鳴りやまないベル

作者:麻香水娜

●無人の廃屋から
 草木も眠る午前2時──。
 静かな農村の外れにある無人の廃屋。
 蜘蛛の巣だらけの玄関には、埃まみれの古いダイヤル式の黒電話があった。

 ――カタカタ……カタカタ……。

 その電話の裏から小さな物音がする。
 機械で出来た蜘蛛の足のようなものがついたコギトエルゴスムが、黒電話の中に入り込んだ。

『ジリリリリリリリリリ!!』
 黒電話から眩い光が発せられ、けたたましいベルの音が響いたかと思うとみるみる巨大化して小学生くらいのサイズに膨れ上がる。両側面から金属の腕が生え、底面には4つのキャスターがついていた。
 自らの手で受話器を取ると、
『モウスグ帰ルヨ!』
 機械的な音声が発せられる。
 すると、すぐに受話器を戻し、玄関から外に飛び出していった。

●黒電話?
「中にはどういうものか知らない方もいるかもしれませんが……」
 古い黒電話がダモクレス化する予知が見えた、と祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
「黒電話とはまた随分懐かしい物があったもんだね。若い子は使い方知らないんじゃないかい?」
 ほぅ、と少し驚いたように塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が呟き、軽い笑みを浮かべた。
「私の世代ですら、どういうものかは分かっても、使った事はないという方も多いかもしれませんね」
 蒼梧も軽い笑みを浮かべて翔子の話に合わせる。
「幸いにして、まだ被害は出ていませんが、放置するわけにはまいりません」
 すぐに、表情を引き締めてケルベロス達を見渡した。

●人々の眠りを守れ
 家と家の感覚の広い農村であり、現場の廃屋は村の外れなのもあって周辺は畑や林で民家はない。
「このダモクレスですが、受話器からミサイルを発射してきたり、生えた腕をドリルのようにして突っ込んできたりします。更にバスターライフルを内蔵していまして、ダイヤルの中心からビームを放ってきます。あとですね……攻撃をする時にベルを鳴らすので、とてもうるさいです」
 蒼梧が苦笑を浮かべながら、攻撃方法に補足する。
「真夜中になんて迷惑な」
「まったくです。それと、行動阻害を得意としているようなので、十分注意して下さい」
 翔子の眉が顰められ、同意した蒼梧は説明を締めくくった。
「騒音を撒き散らして人々の安眠を妨げた上に虐殺するなど言語道断。確実な撃破をお願い致します」


参加者
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)
藤林・シェーラ(ご機嫌な詐欺師・e20440)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
リョウ・カリン(蓮華・e29534)
サリファ・ビークロンド(裂き首・e56588)

■リプレイ

●この音は……
「黒電話は直接は見たことないんだよね」
「私も昔のドラマなどでは時々見かけましたが……」
 玄関傍にある茂みに身を潜めるヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)が呟くと、ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)も、実物は見た事がないと頷いた。
(「あー……なんか歳を感じるわ……」)
 予知で聞いてから、黒電話を懐かしく思っていた塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)は、仲間達の会話に内心苦笑する。彼女は子供の頃実際使っていたのだから。
「キープアウトテープ貼ってきたよ、貼ってきたよ!」
 そこへ、アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)が明るく走り寄ってくる。
「私の方も完了したよ!」
 更に反対方向から藤林・シェーラ(ご機嫌な詐欺師・e20440)も小走りに合流した。
 2人は万が一に備えて、廃屋の周りにキープアウトテープを手分けして貼ってきたのである。

 ──ジリリリリリリリリリ!!

 その時、けたたましい音が玄関から響いた。
「あ、この音! スマートフォンとかの着音であるやつ!」
 実際に黒電話を見た事がない世代であるアイリスが聞き覚えのある音に声を上げる。しかし、これが壊れて動く筈のない電話がダモクレスになった時の合図だと思い出し、武器を握る手に力を込めた。
「煩いけど、何処か懐かしさを覚える音だよね」
 リョウ・カリン(蓮華・e29534)も呟き、虎の模様のようであり、傷のようにも見える青白い模様を体中に浮かび上がらせる。
(「せめて人を傷つけてしまう前に終わらせてあげないと……」)
 胸に強い意志を宿して。
『知性も心も無い機械を相手するのに遠慮はいらない』
 見た目は可憐な少女のようであるサリファ・ビークロンド(裂き首・e56588)から、壮年男性のような低い艶のある声が紡がれた。

 ガシャーン!

