明王相撲、春場所

作者:洗井落雲

●女子相撲部、襲われる
 女子相撲。
 読んで字のごとし、女性によって行われる相撲である。
 体重別級にて試合が行われるほか、レオタードの上にまわし、というスタイルで行われる以外は、ほとんど従来の相撲と変わらルールにて行われる。
 近年は海外でも浸透の兆しを見せ、全国大会なども行われる、新たなスポーツの一つである。
 さて、ここはとある高校。その、女子相撲部の部室。
 更衣室にてコスチュームに着替えた相撲部部員たちは、今日も精一杯汗を流さんと、部室内に設えられた土俵へと向かうべく、その扉を開いた。
「ゆるさーーーーーん!!!」
 と、そんな彼女たちに、大音声が投げかけられる。
 何事かと目を丸くする彼女たち、その目に飛び込んできたのは、土俵のど真ん中で四股を踏む、巨大な一羽の、異形の鳥――いや紛れもなく、ビルシャナであった!
「ゆるさん! ゆるさんぞ! 女子の相撲とか! なんかエッチじゃないか! ゆるさん!」
 ビルシャナ――『女子相撲部絶対許さない明王』は、ばさばさと翼をはためかせ、部員たちを威嚇するのであった――!

●ビルシャナを撃退せよ!
「ええと、女子相撲部絶対許さない明王、ですか?」
 春花・春撫(プチ歴女系アイドル・e09155)は目をぱちくりとさせながら、そう尋ねる。
「うむ……個人的な主義主張が行き過ぎてしまった結果、ビルシャナ化してしまったパターンだな」
 と、アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、春撫、そしてケルベロス達へと向けて、そう言った。
 なんでも、とある高校の女子相撲部に、女子相撲部など絶対に許さないという主張を持ったビルシャナが、襲撃を仕掛けてくるのだという。
「主義主張の是非はさておいて、それで人を傷つけるのであれば看過はできん。そういわけで、皆にはこのビルシャナを待ち受け、撃退してほしいのだ」
 そう言って、アーサーはひげを撫でた。
 件のビルシャナは単独で襲撃を仕掛けて来たらしい。信者、配下の類は存在せず、また、ビルシャナとなってしまった人物を、元の姿に戻すことはできないため、ビルシャナを倒すことに専念してほしい。
「首尾よくビルシャナを倒せれば、現地の女子相撲部の部員達と多少、交流する時間が取れるだろう。仮にもデウスエクスに襲われ、命の危機にさらされる子たちだ。少し勇気づけてやるの良いのではないかな?」
 アーサーはそう言って、ふむん、と唸ると、続けた。
「ビルシャナ自身も被害者とはいえるが……彼……彼女か? まぁ、そのビルシャナを救うことはできない。残念ではあるが、これ以上の被害の拡大を防ぐためにも、しっかり撃退してほしい。それでは、君たちの無事、そして作戦の成功を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出すのであった。


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
春花・春撫(プチ歴女系アイドル・e09155)
星乃宮・紫(スターパープル・e42472)

