夜に堕つ星の雨

作者:犬塚ひなこ

●星屑と流星
 夜の明かりが灯る穏やかな街。
 街灯が並ぶ通りには行き交う人々の姿があり、普段通りの日常風景が見えた。
 その上空に現れたのはひとりの死神――星屑集めのティフォナ。その傍にはパイシーズ・コープスと呼ばれる五体の竜牙兵が控えていた。
「さぁ、竜牙流星雨を再現し、グラビティ・チェインを略奪してきなさい」
 ティフォナはそれらに命令を下して眼下の街を示す。そうしてから骨兵達を見遣った彼女は再び口をひらき、双眸を細めた。
「私達の真の目的を果たす為に……」
「承知シタ。行クゾ」
 そして竜牙兵達は命じられたことに従い、地上へと降下していく。
 着地した先で人々の虐殺を行うべく街へと落下していく骨の兵。その姿はまるで幾重もの流星雨のようでもある。だが、その軌跡は凶星としか言いようがない程に禍々しかった。

●降るのは血の雨
 死神にサルベージされたと思われる竜牙兵、パイシーズ・コープスが現れた。
 奇妙な敵が起こす事件が予知されたと話し、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はケルベロス達に戦闘の準備をしてほしいと願う。
「場所は夜の街の一角で、地図でいうとこの辺りでございます!」
 手早く広げた街の地図を示したリルリカは、この交差点に敵が現れると告げた。其処は何処にでもある往来であり、今夜も帰路に付く人や何処かへ出かける人々、そして行き交う自動車などで賑わっている。
 しかし、パイシーズ・コープスが出現する前に周囲に避難勧告をすると敵は他の場所に出現してしまう。そのため事件を阻止する事ができずに被害が大きくなるので、予知があった現場で竜牙兵を迎え撃つ作戦が最善となる。
「なかなか難しい状況ですが、皆さまが戦場に到着した後の避難誘導は警察にお任せできます。ですので皆さまは竜牙兵を撃破することに集中してくださいです」

 出現するパイシーズ・コープスの数は五体。
 全員が両手にゾディアックソードを装備しており、其々のポジションらしい動きで連携を行うと予測されている。また、敵は多くのグラビティ・チェインを求めていることと、戦闘を行うことを命じられているらしいので撤退することはない。
 つまり、どちらかが倒れるまで戦いは続く。
 敵も油断ならない相手なので気を付けてください、と告げたリルリカは続けて今回の事件で気にかかる点を挙げた。
「どうやらこの事件は、竜牙兵による襲撃を死神が模倣して起こしているみたいです。パイシーズ・コープスは、通常の方法でサルベージされた竜牙兵とは少し違う存在に感じられるのが気になります。ですが……調べる方法がないのが悔しいです」
 しゅんと顔を伏せたリルリカだったが、すぐにケルベロス達を真っ直ぐに見つめる。
「でもでも、とにかく今はパイシーズ・コープスを倒して平和を守るしかありません! リカは皆さまを信じておりますので、どうか――」
 被害を出すことなく無事に帰って来て欲しい。
 心から思う切なる願いを抱き、少女はそっと祈るように両手を重ねた。


参加者
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)
八柳・蜂(械蜂・e00563)
未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
千種・終(白き刃影・e34767)

