
ひと気の無い草原の端っこのほうで、趣味で個人映画を作っている一般人たちが居る。
どうやら忍者が主役の作品らしく、忍者を派手に立ち回らせることに重点を置いているようだ。
「ここで忍者が派手に登場して、派手に敵を蹴散らす感じで」
『馬鹿か! 忍者が派手に立ち回ってどうすんだよ!? 忍んでこその忍者だろ!? 隠密、そして死角から気づかれないように暗殺! それでこそ忍者だろ!? 忍ばない忍者とかどうせイケメンなんだろ!? くそがぁー!』
突如現れた異形の者が主張するなり、一般人の返答も聞かず、襲い掛かった。
「猫夜敷・千舞輝さんの推理から、事件が予知されました。個人的な主義主張により、ビルシャナ化してしまった人間が、この草原に現れます。趣味の範囲なのですが、忍者の映画を作成していた為、襲撃対象になったようです。事件が起こる前にビルシャナの討伐をお願いします」
「ド派手に立ち回る忍者も爽快感あってええやん。でござる、にんにん」
説明するセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)のあとに、猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)が忍者に良く見られる印を結ぶ。
「このビルシャナは、忍ばない忍者が許せないようです。忍者の姿をして、草原を歩いていれば真っ先に食いついてくるほどです。配下は、まだ居ません。避難誘導よりも殺界形成などで人払いを行なうほうが、安全かも知れませんが、どうするかは皆さんにお任せします」
撮影場所の近くで、忍者の姿をして散策していれば簡単に敵が釣れる、ということだ。
「なるべく多くの人数で、忍者になりきったり、忍ばない忍者の良さを語ったり、ビルシャナの主張をくつがえすような言動をしていれば、ビルシャナはインパクトを受けて戦意を消失します。そうすれば、一気に攻撃が可能となりますね。……皆さんで忍者映画のシーンを撮る、という手も有りますね」
ぼっちなビルシャナに、多人数での主張は、効果バツグンだろう。
「ビルシャナ化してしまった人は残念ながら救うことは出来ません。せめて被害が大きくなる前に、撃破をお願いします」
参加者 | |
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![]() 御神・白陽(死ヲ語ル月・e00327) |
![]() ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564) |
![]() ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231) |
![]() 猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868) |
![]() 猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454) |
![]() 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286) |
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(「いやぁ、買って一回着たはエエもんの、肥やしオブ倉庫になっとった忍者アイドル衣装、こんな時に出番があるとは思わんかったわ。やったぜ」)
ふりふりの袖、ピンク色と赤色のミニスカートの忍者風ワンピースを身にまとい、猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)は上機嫌に草原を歩く。
「ビルシャナの気を引くために、姉さんと似た衣装を着て……2Pカラーです!」
千舞輝の妹、猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)はポーカーフェイスを必死に崩さないようにしているが、耳がプルプルと震えている。
「お望み通り忍んで暗殺を試みますね」
