本物を超えた完璧さ(ショタっ娘)

作者:質種剰


 秋晴れの空の下。
「さーて」
 白いコートを着て防寒対策もバッチリな久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は、上機嫌でショッピングモールへ向かっていた。
「今日は回しまくるぞー」
 楽しそうな航が歩く度に、ポケットの中で膨れた小銭入れもちゃりちゃりと歌う。
 そう。航はショッピングモールへガチャガチャを回しにいくのだった。
 メロンパン好き、本好き、またキレの良いツッコミ役として知られる航だが、それ以外にもガチャガチャという密かな趣味があったのだ。
「今日新しく入るメロンパンポーチとー、ミニチュア書斎に……間に合ったら人気のグソクムシフィギュアも……」
 短い散歩を楽しみながら航があれこれ考えを巡らせていると、
「あれ?」
 何故か見知らぬ路地裏に出ていた。
「や〜な予感……」
 眉を顰める航の予感は、すぐに的中する。
「死ねっ、未完成品!」
 フリフリの白いブラウスにタックがたっぷり入った黒いジャンパースカートを身につけた美少女が、日本刀で斬りかかってきたのだ。
「くっ!」
 すぐさま飛び退る航。
 胸元とポニーテールに飾られたフリルつきの黒リボンがいかにもゴスロリ風なその美少女は、見れば見る程航によく似ていた。
「いつか俺の偽者だって来るかもしれないとは思っていたけど……なんで女装なんだよ」
 思わず素直な不満を洩らせば、美少女もとい女装美少年は、敵意を隠さずに襲いかかってくる。
「偽者じゃないわ! あたしはパーフェクト久我・航、本物より本物らしいショタっ娘力戦闘力ツッコミ力を兼ね備えた完成品なの」
「待って戦闘力以外色々おかしい」
「あたしが完成したからには、モデルには死んで貰わないとねっ!」
 航は自分も日本刀を抜いて応戦する中、パーフェクト久我・航の跳び蹴りを目にして、内心安堵していた。
(「良かった。好みではないけどちゃんと男物のトランクス穿いてる」)


「皆さん、大変であります。久我・航殿がパーフェクト久我・航なるダモクレスに襲われると、予知で判明したであります!」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が焦っだ様子で言う。
「急いで連絡を取ろうとしたのでありますが、もしかして既に交戦中なのか、一向に繋がらないであります……」
 それだけ、事態は切迫しているという事になる。
「もう一刻の猶予もありません。どうか皆さん、航殿がご無事なうちに、いち早く救援に向かってくださいませ! お願いします!」
 深々と頭を下げるかけら。
「パーフェクト久我・航は、主に日本刀で攻撃してくるであります」
 どうやら絶空斬と月光斬に似た剣戟を使い分けてくるらしい。
「また、時折、『メテオラツァンナ』なるグラビティも仕掛けてくるようでありますね」
 とにかく航を模倣しているダモクレスだけに、その威力や追加効果も想像は容易だろう。
「本物と違って敏捷性に優れているとこは注意であります」
 そこまで説明すると、かけらは再び頭を下げて頼み込んだ。
「どうか航殿をお救いして、パーフェクト久我・航を撃破してくださいませ。宜しくお願いいたします……!」


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
虚南・セラ(ファントムトリガー・e02267)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
月神・天(ミスめんどくさい・e08382)
天城・彼方(ほけんのせんせい・e30555)
蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)
クロエ・ルフィール(けもみみ魔術士・e62957)
久我・湊(地球人の妖剣士・e65470)

■リプレイ


 路地裏。
「なんでやねん」
 久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は、デウスエクスに命を狙われるという危機的状況の只中でも、ツッコミ魂を忘れずに宙へ手刀を浴びせた。
「いや、ただの偽物で今まで駄目だったから、本物に欠けている物を付け足した完全版みたいなのを作るってのは、理屈は分かる」
