グランドロン迎撃戦~悪の芽を摘む

作者:天枷由良

 大阪城。
 地球に在って地球ならざる場所。攻性植物の本拠たるユグドラシルの一端。
 その生い茂る邪悪の下に、エインヘリアル第二王女・ハールの呼び掛けで集ったのは、リザレクト・ジェネシスの戦いで分かたれた五つのグランドロンと、有力なデウスエクス達。
 ダモクレスの進化を目論む科学者、ジュモー・エレクトリシアン。
 自らをマスタービーストの継承者と称する螺旋忍軍、ソフィステギア。
 寓話六塔の座を虎視眈々と狙うドリームイーター、第七の魔女・グレーテル。
 女性の地位向上を旗印に戦い続ける、エインヘリアル第四王女・レリ。
 本来相容れぬはずの彼女らは只々互いを利用する為だけに、刃でなく顔を突き合わせ、攻性植物と第二王女ハールを主軸とする同盟を組むに至った。
 そして彼女らの次なる作戦は、定命化の危機に瀕するドラゴンの懐柔。
 策謀は正しく根の如く、大阪から竜の座す城ヶ島へと伸び始めている。

●ヘリポートにて
 数百名のアイスエルフや、それ以上のコギトエルゴスムが確保されると共に、エインヘリアル第二王女・ハールを含む複数勢力に関する、新たな情報がもたらされた。
「大阪城に多数のデウスエクスが集結するようなの。ダモクレス、螺旋忍軍、ドリームイーター……そして、攻性植物とエインヘリアル。これだけ揃って、何もないはずがないわね」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は語り、手帳を捲る。
「デウスエクス同盟の中心であるエインヘリアル第二王女ハールと攻性植物の狙いは、竜十字島のドラゴン勢力をも仲間に引き入れること。そのために、彼女らは『限定的な始まりの萌芽』を起こして、ドラゴンの拠点である城ヶ島をユグドラシル化させようとしているわ」
 それは、ドラゴンたちを苦しめ続けている定命化への対策になるらしい。万が一にでも彼らが定命化を克服するような事があれば、その強大な力は容赦なく地球を攻めるだろう。
「事態が深刻なものとなる前に、同盟の企てを打ち破らなければならないわ」

 限定的な始まりの萌芽を再現する為には、莫大なグラビティ・チェインを注ぎ込んで成長させたユグドラシルの根を、大阪城から城ヶ島まで導かねばならないらしい。
 そこでハールは、奈良、伊勢、浜松、静岡、熱海の五ヶ所に向けて大阪城からグランドロンの欠片を飛ばし、グラビティ・チェインの注入を行うつもりのようだ。
 各地域には、作業中に無防備状態となるグランドロンの防衛を担うデウスエクス達が派遣されている。注入完了までの三十分強で彼らを撃破、或いは撤退させ、三ヶ所以上でグラビティ・チェインの注入を阻止できれば、敵連合の作戦そのものを封じられるだろう。
 また、無防備なグランドロンの外壁を攻撃して内部へと侵入すれば、妖精八種族のコギトエルゴスムの救出、コア部分にいるであろう有力敵の撃破なども狙えるかもしれない。

「……大掛かりな戦いに見えるけれど、グラビティ・チェインの注入を阻むだけなら、それほど難しくはないかもしれないわ」
 ミィルは語り、敵戦力を記した地図と共に言葉を継ぐ。
「奈良の第二王女、伊勢のダモクレス、浜松のドリームイーター、そして静岡の螺旋忍軍。彼女らは皆、作戦を成功させようと考えつつも、自勢力の損失は抑えたがっているはず。ケルベロスの猛攻撃を受ければ無理せず撤退を図るでしょう。そうするつもりがなさそうなのは……熱海で第四王女の軍勢と合流するドラゴンくらいじゃないかしら。彼らは何としてでも、定命化の影響を和らげたいでしょうから」
 とはいえ、熱海だけがグラビティ・チェインの注入を終えても仕方ない。
 五つのうち、三つを止めれば敵の作戦は失敗するのだ。
「何処にどれだけの戦力を送り、何を目的として戦うのか。それをよく考えて作戦に臨むことが、一番重要になりそうね」
 ミィルはそう結んで、説明を終えた。


