浮遊植物、蹂躙す

作者:神無月シュン

 突如として姿を現した、攻性植物――サキュレント・エンブリオ。
 全長7mにもなる巨体が大阪の市街地上空に佇む。胎児の様なものが透ける肉厚の花びらにナイフの様に鋭い無数の根。
 サキュレント・エンブリオが根を振るうと、辺り一帯の建物が斬り刻まれ、崩れ落ちる。
 視界が開けたことにより、次に取る行動は――無数の根を伸ばし、人間を次々と串刺しにするのだった。

「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようです」
 集まったケルベロス達を前に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は説明を始めた。
「攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようです」
 おそらく、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、大阪市内を中心として、拠点を拡大させようという計画なのだろう。
 大規模な侵攻ではないが、このまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』いってしまう。
 それを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更に、隙を見つけて反攻に転じなければならない。
「今回現れる敵は、サキュレント・エンブリオと呼ばれる巨大な攻性植物で、魔空回廊を通じて大阪市内へ出現する事が予測されています。大阪市民と市街地に被害が出る前に、サキュレント・エンブリオの撃破をお願いします」

 サキュレント・エンブリオは1体のみで、配下はいない。
「出現位置は確認されているので、出現後の市民の避難などは、警察・消防の協力で行えることになっています」
 市街地での戦闘となる為、市街の被害はどうしても出てしまう。
 その被害を少しでも減らす為には、短期決戦での撃破が望ましい。
「サキュレント・エンブリオ出現地域の周囲には、中高層の建物も多いので、攻撃時の移動経路として使用する事が出来るでしょう」
 電柱などを利用して、戦場である市街地を立体的に使う事ができれば、有利に戦えるかもしれない。
「市街の被害は、最終的にヒールで回復する事ができるので、確実に素早く撃破できるような戦い方が望まれます」

「皆さんの警戒のおかげで、敵の動きが事前に察知出来ました。敵を倒し、どうか街と人々を守ってください」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
立花・恵(翠の流星・e01060)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)

■リプレイ


 警察の避難指示が飛び交う中、4人のケルベロスが現場へと歩いていく。不安そうに避難していく人々に声をかけて安心させてあげたいが、今は少しの時間も惜しい。
「大阪城の攻性植物……あんなに近場に敵の根城があって、しかもこんな事件が起きるなんて不安だよなぁ……」
 避難する人々を見つめ、立花・恵(翠の流星・e01060)が呟く。
「人払いしてもらえるってのはありがたい。その分戦いに専念できるな」
「だよね。おかげでこうして周囲の確認ができるよ」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は相槌を打ちつつ、戦闘に利用できそうな電柱、建物等を確認していく。
 その横では翼を広げ、鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)が建物の屋上目指し、飛んでいく。屋上に降り立つと、地上へと持参した『特製ワイヤーラダー』をおろす。更に『特製フック付ロープ』を建物の屋上から屋上にいくつも張り巡らしていく。
 敵の大きさを考えると、高い足場を用意しておくことが重要になる。梯子で登りの補助、ロープによる横移動の補助と、何もないよりは遥かに楽になるだろう。
「よし、こんなもんだろう。遠慮はいらねぇ戦闘時には有効活用してくれ」
「おー、じゃすてぃすー」
 道弘の様子をのんびりと眺めていた伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)は、満足そうに頷いた。
 辺りが静寂に包まれた頃、上空に空間の歪みが現れる。瞬きを一つ。次の瞬間にはそれが上空に佇んでいた。攻性植物――サキュレント・エンブリオ。
 全長7mの巨大な植物。肉厚の花びら一つ一つには胎児の様なものが透けて見える。そして地面すれすれにまで伸びる無数の根、先端はナイフが結び付けられているかと思えるほどに鋭い。
「お出ましみてぇだな」
 準備を終わらせ、地上へと戻ってきた道弘が呟く。
「んう。ふよふようねうね、か」
 空中に浮かぶサキュレント・エンブリオを見上げる勇名。
 チームの人数は普段よりも少ない。だからと言ってそれを理由に、逃げるわけにはいかない。苦しい戦いが待っているだろう。それでも負けるつもりはないと自らを奮い立たせるべく、声をあげる。
「ここから先は通行止めだよ」
「侵攻を許すわけにゃいかねぇ、ちゃっちゃと片付けるぜ!」
「さぁて、この街を守るためにも、短期決戦だなっ!」
「好き勝手させない、ここでどかーん、しとく、じゃすてぃすー」
 ケルベロス達は決意を胸に、それぞれ武器を構えた。