 何せ、自分が女装した姿にそっくりなパーフェクト久我・航などと名乗るダモクレスの存在を知ってしまっては、
「——で、何で男の娘やねん」
 とツッコみたくなるのも道理だろう。
「俺を排除した後男の娘アイドルにでもして、一般人騙してグラビティチェイン集める為とか?」
 そんな邪推をする間も、航は雷の霊力帯びしドラグソードで目にも止まらぬ速さの突きを仕掛ける。
 ツッコミにかまけて応戦を忘れはしなかった。
「決まってるでしょう? こんなに可愛い子が女の子な訳がないって賛辞を考えれば判ることよ! あれ、男の子の筈がないだっけ?」
「うろ覚えじゃねーか!」
「つまり男の娘こそ究極の萌えなのよッ!」
 パーフェクト久我・航は、航へツッコむ隙を与える反面、動きだけは機敏に緩やかな弧を描く斬撃を放つ。
 すると。
「いやー見事なまでのいい女装だネー」
 蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)が、口ではパーフェクト久我・航を褒めながらも、奴と本物との間へ割って入り、自身の腕で狂刃を受け止めてみせた。
「ダモクレスにたまにそういう変なのがいるのは知ってるけど……ともあれ彼をやらせるわけにはいかないし」
 右腕から混沌を、左腕から血をだくだくと流すも、笑顔だけは相変わらず天使のようなアルタ。
「こういう機械武装が見えない珍しいタイプがどう戦うかも興味あるし、張り切ってやらせてもらうとしよう」
 航や続々とこの場へ駆けつける仲間達の為に、まずはケルベロスチェインで魔法陣を描き、皆と自分の守りを固めた。
「いやー助かったわ。ありがとな蟹谷さん」
「いいえー。参考用に女装ダモクレスの写真撮らせてくれればそれで」
「あはははははまたまたぁ」
「アハハハハハ」
「あははははは」
 同じ師団仲間故の気易さで、笑い合う2人。
「ま、僕の記憶内へ残すだけにしておいてあげよう、うん」
 一方。
「大変だ! 久我っちがぴんちっちだ! きっととても大変危ない目にあっているにちまいない!」
 緊張感など微塵も感じさせない様子でだばだばだばと走ってきたのは藤・小梢丸(カレーの人・e02656)。
「さて……敵はどっちだ?」
 そして、そっくりさん遭遇時のお約束、パーフェクト久我・航と航をきょろきょろ見比べてみせた。
「あっちに決まってんだろ! スカートの方!」
 航が鋭くツッコむのも当然である。
「あ、ダモクレスなんだ。ポニーテールっていいよね」
 やっとパーフェクト久我・航を敵を認識した小梢丸だが、二言目には何故か髪型を誉めていた。
「ああ、でももうちょっと高めの位置の方が僕的にはゴールデンポイントだったかな」
 否、注文をつけていた。
「残念! パーフェクトじゃなかったね!」
 散々言いたい事を言った後で、いつものように芳醇を嗾ける小梢丸。
「僕、捕縛系好きだなぁ」
 蔓草生い繁る『蔓触手形態』となった芳醇がパーフェクト久我・航の肢体に絡みつき締め上げる様を、満足そうに眺めていた。
「東京六芒星決戦後に宿敵から狙われる、なんて大変だね」
 次いで助けにきたクロエ・ルフィール(けもみみ魔術士・e62957)は、巨大武装浪漫砲台《ブリッツベイル》を力一杯振り上げる。
「衣装にセンスを感じるよ、とっても可愛いです……だけど、戦闘力は高いときいています」
 そのまま発動したルーンによって光り輝く呪力と共に、パーフェクト久我・航の脳天へ分厚い斧を叩きつけた。
「ということで、久我さん守りにきましたよ」
 どうやらクロエにはかつて苦い別れを経験した兄がいて、兄へ引導を渡したという業を背負っている事から、妹のいる航を助けたいという気持ちも殊更強いようだ。
 他方。
「何がどうなってこんな事に? 久我君が女装してもあんな風にはならないと思うんですけど……」
 教え子である航との付き合いがなまじ長いだけに戸惑いを隠せないのは、天城・彼方(ほけんのせんせい・e30555)。確かに本人でなくともそっくりさんの女装姿を目の当たりにしたら、まず困惑するのが普通の反応かもしれない。
「と、とりあえず久我君が襲われてる事実に変わりはないですし、考えるのは後にして助けないといけませんね」
 ふと我に返った彼方は、こほんとひとつ咳払いするや、優しい美声を披露する。
(「……苦手なんですけどね。攻撃。でも、そうも言っていられませんから」)
