甘いクリスマス

作者:志羽

●甘いクリスマス
 クリスマススイーツブッフェ。
 現在、とあるホテルではそんな、ものすごーく罪深いイベントが行われていた。
 積み上げられたミニシュークリームのツリー。たっぷり苺ののったホールケーキにはサンタやトナカイの砂糖菓子。真っ白な雪のような、クリームたっぷりのドームケーキ。
 プレゼント箱を模したケーキなどもあればカップケーキはキャンドルのようにクリームがちょんと乗っている。
 そして、何より目を引くのはお菓子で作られた家。それはスタッフが取り分けてくれる目玉のお菓子だ。提供される時間は決まっており、その少し前に目立つところに飾られる。
 それが現れると皆は写真を撮ったりし、食べるべく列へと並んでいく。
 そんなきゃっきゃとした楽しい時間――の、はずだったのだが。
 目玉のお菓子は床に叩きつけられぐしゃぐしゃに砕け、人々は叫び声をあげて逃げ惑っている。
「クリスマスにスイーツブッフェ! そんな! 贅沢な!! あっ、でもウマッ!」
 ひとつ、お菓子を摘んで食べた羽毛の異形――ビルシャナはしかし! と叫びながらテーブルをひっくり返し投げ飛ばす。それは逃げまどっていた人々の上に大きな音を立てて、落ちた。
「はいクリスマスプレゼンッ! あっ! あっ、わが愛しのクリスマスケェキ!!」
 と、ビルシャナは己が唯一クリスマスケーキと認めるもの――苺のホールケーキを見つけ駆け寄った。
 そして、それを高々と掲げる。
「クリスマスはイチゴのホールケーキが至高! 他のスイーツなんて、認めてやらないんだからネッ!」
 ふわふわの毛をちょっと逆立てて。淡い緑と赤のクリスマスカラーのビルシャナは叫ぶ。
 そして連れだった配下達にも、人々を襲うように命じる。
 楽しく美味しい、幸せな空間は恐怖と混乱によって支配されていた。

●予知
「び、びるしゃなー!」
 と、話を先に聞いていたザザ・コドラ(鴇色・en0050)は叫び、早く倒しに行かなきゃとリティア・エルフィウム(白花・e00971)へと言葉向けた。
「そうなんです! クリスマススイーツブッフェを襲うなんて、そんな! そんな!」
 そんな、許しがたい……! と女子二人の声が重なる。
 その横でじゃあ説明を、と夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は切り出した。
「クリスマスのスイーツはクリスマスケーキ、それも苺のホールケーキに限るっていうビルシャナが、クリスマススイーツブッフェに現れます。ということで、この件に対処してほしいんだ」
 そのビルシャナはその主張に賛同している一般人が配下としてついている。
 配下達はその主張を覆すことができれば、ビルシャナの元から解放でき戦わずに無力化できるとイチは言う。
「つまり、苺のホールケーキも美味しいけどブッフェのスイーツも色々あって凄く美味しい的なアピールで良いと思うよ。言葉ももちろんだけど、美味しいって幸せそうに目の前で食べるとかね」
「つまり、美味しく楽しくブッフェを楽しんでいれば良いってことよね!」
「それなら問題なく! わぁ、楽しみですね!」
 すでにブッフェ楽しむ気満々のザザとリティアは頷いて、イチは何にせよ方法はお任せするよと続けた。
 おそらく、配下達を説得する事は難しくはないだろう。
 その人数は8人。戦闘になった場合、あまり強くないが数の多さは厄介なものだ。だが、事前に説き伏せることができれば格段に戦闘は楽になる。
 イチはホテルの方にも手を回しておくね、と続ける。ビルシャナが現れればすぐにスタッフが周囲の人たちを避難させてくれるようにと。
 そしてビルシャナを待つ為、入り口に近い席を用意しておくとも続ける。
「ビルシャナ一体だけになれば、戦闘で手間取る事もないと思うよ」
 その言葉にそうですねとリティアは笑む。一体であれば、問題なくと。
「そうね。そして問題なく倒せたら、夜浪!」
「そうですね、せっかくです!」
 と、二人からのきりっとした視線にイチは笑って頷く。
「うん、予約いれておいてあげるねー」
 そんなわけで。
 ビルシャナの相手も勿論大事なことなのだが――その後、クリスマススイーツブッフェを楽しむべく。
「まず、苺のクリスマスケーキにしか目がないビルシャナを倒しにいきましょう!」
 そう言って、リティアは集ったケルベロス達へと笑み向けた。