 引き戸のガラスが割れる音と共に黒電話──だったダモクレスが飛び出してくる。
「確か百貨店の店に、ああいう黒電話を使ってるところがあったのう……」
 ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)がダモクレスの姿を見て、思わず呟いた。
 まだ子供である彼女が見た事があるのかと翔子が驚いたようにそちらを見る。しかし、まずは撃破が先だとすぐに気を引き締めた。
「こちらですよ!」
 ウォーグが茂みから飛び出し、不意打ちと言わんばかりに稲妻突きで貫く。そこへボクスドラゴンのメルゥガがボクスブレスを吐いて主人の稲妻を広げた。
『!?』
 ダモクレスがそちらに体を向けると、今攻撃してきたウォーグと共にいくつもの影──ケルベロス達が庭の方へ走っていく。

 ──ジリリリリリリリリリ!!

 けたたましいベルの音を鳴らしたダモクレスは、ダイヤルの中心が眩く光り、そこからウォーグ目掛けてビームを放った。

●氷漬け作戦!
「……ぇ、あれ電話なの? インテリアじゃなくって???」
 黒電話を初めて見たシェーラは置物で前衛芸術の類かと思っていたが、ヘリポートでの説明を思い出して驚き、
「そんなことより! 氷漬けにしてあげるねェ!」
 ハンマーを大きく振りかぶる。
『!!!!』

 キュルルルル!!

 しかし、あちこちの回路が麻痺しているダモクレスだったが、無理に動かしたキャスターから悲鳴のような音を上げて物凄いスピードで後退、ハンマーを回避してしまった。
「いくよディート!」
 ライドキャリバーのディートに乗って庭まで走っていたヴィットリオが声を掛けると、ディートは急旋回してダモクレスに向かう。ヴィットリオは走行中のディートからダモクレスに飛び掛かりながら達人の一撃を叩き込むと、ディートがキャリバースピンで左前のキャスターを飛ばした。
「もうすぐ帰るよ、か。そういう会話もあったろうね」
 ぽつりと呟いた翔子が杖の先端に雷を集める。
「アンタはアタシ達が還してあげるさ」
 言いながら前衛の前に雷の壁を構築。ウォーグの傷を癒しながら、前衛4人と1体の異常耐性を高めた。翔子の腕に絡まっていたボクスドラゴンのシロはウォーグの肩に移動すると、属性インストールを使って更に万全な状態にする。
「ありがとうございます」
 ウォーグが傷を癒してくれた翔子とシロに微笑みかけると、翔子は片手でひらひらと応え、シロはウォーグの頬に頭を擦り付けた。
「真夜中に騒いじゃいけないんだよ。てつだってあげるから、もうおやすみしよう?」
 ビシッとダモクレスに注意するアイリスは、しっかり狙いを定めてフロストレーザーを放つ。
「きっと人が住んでいた頃は、人と人を大切に繋いできたんだろうね」
 それを壊さないといけないなんて、とやるせなさそうに呟いたリョウは、すぐにキッと視線を鋭くすると、クリスタルファイアでダモクレスの体のあちこちを切り刻んだ。
「ダモクレスという輩は、どうしてこう最新と旧機種両方に憑くんじゃろな?」
 不思議そうに呟いたルティアーナが喰霊刀を自分の体の前で横に構え、捕食した魂のエネルギーを自らに纏わせ神経を研ぎ澄まさせる。
『機械(マシーン)の狩りはやったこと無かったな……だが、脚を縫い留めるのは有効らしい』
 そのすぐ後ろ、サリファが弓を引き絞り、ダモクレスの脚ともいえるキャスターに強烈な一撃を撃ち込んだ。
『!?』
 左前のキャスターはディートに飛ばされており、更にサリファに右前のキャスターが砕かれたダモクレスは、ガタッと前のめりに体勢を崩す。
『煩い。黙ってみていろ、おまえには向けていないだろ』
 サリファは、首の辺りから洩れる獣の影が不満げに唸ってるのを一喝した。

