ライブに潜んでダフ屋衆

作者:遠藤にんし


 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は、街がいつもとは違う賑わいに満ちていることを感じて足を止めた。
「何だろう?」
 ジャケットやコートの下のTシャツや手持ちの道具を見る限り、どうやら近くでライブがあるらしい……楽しそうだな、と思いながら通り過ぎようとした右院だったが、何か違和感があった。
 ざわめく人と人。その間を縫うように歩きながら誰かと会話をして何かをやり取りする少女――その少女の姿に、何か異質なものを感じたのだ。
「……」
 じっと彼女を見ていたせいか、右院と彼女の目が合う。
「――そう。気付いてしまったのね」
 独り言のように呟いた彼女は、肩にかけていたタオルを手にして。
「仕方ないわ。ここでお前を殺します」
 端的に、右院へと告げるのだった。

 ライブ会場の付近で、デウスエクスの襲撃が起こったことを高田・冴はケルベロス達へ報告する。
「今回、襲撃をしたのは螺旋忍軍のダフ屋衆。ライブ会場付近にいた彼女に目を付けられてしまったようだ」
 ライブ開始直前で、ライブ会場の駐車場に人は多くない。
 また、ライブが行われるということで警備員等もいるため、避難に時間は割く必要はない。
「やって欲しいことは、ダフ屋衆の撃破だ。どうか、気をつけて行ってきてほしい」
 ダフ屋衆は変装や偽装に長けており、その能力を活かしてライブや舞台のチケット等の複製を行うなど、悪質な行為を繰り返していたらしい。
「違法行為を見つかったとなれば、口封じの意味も込めて激しく攻撃をしてくることが予想される」
 こちらにも相応の覚悟が必要だろう、と冴は言い添えて。
「急いで向かわなければ、右院さんが危ない。準備は大丈夫かな?」
 問えば、ケルベロスたちは力強くうなずくのだった。


