七五三に牙が降る

作者:七尾マサムネ

 関東、某市。
 神社では、七五三のお参りが行われていた。
 晴れ着に身を包み、千歳あめの袋を持った子どもたち。笑顔で写真を撮られる光景が、あちこちで見られる。
 空は青一色。子どもたちの未来を祝福しているようだ。……しかし。
 晴天を切り裂く、厄災の牙。境内に相次いで飛来したそれらは、竜牙兵へと変化すると、それぞれの武器を抜き放った。
「グハハ、チキュウジンのコドモがズイブンとイるナア!」
「コレナラバ、グラビティ・チェインをアツメルのもカンタンダ! グァッハハハ」
 気味の悪い笑い声を上げると、竜牙兵は、足元で転んでいた子どもの首をかき切った。
 突然の出来事に、これが現実だと受け入れることさえできず。その場に凍り付いた両親もまた、別の竜牙兵によって惨殺される。
「ツギはドイツダ?」
「ドウセ、ミナゴロシダガなァ!」
 子ども達の笑い声が、竜牙兵のそれに塗り替えられる。
 肉が裂け、骨が砕ける音が、神社を支配した。

「大変っす、七五三の子どもたちが竜牙兵に襲われるっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の招集に、グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)は、危惧してた事が起こるってわけか、と眉をひそめた。
「事件を解決するための最善の方法は、あえて竜牙兵を出現させて、その直後に避難や攻撃を行う事っす」
 事前に人々に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現し、結果として被害が拡大してしまうからだ。
「避難誘導はこっちで警察に連絡しとくっすから、皆さんは竜牙兵との戦いに集中して欲しいっす」
 神社へ襲来する竜牙兵は、全部で5体。
 クラッシャーは2体。『簒奪の鎌』と同等のグラビティを使用する。
 ディフェンダーは1体。こちらは『ゾディアックソード』のグラビティを。
 そして、ジャマーが1体に、スナイパーが1体。この2体は、どちらも『バトルオーラ』のグラビティを使用するという。
「敵の数は多いっすけど、単体での戦闘力はそんなでもないっす。皆さんが冷静に対応すれば、必ず勝てる相手っす」
「所詮は雑兵。ドラゴン共の使い走りって事だなァ」
 グラハが、少々凶暴な笑みを浮かべた。
「七五三、せっかくの晴れの日、悲しい思い出の日にしちゃいけないっす! なんとしても竜牙兵を倒してほしいっす!」
 ダンテの懇願を受け、出撃していくケルベロス達であった。


参加者
暁星・輝凛(獅子座の星剣騎士・e00443)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
伊織・遥(自縄自縛の徒花・e29729)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)
沫雪・ありす(泡沫の白・e62457)

