ヘクセンハウスに魔法をかけて ウィズの誕生日

作者:雨音瑛

●誘い
 クリスマス色になった街は、雪が降ることでいっそうその気配を濃厚にさせてくれる。
「12月に入って、クリスマスもどんどん近付いてくるな。……そして、今日は12月9日だ」
 少し気恥ずかしそうに、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が話す。
「実は、私の誕生日なんだ。誕生日には、何かひとつ新しいことに挑戦してみよう、と思っていてな。今回は……これだ」
 掌に映し出された立体映像は、小さな家。よく見れば、材料はお菓子だ。壁や屋根、ドア、煙突はクッキー生地で作られ、色とりどりのアイシングやゼリービーンズで可愛らしく飾り立てられている。煙突のそばには、これから家の中に入ろうとするサンタクロースのマジパン。
「見たことがある者も多いんじゃないだろうか? 『ヘクセンハウス』――お菓子の家、だ」
 クリスマスの時期、欧米でよく見かけるそれは、ここのところ日本でもよく見かけるようになってきている。
「このお菓子の家を作ろうと思っているんだ。ちょうど、そういうイベントが付近で開催されるようだしな。……ただ、一人で作るのでは味気ない。日頃お世話になっているケルベロスの皆にも楽しんでもらいたいと思っているんだが、どうだろうか?」
 そう言って、ウィズは取り出したチラシに記載された会場と日時を読み上げた。
「不器用でも心配することはない、私もあまり器用な方ではないからな。それに、パーツやデコレーション用の材料は会場に準備されているようだから、身一つで大丈夫だ」
 スタンダードな家をつくるもよし、緑や白のクッキー生地を使ってオリジナルの家をつくるもよし。デコレーション用の材料に使用制限はないから、デコりまくるのも楽しいだろう。粉砂糖を振りかけて雪の積もった様子を表現するのも面白そうだ。
 作ったお菓子の家は、箱に入れての持ち帰りが可能だ。ギフト用のラッピングも簡易ながらできるようだから、贈り物にするのも良いだろう。
「――そういうわけで。会場で会えるのを、楽しみにしているよ。君たちがつくるお菓子の家、いろいろ見てみたいな」
 立体映像の小さな家に視線を落とし、ウィズは微笑んだ。


■リプレイ

●会話も楽しみながら
「あのねあのね、賑やかなお家がいいなって! 一人のお家は、……。寂しいでしょ? だからお友達いっぱい作るんだよ!」
 マジパンの動物をたくさん選びながら、火倶利・ひなみくは交久瀬・麗威に熱っぽく語る。
「それなら、みんなが入れるよう少し大きめにしましょう。屋根はホワイトチョコにして、煙突もつけたら一層可愛らしくなるのでは?」
「うん、いいねいいね! あっ、タカラバコちゃん涎が! 食べちゃだめ!」
 めっ、するひなみくが集めた材料を見て、麗威は首を傾げた。
「これはどんな味なんでしょう」
「おいしいよ、はい!」
 ひなみくが麗威の口にぽいっと投げ込むのは、ゼリービーンズひとつ。
「オウガは意外と知らない事が多いんですよ?」
「ああっそうか、かたくせさんはオウガ……!」
「そうなんです。タカラバコちゃんも一緒につまみ食いしますか?」
「じゃあこれから一杯知っていこう! まずですね、タカラバコちゃんを甘やかしてはだめです!」
「残念、つまみ食いの権利は僕のみで」
 なんて会話をつつ作るハウスは、動物で賑わうとても楽しいものに。
「デコレーションはお任せしますね?」
「かわゆく賑やかにするんだよ~!」
 任され、チョコペンを手に腕捲りをするひなみくであった。

