チャオッズ!』『チャオッチャオッ!』
 そして――通じたのかどうかは不明だが、とりあえずフードチェイサー達の食のスピードは更にその速度を増してゆく。
 その頃結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は悪戦苦闘中であった。
 水餃子本来の白、ほうれん草等を練り込んだ緑、ピリ辛ダレを混ぜた赤、そしてカレー味の黄……。
 皮と具材は完璧に仕上がっており、見目にも味にも自信があった。だが――それらすべてをうず高く豪華に積み上げても、彼が目指す美しき餃子タワーは完成しなかったのである。
 重みに耐えかねた下部の水餃子が次々にペシャンと潰れあるいは破れ……彼の理想と完成品は甚だ乖離し続けている。
「ナルホド! チャラいタピオカやらマカロンやらなぞ圧倒する、餃子の映えポテンシャルに眼をつけるとは素晴らしい発想アル!」
 昴から渡された烏龍茶を飲み終えたチャオがいまだ調理中のレオナルドの横にひょっこり顔を出す。
「わわっ、も、もう少し待って下さい! ドンドン作りますから!」
「――小賢しきマカロンタワーもクロカンブッシュも別に菓子だけ積んでるワケじゃないアル。土台はだいだい別材料アル」
「!! そうか……ありがとうございます!」
 そんな、熱きプロジェクトC(チャオズ)な一幕を微笑ましげに見守った後に始まったのはフレデリ・アルフォンス(青春の非モテ王族オラトリオ・e69627)の賑やかな呼込。
「変わり種の美味しい餃子がいっぱいだよー! そこのお姉さん、オレ達と戦う前に食べてみないか? パリパリの鶏皮餃子にカニ大根餃子、丸ごと一尾のプリプリ海老餃子、なんと麻婆餃子! 他にも意外と美味しい餃子がいっぱいだよー!」
「戦う? って、あああぁオマエら全員ケルベロスアルかっ!!!」
 どうやら今の今までデウスエクスの眼力を餃子だけに注ぐ視野狭窄が災い(幸い?)し、本気で気づいていなかったらしい。
 とうとう開戦かと周囲のケルベロス達も覚悟を決め、火の始末や器の片付けを済ませ急ぎ戦闘態勢を取ろうとする、が。
「待ってくれ、もう一度言う……食べてくれ。この餃子を食べないまま戦えばお互いきっと後悔する」
「――。かもしれない、アルな。わかったアル」
 オラトリオ騎士の真摯な申し出と眼差しに――何より居酒屋とビュッフェが纏めて一遍にやって来たような珠玉の変わり種餃子の数々を前に、餃子喰いのデウスエクス達はケルベロスからの嘆願を受け入れ再び屋台の卓へと着席する。
「……奇を衒わずとも美味い餃子で、あえて新たなる奇を追求し――そして例外なく美味いアル。餃子とは……なんと自由で無限大の『世界』を内包する深淵アルか……ッ」
 フレデリ渾身の餃子の数々を一つ一つ確かめるように噛み締め、滂沱せんばかりに感極まりながら飲み下すチャオとその手下達。
「やはり餃子こそが究極にして至高ッ! 餃子以外の食なぞが存在するからこの宇宙はいつまで経っても不完全で不自由なままアル……ッ」
「……いいえ、それは違うわ」
 俄かに立ち込める暗雲。
 チャオの言を真っ向から完全否定したのはチャイナ同志、晴香だった。
「オマエだって餃子は完全食だと言い切ったアル! そう、餃子以外の食など不要アル!」
「連綿と続く餃子と餃子以外の食の歴史、この両方なくしてその『完全』は完成しなかったハズよ。あなたのその拗らせた餃子愛は断じて認められない――餃子を愛する者としてこれだけは譲れない」
 しばしの睨み合いの後に訪れたのは――ケルベロスとデウスエクスにとってある種当然ともいえる帰結。

「餃子は美味しいですし、その餃子愛は認めましょう。しかし私達にも譲れない理由があるのです。これ以上は進ませません」
 揺るがぬ決意込め、毅然とそう断言した那岐のことばが戦いの始まりを告げる。


「ならば是非もなし――我が名はチャオ! 『寓話六塔』が一塔、「緑の好奇心」喚起させるもの『ポンペリポッサ』配下のドリームイーターアル! いずれ劣らぬ餃子力のケルベロス達よ。そのドリームエナジーを全て頂けばきっとモザイクも晴れるアルッ!」
 予知情報によって既にケルベロス側では彼女の名前等すべて把握済みであるとは知らない彼女は、これから拳を交える天敵達に対して高らかに名乗りをあげる。
 ――その挑戦へ真っ先に応じたのはまるでショウじみた『魔法』。
 青のミニチャイナドレスから見馴れた赤のリングコスチュームへと衣装を早変わりさせた晴香の開幕ドロップキックが、朱き烈火を発し、敵メディックへ鮮やかに決まった。
「『伝説の後継者』稲垣・晴香、ここに降臨! まずは揚餃子からサクッと撃破よ!」

