死を迎えし心狩り

作者:幾夜緋琉

●死を迎えし心狩り
『うわああああ、に、逃げろぉおおお!!!』
 学校の中に、響き渡る悲鳴。
 埼玉県の某所にある中学校……そこに『暗礁の死神』ケートーの襲撃が発生。
 彼女のおぞましい姿に混乱し、他の仲間達を足蹴にする様にしながら学生達が逃げようとしている。
 ……その混乱の中。
『きゃぁっ!?』
 足を挫き、其の場に蹲る少女。
 ……そんな彼女に狙いを付け、更に接近してくるケートー……だが。
『や、やめ、やめろぉ!!』
 と震える声と共に、ケートーと彼女の間へと立ち塞がる男の子。
 ……そんな男の子に、ケートーは。
「ふ。その勇気、気に入った。われら姉妹の計画の為、お前の勇気、サルベージさせて貰う」
 と言い、彼の首を刎ねて殺害。
 そして……死体が異形に変形し、屍隷兵へと変異していく。
「さあ、おまえと同じ勇気あるものを殺して、私達に捧げなさい」
 と言う指示を与え、彼は屍隷兵となって動き始めるのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まって頂けましたね? それでは、説明させて頂きます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に一礼するとすぐ。
「埼玉県の秩父市で、死神のサルベージ事件が起きようとしている様なのです」
「この事件を起こす死神の『暗礁の死神』ケートー。彼女は生きた人間の魂をサルベージして殺害、死体を屍隷兵にして人々を襲わせる様なのです」
「この襲撃を受けた施設においては、多くの人が恐怖と共に逃げ惑っており、産み出された3体の屍隷兵達が別々に、人々へと襲いかかろうとしているのです」
「幸い、施設から避難した人々の救護活動は警察や警備員の方々に任せることが出来ます。ですが、施設内部においては屍隷兵が暴れている為、ケルベロスの皆さんでなければ手が負えない状況です。これ以上被害が生じない様、ケルベロスの皆さんには屍隷兵の撃破を頼みたいのです」
 そして、更にセリカが。
「今回の屍隷兵が現れた学校は、5階建ての中学校です。少し町外れにあり、自然も多い場所にある様です」
「この建物は、1階に職員室と給食の調理室があり、2階、3階、4階にそれぞれ3クラスずつの教室。それと、少子化で使われなくなった教室が物置として3部屋ずつあります」
「そして5階には、パソコンルームとか、音楽室とかの、所謂特別な教室が点在している様です」
「今回の屍隷兵は、5階の音楽室、3階の2年生の部屋、そして1階の玄関の辺りに現れている様です。避難するには、先ずこの1階の屍隷兵をひきつけながら、避難を進める必要があるでしょう」
「又、校舎は両サイドに階段があり、玄関は真ん中だけど、その両サイドの階段の脇から非常用の出入り口もあり、そこは手薄ですから、そこから避難させる事が出来ると思います」
 そして、最後にセリカが。
「屍隷兵ですが、ケートーから『ウツシ』と呼ばれている様です。彼女は勇気のある者を探し、殺そうとする性質があるのです」
「仲間を救うために、身を挺す勇気ある少年を殺害する……それを許す事は出来ません。ケルベロスの皆さん、宜しくお願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ライリシアナ・ライラ(怠惰症候群・e02862)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)
峰雪・六花(バーティゴ・e33170)
黒澤・薊(動き出す心・e64049)

■リプレイ

●死の影は勇気の中で
 埼玉県秩父市の某所に建つ、とある中学校。
 極々普通の学園生活を過ごし、変わらぬ日常を過ごしていた……筈。
 しかし、突如として『暗礁の死神』ケートーの襲撃により、学生達は勿論、先生生徒の全てが混乱の極みへと陥ってしまう。
 そんな混乱の極みの中で、ケートーが狙うは、勇気を持った少年少女。
 一つは、足を挫き、動けなくなった少女の前へと敢然と立ち塞がり……その命をサルベージされ、屍隷兵『ウツシ』としてしまう……というセリカの話に。
「……こんなこと……許されない事だ……!!」
 ぐっと拳を強く握りしめ、内なる怒りを抑えきれずに叫ぶ黒澤・薊(動き出す心・e64049)。
 更に、瞑目と共に、鋼・柳司(雷華戴天・e19340)も。
「ああ……このような状況で、なお勇気ある行動を取れるならば立派なものだ。そして、万が一にもそんな人間を死なせる訳にはいかん」
 と、拳を握りしめ、強い決意を刻む。
 そんな仲間達の言葉にシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)とキャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)の二人も。
「そうデス! これ以上の犠牲をここで出させるわけにはいかないのデス! ここに通う子達のためにも!!」
「ええ……私はケルベロスになって、人々の温かさを知りました。だから、今度は、私が……私がみなさんを護りたい……!!」
 いつもは明るく楽天的なシィカも、物静かなキャロラインも……いつも以上に、その言葉尻には力強さがみてとれる。
 そして、今回の被害者と同年代のスズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)と峰雪・六花(バーティゴ・e33170)が。
「学校……普段は意識しないけど、平和な日常をみんなで過ごせる、大切な学校を護る……そう思うと、多少無茶しても、ここで倒れてはいられないですっ!」
「うん……学校を、滅茶苦茶に壊す……ケートーは、許さない……」
 自分の事の様に思うスズナに、静かながらもまっすぐに学校を見つめて呟く六花。
 そんな仲間達の言葉に、ライリシアナ・ライラ(怠惰症候群・e02862)が。
「本当……死神の行為は気に入らないな……勇気を持って、同級生を護る……素晴らしい心意気は、英雄に然るべき……でも、英雄は輝かしいもので、汚していいものじゃない。彼らの勇気は、絶対に貶めさせない」
 そして、エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)が。
「そうだな。さぁ……いこうか……」
 言葉は真摯に、そして自分自身を奮い立たせる様に。
 エヴァンジェリンは仲間達へ言葉を呟き、そしてケルベロス達は、恐怖と混沌に包まれた学校へ、一斉に突撃していくのである。

