某県と某県との県境にある、山。裏山ほど気軽にというわけにはいかないが、さほど険しくはなく、初心者でも登りやすい山だ。
折しも、山は紅葉の季節。山頂付近にある山小屋……というよりはちょっとしたレストラン……からの眺めは絶景だ。見下ろせば、視界全体が赤く染まっている。
登山者たちはそれを一目見ようと、山道を踏みしめていた。
その登山道から、少し離れたところ。険しい谷の底で、『何か』が蠢いていた。
青白く発光しながら浮遊する、体長2メートルほどの魚。そんな忌まわしいモノが、地球の生物であろうはずがない。
死神だ。
死神たちはゆらゆらと体を揺らしながら、『そこ』の周辺を泳ぎ回っている。光の軌跡は、魔法陣を描いていた。
脈動するように発光が強まると、その中心に。
「オオオオオオッ……!」
長剣を手にしたエインヘリアルが現れたではないか!
甦ったエインヘリアルは犬歯を剥き出しにしてうなり声をあげ、吠える。
「ガハハハハッ!」
上空から、耳障りな笑いとともに新たなエインヘリアルが降ってきた。轟音とともに着地する。
「オオオオオオッ!」
「おいおい、俺に吠えかかるんじゃ、ねぇよ。相手を間違えんな」
新たに現れたエインヘリアルは、目をすがめて相手をのぞき込む。
「なぁ、『氷雨のダーヴィド』?」
「甦っただって? 『氷雨のダーヴィド』が?」
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)が血相を変えて、崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)に顔を近づけた。
「いや、すまない」
しかし凛は、それには驚いたふうもなく、ため息をついて肩をすくめる。
「そうなの。しかも、新たなエインヘリアルまで現れるみたいで……困ったわね」
そう言いつつ、卓上に山と盛られた蜜柑へと手を伸ばした。皮をむくと白い筋をちまちまと取って、口へ運び始める。エリオットの方にも、ひとつよこした。
「もぐもぐ……。
順番に説明していくね。
まず、死神の活動が予知できたの。死神と言っても下級のお魚さんタイプで、知性もないような相手」
すぐに2個目に手が伸びる。
「もぐもぐ……。
死神の目的は、以前にそこで撃破されたエインヘリアル・『氷雨のダーヴィド』……エリオットくんたちが戦った相手ね。
それをサルベージしにやってきたっていうわけ」
つづいて3個目。
「もぐもぐ……。
今度の事件で気をつけないといけないのは、それを支援するために、新しいエインヘリアルが派遣されてるってこと」
ケルベロスたちはこれまでにもたびたび、サルベージを妨害している。それに対して敵がいつまでも無策であるはずはない。
「もぐもぐ……。
新しく現れる敵は、『火箭のフレデリク』。凶暴で残忍っていう、なかなかいい性格をしてるみたいだから、気をつけてね」
変異強化された『氷雨のダーヴィド』は知性も失い、猛獣のごとくケルベロスたちに襲いかかってくるだろうが。
新たに現れるという『火箭のフレデリク』は、それに対抗するかのように襲いかかってくるだろう。もはや、援護にきたのか、殺戮を楽しんでいるのかわからない。
現場には死神も3体いるが……こちらは噛みついてくる程度で、前の両者に比べればたいした相手ではない。
「それで、みんなの任務なんだけど」
凛が真剣な目で、ケルベロスたちを見渡す。合間に、蜜柑の房を口に投げ込む。
「可能なら、両者を撃破。サルベージされたエインヘリアルは7分後には死神に回収されちゃうから、その前にね。
それができなければ、どちらか1体の撃破。……この場合は、『火箭のフレデリク』になっちゃうかな?
