ミニではない自動車玩具

作者:baron

 ウイーン。キュルキュル!
『ゲットレディ!』
 恐ろしい速度で自動車の様なナニカが、郊外から町へ飛び込んで来た。
 最初は道路の上だったこともあり、自動車事故かと思った者も居るくらいだ。
 しかしながら艶やでカラフルなボディに六輪で、フォーミュラーマシンみたいな外見は、少なくとも普通の自動車では無い。
『一人、二人、三人!』
 次々と通行人を跳ね飛ばし、虐殺記録を伸ばして行くそいつはデウスエクス……それもダモクレスではないかと思われた。


「静岡県の町で捨てられた玩具がダモクレスになってしまう事件が発生するようだ」
 ザイフリート王子が説明を始める。
 玩具のパンフレットではなく、自動車のパンフレットなのは適当な資料が無い古いタイプだったのかもしれない。
「レースマシン型のカートかな?」
「ミニが変異で大型化したんじゃない?」
「どっちかは判らない。ただ一つ判って居るのは、放置できんと言うことだな」
 昔触ったこともあるというケルベロスが雑談を始める対し、そういった経験の無い王子はそっけなく説明を続ける。
「相手は高速で移送する……キャスターだろう。戦闘方法は体当たりがもっとも強烈で、壊れたタイヤを刃の様に切り刻む格闘攻撃を得意としているようだ」
 もっとも得意なだけで、射撃ができないわけでもないだろう。
 単純に車両形状から格闘戦の方が強いので、そちらを重視するだけのこと。挑発されればビームでも討って来るだろうと王子は続けた。
「壊れて捨てられたのだろうが、ダモクレス化した以上は放っておくわけにも行くまい。後は頼んだぞ」
「任せておいてくださいな。問題ありませんわ」
「持って帰って改造したくなるけど……ケルベロスの威力だとグラビティで木っ端みじんに壊わしちゃうかもな。残念」
 王子の言葉にケルベロスたちは、それぞれのペースで頷き相談を始めるのであった。


参加者
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
美津羽・光流(水妖・e29827)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)
 

■リプレイ


 フィーン、キュルキュル!
 音を立てて六輪車が郊外からやって来る。
 幾つかの別れ道を封鎖する様に待機していた、数人の影が動き始めた。
「暴走する自動車ですか」
「どっちかといえば玩具じゃないかなあ」
 タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)の言葉に笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)は太い首を傾げた。
 もっさりと立ち上がる彼に続いて、タキオンは眼鏡の位置を調整しながら歩き出す。
「このまま放っておくと大惨事になりますね。必ず私達で食い止めましょう」
 タキオンが最後衛から見渡すと、仲間達は既に動き出していた。
 まるで奇襲でもするかのように、鐐たち盾役よりも数人が前に出ている。
 いや、盾役はあちらにも居る様なので、これもまた陣形や作戦の都合だろうか。
『サーチ……ゲットレディ!』
 町中に入る手前で六輪車は急にドリフトを掛ける。
 方向は当初向かって居た町では無く、『誰か』が駆けこんで来る、何も無い方向だ。
「止まれ!」
 既に美津羽・光流(水妖・e29827)達が、ガードレールを飛び越えて先行して居た。
 高速で突っ込んで来るダモクレスに対し、自らぶつかりに行っているかのようだ。
「普通に考えれば、自分から車に轢かれに行くなんて、自殺行為、なんでしょうけどね」
 旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)は彼を守るため、加速する車の前に腕をクロスして飛び込んだ。
 ドン! と跳ね飛ばされそうになるが、態勢を低くして耐える!
「なんや。ミニな四駆やん。作った人もダモに改造されるとは思わへんかったやろな。しかし、ぶつかるのは車の専売特許やあらへんで」
「自動車玩具は男の子のユメ、なんだけどなぁ。それだけに、血で汚れるのは止めたいねぇ」
 光流が飛び蹴りを放つ間、嘉内は足元に痕を残しながらズルズルと後退。
 気合いを入れ直して踏ん張り、数メートル下がったところでようやく動きを止める。
「自作のマシンが乗れるサイズになるのはキッズの夢やのに、殺戮マシーン化は笑えへんな。元持ち主が気づかへんよう粉砕したろ」
 光流が着地するのと前後して、距離を取って居た者たちが駆け付けて来る。
 正確には足止め役の彼らを先槍にして、その位置を中心に道を塞ぐ構えた。
「ダモクレス共は、妙な玩具に寄生するのが流行っておるのか……? 前にもこういうことあった気がするのう」
「壊れた機械なら何でも良いんじゃないかな。どちらにせよ近所迷惑だ、早々に退治してしまいたいものだね」
 ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)が意識を集中し、呼吸を整える。
 それよりも僅かな差で、おっとり刀で駆け付けて来た鐐が爆風を放った。
「行此儀断無明破魔軍……! 大元帥が御名を借りて命ず、疾くこの現世より去りて己があるべき拠へと還れ! たらさんだんおえんびそわか……!」
 ルティアーナは古えの守護者が持つ力を導き、破魔の光矢を織り成した。
 印を組む動作が大きいものの、前衛に盾役が居る以上は何の問題も無い。
 放たれた光は全てを射抜き、例え敵が神魔の類であろうとも貫くのだ。


