潮干狩り&BBQ!~桔梗の誕生日~

作者:ハル


 お花見の季節も気温の本格的な上昇と共に終幕に向かい、初夏の日差しが顔を出し始めた今日この頃。
「潮干狩りとバーベキューに興味はございませんか?」
 山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が、ケルベロス達に笑顔で問いかけた。
「実は私――桔梗も本日誕生日を迎え、18歳となりました。日頃から出不精であり、日の下にあまり出たことのない私です。加えて今まで、依頼以外で皆様との交流もあまりできなかったのですが、このままではいけない! そう思い立った結果、思い切って私の誕生日会兼交流会を開催する運びとなりました! 皆様是非いらしてください!」

 全ては縁側でお茶を飲みながら桔梗が新聞を捲っていると、『潮干狩り最盛期!』という一文を目にした事から始まった。
「私は海を眺めるのが好きなのですが、まだ海水浴には一足早いですよね? ですが、潮干狩りはまさに今がベストの時期だと知りまして、皆様と一緒に潮干狩りができれば、きっと楽しいだろうな……そう思った次第です」
 場所は、神奈川県横浜市。干潮前後の海辺だ。
 潮干狩りに後は、海辺でバーベキューを開催する予定。
 砂抜きした取り立ての貝類はもちろん、肉類も用意されており、その他炭火で焼きたい食材などがあれば持参は自由。
「持参物については、熊手、バケツ、長靴など基本的なものは用意しております。ただし、クーラーボックス、マリンシューズなどの利便性の良い物、女性の方は日焼け止めなど必要があればお持ちください。初夏の兆しを感じながら、爽やかな潮の香りを満喫しましょう!」


■リプレイ

●交流会へようこそ
「桔梗さん、誕生日おめでとう」
 潮風に靡く紅い髪を片手で抑えながら、碧が誕生日ケーキを桔梗に手渡す。
「まぁ~、私のためにわざわざ用意してくださったのですか!? ありがとうございます! 大切に頂きますねっ!」
 それを宝物のように受け取った桔梗は、瞳を輝かせながら大いに喜んだ。
(「やべっ、すっかり忘れてたぜ。そういえば誕生日……だったんだな」)
 碧と一緒に、桔梗へ招待の感謝を伝えようとしていたミツキは、そこに来てようやく今日の趣旨の一つを思い出し、さすが碧だなと、感心していた。
「おめでとうな、桔梗」
 それでも表面上は、さも初めからそうするつもりだったという風に、笑顔で祝いの言葉を口にする。
「キサラギさんも、ありがとうございますね」
 幸いにして、桔梗がミツキの心中について気付いた様子はまるでない。彼女にしてみれば、この場に集まってくれた事自体が、すでに誕生日プレゼントのようなものであるからだ。
 桔梗はケーキの箱を胸前で抱えながら招待客の方を振り返ると。
「もし潮干狩りについて分からない事などあれば、私に遠慮無く聞いてくださいませ。ヒヨっ子ではありますが、経験者として知っている限りの事をお教え致します!」

