ミッション破壊作戦~穿ち、貫け

作者:洗井落雲

●剣を掲げ、鬨をあげろ
「集まってくれて感謝する。さて、今回は再使用が可能となった『グラディウス』を用いた、ミッション破壊作戦だ」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達へと、そう告げた。
 『グラディウス』とは、長さ70cmほどの『光る小剣型の兵器』だ。通常の武器としては使用できないが、この兵器は『強襲型魔空回廊』を破壊できる能力を持つ。このグラディウスを使えば、強襲型魔空回廊を破壊し、デウスエクスの地上侵攻作戦へ打撃を与えることができる。
 ただし、グラディウスは、一度使用した後、グラビティ・チェインをチャージし、再び使用できるまでにかなりの時間を要するという制限を持つ。
 強襲型魔空回廊へとダメージを与えるためには、強襲型魔空回廊の周囲に存在する、半径30mほどのドーム型のバリアに、グラビティを極限まで高めたグラディウスを触れさせる必要がある。だが、強襲型魔空回廊はミッション地域の中枢に存在するため、通常の方法ではたどり着くのは困難であり、敵からの襲撃を受け、グラディウスを奪われる、という可能性もある。
 そこで、今回は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を行い、強襲型魔空回廊の存在する中枢へ、直接飛び降りる、という工程をとる。高空からではピンポイントな地点への降下は難しいが、前述のとおり、グラディウスを触れさせる必要があるのは半径30mほどのドーム型のバリアだ。的は巨大であるから、今回のような作戦をとれる、というわけだ。
 8人のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、攻撃を集中すれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊できることも可能であるし、もし破壊できなくても、強襲型魔空回廊へとダメージは蓄積されるから、攻撃は無駄にはならない。なお、強襲型魔空回廊は、最大でも10回降下作戦を行えば、確実に破壊できると予測されている。
 さて、グラビティを極限まで高める方法であるが、これが『魂の叫び』だ。ミッション地域を解放するという想いでもいいし、あるいは、愛の言葉などでも構わない。心の底から沸き起こる『想い』こそが、グラビティを高めるカギとなる。
「少し気恥しいかもしれないが、空ならば誰かに聞こえるということもないだろう。ストレス解消に……というとなんだが、思いっきり、叫んでくれ」
 なお、グラディウスは貴重な品であるため、可能な限り持ち帰ってほしい。
「さて、強襲型魔空回廊へと攻撃を加えるだけが、今回の作戦のすべてではない。降下地点の周囲には、強力な護衛戦力が存在するから、これらに対処する必要がある」
 護衛戦力は、ケルベロス達の高高度からの降下攻撃を防ぐことはできない。降下中は、強襲型魔空回廊への攻撃に専念できるだろう。
 また、グラディウスは、攻撃時に雷光と爆炎を発生させる。この雷光と爆炎は、グラディウスの所持者以外へ無差別に襲い掛かるのだが、いかに精鋭である護衛戦力であっても、これを防ぐことはできない。
 この雷光と爆炎、それにより発生するスモークが、護衛戦力への奇襲と目くらましになり、ある程度の無力化が期待できるだろう。
「だが、この奇襲にすぐ対処できるような、強力な敵との戦闘は免れない。皆が直接相手取るのは、この有力敵になるだろう」
 幸い、グラディウスの攻撃の余波で敵は混乱状態に陥っているため、敵が連携して襲ってくることはないだろう。速やかに強敵を撃退し、撤退してほしい。
 撤退そのものについては、ミッション地域攻略中のケルベロス達による援護も期待できるため、高度な作戦は必要はないだろう。だが、あまりに攻撃一辺倒すぎて、撤退のことを考えていないような行動をとってしまった場合は、その限りではない。あるいは、強敵の討伐に時間がかかりすぎ、敵が態勢を整えてしまった場合も、そうだ。そうなってしまった場合は、降伏するか、暴走を選ぶかしなければ、撤退することはできないかもしれない。