 そして左右から挟み込むように集結し、道を封鎖しつつ徐々に囲み始めた。
「六輪タイヤとかなかなか個性的じゃない! けどは放置できないし、殴り壊してあげるわ!」
「そうかな? ……煩くて面倒な敵だと思うけど。少しは大人しくしていて欲しい」
 道の反対側に居たジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)と陽月・空(陽はまた昇る・e45009)が駆け付ける。
 一同は足止め役がスムーズに先行できるように両翼へ構えていた為、ゆるやかな包囲態勢に移った。
「出発直前に駆け込んだから状況が良く分からないけど……とりあえず倒せば良い。……それが、仕事だよ」
 空は大地に眠る記憶を呼び覚まし、そいつが持つ最悪の滅び方を夢見させた。
 他の者には見えないが、タイヤがバーストしたように感じられただろう。
「ふふん、動きが鈍くなった様ね。ケルベロスの鍛えあげた筋肉は不滅よっ!」
「そうだ。……かかって来いよ、ダモクレス! その暴走、私が止めてやる! その車はお前が好きにしていいものじゃない!」
 ジェミは嘉内に声を掛けながら、その気力と体力を活性化させた。
 師匠譲りの不滅の心を伝えることで、立ち上がる力を回復させたのだ。
「攻撃力は問題なさそうですね。ですが見ての通り動きが素早い敵ですので、くれぐれも注意してください」
「判ってるさっ! 絶対に逃がさないし、当たらない時は援護に努めるぜ」
 傷の方は思ったほどでは無く、タキオンは援護にライフルを構えて重力波を放った。
 嘉内も同様にドラゴンの幻影に炎を吹かせるが、どちらも避けられそうでギリギリで命中して居る。
 その様子を見ながら、嘉内は攻撃と回復の手順を頭の中で組み立てるのであった。