■リプレイ

●祝いの日と呪いの牙
 神社は、いまだ平穏であった。しかしそれも、もうすぐ破られる。
「竜牙兵……呼びもしないのに、本当に何処にでも現れますね。子どもの成長を祝ってこれからも健やかにと願う大切な時間を、未来を、奪わせはしません」
 決意の百鬼・澪(癒しの御手・e03871)とその相棒、ボクスドラゴンの花嵐。
「幼い子供を狙うなんて、流石に外道が過ぎるね。か弱き淑女とはいえボクも猟犬。この牙、遠慮なく彼らに突き立てても良さそうだ。……ね、マルコ?」
 親友であるピンククマぐるみに話しかけるニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)。
 そしてついに、飛来する巨大な牙。
(「……本当に見境なく現れますね……。ですが、晴れの日を血で汚すなど、させませんよ」)
 1本、また1本と境内に突き立つ牙を見て、伊織・遥(自縄自縛の徒花・e29729)が、腰に帯びた刀に手をかける。
 牙の姿を解き、戦闘形態となった竜牙兵が、子どもたちを相手に暴れはじめた。
 しかし、境内に吹く一陣の風……俊足にて接敵したグラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)が、敵の武器を振るう手を止めた。
 突然の事に、立ち尽くす1人の少年。その前に、また別の竜牙兵の鎌が迫る。
「グラビティ・チェイン、モラッタ!」
「お前らの好きにはさせない!!」
 少年の前に割って入ったのは、ゾディアックソード『レグルス・レガリア』を手にした暁星・輝凛(獅子座の星剣騎士・e00443)。
「もう大丈夫。パパとママのところ、ひとりで行ける?」
 輝凛の笑顔に不安を取り去られた少年は、うなずきを返すと、駆け出した。
「せっかくのおいわいの邪魔だなんて、無粋もいいところなのだわ! 安心して、わたしたちが来たからにはもう大丈夫なのよ」
 沫雪・ありす(泡沫の白・e62457)も、ボクスドラゴンのグリと一緒に、混乱する子ども達をなだめる。
 ケルベロスにうながされ、逃げていく子ども達やその親、参拝客。避難誘導するのは、駆け付けてくれた警官達だ。
「もう! せっかくみんな七五三楽しみにしてたのに。わたしたちが絶対邪魔なんてさせないんだから!」
 ケルベロスの邪魔を受け、集結していく竜牙兵どもに、宣戦布告するイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)。
「イキのイイグラビティ・チェインをエルチャンスなのダ!」
「ジャマはサセヌ!」
 鎌を振り上げ、剣を構え。あるいはオーラを噴き上げる竜牙兵たち。
「子供は7歳まで神の子、なんて言いますがね。お子さん方も、お子さんの成長を祈るご両親も、お前たちにくれてやる筋合いはありません」
 天原・俊輝(偽りの銀・e28879)が言う。そのかたわらに並ぶは、ビハインドの美雨。
 ケルベロス達による迎撃戦が開始された。

●牙、5本
「全員、ここで倒す!」
 輝凛が、敵をにらむ。そのまなざしは激しく、子ども達に向けたものとはまるで違う。
 敵は多いが、まずはクラッシャーから崩す。敵軍の攻撃力を削ぐのだ。
 さっ、と手のひらをかざす澪。花弁を思わせる雷が走ったかと思うと、自軍後衛に華やかな爆発が巻き起こる。活性の爆煙だ。
 そして前衛の花嵐は、美しい翼を羽ばたかせ、敵へと向かう。
「シネェッ!」
「子どもを嬉々として狙うとは、キミ達の悪趣味には心底辟易だ。その見苦しさ、とても正視に堪えないし消えて貰うよ」
 ニュニルが侮蔑と共に、魔方陣を虚空に描く。その腰で、リボンで結わえられたマルコが揺れる。
 呼び出されたのは、炎の精霊。小さく愛らしい彼らは、しかし激しく、眼前の敵群を焼き払う。
 ウイングキャットのクロノワが、攻撃を仕掛けつつ、ディフェンダーとして構えていると、5体が仕掛けてくる。
 イズナがその攻撃を遮るべく、蹴りを披露した。一筋の流星、否、ひらり舞う緋色の蝶の如く。
 攻撃のタイミングをずらされたところに、輝凛の剣が来る。
「グゥッ!」
 獅子座の輝きと怒りが乗せられた斬撃をまともに受け、よろめく敵クラッシャー。
 先ほどから、敵ディフェンダーがかばいに入ろうと試みている。が、俊輝が味方ディフェンダーと連携しながら、攻撃の隙を埋めるように、オーラ弾を放つ。
 喰らいつく弾を振り払った竜牙兵を、今度は、がれきが襲った。美雨が念動力で、石畳の残骸を叩きつけたのだ。
「竜の牙も骨だと思えば、まぁ番犬にゃちょうどいい『オヤツ』ってことで。喰い易いようバラバラに砕いてやるよ」
 グラハの鉄爪が、敵に裂傷を刻みつける。『勝利』のみを求める荒々しい戦いぶりは、竜牙兵にも引けを取らない。
 ケルベロスのペースにはさせじと、別のクラッシャーが、俊輝に裁断の鎌を投じた。それを受けつつも、反対側から踏み込んできたディフェンダーの剣から、仲間をかばう俊輝。
 更に、敵の後方支援が来る。ジャマーのオーラが、後方のニュニルに咬み付き、スナイパーが花嵐を吹き飛ばす。
 そして、先ほど『オヤツ』呼ばわりされた事が気に障ったのか。クラッシャーがグラハの首筋めがけ鎌を振り下ろした。だが、致命傷ではない。少々流血した程度だ。
 鎌を引くクラッシャーは、背中に衝撃を受けた。遥が、御業に命じ、炎の砲を放ったのだ。
 遥の顔には、笑みが貼り付いている。だが、その表情の裏では、子供がいる場所を狙ってきた竜牙兵に対して『キレて』いた。
 その証拠に、遥の目は笑っていないし、何より、殺気がすごい。
 乱戦模様の中、ありすが、満月の輝きを手元に顕現させると、その力でグラハを回復した。グリも、俊輝に自分の属性力を注ぎ、傷を癒す。
「いっぱい飛んできたみたいだけど――竜牙兵って子供を狙っちゃうくらいしかできないのかな?」
「チョウハツのツモリカ!?」
 イズナの視線が敵クラッシャーを射抜く。その間に、周囲の空間に、光の蝶々が一片、二片とゆっくり増えていく。
「でも……わたしたちに見つかっちゃったから、もうそんなことはできないからね」
 鎌で蝶を振り払う竜牙兵。だが、気づけばその視界は、蝶々に埋め尽くされていた。
「もう逃げられないよ♪」
 イズナがそう告げた時には、クラッシャーは散華していた。光の蝶の幻想に抱かれて。