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)は螺旋隠れを使い、その姿を隠す。
「千舞輝お姉さんと、愛楽礼お姉さん……衣装似合っています……デジカメで良ければ、写真を撮ったりしましょうか……」
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)も子供用の、カラフルな忍者なりきりセット衣装をまとっている。
「状況開始。まずは標的を炙り出すぞ、現れたら相手の心を折りにかかろう」
殺界形成を展開し、まったく忍んでいない忍者のように振舞って草原を進む、ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)。
「せっかくやし、歩いとるとかフツーな事言わんと、NINJA系アイドル、猫夜チマ参上! って感じで路上ライブでもやっとこかなー。これで釣られんかったら嘘やろ、うん」
「NINJA系アイドル、猫夜アラです! ああもう、ここまで来たらヤケです! 騒ぎすぎると一般人さんまで来そうとかそういうのは、きっと殺界形成さんがなんとかしてくれます!」
千舞輝がポーズをキメ、ノリノリで歌い始めると、愛楽礼も合わせるようにそろって歌い出す。
「戦う忍者いいよねー」
御神・白陽(死ヲ語ル月・e00327)が友人の千舞輝に軽い拍手を送っていると、なにやらこちらに向かって走って来る足音が。
『なんで! 忍者が! 派手に! ノリノリで歌ってんだあああ!?』
全力で走って来たのか、息をゼイゼイと切らしながらも、ツッコミを忘れない敵であった。
●
「はーい! チマだよー! 今日は私の為に集まってくれてありがとー! それじゃ一曲目! “説得という名の言葉のフルボッコ”はっじまっるよー!」
「姉さん! 私の為にじゃなくて、私たちの為にですよね!? 私たちって言ってください! でないと、私も火珠も合わせた意味が有りません……!」
千舞輝の言葉に、聞き捨てならないとばかりに食いつく、愛楽礼。
ライドキャリバーの火珠までも、舞台風にデコレーションされているのだから、真面目な愛楽礼が文句を言いたくなるのも仕方ない。
ペット用のふりふりな和服を着せられている、ウイングキャット、火詩羽もどことなく不満げだ。
「とまぁ、ここまでをご覧頂いた貴方ならお分かりでしょう」
『まったく分からん。おまえら忍者じゃなかったのか。ただのコスプレでセンター争いか?』
急に千舞輝が、敵に向けて話しかけるが、敵はインパクトを受け過ぎて混乱している。
「つまり、昔の忍者さん達だって、心の中では目立ちたいと思ってたんです! そして、実際に目立った人がいたんです! 今の私たちのように! ……多分」
姉のフォローに回ろうと、愛楽礼がまくしたてる。
『ええと……おまえらはやっぱり忍者で、目立ちたい忍者ということだな。馬鹿か! 忍んでこその忍者……』
「主張するなら、ちゃんと忍べよ」
『は!? 俺は忍者じゃ……』
「大体主張するなよ。忍べよ。引き籠もれよ」
なんとか持ち直した敵が最後まで言う前に、白陽が先回りして言葉を塞いでゆく。
「見え見えじゃないか。忍べ」
『もうヤダなにこいつ! 俺は忍者じゃねえ!』
グサグサと白陽に言葉で追い詰められ、敵は逃げるように白陽から距離をとる。
「お望み通り、隠密からの攻撃を開始しますが、良いでしょうか?」
物陰に隠れていたピコが敵の背後にいつの間にか接近し、刃を敵の首に宛てた。
『忍者だ! 隠密忍者だ! 最高だ! ……だが惜しいんだよ! なんでそこで喋っちゃうかな!? 喋らずに暗殺するのが忍ぶ忍者じゃねーの!? 忍者なら忍んでくれ!』
「忍んでの暗殺だけが忍者の役目でしょうか? 正直、デウスエクスに暗殺は不可能ですし、忍者も前線に立たなければいけない時代です」
ピコの行動に、理想の忍者を見つけたとはしゃぐ敵だが、すぐに肩を落とし、心底悔しそうに主張。
螺旋隠れを解いて敵から離れつつ、ピコは言葉を投げる。
「なるほど、君の主張はそれか。だが気付かないか? そう、殺界形成により人目は遮断している。私は術によって忍んでいたのだ」