「この強い圧の感じ、むしろビルシャナっぽいですよね」
 チャオにとってこの戦いはいまだ防衛線を突破する為ではなくあくまでもエナジーを奪う為のものである。
 飛び抜けたチャオの強さに加え、手下達が数に物を言わせチャオを『ジュエルジグラットの手』へ逃がす方針に徹すればおそらくはかなりの無理や無茶と引き換えでなければ抑える術は無かっただろう。
 熱き餃子愛によってチャオ達の脳内からすっかり出前――もといゲート封鎖の使命が抜け落ちてしまった今ならばその心配は全く不要である事に内心で安堵しつつ、レオナルドは揚餃子のモザイク背負うフードチェイサーへガトリング砲を掃射した。
 チャオの牽制役にと廻ったレーグルと回復専任のフレデリを除くケルベロスは取り決めに沿い、最初の集中攻撃へと踏み切っていた。
 先のガトリング被弾の様子からもしやと考え、重ねられた【炎】によって確信を得た那岐は、餃子チェイサー達の弱点は破壊力であると味方へ伝達する。
「ダンジョンで見掛けた正常(?)な残霊と弱点は共通のようですね」
 優れたサポート役としての資質を備える彼女らしい、的確かつ冷静な指摘。
「これが本気中の本気の加護だ!」
 初手の時空凍結弾1発を最後に、以降ヒールのみに専念したフレデリの全力奮闘に支えられ、ケルベロス達は着々と敵ドリームイーターを倒しその数を減らしていった。

「くっ……偉大なる、我らが聖王女よ」
 歪む視界、軋む褐色の肉体。
 湧き立つ混沌が強引に昴の片腕を硬く冷たき巨大砲台へと造り改め、何処までも敵を追い駆け追い詰める砲弾によって遂には夢喰いの怪人を爆散させ……、
「地獄の底より来たれ。さあ、終末のラッパが鳴り響く!」
 レオナルドに導かれ戦場へと顕れ出でたソレは『蹂躙する終焉の車輪(ホイール・オブ・ヤタイ)』――1輌の巨大な餃子屋台であった。
 廻る車輪は最後の手下を水餃子のモザイクごと轢き潰してゆく。

 一方で強敵たるチャオを野放しにはしておけぬとレーグルは『瞋穢(シンノエ)』によって地獄化した両腕を憤怒の白炎と変えて襲い掛からせた。
「――奪われしものの怒りを知れ」
 だがディフェンダーに阻まれ初手からチャオに【怒り】をという狙いはいったん外される。
 ならばと鎖陣で前衛列の防御を高めた後、再度の『瞋穢』を敢行すれば今度こそ怒りの火はチャオの心へと燈された。
 竜の稲妻と交互に、尚も、レーグルの【怒り】攻撃は繰り返され続けその幾つかは水餃子と焼餃子が受け止めた。
「丹念に叩き潰してこね回して! 肉肉餃子の具にしてやるアルッ!」
 結果としてレーグル1人が集中砲火に晒される苦しい戦況。だがケルベロスもまた堅き盾役を2名擁している。
「餃子の無理強いは見過ごせないって言ってるでしょ!」
 颯爽と飛び込んだ晴香が身を挺してのカットプレイでレーグルを救出し、那岐もまた防具耐性の効かぬ防御を躊躇せず敢行する。
 『舞姫』たる那岐の舞は銀羽の妖精靴の霊力を増幅させ、いつしか、辺りには静謐な安らぎ振り撒く癒しの花が満ちてゆく……。
 鉄壁の守りを根性で摺り抜けたチャオ怒涛の連続攻撃がレーグルを戦闘不能へ陥らせた頃には、チェイサー達は全て討伐され、チャオ自身も数々の状態異常を餃子喰いによって癒やそうにもジリ貧の状態であった。

「聖なるかな、聖なるかな――聖譚の王女を賛美せよ」
「莫迦なっ……、定命の身にそれ程の濃度のワイルドスペースを降ろすだと……」
 先迄の比ではない激痛も、完全にアルアル口調を忘れた緑髪の夢喰いの驚愕も。
 歌う『狂信の聖獣(ファナティカル・ワイルド)』化した昴の蹂躙を止める事叶わず。
「強敵と書いて『とも』、そう呼んでやろう……」
 独り呟いたフレデリは、だが、前衛列にかかった【足止め】を紫雨で洗い清め今こそ畳み掛ける好機だと戦友達を勇ましく鼓舞する。
 応じた戦友達は、朱の風刃踊る戦舞や呪怨斬月で不死の命を殺ぎ、そして。
「違う立場で会えてたら、仲良くなれてたかもね……」
 抱き締めるように後方からチャオを抱え込んだ晴香は此処まで温存し続けた必殺の正調式バックドロップを豪快に炸裂させた。
 白き特盛チャイナ娘はそれっきり、銀のおかもちだけを残して湯気の如く霧散した。

 余談ではあるが。
 七夕に餃子を供える風習はマイナーだが確かに存在する。
 あるいは――番犬達と夢喰いの餃子もまた莫大な『季節の魔法』の一端を担った、かも、しれない?

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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