参加者
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
 

■リプレイ


 逃げる瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)、追いかけるダフ屋衆。
「いや、俺は別にそんなにライブとか行かないし勝手にすればって感じなんだけど……」
「だとしてもあなたはケルベロスです。私の仕事の邪魔をする人間ですので、ここで殺します」
 ライブに思い入れのない右院としてはもらい事故に近い襲撃なのだが、ダフ屋衆は右院に迫って頭の上で掲げるタオルをぶんぶん回している。
「あなたを倒した後もやることがあります。このライブ限定グッズを新品未使用でフリマアプリに出さなくてはいけません」
 その言葉に、逃げていた右院の足が止まる。
「それが終わったら映画試写会の招待状もフリマアプリに出して……ああ忙しい忙しい」
 右院の眼が、クワッと見開かれて。
「え? イベント限定アイテムが早期に完売してなぜか新品未使用でフリマアプリに出回るのもCDリリースイベントやら映画試写会の倍率が際どくなってしまうのも、皆お前のせいだというのか……!?」
「もちろんです」
「ならば殺す……!」
 くるっとダフ屋衆の方へ振り向いて心眼覚醒、そうするうちに仲間のケルベロスたちも駆けつけ姿を見せた。
「チケットや限定品の複製はダメ、絶対です! ダメなものはダメッ! 絶対ッ!」
 スコティッシュフォールドの耳をぴょこっと揺らして朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)はダフ屋衆と右院の間に割り込んで、思いっきり拳を叩き込む。
「しかもバレたからって瀬入さんを襲うのもアウトですってば! 大人しくお縄につきなさーい!」
 ん院を襲撃した、ということもあって環はご立腹。
 ぷりぷりお怒りの環を見て、人首・ツグミ(絶対正義・e37943)は少しばかりの笑みを浮かべる。
 デウスエクスというだけでも悪だというのに、このダフ屋衆は違法行為を常習的に繰り返した挙句殺人未遂まで――どこからどう見てどう考えても悪と断じ、ツグミは言う。
「では、処理しましょうかーぁ」
 言うが早いかツグミは凝視棍ラブスを手にダフ屋衆へと接近。
 ダフ屋衆が絶えず振り回し続けているタオルを絡め取るようにして捌いた後、薙ぐようにして払うツグミ。
 そのまま払い飛ばしてしまうことも出来たが、ミミックの収納ケースがダフ屋衆の背中を看板で殴ったことにより、ダフ屋衆はその場に留まる。
 ライブ会場の警備員らによって避難が進められているとはいえ、大きく立ち回れば攻撃の余波が一般人へ危害を加えることはあるかもしれない。
 ケルベロスたちはそのように考えて、辺りへの被害を抑えるように戦いを進めていた。
「出たな転売ヤー。此処で会ったが百年目、無事に帰れるとは思わない事デス」
 告げるモヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)は癒しの雨を作りながら拳を震わせる。
「利益の為に偽造まで行うだと……? ならばコギトエルゴスムの欠片も残さぬッ!!」
 キャラ付けを保てず激怒、必ずやこの邪知暴虐を取り除かんと決意するモヱ。
 そんなモヱに、ダフ屋衆は溜息をつく。
「分からない人たちですね。仕方ありません。全員ここで殺します」
「いいや、違法行為を断罪されるのはあなたの方だ」
 空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)もまた怒りをたたえ、姿を見せる。
 モカの両手には鋭い刃。風を切って疾駆するモカは漆黒の髪を耳元で揺らしながらダフ屋衆へ踊りかかり、閃く刃で幾重もの斬撃を刻んだ。
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は手にした銃身改造デスバイリボルバーの銃口を自身の足元へ向けて撃ち、地中へと魔力を注ぐ。
「地より這い上る闇の鎖よ、リリの敵を締め上げろ!」
 リリエッタの命令に従って地中で弾丸がほどけ、魔力へと変わって闇鎖になる。
(「こいつはどこの勢力の回し者だろう……?」)
 まだまだ螺旋忍軍が暗躍していたということもリリエッタにとっては気になるところではあったが、今は右院を助けるためにダフ屋衆を排することが先決。
 幸いにも右院のそばにはテレビウムのマギーがおり、応援動画を画面に表示させながら鋏を大きく開いて警戒態勢。
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は煌めく糸と針を生み出してダフ屋衆をその場に縫い留めながら、右院へ向けて声を上げる。
「右院、大丈夫か!?」
「ありがとう、大丈夫だよ!」
 ダフ屋衆は食い止められているから今は右院に近づくことは出来ない。
 それでも糸を引きちぎろうとするダフ屋衆へ向けて、ピジョンは声を上げる。
「チケットの複製も転売も見過ごせないが、何より、人を襲っておいてタダで帰れると思わないでほしいな」
 夕焼けの輝きを銀糸に映して、ピジョンはダフ屋衆へと告げる――そのようにして、戦いは始まった。