 さて、今回の作戦のターゲットとなるミッション地域は、『シャイターンによる攻撃が行われている地域』だ。その中からどの地域を攻撃するかは、ケルベロス達の手にゆだねられている。昨今の情勢や、戦うこととなる強敵などを参考にし、決めてほしい。
「デウスエクスの手から、ミッション地域を取り戻すチャンスだ。難しい作戦ではあるが、皆なら無事、作戦を成功させることができると信じている。君たちの無事と、作戦の成功を、祈っているよ」
 そういって、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
ギメリア・カミマミタ(バーチャル動画投稿初心者・e04671)
六・鹵(術者・e27523)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)
フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)
旗楽・嘉内(魔導鎧装騎兵・e72630)
フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)
 

■リプレイ

●穿ち、貫く
 青き大空を、ヘリオンが行く。眼下に広がるのは、香川県は三豊市――何者かの仕業により、多くの施設にて火災が発生し、貴い人命が失われた事件の起きた地だ。
 その凶行の首謀者を、ケルベロス達は知っていた。その名は『ヘイヴンズ』。無差別な選定により多くの人命を奪ったシャイターンだ。
 ヘリオン――ケルベロス達が向かっているのは、ヘイヴンズの潜む拠点だ。高空より『グラディウス』を用い、降下攻撃を行う。今なお苦しむ人々のために、この地域を解放しなければならないのだ。
 さて、拠点上空へと到達したヘリオンより、いくつもの光が放たれた。それは、輝くグラディウスの光であり、その持ち手である、ケルベロス達のグラビティの輝きでもあった。
(「……腹が立ち過ぎて何言えば良いかわかんねえわ」)
 胸中で呟くのは、岡崎・真幸(花想鳥・e30330)である。
(「……俺の故郷に敵がいるってだけでも不愉快極まりないのに、住んでいる人々に危害を加えるとは――」)
 それは、耐えがたき苦痛であった。シャイターンの選定とは、その者の素質を無視した、無差別な殺戮の上に成り立っている。ましてや、この地に潜むシャイターンは、病院や学校、老人ホームなどを狙って火災を起こしていた。それは、弱き者のみを狙うという――ただの虐殺だ。
 故に、真幸の怒りは、極限までに達していたことだろう。そして、その怒り故に、発せられた叫びはとてもシンプルなものだった。
「身勝手な無差別選定――よくもそんなものを理由に『俺のもの』を壊してくれたな。今度はお前らが壊される番だ」
 限界に達するほどの怒りを乗せられた、静かな叫び――だが、その怒りは真幸のグラビティを高め、グラディウスへと注がれていく。
「放火魔にも程がある、よね」
 六・鹵(術者・e27523)は、静かに呟いた。眼下に広がる敵の拠点。そこに潜む敵を見据える。
「お前の使う魔法は、美しくない。人の集まる所、ばかり、狙って、多くの命を、奪った」
 とつとつと、鹵が言葉を紡ぐたび、グラディウスの光は増していく。それは、口調こそ静かであろうとも、そこに注がれる魂の叫びは、充分に激しいという事だ。
 これ以上、この場所を――地球を、奴らに荒らさせたりはしない。その想いを、強く、注ぎ込む。
「ここは瀬戸内の美しい、太陽と海の景色が似合う場所。お前の居場所なんて、ない。僕の魔法の糧となり消えろ、シャイターン」
 鹵の魂に応え、グラディスは激しく輝いた。
「いつもいつも、褒められたものではないが死ぬ程ではない、微妙なのばっか狙いやがって、このマッチポンプ野郎共が!」
 アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)は、この時、確かな怒りを言葉に乗せて、激しく声をあげた。
 アルベルトが怒りを向けるその対象は、シャイターンという敵、そのすべてに対しての事だろう。シャイターンがとる手段を、アルベルトは容認できない。
「自分が付けた火は、自分の体をもって消しとけ! この能無し共!」
 その怒りは、渦巻く炎のように。グラディウスへと確かに注がれ、悪を砕く力となるのだ。
 ――ギメリア・カミマミタ(バーチャル動画投稿初心者・e04671)は静かに、眼下の敵を睨む。その傍らには、ウイングキャット『ヒメにゃん』がある。
「火災は人々や猫達の生命は勿論、思い出も全て燃やし尽くしてしまう」
 ヒメにゃんへと視線を向けつつ、ギメリアは呟いた。この地域のシャイターンは、多くの施設に火を放ち、焼き払った。火とは、時に恐ろしいものだ。そこにあるものを、すべて燃やし、なくしてしまう。
 故に、その手段を使うヘイヴンズを――火災という災いを齎し、あまつさえ無差別にまき散らすその行いを、ギメリアは赦しはしない。
「この手で引導を渡し、必ずやこの回廊を破壊するッ!」
 ギメリアは叫んだ。ヒメにゃんもまた、その想いを共にするように、にゃあ! と強く、鳴く。想いは確かな力となり、グラディウスへと注がれていくのだ。
「見境なく放火しまくって迷惑この上ない! しかも学校、病院、老人ホームとか、逃げ足の遅い子供や病人、お年寄りまで狙うなんて虫酸が走るよ……!」
 フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)が叫んだ。ヘイヴンズの用いる手段は、奴らの基準で言えば、効率的なものだろう。だが、そのような基準で生命を奪うなどと、あってはならないことだ。
 ましてや、弱者をねらい撃ちするその所業。とても許せるものではない。
「燃えるゴミの日を待つまでもない。オレ達がお前らをゴミ焼却炉に叩き込んでやるぜ!」
 確かな決意を胸に、フレデリは叫んだ。言葉は力となって、グラビティを高めていく。そしてそれはグラディウスへと注がれ、悪をくじく刃となるのだ。
「人々が集まる施設を焼いて勇者を選定だと……!? ふざけるな、ふざけるなよ、シャイターンども!!」
 旗楽・嘉内(魔導鎧装騎兵・e72630)が悔し気に、叫んだ。火災――それが、嘉内の心を、激しくかき乱していた。胸が張り裂けんばかりの衝動。嘉内は、自らの過去が、フラッシュバックするのを感じていた。
(「煙で息ができなくなり、炎に身を焼かれるのが、どれほど辛く苦しいか……!!」)
 多くの人々が、その恐怖と苦痛に身をさらされた。シャイターンの、あまりにも身勝手な作戦により。嘉内はそれを、決して許しはしない。
「罪無き人々にそんな死に様を強いる貴様らをここに至らせる回廊など、この一撃で叩き壊してくれる……っ!」
 叫び――それは爆発する想いを乗せて、グラディウスへと注がれていく。
「人が集まる場に火を放ち、罪も力もない人々を多数焼き殺して、何が勇者選定だ!? そんなもの、ただの虐殺ではないか……!」
 フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)が叫んだ。無差別に、無慈悲に命を奪う――そのような行為を、フレイアは決して許すことはない。
 ヘイヴンズの怒りは、爆発するようにグラビティを高めていく。敵への怒り。そして、必ずに、この拠点を破壊するのだという決意。銃弾のように、己という銃へと込められていく。ならばあとは、引き金を引くだけだ。
「これ以上の蛮行と悲劇を食い止めるためにも、この回廊を破壊する!」
 引き金は引かれた。想いの、叫びの銃弾は確かな力となって、グラディウスと共に撃ち放たれるのだ。
 七つの叫び。七つの光。
 それらが帯をひいて、今、激しく悪の拠点へ突撃していった。

●災禍のただなかへ
 まき散らされる爆炎と雷。
 視界を埋め尽くすスモーク。
 攻撃は成功した。だが、魔空回廊を破壊するには、至らない。