 ――それでは皆様、潮干狩りとバーベキューを始めましょうか。

 桔梗の開幕の合図と共に、集まった者らが歓声を上げる。
 参加者達は桔梗から貝類を入れる網袋を受け取ると、思い思いの場所へと熊手を手に向かうのであった。

●ユタカ&レオンの潮干狩り
「拙者、潮干狩りは初めて故、頼りにしておりまするー」
「とはいっても、僕も数えるくらいしか……レジャー目的だと初めて、かなぁ」
 良さげな場所を散策しつつ、ユタカとレオンが言葉を交わす。
「桔梗さんにレクチャーを受けた方が良かったんじゃない?」
「いえいえ、ご謙遜を! レオン殿の手腕、このユタカは信じておりまするゆえ!」
「無駄にプレッシャーをかけてくるねぇ」
「えへへっ、それだけ拙者がレオン殿を信頼しているという表れでござー」
「……信頼、ねぇ」
 海の感触を確かめる様に、弾むようステップを踏んで水飛沫を上げるユタカ。そうする度に前髪が跳ねてチラリと覗く彼女の鮮やかなシトリンの瞳には、キラキラとした無邪気が宿っている。
 無事に貝が取れればよし。成果が乏しくとも、それもまたおいしいと思っているのだろう。
 レオンは苦笑を浮かべ、
「まっ、とりあえず。ほら、麦わら帽子。潮干狩りって日陰に入れないから」
「おぉ、麦わら帽子ありがたく!」
 ポンッと、ユタカの頭の上に麦わら帽子を乗せる。
「似合うと思って用意しておいた」
 続くレオンの言葉に、ユタカはその麦わら帽子を両手で抑えながら、ニヘラとだらしなく相好を崩す。
「さて、この辺かな」
「了解でござる!」
 しばらくして、レオンが目星をつけたポイントにて、二人は潮干狩りに興じる。隣り合ってしゃがみ込み、熊手で砂浜を探る。天気が良いため、水中はある程度はっきりと見えた。
「おぉ、これはもしや!」
「あさりだね。おめでとう――っと、こっちにもあった」
 始めてから数分で、あっさりとユタカが、そして続けざまにレオンもあさりを発見する。
「あさりを眺めていると、赤だしの味噌汁やパスタなどが浮かびまするな! 折角故、今度レオン殿にご馳走致しまする!」
「君の手料理は初めてだから、楽しみだね?」
「……ん? あれ、初めてでござったか」
 網袋を一杯にしながらテンション高くユタカは語るが、レオンの返答に彼女は一瞬だけポカンとする。
 だが同時に、フツフツとやる気が湧き上がってきたのか……。
「それではなおさら気合を入れねばなりませぬな! 期待してくだされ!」
「そうさせてもらうよ」
 そう、力強く宣言するのであった。

●【肉食男子会】の潮干狩り。
「いやー潮干狩りとか初めなのだぜ。でも、それでも結構取れるもんなんだねぇだぜ……」
 タクティが見つけた貝に付着する砂をザルで濾すと、あさり以外の貝も混ざっていた。
「これ、ハマグリだぜ?」
「……今のところ沢山とれて、順調ですね」
 大ぶりのそれをタクティが青空に翳すと、零がゴクリと生唾を飲み込んだ。
「それにしても海辺で宴会……ついこの間やったような気もするんですが――」
 宵一が、採取が禁じられている2㎝以下の稚貝を選別しながら思う。潮の香りと波の音を聞いていると、何か宵一の胸を打つものがあると。暴れた記憶に混ざり、モフモフと寿司とプリン……そんな単語が、曖昧ながら宵一の脳裏を過るのだ。
「……あー、確かにやってましたね。……まぁ、宴会なんて何度やってもいいものなんですし、気にしない方向で行きましょ? ……それにしても、あれも今年の出来事ですか、時が過ぎるのは早いものです」
 気が付けば、もう一月もすれば一年の半分が経過する事となる。零は海の中に手を浸しながら実感する。あれだけ冷かった飛沫が、それなりに心地よく感じる季節になった事を。
 ――と。
「うおっー、ミミックのエクトプラズマが輝いているのだぜ!」
 タクティの大声に、宵一と零が視線をそちらへ向ける。
「これを見てくれだぜ! ミミックの中に、ハマグリがゴロゴロしてるんだぜ!」
 なんと、タクティの抱えるミミックの中には、まるで宝物のように大量のハマグリが!
(「良かったです。今日は最初から平和に……平和に? 参加できますね」)
 幸先の良いスタートに、宵一が尻尾を振る。
 しかしそんな彼の気持ちとは裏腹に、零とタクティの瞳は怪しく光っているのであった。