■リプレイ

●偽の流星
 平穏な夜の最中、空から堕ちるもの。
 それは一筋の流星を思わせるも禍々しい――パイシーズ・コープスの牙。
 人々が行き交う街に悪しき牙が突き刺さった瞬間、同時にヘリオンから降下する幾つもの影が地上に映った。
「――空から現れるのは神様の十八番!」
 フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)の声が響き渡り、地面を割り砕く勢いの一閃が牙から現れた骨兵に振り下ろされた。
 魔力によって象られた刃が敵を貫く中、未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445)達も着地する。
 八柳・蜂(械蜂・e00563)は点滅する信号機の上に跳躍してから、ひといきに竜槌を振るう。合わせて反対側の電柱から仕掛けた千種・終(白き刃影・e34767)の蹴撃は更なる衝撃を与えた。
「何者ダ!」
「邪魔ヲするナ!」
 不意打ちにも似た襲撃にパイシーズ・コープス達が身構える。
 その間に着地した仲間達が布陣し、アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)は異変に気付いて飛び出してきた警察にそっと告げた。
「皆さんはこの場から離れて。あたし達ケルベロスが、必ずこいつらを倒すわ」
 アミルの願いを聞き届けた彼らは戸惑う人々に呼び掛け、一般人の避難が始まる。ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)とハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)も敵の意識をそちらに向けさせぬよう、仲間と共に竜牙兵達を包囲するように立つ。
「……パイシーズ・コープスか。やはり人々をつけ狙う敵というのは、いけ好かんな」
「どんな思惑があるにせよ、わたしたちがすることはひとつ、ね」
 一瞬だけハンナと視線を交わしあったディディエは地を蹴り、緋喰成光の柄を強く握った。其処から繰り出される月光の斬撃が敵を斬り裂く様を見つめながら、ハンナは魔鎖で守護の陣を描いてゆく。
「サルベージされてもヤル事は同じグラビティ・チェイン集めたあ、つくづく上司に恵まれねえ連中だぜ!」
 同情はできねえしする気もねえが、と口にしたランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は満月に似た光球を頭上に作りあげ、仲間に力を分け与えた。
 メリノもミミックのバイくんを呼び、仲間への攻撃を防ぐよう願う。
 わかった、と示すような形で口をひらいたミミックは素早く敵の動きを察知し、狙われていたフェクトへの一閃を肩代わりする。ありがとう、とフェクトが明るく礼を告げるとバイくんがぴょこんとジャンプした。
「星屑と流星が齎す血の雨、ですか」
 弟を見守るような瞳をバイくんに向けた後、メリノは光輝く鋼の鬼を迸らせた。ランドルフとメリノからの援護を受けた終はちいさく頷き、改めて敵を見遣る。
「とても綺麗なものとは言えないね」
 終が身構え直すと敵も反撃に移って来ていた。危ないよ、と彼が告げた言葉に蜂が応え、振り下ろされた剣を地獄化した左腕で弾き返す。
 蜂が身を翻す最中、アミルも勢いに乗せた竜槌を大きく振り下ろした。其処に続いて翼猫のチャロが仲間に耐性を与えていく。
「流星群は美しいものだけど、あなた達は凶つ星そのものね」
 ――凶兆は此処で全て、墜としてしまいましょ。
 そう思うでしょ、とチャロに語り掛けたアミルの瞳には敵の姿が確りと映っていた。
 そして、昏い夜の戦いが巡ってゆく。