『なんだって!? いや、しかし……おまえ! 忍者っぽくないから許せん!』
ハルが話し掛けると敵は驚き、周りを見回すが、ハルに視線を戻すと気に食わなさそうにギャアギャアと鳴く。
ハルがイケメンだから許せないのだろうと、その場に居る誰もが理解した。
「私はちゃんと忍んでいるんだぞ。なのに許せないとは、君が許せないのは本当にそれか?」
敵に向けて問うが、ハルは答えを聞かず、畳みかけた。
「否だ。君は顔がいい忍者が許せないだけだ。もっと言うと君は己の顔に自信が持てないだけといえる」
『うぐ……! そ、そんなことないしー? 忍ばない忍者が許せないだけだしー?』
明らかに目を泳がせて、挙動不審な態度を取る、敵。
「ビルシャナさんは勘違いをしていませんか……? 忍者は確かに忍んでいる印象が強いですが、それ以外にも沢山お仕事があったそうです……」
往生際の悪い敵に対し、今度は夏雪が儚げに言葉を投げる。
『ちっさいのと、今にも消えそうな雰囲気とで気づかなかった! おまえ、中々忍んでるな。よし、話してみろ』
敵は自然体で忍んでいる夏雪に目を掛けたのか、カラフルな忍者衣装にはツッコまない。
「誘導で敵の気を逸らしたり、殿を務めて味方を護る場合は、いかにも“曲者”という感じで逆に目立たないといけません……」
「戦闘になれば、忍ぶだけではいけません。派手な装束も敵の目を引きつけたり意味があります。ディフェンダーならなおのことです」
夏雪の論に、常に忍者の在り方を研究しているピコが、同意を示す。
「曲者! 猫夜チマめ! って感じかなー? ちょっと言うてや」
「曲者千舞輝?」
「もっと全力でノってくれてもええやんー」
その横で、仲良く遊んでいる、千舞輝と白陽。
「クノイチが露出が高かったり、体の線が出るのも色仕掛けの意味もあるのでしょう」
「ピコお姉さんの言う通りです……くノ一さんのお色気も相手の気を惹かなければいけないので、存在感が薄かったらいけない訳ですし……」
自分なりに考えた推察を口にするピコに、賛成する夏雪。
「今はなんでも多様性の時代、忍者も色んな需要に対応していかんと、この先、生きのこれへんのや!」
「そうだね、最近は多様化が大事。忍ばない忍者も求められることが増えている」
熱く語る千舞輝とは逆に、緩めで飄々と答える、白陽。
「カラテニンジャ然り、魔法系忍術忍者然り! むしろバリエーションを出してあらゆる方面に忍び込む、これこそが忍者の極意! 的な」
千舞輝が言い切ると、愛楽礼は少し思案してから口を開く。
「たしかに最近の忍者って、逆に派手なイメージですけど……元の意味や存在とは、全然違ってるものって、結構ありますし。もう、別物の存在として考えた方がいい気がしますね」
『別ものだと!? お、俺の、忍ばない忍者が大好きな気持ちを完全否定する気か!?』
敵は愛楽礼の言葉に衝撃を受けてから、わなわなと怒りに震えた。
●
「非常に言い難いのですが……。本業の螺旋忍軍さん達、この間も堂々と暴れていましたよ……?」
『あいつら絶対忍者じゃねーし! 忍軍とか名乗ってるけど忍者とか俺は認めねーし!』
夏雪のインパクト発言に、敵は苦しみながらもじたばたともがき、諦めない。
「そもそもですが、本気で忍んでる忍者が貴方程度に発見されると思っていたのですか?」
『え?』
「派手な忍者を隠れ蓑にして見えない所で行動してますよね」
もっともなピコの意見に、敵は理解力が追いついて来ないのか、ぽかんとしている。
「忍者は忍ぶもの? そんな狭量な考え方では忍者好きとはとても言えません!」
『な、なんだと!?』
愛楽礼のほうを向き、怒る敵。
「いいですか! 今あなたが忍者という存在をなぜ知る事ができているか! もう一度考えてみなさい!」
愛楽礼は怯まずに、びしっと敵を指差す。
敵は沈黙し、思考した上で、不思議そうに頭をかたむけた。
考えてはみたが、分からなかったようだ。
「忍者が本当に、ずっと忍んで、表舞台に現れていなかったのなら……こうして人々に知られる存在になっていると思いますか!?」