●ミツキ&碧の潮干狩り
「水温は――っ、まだ少しだけ冷たいかしら」
 サンダルの爪先を海水に浸した碧の身体がビクッと震える。しかしその表情は笑顔であり、冷たさすらも楽しんでいる風であった。時期的には初夏なれど、さすがにまだ少しばかりの冷気が辺りを包んでいた。
「だな。にしてもこの所、寒暖差が激しいな。そのおかげで潮干狩りしてる人も今の時期にしては少ないらしいが……寒くないか、碧?」
「大丈夫よ。天気もいいからね」
 碧とミツキは、互いにサンダルにショートパンツやハーフパンツ、上着を組み合わせた装い。
 パーカーを脱いで貸そうとするミツキを、碧が制する。
「なら、お互いに初体験の潮干狩りと行くか。桔梗の説明を聞くに、少し沖に出た辺りがいいポイントだって言ってたな」
「浅瀬にある貝は熟練者の人たちにもう採り尽くされているらしいわね」
 情報を頼りに、ミツキと碧が沖の方向へと歩く。
 今は大潮の日の干潮時。
 どこまでもずっと浅瀬が続き、普段は干潮時でも首元まで海水が寄せるポイントでも、膝までしか海面がやってこない。
「――えっ? ……わっ、見て! ミツキくん!」
「うぉっ、すげぇなぁ!!」
 碧が沖の適当なポイントで、何気なく熊手でザックザックと砂を掘り返してみる。すると掘り返す度に、あさりやハマグリが面白いように採れた。
「こっちもすごいあるぞ、碧!」
 釣りと同じで、潮干狩りも採れれば非常に面白い。
 さすがシーズン最盛期。ある種の入れ食い状態に、ミツキと碧が興奮を見せる。
「確かこうするんだったなよな?」
 ある程度採取した頃に、ミツキが両手に持った貝同士を打ち付けてみる。
「本当に音が違うのね。不思議だわ」
 打ち付けた時の音が高ければ貝が生きていて新鮮な証であり、逆に音が低ければ貝が死んでいる――という話だ。
 ともあれ、実際に貝によって音に違いがある事実に、碧が目を丸くする。
「採れた貝はBBQに使うのもいいな」
「もちろんそのつもりよ。ちょっと工夫して調理しようと思うから、楽しみにしててね?」
「ああ、今から楽しみだ」
 ミツキと碧が顔を見合わせて微笑み合う。
 二人はその後も、しばし潮干狩りを楽しむのであった。

●ユタカ&レオンのBBQ
 バーベキューコンロの中で熾った炭火が、バチバチと爆ぜる。
 バーベキュー用に誂えられたキャンプ場並みの施設からは、当然のようにさっきまでケルベロス達が満喫していた砂浜が一望でき、海水が陽光によって照らし出されていた。
「レオン殿、トングの装備は宜しいか!?」
 そんな絶景を眺めながら皆でコンロを囲む中、待ちきれず幾度もトングを開閉させるユタカが、卓上に並べられたお肉に瞳を輝かせている。
「もちろん。準備は抜かりなく、ね」
 レオンが不敵に笑ってトングを軽く掲げると、「さすが、やるでござるな!」ユタカが楽しそうに笑った。
「ともかく、まずはお肉でござりますな。火の加減も丁度良いようでありますし――それ、投入でござー!」
 ユタカが網の上に次々と肉を並べていく。
「た、たまらないでござるー!」
「そんなに一気に焼くものじゃないよ、君。あと、野菜も焼かないと」
「肉、肉、野菜、肉の要領でござるな!? お、そのトウモロコシもそろそろ良さげでござるな」
「もう少し野菜の比重をだねぇ。――あ、玉ねぎ焦げてる」
 バクバクと物凄い勢いで肉を消化していくユタカ。
 レオンもそんな彼女に後れを取らぬよう、シレッと自分の肉を確保しながら、ユタカの皿に玉ねぎを筆頭とした野菜を乗せていく。

 と、その時。

「レオン殿も早く食べねばなくなりまするぞ?」
 何の躊躇もなくユタカが、レオンの皿からキープしておいた肉を横取りする。
「……………………お肉が消えてるんだけど、これはどういうことですかな???」
 思わず一瞬絶句するレオン。
「いやぁ、レオン殿の焼いてくれた肉は美味いなぁ」
 そんな彼をまるで挑発するかのように、ユタカがサムズアップと共に素晴らしく良い笑顔を浮かべた。
「――よろしい、宣戦布告とみなす。食べ物の恨みは恐ろしいと知るといい。三倍返しだ」
 レオンはユタカに負けず劣らずの良い笑顔で返す。ただし、その銀の瞳は些かも笑ってはいない。
「レ、レオン殿! そぉ、それは拙者のお肉でござー! ズルいでござるー!」
「どの口が言うんだい、君。僕がキープしていたお肉を食べたこのお口かな?」
 レオンがユタカのお皿から強奪した肉を頬張る。
 ユタカは懸命に手を伸ばしてそれを阻止しようとするが、プニッとした感触の頬をレオンに痛くない程度に抓まれ、押し止められていた。
 その後も二人の不毛な争いは、いつの間にかどちらからともなく発せられた笑い声と共に、海辺でしばし続いた。

