サボテンたちの襲撃

作者:波多野志郎

 季節は巡って、冬。大阪市内も漂う謎の花粉は、風によって流されていく。それは、とある一軒家へとたどり着いた。
 それは偶然に偶然が重なった結果だ。例えば、その日家主が留守だというのに窓を締め忘れていなければ――あるいは、室内でサボテンなど育てていなければ、これから起きる不幸はなかったはずだ。
 しかし、起きてしまったことはもう取り消せない。攻性植物化した5体のサボテンが、部屋の壁を破壊して、外へと躍り出た。
「――――」
 サボテンの攻性植物達の、動きに迷いはない。襲うべき人々を求めて、走り出した……。

「不幸中の幸いは、家主が留守だったことですね」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が複雑な表情なのは、これが終わりではないからだ。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出しています。攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようです」
 おそらく、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させて大阪市内を中心として、拠点を拡大させようという計画なのだろう。大規模な侵攻ではなく、のまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』いくだろう。
 それを防ぐために、敵の侵攻を完全に防ぎ、更に、隙を見つけて反攻に転じなければなない。
「今回現れるのは、サボテンの攻性植物で、謎の胞子によって複数の攻性植物が一度に誕生し、市街地で暴れだそうとしています」
 この攻性植物たちは、一般人を見つければ殺そうとする。敵の数は多いですが、別行動する事無く固まって動き、戦い始めれば逃走などは行わないため、対処は難しくない。
「ただ、数は多いですし、同じ植物から生まれた攻性植物だからだ連携もしっかりとしています」
 油断はならない相手は、そのことを忘れてはいけない。
「昼の住宅地での戦いです。避難は警察などにしてもらうので、みなさんには出現した相手との戦いに集中してもらえれば助かります」
 そのため、人通りのない道路が戦場になる。戦うための広さとしても問題ない。攻撃方法も遠近の単体攻撃と範囲攻撃をバランスよく持っている、敵のポジションがわからないのでどのような連携を取って来ても対処できるよう、バランスのいい作戦が求められる。
「相手は五体、それが連携を取ってきます。そのことを忘れず、こちらもしっかりと連携して挑んでください」


参加者
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
神宮時・あお(幽き灯・e04014)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)
ナターシャ・ツェデルバウム(自称地底皇国軍人・e65923)

■リプレイ


 大阪市内の住宅地、その中をケルベロス達が駆けていく。住宅地を見回して、ナターシャ・ツェデルバウム(自称地底皇国軍人・e65923)が呟いた。
「住宅地に現れるとは厄介な……被害拡大を防ぐためにも、確実に片付けたいところだな」
「サボテンの攻勢植物ですか……冬場なのに、生きていけるんですかね??」
 ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)がそう呟いた時だ、ふと破壊音が住宅地に鳴り響いたのは。
「……イタそう」
 キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)がそう言った理由は、現われた存在の姿にあった。人型をしたサボテン――サボテンの攻性植物だ。その体に生えたトゲは、確かにイタそうとしか言いようがない。
(「……走る、さぼてん……。……ぶつかったら、相当、痛そう、です、ね。……ボクには、わかりません、けれど……」)
 まだ、走るサボテンにぶつかった事はない。神宮時・あお(幽き灯・e04014)の考えも、もっともだ。走るサボテンにぶつかるなど、そんな機会は一生ないのが当たり前なのだ。いや、例えそんな機会に恵まれても、あおには理解できないかもしれない――。
「ハーン、サボテン、ね。俺には観葉植物を育てる奴の気がしれねえや。喰う為ならまだしも、甲斐甲斐しく世話なんかしてよ」
 デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)は、弟の顔を思い出しながら攻勢植物達に吐き捨てる。
「ま、そうは言っても、あんなバケモンになっちゃ観賞ドコロじゃねえよな」
「サボテン、お部屋で気軽に育てられるし手がかからないしかわいいし、忙しい人が癒しに育ててたりするイメージだなぁ」
 フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)の呟きに、塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が、しみじみとこぼした。
「サボテンかあ……枯らした事あるんだよね」
 サボテンは植物だ、あくまで育てやすいであって枯れない訳ではない。問題は、枯らした理由の方だが、それを翔子が語る事はなかった。
「観葉植物がああも活発に動き回るとはな。不気味を通り越して、ある種の可愛らしささえ感じるぞ」
 ああいうの、ゆるキャラ、というのであろう? なに、違う? とオニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)が問い返している間に、攻勢植物達がケルベロスに気づいたのかこちらに向かって駆け出す。
「トゲトゲさんが家主さんのおうち以外まで壊さないうちに、急いで倒しちゃおうか」
 フィーの言葉と同時、ケルベロス達も迎え撃つために加速した。


