君の努力を貰っても良い?

作者:白鳥美鳥

●君の努力を貰っても良い?
 シア・アレクサンドラ(キボウノウタヒメ・e02607)は歌を歌う事が好きだ。今日は、広い所で歌いたい。そう思いつき、川辺に来ていた。
 まだ風は冷たく、金色の美しい髪が揺らしていく。その分、空気は澄んでいた。
 その澄んだ空気を思いっきり吸い込んで、シアは歌を紡ぐ。澄んだ空気はシアによって、澄んだ歌声となって辺りに響き渡り、そこだけ少し暖かい様に感じられた。
「……素敵な歌声だね」
 誰かがシアに声をかけてくる。振り返ると、不思議な生き物がいた。黒の顔に黄色の目から同じ色の涙を流している。
「……君の努力を貰っても良い?」
 そう言うと、その生き物は、シアに向かって弓を引いた。

●ヘリオライダーより
「みんな、緊急事態だよ!」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、大慌てでケルベロス達に話し始めた。
「実はシア・アレクサンドラ(キボウノウタヒメ・e02607)が、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受ける事を予知したんだ。勿論、直ぐに連絡を取ろうとしたんだけど、全然連絡が取れないんだよ! みんな、シアが無事であるうちに救援に向かってくれないか?」
 デュアルは説明を始める。
「シアは河原にいるらしい。見晴らしが良くて、他に誰もいないから直ぐに見つけられると思う。相手はドリームイーター。見た目は……何ていったら良いのかな? 動物の様なそうでもないような……不思議な外見をしている。とにかく、見たら直ぐ分かると思う。能力は弓矢の様な感じで使ってくるよ」
「大変なの!」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、大きな声を上げる。
「シアちゃんが危ないの! みんな、一緒に助けに行って欲しいの! お願いなのよ!」


参加者
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
ベルタ・プリメーラ(アンヘルガラクシア・e01960)
シア・アレクサンドラ(キボウノウタヒメ・e02607)
ロリータ・コンプレックス(オラトリオのパラディオン・e02845)
皇・絶華(影月・e04491)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
叢雲・刃心(セイクリッドセイバー・e29861)
焚本・果菜(涙目のハテナ・e44172)

