ポンペリポッサの魔女作戦~10月31日の水曜日

作者:東公彦

 長浜の黒壁スクエアでは毎年ハロウィンパレードが行われている。通りじゅうにハロウィンの飾り付けをし、凝ったところでは店内や制服までもハロウィン仕様にする周到さである。ドリームイーター綾瀬未来はそんな飾られたネオンの通りをウキウキとした気分で歩いていた。
「今日のライブはここね」
 口元を綻ばせるとマスクの舌のモザイクが外へ漏れ出した。興奮を抑えられない、ライブの時はいつもそうだ。その分、自分の胸いっぱいにあるドキドキワクワクを解き放つ瞬間は代えがたい達成感がある。それに今回は特別な演出も……。
 綾瀬はマスクを取って一回転。ひとまとめにしたポニーテールが揺れると、洋服のフリルが遅れてそれに習った。スカートとハイニーソックスの間にある肌色が通りの人々の視線をくぎ付けにした。その視線を受けて綾瀬はモザイクに隠された口で笑った。
「綾瀬未来のライブが始まるよぉー!」
 ハロウィンの魔力が綾瀬の体を変化させていく。白雪のような肌は醜く老いて深緑色に染まり、口元は大きく裂けて幾多もの犬歯が生え出た。巨大化し10mほどの老婆に変身した綾瀬は、自身に集まる大量の視線にうっとりとした。それが怯えや恐れであっても耳目を集める快感はたまらない。腹の奥から突き上げてくる破壊衝動に身を任せて魔女は動き出す。
 人々は逃げ出そうとするが、ハロウィンの魔女は観客が退席することを許さなかった。そしてハロウィンのライブが始まった。


「ハロウィンの力を狙って魔女ポンペリポッサが動き出したみたいです! きっとその力で元気になろうとしてるのですね! ねむが予知した事件では、ドリームイーターがハロウィンの力でポンペリポッサに変身して巨大化、ハロウィンパレードの行われている一画で大暴れするみたいなのです! とっても大きくて偽物でもとっても強いのですよ!!」
 ねむは敵の大きさを表すように飛び跳ねながら両手を大きく振った。ねむ自身が満足すると跳ねるのを止め、再び話に戻る。
「黒壁スクエアって通りはそんなに大きくないみたいですっ、でも観光地で人は多いのです。警察さんに協力をしてもらいますから避難活動はそう難しくないと思いますけど避難は大事なのですよ! 敵さんは人に見られている状況で動きたいみたいなので、避難活動をするケルベロスさんを邪魔に思って攻撃してくるかもですね! ハロウィンの力でもポンペリポッサに変身していられるのは5分くらいらしいですっ、その後は通常のドリームイーターに戻るみたいなので、ポンペリポッサの時よりは有利に戦えると思います! あっ、それと戦ってる最中にハロウィンらしい行動が出来れば、偽ポンペリポッサからハロウィンの力を奪い取ることも出来ますよ! そうすれば5分よりも早くに敵はちっちゃくなっちゃいます。倒すチャンスなのです!!」
 息まいて拳を握る。
「ねむもハロウィン大好きなのです、きらきらのパレードはもっと好きなのです! みんなも楽しみにしてるお祭りを台無しになんてしたくない……ケルベロスのみんなっ、ハロウィンの魔女からお祭りを守ってください!!」
 手を組み、潤んだ瞳をケルベロス達に向けてねむは頭をさげた。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)
円谷・三角(アステリデルタ・e47952)

■リプレイ

 ハロウィン一色に彩られた街を闊歩する巨大な鷲鼻の魔女。人々が魔女に呆然としているなか、上空から蝙蝠に運ばれ新たな魔女が現れた。
「ハロウィンの魔力に満ちた今宵、1年ぶりにハロウィンの魔女として再臨しました。さあ、モンスターハロウィーンの始まりです! ここから先は一般人の方はご遠慮願います」