●折れぬ心と折れる牙
「イイキに、ナルナ!」
 輝凛が、もう1体のクラッシャーの鎌をかいくぐり、斬撃を繰り出す。数多の霊体を宿した刃が、竜牙兵を切り裂くと同時、その身を汚染した。
「輝凛さん、引き継ぎます」
 毒に蝕まれた敵が反撃するより先に、澪が拳を繰り出した。その一撃の勢いはすさまじく、受けた竜牙兵の体に氷塊が生み出された。
「グウ、コノママではスマサンゾ」
 クラッシャーが、澪をつかむと、鎌を突き立てた。同時に、澪を襲う脱力感。傷口から活力が奪われているのだ。
 だがそこに、花嵐が体当たりを決めた。澪を竜牙兵から引き離す。
 無様に転倒した同朋には構わず、ジャマーは、咆哮の拳でクロノワをはね飛ばす。
 一方で、ディフェンダーは守護方陣を描き、前衛の守りとした。
 それを見た俊輝は、味方に守りをゆだねると、拳を炸裂させる。音速超過の打撃は、加護の星光を一瞬ではがすと、クラッシャーを吹き飛ばした。
 飛んでくる味方の体をかわしながら、スナイパーの放った気弾が、輝凛を狙う。かわしきれない……そう判断した輝凛は、とっさに剣をかざし、甘んじて攻撃を受けた。
「ツギはドイツダ」
 標的を吟味する敵と、遥の視線が交錯した。直後、遥の殺気が具現したように、敵の体が爆砕される。
 九尾扇を振るう、ありす。妖の力に導かれ、負傷者の身に幻が宿った。それは怪我を治癒するだけでなく、敵の動きを阻害する力をも高める。
 ニュニルの攻性植物が、傷ついたクラッシャーに襲い掛かった。『口』を開いて絡みつくと、その牙を立てる。
 攻性植物を引きちぎろうとする敵目がけ、イズナが光翼を羽ばたかせた。逃れようとする敵を、光の軌跡を描いて追いかけ、輝きで飲み込む。
 敵の命は風前の灯。グラハが、その身を『悪霊化』させる。その凶暴な瞳、挙動が、敵をもおののかせる。
 ずん、と敵の中心核をえぐると、けいれんの後、砕け散った。
 2体目、撃破。
 次なる標的、ディフェンダーと相対する遥の殺気が、弱まる気配はない。笑顔の凄絶さは、深まるばかりだった。