参加者
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
ジエロ・アクアリオ(星導・e03190)
茶菓子・梅太(夢現・e03999)
上野・零(焼却・e05125)
莓荊・バンリ(立ち上がり立ち上がる・e06236)
輝島・華(夢見花・e11960)

■リプレイ

●誘惑
 スイーツブッフェ、それはなんとも魅惑の響きと上野・零(焼却・e05125)は思う。
(「わざわざそれを破壊するとは許されない……是が非でも無事に信者を説得して鳥を退治せねば……」)
 スイーツと聞いてつい飛び込んでしまったなあと紡ぐジエロ・アクアリオ(星導・e03190)の視線はブッフェの方へ注がれる。
 そこにあるのはとても美味しそうなもの達ばかり。美味しいひと時の為にも頑張らせて貰おうかとジエロは視線を傍らへ。
「行こう、クリュ。……きちんと働いておくれよ」
 ジエロの向けた視線の先、丁度ビルシャナが信者たちを連れて到着。
「さぁ! 苺の、ホールケーキ以外を駆逐するのだ!」
 いざ、ここに集うものを――と行動しようとするビルシャナ。しかし思うままにはいかない。
「せっかくのスイーツブッフェが台無しですよぉ!」
 リティア・エルフィウム(白花・e00971)はすちゃっとビルシャナたちの前に立ちふさがる。
「しかもブッシュドノエルっていうならまだしも苺のホールケーキって! 偏り過ぎじゃないです? とりあえず目を覚まさせてあげませんとね!」
「クリスマスにいちごのケーキだけ食べられるのはかわいそうですね」
 うん、と頷きながら美味しいお菓子はこんなにたくさんあるのに、とエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)は哀れみの眼差しを。
 ブッシュドノエル、抹茶シフォン、チーズスフレ、フルーツタルト、シュークリームツリー、えとせとら。
「クリスマスというのは! たくさんのデザートを! 堂々と食べられる日なんだよ!」
 それは、それは――真理。
「わ、わたしいつも我慢してるの……」
 ふらりと一歩前にでた女性へと、エルスは一口試そう? とケーキのった皿差し出し誘いをかける。
 そしてその誘いに女性は屈し、震える手で一口。
「どう? 美味しいよね? これらすべて、クリスマスならではのものだよ?」
 年に一度、クリスマスにしか出されない限定品なんだよ?
 トドメの、悪魔の囁き――きりっと凛々しい表情で紡ぎつつ、女性にあっちへ、楽しんでいってと促す。
 まず一人、陥落。そして次の刺客、もとい説得は。
「信者の皆様--!」
 莓荊・バンリ(立ち上がり立ち上がる・e06236)の手にはずっしりプディング。
「此方クリスマスプディングなるイギリス伝統クリスマスイーツであります!」
 そしてこれをフランベ。蒼き炎は目を引く。
 ドライフルーツや牛脂の濃厚テイストに虜となる事間違い無し!
 高らかとバンリは紡ぎ、こっちもともう一つ持ち出す。
「シュトーレンも捨て難しでありますよなー! ほれほれほれ!」
 目の前に差し出される強力な誘惑。ふらり一人、足がまた動く。
「う、裏切りものがー!」
「くっ、食べない、食べないぞ!」
「……本当にそれで、後悔はない?」
 透明な容器にはいった物をいくつか皿の上に乗せたジエロはその一つにスプーンを。
 クリスマス仕様のティラミス――美味しい。
「やあ、こんなに美味しいものがあるなんてね。食べないなんて損してるなあ」
 さて、もう一口と言うところでジエロは動きを止め、こちらをガン見している信者へと笑み向ける。
「食べる?」
「た、食べない!」
 そう、とジエロは止めていた動きを再び。しかしまだ視線は感じる。
「……あ、食べないなら私が貰っても良いだろう?」
