取リ除キマショウ!

作者:麻香水娜

●ポット? 炊飯器?
 まだ薄暗い静かな住宅街の一角にあるゴミ集積所。
 いくつかの燃えるゴミの袋と共に、燃えないゴミの袋が置かれていた。

 ――ガサ……カタカタ……。

 燃えないゴミの袋の中から物音がする。

 ――バーン!!

 袋が内側から破裂し、周辺のゴミを撒き散らす中心に、みるみる巨大化する炊飯器、より高さがあるポット──いや、家庭用精米機のようなものが姿を現した。
 側面からはロボットのような腕、底面からはロボットのような足を生やしている。
『オ米オイシイ! 早ク食ベテ!!』
 7、8歳くらいの子供のような大きさになった頭のないロボットのようなダモクレスは、蓋を開けると大量のミサイルを発射した。

●美味しいお米を食べる為の機械が……
「何気なく食べていましたが、お米というのは精米したら酸化が始まって味が落ちるのだそうですね」
「そうだね。精米してから徐々に栄養価が落ちてくから、食べる直前の精米が理想って言われるよ」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が呟くと、昔は普通の主婦であった塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が付け加える。
 毎回精米所に行かず、家庭で手軽に精米できる家庭用精米機がダモクレス化してしまうと説明が始まった。
 ゴミ集積所に捨てられてはいたが、この日は燃えるゴミの日。燃えないゴミの日ではない。
 しかも家庭用精米機は燃えないゴミの袋に入っていようと粗大ゴミ区分である。
「ルールを守らずに捨てて、しまいにゃダモクレスになって自分を殺しに来るなんて考えてもいないだろうね」
 やれやれ、と翔子も嘆息した。

 時刻は早朝5時すぎで時間も時間であるので周囲に人気はない。
 現場は、大通りから1本入った公園のフェンス越しにある集積所。
 しかし、公園の周辺には民家やアパートがあり、騒ぎで一般人が起きてきたり近くを通りかかる可能性はある。人払いの対策があった方が安心だ。
「上手く公園内におびき寄せた方が被害を抑えられるか……」
 翔子がぼそりと呟く。
「そうですね。このダモクレスはバスターライフルを内蔵しておりまして、レプリカント同様のグラビティも使います」
 頷いた蒼梧は、非常に高い火力を持っているようですので、十分注意して下さい、と説明を締めくくった。
「この集積所に捨てられていたという事は付近の住人の方が捨てたという事になりますが、その方以外の、何の罪もない方まで虐殺させるわけにはまいりません。必ず撃破してきて下さい」


参加者
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
 

■リプレイ

●精米機?
「今度は精米機か……しかも、家庭用と来た……」
 ゴミ集積所で燃えないゴミの袋を確認した泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)がぼそりと呟く。
「そういえば精米されたお米しか買った事ないかも? マイナーな家電さんなんだね」
 ウイングキャットのねーさんを抱えた小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)が小首を傾げた。
「涼香さん、ねーさんも寒くないか?」
「うん、ねーさんを抱っこしてるとあったかいよ」
 壬蔭が覗き込むと、ねーさんを腕に抱えた涼香が笑顔を広げる。ねーさんも涼香の腕に頭を擦り付けて『大丈夫』とでもいうようにひと鳴きした。
「今や精米どころか無洗米なんてものまである時代だ。独り暮らしにゃ精米機なんて必要ないんだよな」
 自分には縁遠い機械だ、と日月・降夜(アキレス俊足・e18747)が肩を竦める。
「でもさ、おいしいお米食べられるっていいよな」
 長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)が瞳を輝かせた。
「確かに精米したてが美味しいのは分かってるんだけどさ……米は割れるし、手入れもめんどいんだよね」
 塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が実際使っていた精米機を思い出して息を吐く。
 彼女が使っていたのは今回ダモクレス化する精米機とは違う方式で形状だったようだが、最終的に精米が入る引き出しを調味料入れにしていた、と苦笑した。
「何にしても……米は人を満たすものじゃ。出てくるのが人を傷つけるようでは、米の機材とは言えまいよ」
 仲間達の会話を耳に入れながら周辺を確認していたルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)が、人を傷つけるダモクレスになってしまう機械の入った燃えないゴミの袋を睨みつける。
「だな。人傷つける前にぶっ飛ばさないとな!」
 千翠が開いた左手のひらに握った右拳を打ち付けた。
「さて、そろそろだね」
 時間を確認した比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)が視線を鋭くして殺気を放つ。それを合図にケルベロス達は公園内や周辺の物陰に身を潜ませた。