参加者
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
空野・紀美(ソラノキミ・e35685)
名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ

●潜伏
 宝瓶宮グランドロンの“破片”の一つ。
 砕け壊れた部分を本来の持ち主でない者達が取り繕ったからか、歪な形をしたそれは浜松の空に辿り着き、護衛部隊を次々と降下させていく。
「あのまま着陸するみたいね」
「ええ」
 双眼鏡を除けつつ言った遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)に、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)がテレビウムの頭を軽く押さえながら答えた。
 彼らの伏す場所から“破片”まではそれほど離れていない。
「予測通りでありますな」
 テレビウム“フリズスキャールヴ”と一緒に屈むクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)が称賛を送れば、アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)は地形分析の成果を誇るでもなく、ビハインド“アルベルト”を抱き寄せたまま微笑み返す。
 此処で着陸完了を待ち、敢えて距離を置いた仲間達が陽動を始めたら、付近に潜伏しているもう一組と合流して“破片”内部へと向かう。
 目標は宝物庫。妖精八種族が一つ、タイタニアのコギトエルゴスム救出――。
「いるのかな、やっぱり」
 作戦の流れを検めた後、風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)が呟く。
 その、どちらかといえば望むより厭う声に対して、七人は沈黙で応じる。不思議な予兆で視た男か、或いはケルベロスの与り知らぬところで蘇った者か。いずれにせよ彼ら――タイタニアとは話し合う機会が欲しいと思う反面、今日出会せば事態が些か複雑になりそうであるから、是とも非とも言い難い。
 ただ一つ明確なのは、彼らと争うつもりがないことだ。その心構えを言葉に変えられるよう備えて、もし此方の善意が悪意と、救出が強奪と捉えられるなら潔く引くと決めた。
「何にせよ、行ってみなければ分からんな」
 レンズ越しで見直した景色から内部構造の想定を諦めつつ、櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)が言う。
 ようやくの反応らしい反応に錆次郎も頷いてから――彼は降下した敵集団が気にかかったのか、様子を窺おうと早くも動き出した。

