ハロゲンランプの怪

作者:猫鮫樹


 国道の下を通る相模川中流。
 夜も深いこの時間帯は車の通りも少なく、街灯のない川原は真っ暗だ。
 もちろんこの真っ暗な川原を歩く人も見当たらない。
 人通りがもっとも少ない時間帯故に、壊れた家電を不法投棄していく人も多く、川原の一角にはそんな捨てられた家電製品が寂しげに風に晒されていた。
 冷たい風が川原に吹く中、廃棄された家電製品の一角に小型ダモクレスの姿が見えた。
 小型ダモクレスはその中にあった電気ストーブを見つけ入り込んだ。
 小型ダモクレスが入り込んだ電気ストーブはみるみる姿を変えていく。割れたハロゲンランプは割れてない状態に戻り、元の大きさよりも大きくなった。
「デンキッストーブゥゥ!」
 鳴き声を上げた電気ストーブのダモクレスは、ハロゲンの赤い光を煌々と光らせる。赤い光の先には、川原にこっそりと粗大ゴミを捨てようとした男性が居た。
 運が悪かったのか、ダモクレスが現れてしまったタイミングに居合わせた男性は、電気ストーブのダモクレスが放つ赤い光線を浴びせていったのだ。


「廃棄給湯器のダモクレスの討伐お疲れ様でした」
 先日あった、湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)達が倒した廃棄給湯器のダモクレスについてセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は触れると、私もカップ麺食べたかったですとぼそりと呟き、それを誤魔化すように予知した内容に触れた。
「またダモクレスの出現が予知されました、今回は相模川中流に捨てられていた電気ストーブです」
 給湯器の次は電気ストーブ。寒くなってきた時期に暖かくなりそうなダモクレスの出現を予知したセリカは、被害が出る前に現場に向かってダモクレスを倒して欲しいと告げる。
「長方形型電気ストーブのダモクレスは3mほどで、熱源であるハロゲンランプから光線を出す攻撃をしてくるみたいです。深夜の川原には街灯はありません」
 深夜の川原で、街灯のない状態での戦闘……と思いきや電気ストーブのダモクレスは3mほどの大きさなので、ハロゲンランプの明かりでダモクレスの位置は問題なく把握出来そうだとセリカが続ける。
 深夜の川原で国道が近くにあるが車通りも人通りも少ないようで、とくに避難などは必要なさそうだ。
「暖かい電気ストーブですが、人々を虐殺しようとするダモクレスは許せません」
 セリカは力強くそう言って、ケルベロス達を見回した。


参加者
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
烏羽・光咲(声と言葉のエトランジェント・e04614)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
神凪・龍(戦闘僧・e44137)
ディッセンバー・クレイ(カレンデュラ家の戦闘執事・e66436)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
仮名・操(地球人のブラックウィザード・e72033)

■リプレイ

●赤く煌々と
 真っ暗な相模川にぽつぽつとオレンジの灯りが光る。
 ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)が周りをライトで照らし、目ぼしい木を見て如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)に声を掛けた。
「沙耶の嬢さん、この辺につけとくか」
「そうですね」
 沙耶とヴィクトルはキープアウトテープを取り出し、人が通れそうな木と木の間を止めていく。テープを張っている間、手元が照らせるようにとランプを向けていた仮名・操(地球人のブラックウィザード・e72033)は呟いた。
「不法投棄は治安悪化プラス、ダモクレスホイホイっていい加減気付いてもいいと思うんだけどなぁ……」
「それでも無くならないですから、被害が出る前にサクッと倒しちゃいましょう」
 操の声にそう返すミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)は、廃棄家電のダモクレスが多種多様すぎて深く考えるのを諦めていた。
「とりあえず貼り終わりました」
「こっちも終った」
 キープアウトテープ貼りを手伝っていたディッセンバー・クレイ(カレンデュラ家の戦闘執事・e66436)と神凪・龍(戦闘僧・e44137)は、それぞれヴィクトルと沙耶にテープを返し、真っ暗な川へと目を向けた。
「さぁダモクレスを仕留めにいきましょうか」
 ランプに照らされた暗闇の先を見つめて湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)はダモクレスが居そうな所へと向かっていった。

