下着は中身、女はオマケ！？

■リプレイ

●究極の下着愛好家
　北風の吹き付ける小さな空き地。焚き火の炎が恋しくなるような季節であったが、そんな場所に陣取っているのは、ビルシャナを中心とした下着姿の男達。
「最近、死神とかダモクレスが暗躍して情勢的にはかなり殺伐しているのですが……何で、ビルシャナだけはこう……」
　良くも悪くもブレない連中の存在に、ラインハルト・リッチモンド（紅の餓狼・e00956）は早くも微妙な表情である。
「むぅ、変態ビルシャナはいくら倒しても全然殲滅できないね。でも、信者の人達はなんとか助け出してあげないとね。リリ、頑張るよ」
　それでも、こんな連中を放置してはおけないと、リリエッタ・スノウ（小さな復讐鬼・e63102）は気合を入れ直す。見れば、どいつも、こいつも、男のくせして身に着けているのは女物の下着。この寒空の下、性癖的にも体感温度的にも、色々な意味で完全にアウトだ。
　とりあえず、一刻も早く連中の目を覚まさせねば、今に通行人の女性から下着を奪うなどという暴挙に出かねない。色々と突っ込みどころはあったものの、その中でも一番の要点を、まずはラインハルトが指摘したが。
「あの、そちらの主義を聞いていたら……使用済みの下着が最高と言ってる時点で、女性をオマケ扱いしてないですよね？　女性が穿いたから、価値を見出しているのですよね？」
「ああ、その通りだぜ！　だが、それでもやっぱり、メインは下着だ！　女の存在は、敢えて言うなら調味料ってところだな」
　のっけから、返って来たのは無茶苦茶な主張。カレーにはスパイスが不可欠だが、スパイスを直に食すわけではないとか、そんな理屈で反論してきた。
「なら、汗でヌメヌメの太ったおっさんとかマッチョなおっさんが穿いた女性下着でも愛せると？　要は、下着が大事なのだからそうゆうことですよね？」
「はぁ、何言ってんだ？　俺達が大事にしてるのは、『女性の使用済み下着』だぜ！　大事にするポイント、勘違いしてもらっちゃ困るな！」
　それでも、なんとか矛盾点を指摘しようとするラインハルトだが、しかし信者達も引き下がらない。先の喩えで言うならば、カレーが好きだからといって、泥水を大量に入れたカレーを食えるのか。それこそ、好きな物に対する冒涜であり、何も解っちゃいないと返して来る始末。
「お主ら、女性の下着を愛しているといっておるが、実に下らぬ！　裸の女性に男物のＹシャツのみ、いわゆる彼シャツこそ最高ではござらぬか！　それがわからぬとはボンクラばかりでござるな！」
　ならば、全く別のお色気要素を提案してやろうとする不動峰・くくる（零の極地・e58420）だったが、そんな彼女の主張にも、信者達は動じない。
「うるせー！　だったら、せめて『使用済み彼シャツ』とやらを、俺達に寄越してみせやがれ！」
「そうだ！　現物もなしにお勧めとか言われても、判断のしようがねーぞ！」
　挑発的なくくるの言動に対し、負けじと信者達も煽ってくる。もっとも、彼らの言うことも一理あるのが、なんとも言えず頭に来るが。
　ゲテモノ趣味の人間に、ちょっと風変わりな料理をお勧めし、しかし現物を食べさせずに説得しようとするようなものだ。まあ、与えたら与えたで、彼らの場合は使用済み下着から使用済みシャツに目覚めるだけのような気もするが、細かいことは気にしたら負けである。
「いい加減にするっす！　下着が好きだから脱がせるというのは間違ってるっす！」
　あまりに酷い信者達の暴言。それに耐えかねたのか、シルフィリアス・セレナーデ（紫の王・e00583）が、早くも信者達を一括した。
「下着は身に着けるためのものっす。役割を果たすことができなくなる、下着の気持ちを考えたらどうっすか！」