 不意に、一体のサボテンが動きを止める。深く突き刺さる足、その動きにあおが目を丸くした。
(「……埋葬、形態……」)
 足の先、体の一部を土の中に。アスファルトを突き破った、サボテンの攻撃がケルベロス達を襲った。
 そして、それに合わせて体中のトゲを伸ばした四体のサボテンがタックルしてくる!
「壁を――!」
 ミリアがライトニングロッドを振るうとズドン! と雷の壁が立ち上がり、ナターシャが攻性植物に実った黄金の果実から聖なる光を溢れ出させた。
「適材適所と言うしな、私には私にできることをやらねば」
 ミリアとナターシャの回復を受けて、翔子が踏み込んだ。一体のサボテンへ、オウガメタルを突き出す。
「おー本当、いい連携だな。だがこっちも負けちゃいられないさ、ねえ」
 鋼の鬼、その拳の一撃がサボテンを吹き飛ばした。翔子の戦術超鋼拳に合わせ、ボクスドラゴンのシロによる属性インストールがフィーへ飛んだ。
「想い描く結末は――もうその掌の中に」
 フィーを中心に現われた小動物や小さな人形達のオーケストラが、主人公のための音楽を奏でていく――フィーの幻想のオーケストラ(ゲンソウノオーケストラ)に応えるように、あおが月に輝く夜香花を砲撃形態に変形。吹き飛んだサボテンに、轟竜砲を撃ち込んだ。
「太陽の恵みや。遠慮せず、受け取れヤ」
 そして、キソラが黒太陽を具現化――絶望の黒光を照射されていく!
 薙ぎ払うキソラのライジングダークの中へ、デレクが跳ぶ。一体のサボテンがトゲを伸ばしてそれを迎撃しようと試みるも、デレクは地獄化した左手で電柱を掴んで急停止。
「見え透いてんだって」
 トゲをやり過ごしたデレクは、すかさず踏み潰すようにサボテンの顔面に相当するだろう場所を靴底で蹴り飛ばした。
「油断はしないぞ」
 オニキスが紙兵を散布、仲間達の守りを固めていく。サボテン達は揃って後方へ跳躍、間合いをはかった。
「なるほど、これは――」
 オニキスが、目を細める。向こうの動きには、確かに連携があった。死角を補い合う、そういう動きだ。オニキスには宣言通り、油断はない。闘争は楽しむものであり、誠実であるべきだからだ。
「回復は任せてください」
「思い切りやるといい」
 ミリアが、ナターシャが、メディック達が回復を請け負う。ならばこそ、他のケルベロス達も自身の仕事に集中できる――ケルベロスと攻性植物達は、同時に地面を蹴った。