 断りをひとつ。すると信者はやっぱり食べたい! と言ってくる。
 ジエロは笑って好きなのをと差し出した。
「……イチゴのホールケーキ以外をスイーツと認めない、だなんておかしなことを言う」
 確かにイチゴも魅力的ではあるが、と零は言う。食べながら。
「……例えばこちらのチョコレートケーキ、イチゴとはまた違った美味しさだよ」
 一口、ぱくり。その様子に信者の喉が鳴った。
「このチョコレートの甘味も素晴らしいし……ほら、美味しいよ?」
 それを見逃さず勧めれば手が伸びて屈するのは仕方ない。
 そう、スイーツおいしい。
 存分に楽しんでいる最中。
 輝島・華(夢見花・e11960)もまた、苺のホールケーキ以外認めないなんて、美味しいのに勿体無いなぁと信者たちをチラ見。
「ザザ姉様、ミニシュー一口いかがですか?」
「あっ、ほしい!」
 では、とあーんと華はザザ・コドラ(鴇色・en0050)の口へ。
 美味しいですね、美味しいねと幸せかみしめる。
 そして華は一緒にいかがです? と配下達へもあーんも。
 ほんわりとした雰囲気に連れられてあーん。
 一口食べれば、その美味しさに呪縛から逃れる者も。
「うん、苺のホールケーキ、おいしいよね」
 ちょこんとのった苺をいつ食べるかとかそういう事を考えるのも楽しいし、と茶菓子・梅太(夢現・e03999)が言うとビルシャナがそうだろうと元気に頷く。
 しかし、でもねと梅太は続ける。
「他にも楽しめるものがたくさんあるよ。サンタさんやトナカイ、ツリーのスイーツとか……」
 この時期限定のものって見た目も楽しくてわくわくしない? と問い掛けるがビルシャナがすぐしない! と割って入る。
 その様子に梅太は瞬き小さく笑って。
「毎年デザインが変わったりするからこのスイーツたちも今だけ、だし。それに……ふふ、味もおいしい」
 こんなに可愛くておいしいものを、どれか一つだけなんて勿体無い。
「ね、よくばってみない?」
 そういって首傾げる梅太のお隣で。
「うん、苺のホールケーキも素敵だと思うわ。でもそれだけじゃ、もったいない……!」
 メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)は折角のブッフェだもの、と力強く頷く。
「かわいくて、すてきで、それでいておいしいものを」
 たくさん食べられるのだから――そう言って、これと示したのは。
「ショコラとフランボワーズの、ちょっと大人なケーキも素敵だと思わない?」
 ビスキュイで着飾ったフロマージュ、ピスタチオと苺のクリームを重ねたクリスマスカラーのケーキ。
 メロゥはそれをちょっと掲げて見せる。それはとっても、おいしそう。
 ゆらり、とまずひとりその足が動く。そこへメロゥは笑みかけて。
「ね? 苺のホールケーキ以外も食べたくなってきたでしょう?」
 そうです、とリティアも頷く。
「なんでひとつに絞っちゃう必要があるんです??」
 そら苺のホールケーキだって美味しいですけど、色々食べられた方がお得じゃないですか! という言葉には気持ちが詰まっている。
「あとホールで丸々食べるって絶対口が飽きてきちゃいますよ!」
 ってな訳で、とリティアが手にしたのはブッシュドノエル。
「ブッシュドノエルをくらえーい!」
 そう言って残っていた者達の口へとブッシュドノエルを。
 広がるチョコレート、そして苺の甘酸っぱさ。
「おいしい……! ブッシュドノエルも、すき!」
 そうして――残っていた配下達も皆、正気を取り戻す。
「ついでに!」
 そしてリティアはぱかっと口が開いているのだからとビルシャナへも。
「ひぎゃああ!! でりしゃす! いやそんな事ない!」
 苺のホールケーキ以外を口にしてしまったビルシャナは泡を吹いて倒れた。