「……まだ、ダメージが足りないか……」
 真幸が悔しげに言った。
「だが、確実にダメージは与えた。ならば再び――壊れるまで、攻撃するだけだ」
 フレイアが言う。ケルベロス達の攻撃は、決して無駄にはならないのだ。ボクスドラゴン『ゴルトザイン』が、主の言葉に頷くように、一声鳴いた。
「そのためには、まずは生きて帰らないとな。撤退するぞ!」
 グラディウスをしっかりと保持しつつ、フレデリが叫んだ。グラディウスを持ち帰ることも、任務の一つだ。疎かにはできない。
 グラディウスの攻撃の余波により、敵は混乱状態に陥っている。この隙をつけば、中枢からでも撤退できるはずだ。
「大まかな脱出経路は頭に描いている。急ごう」
 アルベルトが声をあげるが、
「いや……そう簡単にはいかないようだ」
 嘉内が言った。その口調は、嘉内が戦闘状態――つまり、敵を認識したという事の証拠であった。
「――グラディウスを使った攻撃。なるほど」
 どこか穏やかな声が響く。グラディウスによりまき散らされた煙幕の中から、赤髪の女が現れた。
「ヘイヴンズ、か……」
 鹵が呟く。赤髪の女――ヘイヴンズはじろり、とその視線をケルベロス達に向けると、
「私達に噛みついてきた事は褒めてあげる。でも、あなた達を生かして帰すつもりはない」
「ふん……俺もただ帰るのは申し訳ないと思っていた所だ」
 真幸が言った。
「手土産に、お前の顔をぶん殴ってやらなければ――お前の犠牲になった人へ、申し訳がない」
 その言葉に、ボクスドラゴン、『チビ』も唸り、ヘイヴンズを睨みつける。それを合図にしたように、ケルベロス達は一斉に武器を構えた。
「さて、最後の仕上げだ。無事に撤退して、皆でヒメにゃんを愛でる会を決行しよう!」
 ギメリアが言う。ヒメにゃんは一瞬、ジト目をギメリアへと向けたが、ため息をつくように小さく鳴くと、ヘイヴンズへと視線をやった。
「行こう、皆」
 鹵が言った。その言葉を合図に、両陣営が一気に動き出した。

 煙幕を切り裂く炎。飛び交うグラビティの応酬。
 作戦を締めくくる最後の戦いが、激しく展開する。
「燃えなさい」
 ヘイヴンズの放つ炎が、複雑な軌道を描きながら、ケルベロス達へと追いすがる。フレイアは剣を構え、その炎を打ち払うように受けた。
「貴様の卑劣な炎など、私達には通用しない!」
「そういう事だ」
 『ミサキ』と『マキナ』――二振りの刃を構え、真幸がヘイヴンズへと迫る。舞うような/しかし精密な連続攻撃が、ヘイヴンズの肌を切り裂き、チビの放つブレスが、さらにその傷口をなぞる。
「この星でお前がした事――それを存分に悔いろ」
「私がした事――」
 ヘイヴンズはその翼をはばたかせて、跳びずさる。
「効率的に、仕事を処理しただけ」
「そう」
 鹵がその言葉に、呟いた。
「なら僕も――効率的に、君を、処理する」
 ――囁き、返す、異界の、使者、触れる、落ちる、腐り、たもう――。
 鹵が呟く呪文。その詠唱と共に、足元に魔法陣が現れ、輝いた。それは、異界への扉。鹵の呪文により開かれた扉より、現れるはおぞましき、異界の触手の群れだ。
「貫け、『黒き触手の咎(クロキショクシュノトガ)』」
 その言葉と共に、無数の触手がなだれうってヘイヴンズへと迫る。逃げようとするヘイヴンズだが、触手の群れは決して逃がしはしない。鋭き無数の槍と化した触手が、ヘイヴンズを貫いた。
「う……!?」
 ヘイヴンズがうめく。
「ギメリア、ヒメにゃん! 畳みかけるぞ!」
 『幻想結晶刃』を抜き放ち、アルベルトが駆ける。
「了解だ! 俺たちネコ好きの怒り、見せてやろう!」
 ギメリアは頷き、ヒメにゃんへと目くばせ。そうしてから、アルベルトを追って、駆けだした。ヒメにゃんは、にゃあ、と一鳴き、キャットリングを飛ばす。
「これ以上、お前にかまっている暇はない」
 アルベルトは『幻想結晶刃』の刃を、ヘイヴンズへと斬り付けた。その傷口へは、アルベルトのナノマシンが侵入し、その治癒能力を低下させる。『浸食撃(シンショクゲキ)』の一撃だ。