 子どもの頃、お菓子の家を囓ってみたいと考えたことのある者は多いのではないだろうか。ユスティーナ・ローゼも、その一人だ。
「ま、実際にそんなの食べちゃったら物凄いことになるんでしょうけど」
 確かに、と同意を示しながら、メリルディ・ファーレンはココア生地を手にデザインを語る。
「アイシングでレンガの模様を描いてみようかな。屋根はゼリービーンズで瓦っぽく、煙突のてっぺんはアラザンでぴかぴかに。外にはトナカイとそりも置きたいな」
「……何だかあったかさを感じるようなお家よね。聞いてるだけで、完成図が予想できるところとかさ」
「そう? ね、ユナはどんなのにする?」
「私はとにかく凝らずに、きっちりと組み上げる所からスタートかしらね。森の中のログハウス風……を目指してみようかな」
「面白そう。模様を描くのもいいけど、積んでみない? 丸太っていうより板だけど、木目つけてから積んだら本物っぽくなりそうじゃない。もちろん手伝うからさ」
「メリルにかかったら、どんな家も建てられそう」
 メリルディとユスティーナは、笑みを交わしながら、それぞれの家を組み立ててゆく。

 ティアン・バにとって初めての『組み立てるお菓子作り』。なんとかなるだろうと進める中、アイヴォリー・ロムの慌てる声が耳に入った。
「これむず、難しいです、ああっ、倒壊の危機!?」
 思ったそばから崩れかけている家をティアンが支え直すと、クッキーの壁は真っ直ぐに組み合わさり、アイヴォリーの願い通りに嵌まってゆく。
 壁は白と黒のクッキーを交互、窓縁には花に見立てたゼリービーンズ、一番目立つ屋根は……。
「アイヴォリー、任せていい? とびきり華やかに頼む」
「はい、全力でいきます!」
 レースのような雪結晶のアイシングに銀色のアラザンを散らし、冬の煌きを映し出す。雪か霜かと見紛う装飾、煙突から繋がる暖炉はきっと暖かく、何よりお腹の空く匂いがしてくる。
「ティアン、わたくしを見張っていて。摘み食いは欠陥工事の元ですから」
「見せるまでは食べてくれるなよ」
 粉砂糖の雪を仕上げに、白のギフトボックスに入れて苺のような赤いリボンをかければ、今度こそ完成。
「二人で作ってきたんだって、見せたらびっくりするかな」
「我々のヘクセンハウス職人っぷりで、あっと言わせてみせましょう」
 そうしたら今度こそ、思い切り齧り付こうと約束して。二人は、くすくす笑った。

 少し前に旅団の方でも話題になっていた『お菓子の家』。
 材料たちを見て、ルイーゼ・トマスはアイデアを膨らませる。
 そうして選んだのは、ブラックココアのクッキー。さらに煙突を作り、サンタを添えて楽しいハウスに。力みすぎて壁の一部を駄目にしてしまいつつクリム・スフィアードを見れば、ベーシックな焼き色のクッキーに、アイシングでレンガ風の模様を描いた様子はいかにも北欧風。組み立てた後、屋根には小さいマカロンを沢山くっつけて。その彩りを隠すのは勿体ないから、粉砂糖の雪は少しだけ。こちらも仕上げにサンタのマジパンを置こうとすると、ルイーゼのため息が聞こえた。
「せんぱいは、なかなか手先が器用なのだな。わたしは、細かい作業となるとうっかり力みすぎてしまっていけない。絵心はそこそこなのだが、造形の類は手を出せる気がしないな」
「ありがとう、褒めて貰えるとやっぱり嬉しい。でも、初めてでここまでしっかり作れているルイーゼも凄いと思うよ」
「ありがとう、せんぱい。さて、サンタを載せて完成だな。ラッピングをして持ち帰るとしよう」
「私の家も包んでお持ち帰りしよう」
 選んだ箱に慎重に入れて、一時のお別れをするクリム。再び会うのは皆に自慢する時、だろうか。

