六月の花と涙雨

作者:猫鮫樹


 灰色に染まる空が今すぐにでも泣いてしまいそうに見えてしまうのは、自分の気持ちがそのように見せているのだろうか。
 少し広めの庭に咲いた紫陽花を眺める男性は、何かを考えるように、何かを思い出すかのように静かに縁側に座っていた。
 時折薬指に嵌められたピンクゴールドの指輪を撫でては、泣き出しそうな空を見上げて深い息を吐く。脳裏に過るのは最愛の妻の事。
 事故で亡くしてしまった妻はこの庭に咲く季節ごとの花が好きだった。
 ――紫陽花の色がどうして変わるか知ってる?
 花に疎い自分に妻が笑顔で教えてくれた紫陽花の事。土の酸性度に寄って色が変わるだとか、実は花びらに見える部分は萼で本当の花は中央の部分にあるだとか、それらのことを楽しそうに笑顔で教えてくれたことがあった。
 だけどそんな妻はもういない。
 瞳から零れ落ちそうな雨が降る前にと、男性が縁側から立ち上がり湿った気持ちと共に部屋へ戻ろうとしたとき……。
 ――シュウ君。
「楓……?」
 聞こえるはずのない妻の、楓の声が聞こえた。呼んでくれるはずのない名前が聞こえた。
 縋りたい思いが男性を突き動かしたのだろうか。
 妻がいるはずもないことは理解している。でも、それは家族だった愛しい妻への愛情は消えない。
 そんな男性を嘲笑うかのように、雨は無情にも庭へと降り始めたのだった。


 しとしとと降りだした雨は、音楽を奏でるように辺りに響いていた。
 雨音をBGMにしていた中原・鴻(宵染める茜色のヘリオライダー・en0299)は、持っていた本を閉じ、赤色の瞳を瞬かせて雨音に声を乗せる。
「集まってくれてありがとう、香月・渚(群青聖女・e35380)さんが心配していた通り……紫陽花の攻性植物が現れたんだ」
 伏し目がちに、呟くように発した言葉は雨音に混じり、それでも雨音に消えない程度の言葉がゆっくりと空間に広がっていく。
 一軒家の庭に咲いた青い紫陽花がなんらかの胞子を受け入れ攻性植物となり、そこに住んでる男性……シュウを襲い宿主にしてしまった。
 急いでそこに向かい、攻性植物を倒してほしいんだと言い切った鴻は、一呼吸置いて周辺の状況等を続けて話だした。
「紫陽花の攻性植物は1体のみで配下はいないんだけど、取り込まれた男性、シュウさんは一体化していて、普通に攻性植物を倒してしまうと、このシュウさんも一緒に死んでしまうんだ」
 攻撃を続けてしまえばシュウさんの命が危険に晒されてしまうため、攻性植物にヒールをかけながら戦い、回復不能ダメージを蓄積していけば……シュウさんを助けることができるかもしれない。
「事故で亡くした奥さんとの思い出がある紫陽花が襲ってくるなんて、そんな冷酷な仕打ちは惨いと思うんだよねぇ……だからもしかしたら、シュウさんは助かりたくないと思っているかもしれない」
 鴻は物憂げに視線を落として続けた。
「もしシュウさんが助かることを望まなかったとしても、君たちの言葉や行動で彼に生きる道を示してあげてほしい」
 紫陽花と奥さんの思い出が壊されないように、どうか助けてあげてと締めくくり、鴻は赤色の瞳を静かに閉じて小さく呟いた。


参加者
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
ステラ・ハート(ニンファエア・e11757)
香月・渚(群青聖女・e35380)
紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)
漣・雫紅(紅葉と夕空・e77286)
 