 つば広の帽子を被り漆黒のマントに身を包んだウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が口にすると、もう一人の魔女に扮した南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)がステッキを振りながら口ずさんだ。
「トリックオアトリート! さあ、皆さんは回れ右してくださいね、今日のハロウィンは危ないんですからっ」
「避難経路にはランタンが掲げてあるッスから、それを灯にご退場を。外で皆のハロウィンが戻るまで待っててほしいんだ」
 可愛らしい魔女二人の出現に目を奪われていた人々に中国の悪霊たるキョンシーに扮する堂道・花火(光彩陸離・e40184)は両手を避難方向へ突き出しながら促した。
「そうそう、いつまでもこんなとこにいるとみんなの魂も取っちゃうぞー!」
 にゅっと二本の角を生やし、矢先のような尻尾を揺らしながら円谷・三角(アステリデルタ・e47952)が満面の笑みで付け加えるとすぐさま風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)が穏やかに言う。
「慌てずにね、あっこれ、トリックオアトリート、飴玉あげる」
 頭に巨大なボルトの刺さったツギハギだらけの格好は一目でフランケンシュタインだとわかる。しかし彼のかもす雰囲気によるものか怪物はとても人間的な優しさをもって人々の眼に映った。ようよう人々が避難をはじめると、
「私の観客を返しなさいよ!」
 それを眼下に視止めたポンペリポッサが怒りの声をあげた。巨大な魔女は抱える大鍋からソーセージを取り出してケルベロス達に振り下ろす。そこにはまだ避難中の人々もいた。狼男ならぬ化け猫に扮したアルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)は白銀の銃を構え即座に発砲した。精確無比な射撃が攻撃の軌道を逸らしたところへ、更に錆次郎が射撃を加えるとソーセージはてんで的外れな方向へ振り下ろされた。大口径のリボルバーが煙をはく、錆次郎も犠牲が出なかったことにホッと息をはいた。
 二の矢を加えようとするポンペリポッサへ三角はカメラを向けてシャッターを押す。強烈なフラッシュが放たれ、多大な熱量でポンペリポッサを焼き、視界をもくらませた。
 不意に三角の構えるカメラフレーム内に何かが流れてくる。鬼面にくたびれた武者鎧、日本の悪霊も西洋の祭りに乱入してきたようだ。落ち武者の仮装をした日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は遥か空の彼方から落下し、
「ハッピーハロウィーン!」
 と叫びながらポンペリポッサの頭頂に激突して地に堕ちた。よろめく魔女の巨体。蒼眞はアスファルトにクレーターを作り、うめく。
「トリックオアトリート……」
 それを見て那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)が感嘆の声をあげた。
「うわぁ、すごい奇襲攻撃だね」
 とはいえ摩琴の格好も驚嘆の一言につきた。特殊メイクで腐乱した肌、その姿は見事なまでゾンビじみている。彼女は白衣をひるがえし、それじゃぁボクも、と意識を集中させた。8つのエクトプラズムがそれぞれケルベロス達の体へ入り込んで、きたる脅威に備える。
「さて攻撃開始といこうか!」
 アルシエルが言い放ち翼をはためかせ飛ぶとケルベロス達も様々に魔女へ接近した。翼を持つものは空を駆け、持たぬ者は地を走りながら敵へ取りついた。