 戦闘というのは、ただ真っ向からぶつかり合うだけを示さない。特に、集団戦においてはその役割において、動き方は変わるのだ。攻撃手なら、攻撃を。防御役なら、相手を抑えるように動き。牽制役なら状況をかき回し。回復役なら、仲間を回復で支えていく。
 互いが互いの動きを保管する、それこそが集団戦における連携の基本であり、醍醐味だ。
「…………」
 あおが、迷わず前に踏み出す。それはサボテンのトゲに突っ込むのに、等しい行動だ。それでもあおの踏み込みは鈍らず、迷いはなかった。
 あおが零距離で放った時空凍結弾を受けて、サボテンの動きが止まる。そこに合わせて、フィーが自身のスカートの端を摘んで一礼した。
「さ、下拵えは任せてどんどん倒してね!」
 ヒュガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! とフィーのスカートの中から乱射されたマルチプルミサイルが、次々と着弾していく! 轟く爆音、吹き荒れる爆風、その中を切り裂くようにデレクが駆け抜けた。
「サボテンのステーキにでもしてやろうか? 食わねぇけどな!」
 ザン! とデレクが豪快に振り回した右のルーンアックスが、サボテンの胴を両断する。ズルリ、と上半身が崩れ落ち――下半身に咲いた小さな花から炎が飛んだ。
「吾が、させん!」
 デレクの前にすばやく回り込んだオニキスが、縛霊手で炎を受け止める。その爆発に弾かれる勢いを利用して、燃え盛る後ろ回し蹴りをオニキスは放った。
「斬り飛ばし、蹴り砕く!」
 ゴォ! と爆発四散したサボテンの下半身が、燃え尽きていく。残っていた上半身も、同じように灰になって消えていった。
「次ィ!」
 すっかり錆びた黒の鉄梃を肩に背負うように構え、キソラは鋭い達人の一撃をサボテンへと繰り出す。ミシ、とサボテンの表面に、亀裂が走った。
「撃ち抜いてみようかねエ」
 翔子が金針を振るい、一条の電光を放つ。その鋭いライトニングボルトの一撃に、サボテンはのけぞった。その勢いに逆らわず、サボテンは後退。ケルベロス達が追おうとすれば、ガガガガガガガガガガガガガガッ! と無数のトゲが地面から生えてその行く手を防いだ。
「シロ、無理しなくていいよ」
 翔子の言葉に、シロも属性インストールでのフォローに留まる。ミリアもメディカルレインで薬品の雨を降らせ、ナターシャもメタリックバーストの粒子で仲間達を回復させた。
「問題ありません、このまま行きましょう」
 ミリアの言葉に、ナターシャも肯定する。
「こちらの方が有利だ、焦る必要はない」
 ミリアとナターシャがそう判断する理由は、明白だ。ケルベロス側にあって、サボテン側になかった要素――すなわち、回復役の欠如。サボテン側は攻撃手段しか持たない、だからこそ回復を行なって来ないのだ。
(「……だから、動き……少し、違うんですよね……こちらと……」)
 攻撃と牽制、たまに防御。あおが見る限り、それがサボテン側の連携だ。その範疇であれば、サボテン側もいい連携を見せてくる。だが、一つ手段が足りないだけで、それは歪なものになるのは仕方がないのだ。
 例えるのなら、チョキとグーしかないジャンケンだ。こちらがグー、チョキ、パーの三つを使っている限り、有利なのはケルベロス側になって当然だ。
 それでも、ケルネロス側は油断せずに追い詰めていく。気を緩めれば、痛い目を見るのが自分達だと理解しているからだ。双方の攻防の果て、サボテン側が残り二体になった時、状況は大きく動く事になる。
「ははは、良い、良いぞ! 存分に蹴散らしてくれる!」
 オニキスが笑い、駆けていく。自身へと放たれる無数のトゲ。それを時にステップでかわし、時にチェーンソー剣を豪快に振るって切り飛ばし、真っ直ぐにサボテンへと迫る!
「吾は水鬼、この程度は朝飯前よ!  滾れ!  漲れ!  迸れ!」
 地面から不意打ち気味に伸びたトゲを、オニキスは混沌の水を憑代に水龍『龍王・沙羯羅』を召喚、押し流していった。
「――龍王沙羯羅、大海嘯!!」
 ドォ!! とオニキスの龍王沙羯羅大海嘯(ドラゴン・レイヴ)の激流が、サボテンを押し流していく! サボテンは塀にトゲを突き刺して踏みとどまろうとするも、密かに回り込んでいたナターシャがスコップ片手に笑った。
「貴様のような間抜けには、この程度の罠で十分だ!」
 踏みとどまろうとして、その足場こそ無かった事にサボテンは初めて気付く。ナターシャのピットフォールは、ただ穴を掘るだけだ。しかし、状況と組み合わせれば凶悪な罠と化すのだ。
「覆い尽くせ、闇雲ノ重鎖(アンウンノジュウサ)!!」
「――――ッ!?」
 キソラが展開した見えざる鎖が、血肉に、細胞に、瞬く間もなく広がり重圧を成す! それでもなお抵抗しようとあがいたサボテンの目の前へ、デレクが迫った。
「刻んでやるよ、テメェの鎮魂歌をよォ!」
 コォ――ッ、と大きく息を吸い込み、デレクは止める。その瞬間、吸い込んだ酸素のすべて消費するまで止まない律動を刻むが如く苛烈な無酸素連撃を繰り出した。
 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ! と高速のドラムロールのようなデレクのブレスレスラッシュが、サボテンの体を文字通り粉微塵に粉砕した。
 それを見た最後の一体は、怯まない。なおも攻撃を加えようとケルベロス達へ襲いかかった。
「患者さんの苦しみを、貴方も味わいなさい……」
 ミリアは過去に捕えた『デウスエクスの力』を病魔の弾丸へと変え、射出した。ミリアの病魔の弾丸(ビョウマノダンガン)に、サボテンの動きが鈍る――その頭上を取ったのは、フィーだ。
「よいしょっと」
 可愛らしい掛け声かと共に、フィーは超合金バスケットを遠心力をつけて振り回す。ゴウン! と鈍い打撃音が響き渡ると、サボテンが地面を転がった。
 アスファルトの上を転がるサボテンは、両手からトゲを伸ばして停止を試みる。しかし、そのトゲを這うように飛んだシロの尻尾によるタックルがへし折った。
「よくやったよ、シロ」
 その動きを褒めて、翔子が身構える。ズサァ! と体勢を崩したサボテンへ、翔子の金針による正確無比な一撃が、叩き込まれた。
 ビキビキビキ、とサボテンの表面が白く白く染まっていく。そこへ、あおがポツリと呟いた。
「……風が、紡ぐ、不可視の、刃。優しくも、鋭い、久遠の、詩」
 それは古代唄魔法の一種。声に「言霊」を乗せ、鋭い風の刃を生み出す魂響の唄。ヒュガ!! と大気を切り裂いて放たれたあおの風標の唄(シルフィソング)が生んだ風の刃が、最後のサボテンを一刀両断した……。


