ライオン・ダンス

作者:坂本ピエロギ

 暗い路地裏のゴミ捨て場で、玩具は夜空の月を見上げていた。
 刺繍の擦り切れた布きれを座布団代わりに座るそれは、獅子舞の頭――獅子頭だ。
 あちこち剥落した紅い塗装に、頭の輪郭を飾るのは色あせたモール。かつては可愛い踊りを披露したであろう玩具は今や完全に壊れ果て、灰になる時を静かに待っていた。
 そう、灰になるはずだったのだ。
 異星からやって来た、小さな侵略者の目に留まらなければ――。
「キリキリ……キリ??」
 蜘蛛型ダモクレスは布切れに潜り込むと、すぐに玩具をヒールで改造し始めた。
 やがて誕生したのは、鮮やかな布を胴にまとい、頭をモールで飾った獅子舞ロボット。
「バオオォーーーッ!!」
 雄叫びを夜空に轟かせてダモクレスは動き出す。
 ビルの向こうから微かに聞こえてくる、祭りの囃子に誘われるように。

「集まってくれてありがとう。ケルベロス宛に挑戦状が届いた」
 送り主はダモクレス。目当ての品は、罪なき人々のグラビティ・チェイン――。
 真円を描きつつある夜空の月を背に、ステラ・フラグメント(天の光・e44779)が優雅な仕草で一礼する。
「では、事件の概要は私から話そう」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はそう言って、ヘリポートに集まるケルベロスたちに概要を説明し始めた。
「今晩、獅子舞型のダモクレスが市街地の一角に出現する。これを撃破して欲しい」
「なるほど、あまり時間はなさそうだね。敵が狙っている場所などはあるのかな?」
 ステラの疑問に、王子は首肯で応える。
「どうやら敵は、中華街で行われているイベントを狙っているようだな。人々が燈籠に込めたメッセージを、色鮮やかな獅子舞たちの演舞に乗せて天へと届けるものらしいが……」
 今日はイベント最終日ということもあり、現場は観光客を含む大勢の人で賑わっている。そんな所にダモクレスが乱入したら大惨事は免れない。
「敵は中華街を少し離れたビル街の道路に現れる。現場の避難と封鎖は完了しているから、お前たちは到着次第、出現するダモクレスを撃破してくれ」
 ダモクレスの使用能力は全部で3つ。
 巨大な頭で噛みついて動きを封じる単攻撃と、体のあちこちから爆竹をばら撒く列攻撃。そして負傷とバッドステータスを回復するロボットダンスだ。
「戦いが滞りなく片付いたら、お祭りに寄っていくのも良いかもしれん。息の合った獅子舞の踊りは、実に見事なものだそうだ」
 王子はそう付け加えると、最後にケルベロスたちへ激励の言葉を送った。
「ダモクレスとなった獅子舞の玩具も、かつては人の幸せのために踊っていたのだろうな。だが、こうなった以上は手加減無用だ。確実な撃破を頼むぞ」


参加者
リーズレット・ヴィッセンシャフト(愛を喰らわば世界まで・e02234)
シャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
暁・万里(アイロニカルローズ・e15680)
月岡・ユア(孤月抱影・e33389)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)

■リプレイ

●一
「バオオオオォォォーッ!!」
 鉄の獅子の雄叫びが、無人のビル街に轟いた。
 丸い月が浮かぶ夜空の下、ズシンズシンと足音を立てて路地裏から姿を現すダモクレス。その行く手を塞ぐのは舞い散る鮮やかな花弁の嵐だった。
「待ってたぜダモクレス。この俺に挑戦状なんて、面白い事してくれるじゃないか」
 怪盗ステラ・フラグメント(天の光・e44779)と、彼の仲間たちだ。
「バオ? バオォォーッ!!」
 獅子舞型ダモクレスはよほどグラビティ・チェインに飢えているのか、ケルベロスたちに気づくと、威嚇するように巨体を舞わせてガチガチと白い歯を打ち鳴らす。
 邪魔する奴は容赦しない、そんな無言の圧力をステラは真っ向から受け止めて、言った。
「生憎だが、グラビティ・チェインは盗ませないぜ。怪盗ステラの名にかけて!」
「こ、これはもしや、怪盗どうしの戦い……?」
 リーズレット・ヴィッセンシャフト(愛を喰らわば世界まで・e02234)は目を輝かせ、夢の対決を見られる幸運を喜んだ。今宵、怪盗ステラはいったい何を奪うのか?