●【肉食男子会】の肉!貝!祭り
「さてさて、BBQの時間なのだぜ! 宵一、零……貝の砂抜きの状況はどんな感じなのだぜ?」
 大ぶりのハマグリを網の上に並べながら、自然と零れそうになる涎を堪えるタクティが問いかける。
「50℃のお湯で砂抜きすると早い……そう聞いていたので俺の方は順調に。上野さんの方は――」
 答えながら、宵一が振り返った。そこには、白の長髪を青空に映えさせる零の後ろ姿が。
「……あぁ、すな抜きは確かこう……こうでしたっけ……?」
 何やら小声でブツブツと呟きながら、零は若干苦戦している模様。
 タクティと宵一は顔を見合わせると、彼らしいと苦笑する。
「俺は少し上野さんのお手伝いをして来ますね」
「ああ、任せるのだぜ!」
 宵一が、零の元へと駆け寄る。
 こうした何気ない出来事が、意外と良い思い出となる。タクティはそう感じながら、炭火に炙られ凝縮された旨味を噴き出すハマグリに視線を戻した。

「さぁ、行きますよ?」
 宵一がクーラーボックスに入れて持参しておいたのは、新鮮密封ボトル出汁醤油と白おむすび。刷毛で白おむすびに出汁醤油を塗って網の上に乗せた……その瞬間!
 ジューという食欲をそそる心地よい音を奏で、煙が上がる。
「おぉっ……!」
「……これは、強烈ですね」
 その食欲中枢を刺激する醤油と炭火特有の香ばしい匂いに宵一は仰け反り、たまらず零のお腹がグーと喝采を上げる。
「……ハーロットさんの方は何を?」
「よく聞いてくれましただぜ、零! 小さなアサリは酒蒸しにしようと思って、フライパンと蓋を持ち込んでおいたのだぜ」
 一方、タクティはハマグリの隣でフライパンを熱していた。
「まずはしょうがとにんにくで香り出しだぜ。それからメインのあさりを加えて、酒を振って蓋を……と!」
「……なんだか凝っていますね」
 零は右から左から、目移りしてしまう。
「まだまだ序の口なのだぜ? バター風味とか、いろいろ味付けを変えて用意するつもりなのだぜ。アサリは皆で大量に採ったからな! あと、おーい、宵一! ハマグリがいい感じに焼き上がったみたいだから、出汁醤油借りるのだぜ?」
「はい、是非使ってください!」
 タクティが、宵一から受け取った出汁醤油をハマグリの貝殻に垂らす。ハマグリのスープと混ざり合ってグツグツと泡立つそれに、
「出来立てを頂きましょう」
 宵一の、もう我慢ならないといった僅かに上擦った声色を合図に、三人は一斉に飛びついた。
「……っっ……!!」
「これは……っ!!」
「くぅ~、たまらんのだぜ!!」
 スープを堪能し、それから熱々の貝をゆっくりと味わう様に咀嚼する。零が衝撃を受けたように硬直し、宵一が目を見開いた。タクティは思い通りの味に仕上がったそれに、何度も膝を叩いている。
「……網焼きも良いですし、バター風味も美味しそう」
 出汁醤油の次は、ハマグリもバターで試してみようという流れとなり、零が溶けるバターをじーと眺める。
 だが、ふと零はある事を思い出し、口を開いた。
「……そういえば野菜類も持参しといたので、色々焼いてみます? 栄養も大事でしょうから」
「気が利くのだぜ。あ、だったら野菜こっちにも頂戴――酒蒸しちょっと多めに盛るからさーだぜ」
「……どうぞどうぞ」
 タクティが、器に野菜と一緒に酒蒸しを盛り付ける。
「この焦げ目はやばいですね。上野さんにハーロットさん、お待たせしました。焼きおにぎりが出来上がりましたよ」
 タイミングを同じくして、宵一が焼きおにぎりの完成を宣言した。
「いやー、やはり醤油と貝類はご飯の最高の友ですね」
「んーやっぱりこう、ワイワイしながら食べるのはより一層美味く感じるよね……」
 焼きおにぎりの上にバター焼きのハマグリや酒蒸ししたあさりを乗せて、宵一達は舌鼓をうつ。宵一のパタパタと振り回される狐耳と尻尾が、言葉以上にその味を雄弁に語っていた。タクティも、『また一緒に美味しいもの食べに行く』……かつて自分が発した言葉を思い出しながら、しみじみと呟く。
「……そうですね。【肉食男子会】として、またどこかへ食べに行きましょう」
 だが、平和だったのはそこまで。
「ペース早すぎなのだぜ?!」
「上野さん、いつの間にお肉にまで手を付けていたのですか!?」
 貝、野菜のみならず、気づけば零が肉にまで手を出し始めており、タクティと宵一が仰天する。
「……?」
 その一向に衰える事のない零の喰いっぷりに対抗するように、三人のBBQはさらに過熱するのであった。