●勇気を奪う
 そして、ケルベロス達が校舎の中へと突撃して、すぐ。
『うわああああ!! 逃げろ、逃げろぉおおお!!』
『いや、助けて、助けてぇええ!!』
 と、叫び声が響き渡り、校舎内から多くの人達が逃げ出してくる。
 ……幸い、今此処で逃げ出している人達は問題無いだろうが……まだ校舎内に残っている人達が危険なのは間違い無い。
 そんな学生達の波を躱しながら、先ずは玄関……そして、左の方を見ると、ウウウ、と唸り声を上げて歩いているウツシ。
 ……その目の前には、怪我をして動けない女子学生の姿。
「……あそこだ!」
 と柳司が叫び、すぐに間へと割り込んで行くキャロライン。
 ウツシが先手の一撃を食らわす……防御せず、敢て受け止める。
 でも、顔を歪めず、後方の女子生徒へ。
「……ここは、死守します」
 と一言、そしてギターを構える。
 更に薊が近くに居た先生に。
「先生、彼女を背負って逃げてくれ……早く!」
 有無を言わさぬ様に叫び、彼女を背負わせ其の場から避難させる。
 そして、ウツシが追わぬ様、シィカ、柳司もウツシを包囲し、対峙。
 ……目の前のウツシの呻き声に、小さな声に。
「すまない……」
 と小さく呟きながら、薊のリボルバー銃が火を噴く。
 そして柳司、シィカも。
「生前のお前に敬意を。お前は確かに勇気を示したのだろう」
「……そうデスね。さぁ! キミたちの勇気に負けないくらいに! ロックなケルベロスライブ、いっくデスよー!!」
 ギターをぎゅいんと盛大に掻き鳴らし、屍隷兵の注意を完全に惹きつけるシィカ。
 そして柳司がバトルオーラを展開、屍隷兵を威圧する。
 ……と、四人が1Fのウツシへ対峙している間、残る仲間達は両面から階段を上っていく。
 2F、4Fの学生達には。
「みなさん、ここに屍隷兵が現れました! 落ち着いて、1Fから避難して下さい、です!」
「正面玄関は使えない。両サイドの階段脇から避難用の出入り口がある。そこから逃げるんだ」
 と正面玄関からではなく、両サイドの階段脇の所から逃げる様に指示を与える。
 そして……3Fにはライリシアナとスズナが侵入……少年へ襲いかかろうとする屍隷兵の姿を視認すると、両面から一気に接近。
「あなたの相手は、このわたしですっ!!」
 と突撃するなり、学生鞄を屍隷兵に向かって振り落す。
 不意打ちを受けてウゴォ、と唸る……が、それに構わず。
「これでも、ケルベロスですので! さあ、早く避難してっ!」
 と少年に叫び、避難を促す。
 ……その間にライリシアナは、屍隷兵に向けて。
「殺させるかよ。殺させるものか。その勇気、汚させられるかよ」
 と言いながら、教室の壁をぶち抜き、強さを示す。
 更に屍隷兵を真っ直ぐに見つめて。
「あんたらは間違い無く英雄だよ。多くに語られることはない。けれど、誰かの記憶に残り続ける英雄だ。だから、その手が血に汚れる前にこっちが手を汚してやる」
 指を鳴らし、手招き、挑発するライリシアナ。
 そして屍隷兵の攻撃を受け止め、周囲の一般時ン達が逃げるまでの数分を耐えようとする。
 同時に、5Fへと登り切ったエヴァンジェリンと六花も、屍隷兵へ割り込みの一撃を与え、周囲の一般人の避難を促す。
 ……そして、3F、5Fそれぞれが数分屍隷兵を惹きつけた後……周囲から一般人の姿が見えなくなると同時に。
「良し。合流するぞ」
 エヴァンジェリンが無線経由で仲間達に伝達……その言葉と共に、3F、5Fの二人ずつは、1Fに向けての屍隷兵を誘導開始。
 ……敢て攻撃を受けて、不利を装うと……屍隷兵もニタア、と不敵に微笑む。
 そして、全員が屍隷兵と共に1Fへ集結。
 ……対峙と共にライリシアナは。
「ここに居たんだろ、英雄が。だから私達がここに居るんだ。止めて見せるさ」
 と啖呵を切りつつ、対峙していた屍隷兵へ指天殺の一撃。
 そして、薊も制圧射撃で敵の動きを抑える。
 高命中の一撃で確実にダメージを与える一方で、柳司はシィカにマインドシールド、キャロラインは「紅瞳覚醒」でそれぞれ強化。
 そして強化を受けた前衛、シィカがグラインドファイアで炎に包むと、連携したエヴァンジェリンのキャバリアランページ。
 対し六花は破鎧衝で服破りを付与する一方、スズナは。
「特製ひん、ですよっ!」
 『化け狐の変化呪符』を投げつけ、怒りを付与する。
 ……その怒りで持って、反撃してくる屍隷兵。
「……どうか守って、あげて……ください」
 と六花はテレビウムのスノーノイズに指示を与え、その攻撃をカバー。
 そして入れ替わるように、スズナのミミック、サイはガブリングで敵へ噛みつく。
 ……攻撃一巡し、多少ダメージを受けた屍隷兵。
 そして次の刻。
 キャロラインは更に「紅瞳覚醒」を順に仲間達へ付与為ていく一方、薊は桜花剣舞、ライリシアナは旋刃脚。そしてシィカのゼログラビトン……と、その一撃に、最初から攻撃を受け続けていた1Fの屍隷兵は倒れてしまう。
 ……しかし仲間が倒れても、特に怯みもしない屍隷兵。
 そんな屍隷兵の動静に、少し寂しげな視線を向けるスズナ……でも、直ぐに首を振って、気を強く持つ。
 ……そして、スズナの獣撃拳に、サイの愚者の黄金、六花の時空凍結弾に、スノーノイズの凶器攻撃。
 そして、エヴァンジェリンの雷刃突が敵を穿ち、かなりの深手を負わせる。
 その後も、屍隷兵の攻撃はスノーノイズが主に身を呈する様にして敵を抑え、残る仲間達で猛攻。
 ……そして、1Fに合流してから十数分。
 残る屍隷兵は後一体となり……その屍隷兵を包囲。
 そしてエヴァンジェリンが。
「これで、仕舞いだ! 我が魂を刃と為し、万物悉く薙ぎ払え!」
 と声高らかに叫び、『天を裂く極光の白刃』の一閃を叩きつける。
 その一閃に、屍隷兵は一刀両断に撃ち砕かれ……全ての屍は、動かぬ骸となってしまった。