 追憶に囚われず前へ進む者の歌は、パーフェクト久我・航の神経を確実に蝕んで、強い信念すら揺らがせた。
 その傍らでは。
「パーフェクト? 何が? ショタっ娘力?」
 月神・天(ミスめんどくさい・e08382)が、日本刀を手に大立ち回りをするパーフェクト久我・航の下半身へ目をやり、ハッと鼻で笑っていた。
 どうもフリルたっぷりのスカートからチラチラ覗く縦縞トランクスがお気に召さないらしい。
「外見だけじゃなくて下着まできっちり女物で揃えてから出直せって話ですよ。ショタっ娘力と言いながら下着はトランクスなどとは笑止千万です」
「ツッコみどころそこかよ!!?」
 思わず航がツッコむ。
「当然です。ただの女装ならいざしらず、自らショタっ娘を自称するなら身に着けるもの全て気を配るべきでしょう」
 天は、流星の尾煌めく重い跳び蹴りをパーフェクト久我・航へお見舞いする最中にも、ショタっ娘の心構えを滔々と説いた。
「そうだよね。男物のトランクス穿いてるなんて、女装に対して本気を出してないね。はいてない、が正解だよ?」
 クロエもうんうんと頷いて独自の女装論を展開している。
「やめて、第三勢力穿いてない教の参戦とか!」
 航は苦笑しつつもやっぱりツッコミだけは忘れない。
「とりあえず女性用の窓付き下着とか穿いてから出直してくるがいいです」
「嫌な絵面しか浮かばないから本当にやめてくれませんかね天さん!?」
「ふふん、男と納得された上で服を脱げと言われてこそ一流のショタっ娘よねっ」
「お前はお前でまたズレた解釈を……」
 味方のみならず敵にまでツッコミをいれなければならない、何とも忙しい航である。
「航」
 そんな彼の肩を優しくぽんぽんと叩くのは虚南・セラ(ファントムトリガー・e02267)。
「チェンジ」
 ふっと振り返った紅い瞳へ、パーフェクト久我・航を指差しつつ反対の手で人差し指と親指をくるっと前後に180度回転させるセラの姿が映る。
「何の店だ何の。つーか変わらんからな」
 もはや誰が敵か味方か判らなくなってきた。
「いやぁ、偽航と聞いていましたが、随分可愛らしい容姿ですね。デウスエクスでなければ本物と交換して持ち帰りたいくらい……」
「ほらね、あたしの方が可愛らしさでも完璧でしょ。幾らでもお持ち帰りしていいのよ〜」
「……あ、前言撤回です。喋ってるの聞いてたら無性に撃ちたくなりますね」
 頭を抱える航を尻目に、セラはSR-361 Third Moon Customの弾をばら撒いて、文字通りパーフェクト久我・航の侵攻を食い止めていた。
「やれやれ……」
 何だかんだ言ってもちゃんと敵へ攻撃してくれてる——と航が安心したのも束の間。
「あれ、こんな所に鏡が」
 最後に到着した久我・湊(地球人の妖剣士・e65470)が、パーフェクト久我・航を鏡と勘違いして身嗜みを整えていた。
「うん、髪よーし、顔色よーし、笑顔……んー……?」
「湊、それ敵だから。鏡じゃないから」
「え! 鏡じゃないんですか?!」
 そろそろツッコミだけで疲れてきた兄には目もくれず、改めてパーフェクト久我・航をまじまじと見つめる湊。
「へ〜〜〜……鏡じゃないにしても、何だかこの敵ちょっと私に似てる? あ、でも昔の髪伸ばしてた頃の兄上がポニテにしたらこんな感じかも?」
 身内とは得てして他人へ知られたくない秘密を勝手に喋ってしまうものである。
「まぁ、血を分けた兄妹だもんね。兄上の偽物なら私にも似てて不思議じゃないか」
 ひとりで納得した湊はそっくりさんの懐へ飛び込んで、呪詛の載せた喰霊刀で斬りかかる。
「いやぁん、いった~~~いっ!!」
「でも私はあんな媚びっ媚びの喋り方なんかしないけど! ……少なくともプライベートでは!」
 美しい軌跡を描いて胴体を斬り裂いても尚、相手が自分へ似過ぎていると簡単に屈託は晴れないようだ。


「惜しい! 微妙にポニーテールの位置が低かっただけで微妙にパーフェクトじゃない!
 皆がパーフェクト久我・航の下着問題で侃侃諤諤となっている中、変わらずポニーテールに固執しているのは小梢丸。
 もっとも彼がカレー以外の物事について長広舌をふるう自体、相当珍しいのだが。
 ともあれ、口ではポニーテールを論じていても小梢丸もパーフェクト久我・航のスカートの中は気になっていたのか、
「つまり、パーフェクトじゃない方の久我っちとどういった差があるかというと……ところで『五十歩百歩』という言葉を知っているかね?」
 ビリィッ!!
