其は竜が牙の雨がごとく

作者:波多野志郎

 ――上空から見下ろせば、そこには光の川があるように見える。夜の繁華街、その上空にソレはあった。死神星屑集めのティフォナは、雲の上から地上を見下ろした。
「――――」
 夜風にかき消える、ティフォナの呟き。それに応えたのは、彼女の足元から走る光の線だ。円を、直線を、波を、文字を――光は瞬く間に、魔法陣を描き出した。
「さぁ、竜牙流星雨を再現し、グラビティ・チェインを略奪してきなさい。私達の真の目的を果たす為に……」
 魔法陣が輝き、そこに召喚されたのはパイシーズ・コープス達だ。五体、その群れにティフォナが命じた瞬間、彼等は一瞬の躊躇なく雲から飛び降りた。
 真っ直ぐに、五つの流星が光の川へと――それは、命を奪う脅威として、地上へと落ちた……。

「夜の繁華街に、パイシーズ・コープスが現れます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、厳しい表情で解説を始める。
「ヘリオンで現場に急行してください。周囲に避難勧告ができればよいのですが……」
 ただ、そうなるとパイシーズ・コープスは他の場所に出現してしまう。事件は阻止できず、被害が拡大する事となるだろう。そのため、出現してから避難を始めなければいけない。
「避難誘導は警察などに任せて、みなさんは竜牙兵を撃破することに集中してください」
 出現するのは、五体のパイシーズ・コープスだ。しかも、同じ五体ではなく三種類のパイシーズ・コープスが連携を組んで来る。
 パイシーズ・コープスαと言われるクラッシャーが二体。パイシーズ・コープスβというジャマーが一体。パイシーズ・コープスγというキャスターが二体となっている。
「竜牙兵達は、ケルベロスとの戦闘が始まってしまえば撤退する事はありません。激しい戦いになる事は避けられないでしょう」
 個々の戦闘能力で竜牙兵が、数でケルベロス達が勝る。ただ、向こう側も連携を取ってくる。その事を忘れずに、挑んでほしい。
「どうやら死神が竜牙兵の襲撃を真似ているようですが……何にせよ、虐殺は見過ごせません。どうか、よろしくお願いします」


参加者
安曇・柊(天騎士・e00166)
蒼龍院・静葉(蒼月の戦巫女・e00229)
大粟・還(クッキーの人・e02487)
ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)
イピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)

■リプレイ


 ――上空から見下ろせば、そこには光の川があるように見える。その光の中、イルミネーションで飾られた繁華街を見回して、大粟・還(クッキーの人・e02487)は呟いた。
「夜の繁華街ですか……農家で朝型生活の私にはあまり縁の無い所です」
 農家とは日が出たら始まって、日が暮れたら職業だ。確かに、このきらびやかな時間とは無縁だろう。
 ふと、光の川底から夜空を見上げ、蒼龍院・静葉(蒼月の戦巫女・e00229)が呟いた。
「竜牙流星雨の再現、ね……」
 キラリ、とふと雲の切れ間に輝くモノがある。五つの流星は、狙いを違わず繁華街へと落下した。
 アスファルトに刻まれた、落下痕。そのクレーターから姿を現したのは、パイシーズ・コープス達だ。
「随分と物騒なモノが降ってくるもんだな」
 勘弁願いたい、と八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)はため息をこぼす。パイシーズ・コープス達が逃げ惑う人々を狙おうとするのに対して、イピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)が立ち塞がった。
「虐殺など許しませんよ、パイシーズ・コープス! 私たちが相手です!」
 パイシーズ・コープス達は、答えない。ただ、各々の武器を構えるのみだ。
「モノマネだ、と。評判ですよ、おまえたちのこの行動は。しかし多くの民草が危機に晒されることも事実、早急に倒さねばなりません」
 静かに、しかし凛とした声色でメルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)は言い、かたわらのヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)を見上げて当然のように告げた。
「……ヴェルセア。どうか、わたくしを守ってください。少し乱暴に、やりますから」
「く、クソガキ……! ……今はお前の前で戦ってやル。帰り道、先を歩くのはお前ダ」
 ヴェルセアは歯ぎしりしながら、吐き捨てる。その様子をメルカダンテは見て、それ以上は語らず前に出た。その二人のやり取りに、小さく笑みをこぼしてから安曇・柊(天騎士・e00166)は表情を引き締める。
「多くの人々を危険に晒す前に何とかしないと、です、ね」
 まだ、避難らしい避難も始まっていない。この繁華街の人々を傷つけさせる訳にはいかない、と柊も前に出た。
「なんだ、最近はドラゴンだけでなく死神の使い走りにもなったのか。つくづく竜牙兵は便利な存在のようだ……クク」
 からかうようなペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)の物言いは、そのまま挑発だ。言葉を理解しているかは不明だが、パイシーズ・コープス達が動く。
 ――静かに、しかし殺気をたたえ、戦いの幕がここにあがった。