●邂逅
 その喉元に刃が突きつけられるなどと、一体誰が想像しただろうか。
「――ケルベロス、だな?」
 物陰から突然現れた刃の主は囁き、気品に不信を混ぜた瞳で八人を流し見る。
 金色に煌めいて揺れる長髪の合間から覗く耳は千梨やクリームヒルトのように尖り、豪奢な衣服ごと身体を包めそうなほど大きな蝶の翅が、深呼吸をするくらい緩やかに羽搏く。
 まさか、と誰しもが思った。
 その邂逅が有り得るなら宝物庫の前だろうと想像していた。
 しかし現実として、其処には見覚えのある男が。
 あの予兆に映ったタイタニアが。
 刃を携え、立っている。
 どうして――いや、どうすべきか。
 あまりに唐突な出逢いはケルベロス達が頭に刻み込んできた台本を吹き飛ばし、そうして戸惑う間にタイタニアの男は武器を構えたままで一歩、二歩と後退る。
「っ! ちょ、ちょちょ、ちょっと待ったー!」
 見送ってしまえば、魔女達は此方の狙いを知るだろう。
 それだけは絶対に避けたい――と、器用にも声量を抑えつつ叫んだのは名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)であった。
 ただ、そこまでだ。彼女はそれ以上の考えを持たない。
 けれど、引き止めてしまえば。
 後は仲間達が上手くやるだろうと信じて、玲衣亜はぐいと両腕を突き出しながら、さらに言葉を付け加えた。
「戦う気とかないし、てかアンタらが損することしないし! とりま話だけでも聞いて!」
「とりま……?」
(「な、なゆきちさんっ!?」)
 耳慣れない言い回しに男が眉を顰めて、空野・紀美(ソラノキミ・e35685)は友の振る舞いに狼狽える。
 だが――待て、と言われて止まった足に、ケルベロス達は僅かな可能性を見た。
「ほ、本当だよ。危害を加えるつもりはないよ。だから……」
「ならば、何故このような場所に隠れ潜んでいた。貴様達の目的は何だ?」
 剣と同じく鋭い口調に、錆次郎はたじろぎつつ答える。
「それは……君たち妖精種族の解放、だったんだけど」
「解放?」
 これは異なことを、と言わんばかりに男は鼻先で笑う。
「余の同胞の復活を妨げたのは、貴様達ではなかったか?」
「……ああ。確かに一度は邪魔をした。認めよう」
 千梨が流れを引き取って男を正面から見据え、自らを地球生まれのシャドウエルフだと告げてから語る。
「あれを止めたのは幼子の命を脅かす方法だったからだ。お前達を滅ぼすためではない。その証拠……と言っても此処には無いが、得た宝玉は壊してない」
「ええ。……此度こそは」
 神妙な面持ちで頷く絶奈を横目に、千梨は言葉を継ぐ。
「お前達とて、あのような手段は本意でないだろう。……ともかく俺は、いや俺達は、だ。戦う以外の未来があるなら探したいと思っている。それに――」
「それに?」
「実のところな、戦いは苦手なんだ」
 その告白は真実で。
 けれども状況と、千梨の無表情さが冗談のように響かせる。
「戦場で言う台詞ではないな」
 だが面白い男だ――と、タイタニアは確かに呟き、口元を緩めた。
 しかし、それもすぐさま引き締まって、刃に依らない応酬は次へと進む。
「余も奪う為の戦いは好かぬ。だがな、シャドウエルフ。貴様も理解しているようだが、余には貴様達を信ずる拠り所がない」
「それなら、ボクたちヴァルキュリアが皆様を信頼する根拠にならないでありますか?」
 千梨の期待を虚しく散らせた男に、今度はクリームヒルトが想いを紡ぐ。
「ボクたちは洗脳された挙げ句、シャイターンに駒として使われていたのであります。それを救ってくれたのは他でもない、ケルベロスの皆様であります」
「あとね、つい最近だけど、アイスエルフさんともお話したんだよ!」
 緊迫した状況を解す、柔らかくも溌剌とした声は紀美のものだ。
「もちろん、無理やりじゃないよ。それで納得してくれて、あとは自分たちで決めて、わたしたちのところに来てくれたの!」
 ヴァルキュリアだってそうだよねと、紀美が送る視線にクリームヒルトは頷き、そして一番の願いを告げる。
「どのような決断でも尊重するであります。ただ……ボクは同じ妖精族として、タイタニアにはシャイターンのように、デウスエクスの仲間となってほしくないのであります」
 切なる呼び掛けに、男はじっくりと耳を傾けていた。
 やがて開かれた口からは――久方ぶりに見た妖精族を懐かしむような、穏やかな気配が少しだけ感じ取れた。
「真に地球の民とならなければ思いつかぬ頼み方だな、ヴァルキュリアよ。……しかし、デウスエクスに向かって“デウスエクスの仲間になるな”とは……」
「では、貴方はドリームイーターに都合よく使われるだけで満足なのですか?」
 絶奈の指摘は、やや辛辣であるからこそ核心を掠めた。
 タイタニアはまた口を噤む。それを肯定と受け取り、絶奈は平静と同義の微笑を崩さないまま言葉を足す。
「ヴァルキュリアもアイスエルフも、そして私の種の始祖も……。この星は遍く命を抱きしめてくれますよ」
「……それを望まぬとすれば。余が抱擁を拒んで魔女に傅けば、どうする?」
「その時は」
 ケルベロスとして、答えは一つしかない。
「その時は、タイタニア一族の復活も夢と散るでしょうね」
 篠葉が覚悟を示す。
 どうしても魔女との縁を断てぬなら。地球と相容れぬなら、戦うという覚悟を。
 そして――八人は男の返答を待った。
 両者の間に訪れた沈黙は極めて短く。
 けれど永遠と等しいほど長いようでもあった。