　物語を作るのは主役だけではない。脇役が働くから、主役が輝く。着用している女子を見ないで、下着単体しか見ないのは本末転倒。真っ向から信者達に反論をぶつけるも、ビルシャナの力によって頭のネジが数本は吹っ飛んでいる相手に対し、正論で論破するのは極めて困難。
「おいおい、下着が役割を果たせねぇって？　お前、何言ってんだ？」
「だから、こうして俺達が身に着けてるじゃねーか！　それに、無理やり脱がすだけが、使用済み下着を手に入れる方法ってわけじゃねーぜ！」
　多少、アングラな手段になるが、そういう店でオマケの品としてもらったり、果てはネットのアングラサイトで購入したり。最後の方は殆ど非合法に近いものだが、それでも道端の女を見境なく襲うような人間と、一緒くたにされるのは問題だと言ってきた。
「なんか……物凄く殴りたい気持ちになって来たっすね……」
　ドヤ顔を決めている信者達を前に、シルフィリアスは込み上げる怒りを抑えつつ、拳を握り締めて震わせている。
　こいつら、今すぐ全員ぶん殴って、そのまま警察に突き出したい。が、ここで攻撃を仕掛けてしまったら最後、ビルシャナと一緒に彼らの相手までしなければならない。
　こんな連中でも、一応は一般人なのだ。なるべく死傷者を出さないようにするためにも、可能な限りの説得はしておきたいところ。
「やはり、正攻法では駄目ですか……。ならば、奥の手を使うしかなさそうですね」
「奥の手？　だったら、私達で女の人の身体の素晴らしさを教えてあげよう！　それでいいんだよね？」
　胸元のボタンに手を掛けてシフカ・ヴェルランド（血濡れの白鳥・e11532）を見て、八代・たま（酔っ払いお姉ちゃん・e09176）が微笑んだ。どうやら、二人には色々な意味で、一部通じるものがあるようで。
「まあ、それでも駄目なら、最後はショック療法デスネ」
「ショック療法？　確かに、刺激は大事だよね！」
　半分、死んだ魚のような目をしてビニール袋を抱えているモヱ・スラッシュシップ（機腐人・e36624）の横で、ユーデルラーネ・メーベルナッハ（夢色フェアベルゲン・e66822）が意味深に満面の笑みを浮かべた。

●究極の下着
　下着はメインで、女はオマケ。究極の下着フェチを自称するビルシャナと信者達を目覚めさせるには、中途半端な刺激では不可能である。
　ならば、ここはこちらも覚悟を見せよう。そう、思ったかどうか定かではないが、たまとシフカの二人が信者達の前に立ち。
「いいかね君達。下着は確かに良い物だが、それを着た女性の体の良さがわからないというのは不幸な事だよ。なのでお姉さんが教えてあげよう」
「あなた方は本当に美しいモノを見失っています。真に至高なのは……女体です。本当に美しい女体というものは、何も着けずとも美しいのです」
　そういうわけで、今から最高に美しい女体を見せてやる。それだけ言って、彼女達は躊躇うことなく、堂々と着ていた衣服を……脱ぎ捨てた！
「えぇっ！　ちょっ……な、何しているんですか、二人とも！？」
　何の迷いもなく肢体を晒した二人を前に、ラインハルトの方が真っ赤になっていたが、それはそれ。
「……という訳で、下着はやっぱり女性が着てこそだよ！　女もメイン！　大体、あんな下着なら何でも良いような事言ってる鳥野郎に、下着の何がわかるってのさ！」
　この美しき女体の素晴らしさが解らないとは、何と不幸なことだろうか。下着姿のまま、自信満々に言ってのけるたまだったが、対するビルシャナと信者達も負けてはいない。
「下着なら何でもいいだって？　ふっ……解ってないのは、あんたの方だ。俺達が愛するのは、あらゆる年齢層の女性の下着！　幼女の下着には、幼女らしい微かな甘さが……婆さんの下着には、味のある渋味があるものさ」