●力を合わせて
 大きなヘクセンハウスに挑むというのは、【ZK】の面々だ。
 基礎を担当するのは、尾方・広喜とナザク・ジェイド。広喜が考えた構造は、クッキー生地に硬いチョコを挟むというもの。それを、ナザクと共に作り上げてゆく。
 壊すための機能を作るために使えて、普段よりいっそう笑顔の広喜だ。細長いビスケットとアイシングを重ねて接着し、暖炉と煙突も作っている。
「窓は飴を溶かして固めてステンドグラス風に……と」
 ふたりの手で土台や窓ができていく様子に、ウォーレン・ホリィウッドと筐・恭志郎は目をキラキラさせている。
「ヒロキ、すごく本格的なのデス……ナザク殿、窓がお洒落ですネ」
 小さく拍手する、エトヴァ・ヒンメルブラウエ。
「よし、ジェミの壁と屋根もしっかり支えられるぜ。俺は不器用だけど、ナザクが手伝ってくれたおかげで丈夫でカッコいい基礎の完成だ」
「わあ、広喜さん、基礎ありがとう!」
 ジェミ・ニアは特大チョコプレッツェルで斜交いを入れ、壁面はチョコとクッキーの層にしてゆく。
 魔女の家ならば牢屋は必須、君乃・眸は細長いチョコを檻に仕立てる。錠前もチョコを加工、鍵は飴細工で作って壁にかける。
「飴を加工すれば蝶番も作成出来ルな、扉や窓は開閉可能にしよウ。飴は予想以上に加工が容易な材料なのダな、初めて知っタ」
 地獄の炎で器用に飴を加工する眸を、ナザクは手を止めて見つめる。
「……凄い」
「マナは職人芸ですネ」
「めっちゃ凝ってる!?」
 エトヴァと恭志郎の目も、釘付けだ。
「すげえ、地獄の炎が魔法みてえだ」
 広喜も感心しきりに眸の手元を見遣る。
 さて、ウォーレンの担当は家具。まずはベーシックなクッキーを重ねてテーブルを作る。
「大きなおうちだから家具もたくさん入れられるね。そうそう、ステンドグラスの窓の下に宝箱も置くよ」
 アラザンとアイシングでデコった宝箱、その中にはゼリービーンズの宝物をいっぱい詰めたそれは、お土産に持ち帰りやすいサイズだ。
「宝箱ん中、何が入ってんだ?」
「幸せ、かな」
 広喜の問いに、ウォーレンがにっこり答えた。
 さらにそっと宝箱を覗き込むエトヴァを見て、人数分余計に作っておこうと決めたウォーレンであった。
「家具、本格的! これは住人さんも凝らないと」
 悩みつつ、恭志郎はヘンゼルとグレーテルのマジパン人形を作り始めた。バタークリームで衣装をデコり、屋根の上にトナカイ、そしてクッキーのソリを配置。
 家の中ができたら、ジェミが薄焼きの軽いクッキーを選んで載せてゆく。そう、屋根だ。プレーン、ココア、抹茶で彩りも良い。
 丸いクッキーは綺麗な鱗型の重なる屋根になってゆく。途中、恭志郎の声にジェミが手を止めた。
「煙突付けたいんです! 尾方さんに作って貰った暖炉に、サンタさんを煙突の中にこっそりと……」
「ジェミの屋根、サンタサンも楽しくなりますネ。ア、サンタサンが煙突にかくれんぼ……面白いですネ」
 仲間の細工に、エトヴァはその都度感心した様子で感想を述べる。
 そんなエトヴァの担当は、庭。ココアクッキーを敷いた上に、花の形をしたゼリーやメレンゲ、クッキーで華やかに。
 忘れてはならないツリーは、もちろん庭の中央へ。頂点にゼリーの星を飾ると、恭志郎が綿飴をふわふわと乗せて雪の表現を。
「……皆『女子力』高いな……?」
 首を捻りながら、ナザクはメンツを見渡した。
 仲間の作ったものを守るため「すべからく建築は強度、そして軽量化」を謳うジェは、黄色い安全第一ヘルメットを被りたい気持ちになりながら屋根を載せ終えた。
「よし、これなら! エトヴァ、雪降らせてくれる?」
「ハイ、それでハ……参りマス」
 最後は粉砂糖の雪化粧。不思議と懐かしい気持ちになりながら、ウォーレンもその様子を見守る。降雪に見とれるナザクは、エトヴァの微笑みが完成の合図だと察した。
 他の菓子でも仕上げの粉砂糖は映えるが、今回は別格だ。
 出来上がりに、いくつかの拍手が起きる。
「人形たちも楽しげで……あれ、サンタは魔女の家にもプレゼントを届けてくれルのだな」
 少しばかり不思議そうな顔をしつつ、眸がぐるりと家を見て回る。
「食べちゃうのもったいないね」
「うん、食べるのもったいないね」
 ジェミの言葉に頷くウォーレン。
 完成品をみんな一緒に写真に収めた後は、皆でいただきます、だ。
 しかし。
「……これ、どこから食べればいいんだ。屋根か?」
 ナザクの言葉に一瞬沈黙し、誰とはなしに笑い声が起きた。