「これだけデカいんだ。外さねぇ」
 ドラゴニックハンマーを砲撃形態へ。狙いもそこそこに道弘の『ラスタライズガロン』が火を噴く。放たれた竜砲弾が花びらを撃ち貫く。
「大阪の街から、離れろっ!!」
 恵は電柱を駆けあがり、上空へ。空中で一回転すると、落下に身をまかせ飛び蹴りを放つ。
「補助ならお任せだよ」
 全体の状況を確認できる様、屋上へと上る和。光輝くオウガ粒子が道弘達に降り注ぐ。
 勇名を串刺しにしようと根を伸ばすサキュレント・エンブリオ。勇名は一本また一本とナイフの様に鋭い根をかいくぐる。
「……いっぱいなぐる、ぼくのしごと」
 サキュレント・エンブリオの真下へと辿り着くと勇名は根の中心目掛けて小型のミサイルを飛ばす。
 その間に建物の屋上へと上った道弘は、ロープを渡りながら斬撃を繰り出していく。
「その気色の悪ぃ花びら、根こそぎむしってやるよ!」
「こいつもおまけだぜ」
 更に恵の一撃が、サキュレント・エンブリオの花びらを爆破する。
「護りの力よ……」
 マインドリングに力を込める和。具現化された光の盾は、道弘の元へと飛んでいき守護するように追従を始める。
 いくつもの根を振り回すサキュレント・エンブリオ。一本一本が地を抉り、建物を斬り刻む。
「っ!?」
「くぅ」
 目にも留まらぬ速さで振り回される根に、近場に位置していた道弘と勇名は上空へあるいは壁へと身体を軽々と飛ばされる。
 上空へと吹き飛ばされた道弘は、地面に叩きつけられないよう一瞬翼を広げ、勢いを殺し着地する。
「何てぇ馬鹿力だ……」
 自己回復をすると同時、全身を禍々しい紋様が覆う。
「その根っこ邪魔だ!」
 建物の壁を蹴り、空の霊力を帯びた恵の斬撃が、サキュレント・エンブリオの根に目掛けて放たれる。幾度の攻撃でボロボロになっていた根は切断され、ズシンという音と共に地面に横たわる。
「まずは一本」
 遅れて着地する恵の眼前に別の根が迫る。
「くっ……このぉ」
 反射的に身体を捻る。サキュレント・エンブリオの根が顔をかすめ、通り過ぎていく。少しでも反応が遅れていたら、頭が串刺しになっていただろう。
「ああっ! 恵ちゃんの綺麗なお顔に傷が! ヒールヒール!」
 駆け寄り急ぎ治療する和。
「こんなのかすり傷だぜ?」
「けど、綺麗な顔に傷が残ったら大変だよ」
「綺麗とか言われても複雑なんだけど……」
 勇名はケルベロスチェインを建物に引っ掛け、一気に上りその勢いのまま上空へと跳び上がる。
「ずばっと」
 サキュレント・エンブリオの上へと着地すると花びら目掛け斬撃を叩き込んだ。