●こっちへおいで
 ――バーン!!
 ゴミを撒き散らしながら巨大化する精米機──ダモクレスが姿を現す。
「こちらに米を待ってる者達がおるんじゃぞー?」
 公園の中からルティアーナがダモクレスに呼びかけた。
『オ米食ベル?』
 ダモクレスが公園内に体を向け、胴体を変形させるとビームを放つ。
「……っ!」
 ルティアーナは体の前で腕を交差させて受け止めた。
『!!』
 公園の中に気を取られていたダモクレスは背後から強い衝撃を受けて数歩前のめりに進む。
「ほら、こっちだよ」
 ファナティックレインボーを見事に決めた翔子が、軽やかに着地した途端、すぐに走り出してフェンスを軽々と飛び越えて公園内に入った。
 翔子の腕に絡みついていたボクスドラゴンのシロがさっと離れて、壬蔭の肩に止まると属性をインストールする。
「もはや精米機のかけらも残っておらんのう……」
 フェンスを突き破って翔子を追いかけるダモクレスに、ルティアーナが態勢を立て直しつつ漏らした。
「こっちじゃぞー」
 こちらへ向かってくる翔子の横を不可視の虚無球体が通り抜けたかと思うと、ダモクレスに直撃する。
『!?』
 何が起こったのか戸惑うダモクレス。
「止まってろ」
 今度は公園内で待機していた降夜が物陰から飛び出し、針状に変化させたグラビティをダモクレスの右足に撃ち込んだ。
「オマケだ!」
 降夜の攻撃で地面に縫いとめられていたダモクレスに、タイミングを合わせた千翠が挟撃するように反対側から左側面に飛び蹴りを入れて重力の錘をつける。
『!?!?』
 予想外の攻撃に、ダモクレスは前のめりに倒れそうになるも、腕を地面につけて体を押し上げる事で態勢を立て直した。
「よし。今のうちに」
 ダモクレスが公園内に入った事を確認した涼香が、キープアウトテープを取りだす。
「手分けしよう」
「うん。お願い」
 壬蔭が声を掛けると、涼香が長めに切ったテープを渡し、それぞれ走り出した。
 2人の背を見送ったねーさんは、後衛に清浄の翼で邪気を祓う。
「当てやすそうな大きさだけど、確実にしないとね」
 集積所近くにいた黄泉がダモクレスを追いかけるようにフェンスを飛び越え、そのまま背後からスターゲイザーで動きを鈍らせた。