●それはとても立派な
 完成したら見せっこする約束をして、【親戚の集い】は二手に分かれた。
 夫婦である御影・有理と鉄・冬真は、分担して事に当たる。有理が生クリームの準備をする間、冬真はデコレーション用お菓子の選定だ。
 有理に似合う可愛らしい家を、と考える冬真の目に入ったのは、優しいピンク色のマカロン。似ている、と思った有理の頬と見比べると、彼女の頬に生クリームがついているのが目に入った。
「ね、有理」
「うん?」
 振り返った有理は、不思議そうな顔。視線はマカロンに注がれているが、無言の冬真に首を傾げる。その無防備な表情は、とても可愛らしい。
 ふと、有理の頬に温かな感触が伝わるのと「ついてるよ」の言葉が聞こえたのはほぼ同時。突然の味見に頬が熱くなると、「ご馳走様」の声が耳元で囁かれた。
 いっそう赤く染まる有理の頬に、冬真はキスをする。
「もう、悪戯好きなんだから」
「ふふ、ごめんね? 可愛かったからつい。さあ、飾り付けに集中しないと」
 少し遅れた分を取り戻そうと急ぐ二人。
 一方、鉄・千と影守・吾連は有利のボクスドラゴン「リム」と共に立派なものを作ろうと張り切っていた。
 まずは吾連がしっかりと土台を作る。そこに、千が生クリームを挟んでゆく。
「その方がクッキー同士しっかりくっつくって思うからな」
「なるほど、生クリーム使うのはいいアイディアだね。とりあえずどんどん積んでいこう」
「吾連、何階建てにしよう? とりあえず積みながら考えるか?」
 なんて会話しつつ、手は休めず。しかし立派な家は形だけでもダメ、質も大事なのだ。
「ということでリム先生、材料のお味見チェックお願いします!」
「どうでしょうリム先生! ……ココア味で一際大きく尻尾を揺らしてる!」
 千と吾連は顔を見合わせ、ココア味を使ってさらに増築してゆく。
 その作業に夢中になる二人は、いたく真剣だ。そのうえ息ぴったりで、すいすい積める。
 そんな二人を現実に引き戻したのは、有理の声であった。
「……これ、何段あるんだろう」
「そっちはもう完成? 俺達の方は……うわ、積みすぎた!?」
「千達のは……おぅ!? いつのまにか巨大化してた! リムとこの家、どっちが大きいかな……」
 驚く吾連と千は、それでもリムと言えを背比べするように図る。
「すごく大きな家だし、飾りつけはみんなでやろうか」
「……これは豪邸だな……よし、飾り付けを手伝おう」
 有理と冬真の提案に、吾連と千は二つ返事で快諾した。

 降りしきる雪が止み、月明かりでステンドグラスの影が落ちる、森の奥の廃教会。それが【風奏廃園】が作ろうとしている家だ。
「キキは見ててね」
 相棒の玩具を椅子に乗せ、隠・キカは藍染・夜の広げた簡易な完成予想図をじっと見た。
 夜の担当は、色硝子の窓作り。カラフルな飴をアイシングで繋ぎ合わせる繊細な作業に、夜は会話を忘れて没頭してしまう。
「職人の仕事だね」
 キカの言葉に、左潟・十郎はそっと見守りながら頷いた。
 メインの教会づくりを担うのは、十郎。完成図を見つつ、夜に負けていられないと慎重にココアクッキーを組み上げる。
「おいしそう……」
 そう呟くキカの視線は、ビターをメインに所々ミルクチョコになった板チョコの屋根へ。
 キカも担当の作業をしようと、マジパンで人形――天使達、サンタとトナカイ、小さな森の動物作りに取りかかる。
「わ、上手だな!」
 驚く十郎は、沢山の訪問者たちをゆっくりと眺める。
 深く一息ついて休憩をする夜は、そっと手を伸ばしてデコ用チョコを一つ摘まんだ。気付いたキカには、片目を閉じて内緒の合図をして。
 しかし、
「……チョコ減ってないか? ……ああ、二人共お疲れ様」
 笑う十郎に気付かれつつ、キカも一欠片口に放り込んだ。
 作業に戻る夜は、十郎とキカの手元を覗き込んだ。教会は完成間近、粉砂糖を振りかければ雪のよう。キカの添えるマジパンのオブジェは、暖を取りに集った面々のよう。
 十郎は、ふと思いついて扉となる大ぶりのビスケットにチョコペンで何やら描いた。
「似てるかな?」
 キカに声をかける十郎の持つ扉には、いつも彼女と一緒のロボット、キキの顔が。
「わ、キキがいる! そっくりだよ、すごいすごい」
 それぞれの作ったものを組み合わせれば、雪が降ったクリスマスの教会、やさしい絵本の世界の完成だ。
「……食べるの、もったいない」
 キカの漏らした言葉に、夜と十郎はゆっくりと頷いた。