●静かに眠れ
 キャスターが後ろの2つだけになってしまい、移動力が落ちてしまったダモクレスは、けたたましくベルを鳴らしてから機械の腕で受話器を持ち上げ、厄介な攻撃をしてくる中衛目掛けて、受話器から大量のミサイルを放つ。
 すかさずディートがリョウの前で体を横にすると、その意図を察したリョウはしゃがんでディートの影に隠れ、ヴィットリオはアイリスの前に立ち塞がり、大剣を軽々と体の前に構えて盾替わりにした。
 攻撃の瞬間を見逃さなかったシェーラが気咬弾を放つ。ウォーグが光り輝く斧を振り下ろすと、メルゥガが体当たりした。リョウがシャドウリッパーで傷口を抉り、アイリスはスターゲイザーで重力の錘をつける。翔子は前衛に薬液の雨を降らせてヴィットリオとディートを回復し、シロはダモクレス目掛けてブレスを吐き出した。
 翔子に礼を言ったヴィットリオが炎を纏った激しい蹴りを撃ち込むと、同じく翔子に感謝の意を表すのにテールランプを点滅させたディートは主人の足と同じように体に炎を纏って突撃する。
 ルティアーナが喰霊斬りをし、サリファからは武神の矢が射られた。
『────!!』
 攻撃をされた箇所とは別に、時折凍り付いた回路が悲鳴をあげるダモクレス。黒かった表面は削れ、ところどころ錆び付いた金属が見える。
「氷漬けが随分効いてるんじゃないかな?」
「そうだね。後一息ってところか」
 まるで舞台俳優のように仲間達に振り返るシェーラに、翔子が微かに口元を緩めた。
『…………モ……シ、モシ……イ、マ……!』

 ──ジリリリリリリリリリ!!

 苦し気なダモクレスは、機械の腕を回転させてドリルのようにすると、残る後ろ2つのキャスターでウィリー走行しながらシェーラ目掛けて突進する。
 しかし、ダモクレスの進行方向に滑り込んだディートの車体にドリルが突き立てられた。
「ありがと! その分私がやり返してあげるね!」
 ディートが『頼んだ』と言わんばかりにテールランプを点滅させると、
「絶対正義の名のもとに」
 一瞬だけ皮肉げな笑みを浮かべたシェーラが純白の塗料を撃ち出す。
「たたみかけましょう!」
『うまく避けたまえよ』
 ウォーグが高々と跳び上がり斧で受話器の中心から叩き割ると、タイミングを合わせたサリファの首から黒く醜い影が伸びた。
「すっかり白電話になっちまったね」
 更に同時に動き出した翔子の戦術超鋼拳がダイヤルの中心を思い切り殴りつける。
『!!!!!!』

 プツン──。

 3人の連携攻撃を受けたダモクレスは、まるで電源を落とされたような音を立てて、全く動かなくなった──。

●静かな夜に
「黒電話ってこんな形してたんだね。可愛いかも、可愛いかも!」
 動かなくなった巨大な黒電話──否、白電話を見ながらアイリスが楽し気に言葉を躍らせる。
「いや、まぁ、アレはもう見る影もない、って感じだろうけど」
 ヴィットリオが肩を竦めながら苦笑した。
「ねぇ、そういや若いのにアンタは黒電話実際に見た事あるのかい?」
 周辺ヒールをしていた翔子が、気にかかっていたダモクレスを見た時のルティアーナの呟きを、落ち着いたからと改めて尋ねる。
「ん? あぁ、古いものじゃが思い出の品なんで、内線用に改造したとか言っておったな」
 聞いた話を思い出しながら答えた。
『――それにしても、攻撃の時にベルが鳴る、と言うのは些か間抜けに映ったな』
 ひと段落して戦闘を思い出したサリファが呟く。
「攻撃するよー、って自分で宣言してるんだもんね」
 壊れた欠片を集めていたリョウが、どこか寂し気に頷いた。
『それをどうする?」
「壊して終わりにはしたくないから」
 サリファに問われて苦笑しながら答えたリョウは、集めた欠片を一か所に纏め、静かに手を合わせる。
「そうだね」
 翔子もリョウに倣って黙祷を捧げた。

「あ、そうじゃ。一応周辺を見て回ろうかの。物音で起きてきた人々に説明せねばな」
 深夜にけたたましいベルが何度も鳴り響いたのだから、もしかしたら音が聞こえた住人が起きてしまったかもしれない、とルティアーナが踵を返す。
「そうだね。野次馬にきてる人がいるようなら、事情を説明しておこう」
 ルティアーナの言葉にシェーラが頷くと、全員が頷き、手分けして周辺を確認しに向かった。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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