「罪なき人々を救い、ダモクレスの悪事を奪うとか、きっとそういうやつ……だ!!」
 あれこれ妄想を膨らませつつ、簒奪者の鎌を構えるリーズレット。
 そんな彼女とは対照的に、月岡・ユア(孤月抱影・e33389)の態度は至って平静だった――少なくとも、外見上は。
「ふふっ、少しは骨がある奴なんだろうね? ボクを失望させないでよ?」
 穏やかな声、透き通る微笑。
 だが、抜き放った刀にユアが映す笑みは、これ以上ないくらいに挑戦的なものだ。ステラに挑戦状を叩きつける事の意味を、あのダモクレスにじっくり教えてやらねばならない。
「一緒に戦おうね、ユエ」
 ユアはそう言って、己のサーヴァントを振り返った。
 淡い微笑みを返すビハインド『ユエ』。かつて死別したユアの双子の妹だ。
(「もう二度と、君を喪ったりしないから」)
 初陣を前に、不安な気持ちは少しもない。ユエはまるでユアの心の声が聞こえたように、ユアの後ろへと移動して戦闘態勢に入る。
 対するダモクレスは咆哮をあげて威嚇すると、ゆさゆさと体を揺さぶって踊り始めた。
「バオオオォォォーッ!!」
「ふやー! すごい獅子舞なんだよ!」
 可愛いらしくも色鮮やかでコミカルな姿。けれど今は、グラビティを求めて彷徨う侵略者となった敵を、火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)はビシッと指さす。
「負けないんだよ! 頑張ろうねみんな!」
「おー! 格好良く退治といこーぜー! なの!」
「……人々のため、獅子舞のため、ここで止める」
 クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)と深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)が応じた。堅い絆で結ばれた二人の動きは、ユアとユエのそれと同じくらい息の合ったものだ。
「獅子舞さん、ここがあなたの最後の舞台だ。覚悟してもらうよ?」
 クレーエは戦闘モードのルティエに背を預けると、不敵な笑みをダモクレスに送った。
 かつては人々の幸せを願って踊っていた物。それを傷つける道具になどさせられない。
「意思を弄ばれていようとも、おいたはだめなのだわ」
 どこか危険で攻撃的な色を秘めた声でシャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)は笑うと、それに――と言葉を繋ぐ。
「わたくし達の素敵な怪盗さんに挑戦状を出したのだもの。宵に煌めき翔ける星の名を、憶えてお逝きなさい」
 白銀に輝く月を背に、シャーリィンは内なる狂気が高ぶるのを感じていた。
 今宵の舞台は、全てをぶつけて暴れることが出来そうだ。
「誰かの幸せを届ける為に踊っていた君……独りぼっちは寂しかったんだよな」
 暁・万里(アイロニカルローズ・e15680)は、俄に活気づいて踊り始める獅子舞にそっと語りかけた。
 人々のために踊り続けた玩具の、最後の相手を務めるために。
「さあ、祭囃子に乗って天へ帰ろう。ラストダンスの始まりだ」

●二
「さあ、思う存分暴れよう!」
 戦闘開始と同時、クレーエが中衛から九尾扇を勢いよく振り下ろした。百戦百識陣の加護を得て、リーズレットのデスサイズシュートが飛ぶ。
「まずはその飾りを剥いでやる」
「バオォォーッ!!」
 色鮮やかな布飾りを切り裂かれながらも、獅子舞の踊りはますます激しさを増す。それが攻撃の準備動作だと気づいたシャーリィンは、掲げた縛霊手を前衛の仲間へと向けた。