●それでもビルシャナ認めない
 しばしの放心状態から復活したビルシャナは飛び起き周囲を見回す。
 すでに配下はおらず、向かい合うケルベロスのみだ。
「エルレ、ブッフェの為にもいくよ!」
 ボクスドラゴンのエルレと一緒に攻撃かけるのはリティア。
 リティアの放った敵に喰らいつくオーラの弾丸。エルレはそれを追って、竜の吐息をビルシャナへ。
 続けて、ビルシャナに降り注いだのは魔法の矢。
 零が振るった枯れ枝の百舌鳥より放たれたそれが、連続で突き刺さる。
「この! 邪魔してくれおって!」
 ぴゃああと怒り露に攻撃仕掛けてくるビルシャナ。
 その攻撃をバンリは受け止めて。
「お返しであります!」
 ドリルのように回転させた腕の一撃。
 それにぴぎゃっとビルシャナは悲鳴上げる。
「さあ、よく狙って。逃がしませんの!」
 そこへ華は花弁を作り出し、狙う。
 一片のダメージは小さいが、確実に狙い定めその羽毛はみすぼらしくなっていく。
 そこへブルームが突撃かけ、ビルシャナは弾かれたように転がった。
 戦いの中でもそわ、と視線はテーブルにちょこちょこ向いているクリュスタルス。
 ジエロはそんな様子に小さく笑って、しかし一言。
「クリュ、きちんと仕事しておくれ」
 その言葉にクリュスタルスは敵へと視線向け攻撃を。
 ジエロは回復の必要もない今、攻撃をと月白と黒曜が螺旋に織り成すカドゥケウスの姿を変え、ビルシャナへ。
 振り上げた竜槌。梅太がそれを振り下ろせば竜砲弾が放たれる。
 その一撃繰り出した後に、振り向いて。
「メロ!」
 その声にうんとメロゥは頷く。
「遙かな夜空にきらめきの波。彼方より、闇を照らす。星よ、星よ。――どうか、ひかりあれ」
 静かに紡がれるメロゥの祈り。
 満ち溢れた光は、ビルシャナを撃つきらめきの波。
「ひゃいん! 多勢に無勢、しかしこの苦難を乗り越え苺のホールケーキをうまぁするのだ!」
 と、ビルシャナはまだ攻撃うけても、元気。
 しかし――やはり、ただ一体で向かうにはケルベロス達は手強かった。
「あんた! クリスマスのお菓子のこと! なんにも知らないわ!」
 攻撃をうけふらふらのビルシャナへとエルスは踏み込む。
 お菓子大好きなエルスにとって一部以外のお菓子を扱き下ろすビルシャナは許せるものではない。
 その怒りのすべてをのせて、エルスは己の力を向ける。
「紅蓮の天魔よ、我に逆らう愚者に滅びを与えたまえ!」
 世界の隙間に渦巻く虚無の力を召喚し生み出すは悪魔のような黒い炎。
 その炎はビルシャナを抱きこみ、猛烈な爆発でそのすべてを焼き尽くす。
 塵も残さず――ビルシャナはあっという間に倒され、そして美味しい時間が再び巡ってくる。

●すいーつたいむ
「クリスマスイーツな聖夜に乾杯!」
 シャンメリーを手にバンリは笑顔。
 仕事の後の一杯は美味しい。
 その手には憧れのお菓子ハウス。どうやらミニサイズもあったようで、それにすちゃっとナイフを入れ切り崩し、いつの間にかそれは消えている。
 そして次に手にしたのは。
「苺ショートもワンホール一丁! 生クリ三昧さいこーー!」
 さっきまではそれよりもと説得したが、それとこれとは別の話。
 美味しいのだから、仕方ない。