本人に援護するつもりはないかもしれないけど、自分が二の次にされているとわかったら、黙ってはいないと思うから」
説明をしている間に、そびえ立っていたはずの蜜柑の山は、低くなだらかになってしまった。
「がんばってね」
という言葉とともに向けられた指先は、真っ黄色だった。
「敵はエインヘリアル2体と、深海魚型の死神が3体か……。
厳しい戦いになるとは思うが、出来る限りの最善を尽くそう」
状況は厳しい。しかしエリオットはあえて、笑顔を浮かべた。
参加者 | |
---|---|
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237) |
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740) |
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986) |
ロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023) |
ステイン・カツオ(砕拳・e04948) |
七宝・瑪璃瑠(ラビットソウルライオンハート・e15685) |
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320) |
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574) |
●氷と炎
「聖なるかな、聖なるかな! 聖譚の王女を賛美せよ。その御名を讃えよ、その恩寵を讃えよ、その加護を讃えよ、その奇跡を讃えよ!」
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)が身に宿したワイルドスペースが、歌うような祈りとともに全身を浸食していく。
「ああああああああッ!」
黒く淀んだ半獣となった身を激痛が襲う。それでも、昴の顔には恍惚とした微笑が浮かんでいた。
否。狂気をはらんだ祈りを捧げ続けなければ、正気を保つこともままならぬという、矛盾。
爪と牙とで引き裂かれた死神が、汚らしい血をまき散らしながらふらふらと漂う。
「避けてくれ、昴!」
反射的に退いたところに、エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)が突進する。斬りつけられ、木の幹に叩きつけられた死神は絶命して地に転がった。衝撃で散った紅葉がふりそそぐ。
「もう現れやがったのか、ケルベロスども!」
「ち、さすがにエインヘリアル相手じゃ、牽制にしかならないか」
慌てて跳び下がり、舌打ちするエリオット。
「デウスエクスがらみだと、ろくなものが降らないねぇ」
ロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023)は苦笑しつつ、
「でもリョーシャがいるのは心強い。援護するよ!」
友人を愛称で呼ぶと、そのエリオットらの周りを守るようにヒールドローンが飛ぶ。
「助かる、ローシャ!」
「オオオオオオッ!」
雄叫びをあげて襲い来るダーヴィド。
叩きつけられた長剣は、ドローンをいくつか叩き落としながらエリオットめがけて振り下ろされる。
何とか大斧で受け止めたが、それだけで腕が痺れた。
「まるで猛獣だな」
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)が呆れて、ため息をつく。
「猛獣には、鎖が必要だろうな。絡め捕れ、焦がし尽くせ!」
千翠を蝕む呪いが鎖となって、さながら歌舞伎の蜘蛛の糸のように宙に放たれた。
それらは絡み合いながら、ダーヴィドに襲いかかる。
「ガァァァァァッ!」
枷を引きちぎろうとしたダーヴィドの肉が裂け、血が滴る。
「それでも突き進んでくるところは『さすが』だけどな……」
千翠が顔をしかめる。
「いかに強敵であろうと、知性も矜持も無き者が相手では、名誉に欠けるというもの」
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)が、チェーンソー剣を握りしめる手に力を込める。
「英雄なんて言うけど、ただの殺戮者でしかないじゃない……!」
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)が大鎌を構える。
「そのとおり。これは決闘ではなく、罪人への処刑執行……否、害虫駆除といったところか」
「そんな感じね。
殺戮を楽しむ下種め……ここがあなたたちの墓場だよ……!」
シェミアが振るった大鎌から、時間を凍結させる弾丸が襲いかかった。
「時まで凍てつけ……!」
「喰らえ!」
続いて、渾身の力を込めたコロッサスの刃が、ダーヴィドの脇腹に叩きつけられた。さすがのエインヘリアルも、身体を曲げてよろめく。