「見とれてばかりもいられないわね――勝負よ」
 言い終えると同時、ダモクレスが空中を泳ぐような動きでシャーリィンへと牙を剥いた。
 動きを縫い留める一撃。それをすぐに、彼女のサーヴァントが盾となって止める。
「ありがとう、ネフェライラ。サポートをお願いね」
 シャーリィンの祭壇から噴き出す紙兵が、状態異常への耐性を付与していく。前衛の味方は5名と多いが、付与を洩れた者にはネフェライラが属性インストールでフォローする。
 その前方ではルティエが拳を握り固めてダモクレスへと跳躍していた。ボクスドラゴンの『紅蓮』を引き連れ、獅子舞の間合いへ飛び込む。
「ごーごー! キリキリ舞いさせてあげるんだよ!」
 紅蓮の頭上から降り注ぐのは、ひなみくの戦意が具現化された、透き通るヴェール。破剣の力を与える『ドロレス夫人の踵』だ。
「紅蓮、ボクスブレス!」
 ルティエの拳が降りぬかれ、ダモクレスの顎を打ち抜いた。よろめく足取りで舞う獅子舞を紅蓮の属性ブレスが捉え、千切れた布飾りが宙を舞う。
「どうしたの? まだまだ、踊れるでしょ?」
 祝福の矢をリーズレットに射ながら、楽しげに笑う万里。それを挑発と受け取ったのか、獅子舞ダモクレスは再び激しく踊り始めた。
「バオオオォーッ!!」
「そう、それでいい。僕がいる限り、踊り疲れたなんて言わせないよ」
 獅子舞の口は大きく開き、今にもケルベロスへ噛みつきそうだ。そこへ狙いを定めたのはひなみくのミミック『タカラバコ』だった。
「チャーンス、タカラバコちゃん! 愚者の黄金だよ!」
 その体から取り出したのは、分厚い真っ赤なお祝儀袋。ぶんと音を立てて投擲された袋は見事ダモクレスの口の中に直撃した。
「ナイスシュート、タカラバコちゃん!」
 ひなみくが親指を立ててミミックを褒める。だが、ダモクレスも負けていない。目を白黒させながら、ひなみくのいる前衛めがけて爆竹を発射してきた。
「バオオオォォーッ!!」
 鈴なりに結わえられた爆竹の束が、灰色の尾を引いて夜空に円弧を描く。一斉に炸裂するグラビティの衝撃波が、ビルの谷間を轟音と爆煙で満たしていく。
 空気が激しく揺さぶられ、砕け散ったガラス片がケルベロスへ降り注いだ。俄かに前衛の命中が損なわれたのを好機とばかり、ロボットダンスの舞いを踊り始めるダモクレス。
 ユアは紙兵の力で煙幕を振り切ると、ガラスを踏み砕きながら刀を手に駆け出した。
「ユエ、背中は任せるよ? 行ってくる……」
 ユエのグラビティが見えない鎖に姿を変えて、ダモクレスの体を縛り付けた。
 ダモクレスは異変を感じて咆哮をあげる。そこへユアが距離を詰めて、緩やかな弧を描く斬撃で獅子舞の胴体を切り刻む。爆竹の傷も意に介さない捨身の攻撃だった。
「ノッテ! ユアの……じゃない、ユアと皆の怪我を頼むぜ!」
 ステラは相棒のウイングキャットに清浄の翼を命じて、そのままダモクレスへ流星蹴りを叩き込みながら、ユアとユエの戦いに舌を巻いていた。
(「ユエ……本当に初陣なのか、あれで……」)
 そんな言葉を漏らしそうになるほど、ステラの目に映るユアとユエの戦いぶりは凄まじいものだった。
 掛け声も目配せも最低限、時にはそれすら用いることなく、お互いの欠けた動きの完全な延長として戦場を縦横無尽に駆け回り、容赦のない攻撃を浴びせ続けている。
 ユエを連れたユアは今や二人で一人の戦士であり、その力は明らかに強くなっていた。
