コンビニの雑誌売り場。学校帰りだろう、真新しい制服に身を包んだ男子高校生が週刊の漫画雑誌を立ち読みしていた。
「いやー、やっぱ漫画は王道のバトル物に限るね!」
胸躍る展開に興奮しながらページをめくる。
「そう……自らの正義の為に戦い、勝利する。これこそが大正義!!」
男子高校生はいつしか全身羽毛に覆われ、大正義ビルシャナへと姿を変えていた。
●会議室にて
個人的な趣味趣向による『大正義』を目の当たりにした一般人が、その場で、ビルシャナ化してしまう事件が発生する。と黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はケルベロス達に連絡を入れた。
連絡を受けたケルベロス数名が集まると、ダンテは説明を始める。
「ビルシャナ化するのは、その事柄に強いこだわりを持ち、『大正義』であると信じる、強い心の持ち主っす」
このまま放置すると、大正義の心でもって、一般人を信者化し、同じ大正義の心を持つビルシャナを次々生み出していく為、その前に撃破する必要がある。
「大正義ビルシャナは、出現したばかりで配下はいないっす。けど周囲の一般人が大正義に感銘を受けて信者になったり、ビルシャナ化する危険があるっす」
大正義ビルシャナは、ケルベロスが戦闘行動を取らない限り、自分の大正義に対して賛成する意見であろうと反論する意見であろうと、意見を言われれば、それに反応してしまうようだ。その習性を利用して、議論を挑めば、周囲の一般人の避難を行う時間が稼げるかもしれない。
だが、賛成意見にしろ反対意見にしろ、本気の意見を叩きつけなければ、ケルベロスでは無く他の一般人に向かって大正義を主張し信者としてしまう。
「議論を挑む場合は、本気で挑む必要があるっす」
現場となるコンビニには、店員と客合わせて10人。大正義ビルシャナが居るのは雑誌売り場。となれば出入り口のすぐ近く。如何に大正義ビルシャナの気を出入り口から逸らすのかも重要になりそうだ。
「避難誘導時に『パニックテレパス』や『剣気解放』とかの、能力を使用したら大正義ビルシャナが『戦闘行為と判断してしまう』危険性があるっす。できるだけ能力を使わずに避難誘導するのが望ましいっす」
大正義ビルシャナは、バトル物の漫画の主人公に強い憧れを抱いている。共感して議論してもいいし、あえて別のジャンルを薦めようと議論するのもいいだろう。
「敵はビルシャナ化したばかりで、戦闘力はそれほど高くはなさそうっす。使うグラビティも特別なものはないっす」
大正義ビルシャナは強い心でビルシャナ化した為、説得して一般人に戻す事は出来ない。気の毒だが、一般人に被害が出る以上倒すしかない。
「悪に堕ちた相手を止める為戦うってのも、なんだかバトル漫画っぽいっすね」
ダンテはそう締めくくり、よろしくっすと頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
倉橋・十三(インドア趣味のアウトドア野郎・e77761) |
藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754) |
エレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280) |
ジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーよんさい・e79329) |
●バトル漫画が少年の心を揺さぶる
「王道バトル物ですか。少年の心を掻き立てるでしょうね」
呟くジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーよんさい・e79329)の視線の先には、コンビニで立ち読みしている学生の姿。胸躍る展開に目を輝かせて漫画を読んでいる。
「正義を愛する心があるのに、悲しいなあ」
これからビルシャナ化してしまう男子高校生を見つめ、藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754)は悲しそうな表情を浮かべた。
「ビルシャナとはとても珍妙な相手ですが、その教義に殉じる心の強さは油断できません。例えその教義が良く分からないものでも……」
手心を加えたりしないでくださいね。とエレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)は注意を促した。
エレインフィーラが単身コンビニへと入っていく。買い物客を装い店内を歩き、やがてレジの店員の前へ。
「私、ケルベロスの者です」
口元に人差し指を当て、店員に静かに聞くよう促しながら、事情を説明し始める。
「これからここで、戦闘になります。私が合図したら、お客の避難を手伝って貰えますか?」
「はい……わかりました」
「おー、エレインフィーラさんの方は上手くいってるみたいっすね。後はこっちの作戦に乗ってくれるといいっすけど」
コンビニの外で様子を見ていた、倉橋・十三(インドア趣味のアウトドア野郎・e77761)は店員の協力を得られそうで安心した。
――様子を窺う事10分。
「いやー、やっぱ漫画は王道のバトル物に限るね!」
雑誌のページをめくりながら、男子高校生が呟く。
「そう……自らの正義の為に戦い、勝利する。これこそが大正義!!」
男子高校生の様子がおかしくなり、ビルシャナ化が始まっていく。手元から雑誌が地面へと落ちるその間に、男子高校生の身体は全身羽毛に覆われ、大正義ビルシャナへと姿を変えた。
作戦を開始する為、ケルベロス達はコンビニの中へと歩き出す。
「さて、ちょっとしたヒーローショーといきますかね」
「悪の手先出動っす」
「戦いを勝ち抜き、己の正義を通したり……全力でぶつかり合うことで培われた友情。素晴らしいです……だが、妹(二次元)もいいですよ?」
『えっ?』
作戦内容の食い違いに、3人は顔を見合わせ驚くのだった。
●悪者登場!