■リプレイ

●青の装飾花
 しとしとと降る雨。水滴集まる紫陽花が咲く一つの庭。
 ヘリオンから降り立ったケルベロス達は、大きくなってしまった紫陽花を見上げていた。
 紫陽花の攻性植物は物憂気に雨を浴びて、やってきたケルベロス達をただ静かに眺めているようだった。
 5朶(だ)の毬のような花を身に飾る紫陽花。
「ボクが危惧していたことが本当に起こるなんて……」
 自分の背丈の倍もある紫陽花を見上げた香月・渚(群青聖女・e35380)は、ただ悲しく呟いた。その声にボクスドラゴンのドラちゃんも翼を羽ばたかせ、渚に寄り添い小さく鳴き声をあげる。
 危惧していた事件が起きてしまった悲しみ。こんな悲劇は自分達が絶対に阻止してみせなければ。
「シュウさんは無事でしょうか……」
 眼前に佇む紫陽花の周囲を注意深く見ていたルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)は不安げに言葉を零していた。
 大きな毬の様な花々に、青々とした太い茎と大きな葉。
 それらが宿主として取り込んだシュウの体を隠してしまっているのか、うまく見つけることができず、不安が胸に降り注ぐようだった。
 それでも懸命に目を凝らして探していると、
「あれ、腕だよな……?」
 紫陽花の葉に見え隠れするように人の腕が生えているのを紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)が見つけた。
 薬指には指輪が嵌められていることから、あれがおそらくシュウであるとわかる。
「辛うじて腕が見えているようじゃが……」
「早く救出しなきゃ!」
 ステラ・ハート(ニンファエア・e11757)と漣・雫紅(紅葉と夕空・e77286)もシュウの腕が目に入った。
 焦る気持ちで仕損じてしまわないように、一呼吸置いたルピナスはエナジー状の剣を何本も創り出していく。
「無限の剣よ、我が意思に従い、敵を切り刻みなさい!」
 ルピナスが紫陽花を指差し叫ぶと、創り出した剣が一斉に紫陽花へと雨の様に降り注いだ。次々降る暗黒剣は葉を斬り裂き舞い降らせる。
「さぁ、行くよドラちゃん。サポートは任せたからね!」
 葉と雨が降る中を渚がドラちゃんに属性インストールの指示を出し、流星の煌めきを辺りに輝かせて濡れた地面を蹴り上げた。
「それ、この飛び蹴りを避けきれるかなー?」
 重力を宿した渚の飛び蹴りは、雨を浴びて更に輝きを増したように見えた。
 1朶蹴り落としたが、大した傷にならないのだろう。蠢く葉と花の群れが激しく揺れ、水滴を幾つも落としていくのが見える。
 雨に濡れ情緒的で美しい紫陽花だが、大きくなり人に危害を加えるものになってしまうと、見る人によっては恐ろしいものに見えてしまうだろう。
 色が変わることで心変わりという花言葉があり、花びらが4枚なことから『死』を連想してしまうかつては人気のない花だった。
 だけれども、日本にあったそんな紫陽花に目をつけた西洋人が自国に持ち帰り、品種改良して、それを逆輸入してきたおかげで、誰もが愛してくれる花へと変わり、今では人気の花になった。
 そんな風に良いように心変わりすることもきっと、紫陽花は分かって色が変わっていくのかもしれないと考えれば、花言葉も悪くないように思える。
 綺麗に咲く紫陽花がステラは大好きだ。
 だからこそ、庭に咲く紫陽花のことをシュウと話したいとステラは願って、その手に持つ攻性植物をツルクサに変形させて、紫陽花を締め上げていく。
 ステラに締め上げられる紫陽花だが、自身の命を脅かす存在に抵抗を示し、身体の一部をハエトリグサの様に変形させ噛みつく為に動き出す。
 自分の危惧した事件に駆け付けてくれた仲間達を護るために、渚は自分の身を挺して、蠢く紫陽花の攻撃から庇うように積極的に動いた。
 鋭い幾つもの牙が肌に刺さるが、こんなもの痛くないとでもいうかのように渚が紫陽花を一睨みすれば、雅雪が動いた。
 雨に濡れながら戦うというのも、また趣があって良いななんて考えつつ、雅雪は言葉を紡ぐ。
「自然を廻る霊達よ、人々の傍で見守る霊達よ。我が声に応え、その治癒の力を与え給え!」
 紫陽花、いやシュウの命を護るための回復。
「敵を回復するのは不本意だが、これもシュウさんを助けるためだ!」
 仲間達が折角削った紫陽花の体力を回復してしまうことの不本意さ。それでもシュウの命を護るために仕方ないと雅雪は言い聞かせるように、青蓮の木霊を施し、
「ブラックスライムよ、敵を飲み込め!」
 今度は雫紅が捕食モードに変形したブラックスライムで、紫陽花に攻撃を仕掛けていく。無残に降る紫陽花の萼も葉も、悲しく思ってしまうけれどこれも全てはシュウを助けるためなのだ。
「今は苦しいと思うけど、必ず助けるから頑張ってね!」
 紫陽花を飲み込んでいくブラックスライムを見ながら、雨に濡れる世界で雫紅はシュウへと言葉を降らせていった。

