骸骨の葬列

作者:baron

『ワーハッハー!』
 竜牙兵たちが攻撃を掛けてきた。
 竜の軍団に連なる彼らはいかなる相手にも死を恐れることは無く。
 そして弱者を哀れに思って手を抜くことも無い。
『シネ、人間ドモ!』
『弱き者はハ死してグラビティに成レ! 強き者ハ死して邪魔スル道を開ケヨ!』
『我ラガ主の名ノモトニ!』
 斧槍で造られた葬列が人々を死で見送ったのであった。


「博多市に竜牙兵が現れ、人々を殺戮することが予知されました」
 セリカ・リュミエールが地図を手に説明を始めた。
 場所は駅から公共施設がある方向で、何かのイベントでもやっていたのだろう。
「竜牙兵が出現する前に、周囲に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現してしまう為、事件を阻止する事ができず、被害が大きくなってしまいます。ですが竜牙兵は主人の敵であるケルベロスを優先するので、皆さんが戦場に到着した後は、避難誘導は警察などに任せられるでしょう」
 急ぎ、ヘリオンで現場に向かって、凶行を阻止してくださいと言いながらセリカは地図やイベントの資料をテーブルの上に置くのであった。
「それほど強くはありませんが、敵は五体で斧槍を振り回して来ます。また骸骨に見えますが知能があり、連携してきますので注意が必要です」
 集中攻撃や分担に始まり、場合によってはポジションチェンジも使ってくるかもしれない。
 もちろん使えるからと言って、ポジっションチェンジは必ずしも有効では無いし、逆に回復を兼ねた援護は長期戦だと有効なのだが、短期戦重視で仲間を思いやらない竜牙兵はあまり使って来ないという。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか、討伐をお願いします」
 セリカはそう言うと出発の準備を行う為にヘリオンに向かうのであった。


参加者
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
美津羽・光流(水妖・e29827)
エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)
桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)
リセス・メリルシーネ(エンドイレーサー・e66745)

■リプレイ


「なんや、出てきたんは狼さんやのうて、竜牙兵かいな」
 屋上で見守る美津羽・光流(水妖・e29827)は、眼下で行われていたゲームには参加して居ない。なんでもヴェアヴォルフを探すゲームらしいが、ヴォジャノイはあかんのかなぁとか言って微笑む。
 そして落ちてきた白い牙の周囲を睨みつつ、外壁に足を掛けた。
『フハハハ!』
 白い牙が駐車場に突き刺さると、ゲームをして居た人混みが割れて行く。
 だが逃げて行く人々とは逆行して、割り込む影があった!
「あれは竜牙兵です! 大丈夫ですから押し合わずに」
「警察の指示従ってください。十分に間に合います」
 ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)は籠の中に隠した占い札に黒い花を手に取った。
 同じ様に湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)はケルベロスコートに隠した武装を開放し、碇の様な刃を露わにして敵と対峙する。
 仲間達も姿を現し、まずは避難勧告を行いながら敵の注意を惹きつけ始めた。
「此処は私達ケルベロスが引き受けます。慌てず、でも可能な限り急いで、遮蔽物に身を隠しながら退避して頂戴」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)もまた敵の視線を遮るべく前線へ。
 そしてマスケット銃に見せ掛けたオプションの中から黒鉄の銃を抜き出しつつ、ビハインドのアルベルトと共に人々や仲間を守る。