「許しマセン……好きでもない演目のチケットを売る目的で取るなど言語道断!」
 モヱの深い憎しみを示すかのように、収納ケースはエクトプラズムを『Magical i-Land』に似せてダフ屋衆を叩きのめす。
「何故だかお前だけは前世から許さなかった気がする……!」
 忌むべきものを前にするモヱは絶え間なく仲間たちへヒールを送り、仲間たちが手折れずダフ屋衆をタコ殴りにするための支援を怠らない。
 ダフ屋衆も負けるまいとスマホによる殴打やタオルをぶん回すなどで対抗してくるが、それらの攻撃は今一つ精彩を欠いたものだった。
「そろそろ低下してきた頃合いですねーぇ」
 狙い通りですーぅ、と嬉しそうなのはツグミ。
 戦いが始まってからというものツグミはダフ屋衆の護りを破り、攻撃の力を落とすことに注力してきた。
 その成果としてダフ屋衆の攻撃は当たろうともケルベロスたちに致命傷を与えることは出来ず、ケルベロスたちの攻撃はダフ屋衆にとっての痛手となっている。
「きっと楽しい時間になりますよーぅ♪ 」
 鹵獲術士と降魔拳士、無理にとはいえ融合された力が奏でるのは疫病のごとき調べ。
 軋む音はダフ屋衆の胸をかき乱し、汚染することでこれまでに受けてきたものを増幅させる役割を果たす。
 ――その調べがやむ頃に、ところで、とリリエッタはダフ屋衆に問う。
「ダフ屋って何……?」
「ダフ屋。それは尊い行いのことですよ」
 表情を変えることなく告げるダフ屋衆に噛みつかんばかりの表情のモヱ。
 そんな二人の表情を代わりばんこに見てから、とりあえずよくないものであるらしいということは把握した様子のリリエッタ。
 どうせ螺旋忍軍、悪行であることに変わりはない……ならばすべきことは一つ、リリエッタはフェアリーブーツで地を蹴るとダフ屋衆へ肉薄、スカートの裾が広がって中がちらりと見えるのもお構いなしに一撃を叩きつける。
 リリエッタの着地から一拍おいてスカートの裾と髪の毛が揺れた。
 マギーの閃光が戦場を埋め尽くす中、ピジョンは着脱式の気品を用いてダフ屋衆へ攻撃。
 ピジョンの放ったオーラの弾丸はダフ屋衆へ食らいつこうと宙を駆け回り、逃げるダフ屋衆を決して諦めはしない。ついにはピジョンのオーラがダフ屋衆の元で炸裂すると、ダフ屋衆の鞄の中から紙束が舞い散った。
 チケット、招待券、整理券……そのように見えるが、それらは全てダフ屋衆の作り上げた偽物なのだろう。
「偽物だと知っていても見分けがつかないな」
 そのうちの一枚を指でつまんで、モカはしげしげと眺める。
 至近で見ても、これが偽物だとは分からない……さすが螺旋忍軍、技術はかなりハイレベルなようだ。
 だが。
「全て、全力で斬り刻む!」
 刃を覗かせてのモカの手刀がそれらを細かく切り刻み、ついでにダフ屋衆の身体にもダメージを与えていく。
「爪とぎアイテムになりますかね?」
 ひらひら飛び交う紙片を見上げて呟くのは環。
 敷き詰めたらいい感じのハムスターのおうちくらいにはなりそうである。
「そんなことより、パチモン忍者! かかってこいなのですよー!」
「パチモンだろうと需要があるから供給しているのです。これは正しき行いですよ」
 そのような反論をしつつ、タオルを鞭のようにしならせながらダフ屋衆は接近。
 迫るダフ屋衆から逃げることなく、環はむしろ自身も迫っていく――その両手は、獣の力を宿して。
「私の『狂気』ごと全部! くれてやりますっ!」
 食らった魂の記憶が腕に力を加え、環は腕を突き出した。
 タオルのど真ん中に命中した腕は、そのままタオルを引きちぎって中央に大穴を。
 タオルの向こうにあるダフ屋衆の身体に力強い打撃を与えた瞬間環は身体を回転させダフ屋衆の背後から蹴りを、側面へ移動して殴打を、本能のままに全身を躍動させる。
 飢えを満たすかのように大暴れの攻撃に続いて、右院は黄金の刀のオーラに幻影の狼を纏わせると。
「仇なす敵を喰らい尽くせ!」
 五体の狼の連携に一糸の乱れもなく、ダフ屋衆は逃げ場を失って追い詰められる。
 翼を広げた右院の威容を正面に、両脇と背後を狼に。
 回避を許されず、ダフ屋衆はその攻撃を受け止めて。
 それを最期に、消滅した。


 無事に戦いは終わり、ピジョンはライブ会場を気にしている様子。
「ライブは大丈夫だったかなぁ」
「問題はなさそうだな」
 モカが言うので見れば、ライブは中止にはなっていないようだ。
 多少の遅延等はあったかもしれないが……デウスエクスのいる中で、中止にならず、犠牲者も出なかったのだから良しとするべきだろう。
 環はヒールをしながらスマートフォンの画面に視線を落とし、フリマアプリにダフ屋衆が出していた商品がないかを確認中。
 後は警察の仕事となるが、環がある程度の目星をつけたお陰で迅速に然るべき対応がなされることだろう。
「静粛が済んで何よりですーぅ♪」
「怪我がなくてよかったよ」
 嬉しそうなツグミに、うなずくリリエッタ。
「悪が一人滅びマシタ」
 呟くモヱの視線は暮れゆく夕日に。
「しかしこの世には無数の転売ヤーがひしめいているのデス」
 青い眸には、厳しい色が乗る。
「ファンの戦いはまだまだ続く――!」
 右院とモヱは夕日を前にして、次なる戦いへと気持ちを新たにするのだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月27日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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