●交差する刃
 振るわれた剣が星座の重力を宿し、戦場に淡い光の軌跡を描く。
 素早く駆けたフェクトはパイシーズ・コープスαからの一撃を受け止めていなし、反撃代わりに気咬の弾を撃ち放った。
「竜牙兵の信仰心だけは私、認めてるんだけど……今の君たちにはドラゴンへの信仰はあるのかな?」
 不意に落とした疑問に敵は答えない。
 それもそうだよね、とフェクトが肩を落とせば、彼女の傍を駆け抜けたディディエが次なる一手に出た。妖精王の物語を諳んじた彼が紡ぐ音のひとつひとつには魔術が込められ、その狙いはパイシーズ・コープスβに向けられる。
「……余所見は禁物だぞ」
 操られた魔音は見る間に迸り、敵を真正面から貫いて圧倒した。
 だが、パイシーズ・コープスγが避けきれぬ一閃を放ち、ランドルフの身体を毛並みごと斬り裂く。痛、と彼から声が落ちたことに気付いたハンナはすぐに癒しに入った。
「だいじょうぶ? いま、和らげるから……」
 気力を巡らせて痛みを取り払ったハンナは敵の動きを見逃さぬよう翠緑の眼をしっかりと前に向けた。
 ランドルフも体勢を立て直して敵を睨み付け、更なる満月球を生み出す。
「問答無用ってワケかい、ま、コッチも同じだがよ!! そらよ、Tensionアゲてけ!」
 勢いのある声と共に淡い月光が終の身体を包み込んだ。
 変わらぬ表情のままではあるが、どうも、と礼を告げた終は守護を担う敵の合間を潜り抜け、β達との距離を詰める。
「一体ずつ確実に片付けていこうか」
 淡々と、されど力強く地裂の一閃を振り下ろした終。彼に合わせた蜂はウイルスカプセルを手にし、夜空から堕ちてきた敵に向けて首を傾げる。
「星は、よくしらないけど。流星群って流れ星、ですよね?」
 それならお願い事三回言わなきゃ、と冗談めかした言葉を落とした蜂はひといきに殺神ウイルスを投射する。狙ったβを庇ってαが飛び出したが、それもまた想定済み。
「なんて。どうみても叶えてくれなさそうね、この星は」
 間に割り入ったαの身体を蹴って距離を取った蜂は片目を瞑る。
 その間にもγやβが次々と攻撃を仕掛けるのに対してバイくんとメリノがディディエやフェクトを庇ってゆく。くるくると戦場に舞い踊るように身を翻しながら、メリノは爆破スイッチを押した。
「死を撒き散らすだけの流星なんて、私達が降らせはしません」
 癒しを兼ねた鼓舞の爆発が戦場を彩り、仲間達に力を与えていく。アミルはチャロに翼の加護を与えるよう告げて敵の動きを窺った。
 死神の言いなりになっても彼らがやることは変わらない。それなら、と氷の様に澄みきった刃を手にしたアミルは自分達も同じだと感じる。
「あたし達もやることは変わらないわ。さ、皆で平和な夜を守るわよ」
 そして、凍姫ノ愛は守護の骨兵を擦り抜け、鋭い一閃となってパイシーズ・コープスβの片方を貫いた。絶対零度の世界は情けの欠片もなく敵を地に落とす。
 これで一体目、と口の端をあげて微かに笑ったランドルフは更なる援護としてディディエの身に力を与えていった。
 視線で以て仲間に応えたディディエは呪怨を刃に載せ、冴え冴えとした月を思わせる一閃を見舞う。それはαに防がれてしまったが、かなりの衝撃となって巡った。
「……災難の目は、ひとつずつ潰していく」
 それが我らの仕事だと独り言ちたディディエは思う。
 芽を摘んで行った先にはまた新たなものが待ち構えているのだろう。されど目先の事件をひとつずつ解決していくことこそ、自分達が出来る最善の行動。
 ハンナは周囲を確認し、避難誘導が無事に済んだことを悟る。そして風に紛れて消えていく骨兵の死骸を見て小さく呟いた。
「幾度戦場に立ったとしても、命のやりとりの哀しみには、慣れないもの、ね……」
 極光の淡い癒しを広げたハンナの行動は仲間を支える確かなものとなっていく。回復が背を支えてくれていると感じた蜂とメリノは敵からの攻撃を受け、反撃に移った。
 静かながらも燃え上がる蜂の左腕、その紫炎が竜槌に纏わりつく。そして、ヒールの音が戦場に甲高く響いたと思った刹那、骨兵の頭上から轟竜の砲撃が落とされた。
「次、お願いできますか?」
 跳躍からの攻撃を終えて着地した蜂は、自分の攻撃が敵に多大な痛みと苦しみを与えたと悟っている。蜂の声に頷いたフェクトは雷杖を構え、任せて、と元気よく答えた。
 駆け出したフェクトを阻むようにαが身を挺する。しかし終がフェクトの射線を遮らせはしないと敵を蹴りあげた。
「邪魔しないで欲しいな」
「ま、私というゴッド・オブ・神様に最初に出会えなかったが運のツキ! ちゃんと私が眠らせてあげよう!」
 体勢を崩したαの間を駆け抜けたフェクトは宣言と共に杖を思いきり振り下ろす。その一撃は言葉通りに相手を眠らせるものとなり、二体目の敵が倒れた。
 これで残るは三体。
 ハンナと蜂が頷きを交わし、ディディエも戦いが上手く巡っていると感じる。
 アミルはチャロと一緒にαの眼前に向かって翼を広げた。仲間が倒されて僅かに戸惑った様子を見せる敵にアミルは槌を振りあげる。
「あらあら、あたし達は番犬であり猟犬よ? 狙った獲物は逃がさないの」
 軽く吹っ飛ばしちゃうわ、と小さく口許を緩めたアミルは踊るようなステップに乗せて重い一撃を放った。
 しかし敵も諦めてはいないらしく、星の十字斬りで以て攻め込んでくる。
 ちいさな身体が吹き飛ばされそうな衝撃を受けたが、メリノは強く地面を踏み締めて耐えた。心配そうなバイくんに大丈夫だと告げる視線を向けた少女は花唇をひらく。
「努めて、歌い続けましょう。私達が此処にいることを、伝えるために」
 紡がれゆく柔らかなソプラノを響かせ、メリノは高らかに歌った。
 この戦場にいる仲間だけではない、誰も恐れなくていいように。自分達が皆を護りたいと願うメリノの思いは確かなものだ。
 ランドルフはその思いを感じ取り、銃魂技――ガンソウルアーツで以て援護に入る。
「コイツの効き目は……まあ説明するより喰らった方が早えな!」
 空に向けて放たれた回復弾は雨のように戦場に降りそそぎ、仲間達の視覚を中心に身体を強化させていく。
 そして、巡る戦いの中でディディエは敵を屠る好機を見出した。
「……逃がすものか。俺の魔術は、この剣は、お前を必ず仕留めるとも」
 現し世へと至れ、と魔力を込めた詠唱が周囲に響く。次の瞬間、ディディエの指先が標的へと差し向けられたかと思うと魔音が敵を穿った。

