大菩薩再臨~デス・パレード

作者:鹿崎シーカー

 夜。東京都杉並区某所のビルにて。
 ビルの屋上に、複数の翼音が響き渡る。空から舞い落ちてくる黒い羽根。赤い目玉模様が描かれたそれらが薄く積もった床の上に、大きな鳥の足が降り立った。
 足の主は、三対六枚の翼を持つハーピーめいた姿の鳥人。胴体は育った少女のものであり、顔を黒いペストマスクで隠す。オールバックじみた形の黒髪は腰まで伸び、毛の先端は突き出た黒い尾羽にかかる。腕の蒼翼をたたみ、背中の四枚翼を下げた鳥人は、赤く光る目で周囲を見回す。静まり返った屋上には誰もいない。鳥人はマスクのクチバシを開いて声を張った。
「来ましたよ、アザナエル! どこに居るのです!」
 少女の声が夜風に溶ける。ややあって、木霊めいた笑い声が屋上を震わせ始めた。徐々に大きくなる哄笑がハッキリ聞き取れるボリュームとなったその時である!
「ホハハハハハハハ! 流石であるな。時間通り!」
 鳥人の目の前で白煙が爆発。足場に広がった霧から花畑めいて無数の手が生え、煽るように手拍子をする。立ち込める霧が赤、青、緑、黄色に代わり、シンバルの音を鳴らして爆散。元に戻った屋上の中央には、燕尾服にシルクハットを被ったオオハシめいた姿のビルシャナ。首や足首に風船をくくりつけた彼は、ステッキとビックリ箱を持った腕を大げさに広げて言い放った。
「禍福の罠師アザナエル、ここに参上! 我が美技にて歓迎しようではないか! 名前は確か、死を以って尊しと為す、で合っているな!?」
 『死を以って尊しと為す』は、片腕の翼で押し寄せる霧の残滓を払いつつ、不満げにつぶやく。
「過剰演出ですね、アザナエル……」
「ホハハハハハ! そう言ってくれるな。吾輩、こうして魅せるのが生業なのでな。それはそうとして、だ」
 アザナエルは声を低くし、小首を傾げた。
「予定通り、人は集まったのだろうな?」
「ええ。数にして30。少なめではありますが、割合集まった方でしょう」
「よろしい! それだけそろえば、まぁよかろうよ!」
 拍手めいて翼を叩くアザナエル。『死を以って尊しと為す』は、赤い目を明滅させる。
「要件を済ませましょう。既に一刻の猶予すら惜しい。我々には……」
「急くな急くな。わかっているとも。衆合合切衆合無、衆合合切衆合無、衆生無辺誓願度。これは必要な儀式なのだよ。そら、聞こえてきたぞ! 耳を澄ませるがいい!」
 アザナエルがくるりと身をひるがえして空を仰いだ。夜空に浮かぶ雲の切れ間が金色の光を放ち、アザナエルの目の前に一条の光線を撃ち落とす! 雷鳴じみたサウンドと共に弾ける光。立ち上る光子から進み出たのは、二足歩行の黒竜の如き姿のビルシャナである。長く伸びた尾の先、小さな鐘を鳴らしつつ、黒竜めいたビルシャナは顔を上げた。
「貴様らが、そうか」
「その通り! 禍福の罠師アザナエル、並びに死を以って尊しと為す。天聖光輪極楽焦土菩薩の声を受け、星の救済を使命とせし者!」
 アザナエルの口上に、黒竜ビルシャナはうなずく。
「貴様らは、ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に、より多くのグラビティ・チェインを捧げなくてはならない。集めよ。我らが大義がため。衆合合切衆合無、衆合合切衆合無」
 つぶやきながら、黒竜ビルシャナは片腕をかざす。手の平からあふれ出す閃光がアザナエルと『死を以って尊しと為す』を包み込むのを見届けると、彼は背を向け、鐘を鳴らしながら黒霧と化して消滅した。


「えーはい、ドラゴンのゲート破壊お疲れ様でした。……間髪入れずビルシャナが来たんだけどねぇ……」
 頭を掻きつつ、跳鹿・穫は手元の資料に目を落とした。