「それに、下着は穿くことで生の感触を味わえるが、女は穿けないじゃないか。そんなもの、俺達にとっては生殺しの生き地獄だよ」
　いかん、こいつら真正のアホだ。というか、そもそも女性より下着を愛している時点で、性癖云々の前に人間としてどうかと思うレベルである。
　ちなみに、たまの放ったフェロモンは、ビルシャナの洗脳効果に相殺されて、何の効果も発揮していなかった。どうやら、こういう場合は種族の力云々よりも、デウスエクスとしてのパワーの方が勝ってしまうようである。
「くっ……こいつら、予想以上の変態でござるな」
「……もう、殴っていいっすか？　いいっすよね？」
　女の裸体を目の前にしてさえ、下着にした目が行っていない信者達に、くくるやシルフィリアスはブチ切れ寸前。そんな彼女達の怒りを代弁するかのようにして、モヱは少しばかり恥じらいつつも、袋の中から下着を取り出した。
「こちらに下着を用意致シマシタ。……少し臭うかもしれまセンガ、よろしければお納めクダサイ」
「おぉっ！　ようやく、我らの思想に賛同する者が現れたか！」
　先程からお預けを食らっていたのが幸いし、信者達は我先にと、モヱの取り出した下着に殺到する。その下着がどんな種類の物で、そもそも誰の持ち物だったのかも、殆ど確かめることさえせずに。
「はぁ……はぁ……下着！　下着……いぃっ！？」
「くんか、くん……っ！　こ、これはぁっ！？」
　もっとも、一番最初に下着へと飛びついた者の内の何人かは、既に下着の正体に気が付いた模様。
「臭うデショウ……男性の香りが……」
「……ぐはっ！！」
　モヱの口より告げられた衝撃の事実。それを聞いて、信者達の中には気絶する者まで現れる始末。
　姿形は女性用でも、香りは紛うことなき男のそれ！　美人のお姉さんの下着だと思って盗んでみたら、実際はニューハーフのオッサンが持ち主だと言われた程に、衝撃的なインパクト！
「お、おのれ、貴様……謀ったな！」
「こうなりゃ、上書きだ！　てめぇらの下着を、今すぐここで奪って装着してやるぜぇっ！」
　仲間の死は無駄にしない。そんなことを口走りながら、残る信者達が突撃してきた。
　ああ、やっぱりこういう展開になってしまうのか。もっとも、そんな緊迫した状況の中、何故かリリエッタだけは至極落ち着いた様子であり。
「女性用の下着ってブラジャーのこと？　リリくらいのサイズなら、別にブラジャーなんていらないよ。ほら、こういう絆創膏で、大事な部分を隠すだけでも大丈夫だもん」
　そう言って、スカートの下に穿いて来た、白いスクール水着を晒すリリエッタ。なるほど、確かにこれなら下着ではないので、奪われる心配はありませんね。それを見た信者達は、恐ろしく残念そうな顔をしていましたが。
「まあ、そんなに女性の温もりが残る下着が欲しいなら、好きな人のイメージ香水をつけた、好みのデザインの下着でも身に着けていればいいのデス」
　ここぞとばかりに、モヱが信者達に追い討ちをかける。しかし、重度の『使用済み下着マニア』である彼らは、既に人工的な香りでは満足できず。
「なるほど……あなた達は、使用済みのパンツの匂いとか、染みとか、後は温もりに価値を感じるんだね。だったら……その、どれもをもっとたっぷり濃厚に感じられる手段が……これよっ♪」
　もはや、我慢の限界となった信者達の内の一人に狙いを定め、ユーデルラーネは迷うことなく、自らの太股で彼の頭を挟み込んだ。
「はぅぁっ！？　こ、これはぁぁぁぁっ！！」
「ほぉら、めいっぱい堪能してねぇ♪　その匂いも染みも温もりも、女の子のココから来てるんだから♪」
　誰がどう見ても、放送コードギリギリの危険な行為。しかし、パンツがメインで女はオマケと思っていた信者達にとって、これは正に蒼天の霹靂！