 容赦なくエクスカリバールを振り抜いて、奴のドレスを突き破っていた。
「きゃああああ! お気にのジャンパースカートに穴がッ!!?」
「五十歩歩いて食べるカレーライスと百歩歩いて食べるカレーライス、どっちも美味しいよねってことなんだよ」
 パーフェクト久我・航が絹を裂くような悲鳴を上げる横で、意味なくドヤ顔する小梢丸。
「……その脈絡のないカレーはどっから出た……」
 航はそうツッコむのが精一杯だった。
「キャーーーー!?!? ……ってダメダメ! あれはダモクレス……ダクモレス? あれ?」
 一方、穴の開いたスカートやトランクスから覗く生太ももを見てしまえば、ツッコむ余裕すらなく大絶叫しているのはクロエ。
「……形を真似ても、心までは真似れなかったようですね。あなたに心があれば航さんを殺害しようと思わないはず、だよ」
 何とか心を落ち着かせ、電光石火の挙動で重たい一発をパーフェクト久我・航へ食らわせる。
 雷撃呪文を付与された巨大武装浪漫砲台《ブリッツベイル》は、狙い澄ました正確な軌道で奴の肩を砕き抜いた。
「さあ、キミの可能性の姿を見せてくれヨ!」
 アルタは彼女にとっての伝家の宝刀、混沌の水を航へ集中砲火。
 より効果の高まったそれはモザイクの影のように顕現し、彼の斬り傷を癒した。
「大体ツッコミ力が上とか言うけど、存在そのものが突っ込まれる方ですよね?」
 航が人心地ついてる傍ら、天はせっせと辛辣な言葉攻めに励んでいた。
「や、航兄×パーフェクト久我・航とかそういうんじゃなくて」
「天、ナマモノはデリケート……まぁ航だしいいぞもっとやれ、です」
「セ〜ラ〜〜??」
 危ないボケを被せるセラへ航が頭痛を堪えるも、我関せずな天。
「大体『パーフェクト久我・航』とか長いんですよ。略してパ……あ、これ駄目だ」
 働きたくないめんどくさいという想いの限界超えをいとも簡単に引き起こしては、パーフェクト久我・航のゴスロリドレスを奇跡の力によってビリビリに破いてみせた。
「えーと、略してパーでいいじゃないですか。パー」
 しかも可愛くない渾名つきで。
「輝ける光の弾丸よ、我らが前に立ち塞がりしゴスロリトランクスを撃ち貫け……」
 セラはあくまで冷静沈着に自身の周囲へ無数の光の玉を展開、
「セイクリッドオンスロート!」
 パーフェクト久我・航へ向かって引き金を引いた刹那、光球の群れを一斉に発射した。
「何か俺の偽物のはずなのに、妹虐めてるみたいで、いけない気分になってくるんだが」
 航は航で、次第に偽者の姿を見慣れてきたのか、日本刀で斬りかかりつつも、妙な背徳感に悩んでいた。
「…………航??」
「へ~~っ、航兄、今なんて? どんな気分になるですって?」
 当然、セラも天も耳聡く聞きつけて囃し立てたが、
「まぁ待て待て落ち着いてあっちを見なさい」
 航は別段照れるでもなく、本物の妹たる湊を指し示した。
「でも確かに、こうしていると何だか兄上を虐めているような感じがしてきて……」
 パーフェクト久我・航へ凶太刀を浴びせる湊の笑顔は、やけに生き生きと輝いていた。
「……テンション急上昇です!」
「…………あっちの方が問題じゃね?」
 擬似的にでも兄を虐められて喜んでいる実妹を見れば、航自身、二次元の妹を夢見て多少邪な願望を抱いた事も大して気にならない。
「……何だかこっちが悪者のような気がしてきました……」
 航兄妹の実に素直な反応を見守って、彼方が苦笑いせずにいられないのも尤もだろう。
 緊張感に欠ける戦いは続いた。
「フン、未完成品や類似品に良いようにされてるだけのアタシじゃないわ! 喰らいなさい、メテオラツァンナ!!」
 パーフェクト久我・航は、パーフェクトハートの白刃を閃かせ、どこかで見たような神速の突き攻撃を放ってきた。
「そういやちょっと前にシャイターンと螺旋忍軍組んでアイドルとかやってたっけ。どさくさ紛れに便乗するつもりが出遅れたとか?」
 自分の技の猿真似を食らった航は、やはりプライドがあるのか効いてないフリをしたいらしく、腹を斬られても平静を装っている。
「久我君、無理はしなくてもいいんですよ?」
 彼方はようやく微笑ましい心地になって、教え子へショック打撃を伴う緊急手術を施した。
「メテオラツァンナ? ふふん、『りゅうせいが』なら私にだって使えるんだから!」
 湊もメラメラと対抗心を燃やしたようで、自らの気を喰霊刀に纏わせてパーフェクト久我・航へ神速の突きを繰り出す。
「……威力はしょっぱいけど!」