「……ユアちゃん、凄いね」
「ええ、本当に凄いのだわ」
 万里とシャーリィンは、薬液の雨と花弁のオーラを前衛に送りつつ、静かに嘆息した。
 そして思う。
 二人の動きの阿吽の呼吸、そして迷いのなさ。ユエがデウスエクスの手にかかる前は、いったいどんな戦いをしていたのだろう、と。
(「……ユア……」)
 自らが心の拠り所とする女性――ユアの今まで見せたことのない姿。それを静かに見守るシャーリィンの前で、戦いは佳境へと向かっていく。
「バオオオォォーッ!」
 万里とシャーリィンが爆竹の煙幕を除去すると、ダモクレスは咆哮を轟かせて、ロボットダンスで傷を回復し始めた。状態異常の保護によって、ステラが付与した足止めが、ユアが付与したプレッシャーが、消し去られようとしている。
「させるか!」
 ルティエの拳が音速に乗って、ダモクレスの保護を吹き飛ばす。だが、獅子舞の踊りの力はよほど強力なのか、保護は未だ首の皮一枚で繋がっていた。
「もう一息っぽいね。リーズレットさん、ユアちゃん、いける?」
 ひなみくの問いに二人は頷いた。
「もちろんだ。ひなみくさんの分も大暴れしてみせる!」
「任せて。負ける気がしないよ」
「おっけー! れっつごー、かぶーん!」
 ひなみくのブレイブマインが闇を彩り、二人の血をたぎらせた。
 煙幕を突き抜けて走るストリートダッシャーを滑走し、リーズレットがダモクレスめがけ突撃。鼻面に叩きつけた蹴りが、破剣の効果で保護を跡形もなく粉砕する。
 悲鳴を上げるダモクレス。そこへ迫るユア。
 迎撃態勢を取ろうとする獅子舞ダモクレスを、ユエの念が巻き上げたガラス片の嵐が包みこんだ。月の光を反射して輝くガラスの粒はステージで煌くスパンコールにも似て、敵の体を容赦なく切り刻む。
「ねぇ、君の力ってそんなもの? つまらないよ……もっとボクと遊んでよ!」
「バオオオオォォォーッ!!」
 夜の街に響く、ダモクレスの咆哮。
 それをかき消すのは、ユアが歌う『Violate』の旋律だ。
「聞コエテマスカ? イノチノ警報音。――さぁ、覚悟を決めて……逝ってらっしゃい」
 ユアの紡ぐ死の歌はダモクレスの咆哮を悲鳴と絶叫に塗り変えていった。やがてそこに、コギトエルゴスムに亀裂が生じる音が微かに混じる。
「明けること無き夜、沈むこと無き月の舞台を始めよう――」
 クレーエは『白夜に堕ちる月』の歌声でダモクレスの動きを縫い留めながら、ビルの屋上に視線を向ける。この戦いを締めくくる、アカギツネのウェアライダーの青年を。
「さあ怪盗さん、頼んだよ」
「分かった、任せてくれ!」
 ステラは風に舞う木の葉のように軽々とビルの上へ跳び登り、傷だらけになった獅子舞を見下ろした。
「挑戦状をありがとう。これで幕引きだぜ」
 それはダモクレスとなる前の、素敵な玩具へ捧ぐ最後の言葉。
 アカギツネの怪盗は魔力を込めた足で夜空を踊ると、人のために踊り続けた獅子舞へ、とっておきのプレゼントを贈る。
「さあ、流れ星がみえるかな?」
 闇に輝く二連の流星蹴り。砕け散るコギトエルゴスム。
 ダモクレスは最期の断末魔をあげると、月を見上げたまま永久にその動きを止めた。

●三
 ケルベロスたちは戦いを終えると、現場の修復を済ませて街を後にした。
 雑踏に包まれた街の往来へと出て歩くこと暫し、中華街へ辿り着いた彼らを春節の賑わいが迎える。
 せっかくのめでたい場だからと、シャーリィンとユアは、リーズレットやルティエと共にチャイナドレスに着替えた。ステラは長袍、クレーエは熊猫の着ぐるみだ。