「そ、そうか！　俺達は今まで、パンツこそが本体だと思っていたが……違ったんだ！」
「さっきの言葉、訂正するぜ。パンツは穿けるが、女も穿ける……要は、そういうことだろう？」
　即ち、女性こそ至高のパンツであり、それを穿くことが正義である。それだけ言って、信者達は一斉に空き地の外目掛けて駆け出した。女性をパンツにすることで、自らの欲望を満たすために。
「なんというか……違う方向の変態を生んだだけな気がするっす」
　去り行く信者達の後姿を、シルフィリアスがドン引きした様子で見つめていた。だが、今はそんなことよりも、目の前のビルシャナを退治することが先決だ。
「な、なんということだ！　私の理想が……ランジェリーパラダイス計画が……」
　唖然とするビルシャナだったが、時既に遅し。全ての手駒を失った彼に待っていたのは、ケルベロス達による痛烈な仕置きの時間だった。

●炸裂、女体パワー！
　下着は本体、女はオマケ。そう言って女性を蔑にしようとした変態鳥頭に対する、ケルベロス達の怒りは凄まじかった。
「こらー！　サイズが違う下着を無理に着けるんじゃありません！　ちゃんとサイズを合わせないと、形が崩れたり締め付けられて体によくないでしょ！」
　下着を舐めるな、馬鹿にするな。そして粗末に扱うな。もはや、お前の存在そのものが冒涜だとばかりに、たまは踊りながらナイフを投げまくり。
「あの人達にはサービスしてあげたけど……あなたは、だぁめっ♪」
「左腕『震天』、氷結粉砕機構稼働。唸れ絶対零度の氷刃！　凍結手裏剣！」
　ユーデルラーネの投げた札が氷の槍騎兵となって襲い掛かり、果てはくくるの投げた氷の手裏剣までもが、ビルシャナの肉体から凄まじいスピードで熱を奪い去って行く。
「あがが……さ、寒い……寒ぃぃ……」
　まあ、いくら羽毛が生えているからといって、下着姿で氷漬けにされれば寒かろう。
「もう、頭が痛いので黙らせます！」
「うわ……なんだか気持ち悪いから破いちゃうよ！」
　震えるビルシャナを、ラインハルトとリリエッタがが容赦なく殴り飛ばした。その衝撃で凍った羽毛諸共に、ビルシャナの下着まで木っ端微塵！
「収納ケース、あれの動きを止めるのデス」
　モヱに命じられるままに、ミミックの収納ケースがビルシャナの尻に噛み付いた。その隙に、モヱは杖先から電撃を飛ばし、それをシフカが受け取って。
「姉弟子程では無いので威力は控えめですが……お覚悟を。螺旋忍法『一発乳棍』！」
　ビハインドのヘイドレクが後ろから羽交い締めにしたビルシャナの顔面を、巨大な乳で張り倒す！
「ぐっはぁぁぁっ！！」
　男性ならば、食らって嬉しい乳ビンタ。しかし、極限までに強化されたシフカのそれは、鋼鉄をも砕く程の破壊力！
「これで止め……行くっすよー！」
「くっそぉぉぉっ！　お前達の下着は。何色だぁぁぁっ！！」
　最後は、シルフィリアスが杖先から放った凄まじい光の奔流に飲み込まれ、意味不明な断末魔を残し、ビルシャナは完全に消滅した。
「う～ん……下着って、そんなに大切なのかなぁ？」
　去り際に、ビルシャナの消滅した空を見上げ、静かに呟くリリエッタ。
　確かに、下着も大切なのかもしれないが、自分の命や、他にも大切な何かまで捨てて死守するのは、やはり違うと思うのであった。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年11月29日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 2
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