 幾度となく刃が煌めき、砲火があがった。それらは敵の各所へ傷を与えながらも、なお致命的な一撃には至っていない。蒼眞と三角は息を合わせて動き、同時に攻撃を打ち出すが完璧な連携でさえも敵を打ち崩すことは出来ない。巨大な四肢が動くたび、ケルベロス達は神経をすり減らし回避に専念せざるをえなかった。敵の攻撃は風圧だけでも大したもので、致命傷にならぬよういなしたり、受けたりするので精一杯である。
 振り回された腕に衝突し吹き飛んだウィッカへ花火のケルベロスチェインが絡みつき、衝撃を殺す。続けて着地点に落ちてきた足を避け、ウィッカはオウガメタルの拳を打ち出す。花火も渾身の力で脚を蹴りだした。
 摩琴は振り落ちてくる凶器に反応が遅れたが、その体をアルシエルが攫って素早く飛び去る。一拍遅れて衝撃が地面を揺らす。
「ありがと、アルシエル!」
「手空きだっただけだよ」
 言いつつ摩琴を地面に下ろす。
「ぐぅ、役得だな」
 蒼眞は口惜しげに言いながら、魔女へ斬りかかった。
 器用に飛び回り攻撃を繰り返すケルベロス達に辟易として魔女は叫ぶ。
「もぉーっ、ウザイ!」
 地の底から響くようなおぞましい声で若者の言葉を使うと、ポンペリポッサは大鍋に片腕を突っ込み、人間大のお菓子をバラ撒いた。菓子は妖しい匂いを漂わせながら降り注ぎ、僅かな衝撃で爆発を起こす。粉々に砕け、微細な粒子となり芳香を広く散布する。摩琴は咄嗟に叫び、口を覆った。
「気を付けてっ。この匂い、吸えば意識がとんじゃうよ!」
 言葉を受けてウィッカは宝石を地面に散りばめた。宝石が光の線で結ばれて五芒星をかたどる。
「みなさんっ、集まってください!」
 降り注ぐ菓子の爆弾を避けるのはまだしも、臭気まで完全に遮断することは出来ない。頭に靄がかかったような違和感のなか、のべつなく爆風と炎が降りかかった。一通りの爆発が収まると、辺り一帯は瓦礫の街と化していた。
 瓦礫の中から夢姫が這い出る。口のなかに入った砂を吐き出しながら彼女は首を巡らせ、仲間達を探した。すると瓦礫の下から次々とケルベロス達が姿を現した。
「よかった、皆さん無事ですね」
「咄嗟に集まってよかったよ。うん、レンズも無事だな。ナイス、ウィッカさん」
 三角が親指を立ててウィッカに微笑んだ。
「その場凌ぎの考えだったのですが、上手くいきました」
 ケルベロス達は五芒星をランドマークに結集し、数人のオウガメタルを合わせて局地的に流体金属のドームを形成していた。度重なる爆撃にドームは綻び崩れてしまったが、被害は幾分も抑えることができた。
「それに摩琴さんのエクトプラズムのお蔭でもありますから」
 ウィッカの言葉どおり、摩琴が先だって仲間の体内に潜ませた霊体は宿主の危機を知るや出現し盾になり、更には傷口を疑似的に埋めて治療をしていた。
「でも、やっぱり変身している間は強力ですね。……どうしましょう」
 ぐっと唇を噛んで夢姫は敵を見やった。ハロウィンの魔力が尽きれば変身は解除される、しかしそれがいつかはわからない。この形態での戦いが続いたなら……不吉な予測が頭をよぎった。しかし服の汚れを払い立ち上がり、アルシエルが事もなく言う。
「どうするも何も。俺はこのまま手をこまねいているのは気に食わないな」
 そして冷たい笑みを浮かべた。そもそも彼にとって自らの格好自体から気に食わなかった。仕事のためガラではないと思いつつもポケットにお菓子さえ忍ばせてあったが先の攻撃で粉々だ。この鬱憤はどこへ向ければいいのか、答えは簡単だ、目の前にデカブツがいる。
「一発かましてやらないと気がすまないだろ」
「同感ッスね」
 花火が掌を打って気合をいれる。地獄化した両腕から炎が舞い散った。蒼眞が、気合十分だな、と呟きながら自らも刀を振るった。