しかし敵はすぐに立ち直り、喚きながら長剣を叩きつけてきた。
「うおッ……!」
あらゆる守護を打ち砕く、すさまじい刃。弾き飛ばされたコロッサスの身体は木々をへし折り、斜面を転がって茂みの向こうに消える。
「なんて奴だ……話で聞いた前回より、強くなってる!」
七宝・瑪璃瑠(ラビットソウルライオンハート・e15685)は驚愕しながらも、
「しっかりして!」
跳ぶように斜面を駆け下りて、コロッサスの姿を捉えた。大自然と結びつけ、傷を癒やす。
「おいこら、俺より先に始めるんじゃねぇ!」
フレデリクが、山峡に響きわたる大声で見当違いのことを怒鳴った。
「忘れているわけではございません」
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)が、呆れ顔で立ちはだかる。
「あなた様のお相手は、私でございます」
「上等だ、てめぇから血祭りよ!」
フレデリクのオーラが一段と燃え上がる。オーラの弾丸はこちらを喰らい尽さんと襲いかかり、さすがのステインも目を見張った。
「く……」
咄嗟に身を堅くしたが、受け止めようとした腕が嫌な音をたててきしむ。激痛で、腕が燃えるようだ。
気をよくしたフレデリクはゲラゲラと笑い、
「おい、ダーヴィド。こいつらを何匹しとめるか、勝負と行こうぜ!」
と、勝手に宣言して舌なめずりした。次の『獲物』を探し、首を巡らせる。
「……おい」
「あぁ?」
「放置されりゃ、腹が立つんだろうが。相手してやるって言っただろ? 黙ってこっち見てろよ!」
フレデリクの腕をつかみ、口汚く罵りながらステインが立ち上がった。
「雑魚が、ほざきやがって!」
怒気を露わにするフレデリクの額に、光の矢が突き立つ。
「ぐあッ!」
「腕一本動かせりゃ、お前をぶちのめすのには十分だ。
それくらいでくたばったりはしないだろ? かかってきやがれ!」
●刻々と時は過ぎる
「オオオオオオッ!」
「死にやがれ、ケルベロスども!」
エインヘリアルが雄叫びを上げるごとに、その声は木々を振るわせて山々にこだまする。長剣とオーラが叩きつけられるごとに、木々は無残に斬り倒され、紅く染まった葉が舞い散った。
死神どもがゆらゆらと漂い、鋭い牙で噛みついてきた。その牙を、ロストークはオーラを纏った拳で弾き返す。
「せっかく寝かしつけたのだから、寝た子を起こすのはやめてほしいものだね!」
「改めて、眠りにつかせなければ。……信仰の友が激闘の果てに、倒した相手なのですから」
仄かに微笑んだ昴の腕が、巨大な砲台へと変じていく。放たれた砲弾は、大口を開いていた死神を正面から貫いた。
「死神は、わたくしどもにお任せください」
「早めに片づけたいね」
続いて、ロストークの放ったオーラの弾丸が死神の鰓に喰らいつく。クッションのように降り積もった落ち葉の上に、死神が無様に転がった。
昴はその様を横目に見つつ、
「死神の、サルベージという能力……厄介ですね」
と、呟く。
その呟きが耳に入ったコロッサスは、剣を立ててダーヴィドを睨んだ。
「死神が、いかなる奸計を巡らせているのかはわからぬが……。
悪しき野望、死と絶望をもたらす終焉は、我らが必ず打ち砕く!」
振るわれた剣の軌跡は美しく、そして妖しい。呪詛を込めた刃はダーヴィドの腕を捉え、両断した。腕甲をつけた重い腕が宙を飛ぶ。
「ガアアアアアアッ!」
ダーヴィドが絶叫する。しかしそれは、痛みと言うよりは、怒り。残った腕で長剣を握りしめ、横一文字に薙ぎ払う。襲いかかった星座のオーラを浴びたケルベロスたちは、凄まじい冷気に捕らわれた。
「わわッ……!」
シェミアは翼を広げて跳び下がり、かろうじて銀杏の木の陰に身を隠した。幹は瞬く間に凍てつき、砕け散って倒れてくる。
それを、千翠は慌てて避けた。
「頭のネジ外れてる奴、多すぎやしないか……?」
強い敵と戦う喜び、などと言う者はケルベロスにもいる。それならまぁ、わからなくはないが……。
「さすがにアレは引く」
グラビティが枯渇しているのか、そもそも中身がぶっとんでいるのか。
エリオットは肩をすくめた。
「後者だろうねぇ。
氷雨の次は火箭の雨、か。山の天気は変わりやすいとはいうが……こちとら、普通の雨でも苦手だっつーの。氷も炎も、願い下げだねぇ」
「とりあえず、殴っておこうか!」
流星の煌めきと重力を込めた、あるいは弱点を狙った痛烈な一撃。それぞれの蹴りが、ダーヴィドを貫く。落ち葉に足を滑らせ、敵は無様に転がった。
「何度甦ろうと、結果は同じ……ッ!」
シェミアが握りしめる大鎌が、地獄の炎に包まれる。
「蒼炎の一撃、その身に刻め……!」
渾身の力を込めた刃が、ダーヴィドめがけて振り下ろされた。
しかし。
「な……!」
シェミアの目が驚愕で見開かれる。それが、戦いの本能なのか。長剣を、なんと口で咥えた敵は四つん這いのような格好で地を蹴り、刃を寸前で避けたのである!