■リプレイ

●ビルシャナ、土俵入りする
「ぬぬぬぬぬ、ゆるさーーんっ!」
 奇声をあげつつ、どしん、どしんと土俵の上で四股を踏むのは、腰にまわしをまいた一匹のビルシャナ――『女子相撲部絶対許さない明王』だ。
 その名の通り、『女子の相撲部など絶対に認めない』という思想信条を持つこの明王は、その強すぎる思想故にビルシャナと化し、こうなればさっそく説教だ、と、とある女子高は女子相撲部に突撃してきたわけである。
 この女子相撲部は、プレハブの部室の中に土俵を設置して、其処で部活動を行う。明王が占拠しているのは、その部室内にある土俵の上で、明王は其処から外部に通じるドアを睨みつけ、女子部員たちを待ち受けているのだ。
 どしん、どしんとビルシャナが四股を踏むたびに、なんだか大地が揺れた気がした。もちろん、実際にそれほどの力があるわけではないので、これは錯覚というか、『それくらいの気迫を感じた』という事である。その内容はさておき、思想信条の強さが、そう言った『圧』を感じさせていた。
「しかし……遅いな! そろそろこう、ガラっ、と女子相撲部員たちが入ってきてもおかしくないはず……ッ!」
 明王のいう事も、もっともであった。現在時刻は、放課後がはじまってしばしの辺り。そろそろ学生たちが、部活動を始めるためにやってきてもおかしくはない。
 さて、明王がぼやいた瞬間である。実際に、ガラリ、と、部室の扉が開いた。果たして現れたのは、4人の人影――だが、それは女子相撲部員たちではなかった。
「危機ある所に輝く美しき紫の星! スターパープル見参!」
 きらり、とゴーグル輝かせつつ、ポーズを決めるのはスターパープル――星乃宮・紫(スターパープル・e42472)であった。いつものヒロインスーツの上に、腰に輝くおおきな『まわし』! スターパープル・女子相撲モード(今命名した)であった!
 紫はびしっ、と明王を指さしつつ、高らかに声をあげる!
「そこまでよ! このスターパープルが、国技をバカにする邪なビルシャナを倒してあげる!」
「ぬぅぅ、ケルベロスかぁはぁっ!」
 驚愕の声をあげる明王! ぱしーん、と自らの両頬を手で叩き、気合を入れてから言葉を続ける!
「ええい、我を論破しに来たというわけかッ! だが相撲は熱い男のスポーツッ! 女子の入るスキなどないと知れッ!」
「そうと言えば聞こえがいいかもしれませんけれど、意地の悪い言い方をすれば、時代の流れに取り残されているだけですわよ?」
 ふぅ、とあきれたようにため息をつきつつ、そう告げるのはカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)である。カトレアもまた、まわしを巻いていた。
「世は男女平等の時代ですし、そのことについて考えるのは、避けては通れない道ですわ。それに……今回の件は、女子相撲という新たなスポーツのこと。男性の執り行う相撲とは住みわけができているのではありませんこと? そこに嘴を挟んで排斥なさるのであれば、それもはや、ただの男女差別だと思いますけど」
 息つく間もなく畳みかけられるのは、完全な正論である! 何の反論もできない明王は、おもわず、
「ぐぬぬ!」
 と唸った。だが明王は慌てて翼をバタバタとはためかせると、
「だが! だが! 薄着の女性がくんずほぐれつなどと、破廉恥である!」
 などと言い始めたので、ケルベロスたちの間には、完全な諦観と軽蔑の空気が流れ始めた。
「……結局、それなんだね」
 はぁ、と大きくため息をついたのは、燈家・陽葉(光響射て・e02459)であった。陽葉は、その陽光の如き温かな瞳を、今この時ばかりは厳冬の寒空の如き冷たいものへと変えて、明王をみやる。
「本当に……それじゃあただの性差別だよ。破廉恥だなんだっていうなら、男の人なんて半裸じゃないか? まったく……そんなことだから、キミには信者の一人もついてこなかったんだ」
「ぐえーーっ!!」
 冷たき視線は物理的な力を持ったかのように、明王へと突き刺さる! 正論……そして図星……! 明王は、打ちのめされた。それはある意味、横綱のつっぱりなどよりも強力な一撃だった。
「ち……違うし……我、ビルシャナになったばかりで突撃したから……信者を作る暇がなかっただけだし……」
 嘘だな、と思ったものもいるかもしれない。まぁ、事実嘘だろう。
「えっと……あ、格好がなんだかエッチって……もしかして本当は見たいけど、格好つけて素直に言えないとか……?」
 春花・春撫(プチ歴女系アイドル・e09155)が何気なく上げた疑問の言葉に、ビルシャナはびくりと身体を震わせた。これも図星なのだろう。つくづく、残念な奴だった。
「ま、まぁ、あの、お互い相撲を愛する心は同じなはずですし! エッチな目で見つつも、本気で取り組む姿も愛していただければwinwinかなって思います……!」
 フォローのような春撫の言葉は、明王へのとどめとなるに充分な威力を持っていた。
「う……うわぁぁぁ! わ、わがままボディの癖に! えっちなくせにぃ!」
「え、えええっ!?」
 追い詰められた小学生男子のような明王の言葉に、さすがに春撫も赤面してしまった。春撫もまた、女子相撲部のユニフォーム、レオタードにまわしという衣装であったし、事実、春撫のスタイルの良さが強調されるかのような衣装ではある。
 あわあわと慌てる春撫であったが、その姿を庇うように、陽葉がその前に立った。陽葉は春撫に微笑みかけ、安心させた後に明王を見据えた。
「まったく、女の敵、だね」
 静かに告げる。明王はバサバサと翼をはためかせ、
「ええい、こうなれば問答無用だ! 貴様らを倒し、我が教義の正しさを証明してみせる!」
 と、吠えるのである。
「今更……仮に私たちを倒したところで、それは難しいと思うけど……」
 些かあきれた様子で、紫は言ったが、頭を振って気を取り直すと、再びその指を明王へと突き付けた。
「いずれにせよっ! あなたの悪行は許せない!」
「そうですわね。本格的な被害が出る前に、ここで止めさせていただきますわ」
 カトレアの言葉と共に、ケルベロスたちは一斉に武器を構えた。応じるように、明王は大きく、四股を踏む。
「行くぞ、ケルベロス! はっけよぉぉぉぉい、のこったぁッ!」
 明王の雄たけび。それを合図に、いざ、戦いは始まった!