■リプレイ

●君の努力を貰っても良い?
「……君の努力を貰っても良い?」
 シア・アレクサンドラ(キボウノウタヒメ・e02607)の目の前で不思議な生き物が黄色の涙を流して、そう言った。弓を引いたままの姿で。
「シアお姉さん、大丈夫ですか!?」
「無事か、シア嬢!」
 涙に気を取られて、ドリームイーターの前で動けなくなっていたシアに、親しい人達の声が聞こえた。
「ベルタ君、先生! ……それに、他の皆様も……!」
 振り返ると、大切な恋人であるベルタ・プリメーラ(アンヘルガラクシア・e01960)、先生と慕う四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)、他にもこちらに来てくれるケルベロス達が見えた。
「皆様、助けに来て下さったのですね。ありがとうございます!」
 心強い味方を得て、シアは心から安心し、笑顔を向ける。……そして、改めて、自分に襲い掛かろうとしていたドリームイーターを見た。
「あなたは誰、なぜそんなことをするの、なぜ泣いているの……?」
 いつの間にか、そう言葉を零していた。殺される所だったのに、何故。そう、自分でも思う。でも、目の前のドリームイーターからは……努力を奪おうという心よりも悲しみの方が強く感じられたからだ。
「……僕の名前はシュツェケイローン」
 そんなシュツェケイローンに、皇・絶華(影月・e04491)も興味を覚えた様だ。
「……少しだけ疑問を伝えよう。お前は何故そうも……悲しそうなのだ? 私は人も誰かの感情の機微にはあまり詳しくはない。だが……そういう能力を持つ者は愉悦に浸りやすい気はしたのだがな」
「……愉悦。……考えた事も無かった。そういう風にも見えるんだね」
 シュツェケイローンは、絶華の言葉に、少し驚いた表情を見せた。努力を奪おう、そう考えているドリームイーターではあるが、このドリームイーターにとっての『努力』は少し違う意味合いを持っている様だ。
「……そうだね。……敢えて言うなら……僕もずっと努力してきたから。いつも、弓矢の修行にあけくれていたよ。ずっとずっと努力をしてきたから……奪おうとしている『努力』が、その人にとって、とても『大事』である事を知っているから……。だから、僕は、その行為をしようとする度に胸が締め付けられるのかもしれない。……知らずに涙を零すのかもしれない」
 そう言うシュツェケイローンは、再び涙を流す。
「努力ってのは自分でするものであって他人のを貰うものじゃない」
 叢雲・刃心(セイクリッドセイバー・e29861)は、そう言葉を零す。
「……だけど、こいつは『努力』を分かっている。それなのに努力を奪おうとしている、か。見事なまでの矛盾だな」
「きっと、それは貴様にとっても悪夢であり悲しい話、なのかもしれないな」
 そう、奪う何かの大切さを知っている。それを悪用する事をどこかで拒んでもいる。その涙の意味も知ってしまうと、辛くも感じる。シュツェケイローンは何故、ドリームイーターなのだろう、と。
「でも! あなたがどういうものであろうと、ボクの大切なシアお姉さんをおそおうとした事実はかわりません!」
 ベルタはそう声を上げる。……そう、確かにシュツェケイローンはシアに牙を向けた。その事実は変わらない。
「……シアを守る為にも、貴様の悪夢を終わらせる為にも……消えて貰おう」
 絶華の言葉を皮切りに、戦いの火蓋が落とされた。