●終わりの合図
 其処から敵の戦線はあっという間に瓦解した。
 今やもうパイシーズ・コープスαとγが各一体のみ。庇う戦法を取っていたαには既に氷や足止めの不利益が与えられている。
 それまで援護に回っていたランドルフは今こそ攻勢に転じる時だと思い、紅の短刀を素早く構えた。
「この時を待っていた! 舞え、曼珠沙華!」
 敵の動きを更に阻む為にランドルフは乱斬の一撃を放つ。ハンナも其処に加わり、気咬弾を撃った。ランドルフとの連撃に敵が揺らぎ、ハンナは皆に呼び掛ける。
「今よ……!」
「私の杖の断ち味、見せてあげるよ!」
 フェクトは杖を剣のように持てば魔力の刃が杖先に象られる。モーゼの奇跡に准えた刃撃は一気に振り下ろされ、敵のゾディアックソードを切り飛ばした。
 それが最大の好機だと感じ取り、バイくんが丸腰の敵に齧りつく。メリノもくるりと身を翻し、腕を敵に向ける。
 自分が戦場で歌い、舞うのは傷つき、挫けた人を支える標となりたいから。
「流星に願うものは、ささやかな想いで充分です、よ」
 指の先から放たれたのは魔女の一撃。
 メリノの攻撃がαを撃ち倒し、残るは最後の敵だけ。蜂は躱されぬよう敵の背後にまわり、終も蜂の反対側から足止めの一閃を放つ。
 名前通りの蜂のように舞う彼女と終が与えた地裂の衝撃が敵を穿った。
 アミルは相手が逃げ腰になっていると察し、チャロも自ら翼を広げて敵を阻む。
「逃がさないと言ったでしょ」
 夕闇色の翼を大きくはためかせたアミルは強く告げると、髪に咲くビオラが揺れる。そして、氷の刃を差し向けたアミルは即座に敵との距離を詰めた。
「あなた達に謁見の許可をあげるわ。少し早い、雪の女王のお出ましよ」
 凍姫ノ愛が敵を貫き、其処にランドルフが続く。一体でも逃走しようとしているのか、パイシーズ・コープスは反撃の機を捨てたようだ。されど、思うようにはさせない。
「おっと、ソイツはやらせねえ! 唸れ、拳よ!!」
「――見えた。そこ、通さないよ」
 ランドルフの拳が打ち放たれる中、軌道を見極めた終が勝算を感じて回り込んだ。断章の名を冠する戦靴で敵を蹴り飛ばして転倒させた終は仲間に視線を送る。
 言葉にはしないが終とて無辜の人々が傷つくことなど願っていない。
 蜂は何となくではあるが皆が似た思いを抱いているのだと感じた。そして標識から街灯へと飛び移った蜂は跳躍の際に踵を鳴らす。
 つづらちゃん、と黒く渦巻く影蛇の名を呼んだ蜂。その声に応えた大蛇が蜷局を巻き、毒牙を剥いた。
「これで、終わりにしましょう」
「ごめん、ね……おやすみなさい……」
 続いたハンナが瞼を閉じるとロザリオがその手に浮かぶ。
 其処に口付けを落とせば赫灼の御使が乙女を抱き、そして――白き薔薇と巻き起こる炎が浄化の道を作り、標的に最期を与えた。