 混乱の中で見付けた僅かな隙間を利用して、敵味方の動きが急加速する。
 まずは斧槍が突き出され、これに対抗すべく銃口から火が噴いたのだ。
『オノレ! 邪魔者メガ!』
「人々を守れるのであれば、喜んで邪魔をしましょう。ドラゴン共も執拗いこと……それだけ定まりつつある命に追い詰められているのでしょうけれど」
 アウレリアはそのまま銃を乱射し、狙い撃つというよりは動きを止める為にこそ放つ。
 それでいて避難する人々には決して当てること無く、敵にだけ当てるのは流石であろう。
「これ倒してもサルベージの材料になんねやろけど。ほっといてもあかん。何度もでも倒したる」
 光流は相手の配置を見て屋上から飛び掛った。
 時間を重視したのでパっと見だが、それでも相手の動きを見れば判る事もあるのだ。
「こいつや! どうせ魔竜なんたらの手下なんやろ、牙か骨か知らへんけどここでへし折ったるわ」
「了解、定石展開ですか」
 光流は落下と同時に切りつけ刀を閃かせながら、目標とする相手を仲間に示した。
 その言葉にエリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)は頷き、改めて竜牙兵の配置を眺める。
 撃ち込まれる弾丸を防いだ個体は、光流と互角に切り結んでいるようだが……。どうも敵はケルベロスが来ることを想定して居ても、こちらを出し抜くことなんて考えて居ない。
(「連携以外全く成長していない……?」)
 エリンは言葉には出さず、内心だけで首を傾げる。
 竜牙兵は自ら考えるのではなく、指示に忠実なだけだろうが、それを証明する術は無いからだ。
「……闇の精霊よ、鋭き剣となりて敵の全てを封じよ!」
 ここでルピナスは気分を入れ換え、意識を集中すると自らの魔力で作られた闇の剣を無数に創造。
 敵を掃射して動きを止めに掛った。
「考えても仕方ありません。今はこのまま攻めるのみですね」
 エリンは戦線が順調な事を察し、ひとまず納得すると槍を自分の体を中心にして振り回す。見れば敵も似たような技を掛けているが、こちらの盾役が防いでくれている。
 回り込みながら嵐のように斬撃を叩きつけ、竜牙兵を押し返すのであった。
「チャンスですね。この一撃で、凍えてしまいなさい」
 闇剣の雨や槍の嵐で竜牙兵の動きが止まる。
 麻亜弥は勢い良く剣を叩きつけると同時に熱量を奪って凍気を生み出した。
 こうしてケルベロス達は竜牙兵と相対する。


『グヌヌ……』
「そろそろ毎度おなじみになってきたね竜牙兵! 今回はちょっと数が多いかも?」
 ペスカトーレ・カレッティエッラ(一竿風月・e62528)は前衛同士の激突を見ながら苦笑する。まさに槍衾であり、無数の攻撃を全て盾役が防ぐのは不可能だ。
 ルピナスたち純攻撃役もダメージを受けているし、こちらの後衛が喰らって居ないのは、単に敵へ白兵攻撃以外の手段がないからだろう。
「ま、ソコさえ判れば何体いたってやる事は同じだヨ」
「なるほどね。今回も依頼こなしながら学ばせてもらおうかしら」
 ペスカトーレの言葉に頷きつつ、リセス・メリルシーネ(エンドイレーサー・e66745)は仲間達の傷を確認していく。
 確かに攻撃を受けているのは前衛のみで、援護も兼ねて治癒をする者が数名居れば間に合いそうだ。
 盾役達は自分で治癒する事も多いし、傷が累積した者と防げなかった純攻撃役が優先だろうか。
「とりあえず、まとめて刀の錆ならぬ、釣り針の錆にしてあげよう、なんてネ!」
 その間にペスカトーレは手榴弾を投げつけ、敵前衛をまとめて凍らせた。
 既に向こうの盾役は動いており、その隙を突いたとも言える。
『殺ス! シネぇ!』
 バリバリと音を立てて動き出すが、凍気は露になり霜になり徐々に浸食して行く。
「守るべき人々をそう易々と狩られては困りますね、今回も参りましょうか。緋椿も油断なく」
「では依頼を果たすとしましょう」
 桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)が地面に槍で紋様を描き始めると、リセスは流体金属を散布を開始する。
 合わせて彼女達を守るべく、キャリバーの緋椿が突撃し相手の槍衾に突っ込んだ。
「焔翔の龍よ、紅蓮の槍と化し立ち塞がる者を貫き留めん」
 巴依の足元に描かれた陣より、数多の紅蓮の龍が召喚される。
 解放された炎の龍は獄炎の槍と化して降り注ぐ。その火は散布されたオウガメタルに反射し、戦場全体を赤く染め上げた。