●ドリームイーター・シュツェケイローン
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
 沙雪は神霊剣・天の刀身を刀印を結んだ指でなぞり、そう名乗ると、刀印を結び、九字を唱えつつ刀印を結んだ手で印を四縦五横に切る。それによって生み出された光の刀身を用いてシュツェケイローンに向かって斬りつけた。更に、絶華の輝きを放つ重い蹴りが叩き込まれる。
「……僕もね、努力してきたんだ。だから、僕の努力の証を見せてあげるよ」
 シュツェケイローンは弓を引く。その矢は哀しみを表すのか青い色を帯びていた。そして、複数の矢を一気に解き放ち、焚本・果菜(涙目のハテナ・e44172)達に浴びせかけた。その矢を受けると、意識が朦朧としてくる。
「シアは大切な友人。殺させはしない」
 マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)は、無表情ながらも、シアに視線を送ると、ケルベロスチェインを使って魔法陣を描き、守りの力を高めていく。
 戦うと決めている筈なのに、シュツェケイローンはやはり涙を流している。それを見るとシアも胸が締め付けられる気持ちになるが、ドリームイーターである以上、倒さなくてはならない、そう心を決めた。
「ベルタ君達に守りの力を与えますわ」
 シアもケルベロスチェインを用いて魔法陣を描くと、ベルタ達の守りの力を上げていく。
「主よ、たたかう皆さんをみまもってください……!」
 ベルタはオーロラの様な光を用いて、果菜達にかかっている眠りへの誘いを解いていった。
「我はオラトリオ。時の介入者にして支配者なり。今こそ我が力もて汝の時をこの空間に繋ぎ止めん。――時空凍結弾――!」
 ロリータ・コンプレックス(オラトリオのパラディオン・e02845)は、凍結の弾丸を次々と繰り出していくが、シュツェケイローンには中々当たらない。リスク承知で繰り出してみたものの、中々、状況は厳しそうだ。
「努力家で更に努力を貰おうとするとは面倒なドリームイーターだな……。だが、シアは大事な友達だからな。消えて貰う」
 刃心は二振りのゾディアックソードを構えると、自らの守護星座である射手座の力でシア達の護りを固めていく。
「怖いけどっ……でも、頑張んなきゃ……! 私は、ケルベロスなんだから!」
 果菜は自らを鼓舞し、必死で怖さを抑え込みながら、シュツェケイローンに向かって行き組み付いて、注意を引こうとする。
 ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、戦況を見ながら手を考える。いくつか取りたい手があるからだ。その優先順位がかなり難しい。
「……まずは確実性を取るの! 刃心ちゃん達に集中力を……!」
 ミーミアはオウガ粒子を放って刃心達の集中力を研ぎ澄ませていく。ウイングキャットのシフォンはマルレーネ達に清らかな風を送っていった。
「絶華君」
「ああ、任せろ」
 沙雪の言葉に、絶華は頷く。まずは、絶華の空の霊気を乗せた斬撃がシュツェケイローンを斬り刻んでいく。続き、沙雪は二振りの神霊剣に凍結の力を宿すと、斬り払った。
 シュツェケイローンの流す涙が、更に大粒の物に変わっていく。その黄色い涙はオーラへと変わって自らの身体を包んでいった。
 マルレーネはケルベロスチェインで魔法陣を描き、ベルタ達の守りの力を高め、ベルタは分身の術を使って刃心の護りを高めた。
 一方のシアはオウガメタルを使って鋼鉄の拳をシュツェケイローンに向かって叩き込む。
「ミーミア様、支援をお願い致します!」
「了解なの!」
 先程はリスクを取ったが、少しでも命中精度は高めたい。ロリータの声にミーミアは頷くと、ロリータとマルレーネの二人にオウガ粒子を放ち、命中力を高めていく。その援護を受けてロリータはシュツェケイローンに向かって攻性植物を放ち喰らわせた。続き、刃心は射手座の重力を宿した重い斬撃を繰り出し、シュツェケイローンを覆っていた護りの力を破る。
「私だって努力してる! 鎧とか武器とか重いからランニングとかしてるもん!」
 そう言う果菜も涙を流している。戦いをする上で、辛い努力も涙を流す事も怖いと思う事も沢山ある。目の前にいるシュツェケイローンに何があったのかは分からない。でも、そんな姿になった相手よりも自らの方が心はずっと強い。だから、負けたりはしない。その心を灼熱の溶岩へと変え、シュツェケイローンに向かって放った。
 シフォンはマルレーネ達へと清らかなる風を送って護りの力を高めていく。
 そんな中、絶華がシュツェケイローンに話しかけた。
「ドリームイーターは夢を司る為なのか変わった格好が多いな。そしてそれらには何らかの意味がある場合も多いそうだ。果たしてお前の姿が齎している意味とはなんだろうな?」
「……多分、少しだけ僕で……後は分からない。……何か意味があるのかもしれないけど……分からない」
 彼の問いに、シュツェケイローンは自らの姿を見回し、そう答える。
「……そうか。ただ……私もお前の様な変わった姿の獣を宿す技は知っている。それをとくと味わうがいい」
 そう言った瞬間、絶華の姿が変わる。古代の魔獣の力をその身に宿した彼は、シュツェケイローンに襲い掛かった。獣の如く刃を自らの爪として操り容赦なく斬り裂いていく。
「鬼魔駆逐、破邪、建御雷! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 シュツェケイローンに態勢を整えさせる前に、沙雪も印を切り、光の刀身を形成させると斬り伏せた。
「……ここにいる人達は、皆、とても努力してるね。僕にはそれが分かる。分かるからこそ……」
 ゆるりと起き上がったシュツェケイローンは矢をつがえる。その先に入るのはシア――。
「……!! 大丈夫、シアさん!?」
「! 果菜様、ありがとうございます。助かりましたわ」
 矢が届く前に、果菜が庇いに入った。それに対して、シアは感謝の言葉を告げた。その言葉に、痛みを抱えながらも果菜は少し笑顔を見せた。少しでも力になれた事が嬉しくもあったから。
「果菜さん、直ぐに回復します!」
 ベルタが駆けつけてきて、果菜の傷を直ぐに癒していった。
 先程、ロリータと共にミーミアから支援を受けたマルレーネは攻撃に入る。星型に作り上げたオーラをシュツェケイローンに叩き込んだ。
「皆様を、これ以上、傷つけさせるわけにはいきませんの」
「シア様、援護します!」
 シアは毅然とした目でシュツェケイローンを見つめる。そして、ロリータと共に凍結の弾丸を撃ち放った。続き、刃心は舞うように跳び、シュツェケイローンに電光石火の蹴りを叩き込む。
「シアちゃんに力をあげるの!」
 ミーミアは雷の力を使ってシアの力の底上げをしていく。シフォンもシア達に清らかなる風を送りこんで行った。
「……でも、僕は……」
 変わらず黄色い涙を流し続けるシュツェケイローン。だが、その弓はまた引かれる。今度は複数の矢が沙雪達に降り注いだ。
「立つのも大変な筈だ。一気に行こう」
「分かった」
 沙雪と絶華は頷きあうと、シュツェケイローンを囲む。沙雪は二振りの神霊剣に凍結の力を乗せると斬りつけ、絶華は空の霊気を乗せた斬撃で斬り刻んだ。更に、マルレーネが星座の重力を乗せた斬撃を加える。
「シア」
「シア様、今です! 努力した者のみが揮える力、見せてあげてください!」
「最後はシアの手で、シアなりのやり方で幕を閉じてあげてくれ」
 マルレーネ、ロリータ、刃心がシアの方に向いて、そう促す。それに、シアは力強く頷いた。
「眠りなさい、魂の帰る場所、優しさに包まれながら。……もう、あなたが泣かなくても済むように……」
 アリアデバイスであるアクアマリンの瞳を展開させ、シアは歌う。優しいシアの歌声は響き……シュツェケイローンは黄色の涙となって消えていったのだった。