 過日の戦争に勝利したことにより、ドラゴン勢力は衰退。これに乗じてケルベロス勢力はドラゴンが制圧していた地点を次々に攻撃、奪還を繰り返していた。当然、全てを破壊できたわけではないのだが……この破壊できなかった地域を起点に、今回の事件が始まったのだ。
 事件の主犯は、天聖光輪極楽焦土菩薩。菩薩級ビルシャナの一体である彼は、残ったドラゴン勢力の地域を破壊。そこから奪ったグラビティ・チェインを利用してビルシャナ大菩薩を再臨させようと企んでいる。
 現在、天聖光輪極楽焦土菩薩の呼びかけを受け、大勢の有力なビルシャナが集まっている。皆には今回の事件で新たに生まれたビルシャナや、ドラゴン制圧地域から奪ったグラビティ・チェインを使って強化されたビルシャナを見つけ出し、これを撃破してほしいのだ。
 今回確認できたのは、『死を以て尊しと為す』と『禍福の罠師アザナエル』。両者は制圧地域のグラビティ・チェインを浴びてパワーアップしたタイプで、現在はミッション地域のひとつである『東京都練馬区』のお隣、東京都杉並区の北端に潜伏している。
 そこで何をしようとしているかというと、『死を以って尊しと為す』が集めた一般人たちを練馬区に特攻させようとしているのだと言う。
 練馬区は天聖光輪極楽焦土菩薩によって破壊されて焦土化しているが、アザナエルが施したトラップが多数しかけられているせいで恐るべきキリングフィールドと化している。この暴挙を放置すれば、大勢の人々がアザナエルの罠にかかり拷問じみた目にあった挙句非業の死を遂げるだろう。しかも厄介なことに、これは『死を以って尊しと為す』とアザナエル、天聖光輪極楽焦土菩薩の三者にとって利害が完全一致した事件でもある。止められるのは他でもない、ケルベロスだけと言うことだ。
 戦場は広い高速道路のど真ん中で行われる。ミッション地域が近いこと、練馬区が焦土化していることから、周囲に人は一切いない。どころか、建物もほぼ崩れてゴーストタウンとなっている。この道路上を練馬区めがけて進む三十人の信者がおり、その後ろから二体のビルシャナがついていく形をとっているようだ。
 『死を以って尊しと為す』は死に関する能力を複数持つ。とは言っても即死させるほどの力は無く、一度に能力の影響下に置けるのは一人だけ、死に至るまでやたら時間がかかる、能力をかけている間はその場から動けない、攻撃を受けると解除されてしまうなどの制限も多い。また、強化によって死に至らしめる力とは別に、人の心に死への憧れや死に対する願望を付加する力も扱えるようになった。
 アザナエルは物理的・心理的な罠を仕掛ける策士。恐るべき洞察力を以って様々な罠を操り、足止めから誘導、幻惑、トドメの一撃まで幅広い戦術を編み出している。分析能力とトラップ構築能力は強化を受けてさらに悪辣なものとなり、罠にはまった相手に過剰な心理効果を与えるに至る。
 アザナエルと信者たちが前線に出て足止めし、『死を以って尊しと為す』の能力で確実に殺すのが基本戦術。信者はただの人だが、二人の教義を受けて死を恐れず、それどころか『もしかしたらケルベロスになって世界を救うヒーローになれるかもしれない』とすら考えている。信者をどうするかは、ケルベロス次第だ。
 なお、二体のビルシャナの身体能力はそれほど高くない。
「事件発生まで時間は無いけど……相手はすごい強敵だし、厄介な力も持ってる。しっかり作戦を立てた方がいいと思うよ。頑張って」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
 

■リプレイ

 東京都杉並区、練馬区県境に続く広い高速道路の上を、三十人の老若男女がゾンビめいた足取りで進む。そろって生気のない顔、死んだ目つき、力の無い歩調で進む人々を最後尾から眺めつつ、禍福の罠師アザナエルは感情を映さぬ瞳を隣に向けた。