●返答
「……余の同胞は宝物庫に眠っている。其処に至るまでの道は――」
「……えっ、は? えっ?」
 姿を現した時と同様、突如語られた情報はあまりに重大すぎて、玲衣亜の頭に染みるまで時間を要した。
「き、きみきみメモ! メモ!」
「あわわわっ」
 反応が連鎖したか、紀美も口をぱくぱくとさせながら筆を走らせる。
 本来、手書きの地図となるはずだったそれは直ぐに望外な成果で埋まった。もしそのままの用途に使っていたら、何ら意味を成さなかった事が分かってしまうほどに。
「……コアの位置まで。これは、同じ未来を望む意志と受け取っても?」
「構わぬ。だが、それが成るかは未だ分からぬ」
 絶奈への答えに僅か滲んだのは、迷いでなく不安のようだった。
「余が知り得る事は嘘偽りなく伝えた。あとは――そうだな、魔女には偽りを囁こう。彼方で争うお前達の仲間を、軽んじる程度の細やかな嘘を」
「それは有り難いが……」
 何を以て決断したのか。
 言葉は尽くしたものの判然としない千梨に、そしてケルベロス達に。
 タイタニアは無事の再会を祈るとだけ告げて“破片”に戻っていく。

●潜入
 八人は貴重な情報を共有すべく、すぐさまもう一つの潜入班の元へと駆けた。彼方で戦端が開かれた為に前線でなく銃後と化した“破片”近辺の移動は容易く、難なく合流を果たしたケルベロス達は、労せず内部へと入り込む。
(「……行ってくるわ。其方はよろしく」)
 内外隔てる境目を過ぎる時、アウレリアは剣戟銃声が響く方を見やった。
 それは陽動に赴いた義妹の無事を祈ると共に、必ず目的を果たすとの誓いでもあった。

 しかし、決意の前には多くの敵が立ちはだかる。
「彼も正確な戦力だけは分からないと言っていましたが……」
「こんなに多いと治療が追いつかないよぉ」
 先のやり取りを思い返す絶奈の傍ら、錆次郎が泣き言めいた台詞を吐く。
 侵入から暫くは十六人の数と連携意識、勢いで敵を蹴散らすことも出来た。だが、戦意の低さからか内部に残留する合成獣や攻性植物は想像以上に多く、彼らの繰り出す炎や毒針に蝕まれた身体は次第に推進力を失っていった。
 戦いの区切りがある程度の痛みを和らげてはくれたが、それでも段々と攻めに掛けられる手数が減り、治癒の手間が増えていく。やがて彼らは二班一塊である利点よりも、大人数であるが故に生じる非効率さをひしひしと感じ始めるようになる。
(「……このままじゃ届かないわ」)
 誰しもが思うことをアウレリアも考えた。
 だが、策を練る暇すら無い。唸りを上げて襲い来るキメラの大口目掛け、アウレリアは嫋やかな仕草でライフル型ドラゴニックハンマーを向ける。
 白い指が引き金を引けば、それは銘付けられた「死の運命」を敵に齎すべく力の塊を吐き出した。狙い澄ました一撃に寸分の狂いもなく捉えられた獣は、続けざま中性的なオラトリオが振るう剣によって両断される。
 しかし――敵の亡骸を踏みしめるように、また新たな敵が現れて。
『不法侵入者あり、不法侵入者あり――』
 何処からか流れ出した機械的な放送は、焦燥を一段と煽った。

「……私達は、コアに向かおう。コアが狙われれば、警備はコアに集中するはずだ」
 程なく生じた間に提案したのは、向こう側の黒髪オラトリオ。
 ともすれば愚策と思える提案に別班の幾人かが声を荒らげる。
 だが、異種族の宝玉と、恐らくは首魁座する中枢。
 敵にとって、どちらが重要かは考えるまでもない。
「決まりだね」
 意見を交わす暇さえ惜しいと言わんばかりに、シャドウエルフの少女が告げた。
「そっちは敵が撤退する前に、宝物庫のコギトエルゴスムを助けてあげて」
「……任せなさい!」
 そうする、と先に彼らが断じた以上、其処に拘る理由はない。
 篠葉は威勢よく答えると、行く手を阻む敵に「傘忘れた日に限って雨に振られる呪い! 麦茶だと思って買ったらごま油だった呪い!」などと無茶苦茶言いながら駆け出す。
 それを七人が追う。
 過ぎし彼方から聞こえる戦いの音は、彼らを力の限りに走らせた。