●勇気と涙
 そして……屍隷兵三体を討ち倒したケルベロス。
「……何とか、終わりましたね」
 周囲を見渡し、息を整えていくスズナ。
 ウツシの屍が3体、目の前に横たわっており……無事に終わったものの、肉体的にも、そして精神的にも、かなり激しい疲労感を覚えていた。
 でも、屍隷兵の混乱を抑えきった事で、達成感も一つ。
 その疲労感も少しは報われた様な、そんな気がする。
 そして、死した屍隷兵に向けて、静かに黙祷を捧げた柳司が。
「……いつか、死神にはこのツケを払って貰う」
 と拳を地面へと突き立てて怒りを発散。
 そしてシィカも無言で背のギターを前へ構え……静かな旋律を爪弾く。
 そのギターのメロディが、まるでレクイエムの如く……深夜の静寂に包まれた学校へと響き渡り、哀しみを癒す。
 そして……薊が。
「取りあえず……皆、お疲れ様だ」
 と、頭を下げ、仲間達を労いながらその体力をヒールグラビティで回復。
 ……全員の体力を回復した後に、周りで傷ついた所も、一つ一つ修復していく。
 そして、一通りの修復を追えた頃には、既に外は真っ暗。
 でも……ケルベロス達に一人一人が感謝の言葉を伝える為に、そこに残っていた様で、足を挫いた、襲われ掛けた女の子が。
『ありがとう……ありがとう、お姉ちゃん』
 近づいて行き……友達の死を受け止めようと、涙を拭きながら感謝の言葉を伝える。
 ……その言葉に、小さく頷いたキャロライン。
「……大丈夫。今は、泣いてもいいんですよ……?」
 と、優しい言葉と共に……子供達の心を癒す様、バイオレンスギターから、美しい旋律を奏でるのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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