●決着の時と七五三
「回復はまかせて!」
 ありすとグリは、攻撃役ではない。けれど、癒し手の役目を果たして、絶対にこの場所は守る! という強い意気込みにあふれている。
 ダメージのフォローを2人に託すと、ケルベロスたちは、敵の殲滅に集中する。
 ディフェンダーの守りを突破するため、澪が、グラビティ・チェインの力を、弓に注いだ。
 求める力の高まりを感じ、迫る竜牙兵への返答は、至近距離からの強力な一矢だった。胸を貫き、地面に縫いとめる。
 そこを、イズナが左右に構えた二刀で、断ち切る。敵の存在する空間ごと。
 続けて閃くのは、俊輝の刀『銀露梅』。銀の刃は、上半身を起こしたばかりの竜牙兵にはよけきれず、肩から斬り下ろす。
 片腕を損傷しつつ、無事な方の腕で、剣をふり上げるディフェンダー。
「モラッタ……ナニッ!?」
 苦悶の声をこぼしたのは、竜牙兵の方だった。グラハの身より生じた金色の角が、その腹を貫いていたのである。
 角を引き抜いた時には、ニュニルの斬撃が、ディフェンダーの首をかき切っていた。とどめを刺すと、離れて優雅に一礼。
 残ったジャマーとスナイパーは、態勢を立て直そうとする。
 しかし、輝凛の瞳が、怒りに燃える。
「子供を狙うなんて……家族の思い出を汚すなんて、許さない!」
 必殺の獅子斬撃が、ジャマーの体を両断し、塵へと還した。
 そして、最後に残ったスナイパーも、追いつめられていく。何度も遥の刃が振るわれるうち、竜牙兵は幻影に囚われていく。あたかも、万華鏡の中に閉じ込められたような。
 千変万化の彩りの中で、竜牙兵の命は終焉を迎えたのだった。
 敵を駆逐した後に残るのは、戦いの傷跡。牙が突き立った場所は、特に破損がひどい。
 このままでは、七五三の続きも出来ない。澪やありす達が、神社のヒールに取り掛かった。
「皆無事かな……キミ達の未来は、ボクらが護るからね」
 ニュニルがマルコを抱き直していると、親に連れられ、子ども達が戻って来る。怪我人はいないようだ。
「もう大丈夫だよ」
 イズナが、子どもたちに笑いかけた。
「えへへ、いっぱい楽しんでいってね」
 子ども達から不安や恐れが消え、元通りの光景が戻って来た。
 片付けを終えたグラハが、屋台に足を運ぶ。『オヤツ』だけでは喰い足りなかったようだ。
「いつも思うが一人前っての少なすぎねぇ? これじゃ小腹も満たせねぇだろ……とりあえず追加10個頼むわ」
 グラハの注文が、店主を驚かせ……そして喜ばせた。
「ところで、これってどんなお祝いなのかしら、ね、グリ」
 首を傾げるありす。めでたい行事だとは聞いているが、こうした風習には詳しくないのだ。
 他のケルベロス仲間から由来などを教えてもらったありすは、不思議そうにきょろきょろしつつ、お祝いの雰囲気を楽しみはじめる。
 遥は、戻ってきた賑わいを、どこか懐かしいものを見る目で見守っていた。理由を問う者こそいなかったが、問われたところで、絶対に答える事はなかっただろう。
 かくして、子ども達の未来は守られた。勇敢なるケルベロス達によって。
(「そういえば、美雨も七五三やりましたね……」)
 子ども達からビハインドに視線を移し、俊輝は、物思いにふけるのだった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。