「愛楽礼お姉さんの言う通りです……本当に忍んでいたのであれば、“忍者”という存在自体が世間に知られていないはずですし、ビルシャナさんが“忍者”の事を知っている時点で、完全に忍びきれていませんよね……」
理解力の少ない敵にしびれを切らした愛楽礼が畳みかけ、夏雪も続く。
「ああ。忍ばない忍者こそ今の正道!」
『そんな馬鹿な! いてえっ』
白陽が断言し、言い返した敵を、さくっと容赦なく斬る。
「ちゃんと避けろ。忍者失格だ」
『だから俺は忍者じゃねーっつうのおおお!』
敵はフラフラとした足取りで、白陽から距離をとった。
「忍んでいる忍者といったな、あれは嘘だ。忍びはしたが私は刀剣使い、忍者ですらない」
『なん……だと……!?』
「そして、己の顔に自信が持てない君は残念極まりない。鳥になってしまったのだから、もうそれを気にする意味すらないというのに」
ハルが現実をぴしゃりと言葉で叩きつけ、弱っていた敵はそのインパクトに耐えきれず絶望する。
「気になったんやけど、NINJA系アイドル、猫夜チマと猫夜アラ、クノイチやったらどっちがお色気ある? ちなみに一歳差やで」
全員の話を一応聞いていた千舞輝が、フリーダムに、仲間たちに問う。
「姉さん……思考を中断させないでください……今のこの状況を直視するのは辛いんです……!」
攻撃体勢に入ろうとした愛楽礼が、一瞬、がくりと崩れ掛けた。
体勢を整え直し、獣化した手足に重力を集中し、高速かつ重量のある一撃を敵に打ち込む、愛楽礼。火珠も攻撃に加わり、ダメージを重ねる。
「物理のフルボッコのはじまりやー!」
達人の一撃を叩き込む千舞輝と、羽ばたきで邪気を祓う、火詩羽。
「ピコお姉さんも……くノ一さんのお色気が、有るのではないでしょうか……?」
「ダミー投影開始。パターンは命中支援でランダムに。今のうちに、態勢を整えて下さい」
真夏でも表面に雪が残る不思議な槌を変形させ、竜砲弾を敵に撃ち放った夏雪が、ピコにそっと視線を向ける。
散布したナノマシンで味方のホログラムを投影し、前衛に支援を行なったピコの服装は、クノイチのような服に変わっていた。
共にトドメを刺したいとお互いに思っていた友人同士の白陽とハルが、刀を構える。
「せっかく友人と同じ戦場に立つのだから、白陽の技と連携して仕留めよう。……さよならだ」
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
舞うように敵を斬り刻むハルに合わせ、刀剣を振るうも敵に物理的な傷は与えない、白陽。
ハルが2本の刀で敵を両断すると同時に、白陽は敵の存在と生命の根源を直接解体。
2人の同時攻撃がトドメとなり、敵はばらばらに斬り裂かれて完全に消滅した。
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「白陽、折角だ。手合わせと行こう」
「ハルさんと手合わせか。楽しそうかも」
一目置いてる剣士、ハルからの誘いに白陽は応じ、腰の後ろに交差させた短刀を引き抜く。
間合いを一足で詰めた白陽に対し、読んでいたとばかりに跳躍してかわす、ハル。
「白陽お兄さんは忍者のようで……ハルお兄さんは侍のようで……どちらも、かっこいいです……!」
夏雪は同じ男として憧れの眼差しを、2人に注いでいる。
「男性陣は剣技に夢中っちゅーことで、ウチら女性陣はお色気勝負でどや!? ほらほら愛楽礼もセクシーポーズや!」
「私で良ければお相手しましょう」
「ああもう、賭けゲームなんて受けるんじゃなかった……なんでこんな事に……!」
千舞輝が楽しそうに誘うと、ピコも同じ依頼を解決した者同士、なにかするべきだろうかと判断し、頷く。
草原に、愛楽礼の後悔の声が響いた。
作者:芦原クロ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2019年2月1日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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