祈里の誕生日~秋だ! 紅葉だ! やきいもだ!

作者:狐路ユッカ

●秋だね!
「へっくしっ」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は、鼻の頭を赤くして小さくくしゃみをひとつした。
「あら、大丈夫?」
 祈里に呼び出されたエルヴィ・マグダレン(ドラゴニアンの降魔拳士・en0260)は手渡された資料から視線を祈里へ移して問う。
「うん、ごめんごめん……すっかり秋めいてきたよねぇ」
「そうねえ、北海道はあっという間に冬が来ちゃうわよ」
 それなんだよ! と祈里は一枚の写真を見せる。
「紅葉を見に行くなら今の内かなって。いつもお世話になってる皆を誘って、紅葉狩りなんてどう?」
「良いわね、風流!」
 うんうん、と頷くエルヴィ。二人は早速案内を作り始めるのだった。

「と、いう訳で、北海道の自然公園で紅葉狩りをしませんか?」
 エルヴィは真っ赤に色づいた紅葉の写真を見せる。
「えーと、エリアによっていろいろ出来ることが異なるね。ボートに乗ってのんびり紅葉を見るもよし、専用スペースでお芋を焼くのもよし、キノコ狩りや栗拾い、銀杏が落ちてるとこもあるみたいだよ」
 祈里の発した『おいも』にエルヴィは大きく頷く。
「やっぱりこの季節はおいもだわ!」
「と、いうわけで! 行こう!」
 さぁ! とやる気満々で祈里はケルベロス達をヘリオンへ案内するのだった。


■リプレイ


 メリルディ・ファーレンは、目の前にこんもりと集められた落ち葉を前にウキウキとした気持ちでユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)に笑いかける。
「焼き芋は家でもできるけど、落ち葉で焼けるところは限られてるから今日は特別だね」
「コミックとかじゃよく見るけれど、実際にやるとなると結構ハードル高いものね」
 ぱちぱち、と目の前で火花が弾けるのを見て、ユスティーナは小さく笑う。
「昨今、焚火なんて都市部じゃやっぱり、ね」
 きっと専用の調理器で蒸したお芋のほうがおいしいのは間違いないのだろう。だが、そんなこと言うのは野暮というもの、とユスティーナは言葉を飲み込み、真っ赤な紅葉の下で味わう焼き芋の味に思いをはせた。
「そのまま食べてももちろん美味しいけど、いっぱい食べられるようにトッピングも持ってきたんだ」
「えっ」
 驚いて振り向くと、メリルディの手には袋に入ったあれこれ。
「ホイップクリームにバター、つぶあんときなこクリームでしょ……あとはシンプルに塩かな」
 ユナはどれが好き? なんて覗き込んでくるものだから、ユスティーナは、うっと言葉を詰まらせる。
「トッピング、かあ。悪魔的な発想ね」
「意外といい組み合わせに思えるかもしれないし、全部試せばいいんだよ」
 全部やるつもりなの!? と言いたげなユスティーナに、メリルディはすかさず付け足した。
「ひとつずつじゃなくていくつか一緒に乗せてもいいんだし」
「……メリル? 相手はさつまいもよ? 罪を重ねていくのね?」
 にっこり。
「……ええ、良いわ、付き合うけど!」
 あつあつの芋を、火ばさみで落ち葉の中から拾い上げる。
「塩以外考えたことなかったけれど、さつまいもといえば色々なお菓子に使われているわけだし、クリームとか凄く合いそうね……きなこクリームも試してみたいし……」
 先程のメリルディの提案が頭をよぎる。――いくつか一緒に乗せても良いんだし。
「……明日はランニング二倍ね」
「え」
「メリルもランニングとかする?」
 少しの沈黙、小鳥の鳴き声、火花の弾ける音。
「食べた後のことは……うん、今は考えない」
 にっこり。メリルディは笑顔で顔をあげた。
「そんなことしてたら美味しさ半減しちゃうでしょ。明日のことは明日起きてからにしよ?」
 ふわふわ、ほくほくのお芋にホイップクリーム。悪魔的な甘味へと、二人はせーのでかぶりつくのであった。