 刃風のオーラは龍の顎と変じて、パーフェクト久我・航の薄い胸が包まれたブラウスをズタズタに喰い破った。
「……うん、何かもうそんなんでいいや」
 航も妹に負けじと本家本元の流星牙——ミーティアファング——をお見舞いする。
「いずれにせよ、俺の名を騙ったからには、その代償は払って貰わないとな」
 紋章の力宿りし神速の突きを真正面から喰らって、ついにパーフェクト久我・航が地面へ倒れ伏す。
「アタシは……本物より完璧な完成……品……」
 最期まで奴なりの根拠に裏打ちされた自信たっぷりな言葉を聞いた、航の行動は早かった。
「よし、剥ぐぞ」
「合点!」
 湊がノリ良く敬礼する。
「航強盗団の犠牲者がまた一人」
 セラはよよよと泣き真似をした。
「そうそう航強盗だ……待って何それ」
「……別に流行らせようとか思ってませんよ?」
 ともあれ、傍迷惑なダモクレスからパーフェクトハートとパーフェクトドレスを剥ぎ取った兄妹だった。
 元の持ち主は完璧でなくとも、代わりに装備品が名前負けしないだけの実力を発揮してくれるかもしれない。


「小銭は万全。がっつりガチャガチャするぞー」
 さて。一行は航の予定通り、ショッピングモールのガチャガチャコーナーへ来ていた。
「あ、あった。食品サンプルのストラップ」
 早速小梢丸がやたら真剣な顔つきでガチャを回し始める。
「藤さん的に食えないカレーはありなのか」
 数あるラインナップの中でもカレーを狙っている事は判るも、航が首を傾げた。
「カレーをおかずにカレーを食べるんだよ」
「なるほど……なるほど??」
 傍らでは、ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)もサバイバル色の強いキャンプ用品ミニチュアガチャを見つけ、目の色を変えて収集している。
「正直ガチャガチャ回すお金があるなら最高レアのキャラ引く確率を少しでも上げるか、服買いたいんですよね」
 そう豪語する妹分の矜持をさらっとへし折るのが楽しいのか、航はガチャガチャコーナーを無言で一巡してから、
「あっちに天のやってるスマホゲーのリアルアクセサリーガチャあったぞ」
 と、優しく教えてあげた。
「どこにありました? ちょっと万札崩して回してきます」
 途端に天も珍しくやる気全開になって、財布片手に両替機へ猛ダッシュする。
 すぐに彼女の荷物は、スマホゲーの装備品のミニチュアで溢れ返る事だろう。
「技術の進歩は素晴らしいですね。昔のガチャガチャではここまで精巧なミニチュア銃は手に入りませんでしたよ」
 他方、セラは最初に両替機で札を崩してから、精巧な作りが売りらしい銃コレクションガチャを回すのへ励んでいる。
「ひとまず全種類制覇を目指しましょうか。どれもいい出来ですし」
 ガチャを回して出てきたカプセルを開ける。中身は鞄へ、カプセルは回収箱へ。
 またガチャを回す……。
「どんだけ銃好きだよ。まぁ確かにかっけーけど」
 すっかりループに嵌まっているセラを見て、苦笑する航。
「とりあえずフルートばっかりこんなにいらないから先生やるわ」
 だが、航自身も決して人の事は言えないようで、綺麗にメッキされた楽器のミニチュアシリーズを結構な回数回しているのだった。
「いいんですか? ……ふふ、では有難くいただきますね?」
「兄上が彼方お姉さんに自分のフルートを捧げています……」
「含みのある言い方しなくて良いから!」
 兄妹間のボケツッコミの応酬などどこ吹く風で、
「ミニチュア楽器のキーホルダーですか。わぁ、よくできてますね~」
 彼方は航から貰ったフルートの金メッキキーホルダーを興味深く眺めていた。
「そういえば、世間にはアイドルの非公式のガチャガチャがあるって聞いた事あるけど、流石に私のとかは……ないよね?」
「公式ならまだしも、非公式の妹の写真キーホルダーガチャ回す兄ってどうなんだ」
 皆の会話を一歩引いた位置から聞いているのはクロエ。
(「フフ……まるで全員が家族のようだね。あのみんなの笑顔をみていると私も満たされます。彼を守れて本当によかったよ……」)
 そう微笑んで一足先に帰ろうとする彼女の手にも、とあるカプセルの中身だろう、可愛らしいケモ耳付きリュックが握られていた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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