地面スレスレから、刃が襲いかかる。咄嗟に大鎌で受け止めたが、甲高い金属音とともに、シェミアの身体が打ち上げられた。
「やるじゃねぇかダーヴィド!
おい、ケルベロスども! 俺の方にもかかってきやがれ!」
場違いなほど陽気な笑い声をあげたフレデリク。次の瞬間に、その笑みは凶悪なものに変わる。ダーヴィドを攻め立てるケルベロスたちに襲いかかろうとしたが……。
その前にはやはり、ステインが立ちはだかった。
音速を超える拳が、脇腹に食い込む。肋骨が砕け、内臓に突き刺さる感触。
「ガハッ……!」
吹き飛ばされた身体は、背中から岩肌に叩きつけられた。中身をすべて吐き出した肺が酸素を欲して、大きく口を開く。しかし、息を吸い込むよりも前におびただしい血が臓腑からこみ上げてきた。
「あぁッ!」
瑪璃瑠が顔色を変え、駆け寄ろうとした。しかし、何とか立ち上がったステインがそれを制する。
「私よりも、ダーヴィドを。二度も同じ失敗をするわけには……今度は逃がすわけには、いかないので」
「寝言を言いやがる」
「うるせぇ! アンタがくたばるまで、死んでやるものかよッ!」
闘志を込めた言葉は、力に変わる。その肉体は鋼となって、再び敵の前に立ちはだかる。
「ホントにやばいときは、頼りにしてるぜ」
「……わかった。無理はしないでよ?」
無理せずいける、楽な作戦ではない。それでも、言わずにはいられない。
「合体魔法でも撃たれないだけ、マシと言うべきかな?」
瑪璃瑠の手を包む血染めの包帯が、蠢き始める。忌むべき純血が染み込んだ包帯は槍のように鋭く研ぎ澄まされ、
「忘れてないよね、まだボクが穿ってないってことを!」
ダーヴィドを横合いから刺し貫いた。
●生きている
その手応えと興奮を抑え、瑪璃瑠は胸に手を当てて戦場を見渡す。
長期的に見れば、ダーヴィドを回収されるのは、まずい。今後の戦いにどう影響するか。だからこそ、彼らケルベロスたちはそちらに狙いを定めているのだが。
しかし、周辺の安全に限定するならばフレデリクを討ちもらすようなことがあってこそ、惨事が起こる。ダーヴィドは逃がしても問題ない。もちろん最善は、両者の撃破であるが。
ケルベロスたちも、手傷を負っていない者はいない。果たして、それが可能かどうか……。
「……焦れるな、ボク!