「かわいすぎる!」
 写真もパシャパシャ。エルスはにこにこ。
「すごい、もう見てるだけでも目が幸せ」
 ホリィも頷いて、どれから食べようー? ときょろきょろ。
「あ、エルスさん、お菓子の家だよー。一緒に写真撮ろう」
 これから写真タイム、とばかりに出てきたお菓子の家。
 クッキーとチョコレートマカロンなどなどでつくられたその家は金平糖の広がる庭つきだ。
「屋根も窓も皆可愛い。これ全部食べられるんだよね」
 食べるのもったいないくらいの可愛さとホリィは零す。けれど、食べないのはもったいない。
 きっともっともったいない、と自分に言い聞かせるホリィ。
「わーいわーい、どれも可愛くて美味しそう。すごく、迷う……」
 それでも、とエルスもまた皿に溢れるほどにケーキを。
 二人で並んで頂きますの声重なる。 一口頬張れば甘くて幸せ。
「体の中もクリスマスになる気がするよ」
 ほわりと笑み浮かべるホリィ。
 エルスもまた、幸せとその気持ちがにじみ出る。
「あのケーキの上のサンタさん、なんだかイケメンー」
 ホリィはそう言って、エルスを見て。
「町長さんに似てる気がする。似てない?」
 と、聞きたいなぁと暗に含んだ笑みをホリィは向ける。
 その不意打ちに、ぽんっと音がするように真っ赤に染まるエルス。
 それは、ええとと口ごもり、あのね、とホリィの耳に顔寄せて紡ぐ。
 その先は二人だけの内緒の恋バナだ。

「華ちゃんは依頼おつかれさまぁ~~」
 ということでまずは、乾杯から。
「今年も色々ありましたね。一年間お疲れ様でした、乾杯!」
「そして今年もお世話になりましたってことで! かんぱーい」
 華とクロノはちょんとグラスを合わせ、まずは労いを。
 プチ忘年会的なものもかねて。
 こんな所で忘年会――それはクロノにとって女子的イベント。
「色々あって迷いますが何を召し上がります?」
 私、あのお菓子の家が気になってましてと華はクロノに示す。
「お菓子の家とかあるの?? と……等身大かしらっ!?」
 クロノはそわそわ、是非行こうと華より一歩前を。
「ちょうど取り分けられる所みたいです。一緒に見に行きませんか?」
 二人で向かえばお菓子の家がどーんと。
 皆が写真を撮る、その姿にクロノも感化される。
「私も写メ撮っとこ……。あ、華ちゃん入って~、ポーズよろ~」
「今年のバレンタインに作った姉様のお菓子の家も凄かったですけどプロの技も凄いですね」
 早速いただきましょうかと華はお皿にのったケーキを口に。
「あー食べるの超もったいな~い。でもその勿体無いのをもしゃもしゃ行くのが快感でもある!」
「うん、味も最高ですね!」
「あまぁ~~い☆」
 同じケーキ食べ、美味しいと笑いあって。
 そしてまた、来年もよろしく。

 楽しみにしていたブッフェ。
 食が細い方ではあるが、色々食べてみたいメルナーゼは、大量に持ってきている零の皿から少しずつ。
 色々楽しめるのは嬉しくて、ふとメルナーゼは悪戯を思いつく。
 そして、微笑みを浮かべあーん、と。
 差し出されたそれから一瞬視線が外れるが頬は染めつつ。
 零は応じて、口開く。恋人からの一口は何よりも、甘い。
 その様子を見て楽しんでいたメルナーゼ。
「……お返し、です」
 しかし、される方になれば同じように頬は染まる。
「やってもらうのは思った以上に気恥ずかしいですね……」
 そう言いながら小さく口を開けて。
 メルナーゼもまた、その口に運ばれるまま。