 完全に道を遮断されたダモクレスは、六輪を駆使して軽いバックダッシュと即座の前進。
『ブレーデッド』
 僅かな移動の筈なのに猛烈な勢いで体当たりを掛けた。
 その際に馬鹿正直にぶつかるのではなく、掠める様に刃になったホイールで斬り割きながらターンを掛ける。
「このくらいっ! 今の内よ!」
 ジェミは敵の攻撃をしっかりと受け止めたが、掠め去った時に切り傷が付けられる。
 筋肉の収縮で傷は酷く見えないが、それでも服の一部が切り裂かれてしまった。
 だが胸元が見えるのも気にせず、掴み上げて逃がしはしない!
「おなごの衣服に手を出すとは不埒千万……!」
 ルティアーナが刀を抜いて攻撃に移ると、刃がひとりでに動き出す。
 敵の動きに追随し、高速での回避に付いて行った。
「危ないな。ちょっとこのまま止まってもらおうか。明燦も攻撃をやっといて」
 ここで回り込んだ鐐が組み付いて相撲の態勢、車の動きを止めてしまう。
 堂々たる体格の白熊がガップリ四つ、タイヤがキャルキャルと空転を起こしそうになる。
 その間に箱竜の明燦は体当たりを掛け、鐐が押し切られないように援護した。
「あんがとさん。何にせよレギュレーション違反は厳正に対処させてもらうで」
 光流はウインクしてお礼を言うと、複雑な印で波間を描いた。
「西の果て、サイハテの海に逆巻く波よ。訪れて打て。此は現世と常世を分かつ汀なり」
 そして光流がパンと大地に掌を打ちつければ、空間が歪んでナニカが押し寄せた。
 さすれば冷たく薄暗い海水があふれ出し、それは荒れ狂う波となって叩きつける。
「自動車玩具……大きくないそういうものもあるのかな。僕は詳しくないから良く分からないや。車輪とか、ボディーの形とか詳しい人には嬉しい依頼なのかな」
「生憎と私の方も門外漢なものでして。六輪はオーバースペックで効率悪そうということくらいですか」
 空が首を傾げると、タキオンがそのまま頷いた。
 どちらも玩具にあまり興味なく、他のメンバーだと応じそうな話題がスルーされてしまった。
「まあいいや。僕的にはご飯とかの方が嬉しいしね」
 そういって空は軽く翼を広げながら、滑空しつつ蹴りを放った。
 グラビティで縫い止め動きを止めている間に、タキオンは治癒を、他の仲間は攻撃を続ける。
「大丈夫ですか、すぐに回復しますね」
「さんきゅっ♪ お返しの、ド1発ッ!!」
 タキオンはグラビティの刃で傷口を整え、形状の無い糸で縫合した。
 痛みが和らいだことを確認したジェミは、引き締めていた筋肉を攻撃の為に転用する。
 そのままダイビングして、波や重力で動きを止めた相手にエルボードロップだ!
「大分当て易くなったな。……だがここはもう少し、援護だ」
 嘉内は仲間達の様子を眺め、ダモクレスへの牽制で戦い易くなっていることに気が付いた。
 だがそれでも彼の場合、威力重視の攻撃だと自信が無い(何人かは惜しい所で外しても居るし)。
 ならばとドローンを展開し、仲間達を守るべく結界を展開する。
 こうして俊敏に動き回る敵との戦いは長期戦の様相を呈して居た。


 とはいえ一般人が来ない事もあり、長期戦の準備さえ整えば難しい相手ではなかった。
 数分が経過したころには、少しずつ状況が改善されてくる。
「ちょこまか動けんように、こうしたる!」
 光流は車体の上に飛び乗ると、そのまま刀をフレームの間に突き刺した。
 自身は遊ばなかったものの、人気商品ゆえに、以前にバイトしていた時に調べることがあったのだ。
「んと、ならそろそろいいかな」
 空は鉄杭をダモクレスに突き立てた。
 それは黒く見えるほど深い緑で、艶のある車のボディに突き立てることで初めて完全な黒ではないと判るほどだ。
 そして当たった瞬間に、ガコンと跳ねて装甲に穴を開けた。
「……攻撃が回復か悩みますね。ともあれ油断は禁物です。ここは役目に沿って回復しておきましょう」
 比較的に累積した攻撃は浅いが、負傷者はしない訳でも無い。
 タキオンは最も傷の比率が高い嘉内を治療して、後の動きに備えておく。
「最後は、気合よ気合の勝負! 押し切りましょー!」
 ジェミは大鎌を担ぐと、それを分銅にして大回転。
 刃で斬りつけると言うよりは、足を刃に見立てたギロチンドロップを掛けた。
「回復が手厚いと助かるな。いっけー!」
 嘉内は回復不要とあって何も無い場所を蹴って、星型の闘気を撃ち出した。
 中盤から使用して二度目になるが、最初は当てられそうも無かったのに、今では普通に当てられる気がする。
 ケルベロスの強さは、個々の強さもあるが、連携の強さに有るという言葉を今更のように感じた。
『カリュキレーション、シークエンス……』
 ダモクレスは動きも鈍くなり満身創痍だが、それでも諦めたりはしない。
 逃げてもお居ちかれるから逃げないだけだが、どっかに突破口は無いか、逆に倒せる相手は居ないか計算しながら攻撃して来る。
「むむ。まだやる気か。なかなか粘るのぅ」
「あたしはそういうの嫌いじゃないけどね」
 ルティアーナは呆れながらも、ジェミら盾役達の影に回った。
 ここで大打撃を食らって、逃げられては馬鹿馬鹿しい。
「とはいえ逃がすわけにはいかへん、囲んでいこか」
「そうですね。私も今回ばかりは攻撃に回りますか」
 光流が裏手に回り始めると、タキオンもライフルを構えて支援態勢。
 緒お陰をする化もしれないので待機するが、まあ大丈夫だろう。
「なら、一気に包囲する!」
「良し来た」
 ここで嘉内と鐐も参加して、抑え込む様に肉薄する。
 とくに鐐は再び車体を持ち上げることで、相手の動きを止めに掛った。
 車輪で斬り割かれるが、防壁や結界に阻まれてそんなものは大したことはない。
「惜しいの。途中で外さねば、我の手で苦しみを解き放ってやれたものを」
 一同の中で最大火力を誇るルティアーナは、調伏の為の矢を放って少しだけ悲しそうにした。
 敵が早過ぎたのもあるが、全体をトータルすると攻撃が何割か外されている。
 活躍したとも言えるが、相手に連携が無い以上は性は無い。無駄に痛みが長引いているとも言えた。
「いっけー!」
「これで……しまいや!」
 ジェミは胸を邪魔そうにしながら、両拳を組み合わせダブル・スレッジハンマーを振り下ろす。
 それと光流がグラビティで作りあげた刃を投げつけるのは、ほぼ同時だった。
 どちらがトドメを刺したのか判らないが、これでダモクレスが動きを止めたということだ。