今更作戦の練り直しを行っている暇はないと、やれることは全部試すことにした。
「悪の秘密結社オリュンポスの新入社員、藤堂・武光っ、堂々猛る野望を引っ提げここに見参!」
悪人の雰囲気を出し、武光は名乗りをあげる。
「あっ、悪者っす! 助けて鳥さん、皆の避難は自分がやっとくっすよ~!」
「そうかっ、ならば避難は君に任せよう!」
『ザ・フライマンのマスク』を被り、十三は正義の味方に助けを求める感じに大正義ビルシャナへと声をかけた。
上手い事思惑にのった大正義ビルシャナが武光と対峙する。
「悪者め! この私がいる限り、人々に手出しはさせないっ!」
大正義ビルシャナの気が一般人に向いていないことを確認したエレインフィーラは、店員に合図を出す。
「ここは危ないので慌てず逃げて下さい」
店員と協力し、客をコンビニの外へと誘導していく。
「少年から大人に変わらないといけないんですよ」
体操服にブルマ姿で、大正義ビルシャナの元へと向かうジルダリア。
「もう高校生なんだから、せめてラブコメとかにしてよお兄ちゃん!」
小柄で童顔なこともあり、若作りで高校生に見えるだろうとのこのチョイスだが……。大正義ビルシャナを見つめながら、やはり無理があったかなと思い始めたころ……。
「君、こんな所に居たら危ないぞ! さあ、早く非難するんだっ!」
「えっ? えーーっ?」
完全に正義と悪の戦いモードに入っている大正義ビルシャナは、ジルダリアを一般人と勘違いして、避難する人たちの中へとジルダリアを押し込んだ。
「正義など下らん。力の前では無力っ。跪き許しを乞えば見逃してやろう! 我らがオリュンポス万歳! 大首領万々歳!」
自らの力を見せつけるように冷凍食品コーナー付近で暴れる武光。
「やめろっ! そんなことしようとも、私は悪には屈さない!」
「ならば止めて見せろ! ははははははっ!」
「まて!」
避難が終わっているのを確認し、コンビニの外の駐車場へと移動する武光を大正義ビルシャナが追う。
外には避難を終え、待ち構えている十三、エレインフィーラ、ジルダリアの姿。
「避難は終わったんだな。なら力を貸してくれ。一緒に正義の為戦おう!」
「正義、じゃないっす。悪の味方、ドクロ・アクドイゾー見参っす!」
先程までのマスクを脱ぎ捨て、ガイコツマスクを被り『ブラックスライム? テケリちゃん』を身に纏うと、悪の名乗りをあげる十三。
「なに……私を騙していたのか!?」
「騙すのは悪の常套手段っすよ」
「ここはひとつ、ノリなるものに興じてみましょうか」
エレインフィーラは周りに合わせようと、深呼吸を一つ。
「軟弱な正義ですわね。それで何を成す心算かしら?」
女王様然とした態度で、見下すように言い放つ。
「残念ですけど、私もこっち側なんですよ、お兄ちゃん?」
避難させたはずのジルダリアまでもが、大正義ビルシャナの前へと立ちはだかる。
「くっ……私はまんまと罠にはまったわけか……。だが、ここでやられる訳にはいかないっ!」
どう見ても危機的状況。しかし大正義ビルシャナは絶望するどころか闘志を漲らせていた。
「オリュンポスに逆らう愚か者めっ。死ねい!」
●己が正義の為に
「さあ、行きますわよ?」
真っ先に蹴りを繰り出すエレインフィーラ。戦闘が始まると同時、顔の左側には仮面の様な氷が現れていた。
「くらえっす」
「なんのこれしき」
様子見を兼ねて手加減攻撃を繰り出す十三。大正義ビルシャナは身を翻しそれを躱す。
「これは避けられますか?」
ジルダリアが掌から鋭い氷を放つ。
「疾れ鉄拳ブゥストッ、ナックル!」
大正義ビルシャナが放たれた氷を受け怯んでいる隙に、武光はガントレットに内蔵されたジェットエンジンを点火。急加速からの高速の拳。
「うわあああああああっ!」
拳が大正義ビルシャナの腹へとめり込み、その衝撃で吹き飛んだ大正義ビルシャナはコンビニのガラスを破り陳列棚を薙ぎ倒していく。
「やば、やりすぎた……」
「コンビニがめちゃくちゃじゃないっすか」
漫画でも戦いで吹き飛ばされて建物を壊すなんてことはよくあるが、ケルベロスとしては直せるからと言って、不用意に建物に被害を出していいわけじゃない。今回は悪役という事で大目に見てもらおう……避難が終わっていて本当に良かった。