「しかし見事なほどに真っ赤だな」
 北十字・銀河は、眼前に広がる紅葉に小さく息を吐いた。白い息が、ほわぁと舞う。
 春の桜と秋の紅葉は本当に見ていて飽きない。焼き芋をするには本当に久しぶりだ。幼い時はよく焚火の時に焼いてもらった……そんな風に懐かしんでいると、傍らでネイト・クラークが不意にしゃがみ込んだ。綺麗な形の落ち葉を拾い上げたのだ。
「紅葉綺麗……」
「栞の代わりにモミジの葉を本に挟んだりするのも風流かもな?」
「栞にするのは素敵だね」
 銀河の提案に、ふわりと笑う。そして、持参していた本を静かに開くと、その中にそっと大切に挟み込んだ。他にも綺麗な落ち葉がたくさん。少しだけ、焚火に使わないものを避けさせてもらう……けど。
「でもまずは、焼き芋の準備だ……!」
 竹ぼうきを使って、せっせと落ち葉を集め始めた。
 花津月・雨依は大きなお面のような葉っぱをみつけてはしゃいでいる。
「焼き芋……話は聞いたことありますが、やってみるのは初めてでワクワクです!」
 葉っぱを拾い上げると、雨依はそれを軽く顔の前に掲げてみた。
「こんな風に葉っぱを見たことないので新鮮です!」
「ほんとね、こんなに差があるものなのねぇ」
 ステファニー・ホワイトは、落ち葉をまじまじと見つめて、銀河が落ち葉へ火をつけるのを見守る。
「へぇ、落ち葉を燃やしてイモを焼くのね」
 もう少しあった方が良い? と首を傾げ、さらに追加の落ち葉を集める。ついでに燃えなさそうなゴミなんかは分別してゴミ袋に放り込んでおこう、と、さりげなくゴミ拾いも始めた。
(「食べ物に混じってたら汚いものね」)
「さて、始めようか」
 銀河は、洗ったサツマイモにアルミのシートを巻き付ける。
「そうやって焼くのね」
 ステファニーは銀河の見よう見まねで、作業を手伝った。
「実はジャガイモも持ってきてるんだよな。これも一緒に焼いていいかな?」
「じゃがいも?」
「バターをつけて食べると美味いんだ」
 もちろん、と頷き合う。
「ふんふん♪」
 ステファニーは焚火の中に入れられた芋が焼けるのを、鼻歌交じりで楽しみに待った。まだかな、まだかな、と待つ時間さえも楽しく感じられる。雨依は、ふと改めて周囲を見て、真っ赤に色づいているその景色にうっとりとため息をついた。
「紅葉の赤色は優しい赤色なんですね」
「うん……心を癒してくれるような、そんな赤だな」
 そんな彼女の傍らで、火にあたっていたネイトが火ばさみでつんつんとお芋をつついた。
「自分で焼いたことないんだよね。これくらいで良いの? ……もう、食べれる? まだかな?」
 気が急いて、焼けていない芋を持ち上げる。火ばさみの感触から、『まだ』とわかった。
「まだ固かったかな」
「はは、それならもう少しじゃないか? ……どれ、こっちなら」
 良い香りがしてきたぞ、と銀河は一つ芋を拾い上げて、二つに割ってみせる。
「いい感じだな」
 軍手をはめて半分に割った芋の片方をネイトに差し出した。断面は蜜がかかって、金色にキラキラと光っている。
「わぁ……」
 まずは、一口。
「甘い……!」
「うん、美味しいね」
 頬を赤くして、顔を見合わせて同じようにお芋を頬張る。
「紅葉を見ながらの焼き芋……なんだか幸せ……」
 次はバターを乗せて、もうひとくち。
「皆でケーキやお茶はよくいただきますが、こういう風に屋外で食べるものも絶品です」
 雨依は少し寒いけれどほかほかの芋で手もあたたかい、と頬をほころばせた。
 秋風は少し冷たいけど、皆で作って食べる焼き芋は体の芯まで温まる。今日のような優しい日が続くよう、と銀河は幸福感に浸る。ネイトは、というと、その細身からは想像もつかないペースで焼き芋を消費していっている。
「止まらなくなっちゃうね」
 幸せそうに頬を緩ませるその姿に、自然と皆がつられて笑う。
「あっ……」
 ステファニーは焼き芋を食べる手をふと止めた。――これから寒くなっていくのだろうな。そう思った矢先、ふわふわと冬の訪れを告げる六花が舞い降りてきたのだ。
「あっ、皆で写真も撮りましょう、紅葉をバックに……おいもをもって!」
 雨依がカメラを取り出した。すぐに止むであろうささやかな粉雪と、真っ赤な紅葉のコントラストに、一同は季節の移り変わりを感じ、また来年も、その次もこうして平和な時を持てたらと願うのであった。