「それにしても、よくぞこれほどの人数を集めたものだ。この全てのグラビティ・チェインを捧げても、再臨には及ばぬだろう。だが、大きな一歩には違いない。賞賛に値する!」
 アザナエルの隣、『死を以って尊しと為す』は歩きスマホスタイルで群衆に続く。視線を画面に落としたまま、彼女は言った。
「私は何もしていません。ただ、迷える彼らに死という救いを示しただけです。それに応え、受け入れ、こうして歩むと決めたは彼ら自身。しかし……」
 『死を以って尊しと為す』は深刻につぶやく。
「これでは足りない。救いを求めるものは大勢います。その全てを救わねば。死は明日への希望なりと伝えねば」
「ホハハハハハ! 勤勉でよろしい!」
「当然です。……ん」
 その時、『死を以って尊しと為す』が前を行く男にぶつかった。二、三歩下がった彼女は、立ち止まった男に問う。
「何事です」
「え? いや、それが……」
 男が困惑した顔で前の方を見る。立ち止まったアザナエルは爪先立ちしてクチバシを上向け、最前列に視線を飛ばした。人々の列からどよめきの声。アザナエルは得心めいてうなずいた。
「ほほう。そうか、そういうことか」
「……アザナエル。何かわかりましたか」
「いや、大方の予想通りだよ」
 アザナエルはシルクハットを目深に下げ、低い声で告げる。
「番犬たちの、お出ましだ」
 立ち止まり、ざわめく信者たちの進行方向。うっすら霧に包まれた高速道路に、成人男性の背丈ほどもあるタワーシールドをいくつも積み上げたバリケードがそびえ立っていた。行進する人々の前と左右を閉ざす形で組まれたそれらに張り巡らされた、『KEEP OUT』の文字をプリントした黄色いテープ。
 人々の行く手をふさぐデッドエンドの壁上で、双眼鏡を片手に腕組み仁王立ちしたセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)は、大声で宣戦布告した。
「来たっすね! 死を以って尊しと為す! 禍福の罠師アザナエル! お前たちの悪だくみもここまでっすーッ!」
「ホハハハハハ……」
 陰気に笑ったアザナエルは地面に杖を突き刺して立て、そのヘッドに片足で飛び乗った。胸を張り、声を張って切り返す。
「お初目にかかるな、ケルベロス! いかにも、吾輩こそは禍福の罠師アザナエル! そして隣にて立つのは死の女王、死を以って尊しと為すである! まずは手の込んだ歓迎に感謝しよう。サプライズパーティとは出来た趣向だが、残念ながら吾輩たちは先を急ぐ身。誠に申し訳ないが、そこを通して頂くぞ!」
 その時、信者たちが拳を突き上げて野次を飛ばしはじめた。
「そうだそうだー! 邪魔してんじゃねえぞォ!」
「早く道を開けなさいよ! 私たちには時間がないの!」
「早うどけぇ! こちとら行かねばならん場所があんの!」
 罵声を浴び、セットは神妙な面持ちであごを引く。アザナエルは嘲るように高笑いした。
「ホハハハハハ! 聞こえるかね? この信者たちの悲壮な訴え! 彼らは自らの手で、死の契約書にサインした。なればこそ、吾輩たちには、彼らを導く義務がある。それを阻む権利が、果たして君にあるのかね!?」
 そこで、黙っていた尊しと為すが顔を上げ、凛とした声音で言い放つ。
「退きなさい。これは死による迷える子羊たちの救済。産み落とされただけの生命を、望まず与えられた人生を、勇気と意志を以って終わらせたいと願うこの者たちに捧げる救いなのです」
「へえ、そうかい」
 直後、尊しと為すの後方に人影が落下! 着地した軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)は、振り返った尊しと為すにガンを飛ばした。
「そりゃ結構なご高説だなァ、あァッ!?」
 黒い粘液で出来た翼を広げ双吉が駆ける! 拳を握り込んで尊しと為すに急接近する彼の前に青年信者がインターラプト!