●星は謳う
 信号機の明滅する光が地面に赤い色を落とす。
 そして、それが青に変わった瞬間。最後の竜牙兵の躰が風に溶けて消えていった。
 ハンナは胸の前で十字を切り、死の更に先へ逝った者達を思う。
 細かな疎通が出来ずとも、彼らにも意志があり命があったのかもしれない。
「それを奪うことでしか、護れないのは、哀しいこと……」
 魂の安寧を祈ることを許して欲しい、と瞼を閉じたハンナが願う中、アミルはチャロと共に怪我人がいないことを確認する。
 安堵を抱いたアミルはそっと息を吐き、荒れた周囲を見渡す。
「随分と壊れちゃったわね」
「確かに、思いきり蹴ってしまいましたから」
 アミルの感想に他意はないのだが、蜂は戦いの最中で利用した信号機を見上げた。フェクトもはっとして、降下の勢いに乗せて叩き割った地面を見る。
「ほら、派手にやった方が神様っぽかったから! ううん、神様だから!」
 責められている訳ではないのだが少し慌ててしまったフェクトを見遣り、ディディエは僅かに双眸を細めた。「……大丈夫だろう」と仲間達に告げたディディエが紡いだのは静かで気怠げな声音。
「……さて、ヒールの時間だな」
「はい。また、この町の人々が営みを取り戻せるように――」
 ディディエの声に頷いたメリノは癒しの歌い、想いを謡う。
 少女のやわらかな声が街を少しだけ幻想的に彩っていく様は穏やかだ。今は誰も居なくなった街だが、もう暫くすればいつも通りの姿を取り戻すだろう。
 ランドルフは空を見上げ、死神への憤りを露わにする。
「どうにも気に入らないな。『生』を蹂躙し『死』を冒涜しやがる……ったく、ドコまで腐ってんのかねえ死神ってのは!」
 この件は片付いたとしても未だ敵の狙いは掴めない。終も昏いままの空の色を緑の眸に映し、これからも続いていく番犬としての戦いを思った。
「それでも、戦い続けるしかないんだろう」
 ケルベロスとして、そして一人の自分として――揮える力は此処にある。
 振り仰いだ夜空にひとつ、名も知らない星が煌めいた。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。