「くっ……なんて力だ」
崩れた商品の山から大正義ビルシャナが姿を現す。
「くらえっ! 八寒氷輪!!」
「当たりません。これはお返しですわ」
飛来する氷の輪を躱し、エレインフィーラがガネーシャパズルを取り出す。パズルから解き放たれた稲妻が竜の姿を象り大正義ビルシャナに襲い掛かる。
「うおおお!?」
稲妻を浴び、意識が朦朧としている大正義ビルシャナに十三が駆け寄っていく。そのまま掴みかかると、コンビニの外へと投げ飛ばす。
「冷たき北風よ、唸り逆巻き……かの者を氷の帷に閉じ込め給え」
駐車場に投げ出された大正義ビルシャナに向かって、ジルダリアが詠唱を開始。凍えるほどの突風が巻き起こり大正義ビルシャナの体力を奪っていく。
「まだだ……悪に屈してなるもの……かっ!」
「いい度胸だ……悪意の炎、食らえーっ!」
「孔雀炎!」
武光と大正義ビルシャナの炎が同時に放たれる。2つの炎が激しくぶつかりあい、混ざると火柱をあげ……やがて消滅した。
「なんだ……? 体が凍り付いていく……」
「うふふ、私の吐息はすべてを凍てつかせますわよ?」
「凍るのが嫌なら燃やしてあげます」
ジルダリアが武器を振るうと、今度は大正義ビルシャナの身体が突然燃え上がる。
「稲妻蹴り悪色重力落とし!」
大正義ビルシャナがもがく中、上空に飛び上がっていた武光が掛け声と共に、虹をまとい急降下蹴りを浴びせた。
●戦いの果てに
「おらららららららららっ!」
「てりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」
パンチキックの応酬を繰り返す、大正義ビルシャナと十三。空中で放たれたお互いの蹴りが交差する。そして、距離を開け着地。
「はぁはぁはぁ……悪にしておくには勿体ないな」
「はぁはぁ……そっちこそビルシャナになるなんて残念っす」
違う出会い方が出来てたならと思わなくもない。しかしこうして敵同士として出会ってしまった。
ならせめて……ただ倒すだけでなく、憧れたバトル漫画の展開を少しでも体験させて満足させてあげよう。
こうして長く続けた戦闘も終わりが近い。なぜなら、見るからに大正義ビルシャナの限界が近いのだ。
「ほらほら、制圧してしまいますわよ? もっと抵抗して見せなさいな?」
エレインフィーラは自分の周囲に吹雪を生み出し、僅かばかりの傷を癒していく。実力差を見せつけるように……。
「私の力ではどうにもできないの……か」
膝をつき項垂れる大正義ビルシャナ。ケルベロスとして、敵に勝利を味合わせることまでは出来ない。
「嵐を呼ぶ! 必殺! ガイコツ・キイィ~ック!!」
「冷たき北風よ、唸り逆巻き……かの者を氷の帷に閉じ込め給え」
「このっ、正義が悪に屈してどうするーっ! 燃え上がれ悪の炎っ、人の悪意が形と成して、今、出づるは野望の槍! 悪の皆様お待たせしました待望の征服合体! 悪逆非道ランス、突撃ぃ~!」
「うあああああああああああ!」
「私は負けたのか……」
ケルベロス達の攻撃に倒れ、空を眺める大正義ビルシャナの元に十三が歩み寄る。
「戦いとは非情なんす。負けることの許されない正義も勝つばかりとは限らないっす! 覚悟と実力をつけてから、せめて他人に惑わされないようになってから正義の味方になるんすよ」
「今度生まれ変わるときは、本当の正義の味方になっていることを祈るよ」
「そうなれたら……いい……な」
十三と武光に看取られ、大正義ビルシャナはこの世を去った。
「大変お騒がせ致しました」
コンビニの店長だろう人に頭を下げるエレインフィーラ。その声に慌てて十三と武光も合流すると、急いでコンビニの修理を始める。
建物自体の修理から、陳列棚を起こし商品を並べるまで手分けしてこなしていく。
正義の味方も結構しんどいもんだと思うケルベロス達だった。
作者:神無月シュン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年5月2日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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