●大切な人達
「シアお姉さん、だいじょうぶですかっ!」
「ベルタ君……大丈夫ですわ。心配させてしまってごめんなさい」
 ベルタが一番にシアに駆け寄り、抱きついた。優しいシアの言葉に、ベルタは抱きつく力が自然と強くなる。……勿論、シアに負担はかけない程度で、だけれど。
「またお歌、うたってくださいね? だいすきなシアお姉さんのお歌、ずぅっといっぱい聞きたいんです……♪」
「ええ、勿論ですわ」
 ベルタの言葉に微笑みを零すシア。大切な人の言葉ほど嬉しいものは無い。
「シア嬢が無事で良かった」
「……うん」
「本当にご無事で何よりです」
「ああ。本当に良かったぜ」
「……先生、マルレーネ様、リタ様、刃心様……それに、絶華様、果菜様、ミーミア様もありがとうございました。皆様のお力添えあっての事ですわ。とても感謝していますの」
 改めて、シアは助けに来てくれた友達や仲間達に感謝の言葉を述べて、頭を軽く下げた。
「果菜ちゃん、果菜ちゃん」
 くいくいっと果菜は小さなオラトリオに引っ張られる。
「キャンディなの。元気出して欲しいの。涙、ふいてね?」
 キャンディとハンカチを渡される。それで、まだ自分が涙を流している事に気が付き、同時に安心もした。
「うん、ありがとう」
「ふふ、どういたしましてなの」
 シアの周りでは、彼女の心配をしている友人達が集まっている。
「シアお姉さん。お歌ききたいです。……こんどは、シアお姉さんらしい、優しいお歌をききたいです」
 ベルタはそう言うと、そっとシアの頬に口付ける。それにシアは真っ赤になってしまったが、笑顔で頷いた。
 シアは歌を紡ぐ。これからの明るい未来への希望の歌を。そして、その歌を聞きながら、皆は思いを馳せる。……これからも希望は続くのだと、そう信じて――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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