 戦いが、終わった。周囲を見回して、ミリアは小さくため息をこぼす。
「カケラぐらい、残っていたら良かったのですが……」
 残念ながら、サンプルに出来るようなカケラは見つけられない。密閉容器を手に残念そうにこぼすミリアの呟きに、フィーは小首を傾げた。
「サボテンの薬効は……とか一瞬考えちゃったのは職業病かなー? あら?」
 フィーは、こちらへとやってくる人影に気付いた。警察官だ。
「いつもありがと、これからヒールはするから」
「はい、よろしくお願いします」
 敬礼をする警察官に、フィーがうなずく。少しでも早く、住人達に安心してほしいのだろう。警察官からは、その心遣いが感じられた。
「力仕事ありゃ手伝いますよっと」
「キソラ殿、サボテンの持ち主の家もヒールしたいのだが――」
 ヒールの持ち合わせのなかったキソラに、ナターシャがそう提案する。それは、多くの仲間が考えていた事だ。
 ケルベロス達は戦場を修復すると、サボテンの持ち主の家へと向かう。間違いなく、今回の最大の被害者はその家だ。その修復も終えて、ケルベロス達の戦いははようやく終わった。
 この大阪を舞台とした戦いは、まだ終わりが見えない。だからこそ、ケルベロスとして彼らはその役目を果たし続けるのだ……。

作者:波多野志郎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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