●明王相撲、はっけよい!
「ふんんんんぬぅあぁぁぁぁあ!!」
 明王の気合の雄たけびとともに放たれた気弾が、カトレアへと迫る! カトレアは、オウガメタル『茨ノ鬼』をその身に纏い、気弾を受けた! 気弾と、紅色のオウガメタルの装甲が、衝突する。決して軽くはない衝撃が、カトレアの身体を駆け抜けた。
「……っ。どうやら、強敵である……という事は確かなようですわね。ですが」
 カトレアは、その腕をかざす。纏うオウガメタルはオウガ粒子を放ち、
「オウガ粒子よ、皆さんの感覚を研ぎ澄まして下さいませ!」
 その命のままに、粒子はケルベロスたちへと降り注ぐ。その能力により研ぎ澄まされたケルベロスたちの感覚が、明王を捕らえた。
「ありがとう、カトレア」
 陽葉は言って、手にした『創造の叡智』を掲げる。その立体パズルが輝きを放つや、現れたのは『雷の竜』だ。
「貫けっ!」
 放たれた稲妻は、明王を捕らえる。高圧の雷をその身に受け、体中からぶすぶすと黒い煙をあげる明王は、だがばしん、とその両頬を叩くや、力強く四股を踏んだ。
「まだまだぁッ!」
「もう、馬鹿力と硬さだけは一級品ですわね」
 うんざりとした様子で言うカトレア。明王、その教義は些か不純なものではあったが、戦闘能力という点で見れば、決して御しやすい相手というわけではない。
「せっかくの土俵の上です、相撲技で行きますっ!」
 春撫が明王へと迫る。春撫の背丈と比べれば、明王のそれは一回り以上に大きい。近づけば近づくほど、その巨体はさらに大きく、恐ろしく見えるかもしれない。相撲という点で見れば、格上相手の横綱相撲と言った様相だが、しかし、実際の戦闘において、体格の差とはそのまま優劣につながるものではあるまい。
「一撃で倒せないなら何度でも……行きます! 百裂っ!」
 と、気合の言葉と共に放たれる、無数の拳……いや、これは張り手であろう。厳密にいえば降魔真拳なのであるが、重要なのは使い手の気分である。ついでに言えば、これは相撲の技ではないのだが、まぁ、それも使い手の気分だ。
「ぬぅうっ! そんなゲームで見たようなわぁざでぇっ!」
 翼をばさりと翻し、明王は春撫の張り手を受け止める。一撃では、その巨体を動かすことはできまい。だが、一滴一滴、それが集まり巨大な滝となるように、無数の一打は張りての滝となって、明王の身体をじりじりと押し始めた!
「すごい……はるはるが、押してる……!」
 思わず、陽葉が声をあげた。春撫の攻撃により、じりじりと、明王は土俵際へと追い詰められていく! だが、明王も負けてはいない! その巨体を力強く踏ん張り、土俵よりはなれるまいと、歯を食いしばった! その様はまさに巨木のごとし!
「が、頑張れ! えっと、のこったのこった!」
 紫も思わず、声援を送る! そう、これが相撲! これが相撲の熱さだ! 土俵際の駆け引き、手に汗握る攻防! 力と力の勝負! これこそが、相撲!
「ええいっ、ちょこざいな!」
 明王は奇声をあげると、その翼をばさり、とひるがえし、跳躍! 宙へと逃れた! 急に相手が消えたことで、春撫は思わず、つんのめってしまった。
「わわっ……」
 たたらを踏んで、何とか倒れるのは踏みとどまる。明王は、春撫を飛び越えて、その後ろへ着地!
「と、飛ぶなんて、卑怯じゃないですか!」
 思わず抗議の声をあげる春撫へ、しかし明王は不敵に笑った。
「これは戦い……相撲では、ない!」
 たまらずショックを受ける春撫。台無しと言えば台無しの一言である。
「なるほど、これは戦い、相撲じゃない……」
 だが、そんな明王の背後より迫る、一つの影――パープルの輝きを持つヒロイン、スターパープル、星乃宮紫! 紫はにっこりと笑って、明王の回しを掴んで見せた。
「そうよね。これは真剣勝負――だから、ちょっと相撲技じゃない技が入っても、文句はないわよね?」
「あ」
 明王が、思わず嘴を開ける。その姿がぶれると、次の瞬間には、明王は地に倒れ伏していた! 回しを掴んでからの、上手出し投げ――いや、パープル上手出し投げだ!
「ぐえっ」
 決まり手――だが、これは相撲ではない。さっき明王が言ったのだ。だからここで攻撃は終わらない。南無三。
「紫の連撃、味わいなさい!」
 それを起点として、繋がるのはパープルコンボだ! パープルパンチで吹き飛ばし! パープルエルボーで喉を叩く! パープルヒップアタックで叩き落し! パープルアッパーで体を浮かせ!
「そしてとどめのッ! パープルキィィック!」
 とどめのキック突き刺さる! 明王は地へと叩きつけられ、ゴロゴロと転がり壁にぶつかって止まった。だが、体中をボロボロにしながらも、弾むように飛び起きる!
「うんがああああっ! もう許さーんッ!」
 羽ばたきと共に巻き起こる風が刃となって、ケルベロスたちに襲い掛かる!
「それは、こちらのセリフですわ!」
 カトレアが、手にした剣を振るうと、仲間の残霊がその姿を現した。
「その身に刻め、葬送の薔薇!」
 二人は一足飛びで距離を詰めるや、明王の身体を無数に斬り付ける。その軌跡が描くのは、一輪の薔薇。
「バーテクルローズ!」
 最後のひとさしが明王を貫いた瞬間、その薔薇の花弁がちるかのように、爆発が巻き起こった。明王は衝撃に吹き飛ばされるが、其処に陽葉の追撃が突き刺さる!
「あいつははるはるの敵だよ。さぁ、放て!」
 にわとり――小動物へと変化した『ファミリアロッド【舞葉】』がその嘴を開くと、まさに問答無用の破壊光線が迸る。『滅閃鶏(ファミリア・カタストロフ・ブラスター)』。その名のままに、まさにカタストロフ級の光線は、容赦なく明王を焼いた!
「これは、戦い……でも、やっぱり土俵の上。とどめは、相撲技です!」
 春撫が駆けた。ぷすぷすと煙をあげる明王を背後から掴み、跳躍。
 高く、高く――建物の天井もぶち破って空へ。頂点へと達した時に、春撫と明王は反転。明王は、頭を地へと向ける形となり――。
「ファイナルメテオはるはるスープレックス!!!!!!!!」
 急降下。重力、速度、もろもろを載せた垂直落下の一撃が、明王を地へと突き刺した! 明王は、土俵の真中へ。両足を突き出した状態で、上半身を地へと埋めていた。
「これは……相撲技じゃ……ない……」
 それが、明王の最後の言葉となった。
 末期の言葉を吐いた明王は、そのままくたり、と力を手放した。そして逆立っていた両足は、こてん、と土俵へと倒れ伏したのであった。