●移ろう色は何処へ
 未だに見えないシュウの姿に不安が募っていき、灰色に染まる空がそんな心に更に影を落とすかのようだ。
「螺旋の力で、内部から破壊してあげますよ!」
 螺旋を籠めたルピナスの掌が紫陽花の葉を幾つも吹き飛ばし、渚が断罪の戦鎌を大きく振り上げて叫ぶ。
「キミの魂を、簒奪してあげるよ!」
 降る雨に身を晒し、シュウを助けようとケルベロス達が自分の力を最大限に使って紫陽花を蹴散らす為に動いていた。
 庭に出来た水溜まりを蹴り上げる度に飛び散る泥。
 この綺麗な庭と家屋を壊さないようにと注意を払うステラは、紫陽花のダメージがシュウに伝わってしまうのを考えて、加減した攻撃を与えていくと紫陽花が揺れた。
 揺れた衝撃のせいか、葉の根元部分から伸びた腕がずるりと動くとそのまま黒い物が見える。
「シュウさんの頭が見えてきたよ!」
「出てきたけど、動かない……! 攻撃はボクが受け止めるから、シュウさんの回復を! ドラちゃんいくよ!」
 雫紅の声に、渚も釣られて気持ちが焦る。ドラちゃんに指示を出し、震えて泣き出しそうな紫陽花の攻撃をステラと共に渚は受け止めていく。
 痛みと、気が触れそうな感覚を振りほどいて、目の前の紫陽花とシュウの姿に集中する。
「大丈夫だ、今すぐ助けてあげるから、もう少し辛抱してくれ」
「大丈夫ですよ、わたくしはケルベロスです、必ず貴方を助け出して見せます」
 雅雪がシュウを癒して、励ましの言葉をルピナスと一緒に降らせていくが、意識がないようでシュウの反応はない。
 紫陽花に埋もれているシュウの様子を確認できないのがもどかしい。
 不安を拭うように、今度は雫紅が喰霊刀を振り上げた。
「呪詛を込めた一撃だよ、これでも食らえ!」
 美しい軌跡を描く雫紅の斬撃が、雨の雫を吹き飛ばし紫陽花を斬りつけていく。
 降り続く雨は、いつかは止む。それと同じように、自分達が出来る力で紫陽花を攻撃し、そして癒しを施していけば、必ずシュウを助けられると己を信じて、手足を動かしていくのだ。