「俺の炎は『絶対零度の炎』! 悪意の塊であるお前は、凍れる炎に閉ざして二度と悪事を行えぬよう葬るッ!」
 アルベルトが飛びずさったと同時に、跳躍したギメリアが飛び込んでくる。その手には、先ほどまでは存在しなかった、『絶対零度の炎を纏った刃』があった。ギメリアのグラビティにより生み出された、『封印『無の一太刀』(ゼロスラッシュ)』。振るわれた刃は、氷の炎をヘイヴンズへと纏わりつかせ、さらに傷口を抉る。そして、ヒメにゃんのキャットリングの追撃が決まり、ヘイヴンズは大きく吹き飛ばされた。
 ケルベロス達による怒涛の連続攻撃に、ヘイヴンズのダメージは蓄積していく。ヘイヴンズはその体勢を大きくずしながらも、ケルベロス達を睨んだ。
「この程度で……!」
「こっちもあまり、時間はないんだ」
 『風雷剣サンティアーグ』を構え、フレデリが言う。『風雷剣サンティアーグ』から放たれた雷は仲間たちへと向かい、壁の形をとってケルベロス達を守った。
「いつまでも、お前と遊んでいるつもりはない!」
「同感だ」
 嘉内が相槌を打って、その手を掲げた。途端、現れた龍の幻影が、ヘイヴンズへと襲い掛かる。
「炎をもてあそぶ報い、貴様の体で受けろ……!」
 悪を焼き尽くす龍の幻影――嘉内の炎。それがヘイヴンズを飲み込み、罰する。ヘイヴンズは、タールの翼をはばたかせ、それから逃れるが、
「逃がすか! ゴルトザイン、援護を頼む!」
 フレイアは叫び、それを追った。ゴルトザインは自身の属性を注入することで、フレイアへの援護とする。フレイアは跳躍し、
「消えろ、悪しき炎よ!」
 放つ降魔の一撃が、ヘイヴンズのタールの翼の片方を破壊した。バランスを崩したヘイヴンズが墜落する。
「あなた……達!」
 苦し紛れにはなったヘイヴンズの炎は、しかしケルベロス達への致命打とはならない。
「――氷に閉ざされ、其処で朽ちろ」
 呟く真幸の背後には、巨大な『何か』が居た。それは、『Ithaqua(オオイナルシロキチンモク)』に呼び出された、異界の神であるという。凍てつく冷気を纏う神は、その力を壮絶な氷の暴風として顕現し、激しくヘイヴンズへと打ち付けた。
「ケル……ベロス……っ!」
 暴風が、その姿をかき消す。グラディウスにより発生した煙幕すら吹き飛ばさんばかりのそれに飲み込まれたヘイヴンズは、いずこかへと吹き飛ばされた。
「……ふん。今日はこれでいいだろう。だが、これで終わりだと思うな」
 それを見届けながら、真幸は呟いた。そう、未だこの地での戦いは終わらない。いずれ、この地を完全に解放するまで――ケルベロス達の戦いは、続くのだ。チビは、そんな真幸の意を察するように、頷いた。
「よし……! 退路は開けた、撤退だ!」
 フレデリが叫び、道を指示した。時間経過により、グラディウスの生み出した煙幕は薄くなっている。そろそろ限界だろう。
「急ごう、ここで躓いては笑いものだぞ!」
 フレイアが、仲間へと檄を飛ばす。ゴルトザインも羽ばたいて、それに続いた。
「うん。じゃあ、帰ろう、皆」
 鹵はいつも通りの様子で、頷いて見せた。
「待っててください……皆の無念、必ず晴らしますから……!」
 嘉内が呟いた。この地を解放した時こそが、犠牲者たちの無念が真に晴れる時なのだ。
「よし! 戻って、ヒメにゃんを愛でる会を決行だ!」
 再びの開催宣言を、ギメリアがあげる。ヒメにゃんは一瞬、ジト目を向けるが、にゃぁ、とあきらめた様子を見せた。
「ふ――楽しみにしている」
 アルベルトは静かに笑って見せた。
 それから、ケルベロス達は一気に駆けだした。徐々に薄れゆく煙幕の中、安全地帯へと到達できたのは、それから程なくしての事だったという。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月31日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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