ボクは命を託された。皆が牙なら、ボクは牙を研ぐ石となれ! 刃こぼれなんて、させるものか!」
叫びとともに再び放たれる『大自然の護り』。ステインが笑って、口元の血を拭う。
「時間はないけれど……仕切り直しだ!」
「俺たちが先に倒れたら、台無しだからな!」
ロストークのヒールドローンが再び展開し、エリオットはシェミアの前に、光の盾を作り出した。
「ありがと……!」
「行け!」
主の声を受け、ボクスドラゴン『プラーミァ』が大きく口を開き、炎の息を吐く。全身につけられた傷が抉られたように、ダーヴィドはのたうつ。
「もう、時間がない……今度は、外さない。
心を空に、鋭き刃に……ただ一振りの、刃となれ……!」
極限まで研ぎ澄まされた魔力が、シェミアが手にする大鎌に注がれる。
「ウガァッ!」
咆哮とともに長剣が繰り出された。しかし光の盾がそれを受け流し、刃はシェミアをわずかに切り裂いただけ。
「英傑……その罪、己が身で贖え……!」
渾身の力で振り下ろされた刃はダーヴィドを深々と貫き、切っ先は背まで突き出した。
「まだだあああああああッ!」
安堵の息が漏れそうになったとき、瑪璃瑠が喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
「油断しないで、まだフレデリクがいる!」
「おう!」
一行は気を取り直し、敵を取り囲む。当のフレデリクは平然と、ダーヴィドの亡骸を蹴った。
「死んじまったのか? ケッ、わざわざ来てやったのに、情けない奴だぜ!」
鼻で笑い、オーラを燃え上がらせる。それでも、怒り心頭なのであろう。そのオーラは今まで以上に揺らめいている。
だが、そこで突然に爆発が起こった。
「お待たせしました」
死神を全滅させた昴が、敵めがけて手を突き出している。
「悔い改め、聖王女の恩寵を受けなさい」
「てめぇ……狂信者め!」
改めて、オーラの弾丸が襲いかかる。
「ネジのゆるんでる戦闘狂も、たいがいさ!」
法螺貝の音が響いた気がした。千翠が放った護符から生み出された槍騎兵が、敵めがけて突進する。
「やっと、本気で相手してやれるな!」
ステインは全身の激痛に耐えながらも嘯き、御業から炎弾を放った。
「黙れ、死に損ないが! 皆殺しにしてやる!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
ステインが拳を握りしめた。
この期に及んでも、フレデリクに怯みはない。当たるを幸いに、音速の拳を叩きつけ、燃えさかるオーラの弾丸を放つ。
ケルベロスたちの刃はフレデリクに手傷を負わせ、その鎧は木々の葉よりも紅く染まっていたが。激闘を経たケルベロスたちもまた、満身創痍である。
「やらせるもんか!」
それでも瑪璃瑠が、仲間たちの傷をふさいでいく。何度でも。
「仮にも武人ならば、潔く負けを認めたらどうだ!」
コロッサスのチェーンソー剣がうなりを上げ、敵の鎧を引き裂いた。
「図に、乗りやがってぇッ……!」
「く……!」
フレデリクの首筋に、半獣と化したままの昴が喰らいついた。しかし敵は力任せに、血が吹き出ることもお構いなしに引きはがして、地に叩きつけた。
血飛沫とともに、フレデリクは音速の拳を繰り出してきた。
「ローシャ!」
「任せろ、リョーシャ!」
その拳をエリオットが受け止める。たまらず弾き飛ばされるが、その隙に、ロストークが懐に飛び込んだ。
「謡え、詠え、慈悲なき凍れる冬のうた……!」
ロストークの詠唱で、槍斧に刻まれたルーンが解放される。それは氷霧を纏って襲いかかった。
「く、おおおおッ……!」
「終わりだ。我、神魂気魄の斬撃を以て獣心を断つ……!」
コロッサスの手に顕現した炎の神剣は払暁の輝きを宿し、膝をつき、苦悶するフレデリクの首筋へと振り下ろされた。
「片付いたか……もぉ、ダメだ」
大きく息を吐いたステインが、大の字になって倒れた。
もっとも傷が深かったのは彼女だが、ほかの面々も多かれ少なかれ手傷を負っている。なにより、疲労困憊であった。
初冬の風は冷たかったが、それさえ感じない。皆が仰向けに倒れ込んだまま、流れてゆく雲と紅く染まった紅葉とを見上げていた。
エリオットとロストークが、その姿勢のままで拳を打ち合わせて笑う。
動かぬまま、千翠がポツリと呟いた。
「あぁ、腹減った。なにか……そうだな、蜜柑。蜜柑が食べたくなったな」
「なに、それ」
瑪璃瑠が吹き出した。
「でも……なんとなくわかる、かな」
シェミアが目を閉じた。
それが、いま生きているということ。
作者:一条もえる |
重傷:ステイン・カツオ(砕拳・e04948) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月28日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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