●明王相撲、閉幕。
 修復を終え、すっかりきれいに整えられた土俵の上では、ケルベロスたちの活躍によって危機を脱した女子相撲部員たちが、力強く、けいこに励んでいた。
 その迫力、そして精一杯励み、流した美しい汗に、ケルベロスたちもまた、息を呑み、感動を覚えることもあったかもしれない。
「皆様、頑張って下さいませ。目指すは日本一を!」
 カトレアの声援に、部員の少女たちは元気よく、返事を返す。カトレアは満足げに頷いて、彼女たちの練習を見守った。
「が、頑張ってください……!」
 紫もまた、か細い声ではあったが、しっかりと声援を送っていた。ヒロインとしての紫ははつらつとしていたが、そうでない、素の紫は、些か物静かだ。だが、部員たちに頑張ってほしいという想いは、本物である。
 一方で、春撫は部員たちと、実際に相撲を教え合う形で触れあっている。
「わわ、すごい気迫……!」
 部員たちの迫力は、ケルベロスたちでも思わずたじろいでしまう位のものであった。本気で相撲というものに取り組んでいる、その熱意が感じられるというものだ。
「はるはるも、負けてられないね」
 微笑む陽葉に、春撫も元気よく、返事を返すのであった。

 明王の標的になるという災難に見舞われた女子相撲部員たちではあったが、しかしその日の練習は、決して忘れられないものになっただろう。
 そしていつもより少しだけ長く、女子相撲部員たちの練習の声は、校舎へと響いていたのだった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月3日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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