●取り除かれるべきは
 翔子を追いかけるダモクレスは、途中何度か攻撃を受けて足を止められると、近づくのは困難だとしてミサイルを大量に放つ。他の敵も纏めて攻撃しようと。
 ミサイルの気配を察知した翔子はダモクレスに向き直り、顔の前で両手を交差させて正面から受け止めた。黄泉もねーさんもそれぞれ身構えて攻撃を耐える。
(「まだ大丈夫じゃ」)
 先ほどのビーム程の威力はないだろうと身構えたルティアーナの前に、シロが翼を広げて庇った。
「感謝じゃ。おぬしの分もお返ししてやろうぞ!」
 2人分のダメージを受けたシロに感謝を込めて不敵な笑みを浮かべると、美しい軌跡を描いて呪怨斬月を放つ。
『──ッ!!』
 ダモクレスは、後ろに数歩後ずさりながらよろめいた。
 体勢を立て直した翔子は、後列の前に雷の壁を構築して状態異常を高め、シロは自らに属性インストールを使って傷を回復させる。
(「涼香さん、ねーさん、回復頼むな……」)
 テープを貼り終え、フェンスを飛び越えて公園内に入った壬蔭が、仲間達の状況を確認しながら内心で願い、
「こちらにもいるぞ」
 背後から雷の霊力を帯びた神速の突きで注意を引いた。
『!!』
 ダモクレスが背後の壬蔭に気を取られていると、降夜が正面から氷結の螺旋を放って凍り付かせる。
「お待たせ」
 壬蔭の願いを受け取ったかのように、合流した涼香が黄金の果実の聖なる光で前衛を包んだ。進化させながら傷を回復させ、不調を取り除く。更にねーさんが清浄の翼で邪気を祓いながら前衛の傷を回復させた。
 連携して仲間を回復させる姿に壬蔭が口元を緩めると、涼香はにこりと微笑む。
「よいしょっと」
 黄泉が痺れの走る腕を気合で誤魔化しながら巨大な斧を振り上げた。そのままダモクレスに飛び掛かって一気に振り下ろす。
『ガ!!』
 バチバチっと蓋から火花を散らすダモクレスは、自分を囲むように布陣しているケルベロス達を確認した。
(「こういうのあんま好きじゃないんだが……」)
 千翠の身体を蝕む呪いがいくつもの鎖付きの枷へ変容し、ジャラジャラと音を立てる。
 攻撃を察知したダモクレスは避けようとしたが、体が重く上手く動かせない。
「絡め捕れ。焦がし尽くせ」
 その枷達はダモクレスの腕や足に絡みつき、まるで愛情を示して強く抱きしめるかのように強く締め付けた。
『取リ、除、ク! ヌカ!』
 ギシギシと悲鳴を上げる腕を高速回転させてドリルのようにしたダモクレスは、翔子目掛けて突進する。
「……くっ」
 ドリルを両手で抱え込むように受け止めた翔子は、押し負けないように足に力を入れて耐えた。
 翔子が抑えているうちにと、ルティアーナが呪力で三鈷剣を顕現させる。
「せめて人を傷つける前に処分されるのが本来の機材の望みじゃろう。取り憑きしものよ、疾く常世へと赴け!」
 力の結晶たる三鈷剣で一気に貫いた。
『……マダ……マダ……』
 ガタガタと音を立てるダモクレスは、不具合が発生しているのか、蓋をカパカパと何度も開け閉めをしている。
「明日の為に。今日を切り開く雨を」
「vermiculus flamma」
 翔子がすっと手を翳した瞬間、壬蔭の拳が炎を纏った。
 ダモクレスの頭上から岩をも砕くような強い雨が蓋を打ち付け、
「本来であれば、お前は凄く役に立ってたんだろうな。美味しくお米を精米するために……」
 翔子の雨が止んだ瞬間、呟いた壬蔭の炎を纏った拳が胴体を貫く。
『!!!!!!!』
 壬蔭が飛び退いた瞬間、ダモクレスは派手な音を立てて砕け散った。

●後片付けの後は……
「結構壊れちゃったね。ヒールお願いするよ」
 黄泉がダモクレスの飛び散った破片を拾いながら仲間達に声をかける。
「あぁ。子供達も使う公園だ……遊具類は特に入念に回復しておくか……」
「そうじゃな」
 頷いた壬蔭が傷ついた滑り台にヒールをかけるべく向かうと、ルティアーナはブランコへと向かった。
「んー、精米したてのご飯ってそんなに美味しいのかな」
 ヒールをかけていた涼香がぼそりと呟いた。
 戦闘前の会話を思い出して、興味が湧いてきたらしい。
「俺も気になったんだ。家庭用精米機って初めて知ったし」
 ヒールをかけながら周辺に不法投棄物がないか確認していた千翠が近くを通りかかり、口を開く。
「でも、手間かかんだろ? そこまでしてってのもなぁ」
 ダモクレスの破片を拾っていた降夜が苦笑しながら肩を竦めた。
「じゃあさ、アタシんちに玄米はあるから、精米所で精米してご飯炊こうか」
 他にヒールが必要な個所がないか見て回っていた翔子が合流し、笑いかける。
「やった。さすが翔子さん」
「なら俺もご相伴にあずかろうかな」
 涼香が嬉しそうにパンッと口元で両手を合わせて瞳を輝かせ、降夜もニッと口端を上げた。
「俺焼きおにぎり食べたい。米運ぶ力仕事ならするからさ!」
 千翠が右腕で力こぶを作り、左手でパンッと叩く。
「楽しそうな話をしておるのう」
「時間も時間だしお腹空いてきちゃった」
 ルティアーナが楽し気に身を乗り出してくると、黄泉も小さく笑った。
「塩屋さん1人でこの人数分の調理は大変だろう。私も何か手伝おう」
 壬蔭も話に混ざる。
「じゃ、皆でお疲れ様会にしよっか!」
 翔子が満面の笑みを広げると、全員が笑顔で頷いた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月31日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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