●こだわり
 ヘクセンハウスを作るウィズ・ホライズンを見つけ、火岬・律は声をかけた。今年も無事に誕生日を祝えて良かったと、頭を下げる。
「おめでとう御座います。ところで、つららはどうやって……」
「ありがとう、律。ふふ、つららはな――」
 ウィズの手元を見て、律はなるほど、とうなずいた。オーブンシートの上に並んだ細い棒は、アイシングが固まったものだ。
「ジオラマ作りのようですね。助力が必要でしたら、遠慮なく声をかけてください。では、幸運を」
 そう告げて、律もヘクセンハウスづくりに取りかかった。まずは紙で組んだ枠で組み立てを安定させる。そしてアイシングと粉砂糖の雪で飾った屋根の上に――何を、置くべきか。
 思案の末、律はクッキーの天使を選ぶ。が、そのままでは冷たかろうと飴細工リボンの上に座らせた。
 無心無言の作業は、不思議と心地よいものでもあった。

「お誕生日おめでとう、ウィズさん。素敵なお家をつくりましょうね」
 そう話すウルズラ・オーベルラントは、壁はプレーンのクッキーで、屋根は雪の映える黒いココア生地で。ステンドグラスクッキーは天窓、本物の家ではできないだろう星型の窓もつけて。そして、アイシングで屋根や扉の模様も。
「ウィズさんはつらら、上手くできた?」
「もう少しで固まりそうだ。ウルズラはどうだ?」
「そうね、あとは――」
 切妻屋根の家に粉砂糖の雪を降らせ、周りにマジパンの動物や小人をいくつか並べて。最後は、ドア横に小さなクマを置いたら完成だ。ウルズラは満足そうに、
「わたくしの代わりに、お客さんをもてなしてね」
 と、クマに声をかけた。

 会えて良かったと暁・万里に告げられ、ウィズは笑顔を返す。
「誕生日おめでとう! 隣で作ってても邪魔じゃないかな? 少しでも今日を君と楽しみたいんだ」
「断る理由は無いからな、もちろんだ。嬉しい申し出ありがとう、万里」
 万里の隣では、舞原・夜月が頭を下げる。
「お誕生日、おめでとうございます。今日のこの日とこれからの一年がウィズお姉様にとって佳きものとなりますよう夜月はお祈りしております」
「ありがとう。夜月も、今日を楽しんでくれ」
「さて……夜月ちゃんはどうする?」
 プレーンの生地を手に、万里は夜月に問う。
「では、では、夜月はお二方と違う緑にいたします。……ウィズお姉様は、どんなお屋根が似合うと思います?」
「そうだな……白、なんかどうだろう?」
 二人を横目に、万里は器用に組み合わせてゆく。チョコの屋根、ウエハースの煙突、カラフルなキャンディのステンドグラス窓。粉砂糖で雪を降らせれば、あっという間に完成だ。
「ウィズのつらら、いいなあ。……真似しても怒らない?
「もちろん。余分があるから、使ってくれても構わないぞ」
「それじゃ、遠慮なく……ん、夜月ちゃんどしたの?」
「こちらは食べられますの?」
 首を傾げる夜月、その視線の先には光る粒。
「アラザンっていうんだ。ちゃんとお菓子だよ、少し食べてみたら?」
 言われて少し食べた夜月の目が光り、尻尾がぴんと立つ。
「……僕も大概だけど夜月ちゃんの尻尾も正直よね」
 くすくすと笑う万里も、アラザンを一粒摘まむ。
 それは、クリスマスの輝きを閉じ込めたような色だった。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月23日
難度:易しい
参加:26人
結果:成功!
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