「ハロウィンの日に悪い魔女を追い払うのは定番だからな」
「そこまで言うなら反対は出来ませんね」
 ウィッカが宝石をいくつか取り出してじっと敵を見据え、錆次郎は言葉なく銃を握りしめる。優しげな眼差しには確固たる決意の色ものぞいていた。
「だったらボクが反対する理由もないね。ボクも気がすまないもん」
「となれば」
 三角が悪戯めいてにやりとすると、察して夢姫が頷いた。
「一斉攻撃……ですか。未来のモザイクは口の部分にありました、ポンペリポッサとなっても影響があるなら」
「おっ、冴えてるな。それで行こうぜ」
 蒼眞がにっと笑う。魔女が振り下ろしたソーセージが迫ると、ケルベロス達は一斉に動き出した。四方八方に散り々になりポンペリポッサの目を惑わす。
「そうと決まれば、ボクからみんなへ元気の出るあま~いお水をプレゼント!」
 摩琴が腰元から色とりどりの薬瓶を取り出し、投げ割る。薬品の臭気と共にアンスリウムの幻影が中空に映り、その独特の臭気を吸引するとケルベロス達の体に力がみなぎった。
「あっ、後の筋肉痛もプレゼントだからね」
 と悪戯ぎみに微笑み摩琴は指をたてる。握り拳をしてアルシエルは地面を駆けた、みなぎる力の出口はすぐそこにある。
「まずは俺からだ。動きを合わせろ!」
 親指で一発の弾丸を弾き、中空でとらえて拳銃に弾丸を装填した。銃口を構えるとアルシエルの魔力が伝わり、照準の先に巨大な魔方陣を描く。
「デカぶつにはコレだ。南方より来たれ、朱雀!」
 銃弾が放たれ魔方陣に入ると、弾丸は炎を纏う巨大な火の鳥となった。翼を動かせば炎の鱗粉が散る、その姿はまさしく神話の朱雀である。火の鳥が巨大な魔女に鉤爪を立て襲いかかる。翼をはためかせる度に炎が魔女を焼き、巨大なその体を押しやった。すると魔女の足元が発光し巨大な五芒星を形成した。宝石が魔力を増幅させ、その輝きを増すと敵を束縛する魔法結界が顕現する。
「汝、動くこと能わず。不動陣」
「焼け焦げな!」
 アルシエルが再び魔方陣に銃弾を撃ち込むと、魔法結界のなかで朱雀は膨張し大爆発を起こした。ネズミ一匹這い出る隙間もない結界のなかでは炎や衝撃は拡散する場もなく結界内部へ全ての指向性を向ける。叫び声さえ外へは漏れず、結界が消えると膨大な熱風が周りへ押し寄せた。
 肌に熱を感じながら花火は走る。魔女は頼りなく首を回しケルベロス達を捉えようとするが、八方へ散り素早く身を動かす彼らを正確に捉えることは出来ていない。花火は両腕に地獄の炎をほとばしらせながら敵へ突き進み、勢いのまま拳を打ちつけた。
「俺の炎もお見舞いするッス!」
 両腕から放たれる炎は推進剤にもなり、連続して打たれる拳は徐々に勢いと速度を増して魔女の足を崩す。そこへ足切鎌のような巨大な刀が薙ぎ払われた。
「俺も特大のでいくよっ」
 三角はカメラを最大倍率にしフィルムから特大の喰霊刀を現像した。振る者もなしに刀は空気を震わせ魔女の足を斬り払うと、遂に魔女の巨体が崩れ落ちる。地響きに伴ってくる振動を蒼眞は跳んでいなした。
「まず一撃だ!」
 上空から降りる慣性のままに蒼眞は魔女の口元へ刀を突きつけた。皮を貫き肉をえぐり、彼が斬霊刀を動かすたびに刀は大いに傷口を斬りひろげる。引き抜き、さらに斬りつける。
 その様子をスコープ越しに見ながら、錆次郎はアニメの少女がペイントされた銃身を撫でるように支えた。ここで外したらまずいよね、少しばかり緊張して嫌な未来が脳裏にチラつきもするが、指は震えもせず、かといって余分な力が入ることもなく冷静に引き金にかかった。銃弾が発射される。それは一直線に蒼眞へ近づきながら、彼が身を引いたそのタイミングまで計ったように、隙間を通り抜け魔女の口元へ。特殊な弾薬は衝突と共に傷口で炸裂し、裂傷をひろげた。