 キープアウトテープを貼っているケルベロス達とは別に、烏羽・光咲(声と言葉のエトランジェント・e04614)は、護符が放つ光源を頼りに人が居ないか翼飛行で周囲を見回っていた。
 光咲は手に持つ香水瓶を握り、今回の作戦成功を祈りながら、そっと懐へしまう……すると前方に赤い光が見えた。
 気温が下がって寒いはずの川。その寒さを消し去るような熱はダモクレスであろう。
 光咲が翼をはためかせ、赤い光源に向かうと近くに見える人影。
 タイミング悪く不法投棄しに来た男性だろうか。光咲はすぐさまそこへ向かうと声を掛ける。
 光咲が男性のもとへ着いたのと同時に、他のケルベロス達もこの赤い光源に気付いて向かってきていた。
「早く逃げてください!」
 沙耶が男性に声を掛け、光咲も誘導するように飛行する。
 その男性は光咲と沙耶の声に気付くとキープアウトテープが張られている方向へ走り出し、男性とすれ違うように麻亜弥とヴィクトルがダモクレスに一撃叩き込んでいった。
「この一撃で、凍結してしまいなさい!」
「Vallop(ぶちのめせ)!」
 麻亜弥の重い達人の一撃とヴィクトルの星型のオーラの蹴りが、ダモクレスに叩き込まれると、辺りに鈍い金属音が響いた。
 二人の後ろではミリアが前衛に、ダモクレスの攻撃を少しでも耐えられるようにと、ライトニングウォールを施している。
 ハロゲンランプを煌々と赤く光らせるダモクレスに目を丸くする沙耶。
 沙耶にとって初めて見る電気ストーブを見上げ、世の中には色んな家電があるのですね……と漏らし、それと同時に不法投棄が無くならないという問題は悩ましいなと思った。それでもまず目の前の問題をなんとかしなければ。
 魔法のステッキを構え、沙耶はダモクレスに向かってエネルギー弾を射出する。
 沙耶の攻撃を受け、一瞬後ろへ倒れそうになるダモクレスだがそれを耐え、ハロゲンランプからぽこぽことエネルギー弾を射出し返した。
 赤い光の弾は勢い良く光咲へと飛ばされてくる。
 光咲はふわりと両翼で舞い、エネルギー弾を避けるとそのまま体を翼で包み込み双翼の幻想顕現(ソウヨクノハイパーファンタジア)で守りを固める。
 避けられたダモクレスのエネルギー弾は、じゅっと音を立て、線香花火のように地面に吸い込まれ消えていき、それを横目に入れて操が走った。
 狙いを光咲に定めていたダモクレスの視界の端から走る操。
「よそ見してると足元掬われるぜ」
 エアシューズが摩擦熱で炎を纏い、操がダモクレスの側面を激しく蹴り上げた。ハロゲンランプが揺れ、それに合わせて赤い光がチカチカと一瞬点滅し、すぐに煌々と赤く光る。
 チカチカと瞬いた一瞬の光に、少しだけ目を細めたディッセンバーは次に来るダモクレスの攻撃に備えるためにスチームバリアを自身に施し、ダモクレスの動きを注視していた。
「確かに今回の敵は目立つな」
 3mほどの大きさのダモクレスはヘリオライダーの言っていた通り、周りが暗闇でもハロゲンランプの明かりが目立ち、見つけやすかったのだろう。
 ダモクレスを見つける前までの無表情とは裏腹に、龍は好戦的な表情を浮かべて斬霊刀を構えた。
 雷の霊力を帯びた斬霊刀を素早く動かし、龍はダモクレスの上部へと幾度となく突いていく。
 たまらずダモクレスは首を振るかのように、体を揺らし赤い光を右往左往させた。
「ストーブゥゥゥ」
 痛みを感じているのか、情けない鳴き声を上げるダモクレス。だがそんな声をあげたところで、ケルベロス達の攻撃の手は止むはずもない。
 ダモクレスを必ず倒すべく、ケルベロス達は武器を握り締め、赤い光を見つめた。