 二体のパイシーズ・コープスαが、剣を振るう。放たれるのは、二つの山羊のオーラ――ゾディアックミラージュが、ケルベロス達の前衛へと叩きつけられた。
「来ますよ!」
 衝撃をかすかに鳴るGospel.を集中させた右手で受け止め、柊が警告を発する。パイシーズ・コープスαが動いたのと同時、パイシーズ・コープスβが動いていたのだ。ゾディアックミラージュが炸裂した刹那、精妙にタイミングを合わせパイシーズ・コープスβはその鎌を投擲していたのだ。
「ッ!!」
 紙一重で、イピナがパイシーズ・コープスβのデスサイズシュートをドラゴニックハンマーで受け止める。しかし、威力は殺しきれない。ドラゴニックハンマーを大きく弾かれたイピナへ、二体のパイシーズ・コープスγはオーラの弾丸を放った。
 しかし、パイシーズ・コープスγの気咬弾はイピナに届かない。ボクスドラゴンの天花とウイングキャットのるーさんが、庇ったからだ。
「ナイスですよ、るーさん!」
 すかさず還が装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、るーさんが清浄の翼で癒やしの風を吹かせる。そして、天花が属性インストールでイピナを回復させると、柊が動いた。
「……目を離したら、消えてしまうかも」
 闇に浮かぶ儚い星のように、美しく瞬く光――柊の一番星(スターライト)を受けて、パイシーズ・コープスαが剣を振り上げ襲いかかる。その剣をかわしながら、柊は横へ跳ぶ。パイシーズ・コープスαの一体を、引き寄せたのだ。
 陣形が崩れた、そう判断したもう一体のパイシーズ・コープスαがフォローに駆けつけようとするのを、静葉が許さない。
「させません」
 ヒュガ! と静葉の踵落とし、スターゲイザーを剣で受け止め、パイシーズ・コープスαの足が文字通り止まった。
「頭が高い」
「――ッ!!」
 一閃、メルカダンテのパイルバンカーによる一撃が、パイシーズ・コープスαへと突き刺さる! 杭に宿る雪さえも退く凍気に、ビキビキビキ、と左半身が凍てついていく――その瞬間、ヴェルセアが跳んだ。
「吹き飛べヨ!」
 ヴェルセアが放つ魔女の揺籃(ムーン・アット・ヌーン)が、パイシーズ・コープスα達を捉えていく。吹き飛ばされるパイシーズ・コープスαの一体へ、外套をひるがえしたペルが迫った。
「骨風情が連携などと賢しい知恵を付けてくれるな――墜ちろ」
 バサリ! と外套を広がらせ放ったペルの胴回し回転蹴り、スターゲイザーが文字通りパイシーズ・コープスαを地面へと叩き落とした。着地の衝撃で、アスファルトに亀裂が入る。そのまま横へ退避しようとしていたパイシーズ・コープスαに、玄帝を振り上げた紫々彦が迫った。
「逃がすとでも?」
 紫々彦のスカルブレイカーが、パイシーズ・コープスαの頭上に振り下ろされる。その重い一撃をパイシーズ・コープスαが剣で受け止め――紫々彦が呟く。
「今だ」
「はい!」
 即座に放たれたイピナのドラゴニックスマッシュに吹き飛ばされ、パイシーズ・コープスαがビルの外壁へ激突した。紫々彦は、それを追わない――玄帝を構え直しながら、言った。
「カバーが早い」
 パイシーズ・コープス達が、既に回り込んでいたのだ。追って攻撃を重ねようものなら、狙い打ちにされただろう――なるほど、大した連携だ。
 ケルベロス側も、その時間で体勢を立て直す。生死を賭けた戦いの緊張の中だから、時間の経過が曖昧になっていたが、今の攻防はただの一分で行われたものだ。
 一分で、避難が完了するはずもない。なおも、パイシーズ・コープス達を引き止めなくてはならないのだ――ケルベロス達は、その決意と共に再び動き出した。