 赤い雲を切り裂いて竜牙兵の斧槍が迫る。
 それに対してケルベロスは陣列を徐々に整え、バラバラだった陣形はいつしか緩やかな翼を描いた。
「あの中を向かって来るとは、元気やなぁ」
「ですが避難は完了しつつあります。あとちょっとの辛抱でしょう」
 光流がかろうじて斧槍を避けながら苦笑すると、ルピナスは黒いロングコートを翻しチラリと視線を後ろの方に送った。
 既に大半が道路を渡り、駅の方へ向かっている。奥の側に居た者も建物の中に避難している筈なので、ここで負けなければ問題は無い。
「このわたくしの技術、見切れますか?」
『ヌオオオ!!』
 ルピナスの鋭い一撃が竜牙兵に向かう。
 仲間の竜牙兵を庇った上に、集中攻撃を受けてはひとたまりもない。
「なんや息が上がっとるんやないか? ああ、呼吸なんてせへんか」
『ヌカセ!』
 光流の放つ横殴りの一撃が不意に跳ね上がる。
 袈裟斬りに見せ掛けたフェイントが首を目がけて繰り出されたのだ。
 一体目は氷漬けになったまま首が転がり、それが分銅であるかのように、戦いの天秤をケルベロス側に傾けたのである。


『許サンゾ!』
「許さないならどうするの? 辛い日々の中でそれでも楽しみを見出そうとする方達の邪魔は許し難いわね。葬られるのはどちらなのか教えてあげましょう」
 アウレリアは血を拭いながら外しておいたオプションを担ぎ直し、弾丸を放り込んで蓋を取り付ける。
 そう、これは本来オプションなどではない。
「少し、大人しくしていなさい」
 それは擲弾銃であり、目を眩ませる閃光と耳をつんざく爆発を発する閃光弾を発射する。
 しかも非殺傷武器であるスタン・グレネードに、グラビティを込めることで攻撃力を与えた物だ。
 閃光の中でも即座に動く影が見えるが……それはこちらの思惑通りでもある。
「その隙は見逃さない。……このまま抑えます」
「了解です。火が合わされば炎と成るのですよ」
 エリンは閃光の中でも素早く動いた相手を、盾役と見なして足止めに掛る。
 槍を軸にして棒高跳びの要領で上段回し蹴りを浴びせると、畳みかけるように麻亜弥が剣を叩きつけた。
 強引に鎧を強打すると摩擦が炎となって舞いあがる。
「まとめていただきまース。大漁だネ」
「連携をしてくるというのなら此方も連携を重ねるまで。せっかくの好機、推して参ります」
 ペスカトーレが放り込んだ焼夷弾は、敵陣に点いた火を豪華(業火)にしていく。
 そこへ巴依が飛び込んで、角を生やした腕で殴りつけた。
「そろそろ危険水域に入って来たけど、この程度で倒れないように。良いわね? 直ぐに逆転するわ」
 リセスはアウレリア達と共に治療に当たり、彼女自身は癒しの風を呼び込んだ。
 破壊衝動をエネルギーに変えて活性化を促し、傷を塞いだのである。

 戦いは佳境に突入して一時回復タイムに入り掛けるが、ここが我慢の時だ。
 確かにこちらの手数も減ったが、敵も相当に辛いはず。
「そうね。敵の数が減ればグっと楽になるわ。辛いとしても今だけよ」
 アウレリアも気力を断たせる為に、意識を集中して仲間の治療に当たる。
 敵はこちら以上に大きく傷付いており、その数が減れば完全には防げない攻撃もかなりの確率で防御できるように成る。
 そして……その時は決して遠くはない。
「ごめんね。攻撃したいだろうけど」
「まあ仕方無いですし、問題無いですよ」
 ルピナスは攻撃を継続し炎を放って竜牙兵にトドメを刺し、麻亜弥は一時的に手を止めて歌を唄い始める。
 これで二体目、攻撃自体が減ることで、これ以降は治療の必要性も減っていくだろう。
「ここが折り返しや! 気張らなあかんで!」
 暑さを潜り抜けた水妖は途端に元気になると言う。
 光流は転がる様に敵前衛を潜り抜けて、起きあがりながらその後ろの個体に刺突する。
 今まで止めれぬまでも動こうとしていた反応は……なかった。