●疾駆
「こっち!」
 紀美が道順を殴り書きした紙片ごと腕を振る。
 八人は蔓草と屍獣の障害を突き破り、宝物庫へとひた走る。
「ここを抜ければ――!?」
 最後の角を勢い勇んで曲がった紀美の視界に、蠢くは最後の一山。
「ま、まだいるのー!?」
「行くしかないっしょ! とりまシャキッとするやつあげるから――!」
「目が開いたまま閉じなくなる呪いもおまけするわよ!」
 玲衣亜の言に篠葉が続き、二人は共にオウガ粒子を散らす。
 それらが染み渡るのを待たずして飛んできたミサイルと炎の息吹に、クリームヒルトがテレビウム二体を引き連れて立ち向かう。
 盾役を担い続けてきた彼らは、特に満身創痍と言っていい。だが――。
「皆様を守るのがボクの務めであります!」
 気概で以て踏み留まり、虹の紋様が刻まれたガントレットから紙兵を飛ばすクリームヒルトに、二体のテレビウムもそれぞれ応援動画を流して猛襲を凌げば、錆次郎が真っ赤なジャックランタン型マンドラゴラから聖なる光を放って痛みを洗い流す。
 ならば今度こそ……と、伸びかけた邪悪な蔓は空中で止まった。
「アルベルト、そのまま」
 ビハインドに呼び掛けつつ、アウレリアも銃撃でピッポグリフを制す。
 その陰から飛び上がったマンティコアは絶奈が竜砲弾で叩き返し、竦んだ敵を千梨が悉く御業の帳に押し込め、一刀で斬り伏せる。
「急ごう」
 飄々とした彼も、そう呟くのがやっと。
 体力も時間も残り少ない。
 だが、道は開けた。
「あれよね! じゃあ扉の建て付けが悪くなる呪いを――」
「ばきゅーん!」
 篠葉が渾身の一発をお見舞いするより先に、魔力が壁を射抜く。
 そして、宝物庫という言葉の重みと裏腹に呆気なく空いた大穴を八人が潜れば。
 其処には、数多の宝玉が在った。

●救出
「これが……」
「ああ、余の同胞だ」
 一つを手にした途端、聞き覚えのある声が響く。
 振り返れば、其処には僅かばかりの同胞を引き連れた男。
「急げ。魔女が逃げ帰ると決めれば、壁も堅牢になるぞ」
 男がそう述べる最中にも鳴り出していたタイマーと、程なく訪れた振動の意味は、八人の疲弊した頭でも十二分に理解できた。
 すぐさまタイタニア達とも協力して、集めたコギトエルゴスムは数百以上。
 その全てをアイテムポケット四つに収めた事を確かめ、絶奈が巨大な光槍で壁を穿つ。
 僅かながら浮遊が始まっているのか、内外の境目を越えた先は幾分低くなっていた。

 そして、脱出の直後。
 自らを『オリヴィエ』と名乗った彼は、語らなかった理由を口にした。
「彼奴らは多くの同胞を蔑ろにしたままで、タイタニアを滅ぼしたエインヘリアルはおろか、アスガルドを脅かす攻性植物とまで盟約を結ぼうとした。そのような愚行の前には如何なる大恩も霞む。故に、余は真に賭けるべき相手を見極めようと動き……」
「アタシらを見つけたってわけね」
「ああ」
 玲衣亜に頷き、オリヴィエは殊更真剣味を増した表情で続ける。
「お前達が言葉に賭けたからこそ、余も魔女でなく、剣でなく、お前達に賭けた。同胞を蘇らせる事が出来たならば、その時こそ、今度こそ。余は恩人に、お前達に報いよう」

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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