「教主様ァッ!」
「ふんッ!」
 双吉のアッパーが青年の下あごを撃ち抜いた。弧を描いて飛ぶ彼の下を潜って双吉に突っ込む初老男性と三十路の女性。双吉が足元から生えた粘液の壁を足場に、彼らの頭上を飛び越えた瞬間、信者二人の前に降り立った相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が高速二連ジャブで二人をノックアウト! 一方、双吉の背中で粘液が翼から球に変形。信者たちに庇われ後ろへと下がる尊しと為すを空から見下ろし、双吉は声を投げかけた。
「死の先に救いを求めるのは俺も同じだがなァ、しかし! テメェと同じ穴の狢と思われるのは我慢ならねぇなァ! 徳を積んで、死ぬ時まで生き抜いて、その果てに救いってーのは訪れるモンだ。安易に死を謳い人を巻き込むテメェは……」
 双吉の背中で球が孵化寸前のサナギめいて内側から押し広げられる。
「死にたくないと思うまで裂き潰してやんぜッ! 形質投影! シアター、スタンドッ!」
 粘液の球を突き破り、黒い悪魔めいた影が姿を現す。咆哮した悪魔は自らの翼で飛翔し、隕石じみて尊しと為すに急降下! 悪魔の前に立ちはだかった三人の信者の足元、低姿勢で踏み込んだ機理原・真理(フォートレスガール・e08508)がその首筋に素早く手刀を叩き込んだ。昏倒して倒れ伏す三人。真理は左右から挟み撃ちする信者を華麗な回し蹴りで一蹴し、尊しと為すに視線を合わせた。
「死ぬ事が全部悪いことなんて言わないですけど、尊い事だって勧められる事なはずがないのです。誰一人、死なせはしないですよ」
「ミス!」
 尊しと為すの真上に飛来したアザナエルが両脚で彼女の肩をつかんで斜めに飛び立つ。次の瞬間、尊しと為すの居た場所に悪魔が激突! 空へと逃げた二体を見上げ、真理は背後を振り返る。
「相馬さん!」
「任せろ! 逃がしはしないぜ!」
 突貫してくる信者たちを手早く殴り倒した泰地は、空中の尊しと為すに右手をかざす。手の平に赤い光を収束させ、力強く握り込むと同時に尊しと為すの翼が一枚爆発四散! 尊しと為すは表情を一切変えずにつぶやいた。
「……困りましたね」
「ああ、困ったものだ。吾輩を完全無視してくれるとはな」
「アザナエル」
「請け負った」
 アザナエルが短く返事したその時、バリケード上に陣取ったセットが長大な砲を腰だめに構えた。尊しの翼のうち一枚を照準!
「うおおおおおおおおおっ! こっちを見るっすーッ! その翼もう一枚、ぶっ飛ばすっすよーッ!」
 砲声が響き、巨大な弾丸が一瞬で距離を詰めていく。アザナエルは命中する寸前で尊しを解放して落とし、足を引っ込めてセットの砲弾を回避。狙い外れた砲弾は放物線を描いてアスファルトに突き刺さり、まばゆい閃光と電撃を放射! 稲光を食らって次々と倒れる信者たちを前に着地した尊しと為すの頭上、アザナエルはクチバシにくわえた風船を身の丈を超えるほど大きく膨らませて爆裂させた。極彩色の霧が吹き出し、垂直に地面へ落下する。群青色の翼を広げて低空飛行した田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)は、銀色の短い杖を手中で回した。
「皆さん、信者さんたち連れて下がって!」
 言うが早いか、マリアは杖の先で地を叩く。杖に嵌めこまれた蒼い宝石が光輝き、杖先を起点に左右へ広がる蒼光の筋! アザナエルの霧を取り囲むように発生した光帯から、鳥かごの格子めいて青い鎖が複数飛び出した。
「皆さんの事を守れますように」
 一瞬で作り出された蒼光の鎖檻が極彩色の霧を内へ閉じ込めて密封! 霧に閉ざされた檻の奥から、アザナエルの宣言が響く。
「イッツ・ショータァーイム! 舞台は東京、主役は吾輩! 番犬たちよ、禍福の美技を、特等席でご覧じろ! アザナエルのトラップショー、開幕であるッ!」
 気絶した信者を連れて大きく後退した双吉が両手に黒粘液をまとわせる。信者を下ろした彼は粘液を電極めいた形状に変えて交叉! 激しい稲妻と雷鳴が飛び散った。
「何をする気か知らねえが、お前に構ってる暇は無え! 田津原さん、開けてくれッ!」
「はい!」
 マリアが杖を掲げると共に宝石がまたたき、鳥かご上部の鎖がほどけて花弁じみて展開。外に漏れだす霧に向かって双吉が電極型の両腕を突き出した直後、信者のひとりが彼を背後から羽交い絞めにした!