●滲む汗
 季節的にはもう冬になり、寒さが身を刺すであろう川辺。
 だがケルベロス達の肌には汗が滲んでいた。ダモクレスの戦闘で動き回っているからだけではなく、目の前のダモクレスのハロゲンランプの熱のせいも大いにある。
「ほらほら鬼さんこっちですよ」
 ダモクレスの攻撃を受け止めた操の額にも汗が滲み、それを拭いあげた。
 攻防で動き回っていて暑いのに、このハロゲンランプの熱源も暑くてたまらない。
 大きくなった電気ストーブは通常サイズなら、部屋を暖めて調度良く感じられそうなのに。
「それにしても電気ストーブ暑すぎませんか?」
 緑色の髪をかきあげ、仲間を回復していたミリアが零すと、他の皆も頷き返す。
「ああ、確かにこうでかいストーブが目の前じゃ暑いな」
 言いながらヴィクトルはガジェットを重火器形態へ変形し、形成されたセンサーがダモクレスを捕捉したのを見て一斉掃射。スマート・スナイプの凄まじい弾丸をくらったダモクレス。
 右側のハロゲンランプは弾丸と今までのダメージが重なり割れて、赤い光がぷつりと消えた。
 片側だけが赤く灯る状態になったことで、先ほどまでの暑さも少しは軽減されたように感じる。
 少しだけ明るさが減ってしまったが、各自持ってきたランプなどの照明で足元は確認できるようだ。
 その中を龍がダモクレスへ駆けて行く。彗星の如く光を放つ龍の体は、ダモクレスへと思い切り体当たりをくらわせた。激しい龍の体当たりで、ぐらりとダモクレスの体は揺れる。
 揺れに耐えたダモクレスが残ったランプを煌々とさらに灯らせ始めた。熱光線を放つのだろうか。狙いをミリアに定めたダモクレスが光線を発射させた。
「ここから後ろへは届かせませんよ」
 後方にいるミリアへと向けられた熱光線。それを遮るようにディッセンバーがミリアと熱光線の間へと割り込んでいく。
「ディッセンバーさん危険です!」
 麻亜弥が目を見開いて、ディッセンバーに叫ぶ。熱光線によるダメージは相当のものだろうと、誰しもが思ったことだろう。
 だがディッセンバーに向かってくる熱光線の間。
 そこには大きな影があった。ディッセンバーの後ろにいたミリアはその影が何かをすぐに確認できた。
 瓦礫の壁。ディッセンバーの足元から伸びる影から巨大な瓦礫の壁が出ていたのだ。
「熱光線対策に瓦礫はたっぷり収納してきました。全部溶かせますか?」
 その言葉通り、たっぷりの瓦礫の山。ダモクレスが発射した熱光線がじわじわと瓦礫を溶かしているようだが、全部を溶かすのは容易なことではなさそうだ。
 危険を知らせるために声を掛けた麻亜弥はその様子を見て、安心したように息を吐くと、瓦礫の山を溶かそうと必死になるダモクレスへ向き直り武器を握りなおした。