●ハイドランジア
 肌を叩く雨に、体温と共に体力が少しずつ奪われるように感じる。
 同じように紫陽花の葉や花を叩いていく雨は、そんな風に思えなくて。
 さすが水の器とも呼ばれるだけのことはある。
 ルピナスが雨に混じらせ降らす暗黒剣を見て、渚は肌を擦った。
 仲間を庇い続けた痛みが雨の様に、体にじわりと降らせる感覚に小さく頭を振れば、心配したドラちゃんが自分を覗き込んで鳴く声が聞こえる。
 ステラも同じように肌に傷を付けていた。
「そろそろ回復したほうがいいかな」
「そうじゃのう……」
 渚の言葉にステラが頷けば、近くに来ていた雅雪が心配して声を掛ける。
「回復回すか?」
「ううん、大丈夫。シュウさんにその分回復をしてあげて」
「わかった。雫紅とルピナスは大丈夫か?」
 渚は雅雪に返事をして、心に蓄積する不安を吹き飛ばすようにと、歌を歌う。それに合わせるかのように、ステラが純白の睡蓮を咲かせた。
 二人の体がそれぞれ癒えていくのを見た雅雪は、次いでルピナスと雫紅に声を掛けていく。二人が大丈夫と頷いたのを見て、雅雪はシュウへの回復に専念していく。
 シュウの髪から零れる雫が土を濡らし、紫陽花が動くたびに振動が伝わっていくはずなのに一向にシュウは反応してくれない。
 亡き妻の元へ向かいたい気持ちが強いせいだろうか。
 愛しいと想っていた人を亡くしてしまうということは、すごく辛いことだろう……それでもシュウを死なせてなるものかと拳を握る。
「今は苦しいとは思うけど、必ず助けるから頑張ってね!」
 紫陽花に取り込まれた痛みも、大事な人を亡くした痛みも全て救ってあげたいと雫紅はブラックスライムで全てを包み込んでいった。

 食いちぎられた紫陽花の花は1朶だけ。あとは茎と少しの葉が残るのみ。
 そんな状態の紫陽花からはシュウの上半身が剥がれていた。どうやら取り込んでいる力が弱くなっているようだった。
「シュウさん、もう少しの辛抱です!」
 意識のないシュウにケルベロス達は、雨に負けないように言葉を降らせ続ける。
 ルピナスが言葉を降らせ、半透明の御業を発動させ紫陽花を鷲掴めば、降る雨を味方につけ純白の睡蓮を咲かせたステラがシュウに語り掛けていく。
 花の話を、今の話を、そして……これからの話を、降る雨が悲しみを流すようにたくさんたくさん。
 仲間達の攻撃で蓄積された回復不能ダメージが目に見えて、紫陽花を弱らせているのは誰の目から見ても明らかだ。それでも懸命に生きようと藻掻く姿は美しい物に見える。
 雅雪の回復がシュウを癒すと、紫陽花も少しだけ回復していく。それでも蓄積したダメージは補えず、声無き声を降らせるように小さな花を幾つも落としていた。
 花を降らせ、水溜まりに浮かぶ青色がまるで青空のようになり、地面と空を斬り裂くような閃光が一つ走る。
 最後の悪足掻きのような光が攻撃に出ようとした雫紅を狙う。
 身構えた瞬間、雫紅の目の前で雨が小さく弾けた。
「渚さん!」
「ボクは大丈夫だよ、このまま攻撃を!」
 閃光を受け止めた渚の姿に雫紅が名前を呼ぶ。
 呼ばれた渚は振り向かず、何でもないように雫紅に攻撃をするよう叫んだ。
 庇ってくれた渚の気持ちを無駄にしないようにと、雫紅は自身の持つ刀に膨大な霊力を注ぎ込み、振り上げていく。
「この一太刀で、全てを切り裂きます!」
 鋭い切れ味を更に強化した雫紅の夕焼けの一刀は、葉と茎を分断。
 切り裂かれた茎がシュウの頭上を落ちていく瞬間に、ステラが蔓触手に変形させた攻性植物でその茎を弾き飛ばしていき、畳みかけるように渚の断罪の戦鎌が振り下ろされた。
 残った1朶の花は、首を刎ねたかのように飛び、その身を雨粒の様な雫と変え、消え去っていくのだった。