 ギ、キン!! と柊とパイシーズ・コープスαが激突する。一合、二合、と加速する剣速を柊はBeati quorum viaの加速で対抗した。
「――ここです」
 不意に、柊の燃える蹴り足がパイシーズ・コープスαの顎を蹴り上げた。柊のグラインドファイアを受けて膝を揺らしたパイシーズ・コープスαに、天花は色とりどりの花びらが咲き乱れるブラスを叩きつける!
 一歩下がったパイシーズ・コープスαへ、ヴェルセアは踏み込んだ。零距離で放たれたヴェルセアのデスサイズシュートがパイシーズ・コープスαの脇腹を切り裂き――。
「仕留める――跪け」
 メルカダンテの薙ぎ払う斬撃が、ヴェルセアの鼻先をかすめてパイシーズ・コープスαの首を跳ね飛ばした。
「ヴェルセア、注意が散漫ですよ」
「ッ!!」
「柊、流石のガードです。頼りにしていますよ」
 メルカダンテはそう告げると、もう次の対象へと意識を向ける。その背中に、ヴェルセアは歯ぎしりした。確かに自分に危害を加えて来ないかと視界に捉えて、落ち着かない気分だったが……!
「あ、あの女ァ……! 人を玩具にしやがっテ!」
「まぁまぁ」
 去る背中へ吐き捨てるしかできないヴェルセアを、柊がなだめる。そのやり取りに間にも、状況は動いていた。
「――ッ!」
 鋭い呼気と共に、紫々彦が横一文字に玄帝を振り抜く。紫々彦のルーンディバイドに切り裂かれながら、パイシーズ・コープスαがなおを前に出た。鋭い剣の振り下ろし、ゾディアックブレイクの重い斬撃を紫々彦は玄帝で受け止め、後退する。
「丹念に刻んでやるぞ……」
 その隙間へ、ペルは白い刀を手に駆けた。ペルの緩やかな弧を描く白き斬撃に、パイシーズ・コープスαが体勢を崩す――そこに続いたのは、静葉とイピナだ。
「纏うは『煌希』、対なりし者達を祓う蒼月の一閃を受けよ!!」
「穿つ落涙、止まぬ切っ先」
 静葉の蒼き月の御業で生成した太刀による流星の如き神速の抜刀術と、イピナのドラゴニックハンマーによる降り注ぐ雨がごとき連打が繰り出される。静葉の蒼月ノ太刀【流翠】(ソウゲツノタチ・リュウスイ)とイピナの春夏秋冬・夕立(ユウダチ)の連携が、パイシーズ・コープスαを完全に粉砕した。
「骨でできた敵には、剣戟より打撃の方が有効という話もあるそうですが……あながち間違いでもないようですね」
 粉微塵に骨を砕ききり、イピナは納得するように呟く。ツッコミどろこがあるとすれば、剣戟も打撃も、それで倒してしまえば大差はない、という事だろうか。
「適度な雨は必要ですよね」
 還の豊作への祈りが降らした恵みの雨が、るーさんのピンクの翼が生んだはばたきの風が、仲間達を癒やしていく。そして、パイシーズ・コープスβが前へ。パイシーズ・コープスγ二体が、それをフォローするように動いた。
「付け焼刃の連携を雑兵がしたところで、我も他の者も、動じはしない……」
 ペルが、そう言い捨てる。それは半分は本当で、半分が嘘だ。付け焼刃、確かにそうではあったが、付け焼刃でも十分な脅威であった。そして、それを覚悟していたからこそケルベロス達が動じないというのは、本当だ。