「うおッ!?」
「今だッ! 殺せェッ!」
 羽交い絞め信者の号令を受け、双吉に殴りかかる信者が三人! 疾駆した泰地は手刀で羽交い絞め信者のうなじを叩いて双吉の真横を突破、殴りかかった三人の信者のあごに三連で拳を打ち込んだ! 白目を剥いて崩れ落ちる信者たちを余所に、泰地は双吉を振り返る。
「やってくれ!」
「恩に着るぜ……! 食らいな!」
 双吉の両腕が放つ雷が、空に広がる霧にぶつかり押し飛ばす! 霧の晴れたそこにアザナエルの姿は無し。刹那、双吉の腕にからみついていたスライムが激しくうごめき、触手を伸ばして双吉の首を締め上げた! 彼の後方、鳥かごの真反対に現れた尊しの両目が真紅に発光!
「一心同体、ならば共に救われるべし……」
「っ、いつの間にっ!」
 驚愕しつつも、マリアは振り向きざまに短杖を投擲! 石突がスライムに突き刺さると同時、杖の宝石から溢れた蒼い光が粘液に流れ込んで動きを止める。
「BS解除は任せてください!」
「了解! 軋峰さんを離すっすーッ!」
 翼を広げて鳥かご飛び越えたセットが砲口を尊しに向けた。トリガーを引き砲撃! 両目を光らせたまま動かずにいる尊しに迫る砲弾に、ことなきを得た信者たちが跳躍して次々取りつく。軌道を逸らし、落下した砲弾は稲妻を弾けさせて取りついた信者をまとめて吹き飛した。瞳の光をより強める尊しに、赤いライトを着けた一輪バイクが特攻をかける!
「プライド・ワン!」
 真理の命を聞いたバイクは竜巻じみて回転しながら体当たり! 弾かれ、地面を転がる尊しに飛びかかった真理の四肢と背中、右肩を開いて小型ミサイル砲を複数展開。尊しに狙いをつけた。
「ミサイル、全展開……ファイアッ!」
 一斉に飛び立ったミサイルが尊しに殺到し、連続爆発を引き起こした。炎に包まれる尊し。ミサイル砲を格納してダッシュで尊しに駆け寄る真理。爆炎を吹き散らした尊しは翼を振り回して火の粉を払って立ち上がる。真理はレイピアめいたチェーンソー剣を引き抜き、臨界駆動!
「此処で死ぬ事は、貴女にとっては教義を果たす事なのかもです。……それだけで、満足して下さいですよ」
 切っ先を尊しに向けて引き絞り、刺突を繰り出す! バックステップをしかけた尊しは、しかし全身を青白い燐光に捕まれて虚空で停止。同じく青白い光を宿した両手を尊しにかざした泰地が、十指に力を込める!