●涙雨はやがて慈雨へ
 穏やかに優しく降り続ける雨は、静かに決着を迎えた。
 庭に横たわるシュウの元へ、ルピナスと雫紅が駆け寄り怪我の具合を確かめる。
 外傷はそこまで酷くなく、雨に濡れた体は冷たかったが、呼吸も鼓動も正常だ。
「このまま此処にいたら風邪を引いてしまうだろうから、部屋に連れていこう」
「そうですね……」
 シュウの体を持ち上げて言った雅雪に、ルピナスと雫紅が頷くと、
「ボク達は庭を」
「直すのじゃ!」
 3人を見送っていた渚が庭の修復をしようと言葉を紡ぎ、ステラが明るい声でそれを引き継ぐように言い、そんな2人に任せたよと頷いて、渚とドラちゃんとステラは戦闘で少しだけ荒れた庭を修復していく。
 いくら建物を傷つけないようにと動いていたとて、多少は荒れてしまっているのが目に入り、ステラは表情を曇らせた。
「そんな顔しないで、早くヒールしよ」
「そうじゃのう!」
 渚がステラを励ますように庭へのヒールを促せば、曇らせた表情を変えたステラは紫陽花が咲き誇る庭に温かな力を滲ませていく。

「応急手当はこんなところかな?」
「大丈夫だと思います」
 運んだシュウを部屋に横たわらせた雅雪は、慌ただしく応急手当やヒールをしていく2人を見守っていた。
 庭から時折聞こえる渚とステラの声と穏やかな雨音を聞きながら、シュウが目覚めるのを待つ。
 攻性植物と戦っていた時はあんなに冷たく感じる雨だったのに、今はもうそんな風には感じない。それは安堵感からくるものだろうか。
 そんな雨音とケルベロス達の声は、シュウの鼓膜を揺さぶり、感覚を覚醒させた。開いた瞳にはきっと見慣れた天井が映っていることだろう。
「あれ……」
 優しい雨音に吸収されてしまいそうな、掠れた小さな声は雫紅の耳に届くには十分で。
「シュウさん! 大丈夫ですか?」
 ぼんやりとするシュウに声を掛ければ、戸惑いがちな声が返ってくる。
 起き上がろうとするシュウの背を雅雪が支え、ケルベロス達がここにいる理由、そして何が起きたのかを説明すれば、
「ああ、そうだったんですね」
 悲し気にシュウは呟いた。
 あの時聞こえた妻の声が幻聴だったのは分かっていた、それでも妻の元へいけるのではと思っていたのに、こうして生かされてしまったのだから。
 妻との思い出が詰まった紫陽花の花。零れそうな雨は、シュウの瞼を熱くさせる。
 背を支え、様子を窺っていた雅雪は雨音のように優しくシュウに語り掛けた。
「例え奥さんとの思い出の花に襲われたとしても、それは奥さんの意思じゃない。奥さんは貴方に元気に生きて欲しいと思ってる筈だ」
 雅雪の言葉がシュウの胸に降る。それに続くようにルピナスと雫紅が、シュウに微笑みながら言葉を更に降らせていく。
「紫陽花に襲われたからと言って、紫陽花を嫌いにならないで下さいね。貴方と奥さんの思い出はそんなに壊れやすいものではない筈です」
 紫陽花を嫌いになれる訳なんてないんだ。
「奥さんと死別して悲しいとは思うけど、奥さんには貴方に生きていて欲しいと思っている筈ですよ」
 本当に妻はそう思ってくれるだろうか。
 言葉にならない声と嗚咽は、雨雲に吸い込まれるように消えていき、シュウは溜め込んだ想いを頬に降らせていく。
「あ! シュウ、目覚めたのじゃな!!」
 庭にいたステラが目覚めたシュウに気付いて声をあげた。
 頬を伝う雨さえも吹き飛ばすように、その瞳がくすんでしまわないようにと、満面の笑みを浮かべシュウの元へステラは駆け出した。
 大切な人を失った人の横顔を見続けた少女が本気で願う思い。
 雨を穏やかにさせてくれるステラの声もとても暖かく感じているだろう。
 ステラの背を追って部屋に向かう渚も、そんなシュウから降る雨が悲しみを全て流していくように見えたようだった。
「雨ももうあがりそうだね」
 ドラちゃんに語り掛けた渚は、光が差し込み始めた空を見上げてそう呟いた。

作者:猫鮫樹 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月28日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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