 スイーツブッフェ……!! と瞳輝かせるクィル。
 しかも今日のこれはただのスイーツブッフェではなく、クリスマスのもの。
 となれば、そわそわと楽しみな気持ちがその身振りに現れるのは仕方ない。
 目移りしながらタルトを見つけクィルは皿に。ジエロの好きな物とクィルは笑む。
「ねぇねぇ、ジエロ」
「はいどうぞ」
 と、名を呼んだだけなのに。
 それはお願いの前に、クィルの前に現れた。
 ジエロは一口大に切っておいたそれをにこにこ笑顔で口元へ。
 そのにこにこ笑顔にクィルはむむっと頬を膨らます。
 ずるいなぁ、もう。と、眉を顰めたのも一瞬。
 その表情はふにゃりと崩れ、あーんと嬉しそうに口あける。
 いつもの仕返し――というわけではないけれど、私だって食べている姿はみていたいのだからとジエロは小さな笑みを浮かべつつその口へ一口を運ぶ。
「ふふふー。いつもよりずっと美味しいです」
「チョコが食べたくなったら言ってね」
 甘いあまい、クリスマス。クィルはもう一口と再び。
 いつもは見られる事が多いけれど今日ぐらいは。
 幸せそうにしている、その姿がジエロにとって何よりのもの。
 それで、お腹いっぱいだ。
 けれど――差し出された一口。
 いただきます、とジエロが紡げばクィルは笑み深める。
 幸せは、分け合って一緒に。

 自然と言葉も、そして動きも弾んでしまうのは仕方ない。
 愛らしく着飾ったお菓子の数々にメロゥの視線は釘付だ。
「メロたちに食べてもらいたくておめかししてくれたのね」
「サンタさんに……雪だるま。あ、お菓子の家も外せない……」
 梅太は隣でそわそわしているメロゥに向き直り。
「……ね。今日もわけっこ、してくれる?」
「もちろん、ですとも」
 そのおねだりにメロゥは力強く頷く。そしてふふと、悪戯するように零し。
「ふふ、メロも同じおねだりをしようと思っていたの」
「わ、ほんとう?」
 お互いに分け合いたいとあれもこれもと欲張って、お皿の上は一杯。それでもまだ、気になるものは尽きない。
 一口頬張れば、頬もゆるゆる。
 美味しそうに食べる梅太の姿にメロゥの笑みも一層緩まる。
 その姿が可愛くて、それだけで胸いっぱいになるのは大好きだから。
 と、ひとつシューを手にして。
「あーん、して?」
 とびきり甘い魔法――口許運べば、幸せの悪戯だ。
 ぱくち。食べたそれは特別甘くておいしく感じるというもの。
 心まで蕩けてしまいそう――なんて。梅太はその笑みをメロゥだけに向けた。
「ね、メロ。甘いお返しを君に」
 とびきり甘い笑顔を添えて、あまいしあわせを。
 そのお菓子の甘い誘惑に大きなひとくちでメロゥは答える。
 目の前の笑顔も、ケーキも甘くって――幸せな心地。酔ってしまいそうなほどに。

「ひゃー! 色んなクリスマスなスイーツに目が奪われてしまいますねぇ」
 ホワイトムースに赤いフランボワーズソースでおめかし。
 そんなケーキを一口食べて、リティアは幸せと表情緩める。
「何かオススメのものありました?」
「あるわよ! ちょっと癪だけど……」
「癪?」
「そう。ここ、苺のショートケーキがすごく、美味しい……!」
 なるほどそれは、確かにちょっと癪とリティアはザザの言葉に笑ってそのケーキを。
 甘い。けれど、それが甘すぎるわけではなく。
 とても口当たりの軽い生クリームに酸味と甘みの苺。
「確かにちょっと癪ですねぇ」
「そうなの!」
 でも、美味しいとリティアはもう一口。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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