「終わり……かな?」
 空は柄を握り締めたままの指先に気が付き、溜息のように深呼吸を入れる。
 攻撃して居ないと言うのに疲れた気がするが、まだやるべきことはあるのだ。
「破壊された箇所をヒールするのがケルベロスの仕事です、頑張りましょう」
「そうだねえ。ここはそれほどでもないけど……」
 タキオンがヒールを始めると、鐐はどこか遠くを眺めるような仕草で郊外を見た。
 いや、実際に遠くを見ているのだが……。
「これが通った後を綺麗に片付けていかなあかんね。めっちゃ走ってるやん」
「仕方無いとはいえ、これは面倒そうじゃのぅ」
 光流とルティアーナは顔を見合わせた後でヒールに参加。
「ここが終わったら手分けしましょう。そうすれば早いんじゃないでしょうか」
「まあそれしかないですね」
 嘉内たちも加わったところで、先にヒールを始めたタキオンは次の場所を想定して移動を始めた。
「……さってと、こんなもんだど思うけど、コレどうする?」
「うん? 残骸は業者を呼ぶのではないかえ? これだけ大きいと手間じゃ」
 一通り終わったところで掛けたジェミの言葉に、ルティアーナは首を傾げた。
 いつもなら修復の痕は、残骸を業者などに任せて終わりである。
「残骸が大きいって事は、使えるパーツが多いってことでしょ? 持って帰って改造するかってこと」
「そうですね。これなら何とかなるんじゃないですか? 原型になった玩具を探せば、参考に出来そうです」
 ジェミの言葉に嘉内が興味深々と言った風情で、残骸の山を眺めた。
 問題なのはダモクレス化して生えた腕や銃だ。
 得意ではないので使わなかったそうだが、まともに組み上げる時に邪魔過ぎる。
「それなら俺は詳しいで。静岡には業者もあるし、工場直撃で探すのもええなあ」
 光流が相談に乗れると言うと、話は一気に現実的になった。
 今はただの残骸でゴミでしかないが、ちゃんと組み上げればなんとかなるかもしれない。
「僕はご飯でも食べに行こうかな。この辺のお店って何があるんだろう」
「今の時期なら黒オデンとか面白いよ。具だけ売ってる店があればお土産にも良いしね」
 空が翼を畳んで降りて来るが、玩具には興味が無い。
 その言葉を聞いた鐐は、海が近いから海産物は何でも美味しいと告げた上で、この辺の名物を教えてくれた。
 まだまだ肌寒い季節なのと、この辺ではオデンの汁やハンペンが黒いらしい。
 それぞれに色んな愉しみを探しに、一同は町中へと戻って行った。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月28日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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