「ぐああああっ!」
 サキュレント・エンブリオの攻撃に、道弘の身体が吹き飛ばされ建物の柱へ直撃する。衝撃に柱は折れ、建物が倒壊する。
「いっててて」
 瓦礫の中から這い出てきた道弘に駆け寄る恵と和。治療を試みるも、回復の効きが悪い。
 それもそのはず。道弘は仲間を庇いながら戦い、人一倍敵の攻撃にさらされている。……限界が近いのだ。
 辺りにケルベロス達の荒い息遣いだけが響く。サキュレント・エンブリオの幾度の攻撃に無数にあった建物はそのほとんどが、瓦礫の山と化している。人的被害が出ていないのが救いだろう。
 道弘は軋む身体に鞭打って、サキュレント・エンブリオへと駆け出す。繰り出した攻撃に、合わせるように飛び出してきたのは勇名。
「んうー、手伝う」
 2人の斬撃がサキュレント・エンブリオを襲う。サキュレント・エンブリオの方も、ケルベロス達の攻撃に根も花びらも初期の半分程に数を減らしている。既にどちらが先に倒れるかの根競べのよう。
 追いうちで恵がサキュレント・エンブリオを爆破する。その間にも効果が薄いのを承知で回復を続ける和。
「ぎゅいぃぃん」
 勇名が腕をドリルの様に回転させ、サキュレント・エンブリオへと打ち込む。
 反撃に繰り出されるいくつもの根。離脱は間に合わないと、来るべき痛みに目をぎゅっと瞑る。しかし、いつまでたっても痛みはやってこない。恐る恐る目を開けるとそこには、全身を串刺しにされた道弘の姿があった。
「勇名……無事か? ……ぐぼぁ」
 口から血の塊を吐き出しながら、勇名の身を案じる道弘。
「だいじょうぶ……ぼくよりも鵤の方が……」
「俺は大丈夫……といいてぇが、どうやら……限界……みてぇ……だ」
「鵤……」
「そんな顔……すんなって……皆、後は……まかせ……た……ぜ」
 最後に皆へと笑いかけると、道弘は地面へと倒れ伏した。
「鵤ー!」
「道弘くん!」
「道弘っ!!」
 心配する気持ちを抑え、3人はサキュレント・エンブリオへと向き直る。後悔は後でいい。今は目の前の敵を倒す。それだけを考え、力を振り絞る。
「知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す」
 己が全知識を一冊の本へ。和の詠唱にサキュレント・エンブリオの頭上へ分厚い本が錬成されていく。
「いまだ! 必殺のー……てややー!」
「一撃をッ! ぶっ放す!!」
「うごくなー、ずどーん」
 落雷の速さで振り下ろされる本。一瞬で肉薄した恵。ゼロ距離でリボルバー銃『T&W-M5キャットウォーク』の引き金を引く。足元からは小型ミサイル。
 打撃が、銃撃が、爆発が。3人の攻撃が次々とサキュレント・エンブリオに襲い掛かる。
 サキュレント・エンブリオの身体が朽ちながら高度を上げていく。そして……花火の様に空中で爆散。それと同時に、花粉が四方八方へと飛び散るのだった。


「んうー。つ、つかれたー」
 限界だったのだろう。勇名は地面へばたりと倒れると、一瞬で寝息をたて始める。
「ヴィークトリー! いえーい!」
 右手を高らかにあげ、恵とハイタッチを交わす和。
 その後で恵は『T&W-M5キャットウォーク』をくるくると回し、ホルスターへと収めると、地面へと腰を下ろす。
 和は疲労で重い体を引きずって傷の手当の為に道弘の元へ。
「ん……ふあー」
「お目覚めかい?」
 勇名が目覚めると、目の前には包帯だらけの道弘の姿。
「んうー鵤もういいの?」
「おかげさまでな」
 あちこち痛むがなと豪快に笑った。
 ケルベロス達が上空を見上げると、宙を舞う無数の花粉が目に付く。風に乗って遠くへと流れていくのを今はただ見つめる事しかできない。
「さてー……ヒールするまでがお仕事ですよねー」
 辺りを見回す和。根元から折れた電柱、穴の開いた壁、抉れたアスファルト、乱切りにされたようなコンクリートの山、真っ二つに割れたビル。周囲に無事な建物は一つもなかった。それだけで今回の戦闘の激しさが窺える。
 休憩を終えた4人は立ち上がると、手分けして辺りの修復を始める。
「この電柱、持っててくれるかな?」
「こんな感じか?」
「そうそう、そのまま」
 恵が電柱を立てて持っている間に根元をヒールする和。
「これ、ぱずるみたいだねー」
「組み立てながら少しずつ直していくしかねぇな」
 勇名と道弘はバラバラになったビルをつなぎ合わせていく。
 全ての修復が終わる頃には、既に日が落ちる寸前だった。
「官憲にも終了報告しとかねぇとな」
 幻想が混じり完全に元通りとはいかないが、人が住むのに支障はない。避難解除しても大丈夫だと判断し、警察へと連絡を入れる道弘。
 避難した人々が徐々に戻ってくる。その顔には危険が去った安堵の表情。人々の様子を暫し眺めた後、4人はその場を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月4日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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