「よく……狙わないと」
 夢姫が広げた両手の内には、圧縮された雷が打ち出される瞬間を待ちわびてバチリバチリと声をあげていた。夢姫は指先のうぶ毛一本まで神経を集中させ、雷槍を投擲した。光りの速さで撃ちだされ、雷槍は見事に狙った点へ突き刺さり、圧縮されたその力を存分に解き放った。一瞬、膨大なまでの光が街を隅々まで照らしケルベロス達の目さえも焼いた。光りが収縮された先に魔女はなく、膝をつきうずくまる少女がいた。
「未来……」
 夢姫は呟きながら、かつての親友の顔を持つ者へ歩を進めた。少女の瞳が夢姫を見上げる。その瞳に映る自分の顔に驚いて、夢姫はぐっと拳を握った。爪が喰いこみ血がにじむほどに。一つの意志と共に刃が風を斬って払われる。
「助けられなくてごめんね……」
 倒れ伏したドリームイーターに夢姫は謝るように告げた。拳からか細い指を通って贖罪の血が地面に落ちた。


 街のヒールに時間はかかったが、むしろ適度に幻想化した街は今宵限りのハロウィンパレードにお似合いだった。ケルベロス達の仮装もパレードにピッタリで、花火などは音頭さえ取りながらパレードの先頭を歩いている。その隣で摩琴もゾンビのダンスを行ないながら楽しげに行進していた。夢姫はベンチに腰掛け喧噪を眺めていた。すると錆次郎が冷たい飲み物を差し出して隣にかける。
「大丈夫?」
 気遣いの言葉に夢姫はただ黙るしかなかった。今の自分が大丈夫なのか、そうでないのか、判断に自信はない。
「あの子の顔が忘れられないんです」
「忘れることないよ、むしろ友達の夢姫さんにこそ憶えていておいてほしいんじゃないかなぁ」
「そんなの、残酷です」
 夢姫が涙ぐんで言うと錆次郎はあたふたと手を振った。
「違うよ、悪い意味じゃないんだ。……ハロウィンの炎はさ、邪悪な霊を祓うんだって。日本では霊を祓うだけじゃなくてさ、送り出すって意味もあるでしょ。お盆みたいに、火と煙で祖霊が帰っていくって……。だからドリームイーターに縛られてた夢姫さんの友達の魂も、ようやく安心して帰れるんじゃないかなって。その、ごめん」
 錆次郎の言葉を聞いて夢姫は目の覚める思いだった。あの日の事件をずっと引きずっていたのは私なんだ。夢姫は思う、その悔いが彼女をドリームイーターに縛り付けていたのかもしれない。
「いえ、こちらこそごめんなさい」
 夢姫は涙を拭いて笑った。錆次郎はようやくホッとしたようで眉尻りを大きく下げた。
「おーーい、二人もこっちに来なよー」
 三角がパレードの中から手を振って二人を呼んだ。アルシエルは子供達に囲まれ引きつった笑みでそれに対応している。どうもこういうことが苦手なようである。ウィッカは蝙蝠のオーラを散らしながらパレードを更に盛り上げた。花火にそれが照らされると街並みはより幻想的になった。
「きゃぁぁぁ」
 と甲高い叫び声があがり、花火の打ちあがる空を蒼眞が飛んでいく。彼を知る者にとってはいつも通りの光景だろう。夢姫は微笑して、
「パレード、楽しみましょう!」
 と立ち上がったが不意にどこかから視線を感じて首を巡らせた。見紛うわけがない、視線の先、人混みのなかでかつての親友が笑っていた。しかし次の瞬間には人に紛れて姿は消えてしまう。夢姫は彼女の笑顔を深く脳裏に焼き付けた。
 巨大な魔女さえ現れた10月31日のハロウィンの日に、死んでしまった親友が再び姿を見せてくれたことは特別不思議なことじゃないと夢姫は感じた。

作者:東公彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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