「見目麗しいお嬢さん方のチャイナ姿は華があって素敵ね」
「ううん、奥様は綺麗だなあ」
 万里は目の保養とばかり、女性陣の華やかな姿を眺めた。クレーエはといえば、熊猫姿でルティエの方にずっと目がいっている。
「どうかな、ユア? 格好いい?」
「うん。似合ってるよ、ステラ」
 ノッテを連れたステラは、物静かな青年文士といった佇まいだ。それに笑顔で頷くユアのドレス姿も美しい。つい息を忘れたことを悟られなかったか、ステラは少し不安だった。
 一方ひなみくは花より団子と、通りの店から漂う料理の匂いに黄色い声をあげている。
「きゃー、すごいお祭りなんだよ! 中華! といえば~~~……肉まん!」
 タレの絡まった肉煮込み、ゴマ油を混ぜた豚挽肉……どんな者の食欲も呼び起こすに足る魔性の香り。ひなみくはタカラバコを抱え、すっかり辛抱たまらないといった様子だ。
「タカラバコちゃん、肉まん食べよう! 半分こだよ!」
 早速肉まんを頬張り始めたひなみくに、ユアと仲間たちも胃袋をくすぐられたようだ。
「ねぇ、ステラとシャーリィンは何を食べる? ボクは杏仁豆腐食べたいなぁ」
「杏仁豆腐か。俺はまず、胡椒餅と肉まんだな」
 ステラは焼きたての胡椒餅を息で冷まして千切り、その香ばしさを楽しんでいた。生地にまぶされたゴマは、中に詰まった肉とネギの風味を高めてくれる。
「ふふっ、肉まん美味しいわよね。わたくしは、こんなスイーツも買ってみたわ」
 そう言ってシャーリィンは、ゴマをまぶしたアツアツの団子を紙袋から取り出した。
 時折ネフェライラにもお裾分けしながら、団子と肉まんをぱくぱく頬張るネフェライラ。山のような量の料理も、大食いの彼女にかかればあっという間だ。
 リーズレットは、胡麻団子と一緒にあんまんも楽しんでいた。あっさりした餡の甘味が、じんわりと沁みるように美味しい。
「ひなみくさん。その肉まん、この胡麻団子と交換したいのだが……!」
「もっちろ~ん! はいどうぞ!」
 クレーエはというと、ルティエの杏仁豆腐と桃まんを少しシェアした後は、お土産に目を向けていた。中でも目を引いたのは、猫系のペアもののようだ。
「どれがいいかなー。迷っちゃうな」
 奥様の分とは別にクレーエがそれとなく探すのは、ユアとステラへの贈り物。一見ペア物には見えなさそうで、それでいて対になりそうな品――選ぶのに悩んでしまう。
 お土産を選んで、料理を皆でシェアし、賑やかな祭りをそぞろ歩きながら、ユアは静かに今の一時を楽しんでいた。
(「ふふ、なんだか新鮮だなぁ……」)
 大好きな人達がいて、ユエがいる。こんな贅沢な時間を過ごせるなんて夢のようだ。
 暗く冷たかった日々が、とても遠い昔のことに思えた。
「ユア! 獅子舞が始まるみたいだぜ!」
「ほんとだ、可愛い! ねえ見てユエ、あそこだよ!」
 獅子舞が囃子に乗って踊る姿に微笑むユア。
 その隣で同じ光景を眺めながら、ふとステラは思う。
(「俺は皆で遊びに来られたことが嬉しいよ。目に見えない思い出だ」)
 獅子舞の踊りが皆の願いを天へと運んでいくのを、ステラと仲間たちは眺めていた。
 いつまでも、いつまでも――。
 歓声と拍手が包む、春節の素敵な夜。
 怪盗の新たな宝物が、こうしてひとつ加わった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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