「やっきいもー!」
「やぁっきいもぉ~!!」
 七楽・重とエルヴィ・マグダレンは竹ぼうきで落ち葉を集めながら、きゃっきゃと燥いでいる。
「えへへ、紅葉見ながらお芋っていいよね!」
「風流よね!」
 重の発言に『風流』なんて返したが、エルヴィは完全にお芋しか見えていない。食い気に極振りである。
「焼く準備の落ち葉集め含めて頑張っちゃうよ!」
 自然、落ち葉を集める手にも気合が入るのだった。
「お芋って一口で言いながらもいろいろ種類あるんだよね?」
 ようやっと十分な量の落ち葉を集め終えて、重は小首を傾げて見せる。
「そうね、品種改良で甘いお芋もたくさん増えたわよね~」
「かさねも、いっぱい持ってきたよ♪」
 ぱぁっ、とエルヴィの顔が明るくなる。
「ほくほく系に、しっとり系に、ねっとり系ー!」
「は、はわわわわ!」
 エルヴィは焼く前から既にうっとりしている――!
「いろいろ焼いて楽しんじゃおー?」
 魅力的な提案に頭がもげるのではないかというほど頷くと、エルヴィはお芋を焚火の中に放り込む作業へ移った。ぱちぱち、と火花が弾ける。
「かさねは、ほくほく系の紅あずまを推したいの……」
 じゃ、と出かけた素の口調。お芋は人の本性を引き出してしまう。
「えへ」
「?」
 誤魔化して笑う重に、エルヴィはニコニコ顔で振り返る。
「エルヴィはー? どんなお芋好き?」
「ほくほく系も好きだし……安納芋みたいなねっとりしたのも大好き! それぞれ食べ方を変えるのもオツよね~」
 ね~、と焼けたお芋を取り出し、割ってみる。金色の幸せに、二人はため息を一つ。
「あ、折角だし、みんなで味見してシェアしちゃおうー♪」
「大賛成! あっ」
 エルヴィは、秦・祈里の姿を見つけて手を振る。
「あ~、エルヴィさんだ!」
「祈里、こっちいらっしゃいよ!」
「お誕生日おめでとー!」
 重の祝いの言葉に、祈里は嬉しそうに尾を揺らす。
「へへ、大人になりました」
「え?」
「なんてね。お芋焼いてたの?」
 うん、と頷き、重は今焼けたばかりのほくほくの紅あずまを差し出す。
「はいっ、どうぞ!」
「わぁ、いいにおい……! ありがとう!」
 たき火を囲み、甘いひと時に酔いしれる。こんな秋も、素敵なのかも。


 鉄・冬真と、御影・有理は2人並んで手漕ぎボートに乗りこむ。どうしたらいいのかと冬真を見つめる有理に、冬真は目を細めた。
「漕ぐのは任せて」
 ひとつ頷けば、彼はたくましい腕でオールをゆっくりと動かす。その様子に有理がしばし見とれているうちに、ボートは池の真ん中へ。アーチのように頭上に広がる紅葉に、夕暮れ時の水面に映り込む紅の色。たった今やってきたところに柔らかな波が立ち、波紋が揺れる。
「寒くない?」
 11月の水の上は、冷える。冬真は有理の肩を抱き寄せ、ストールの中に招き入れた。腕の中の小さな温もりがたまらなく愛しい。
「冬真が温めてくれるから大丈夫だよ」
 彼の腕の中で、有理はゆったりと瞳を閉じる。
 ――その体温も鼓動も。瞳を開けて、見つめる先は、同じ。一緒に眺める秋の景色も、全てがたまらなく愛おしい。
「君と結婚してから毎日が幸せで、日常の景色も輝いて見えて……」
 この紅葉も眩しいくらいに美しい。それは、共に見るから。有理も、頷く。
「温もりを教えてくれた貴方だからこそ、私は共に人生を歩んでいきたいと思えたの」
 ぎゅっと握った手が冷たくかじかんでいたが、すぐに互いの熱に染まる。
「有理」
 言葉では伝えきれない感謝と想いを、口づけに込める。二人で歩む日々がこんなに愛しいなんて知らなかった。離れる唇、交差する視線。
「――愛してるよ、有理」
 何度囁いても、足りなくて。
「私も、冬真を愛しています」
 もう一度、口づけを。
 ――これからも傍にいてね、僕のお嫁さん。その想いに、有理は視線で答える。
 ――ずっと傍にいるよ、私の旦那様。
 互いが互いを導き合うから、未来へ歩んで行けると知っているから。
 幸せな時を、二人で、ずっと。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月27日
難度:易しい
参加:9人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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