●ミツキ&碧のBBQ
「それ、飯盒か?」
「そうよ。さっき話していた通り、アサリを使った料理を作ろうと思ってね」
「という事は――」
 飯盒の準備をする碧の様子を伺っていたミツキの脳裏に、彼女が作ろうとしている料理のおおよその検討がつく。
 だが、わざわざそれを口にしたりはしない。楽しみは、後に取っておいても損はしないだろう。
「それじゃあ、そっちは碧に任せるぜ。俺は貝の砂抜きとか食材の下拵えをやる事にするか」
「お願いするわね。あっ、砂抜きが終わったら、串打ちもお願いしようかしら」
「了解だ」
 ミツキと碧は、炊事場で横並びになりながら作業を行う。ミツキがアサリを擦り合わせる様にして洗い、塩水に浸す。その間に碧は、飯盒の中に研いだ米と調味料を投入していた。
「よし、砂抜きは大丈夫みたいだぞ」
「なら、飯盒の中に入れちゃいましょう」
 ややあって砂抜きが終わると、碧が飯盒を炭火の上にセットする。
 碧が切った肉や野菜にミツキが軽く調味料を振り、二人で串に刺す。
「こうしているとなんだか……アレね」
「……だな」
 なんとも言えない気恥ずかしい雰囲気に碧が呟くと、ミツキは軽く自分の頬を掻いた。
「まっ、とりあえず焼くか!」
「そうしましょ! でもミツキくん、メインの前にお腹一杯にしちゃダメよ?」
「分かってるよ」
 飯盒ご飯が炊きあがる40分の間、ミツキと碧は串打ちした食材を焼いてその味を堪能しつつ、初体験だった潮干狩りの感想を語り合った。
 やがて――。
「どう? あさりご飯よ、ミツキくん」
 上手く炊き上がったあさりご飯を碧が茶碗に盛り付け、ミツキに差し出す。
「おおっ! 旨そうだ。早速二人で食べようか」
 それを笑顔で受け取ろうとしたミツキ。
 だが、ヒョイッと碧がその手を避けた。
「ん?」
「せっかくだから、私が食べさせてあげようかしら?」
 ポカンとするミツキに向け、どこか悪戯っぽい表情で碧が小首を傾げている。
(「こ、この流れは……!」)
 バレンタインデーを思い出し、ミツキが警戒する。
「はい、あーん」
「あ、あ~ん」
 だが、そうと知りつつ乗らざる得ないのが男。
 箸に山盛り乗せられたあさりご飯を前に、ミツキが大口を開けた。
 焦らされても、そうでなくとも、きっとその先には幸福な一時が待っている。

 ――うん、とっても美味しいな。

 ミツキは、言うべきたった一つの真実を準備するのだ。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月6日
難度:易しい
参加:7人
結果:成功!
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