「後少しです! 海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……」
 あれから数分が経ち、麻亜弥が振るった暗器が袖から蛇のようにスルリと引き出された。
 だがソレが蛇に非ず、鮫の牙を思わせる無数の刃だ。
 グルリと巻き付いたソレを引き抜くと、竜牙兵の肋骨や背骨が欠けて行く。
『マダマダヨ!』
「いえ、その動きは予測して居ました! 我が剣、我がこの銀煌は護りたい者達に捧げる魂葬の斬撃!」
 竜牙兵は己の最後の悟ると、少しでも戦線を支えようと前衛に出てきた。
 そこへ戦場にエリンの声が凛と響く。封じられし天魔の力を刃に宿し、待ち構えていたのである。
 膨大なグラビティが銀光の剣と化して真っ二つに切り裂いた。
「また仕切り直しか……なーんちゃって。大時化・スコールなんのその!!」
 ペスカトーレの呼び出した巨大な錨が竜牙兵を引っかける。
 グラビティによる鎖で引っ張り上げて、そのまま解体用の重機のように叩きつけたのだ。
 そしてガトリングに持ち替えようとした時、彼が言う様にアッサリと敵は膝を突いた。
「これまでの攻撃が効いていたようですね。案外、時間は掛らないかもしれません」
 盾役を削る前に、散々範囲攻撃を繰り返していた。
 ならばもはや火力重視で攻める方が早いと、巴依が戦槌を振るえばと激震が敵を襲う。
「しかし、この個体は防御に回りませんね」
「おそらく効率の問題ではありませんか? 残り二体共に傷付いて居るならば、時間を掛けても万が一はありませんから」
 巴依の疑問に麻亜弥が答えつつも、意識をもう一体の方に向ける。
 後一撃で倒れそうなので、仲間に任せることにしたのだ。
「なら……ようやく傷もあらかた塞ぎ終わったところなのよね。そろそろこっちも行かせてもらうわ!」
 リセスが手をギュっと握ると、白い手袋の周囲にオウガメタルが集い始めた。
 文字通りの鉄拳となって四体目にトドメを刺したのだ。ニヤリと笑う口元には恍惚とした表情が窺える。
 あっけないとは思うが序盤苦戦した分だけ、こんなものだろうと。
「じゃあ、これからは逃がさない様に気を付け……。じゃなくて、怪我しない様に気をつけましょうか」
 ルピナスは言いながら、竜牙兵が最後まで戦う事を思い出した。
 ならば逃げる事を心配する必要もあるまい。彼女が灼熱の炎を放ち……。
『ヌオオオ!』
「この地にも風にも還る事など許されない骨は、ただ塵と砕れて消えてゆきなさい」
 それでも一太刀浴びせようと、斧槍を振りあげた竜牙兵の頭蓋骨に穴が開く。
 アウレリアがそう呟くと、ビハインドのアルベルトに追撃は必要無いと顔の動きだけで伝えた。
 振り下ろす刃を彼女が受け止めることはなく、そのままガックリと骸骨が崩れ落ちる。

「これで……依頼は完了と言う事でよいかしら? 無論、修復もやらせてもらいますけど」
「そうしてもらえると助かります。ともあれ、被害が出ずに良かったですね」
 リセスが個人的な依頼人に声を掛けると、巴依は頷いて残骸を移動させ始めた。
「それでは少々サービスを。破壊の運命は終わり、新しい日常の始まりよ」
 リセスが指をパチンと弾くと、薫り高い風が吹き始める。
「それでは私も失礼して……祝いの歌を届けるとしましょう」
 麻亜弥はその風に合わせて静かに唄い始める。
 柔らかな風に載せて歌が周囲に響く。ケルベロス達は手分けしてヒールを始めていった。
「こんなものでしょうか? 一応、おかしな変異はしてないと思いますけど」
「そうね。ヒールで直ると言っても完全に元に戻る訳ではないし、念の為に見て回りましょうか」
 ルピナスが最後の区画をヒールした後、アウレリアと共に地図と見比べ始めた。
「じゃあ避難は解除しますね」
 その頃にはチェックも終わって居るだろうと、エリンは駅の方に向かった。
「みんな戻ってきたらゲームの続きも良いもんだよネ。そしてお腹すいたら駅かどこかで食事かナ」
「せやなー。俺は最初見よったし、興味が……っと。食事ゆうたらラーメンやな。博多ゆうたらトンコツやけど、味噌ラーメンもトンコツか気になってんねん」
 ペスカトーレが光流たちをゲームに誘うと、ご当地に関する疑問が飛び出してきた。
 それも含めてゲームの中で聞けば良いヨ! と笑いながら駅前以外も教えてくれるかもしれんなあと期待を膨らませる。
 その晩にどんなラーメンを食べたかは、彼らのみぞ知る秘密かもしれない。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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