●赤い光は消える
 ケルベロス達の体には多少の火傷が見える。
 ひりつく痛みとわずかな疲労を感じる中、目の前の電気ストーブ型ダモクレスも与えられたダメージを大分蓄積しているのか、残った左側のハロゲンランプを明滅させる。
「もうすぐ倒せそうですね」
 赤い光の明滅で照らされる麻亜弥の青い髪から覗く青い瞳が、ぼこぼこに凹んだダモクレスを見つめ、皆に声を掛ける。
「ラストスパートかな」
「綺麗に片付けてしまいましょうか」
 操とディッセンバーが麻亜弥の言葉に答え、各々が持つ武器を握りダモクレスを畳み込むように動き出した。
 回復も耐性も問題ないと判断したミリアが弾丸を射出する。
 病魔の弾丸はダモクレスの外装を抉り突き破っていき、そこに追い討ちをかけるようにヴィクトルのガジェットが火を吹く。
「ミリアの嬢さんに続け!」
「はい!」
 ヴィクトルの次に動いた沙耶は運命を示す。
 占いを得意とする沙耶の運命の導き「皇帝」(フェイト・ガイダンス・エンペラー)がダモクレスに当たると、鈍かった体の動きがさらに鈍くなった。
 双翼の幻想顕現(ソウヨクノハイパーファンタジア)でエンチャントを付与していた光咲が、ダモクレスの動きをさらに鈍らせるために放つ時空凍結弾。
 だがダモクレスは足掻くように、明滅するハロゲンランプから光線を吐き出した。
「いったぁ……、流石に今のは効いたかも」
 仲間を庇うために光線を受け止めた操は、仕返しだと言わんばかりに地を蹴り飛びだした。
 炎を纏った操の激しい蹴りがダモクレスに当たり明滅が激しくなる。
「全武装解放! ……全てはひとつに接続回帰するものなり! 咲き……穿て!」
 明滅が激しくなったダモクレスに追い討ちをかけていく。ディッセンバーがダモクレスに突撃すると、手持ちの武装を周囲に展開し連続した乱舞攻撃が始まった。
 武装解放全接続・突華(オールアームズ・フルバースト・エペ)による攻撃はダモクレスの体を吹き飛ばす。
「こいつもくらいな」
 好戦的な表情を浮かべる龍が、吹き飛ばされるダモクレスの気を掴み、そして投げた。
 龍の追撃にダモクレスは川辺の小石や砂を巻き上げ後退し、ゆっくりとその大きな体が倒れていく。
「海の暴君よ、その牙で食い散らかせ……」
 幾度と攻撃を叩き込んだダモクレスの体を、麻亜弥が袖から引き出した暗器で切り刻む。
 鮫の牙に似る麻亜弥の暗器は、金属だろうダモクレスの体、いや電気ストーブの外装をズタズタに切り刻んでいった。
「デンッキ……ストーブゥ……」
 捨てられていた他の廃棄家電やらを巻き込み、大きな音を立ててダモクレスが倒れていくと、赤い光はすっと消えうせ、元のサイズであろう電気ストーブへと戻っていったのだった。

●ゴミ処理はボランティア
 ズタズタになった電気ストーブと、無残に捨てられたゴミ。
 ダモクレスを倒したケルベロス達は一息つくと、川辺の片付けをしつつ、冷たい風に身を震わせた。
「寒いです」
 冷える手に息を吹きかけて麻亜弥は呟くと、そっと手元に光咲がカップを差し出した。
「良かったらどうぞ」
 湯気が昇るカップは紅茶が入っている。光咲は麻亜弥に渡すと、他のケルベロス達にも声を掛け温かい紅茶を味わう。
 片付けをしていた龍はカップを受け取り、ダモクレスであっただろう電気ストーブを見つめ、せめて成仏ができるようにその胸の中で祈りを捧げていた。
「にしても、こんだけ棄ててしまうのは勿体ないだろうに」
 ネジ一本でも譲ってくれればいいのにと頭を抱えるヴィクトル。その横ではせっせとミリアが不法投棄されたゴミをヒトガタに積み上げている。
 番人じみたオブジェを作るミリアに、苦笑いをヴィクトルは浮かべてしまった。
 各々の行動と棄てられた物を見ていた操は、ここを管轄している市役所や区役所に連絡でもしておこうかともらった紅茶を飲み干す。
「そろそろ戻りませんか?」
 ハロゲンタイプの電気ストーブを興味深く見ていた沙耶は、皆に声をかけ川辺を後にしようと足を動かす。
「撤収前に……少しお時間いただけますか?」
 ふむ……と不法投棄されたものを見ていたディッセンバーが言うと、熱光線を遮った時と同じように影を使い、その影にどんどんと収納していく。
「もっと安心して眠れる場所へ連れていきますからね」
 無限収納の影に仕舞い込まれるゴミ。最後に戦ったダモクレスだった電気ストーブを麻亜弥が青い瞳で見つめていた。
 こうして電気ストーブ型ダモクレスは無事に倒せたのだった。

作者:猫鮫樹 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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