 連携で一番厄介なのは、陣形を崩される事だ。一体落ちてしまえば、それは加速度的に増していく――だからこそ、ケルベロス側が優位に状況を進めていた。
 パイシーズ・コープスβも倒れ、残るはパイシーズ・コープスγ二体のみ、ここまで加速すればもう止まらない。
「そこです」
 イピナは、オーラの弾丸を放った。パイシーズ・コープスγは気咬弾で対抗、二つのオーラの弾丸が激突の寸前、螺旋を描く。光の軌跡が描く、二重螺旋――イピナの気咬弾が、パイシーズ・コープスγの右肩を撃ち抜き、パイシーズ・コープスγのソレはイピナの横を通りすぎて、ビルの外壁に着弾した。
「護る為にもその命、狩り獲る……!」
 静葉が叛竜の深紅翼をイメージした禍々しい両手鎌を投擲、左肩に叛魂竜鎌を受けたパイシーズ・コープスγがのけぞる。それと同時、還とるーさん、紫々彦が動いた。
「るーさんさん!」
「冷気の中で惑い続けろ」
 還のハートクエイクアローの一矢とるーさんの尾のリングが、紫々彦の水仙乃白(スイセンスナワチシロシ)による水仙の花と澄んだ冷気で凍りついたパイシーズ・コープスγを破壊した。
 残る最後のパイシーズ・コープスγが、拳にオーラを集中させて走る。ペルもまた、己の拳に白き魔力で生み出した強力な白雷を宿した。
「チクチクと鬱陶しい。砕け散れ……」
 パイシーズ・コープスγの音速を超える拳打を、ペルは白く眩い雷光の災拳(ホワイトショック)で正確に迎撃。パイシーズ・コープスγの拳を右腕ごと粉砕した。
「ッ!?」
 大きく、パイシーズ・コープスγが体勢を崩す。そこへ、メルカダンテの呪詛を載せた軛が振り払われ、片足を切り飛ばした。
「運の尽きですね、所謂」
 空中でなすすべもなくなったパイシーズ・コープスγへと、柊と天花、ヴェルセアが迫った。
「終わりです」
「燃えロ!」
 柊のハウリングフィストの一撃と天花のタックル、そしてヴェルセアが生み出した竜の幻影がパイシーズ・コープスγを塵へと還した……。


「みなさん、大丈夫ですか?」
 武器を納め、静葉が問いかける。無傷ではないが、倒れた者もいない――ただ、還が困ったように周囲を見回した。
「街の方は無事じゃないみたいですね……」
 戦いの余波で壊れた街は、ひどい有様だった。ただ、これはヒールで直る。人命が失われていればそう簡単にはいかなかったのだ、そう考えれば上出来だ。
 ケルベロス達は、街を直していく。時間はかかったものの、すっかりと直った街を見て、メルカダンテは青い眸で無辜の民を守り抜けたと確認、歩き出した。
「長居は無用です、帰りましょう」
「だからァ、お前が仕切るんじゃねェヨ!?」
 噛みつかれてもどこ吹く風のメルカダンテに、ヴェルセアが更に吠える。それを柊がなだめながら、歩き出した。
 戦いは終わりを告げ、もうすぐ夜が明ける。そうすれば、いつものように繁華街に人が帰ってくる事だろう……。

作者:波多野志郎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。