「捕らえた! そこだッ!」
 鳥目を見開く尊しの胸をチェーンソー剣が貫き背中を突き破った。クチバシから血の塊を吐き出す尊し! 真理は剣を根元まで突き入れ、小さく告げる。
「貴女の教義は、これまでなのです」
「ゴボッ……いいえ、いいえ……」
 胸と口から血を垂らしつつ、尊しが言う。
「このままでは死に切れません。せめて、あなただけでも救わねば……アザナエル!」
 次の瞬間、尊しの全身が青黒い光を放って大爆轟を引き起こす! 天突く蒼炎をはなれた場所で見上げ、アザナエルは低い声で笑った。ヘッドが外れ、スイッチをさらした杖を小さく揺らす。
「ご冥福を、ミス。君は十二分に役目を果たした……」
 肩を揺らしたアザナエルは不意に跳躍。蒼いビームで地面を撃ち抜いたセットは、長砲を連続で鳴らしビームを連射! 体の各所にくくりつけた風船を操り浮遊したアザナエルは光線を紙一重で回避していく。
「アザナエル! まさか、仲間に爆弾仕掛けてたっすか!? なんてことを!」
「おやおや、敵に情でも湧いたかね? 何か悪いことでも?」
「大アリだろうがよ」
 嘲るアザナエルの目前に粘液の翼を広げた双吉がダイブし、稲妻をまとった拳でボディブロー! 拳がめり込んだアザナエルの体は風船めいて膨らみ爆発。吹き出した緑の霧に包まれた双吉の両目が充血し、血の涙を滝じみて流す。
「毒かッ、クソッ……!」
 双吉が毒づき、墜落する一方、手足を吹き飛ばされた真理を抱き上げたマリアが、短杖を片手に抱える。
「機理原さん……! 深手ですね、治療します」
 その時、マリア背後の地面からアイアンメイデンが出現! 振り返るマリアを、アイアンメイデンは真理もろとも飲み込んだ。アイアンメイデンの頭に止まったアザナエルに殴りかかる泰地。その横合いから飛来したホイールソーが、半裸の上体に食い込んだ!
「ぐああああああッ!」
 血飛沫を上げて泰地が弾き飛ばされる! 地面を転がった彼はしかし、片手をアザナエルに掲げて鳥の首に青白い燐光をまとわせた。アザナエルは鼻を鳴らすと、ステッキでアイアンメイデンの眉間をつつく。うつ伏せに倒れた泰地の腹が竹じみて生えた槍に射抜かれた。セットが悲鳴じみて叫ぶ!
「やれやれ……実験は失敗か。折角彼女が集めてくれた検体を、無駄にしてしまったな……」
「相馬さぁぁぁぁぁんッ!」
 砲塔からビームを発射! アザナエルが倒れ伏す信者たちを見回しながら杖を掲げると、ビームの射線を遮るように大型の鏡が現れ、ビームを真っ直ぐセットに跳ね返した。逆用されたビームがセットを直撃! 虚空で起こる爆発には目もくれず、アザナエルはブツブツとつぶやき始めた。
「残念だ。実に残念だが……ここは一旦、退くしかあるまい。この状態で死んでもケルベロスにはならぬだろうし、起きても吾輩に従うとは限らぬし、下手に交戦を続けて不死を奪われても困る。信者を殺そうにもケルベロスが邪魔をするし、彼らはそう簡単には死ぬまい。ショー・マスト・ゴー・オンとは言うが……」
 彼の足元、アイアンメイデンの扉の隙間をチェーンソーが縦に斬り抜く。開いた扉から吐き出される真理とマリア。血みどろになったマリアは、銀の杖を空に掲げる。
「皆さんに、癒しの雨をっ!」
 輝く杖の宝石から伸びた光が空に消え、すぐさま雨が降り出した。無言で傘を差すアザナエルを、両手で槍をへし折った泰地と、充血した目から血の涙を流す双吉、体から黒煙を上げるセットが取り囲む。徐々に閉じていく傷と尊しの爆発痕を見やった罠師は、嘆息した。
「此度はここまでとしよう。ケルベロス諸君、君たちの勝ちだ。死の女王から命を守り、吾輩を退けたことを誇るがいい。次こそは、吾輩の美技のみを見てくれると思って待っているよ。では、幕引きだ。これにて失礼」
 アザナエルの足元から黒い煙が噴き上がり、彼の体を包み込む。すぐに晴れた煙の中に、罠師の姿は既に無かった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月28日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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